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東京弁護士会百年史(1980年刊)からの抜粋

弁護活動の侵害

寺本、福島弁護士申立事件

 1960(昭和35)年8月2日および9月3日、当会寺本勤、福島等弁護士より、弁護権を含む人権侵害に関する救済と東京地方裁判所富川秀秋、飯守重任裁判官に対する弾劾の申立がされた。

( 中 略 )

 昭和35年8月8日、飯守裁判官は被告人Hに係わる暴力行為等処罰に関する法律違反、監禁、威力業務妨害被告事件の勾留理由開示法廷において、とくに自分の勾留理由開示に関する見解を表明し、その中で「被告人、弁護人が勾留理由開示を求めるのは、法廷闘争をするためである」といい、その証拠はこれであるとして国民救援会発行のパンフレット『弾圧に対する心得』を右手にかざし「弁護人、被告人が逮捕を政治的逮捕であると考えるのは、世界観の相違に基づく」などと述べた後、勾留理由を告知した。
 これに対して出頭の弁護人等は質問の許可を求めたが同裁判官はこれをも却下するにいたったため、弁護人等はついに同裁判官の忌避を申立てた。
 同裁判官は、福島弁護人の忌避理由陳述中、「裁判官は被告人が共産党員であるという偏見で判断するのは、予断をもって法廷に臨んでいるので、これでは裁判官としての能力が無いと思う」旨、述べた点をとらえて、発言取消と謝罪を求め、同弁護人の釈明を中途で遮ぎり、「拘束します」と命令、直ちに執行。5時間後に法廷等の秩序維持に関する法律によって監置20日間の制裁を科し、同弁護士は執行をうけた。
 同裁判官が勾留の理由を被告人、弁護人との世界観の相違に帰着せしめ、これを法廷で公言したことは裁判制度を否定する行為というべきであり、また、弁護人の正当な意見陳述の発言に対し、合理的理由なくその取消を求め、拘束・監置の苛酷な処分を敢えてなしたことは弁護権に対する侵害であり、さらに事件と無関係な「弾圧に対する心得」を法廷に持ち込み、被告人、弁護人が勾留理由開示を法廷闘争の場にしようとする証拠であるなどとした点では、裁判官にあるまじき挑戦的態度であって、裁判官としての適格性を欠くものである。
 なお、寺本、福島両弁護士は国会に対して右両裁判官の罷免訴追請求をなし、かつ、東京地方裁判所へ名誉毀損、慰謝料請求の民事訴訟を提起した。
 当会人権擁護委員会は会長、担当副会長ならびに関連する外務委員会等の正副委員長と会議を重ねて検討した。
 委員会は本人および関係人の供述、公判の録音、両裁判官に対する国会弾劾委員会での審議状況の検討のほか、損害賠償請求事件の傍聴等をもなし、真相の解明に努めた結果、両裁判官の言動は職務上の義務に違反し、裁判官としての威信を著しく傷つけるものであると認めて、昭和36年3月25日両裁判官は罷免相当であるとの結論に達し、当会として訴追請求するよう決議して会長に報告した。
 これをうけた理事者は事は弁護権の擁護という弁護士会にとって重大な問題であることは否定できないが、他面において、訴追請求が却下された場合の消極的効果や、さらには裁判所との間に対立的状態に発展する恐れはないか等、収拾に苦慮し、人権、外務、法制の各正副委員長に諮り、現に申立人らが国会に弾劾の申立をして、本件両裁判官について審理中であること等の諸事情を考慮し、当会としては訴追の請求をしないこととし、以後、法廷等秩序維持に関する法律の運用に際しては、慎重を期せられたい旨裁判所に対して要望することによって本件を収拾した。

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