和歌・狂歌・短歌における性の表現史

 
Munchen(ミュンヘン)にわが居りしとき夜(よる)ふけて陰の白毛(しらげ)を切りて棄てにき 斎藤茂吉(ともしび)
城ヶ島の女子(をなご)うららに裸となり見れば陰(ほと)出しよく寝たるかも 北原白秋(雲母集)
血をはきて何にすがらむたどきなし冷たき秀処(ほと)を掴(つか)みゐるのみ 吉野英雄(苔径集)
風呂にしてわれとわが見る陰処(ほとどころ)きよくすがく保ちてあらな 吉野秀雄(寒蝉集)
神、人とわかたぬまでにいのち満ち女神の陰を直截(ちよくせつ)に彫る 鈴木英夫(忍冬文)
高跳びの反り弓の反りなべて反るもの美(は)し女体も反ることはある 岩田正『郷心譜』
犯したきおもひなつかし山みづは花びらしろくうかべて流る
少年のペニスの鞘の華麗なる森のゆふべに翁舞ふらむ
前登志夫『青童子』
ちぎれむばかり大揺れの乳房走りゆく高二女子らの百米競争 志垣澄幸『山河』
あの夏の仄かに煙草の香りするやはらかき舌われに与えよ 青城翼『青柘榴』
ひとつとせひと夜のゆめにあらはれてぬくくやはらかかりし人肌
ふたつとせ触れてふふみたるその唇(くち)に応へて湿るふたつ柔乳(やはちち)
みつつとせ皆がら震ふ感官のみなもとに湧くいづみありけり
よつつとせ夜をひた寄り抱き合へば身も世もなくて四界まんだら
いつつとせいつ見きとてか面影をもとめ徘徊(もとほ)るゆめの斎野(いつきの)
むつつとせ夢寐(むび)の奧処のほのゆれて揺りいだされしむだき合ふ女男(めを)
ななつとせ七世をちぎり絡み合ふ蛇とは化(な)りて七瀬越えゆく
やつつとせ谷(やつ)こぎのぼる女男のへび夜陰の底にをりをり光る
ここのつとせこれの逢瀬のうつつなしうつつなければ根(こん)かぎり抱く
をはりとせ終はりある世のくらやみを玻璃(はり)のまなこをもて見尽くさむ
桑原正紀『時のほとり』
またがれば陰(ほと)を濡らさむ自轉車の鞍(サドル)の奥へ沁み入りし雪 松原未知子『戀人(ラバー)のあばら』
墓地までの長き石段のぼりゆく汗ばむ双の太腿擦りて 吉浦玲子『精霊とんぼ』
消しゴムに文字を消すとき軽やかに弾みの伝ふ乳房をみたり
わが妻をあぶせたふしてはしやぎゐる子をなまなまと嫉視して立つ
大辻隆弘『デプス』
「そよかぜ」の扇風機のかぜ受けながらシーツの上に人体ふたつ
天井の蜘蛛はふたたびうごきたりorgasmusの消えゆくまひる
冬の夜の湯のなかのhairたはむれにみだるる髪といへばさびしき
粥あつしあはれ寝巻のうちがはに力なくあるちちふさふたつ
多田零『茉莉花のために』
膀胱を蹴るのはちょっとやめなさい天地を知らぬ怖いものなし
眠る子をそっと抱き上げ手話交わすようにひそかに性交をする
食材をいとおしむ手でいとおしむ男根は胡麻を摺る擂粉木(すりこぎ)のごと
「もう頭が出てるじゃないか」剃毛(ていもう)の暇なく明るい分娩室へ
三人目はどうするなんて聞いてから縫うかどうかを決めるセンセイ
大田美和『飛ぶ練習』
後方(うしろ)から覗ける陰が空豆のさやにも似たるモデルいとしも
太もものうちらの肉と吸ひあへる陰とおもへる長く座れば
さむざむと陰を洗へるしまひ湯の底のくらみを見つめながらに
横たへて薄くひらたきクレープの皮のやうなる乳房かも今
いま誰のためにもあらぬ乳房なるそば屋でそばを噛むゆふぐれの
両脚をおろして立てばみづみづと繁る一樹となる浴槽に
デミグラスソースにて和へしそのあとは牛の舌ともからむわが舌
日は暮れて崩れのこれる砂山に陰茎のごとき木ぎれ刺さりぬ
乳ふさをろくでなしにもふふませて桜終はらす雨を見てゐる
どの指もおまへのためにあるものと塗りたる爪が囁いて来つ
辰巳泰子『紅い花』
オレンジのタンクトップゆこぼれゐるちちふさに差す晩夏のひかり 高島裕『嬬問ひ』
海月白く透きつつあはれ女性器のイデアのごとく笠ひらきたり
くちびるは闇の入口、それぞれの闇に急かれて絡めあふ舌
音楽を注ぎ込まむと舌先を耳なる闇へ尖らせてみる
侵し得ぬ白のしづけさやはらかさ絶望のごと乳房を吸へり
手を添へて深くひらいてくちづけぬ中心のその創(きず)のごときに
海棲(かいせい)の生命(いのち)のごとき軟部へとわが指先は吸ひこまれたり
とめどなくあふるる水の湧きどころもつとも繊き弦(いと)を探りぬ
今、このとき、開けば見ゆる襞の奥のくれなゐをわが宮居と思ふ
思ひつくかぎりの態(わざ)を為しながらこころひとつに届かない指
高島裕『雨を聴く』
乳房がふわりと浮ける感じしてブランコに立つ 妻なり昼も 前田康子『キンノエノコロ』