和歌・狂歌・短歌すなわち五句三十一音詩史に見る

私の秘宝館


中世和歌の権威また制の詞が
性の詞によって砕かれていくさま
そこに私は五句三十一音詩史における蘇生の一端を
眺めているのです
 ―私の秘宝館建立の趣旨より―


 

作     品  出     典  備     考 
   月(左)
ひくしめのうちへないりそ夜半の月さばかり雲のこころゆかぬに
詠者、巫女
『東北院職人歌合』(略本)  
判「左右ともに優に聞え侍」
   恋(左)
君とわれくちをよせてぞねねまほしき鼓もはらもうちたたきつつ 
判「左の恋のこころあさからず」
   月
大かたのさはりもしらず入る月よひくしめ縄をこゆな夢々  
詠者、巫女
『東北院職人歌合』(広本)  
四句は結界、判に「あまりに風情をめづらしく月に心ざしなくきこゆ」。 
   恋
君と我口をよせてぞねまほしきつづみも腹もうちたたきつつ 
判「詞すくなくして風情めづらしく」  
なが月の末野の霜におとろへてさかりすぎたるをみなへしかな 『夫木和歌抄』(6292) 
作者は藤原家良(1192~1264)
『日本国語大辞典』で「女郎花」を引くと「能因歌枕〔11C中〕『をみなへし、女にたとへてよむべし』」がある。これなどその最たるものであろう。今ならセクハラ男間違いなし。 
霞の衣すそはぬれけり 佐保姫の春立ちながら尿をして 山崎宗鑑編『新撰犬筑波集』    
命知らずとよし言はば言へ 君故に腎虚せんこそ望みなれ 
   竹
さきも根も心地よけなる竹の子の六寸はかりおひそ出(て)たる 
三条西公条『玉吟抄』  
   竹
男をはせぬせぬといふ御比丘尼のはらむに似たる竹のしねんに 
潤甫周玉『玉吟抄』   
   泉
よるごとに式部がそそや洗ふらしむすぶいづみの水のくささは 
雄長老『雄長老狂歌百首』   
   早苗
雨風にみのもさなへもさみだれてしのぶももまで見ゆるさをとめ
入安『入安狂歌百首』   
   立春
棹姫の裳すそ吹き返しやはらかなけしきをそそとみする春風
 松永貞徳『貞徳百首狂歌』   
   初恋
恋に人腎虚するこそ道理なれ見そめしにたに腰がぬくれば
   夕顔
夕がほの花に扇をあてぬるはたそがれ時の垣のぞきかな
石田未得『吾吟我集』  
   暁
さもふかきよくあかつきの寝覚めにはそのこととなくおこる煩悩
   判「十七八廿ばかりのころは誰もさこそ侍らめ」。
池田正式『堀川百首題狂歌合』  
   だるまのゑに
口のはたにむさくさむさくさけがはへてそそぼだいとやこれをいふべき 
半井卜養『卜養狂歌拾遺』 
 四十三をうしろ厄と聞きて
那智八十高野六十やはたにはけふ四十三我うしろやく
 豊蔵坊信海『豊蔵坊信海狂歌集』  高野六十那智八十 
   下歯かけければ
かけておし忍ぶ若衆の口吸ひて夜をあかすべき菊の下葉を 
   さる法花宗のじむきよにてしなれければはやり小うたをたて入れてついぜむにかくなむ
をめいこにぼぼしたばちやあたりけんつゐにじむきよで死なれまらつた
黒田月洞軒『大団』     
   夢中恋
むかし見し栄花の夢もかくやらんさまにあふたは遺精也けり
   瞿麦
妹とわがぬる夜たがゐに目があけばへそのあたりをなでしこの花
   早苗
ふともものしろきにむかしを思ふかな早苗取女(め)の尻からげして
   日輪寺其阿久々をとづれぬとて恨みられければ
わが尻をしたりやむかし恋衣かへすがへすもわすれぬか坊
   元旦
春の日の江戸紫のせち小袖かしてねよげにかかを見あげた
   十日の朝鶯をききて
初声はせんずりごゑかしはがれて内所の庭にきなく鶯
   旅宿にて余多ひとつ座敷にとまりけるに京田舎の衆打ちまじり一夜語り明かしけるにあくる日聞き侍れば高野山門主竜光院殿もおはしますと宿のあるじの知らせければよみて奉りける

貴僧ともしらで咄を申上げしりこそばいや高野六十
由縁斎貞柳『続家づと』  高野六十那智八十。高野山や那智山では60や80になっても男色の相手をさせられるものがいる意。
   蚊屋
人を網へ入れたやうなる蚊屋の内は赤貝も有り蛸章も有りけり 
由縁斎貞柳『置みやげ』  
   八十の暮に
行く年の惜しくも有る哉びん鏡那知にて花をやるもけふ迄 
由縁斎貞柳『狂歌机の塵』 高野六十那智八十 
   更衣
けふよりを夏女房のはじめにて衣がへよき尻やふるらん
百子『狂歌餅月夜』   
   宵の程ものへまかりけるに道行く人の桃灯につけられければ
ちやうちんでもちゐられしも老いゆへと門口でつい御礼申した
提灯=老人の、ちぢんで役に立たない陰茎。 
   相知りける女と弥生三日住吉に詣で侍りけるに風いたく吹きければ
汐干潟うら吹きかへす春の風おまへのさきに貝や見ゆらん 
漁産『狂歌ならひの岡』  
   十月十日ばかり風はげしかりければ
風の手にふとももまでもふきまくられおめこ十夜のあれいやいなあ
岫雲亭華産『狂歌栗下草』   
    七夕
いかなれば春三夏六の沙汰もなく秋に一度のほし合の宵
翠柳軒栗飯『萩の折はし』   
   後月
親ゆびをまたにはさんださまなるか山のかひより出る豆の月 
東翠舎狐月『狂歌手毎の花・二編』   
   蛤取
裾まくるかいとり妻に悪ざれも言はで口をばとづるはまぐり 
懐古亭英風『狂歌後三栗集』  
   初逢恋
行燈に羽織を着せて今宵先づ手にふれそむる吾妹子か乳 
橙果亭天地根『狂歌一燈集』   
   逢恋
はづかしとねやのあかりを吹きけした妹の息こそ恋風ならめ
曲肱亭百年『狂歌拾遺三栗集』   
   逢恋
とけあひし印と見るも嬉しきは屏風にかかる二すぢの帯
杉森百丈『狂歌拾遺三栗集』     
   男色
君をおきていかでかは妹にかへぬべき背中に腹をおはせてしより 
   川
裾からげわたれば人のひざ過ぎてぬるるふぐりの玉川の水 
西隣亭戯雄『狂歌拾遺三栗集』    
君ならで誰にか見せん恥づかしきけのむくむくとはへし所を
 *君ならで誰にか見せむ梅の花色をもかをもしる人ぞしる(紀友則『古今和歌集』)
 *きみならで誰にか見せんねいり花いびきも顔もしる人ぞしる(高瀬梅盛『狂遊集』1669年刊) 
智恵内子(四世絵馬屋額輔『狂歌人物誌』)    
以上「狂歌史年表」&「狂歌逍遙録」参照 
やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君  鳳晶子『みだれ髪』   「鳳」姓であるところに注目です。 
乳ぶさおさへ神秘のとばりそとけりぬここなる花の紅ぞ濃き 
春みじかし何に不滅の命ぞとちからある乳を手にさぐらせぬ 
Munchen(ミュンヘン)にわが居りしとき夜(よる)ふけて陰の白毛(しらげ)を切りて棄てにき 斎藤茂吉(ともしび)  
城ヶ島の女子(をなご)うららに裸となり見れば陰(ほと)出しよく寝たるかも 北原白秋(雲母集)  
血をはきて何にすがらむたどきなし冷たき秀処(ほと)を掴(つか)みゐるのみ 吉野英雄(苔径集)  
風呂にしてわれとわが見る陰処(ほとどころ)きよくすがく保ちてあらな 吉野秀雄(寒蝉集)  
神、人とわかたぬまでにいのち満ち女神の陰を直截(ちよくせつ)に彫る 鈴木英夫『忍冬文』(1977年)  
記者として取材して来しクーデターのたかぶりを我のからだに埋めつ  佐伯裕子『未完の手紙』(1991年)   
高跳びの反り弓の反りなべて反るもの美(は)し女体も反ることはある 岩田正『郷心譜』(1992年)  
犯したきおもひなつかし山みづは花びらしろくうかべて流る
少年のペニスの鞘の華麗なる森のゆふべに翁舞ふらむ
前登志夫『青童子』  
ちぎれむばかり大揺れの乳房走りゆく高二女子らの百米競争 志垣澄幸『山河』  
あの夏の仄かに煙草の香りするやはらかき舌われに与えよ 青城翼『青柘榴』  
ひとつとせひと夜のゆめにあらはれてぬくくやはらかかりし人肌
ふたつとせ触れてふふみたるその唇(くち)に応へて湿るふたつ柔乳(やはちち)
みつつとせ皆がら震ふ感官のみなもとに湧くいづみありけり
よつつとせ夜をひた寄り抱き合へば身も世もなくて四界まんだら
いつつとせいつ見きとてか面影をもとめ徘徊(もとほ)るゆめの斎野(いつきの)
むつつとせ夢寐(むび)の奧処のほのゆれて揺りいだされしむだき合ふ女男(めを)
ななつとせ七世をちぎり絡み合ふ蛇とは化(な)りて七瀬越えゆく
やつつとせ谷(やつ)こぎのぼる女男のへび夜陰の底にをりをり光る
ここのつとせこれの逢瀬のうつつなしうつつなければ根(こん)かぎり抱く
をはりとせ終はりある世のくらやみを玻璃(はり)のまなこをもて見尽くさむ
桑原正紀『時のほとり』  
またがれば陰(ほと)を濡らさむ自轉車の鞍(サドル)の奥へ沁み入りし雪 松原未知子『戀人(ラバー)のあばら』  
墓地までの長き石段のぼりゆく汗ばむ双の太腿擦りて 吉浦玲子『精霊とんぼ』  
消しゴムに文字を消すとき軽やかに弾みの伝ふ乳房をみたり
わが妻をあぶせたふしてはしやぎゐる子をなまなまと嫉視して立つ
大辻隆弘『デプス』  
「そよかぜ」の扇風機のかぜ受けながらシーツの上に人体ふたつ
天井の蜘蛛はふたたびうごきたりorgasmusの消えゆくまひる
冬の夜の湯のなかのhairたはむれにみだるる髪といへばさびしき
粥あつしあはれ寝巻のうちがはに力なくあるちちふさふたつ
多田零『茉莉花のために』  
膀胱を蹴るのはちょっとやめなさい天地を知らぬ怖いものなし
眠る子をそっと抱き上げ手話交わすようにひそかに性交をする
食材をいとおしむ手でいとおしむ男根は胡麻を摺る擂粉木(すりこぎ)のごと
「もう頭が出てるじゃないか」剃毛(ていもう)の暇なく明るい分娩室へ
三人目はどうするなんて聞いてから縫うかどうかを決めるセンセイ
大田美和『飛ぶ練習』  
後方(うしろ)から覗ける陰が空豆のさやにも似たるモデルいとしも
太もものうちらの肉と吸ひあへる陰とおもへる長く座れば
さむざむと陰を洗へるしまひ湯の底のくらみを見つめながらに
横たへて薄くひらたきクレープの皮のやうなる乳房かも今
いま誰のためにもあらぬ乳房なるそば屋でそばを噛むゆふぐれの
両脚をおろして立てばみづみづと繁る一樹となる浴槽に
デミグラスソースにて和へしそのあとは牛の舌ともからむわが舌
日は暮れて崩れのこれる砂山に陰茎のごとき木ぎれ刺さりぬ
乳ふさをろくでなしにもふふませて桜終はらす雨を見てゐる
どの指もおまへのためにあるものと塗りたる爪が囁いて来つ
辰巳泰子『紅い花』  
オレンジのタンクトップゆこぼれゐるちちふさに差す晩夏のひかり 高島裕『嬬問ひ』  
海月白く透きつつあはれ女性器のイデアのごとく笠ひらきたり
くちびるは闇の入口、それぞれの闇に急かれて絡めあふ舌
音楽を注ぎ込まむと舌先を耳なる闇へ尖らせてみる
侵し得ぬ白のしづけさやはらかさ絶望のごと乳房を吸へり
手を添へて深くひらいてくちづけぬ中心のその創(きず)のごときに
海棲(かいせい)の生命(いのち)のごとき軟部へとわが指先は吸ひこまれたり
とめどなくあふるる水の湧きどころもつとも繊き弦(いと)を探りぬ
今、このとき、開けば見ゆる襞の奥のくれなゐをわが宮居と思ふ
思ひつくかぎりの態(わざ)を為しながらこころひとつに届かない指
高島裕『雨を聴く』  
乳房がふわりと浮ける感じしてブランコに立つ 妻なり昼も 前田康子『キンノエノコロ』  

 




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