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In Fading memory
 「薄れゆく記憶のなかで」
  ■INDEX
  ■旅行記第1回
    その1
    その2
    その3
    その4  
    
その5
  ■旅行記第2回
  ■旅行記第3回
one of my favorite movies.

薄れゆく記憶のなかで
In Fading Memory
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第1回岐阜・長良川の旅

旅ノートより


3日目

朝食後、飛騨金山駅(出発8:35)から町営バスにて滝口へ(到着8:43)。

朝食も部屋ですませ、精算を終えて出発。サービスも料理も良かった。ちょっと部屋の趣味が気になるところだったが、でもいい民宿だった。

バスは民宿近くのバス亭からも出ていたが、飛騨金山駅にいったん行ってみることにした。駅では荷物は預かってもらうことが出来なかったので、荷物は持ったままこれから滝へ向かうことに。

ミニバスという感じの小さなバスで、正シートは19名。町営のコミュニティバスだそうだ。お客は自分を入れてふたり。走り出したバスは、途中出来たばかりの温泉施設を左手に見ながら、わずか8分ほどで滝口に到着。ここから横谷峡の4つの滝を廻ることに。


滝口から横谷峡を徒歩にてのぼっていく。まず白滝へ。

もし車があれば、意外にもこの4つの滝は簡単に見れるところにあった。映画では滝のシーンが山の奥深いところにあるような印象だったので、思わぬ発見だった。駐車場からすぐのところに目的の「白滝」はあった。

もっとも徒歩なので歩くよりほかになく、山道をテクテク歩いていく。それでもわずか400mくらいだったろうか、小川のささやきを聞きながら歩いていった先にその「白滝」あった。

映画では、初めてのデートで山に行き、和彦と香織が無邪気に水をかけあうシーンがここで撮影された。水をかけすぎてしまった和彦は、そっと香織のぬれた肩に上着をかけ、キスをする。香織はとまどいを覚えて、少し離れてうつ向いてしまった。ふたりは離れて、しばらくその場に。和彦の気持ちの高ぶり、そして香織の恥じらい...。


そんな光景が目に浮かんできた。水は冷たく、また周辺にはだれひとりいない、静かな時の流れ...。滝のすぐそばで「オオサンショウウオ」が見えると民宿で教えてもらった。覗いてみると、1メートルあまり四方の堀の中にいた。体長は60cmくらいだろうか。まっくろな巨体をゆっくりと動かす姿がなんとも堂々としていた。7年前の撮影のときもおそらく、同じ場所にいたんだろうな。

気がつくと、やがて近付いてくる人陰が。振り返ると、やや年輩のご夫婦、白滝をバックにお互い記念写真を撮り合っていたので、余計なこととは思ったが、「撮りましょうか」と尋ねてみる。するとうれしそうな笑顔で「お願いします、なかなか二人一緒の写真がなくって」とのこと。朝6時に愛知県の知多半島を出て車で来られたとのこと。過去にも、この辺りに数回来られたそうだ。

景色の美しさからすると、きっと紅葉の季節は行楽客で賑わうような予感がした。しかし、いまは静まり返って、ただ滝に流れる水音だけが心地よく響いている。

映画では、この後ふたりは帰ることになる。日も暮れかけようとする時刻、駅で電車を待つが、お互い言葉をかわすことなく、また目もあわすこともない。すこし距離を置いたふたりのシーンがさっきの余韻を感じさせる。

やがて和彦は香織に言う「今度、お前の写真くれや」そして香織「うん」...。




続いて二見滝へ。次に紅葉滝、鶏鳴滝へ。さらにのぼって熊牧場を目ざすが見つからず、まむしと遭遇、急きょ引き返すことに。

さらに川を遡るように道をのぼっていくと、次の滝が見えてきた。ここは二見滝。二段になっている滝である。水量はかなりのものだった。

「4つの滝」の3つ目は紅葉滝だった。すでに万歩計ではと見ると4,252歩を示している。時刻は9:35。ここには少なくとも、しばらくだれも来なかったのか、道路から下の滝へと降りる階段をふさぐように蜘蛛の巣が張ってあった。その巣を破って(ごめんなさいよ)下へと降りる。なるほど、モミジの葉っぱが滝の水面に映ると鮮やかな緑となっている。


ここでタオルを濡らして首にまきつけて、しばらくおっさんスタイルに。ひんやりと心地良い。かなり歩くと予想してペトボトル2本を用意したが、正解だった。しばらく休憩してさらに奥の滝をめざして進む。


最後の滝は
鶏鳴滝。確かに鶏の尾っぽのように水が長くたなびいているのがわかる。白く透き通った滝の流れだ。時刻は9:45。4,887歩。

これで4つの滝をすべて見たことになるのでよしとしたいところだが、時間もまだたっぷりとあるので、もしかしたらという希望と推測もあって、もう少し山の奥に向かってみる。もしかしてというのは、映画の中の、山を歩いていくと、急に開けたところに出て、その丘の上に1本の木が立っている...そんなイメージの光景を期待しながら。

ところがいくら歩いてもそれらしき光景はまったく見当たらず、また道のほうも、鋪装されていない細い道に変わってしまった。そろそろあきらめようか、そう思った矢先、道を左右に塞いでいる何かが見えた...。

長さは約50cm、色は土色で初めは木の枝だと思っていたが、な、な、なんとヘビだった!近付いてもまったく反応しない。「よしそれなら」と横を通ろうとしたちょうどその途端、ゴソゴソと動き出すではないか。しかもこちらに向かって。オ〜マイ、ゴッド!

これ以上進むのは危険だし、まだこれからの道にもウヨウヨ出てきそうな気配だったので、ひとまず退散することに...。

もうひとつ別の鋪装された道を選んで進んでいくが、映画の景色らしき丘の風景は見当たらず、結局あきらめて引き返すことにする。「勇気ある選択」とも言えなくもないが、これ以上進んでもきっと何もないだろう。



ふたたび白滝(到着10:30頃)へ。

さて道を引き返して鶏鳴滝、紅葉滝二見滝とひとつずつ下ってくる。もう一度白滝へ。この時間になると近くのキャンプ場からか大学生の体育系クラブの部員10数名が水遊びして楽しそうに遊んでいた。そんな光景を見ながら、白滝を見下ろすベンチで日記をつけてみる。


シーン53 滝

鬱蒼とした緑に囲まれた滝つぼで遊ぶ和彦と香織。和彦はズボンをまくり上げて水に入り、香織に水飛沫をかけている。嫌がって、キャーキャー言いながら逃げ回る香織。突然、すべって転ぶ香織。急に胸を押さえるようにして隅の方へ逃げる。水に濡れ透けて見えるブラのホック。背中にやさしくパーカーをかけてやる和彦。見つめ合う目と目...静寂...香織をやさしく抱き、キスする和彦...じっとしている香織。突然、激しい水音が戻ってくる。と同時に我に返り、和彦からパッと離れて背を向ける香織。

(『月刊シナリオ』1992.9より)


徒歩にて町営の温泉施設『ウェルネスぬく森の里』へ。ひとあびして、バスにて(出発12:25)飛騨金山駅へ(到着12:30)。駅弁『栗こわい』を食べながら列車を待つ。

徒歩にてテクテクと歩いて10分余り、すっかり汗もでてきたところで、『ウェルネスぬく森の里』という町営の温泉施設に到着。入湯料(?)を400円払って湯舟にドブン、ザブン。サウナは苦手で入らなかったが、それ以外の露天風呂やうたせ湯などを廻った。いい気持ち。町の娯楽施設ということで、お年寄りが多かった。のんびりとつかって、風呂上がりのビールならぬ牛乳。健康的な時間だった。

お昼すぎ、町営バスにて飛騨金山駅まで。わずか5分ほどだが、これが歩くと20分近くもかかってしまうので助かる。運賃は100円玉1枚。

駅について、いざJRにと思ったが、時刻表を見ると「おっ」と列車がない!しばらくここで待つことに..。何を食べようかなと思っていたところ、ふとここの駅弁が有名な『栗こわい』であることを発見。よ〜しこれだ、と決めて売店へ。おやっ誰もいないではないか、仕方なくお隣のKIOSKに。ちょっと待ってよ、と言って隣の店を開けてくれて、ようやく駅弁にありつく。う〜ンなかなかの美味。それにしても列車はなかなか来ない。数人の人が駅で待っていたが、みんな1時間、同じように待つのだろうかな〜。

飛騨金山駅(出発13:55)美濃太田経由、岐阜へ(到着15:35)。岐阜市内の書店を散策。

ようやく14時前、列車が到着。これからふたたび岐阜へ。

旅もこれで終わりかと思うとちょっと寂しいので、最後にもう一度岐阜に立ち寄ってみることにした。ただ時間の関係もあって、ほんの1時間ほどになるが、駅とその周辺を散策することにした。

岐阜駅に到着すると、すぐに階段をかけおりて、新岐阜駅のほうへと少し歩いてみた。

PARCOの中に本屋があるというので、映画関係か岐阜のめぼしい何かは...と思っていたが、とくに何もなかった。ついでに近くの数軒の本屋も廻ってみることにした。郷土の本とか映画の本の中に、もしかして『薄れゆく記憶のなかで』に関連する何かが見つからないだろうか...というかすかな期待を抱いて...。

結果はnegativeだった。ただ(と書いていいのかどうかわからないが)、岐阜市内の女子高の制服がイラストで出ているのもあったが、映画の制服とは結びつくはずもなかった。

帰りの列車を待つ駅で、だんだんと日が暮れていく街並を見ていると、この街のどこかにいまも確かに和彦と香織の家があるような気がした。太陽は傾き、その光は街の色を微妙に変化させていく...。






よく考えてみると、いままでこんなに夢中になった映画があったろうか。『ロッキー』『炎のランナー』から始まって『ゴースト』『ディープ・インパクト』『アルマゲドン』『タイタニック』まで、しかし邦画ではこれと言った作品に出逢ったことは正直なかった。

たまたま深夜遅くに起きていたというだけでテレビで見た作品だった。また、たまたまビデオに撮っていたのが幸いだったのだが...いままでにない感動を覚えた。

いつのまにか映画の人物を、自分自身の青春時代(いまも青春のつもりだが)に投影させていたのかもしれない...。

決してハッピーエンドではなかったが、時間の経過の中で癒されていく姿と、反対に想い出ゆえに拡大されていく部分...。

『大人になった君の少年時代の勇気を』『大人になった君の少女の目の優しさを』このふたつは、たまたま旅行中に目にした岐阜県警の募集広告のキャッチコピーだが、そういえばあの頃の自分は一体どこにいってしまったのか...とふと思う。

ふたたび振り返ることは出来ないが、いつまでもこころにとどめておきたい、そんな瞬間の繰り返しを通して、いまの自分の姿もまたあるのかもしれない、そんな気がした。



 最後に、この旅にあたっていろいろと情報を提供して下さった「忠節橋」さんにこころから感謝を捧げたいと思います。一度もお会いしたこともなく、ただインターネットを通してのやりとりでしたが、掲示板やHPの情報はたいへん貴重で有益なものでした。あわせて掲示板を通して知り合った皆さんの温かいことばの数々、ありがとうございました。

http://member.nifty.ne.jp/concerto/

 また『Yahoo岐阜』の掲示板を通して、現地ならではの情報も収集出来ました。実際に映画の中の香織としてオーボエを吹いた女性や吹奏楽部員だったという方々、また和彦の家での撮影風景を見ていたという方もあらわれたりして....。7年も前の映画にもかかわらず、さまざまな形でいまも多くの人々のこころに残っていることにあらためて感激しました。

 主演の菊池麻衣子さんは、当時「今回かぎり」という条件での映画出演でしたが、それがデビュー作品となり、今ではすっかりドラマや舞台、CM等で活躍されています。これからがますます楽しみです。

 また近い将来ふたたび長良川と忠節橋を訪れてみたいと思います。もしできれば、映画の一シーンのあの「花火」の日に訪れることができれば...。

 本当に最後になりましたが、つたない文章を長々と読んで頂き、こころから感謝致します。また機会があれば次のシリーズでさらに作品を深めてみたいと思っています。

(終わり)

文章や情報はすべて1999年当時に書き上げたものであり、その後ロケ地についての新しい情報も入ってきました。正確さや内容において十分でない点もあるかと思いますが、ご了解ください。(2002.08記載)