舞姫 2007

導入 恋愛か友情か。『舞姫』のあらすじを身の上相談風にまとめ、T(豊太郎)に何とアドバイスするかを書かせる。
第一段 帰路の船中で5年前を回想しながら、「人知れぬ恨み」の正体を突き止めるために『舞姫』を書こうとする。
第二段 豊太郎の生い立ちとベルリン留学当初の様子。カード式BS法で、生い立ちから豊太郎の性格を考える。
第三段 留学して3年後、25歳で自我の目覚め、官長に逆らうわ留学生とはつきあいが悪いわ、地位が危なくなる。
第四段 ある日の夕暮れ、古寺の前でエリスと運命の出会い。初対面なのに金を貸す。エリスの魔性のまなざし。
第五段 母は死ぬし、免官になるし、不幸の連続はエリスが悪因?エリスとは男女の仲になり、しばし安息の日々。
第六段 エリスが妊娠し、将来に暗雲。ジャストタイミングで相沢の手紙。本当に大臣には興味がなかったのか。
第七段 大臣に初対面。相沢には出世を勧められエリスと別れると約束。すべての不幸はここから始まる。
第八段 大臣に同行してロシアへ。エリスの手紙でようやく自分の地位に気づき、出世と愛の間で悩み始める。
第九段 とうとう帰国を承諾してしまう。今度は確信犯。悩みに悩んで都合よく倒れてしまう。
第十段 豊太郎が意識不明の間に相沢がエリスに真実を伝えてエリスが発狂。エリスを残して帰国してしまう。
まとめ 豊太郎の人生と鴎外の人生を比較して、『舞姫』執筆の動機を探る。「舞姫悪者探し」でテーマに迫る。

導入

1.「仕事か恋愛か」を配布する。
2.補足しながら読み、仕事か恋愛かを選択し、5分間で理由を書く。
 ・自分ならどうするかでなく、超エリートであるTならどうするべきか考えて選択する。
 ・机間巡視しながら、声をかける。
3.どちらを選んだが挙手させ、何人かに理由を聞く。
 ・仕事を選ぶ場合、Eやお腹の中の子供を捨てなければならない。日本で出世して迎えに行くとして、そこまで愛情が続くか、日本で結婚しないのか。
 ・恋愛を選ぶ場合、当時の日本人はドイツでの地位は低く、留学生でなくなれば簡単に仕事に就くことはできないので、経済的に苦しくなる。日本でTの帰りを待っている母をどうするのか。母の願いはTの出世であり、家を立派に継いでくれることであり、ドイツに残ってEと暮らすことは許さない。
4.教科書を開かせ、「仕事か恋愛か」が「舞姫」の前半のあらすじであることを説明する。
 ・「舞姫」は擬古文で書かれていて読みにくいが、内容的には現代的なテーマを取り上げている。
 ・いずれの場合でも、明治中期の日本と現在の日本では、国が置かれている状況も人の考え方も違う。その点を考慮しながら考えさせる。
 ・仕事か恋愛かを考えると同時に、明治の日本や日本人が何を考えていたかを学習することを目的に、授業を進めることを予告する。


第一段(はじめ〜文につづりてみん。)  要約  学習プリント 板書 漫画
 
1.「学習プリント」を配布し、宿題にする。
2.漢字の読みを確認する。
 88 今宵 骨牌 五年 任せて 記し 幾千言 日記 独逸 89 憂き節 更なり 是  故あり 経ぬ 生面 微恙 瑞西 山色 伊太利 古蹟 腸 惨痛 凝り固まり 翳  懐旧 幾度 恨み 銷せん
3.意味を確認する。
 ・いたづらなり=無意味である。役に立たない。
 ・放言=思ったままに言うこと。無責任な発言。
 ・ニル−アドミラリィ=何事にも驚いたり感嘆したりしないこと。
 ・気象=生まれつき持っている性質。
 ・是=道理に合っていること。正しいと認めていること。
 ・生面=初対面。
 ・微恙=ちょっとした病気。
 ・ことよせる=かこつける。口実にする。
 ・山色=山の景色
 ・惨痛=ひどく心をいためること。ひどく苦しむこと。
 ・懐旧=むかしのことを、なつかしく思い出すこと。
 ・さはあらじ=そうはあるまい。
 ・概略=おおよその内容。あらまし。
4.生徒と音読する。

5.「舞姫チェック」をさせ、訳しながら正解を確認する。
1)船は燃料補給のために停泊している。○
2)中等室は明々と電灯がついており、4人でトランプをしていた。(私一人だけがいた)
3)洋行の官命を受けたのは年前である。(5)
4)主人公は今、サイゴンにいる。○
5)主人公は往路では、紀行文を書きまくって新聞に連載し、好評だった。○
6)復路でも日記を書きまくった。(書けなかった)
7)主人公はドイツで無感動になってしまっていた。○
8)主人公の性格は、往路と復路では激変していた。○
9)主人公は留学先での学問には満足していた。(満足していなかった)
10)主人公は他人も自分も信じられなくなってしまっていた。○
11)イタリアを出発して一箇月たっている。(二十日余り)
12)船中ではちょっとした病気を理由に初対面の客と交際しなかった。○
13)主人公は、人知れぬ恨みに悩んでいる。○
14)この恨みは、何をするにつけても主人公の心を楽しませた。(苦しませた)
15)主人公が日本へ帰る船中でドイツであったことを書いたのが『舞姫』である。○

6.「1.日記が書けない理由」についてまとめる。
 ・ドイツで無感動になった。
 ・自分自身が信用できなくなった。
 ・人知れぬ恨みに悩まされている。
 ★「別に故あり」とあるが、これらも理由の一つになっていることを説明する。
7.人知れぬ恨みが「舞姫」のテーマになっていること、その正体を探るために後の部分が書かれていることを確認する。
・無感動や自分自身が信じられなくなったことを否定しているが、これらも正体の一つ になっている。

8.ふりかえりタイムを作る。
 ・隣の生徒と授業をふりかえる。
9.あらすじを70字以内でまとめさせ、感想を書かせ、提出させる。
・1)五年前、官命を受けて2)洋行したが、3)その帰りの船の中で4)人知らぬ恨みのために5)日記が書けなかった。その6)概略を文に綴ろうとしている。(62字)


第二段(余は幼きころより〜行きて聴きつ。)  要約  学習プリント 板書 漫画
 
1.「学習プリント第二段」を配布し、宿題にする。
2.漢字の読みを確認する。
 90 訓へ 荒み 三年 殊なり 興さん 伯林 模糊 欧羅巴 色沢 菩提樹 幽静  臨める 少女 巴里 91 楼閣 噴井 凱旋 神女 目睫 遮り 謁 鈴索 普魯西 快く 仏蘭西 92 簿冊
3.語句の確認をする。
 ・庭の訓へ=家庭教育。
 ・出仕=官庁に勤めること。
 ・官長=上司。
 ・覚え=信任。
 ・模糊=ぼんやりしていてはっきりしないようす。
 ・功名=手柄をたてて有名になること。
 ・検束=自己規制。
 ・楼閣=高くて立派な構えの建物。
 ・目睫の間=極めて短い距離のこと。
 ・うべなり=いかにもその通りである。
 ・あだなる=無駄だ。
 ・謁を通ず=面会の取り次ぎを頼む。
 ・簿冊=ノート。

4.「余は幼き〜伯林の都に来ぬ」を音読する。
5.「舞姫チェック1)〜15)」をさせ、訳しながら正解を確認する。
1)主人公は幼い頃からスパルタ教育を受けた。○
2)主人公は母子家庭に育った。○
3)主人公は商人の家の子どもである。(武士)←藩校に行けるのは武士の子息だけ。
4)主人公は大学の医学部に入学した。(法学部)
5)主人公の名は、森林太郎である。(太田豊太郎)←森林太郎は鴎外の本名。
6)トヨは藩校から大学までいつもナンバー1だった。○
7)主人公は九人兄弟の四男である。(一人っ子)
8)母は息子の勉強振りに満足していた。○
9)トヨは二十二歳で大学を卒業した。(十九歳)←当時も普通は二十二才で卒業。
10)トヨは国家公務員になった。○
11)トヨは親孝行といえば親孝行、マザコンといえばマザコンである。○
12)トヨは官長のお気に入りだった。○
13)トヨが洋行の官命を受けたのは二十一歳の時であった。(二十二歳)←十九+三。
14)トヨは家と自分の名誉の為に洋行した。○
15)その時、母親は四十九才だった。(五十過ぎ)

6.「2.豊太郎の生い立ち」の事実についてまとめる。
 1)武士の家の一人っ子で、幼い頃から厳しい家庭教育を受けた。
    ・旧藩の学館ということは士族の子息で、しかも一人っ子である。
    ・主人公は太田家の跡取りなので、幼い頃から家の期待を一身に担って育った。
  ・現代人顔負けの超幼児英才教育を受けた。
 2)早くに父を失い、母の手一つで育てられる。
    ・母子家庭である。
    ・男性中心社会であり、現在以上に厳しい環境であった。
  ・その中で、母にかかるプレッシャーは重い。
  ・父親の遺志を継いで、父親や太田家の名誉ために母親が自分のすべてを犠牲にして育てた。
 3)学校ではいつも成績は一番であった。
    ・豊太郎も期待を裏切らず努力した。
 4)十九才で東大法学部を卒業する。
    ・普通は二十四才位で卒業。
    ・日本の最高学府である東京大学を最年少で首席で卒業するのであるから、日本一優秀な青年であった。超エリートである。
 5)国家公務員になる。
    ・当時の憧れの職業である上級国家公務員になった。
    ・日本のために働き、日本を動かすことができる、やりがいのある仕事であった。
  ★現在の安定志向ではなく、志があった。
 6)三年間、母と楽しい生活を送る。
  ・女手一つで育ててくれた母への恩返しである。
    ・親孝行と見るか、マザコンと見るか。
 7)官長の評判がよく、留学の命令を受ける。
  ・就職しても、勤勉な生活を送った。
    ・官費留学生は最高の名誉であった。
  ・ドイツは当時の日本の目標であった。
  a)自分と家の名誉のために留学する。
      ・母の期待を一身に負って、自分のためだけでなく、太田家の再興のために立身出世する。
  b)五十才を越えた母を日本に残していく。
      ・当時の女性の平均寿命は四十四才。今で言えば九〇才位の年令。
   ・洋行中に死ぬかもしれない。

7.「余は模糊たる〜記させつ」を音読する。
8.「舞姫チェック16)〜18)」をさせ、訳しながら正解を確認する。
 16)トヨが洋行した先は、欧羅巴の新大都の巴里である。(ベルリン)
 17)トヨは欧羅巴の美観に感動したが、仕事に専念した。○
 18)トヨはプロシアの官員にドイツ語やイタリア語を絶賛された。(フランス語)
 19)トヨは幼い頃から小説家になりたかった。(政治家)
 20)トヨは半年後、仕事の暇に大学で政治学を学んだ。(一、二カ月後、法学)

9.「3.留学直後の様子」をまとめて板書する。
 8)あいまいな功名の念と自己規制に慣れた勉強力で洋行した。
  ・母や官長の言いなりで勉強してきたので、自分でも功名の目的がわからない。
  ・しかし、言いつけは忠実に守ってきたので自己規制は得意である。
 9)美観に心を動かされず、仕事に専念する。
  ・せっかくの美しい景観に関心を示さないのは、感情をもった人間として正常でない。
 10)大学で法律の勉強をする。
  ・国家を動かすための学問をしようとしていた。

10.カードBS法で、豊太郎の生い立ちや留学直後の様子からわかることを推測する。
 1)一人10枚ずつのカードを配る。
 2)カードに、根拠になった生い立ちの番号と推測したことを、1枚のカードに1つずつ書く。すべての番号について書く必要はない。1つの番号に何枚書いてもよい。
 3)4〜5人一グループになり机を合わせる。
 4)一グループに、台紙と糊を配布する。
 5)番号の若い順に、該当する自分のカードを読み上げて、台紙の上においていく。
 6)他のメンバーは発表を聞き、わかりにくければ質問する。
 7)カードが出尽くしたら、面白いと思うカードを8枚選び、順位をつけて台紙に貼りつける。
 8)各グループが発表し、板書する。
 9)傾向をまとめる。
  ・同じ事実から、プラスの評価とマイナスの評価が出る。
 ★この方法は、グループで意見を出す時に有効である。何もない話し合いではなかなか意見が出ないこともあるが、この方法だと出る。
 ★意見を多く出させるだけでなく、ベスト8を決めることが、話し合いの練習になる。

10.漫画とハーレクインロマンスを配布する。
11.あらすじを一二〇字以内で要約させ、感想を書かせる。(提出)
1)武士の家の一人っ子で幼い頃から厳しい家庭教育を受け、2)父親を早くなくし母親に育てられたが、3)学校ではいつも首席であった。4)十九才で大学を卒業後、5)某省に就職し、6)三年間母と暮らし、7)留学の命令を受け留学する。8)留学後、職務に専念し、法学を勉強する。(一一七字)


第三段(かくて三年〜媒なりける。)  要約  学習プリント 板書 漫画

1.「学習プリント第三段」を配布する。
2.漢字の読みを確認する。
  92 包み難き 好尚 褒むる 勤めし 雄飛 93 堪ふ 瑣々 蔗をかむ 紛々 覆す 猜疑 讒誣 麦酒 且つ 合歓 94 仕へ 顧みぬ 縛せし 有為 豪傑 珈琲店 就かん 挟ませ 95 疎き 冤罪 暫時 艱難 閲し
3.語句の確認をする。
 ・好尚=好み。本性。
 ・所動的=受動的。
 ・雄飛=意気盛んに勇ましく活躍すること。
 ・瑣々=こまごましているようす。
 ・獄を断ずる=判決を下す。
 ・破竹のごとく=勢いが激しく、押さえきれないこと。
 ・広言=無責任なことをあたりはばからずにいうこと。口にまかせて大きなことをいうこと。
 ・庶をかむ=佳境。面白味がわかる。
 ・猜疑=疑ったりねたんだりすること。
 ・かたくな=頑固なこと。
 ・讒誣=(他人をおとしいれるため)事実でないことを言ってそしること。
 ・長者=年上または目上の人。
 ・有為=事を行う才能があること。役にたつこと。
 ・冤罪=おかしたおぼえのない罪。無実の罪。ぬれぎぬ。
 ・暫時=しばらくの間。すこしの間。
 ・艱難=困難なことに出あって苦しみなやむこと。つらく苦しいこと。

4.「一月二月〜境に入りぬ」を音読する。
5.「舞姫チェック1)〜7)」をさせ、訳させながら正解を確認する。
1)トヨは二十七才になった。(二十五才)
2)これまでのトヨは受動的、器械的な人物であった。○
3)トヨは大学の自由なムードの中で自我に目覚めた。○
4)母はトヨをウォーキング・ディクショナリーにしようとしていた。○
5)官長はトヨをWALKING−ROPPOUにしようとしていた。○
6)トヨは母親に対して大口をたたくようになった。官長
7)トヨは政治学経済学に興味を持つようになった。(歴史や文学)

6.「4.豊太郎の変化」についてまとめる。
  1)「1)それまでの豊太郎」についてまとめる。
   ・所動的、器械的の人物。
   ・母→生きた辞書
    ・官長→生きた法律
    (父や母の期待、周囲の人々の称賛、官長に認められるなど、人からの評価ばかりを気にして生きていた。)
   (母や官長の操り人形であった。)
   (母は、西洋文明を取り入れる日本の動きを敏感に察知したのか、語学の力を付けようとした。)
   (官長は、自分の仕事に便利なように法律を勉強させた。)
   (その意味で、母はさすがに息子の将来を考えている。豊太郎もそこを考えた。)
  2)「2)三年後、自我に目覚める」
  ・大学の自由な雰囲気に触れたから。
  (自我に目覚めた自分を「まことの我」、以前の自分を「我ならぬ我」と表現している。)
  (当時の二十五才という年齢は、現在の三十五才位に当たる。)
  (働き盛りで、自我に目覚めるには遅く、危険である。)
   (日本の大学と西洋の大学では雰囲気が違う。)
   (現在でも日本の大学のランクは低い。)
  3)「3)その後の豊太郎」をまとめる。
    ・官長に自分の意見を主張する。
   ・大学では、歴史や文学を学ぶ。
  (法学は非人間的な学問であるが、歴史・文学は人間的な学問である。)

7.「一月二月〜境に入りぬ」を音読する。
8.「舞姫チェック8)〜18)」をさせ、訳しながら正解を確認する。
8)官長は独立した思想を持ったトヨをますます喜んだ。(喜ばなかった)
9)トヨの当時の地位は危うかった。○
10)留学生仲間は、トヨを尊敬したりほめたりした。(嫉妬したり悪く言ったりした)
11)トヨは留学生と麦酒を飲んだり麻雀をしたりしなかった。(ビリヤード)
12)トヨは本当はたいへん大胆な人間だった。(臆病な)
13)年長者の教えを守り、学問の道に進み、役所に勤めたのも、すべて嘘の自分であった。
14)故郷を出る時、自信満々だった。○                     ○
15)トヨが神戸の港を出る時に笑っていたのはトヨの本性である。(横浜、泣いて)
16)トヨはこの本性は母の手で育てられたから生じたと思っている。○
17)ドイツの売春婦や道楽者と遊ばなかったのは、がなかったからである。(勇気)
18)留学生仲間と遊ばなかったことが、今後、無実の罪で苦しみを体験する原因になる。○

9.「5.地位が危うくなる」についてまとめる。
 1)官長の評判が悪くなる。
  ・官長は自分の心のままに動く機械のような部下を求めていた。
  (官長は自分の思う通りに動く有能な部下が必要なのであって、いくら有能でも自分の意見を主張する人物は有害である。これは今の官僚についても言える。)
  (国費留学生である豊太郎に反抗する権利はない。)
  (反抗することが、どういう意味かを理解していない。)
 2)留学生から嘲られ妬まれる。
 ・遊ぶために留学していた。
 ・つきあいが悪い。
 (お高く留まっていると思われた。)
 (自分たちを見下して馬鹿にしていると思った。)
 (いつの時代も、努力していない人間が真面目な人間に嫉妬する。)
  ↓↑
 3)弱くふびんな心=本性
 ・早くに父を亡くして、母の手で育てられたから。=責任転嫁
  (今までは、有能で豪快な人物だと思っていた)
  (一度快楽を覚えるとのめりこみそうなので、我慢して避けていた)
  (自分の性格を母親のせいにしているところに、弱さがある)
10.これらの出来事が、今後の豊太郎の不幸の原因になることを予告していることに注意する。

11.「トヨの中の5つのこころ」をする。
 1)「トヨの中の5つのこころ」を配布する。
 2)この時の豊太郎ならどうかで、「1」に記入させる。
 3)エコグラムの見方を説明する。
  ・母に育てられたので、NPが高い。
  ・父を知らないのでCPは低い。
  ・母に従順だったのでACが高い。
  ・遊びを知らなかったのでFCは低い。
  ・受動的機械的な人間だったのでAも低い。

12.漫画とハーレクインロマンスを配布する。
13.あらすじを九十字以内でまとめる。
  いままで1)所動的、器械的な人物だったが、2)三年後、3)自我に目覚め、4)官長に逆 らうようになる。また、5)留学生仲間とうまく付き合えず、6)地位が危うくなる。それは7)臆病な本性のためだと気づく。(八十六字)


第四段(ある日の夕暮れ〜背につつぎつ。  要約  学習プリント 板書 漫画

1.「学習プリント第四段」を配布する。
2.漢字の読みを確認する。
 95 獣苑 漫歩 僑居 巷 襦袢 頬髭 猶太 翁 梯 楼 凹字 恍惚 寺門 96  垢 睫毛 愁ひ 覆はれ 一顧 遭ひて 憐憫 係累 真率 97 葬る 貯へ 欷歔  震ふ 項 鎮め 往来 欠け損じ 老嫗 悪しき 額 獣綿 会釈 98 茫然 油燈  漆 慇懃 無礼 廚 右手 左手 煉瓦 臥床 梁 氈 陶瓶 価高き 羞ぢらひ  99 座頭 二年 憂ひ 媚態 背
2.生徒と音読する。
3.語句の意味を確認する。
 ・獣苑=動物園。
 ・僑居=下宿
 ・恍惚=ある物事に心をうばわれて、うっとりする様子。
 ・一顧=ちょっとふり返って見ること。
 ・憐憫=あわれむこと。
 ・係累=両親・妻子など面倒を見なければならない家族。
 ・真率=かざりけがなく、きまじめなこと。正直で率直なこと。
 ・欷歔=すすり泣くこと。すすり泣き。
 ・会釈=浅く首を下げて、礼をすること。おじぎをすること。
 ・慇懃=人に対して礼儀正しく、ていねいなこと。
 ・厨=台所。
 ・媚態=男にこびようとする、女のなまめかしい態度。人のきげんをとって気に入られようとする態度。
 ・隠し=ポケット。

4.「ある日の夕暮れ〜我がそばを飛びのきつ。」を生徒と音読する。
5.舞姫チェック1)〜14)をさせる。
1)トヨが少女に会ったのは昼過ぎである。(夕方)
2)トヨはクロステル巷にある下宿に帰ろうとしていた。(モンビシュウ街)
3)トヨが少女に会ったのは、ウンテル・デン・リンデンの動物園の前である。(クロステル巷の古寺)
4)トヨは少女と会った場所には初めて来て、うっとりしていた。(何度も来て)
5)少女は閉ざされた教会の門の前で声をあげて泣いていた。(声をのんで)
6)少女の年令は十二、三才である。(十六、七才)
7)少女はメッシュの茶髪でネッカチーフをしていた。(うすい黄金色)
8)少女は絵にも描けない超美少女だった。○
9)少女はもの問いたげに憂いを含んだ長い睫毛の黒い瞳をしていた。(青い)
10)トヨは少女に一目惚れした。○
11)トヨが少女に声をかけたのは、ナンパしようという下心あったからである。(憐憫の情)
12)少女はトヨを悪人だと思った。(善人)
13)少女は遊ぶ金がなくて泣いていた。(父の葬式代)
14)少女はいつの間にかトヨに肩を寄せていた。○

6.地図を見ながら豊太郎が歩いた教会までの道を確かめる。
 ・動物園→ウンテルデンリデン通り→クロステル通り→マリエ教会
 ・下宿はモンデシュウ街にあるので、クロステル通りの教会は寄り道になる。
 ・クロステル通りは狭く、道に面して洗濯物が乾してあり、夕方から酒を飲んでいる者もたむろしているような、貧民窟である。
 ・三百年前の遺跡をみて恍惚となるのを楽しんだ。
 ・留学直後は、あだなる美観に心を動かさないでおこうとしていたのに、美観に関心を持つようになっていた。
 ・エリスとの出会いは偶然であったが、美観に心を動かされた流れの中で起こったことである。
7.「6.ある日の夕方、教会の前で少女と出会う」についてまとめ、質問する。
 (1)少女の様子をまとめる。
  ・年は十六、七才。
  (生徒と同じぐらいの年令)
  ・超美少女。
  (詩人の才能がなければ表現できないほどという形容の仕方)
  ・清くもの問いたげな憂いを含んだ目。
  (一目見ただけで豊太郎の心をとらえた)
  (今後も目の表現に注意する)
  ・教会の前で、父の葬式の金がないので、泣いていた。
 (2)豊太郎の対応をまとめる。
  ・憐憫の情が臆病な心に打ち勝って、大胆にも声をかけた。
  ・外人の方が力を貸しやすいこともある。
 (3)Q1なぜ豊太郎は少女に声をかけたのか?
  1)「憐憫の情」と書いてあるが、前後関係はどうか。
   ・泣いている事情は後から聞いたことであり、憐憫の情で声をかけるのはおかしい。
  2)酒も飲めず、玉突きもできず、女遊びもできない豊太郎が、なぜ大胆になったのか。
   a)近因としては、
    ・少女の目が憂いを含んでいて、一目で豊太郎の心をとらえた。=魔性
   b)遠因としては、
    ・自我に目覚めで自由になっていた。
    ・当時の地位が危うく不安定な精神状態であった。
    ・教会の前で恍惚としていたから。
 (4)Q2なぜ少女は教会の前で泣いていたのか?
   1)なぜ泣いていたのか。
    ・父の葬式の金が工面できず、家に帰れずに、途方に暮れていた。
   2)なぜ教会の前か。
    ・教会は家の近くにある。
    ・教会に救いを求めようとしたが閉まっていた。
    ・教会は表通りにあり人目につく。
   3)なぜ人前で泣いていたのか。
    ・少女なので感情を押さえられなかった。
    ・誰かが声を掛けてくれるのを待っていた。
    ★とすれば、豊太郎は引っかけられたことになる……。
    ★ここでは答えは出ないが、エリスに対する疑義を提示しておく。

8.「人の見るがいとはしさに〜背にそそぎつ」を生徒と音読する。
9.舞姫チェック15)〜28)をする。
15)トヨは、教会の隣にある十四階の屋根裏部屋の少女の家まで送って行った。(四階)
16)部屋から出てきたのは、白髪まじりの貧しい服装をした少女の祖母であった。(母)
17)少女の名前はエリザベスである。(エリス)
18)エリスの亡くなった父はエルンスト・ワイゲルトと言う詐欺師だった。(仕立物師)
 19)エリスの母はトヨに対して、手の平を返したように丁寧になった。○
 20)エリスの家は狭く見すぼらしいが、花瓶には高価な花が生けてあった。○
 21)エリスは顔黒(ガングロ)でぽっちゃりした少女だった。(色白でスリムな)
 22)エリスは地方出身者である。○  ・「少し訛りたる言葉」とある。
 23)エリスはモンビシュウ座の座頭のバウムクウヘンと言うスケベな中年男の愛人になれと迫られていた。(ビクトリア座、シャウムベルヒ)「身勝手な言い掛け」とは、愛人になることである。
 24)母はエリスが座頭の愛人になることに反対していた。(賛成)「それもならずば母の言葉に」
 25)エリスはトヨに借金を申し込んだ。○
 26)エリスの目は、MUGOん・色っぽいものだった。○「人に否とは言はせぬ媚態」★「MUGOん・色っぽい」のCDをかける。「青い瞳のエリス」も。
 27)トヨはポケットの中にあった二、三マルクの銀貨を貸した。(時計)
 28)エリスのよだれがトヨの手の甲を濡らした。(涙)

10.エリスの家に入るまでのやりとりとエリスの家の様子について
 1)Q3エリスは母に何を話したのか?
  1)母の態度の変化は。
   ・最初激しく戸を閉めたのに、直ぐに戸を開けて慇懃に無礼を謝罪した。
  2)短時間で態度が変わる理由は。
   ・エリスは豊太郎が金銭的に援助してくれるという内容を話したのではないか。
   ★娘を座頭に売るような母親だから、金銭に執着している。
  3)しかし、豊太郎は「力を貸す」とは言っているが、「金を貸す」とは言っていない。
   ・エリスは最初から金を借りるつもりで豊太郎を家まで案内した。
   ★エリスは金を貸してくれるカモを探していた可能性が強まる。
11.「7.エリスに金を貸して窮地を救ってやる」について
 1)Q4なぜ豊太郎は大金を貸してやろうという気になったのか?
  1)豊太郎の境遇から考えると
   ・自分も父を亡くした同じ境遇だったから。
  2)エリスの様子から考えると
   ・エリスの人には否とは言わせない媚びを含んだ目があったから。
  3)その目は意識的か無意識か。
   ・「この目の働きは知りてするにや、また自らは知らぬにや」と書いてある時点で、意識的であった疑いを残している。
   ★大事な時計だったので質受けしたかったので、住所を教える。
   ★エリスに住所を教えたことにより、エリスが礼に訪れ、二人の交際が始まる。

12.あらすじを70字以内でまとめさせ、感想を書かせる。
 ・1)ある日の夕暮れ、2)教会の前で3)父の葬式の費用がなくて泣いている4)エリスに出会い、5)憐憫の情から声をかけ、家まで送り、6)金を貸してやる。(68字)


第五段(ああ、なんらの悪因〜読まぬがあるに。)  要約  学習プリント 板書 漫画

1.「学習プリント第五段」を配布する。
2.漢字の読みを確認する。
 99 終日 兀座 漁する 速了 痴騃 00 岐路 仰ぐ 猶予 請ひて 煩ふ 某 募り 業 01 粧ひ 辛苦 剛気 卑しき 不時 免官 疎んぜん 詳しく 愛づ  危急存亡 秋 数奇 鬢 02 悲痛感慨 脳髄 説きて 午餐 思案 寄寓 珈琲  03 若人 商人 臂 掌上 崩殂 04 流布 一隻
2.「ああ、なんらの悪因〜月日を送りぬ」を生徒と音読する。
3.語句の意味を確認する。
 ・悪因=悪い結果をもたらす原因。
 ・終日=一日中。
 ・兀坐=きちんと座る。
 ・速了=早呑み込み。早合点。
 ・漁する=探し歩く。
 ・痴騃=幼稚な。
 ・はばかり=さしさわり。
 ・事を好む=事を荒だてる。
 ・岐路=分かれ道。
 ・猶予=決められた日時を延ばすこと。
 ・温習=けいこ。練習。
 ・はらから=兄弟姉妹。
 ・剛気=物にも屈しない強い気性。気が強く勇ましいこと。
 ・不時=思いがけない時。
 ・色を失う=(驚いたり、あわてたりして)顔色が青くなる。
 ・危急存亡=(大きな危難が迫り)現在のまま残るか、それとも滅びるかの分かれ目。瀬戸際。
 ・数奇=不幸な運命。不運。
 ・悲痛感慨=悲しい出来事のために、身を切られるような思いをし、しみじみと深く心に感じること。
 ・浮かぶ瀬=出世する機会。
 ・思案=(どうしたらよいかと)考えをめぐらすこと。
 ・寄寓=他人の家にしばらくの間住み、世話になること。居候。
 ・温習=けいこ。練習。
 ・掌上の舞=掌でするような軽やかな舞。
 ・見識=物事を深く見通し、本質をとらえる、すぐれた判断力。ある物事に対する確かな考えや意見。
 ・流布=世間に広くゆきわたること。
 ・高尚=問・技芸・言行などの程度が高く上品なこと。けだかくてりっぱなこと。
 ・一隻の眼孔=ものを見抜く特別な眼識。独特の批評眼。見識の広さ。物事を見通す力

4.舞姫チェック1)〜24)をさせる。
1)「舞姫」を書いているトヨはエリスとの出会いを後悔している。○「なんらの悪因ぞ」とある。
2)エリスはトヨと交際するためにトヨの下宿にやってきた。(トヨにお礼を言うため)
3)「一輪の名花を咲かせたり」とは、エリスが美しい花を持って来てくれたことである。(エリスのこと)
4)留学生がトヨをナンパの達人だと官長にチクくった。○
5)この時、トヨとエリスの関係は大人の関係であった。(幼稚な関係)
6)官長はトヨに最後のチャンスを与えた。(直ぐに公使館に報告した)
7)トヨはクビになり、直ぐに帰国すれば旅費ぐらいは出すが、ドイツに残留するなら援助を断つと言い渡された。○
8)トヨは、三日後残留を決意した。(一週間、迷った)
9)トヨは、母の死を知らせる親戚の手紙と、母の自筆の手紙を受け取った。○
10)トヨは母の死を知ってホッとした。(たいへん悲しんだ)
11)この時、トヨとエリスの関係はHな関係であった。(清らかな関係)
12)エリスが舞姫になったのは、十二才の時である。(十五才)
13)エリスは、ハックスレンデル座ナンバー1である。(ビクトリア座、ナンバー2)
14)舞姫は、見かけの華やかさとは裏腹に、少ない給料でこき使われるみじめな職業で、身を売る者もいた。○
15)トヨは、クビになった原因がエリスにあることをエリスに話した。(隠した)
16)エリスは、トヨのクビにショックを受け、すぐに母に伝えた。(内緒にした)
17)エリスの母がトヨとの交際を許していたのは、金目当てである。○「余が学資を失ひしを知りて余を疎んぜんを恐れてなり」とある。
18)この時、トヨとエリスの関係は教師と生徒の関係から、男と女の関係になった。○「離れ難き仲」になった。
19)トヨは、エリスに一目惚れしていた。○
20)トヨは、不幸のどん底にある自分を悲しんでくれるエリスの姿に、欲情を抑えられなくなった。○
21)トヨは、エリスと別れ帰国して屈辱的な生活をするか、生活費も得られない生活するか、究極の選択を迫られた。(学問もできず、学資)
22)このピンチに、天方大臣の秘書であった親友の相沢鎌吉が新聞社の配達員の仕事を紹介してくれた。(謙吉、通信員)
23)エリスは母親を説得して、トヨの下宿で同棲するようになった。(エリスの家)
24)二人は貧しく苦しい生活をしていた。(楽しい)

5.「8.エリスとの幼い交際が始まる」について
 1)エリスとの交際が悪い結果をもたらす原因になったことを確認する。
  ・帰りの船中でエリスとの交際を回想して気づいた。
 2)悪い結果とは何かを考える。 
  ・免官になったこと。
  ・エリスを発狂させたこと。
  (この段階ではわからない。最後にもう一度問う)
6.「9.免官になる」について
 1)免官になった原因を確認する。
  ・エリスとの交際を、留学生仲間が官長に密告した。
  ・官長がすぐに公使館に報告した。
  (第四段の「冤罪」に当たる)
  (母と二人で築いてきた出世の道が閉ざされた)
  (留学生の噂の恐ろしさ、官長の恨みの強さ。状況を甘く見過ぎていた)
  (自我に目覚めた代償)
 2)公使館の条件を確認する。
  a)帰国→旅費を支給する。
  b)残留→援助を断ち切る。
 3)豊太郎はどうしたかを確認する。
  ・一週間の猶予をもらう。
7.「10.母の死を知らせる手紙を受け取る」について
 1)手紙が2通来たことを確認する。
  ・母の自筆と、親戚の母の死を知らせる手紙。
  ・船便は月に一便しかないので、別々の日に出したが、豊太郎の手元には同時に届い   た。
 2)「舞姫」の中の3通の手紙が、豊太郎の運命を左右する重要な役割を果たす小道具で  あることを確認する。
 3)母の手紙を読むと二年後の今でも涙が止まらないことを確認する。
 4)Q5手紙の内容は?
  1)母の手紙の内容と死因を考える。
   a)病死説
    ・五十歳を超えている。
    ・「出世して帰国することを待っていたが、残念である」
    ・「自我に目覚めて、官長に逆らったいることを心配している」
     (豊太郎からの手紙で自我の目覚めとその後の行動は知っている)
    ・しかし、この内容で二年後読んでも涙が止まらないか。
   b)自殺説
    ・豊太郎の免官にショックを受けた。
    ・死をもって豊太郎を諫める。
    ・夫に家に謝罪する」
  2)母は豊太郎の免官を知っているかどうかを考える。
   ・手紙が届くには一カ月かかる。
   ・日本にいるのは、母と官長。ドイツにいるのは、豊太郎と留学生と公使。
   ・留学生から官長への密告に一カ月。
   ・官長から公使館へ一カ月。
   ・豊太郎が免官を知ったのは一週間以内。
   ・官報に発表されていれば、母は知っていた。
 5)母の死が今後の豊太郎に与える影響を考える。
  ・急いで帰国する必要がなくなった。
  ・心の支えを失った。
 6)エリスが豊太郎の免官を母に内緒にしようとした理由を考える。
  ・金目当てで豊太郎との交際を認めているエリスの母に免官を知らせると、別れさせられる。
  ・エリスは豊太郎を金のために愛していたのではない。
8.「11.エリスと離れ難い仲になる」について
 1)「離れ難い仲」とは何か確認する。
  ・肉体関係ができた。
 2)豊太郎の状況を確認する。
  ・免官と母の死が重なり、人生最大の危機である。
  ・女にうつつをぬかしている場合ではない。
 3)離れ難い仲になった理由を考える。
  ・エリスに一目惚れしていた。
  ・不幸のどん底の豊太郎のために涙を流してくれた。
   ★母に変わる存在
   ・深い悲しみで恍惚としていた。
   ★教会の前でエリスと出会った時も、恍惚としていた。
   ★エリスとの重要な局面では、いつも恍惚としている。
9.「12.運命の日が迫る」について
 1)帰国する場合、どうなるかを確認する。
    ・学問が完成せず出世の見込みがない。
 2)残留する場合、どうなるかを確認する。
  ・学資を得る手段がない。
 3)豊太郎にとって最大の問題を考える。
  ・学問ができるかどうか。
  ・エリスではない。
10.「13.ドイツに残留する」について
 1)相沢がしてくれたことを確認する。
  ・新聞社の通信員の職を世話してくれる。
  ★ここで初めて登場する相沢が、後半のキーパーソンになる。
 2)エリスがしてくれたことを確認する。
  ・同居できるように世話してくれる。                 
 3)どんな生活を送ったかを確認する。
  ・憂きが中にも楽しい生活。
  ・第二の安息の日々。

11.「朝の珈琲果つれば〜読まぬがあるに。」を生徒と音読する。
12.「舞姫チェック」25)〜28)をする。
25)トヨは喫茶店でドイツの新聞を読み、翻訳して日本の新聞社に記事を送った。○
26)昼過ぎには練習が終わったエリスが喫茶店により、二人仲良く帰っていった。○
27)トヨは大学に行くこともなくなったが、雑学には強くなった。○
28)学問ができなくなったことを強く後悔している。○「我が学問は荒みぬ」と二回書いていることに注目する。後悔していないように書いているが、やはり学問に未練があった。

14.「トヨの中の5つのこころ」2をする。
 1)前に配しておいた質問紙を出させる。
 2)この時の豊太郎ならどうかで、「2」に記入させる。
  ・自由になったので、FCが高くなった。
  ・エリスの面倒をみているので、NPも高くなった。

15.あらすじを一一〇字以内でまとめさせる。
 1)エリスと交際が始まり、それが原因で2)免官になり、3)帰国か残留かを迫られる。また4)母の死を伝える手紙を受け取る。そんな中5)エリスと離れ難い仲になり、6)相沢とエリスに窮地を救われ、7)ドイツでエリスと貧しい中にも楽しい生活を送る。(一〇六字)


第六段(明治二十一年の冬〜車を見送りぬ。)  要約  学習プリント 板書 漫画

1.「学習プリント第六段」を配布する。
2.漢字の読みを確認する。
 04 鍤 凸凹 坎坷 朝 凍え 卒倒 悪阻 05 由 昨夜 汝 疾く 悪しき 便り 上襦袢 襟飾り 06 不興 幾年 外套 接吻 凍れる 朔風
2.生徒と音読する。
3.語句の意味を確認する。
 ・凸凹坎坷=道がデコボコしている所。
 ・卒倒=急に意識を失って倒れること。
 ・おぼつかなし=はっきりせず、たしかでない。あやふやである。
 ・いぶかる=うたがわしく思う。あやしむ。
 ・不興=気分的におもしろくないこと。
 ・朔風=北風。

4.舞姫チェックをさせ、生徒に訳させながら確認する。
1)明治二十三年の夏の出来事である。(二十一年の冬)
2)エリスが気分が悪く、物を食うと吐くのは食中毒であると気づいたのは母である。(妊娠)
3)トヨはエリスの妊娠を知って将来に希望を感じた。不安
4)手紙は相沢が日本で出したものである。(ベルリン)
5)相沢は山縣(やまがた)大臣に付いてベルリンに来ていた。(天方)
6)手紙の内容は、相沢が一緒に食事したいから来いというものであった。(大臣が会い たい)
7)相沢はトヨに名誉挽回のチャンスを与えようとしていた。○
8)トヨは相沢の手紙を読んでうれしそうな顔をした。(茫然とした)
9)エリスは、新聞社の報酬を打ち切られる手紙だと思った。○
10)エリスが病気を我慢してトヨの身支度をしたのは、相沢に会うと思ったからである。(大臣)
11)エリスは女の勘で自分の不幸な行く末を直感した。○
12)トヨは大臣に会うため行くと言って出かけた。(相沢)

5.「明治二十一年の冬」と時を明記した理由を説明する。
 ・年代が明記されているのはここだけである。
  ・緊張感と新たな展開を感じさせる。
 ・時代を明記して現実味を帯びさせる。
6.「14.エリスが妊娠する」について
 1)エリスが倒れた理由を確認する。
  ・妊娠していた。
  ・同棲して離れ難い仲になったなら当然のことである。
 2)豊太郎の気持ちを考える。
  1)「もしまことなりせばいかにせまし」を訳す。
   ・もし(妊娠が)本当ならば、どうしよう。
   ・反実仮想で、事実に反することを仮定する。
  2)反する事実にとは何かを考える。
   ・エリスが妊娠していないこと。
  3)妊娠しているのに、妊娠していないことを前提の表現をしている理由を考える。
   ・妊娠していることを信じたくなかった。
  4)信じたくない理由を考える。
   ・経済的に不安定になる。
   ○学問ができなくなる。
   (自分の収入も不安定でエリスも働けなくなれば、出産費や育児費だけでなく、生活費にも困ることになる)
   (やはり、豊太郎にとって、学問ができなくなるのが最大の問題である)
7.「15.相沢の手紙を受け取る」について
 1)豊太郎の運命を左右する2通目の手紙であることを確認する。
 2)内容を確認する。
  ・名誉を回復するために大臣に会いに来い。
  ・相沢が大臣に豊太郎の才能を話し、面会の約束を取り付けた。
 3)相沢の価値観を考える。
  ・出世することが、幸せである。
  ・それを援助するのが友情である。
8.「16.相沢に会いに行く」について
 1)エリスの気持ちを考える。
  1)「たとひ富貴になりたまふ日はありとも、我をば見捨てたまはじ。」の意図を考える。
   ・もし出世なさっても、私をお見捨てにならないでください。
   ・豊太郎が出世すれば見捨てられることを予感している。
  2)「我が病は母ののたまふごとくならずとも」と言ったエリスの真意を考える。
   ・母の言う病とは、妊娠である。
   ・妊娠していなくても、見捨てないでほしい。まして妊娠しているなら、見捨てるはずがないでしょうね。
   ・子どもによって豊太郎をつなぎ止めようとしている。
 2)豊太郎の気持ちを考える。
  ・出世のことは考えていない。(「幾年」は誇張である)
   ・出世のために大臣に会うのでなく、相沢に会いに行く。

9.二人の言葉の駆け引きを考える。
 1)「言葉の裏を読む」を配布する。
 2)会話の3つのパターンを説明する。
 3)個々の会話を分析する。
  ・「たとひ〜」は、エリスAC→豊太郎NP
   「我が病〜」は、エリスA→豊太郎NP
   エリスは、ビハインドで発信している。
  ・「なに富貴〜」豊太郎NP→エリスACなら、額面通りの意味。
            豊太郎A→エリスACなら、本当は出世を考えている。
   豊太郎は、エリスの表に対してパラレルだけか。ビハインドも使っているのか。

10.あらすじを一〇〇字以内でまとめさせる。
 1)明治二十一年の冬、2)エリスが妊娠し、3)将来に不安を感じる。そんな時に4)相沢から大臣に会って名誉を回復するようにという手紙を受け取り、5)エリスは不安を感じるが、6)豊太郎は相沢に会うためと言って出かける。(96字)


第七段(余が車を降りしは〜寒さを覚えき。)  要約  学習プリント 板書 漫画

1.「学習プリント第七段」を配布する。
2.漢字の読みを確認する。
 06 門守 階 覆へる 廊 踟躕 07 謁し 委託 午餐 生路 胸臆 閲歴 凡庸  08 生活 成心 曲庇者 朋友 薦むる 舵 舟人 玻璃 膚
2.「余が車を降りしは〜寒さを覚えき。」を生徒と音読する。
3.語句の意味を確認する。
 ・踟躕=ためらうこと。
 ・品行方正=だんのおこないが正しいこと。
 ・気象=性格。
 ・意に介す=気にする。
 ・生路=人生航路。
 ・轗軻数奇=不幸。
 ・胸臆=心の中。
 ・閲歴=今まで経験してきたこと。
 ・凡庸=平凡なこと。
 ・色を正す=あらたまった表情をする。
 ・成心=先入観。
 ・曲庇者=道理を曲げてかばう者。

4.舞姫チェックをさせる。
1)トヨの初めてカイゼルホオフホテルに来た。(久しぶりに)
2)トヨは相沢に会うのを一瞬ためらったのは、落ちぶれた自分を相沢に見られるのが恥 ずかしかったからである。○
3)相沢は痩せたクラ〜い男であった。(太った明るい)
4)相沢は私の失敗を非難した。(しなかった)
5)相沢は昔話に花を咲かせた。(挨拶の暇もなく大臣に会わせた)
6)大臣はトヨに仏蘭西語の翻訳を依頼した。(独逸語)
7)相沢はトヨを夕食に誘った。(昼食)
8)食卓では、互いに語り合った。(相沢が質問し、豊太郎が答えた)
9)相沢は、トヨの不幸な過去を責めず、官長を責めた。(留学生仲間)
10)相沢は、トヨの失敗の原因は生まれながらの臆病な心のせいだと見抜いていた。○
11)相沢はトヨがエリスと同棲していることを知らなかった。(知っていた)
12)大臣はトヨが女でクビになったことを知らなかった。(知っていた)
13)相沢は、トヨに法律の才能を示して大臣の信用を得るように勧めた。(語学)
14)相沢が大臣の信用を得るように勧めた理由は、自分自身の身の安全も計算している。 ○
15)相沢がトヨにエリスと別れるように忠告した理由は、年令の差がありすぎるからである。(身分)
16)相沢の出世話は、五里霧中であった。○
17)トヨは、出世が幸せに結びつくと信じていた。(かわからなかった)
18)トヨは、今の生活やエリスの愛を捨てようとしていた。(捨て難かった)
19)トヨは、相沢のエリスと別れることをキッパリ断った。(約束した)
20)トヨは、友に対してはNO!と言えない性格だった。○
21)トヨが相沢と別れたのは、午後時である。(四)
22)トヨの心は、温かかった。(寒かった)

3.「17.相沢と再会する」について
 1)久しぶりにカイゼルホオフホテルを訪れたことを確認する。
 2)相沢に合うのを一瞬ためらったことを確認する。
  ・学生時代は、自分の方が上であった。
  ・今は、地位が逆転している。
 3)どんな心が働いたか考える。
  ・羞恥心
 4)相沢は昔と変わらぬ快活な気象を確認する。
4.「18.大臣にドイツ語の翻訳を依頼される」について
 1)大臣が豊太郎にドイツ語の翻訳を依頼したことを確認する。
5.「19.相沢と昼食をとる」について
 1)主に相沢が質問し、豊太郎が答えたことを確認する。
  ・豊太郎の人生の方が変化に富んでいたから。
 2)豊太郎の不幸な人生を聞いて責めなかった理由を読み取る。
  ・「この一段のこと」は豊太郎の弱い心のせいだと見抜いていたから。
  ★さすが親友である。豊太郎の強みも弱みを知り抜いている。
  ★豊太郎を助けることも、利用することもできる。
 3)「この一段のこと」とは何か考える。
  ★それが「弱き心」から出ていることを考える。
  ×官長に逆らったこと。(これは自分の意志でしたことなので弱くない)
  ×留学生とつきあわなかったこと。(相沢は留学生との付き合いを勧めない)
  ○エリスと深い関係になったこと。(一目惚れや恍惚の間に起こったから。後の相沢の説得の展開から)
 4)大臣に語学の才能を示して信用を得るように勧めた理由について
  1)相沢が豊太郎の学識や才能を惜しんでいることを確認する。
   ・豊太郎個人だけでなく、国家の損失。
   ・国立大学に学び、国家公務員になり、国費留学生になったなど、国費の援助を受けてきた。
   ★当時の人材にかける費用の大きさを考える。
 5)大臣の思考を考える。
  ・大臣は、語学の力を利用しようとしているだけ。
  ・大臣は、豊太郎が女性問題で免官になったことを知っている。
 6)相沢が豊太郎を直接推薦すればどうなるか考える。
  ・国が免官した者を推薦するのは、国の決定に逆らうことになる。
  ・公の仕事に、私情を持ち込んだと思われる。
  ・また、万一豊太郎が失敗すれば、推薦した相沢の責任になる。
 8)相沢の保身を考える。
   ・「己に損あればなり」と、自分の立場が不利にならない配慮をしている。
   ★官僚的な用心深さ
 9)エリスと別れるように忠告した理由について
  1)エリスとの関係をどのように思っているかを考える。
   ・身分が違うことが問題である。
   ・女性問題は、豊太郎の出世の妨げになる。
   ★当時は、身分や家柄が大きな条件であった。
  2)豊太郎の性格を考える。
   ・相沢は、豊太郎の弱い心を見抜いている。
   ・大事な時に、エリスを選ぶ可能性を予想している。
   ・仕事に専念させる
   ★予想される問題を排除しておくのは、官僚的思考。
6.「20.エリスと別れる約束をする」について
 1)豊太郎の気持ちを考える。
  1)比喩を読み解く。
    ・大洋=ヨーロッパ
    ・舵を失ひし舟人=免官になった豊太郎
    ・はるかな山=大臣の信用を得て出世すること
    ・行き着く=出世する
  2)出世に対する気持ちをまとめる。
   ・大臣の信用を得て出世できるかどうかわからない。
   ・出世しても、満足できるかわからない。
   ・確実性がない。
  3)エリスに対する気持ちを読み取る。
    ・今の生活は、貧しいが楽しい。
    ・エリスの愛は捨てがたい。
   ・確実である。
  4)確実性からいえば、エリスの愛を取るはずである。
 2)約束した理由を考える。
  ・親友の意見には逆らえないから。
 3)その根本にあるのもを確認する。
  ・優柔不断。主体性の欠如。
 4)その後の気持ちを読み取る。
  ・心に一種の寒さを覚える。
 5)心の寒さとは何かを考える。
  ・エリスを裏切ったやましさ。
 6)この約束はエリスを捨てたことになるのかどうかを考える。
  ・エリスを捨てようと決断したわけではない。
  ・出世の可能性は低いので、とりあえず、友の前で、友の意見に従っただけ。
  ・どうせ出世の見込みはないのだから、エリスと別れることもないと思っている。

7.あらすじを一〇〇字以内でまとめさせる。
1)大臣から翻訳の仕事を依頼される。2)相沢は豊太郎の本性を見抜き、3)語学の才能を大臣に示して信用をえることと、4)エリスと別れることを忠告する。豊太郎は、5)友人に対して断りきれず約束してしまう。(90字)


第八段(翻訳は一夜に〜涙満ちたり。)  要約  学習プリント 板書 漫画

1.「学習プリント第八段」を配布する。
2.漢字の読みを確認する。
 09 魯西亜 卒然 咄嗟 直ちに 虚ろ 賜り 費え 10 拉し 囲繞 驕奢 燭 彫鏤 賓主 周旋 11 寝ねつ 生計 族 袂 12 云々 公事 13 寂然 刹那 低徊踟躕 鑼 14 一瞥 襁褓

3.「翻訳は一夜に〜多くは余なりき」を生徒と音読する。
4.語句の意味を確認する。
 ・卒然=突然。
 ・咄嗟=わずかの間。 
 ・うべなふ=承知する。
 ・鉄路=鉄道
 ・舌人=通訳。
 ・拉す=むりに連れて行く。
 ・囲繞=取り囲む。
 ・驕奢=贅沢。
 ・彫鏤=彫ったり散りばめたりしたもの。
 ・賓主=客と主人。
 ・周旋=にはいって取り持つこと。
 ・袂を分かつ=別れる。
 ・順境=物事がつごうよく運び、幸なことなどのない境遇。
 ・逆境=苦労の多い不幸せな境遇。
 ・職分=その職にいてなすべき事がら。
 ・寂然=寂しい様子。
 ・刹那=わずかな間。
 ・低徊踟躕=迷いためらうこと。
 ・一瞥=ちらっと見ること。
 ・あだし名=他人の苗字。

5.舞姫チェック1)〜10)をする。
1)翻訳には3日かかった。(一夜)
2)大臣は次第にトヨの意見を聞いたり冗談を言って笑うようになった。 ○
3)1週間後、突然、大臣はトヨにフランスへの同行を打診した。(一カ月、ロシア)
4)相沢は、豊太郎にその打診を予告していた。(いなかった)
5)トヨは、その打診を予測したので、即座に断った。(予測していなかったが、引き受けた)
6)トヨは信頼している人に突然依頼された場合、あまり考えずに即座にOKを出してしまい、後悔することがよくあった。○
7)エリスは正式に妊娠と診断され、座頭からは休みが長引けばクビにすると宣告された。○
8)エリスは、トヨの愛に疑問を持ち始めていたので、ロシア行きに反対した。(持って いなかった、何とも思っていなかった)
9)トヨはエリスのことを考えて、一人で旅立った。○
10)トヨはロシア語で通訳の役目を忠実に果たした。(フランス語)

6.大臣の対応の変化を考える。
 1)大臣の変化を読み取る。
  ・用事だけ。
  ・豊太郎の意見を問う。
  ・笑い話までする。
 2)笑い話までする意味を考える。
  ・大臣の信用をかなり得ている。
  ・出世について疎い豊太郎は、大臣の様子から信用の度合いを推察できなかった。
7.「21.大臣のロシア同行の依頼を承知する」について
 1)「従ひて来べきか」の「べき」の意味を考える。
  ・表面的には意志であるが、裏には命令の意味が込められている。
 2)大臣の言葉を聞いた豊太郎の気持ちを確認する。
  ・突然の打診に驚いた。
  ・最近相沢にあっていないので、情報も入って来なかった。
 3)「いかで命に従はざらん」の意味を考える。
  ・反語。
  ・どうして命令に従わないことがありましょうか、いやありません。
  ・命令に従うことを強調する。
 4)大臣の命令を承知した豊太郎の気持ちを確認する。
   ・信頼している人の依頼はすぐに引き受ける。
  ・答えの影響をよく考えない。
  ・我慢して実行する。
 5)今まで、「信じて頼む心を生じたる人」とは、誰がいたかを考える。
  ・母、官長、エリス、相沢、大臣。
 6)「答への影響」を考える。
  ・大臣の信用を得て、再び出世の機会ができる。
   ・エリスとしばらく別れて暮らさなければならない。
 7)エリスの気持ちを確認する。
  ・エリスは偽りのない豊太郎の心を厚く信じて送り出す。

8.「この間、余はエリスを〜天方伯の手中にあり」を生徒と音読する。
9.舞姫チェック11)〜27)をする。
11)ロシアでは、トヨはエリスのことをすっかり忘れていた。(忘れることができなかった)[え忘れざりき]
12)エリスの1通目の手紙は、一人で暮らすことの心細さが切々と書いてあった。○
13)エリスの2通目の手紙は、「ディアー、トヨ」で始まっていた。(否)
14)エリスはの力でトヨをドイツにつなぎ止めるつもりだった書いてあった。(愛)
15)母と日本について行きたいが、旅費がないと書いてあった。○
16)ドイツで出世することを期待していると書いてあった。○
17)お腹が大きくなったので、決して捨てないでほしいと書いてあった。○
18)母はエリスの成長を見て、身を引いたと書いてあった。○
19)エリスの旅費は相沢が出してくれるだろうと書いてあった。(大臣)
20)トヨはエリスの1通目の手紙で、初めて自分の地位に気づいた。(2通目)
21)トヨの決断力は、順境で働き、逆境でも働いた。(は働かなかった)
22)トヨは、大臣の信用や自分の出世につながることを計算して、翻訳の仕事を忠実に果たしていた。(いなかった)
23)トヨは自分の地位を知って、冷静だった。(でなかった)
24)相沢は、トヨが大臣の信用を得つつあることを知らなかった。(知っていた)[言葉の端々に「本国に帰りて後もともにかくてあらば」と云々と言ひし]
25)大臣はトヨが女性問題を清算したと思っていた。○
26)トヨは自我の目覚めが偽物であることに気づいた。○
27)トヨの自由を束縛していたのは、昔は官長、今は相沢である。(天方大臣)

10.「22.エリスの手紙を受け取る」について
 1)「忘れざりき」と「日ごとに文を寄せしかばえ忘れざりき」の違いを考える。
  ・忘れざりき=どんなことがあっても忘れなかった。
  ・え忘れざりき=エリスの手紙が来るので、忘れたくても忘れることができなかった。
 2)1通目のエリスの手紙の内容をまとめる。
  ・心細い。
 3)2通目のエリスの手紙の内容をまとめる。
  1)ドイツに留まってほしいと思った根拠を考える。
   ・日本に親戚がいない。
   ・ドイツで生活の手段を得る。
   ・愛でつなぎ止める。
  2)日本に帰る問題点を考える。
   ・親と共についていく。
   ・旅費がない。
   ・どんなことをしても、ドイツで出世してほしい。
  3)お腹が大きくなったので絶対見捨てないでほしい。
  4)私一人でついていく。
   ・母を説得した。
   ・大臣に重用されたら旅費は出してもらえる。
 4)豊太郎は手紙のどの部分で自分の地位を知ったかを読み取る。
  ・「大臣の君に重く用ゐられたまはば」
 5)大臣の信用を得た理由を考える。
  ・豊太郎の語学の才能が認められたから。
  ・エリスと別れる約束を、相沢が大臣に伝えていたから。
 6)豊太郎の気持ちを考える。
  ・自分の仕事が出世に結びつくとは思っていなかった。
  ・出世の可能性を知って冷静でいられなかった。
  ・自我の目覚めが偽物であったことに気づく。
  ★「神も知るらん、絶えて思ひ至らざりき」と書いている。
  ★ただ自分の才能を生かして翻訳の仕事をするのが楽しかった。
  ★相沢が言葉の端々に「本国に帰って後も」とほのめかしていたのにも気づかなかった。
  ★可能性を知って、出世に期待するようになる。
  ★この時初めて、葛藤が始まる。
 7)「屋上の鳥」のたとえを考える。
  ・手に入れようとしても手に入れられないもの。
  ・第七段落では、「はるかなる山」とあった。
 8)「足を縛して放たれし鳥」のたとえを考える。
  1)「放たれし」とはどういうことのたとえかを考える。
   ・自由だと思って行動している。
  2)「足を縛して」いた人を読み取る。
   ・以前=官長
  ・現在=大臣
 9)エリスの気持ちを考える。
  ・豊太郎の出世の可能性に気づいている。
  ・一緒に帰国できると思っている。
  ★しかし、日本社会がそれを許さないことは知らない。考えの甘さ、幼さ。

11.「余が大臣の一行とともに〜涙満ちたり。」を生徒と音読する。
12.舞姫チェック28)〜33をする。
28)トヨがベルリンに帰ったのは大晦日の夜である。(元旦の朝)
29)トヨはエリスと再会するまで、望郷の念と出世欲の方が、愛情より強かった。○
30)トヨはエリスと再会し抱き合っても、望郷の念と出世欲は消えなかった。(消えた)
31)エリスがトヨに喜んで見せたのは、よだれかけだった。(おむつ)
32エリスはトヨにお腹の子の認知を迫った。○[よもあだし名をば名のらせたまはじ]
33エリスは子どもが教会で洗礼を受けることが悲しくて泣いていた。(うれしく)

13.「23.ベルリンに帰りエリスと再会する」について
 1)豊太郎の気持ちをまとめる。
  ・再会するまでは、帰国や出世の気持ちが圧倒していた。
  ・再会した瞬間、エリスへの愛が強くなる。
  ・目の前の状況に左右される。
  ・優柔不断。
 2)エリスの気持ちをまとめる。
   ・豊太郎の子を産む幸せに浸っている。
  ・再び、子どもの認知により豊太郎をつなぎ止めようとしている。
 3)エリスに認知を迫られた豊太郎の気持ちを考える。
  ・エリスと別れるはずがないと、愛を確信している。
  ・エリスの愛を負担に感じている。

14.映画のビデオを見せる。
 1)2人組になり、原作と映画の違いを1分ずつ話させる。
 2)全体で、出た違いを発表させ、板書する。
 3)さらに、1分ずつ感想を語り合わせる。

15.漫画とハーレクインスロマンス風舞姫を配布する。
16.あらすじを80字以内でまとめる。
1)信頼する大臣の依頼を断りきれず、2)ロシアに同行する。3)エリスの手紙で4)再び出世の可能性があることに気づく。5)ベルリンでエリスと再会し、6)エリスへの愛情が強くなる。(76字)


第九段(二、三日の間は大臣をも〜そのまま地に倒れぬ。)  要約  学習プリント 板書 漫画

1.「学習プリント第八段」を配布し、宿題にする。
2.読みを確認する。
 14 待遇 滞留 15 特操 承り 叱せられ 傍ら 瓦斯灯 16 鷺 庖厨 蒼然
3.語句の意味を確認する。
 滞留=旅先などで長くとどまること。
 特操=終始一貫して変わらない自分の志。
 黒がねの額=恥知らずで厚かましいこと。鉄面皮。
 蒼然=色が黒ずんで青々としているようす

4.生徒と音読する。
5.舞姫チェックする。
1)トヨは、一週間後の昼過ぎ、大臣を見舞いに訪れた。(二、三日後の夕方、招待された)
2)大臣の待遇は、素っ気なかった。(厚かった)
3)大臣は、一緒に帰国するように半ば強制的に伝えた。○
4)その理由は、トヨの法学を評価したからである。(語学)
5)もう一つの理由は、トヨがエリスと別れたと、相沢から報告を受けたからである。○
6)トヨは、相沢との約束は嘘だったと言った。(言えなかった)
7)断れば、帰国や名誉回復のチャンスは二度とないと思った。○
8)トヨは、一週間の猶予をもらった。(すぐに承諾した)
9)トヨは、帰って、エリスに帰国することをキッバリと伝えようと決意した。(何と言 おうか迷った)
10)トヨは、すぐに家に帰った。(街をさまよった)
11)トヨは、古い教会の近くのベンチに長時間座り込んでいた。(動物園)
12)二十二時三十分頃に再び歩き始め、〇時三十分頃にブランデンブルグ門に到着した。 (十一時過ぎ、クロステル巷)
13)空には、一月上旬だったので上弦の月が出ていた。(雪が降っていた)
14)辺りは人の出入りがなくひっそりしていた。(多く賑わっていた)
15)トヨの頭の中はエリスへの罪悪感でいっぱいだった。○
16)トヨが家にたどりついた時、エリスはすでに寝ていた。(まだ起きていた)
17)トヨの顔色は青白く死人のようで、髪は乱れ、服は汚れ破れていた。○
18)トヨは家に帰るとすぐに、帰国を承知したことをエリスに伝えた。(倒れた)

6.「24.大臣から一緒に帰国するように言われ、承知する」について
 1)大臣が帰国を勧めた理由を考える。
  ・豊太郎の語学の才能を認めた。
  ・豊太郎がエリスと別れたと、相沢から報告を受けていた。
  ・エリスと別れることが帰国の条件であった。
 2)豊太郎が承知した理由を考える。
   ・相沢の信用を傷つけられない。
   ・この機会を逃せば、帰国も出世もできない。
 3)エリスと別れていないことを言えば、相沢はどうなるか考える。
  ・相沢が嘘を言っていたことになれば、相沢の信用がなくなる。
  ・相沢が嘘をついていないとすれば、人を見る目がないことになり、やはり信用がなくなる。
 4)エリスと別れると約束した時や、ロシア行きを承諾した時との違いを考える。
  ・エリスと別れる時は、友だちの言うことに否と言えない。
  ・ロシア行きの時は、信用している人の依頼を断われない。
  ・帰国の承諾は、帰国や出世がしたいから。
  ・確信的な意志。
7.「25.エリスを裏切った罪悪感に苦しむ」について
8.「26.帰宅と同時に倒れる」について
 1)Q6豊太郎が倒れなかったらどうしたか?
  1)4人組になって話し合わせる。
  2)発表させる。
   a)正直に話す場合を考える。
    ・エリスに激しく非難される。
    ・優柔不断な豊太郎は、目の前の人には嫌だとは言えない。
    ・帰国をあきらめるかもしれない。
    ・しかし、大臣や相沢にも、残留することを伝えられない。
   b)黙って帰国する場合を考える。
    ・豊太郎は根が正直なので隠しきれない。
    ・勘の鋭いエリスは必ず気づく。
   c)残留する場合を考える。
    ・大臣や相沢に伝えられない。
    ・残留を隠しきれない。
    ・帰国や出世のチャンスは二度とない。
    ・相沢の信用を傷つける。
    ・豊太郎は必ず後悔する。
   ★どの場合も行き詰まることに気づかせる。
 2)どんな意味があるのか考える。          
  ・一時的にしろ、エリスに帰国を説明しなくてすむ。
 3)これ以外にないと言う結果であることを確認する。
  ・問題の先延ばし。

9.漫画とハーレクインスロマンス風舞姫を配布する。
10.あらすじを70字以内でまとめる。
1)大臣から帰国を命じられ、2)相沢の信用と3)自分の帰国や出世のために4)承諾する。しかし、5)エリスへの罪悪感から街をさまよい、6)帰宅と同時に倒れる。(66字)


第十段(人事を知るほどに〜おわり)  要約  学習プリント 板書 漫画

1.「学習プリント第十段」を配布し、宿題にする。
2.読みを確認する。
 17 譫言 懇ろ 顛末 繕ひ 一諾 躍り上がり 欺き 18 治癒 癲狂院 欷歔 癒え 屍 脳裡
3.語句の意味を確認する。
 ・人事=意識。
 ・顛末=事がらのはじめから終わりまでの事情。いきさつ。一部始終。
 ・つばら=くわしいこと。
 ・諾=承諾。

4.生徒と音読する。
5.舞姫チェックをさせる。
1)トヨは、数日間意識不明だった。(数週間)
2)看病していたのは、エリスの母だった。(エリス)
3)その間に、大臣見舞いに来た。(相沢・様子を見に)
4)「余が彼に隠したる顛末」とは、意識不明になっていたことである。(エリスと別れていないこと)
5)相沢は大臣に、病気のことと、トヨがエリスと別れていないことを報告した。(だけ を)
6)トヨの意識が回復した時、エリスは丸々と太り、精神的に死んでいた。(やせ細り)
7)「余が相沢に与へし約束」とは、エリスを相沢に譲るという約束である。(エリスと 別れる)
8)「かの夕べ大臣に聞こえ上げし一諾」とは、ロシア同行を承知したことである。(帰 国を承諾したこと)
9)エリスは相沢から真実を聞き、初めてだまされたことに気づいて叫び、寝ている豊太 郎につかみかかった。(倒れた)
10)目を覚ましたエリスは暴れ回ったが、よだれかけを与えると、涙を流して泣いた。(おむつ)
11)「過激なる心労」とは、流産したことである。(豊太郎に騙されたこと)
12)エリスの病気は一種の精神病で、回復の見込みはなかった。○
13)エリスは、ダルドルフの精神病院に入院した。(しなかった)
14)エリスは、時々「シャブをくれ、シャブをくれ」と言った。(豊太郎に薬をあげなくては)
15)病気から回復したトヨは、エリスを抱いて何度も涙を流した。○
16)トヨは、エリスの母に慰謝料を渡して帰国した。(生活費)
17)トヨは大臣を恨んでいる。(相沢)
18)この時、トヨは二十九才である。(二十七才)[22歳で留学して5年間]

6.「27.相沢が来る」
 1)なぜ来たのか。
  ・ホテルに来ないので様子を見に来た。
  ・見舞いではない。
 2)相沢はまず何に気づき、どう思うかを考える。
  ・豊太郎がエリスと別れていないことに気づく。
  ・驚く。
  ・約束を破った豊太郎を恨む。
  ・自分の詰めの甘さを後悔する。
  ・保身のために、どう対処するかを考える。
 3)相沢の取った行動をまとめる。
  ・エリスに真実を伝える。
  ・大臣には病気のことだけを報告する。
 4)相沢自身がエリスに真実を伝えた理由を考える。
  ・今からでもエリスと別れさせねばならない。
  ・豊太郎の弱き心から考えると、豊太郎の口から真実を伝えるのは難しい。
  ・エリスがどう思うか、どうなるかは考えていない。
7.「28.エリスが発狂する」について
 1)相沢から真実を聞かされた時の気持ちを考える。
  ・豊太郎のことを厚く信じていたのに、裏切られた。
  ・発狂するぐらいの激しいショック。
 2)発狂後の様子をまとめる。
  ・赤ん坊のことを忘れられない。
  ・まだ、豊太郎は意識不明だと思っている。
  ・真実を知る前の状態で時間が止まっている。
 3)豊太郎の行動と気持ちを考える。
  ・エリスを抱いて涙を流す。
  ・エリスを愛している。
  ・エリスに謝罪している。
8.「29.エリスを残して帰国する」について
 1)豊太郎のエリスに対する気持ちを考える。
  ・罪悪感。
  ・少し安心している。
   ・発狂したのだから強引に引き止められなくてすむ。
 2)豊太郎の相沢に対する気持ちを考える。
  ・相沢を憎む心が今日まで残っている。
  ・これが「人知らぬ恨み」である。
のもかかわらず、責任転嫁である。

9.Q7究極の選択として、エリスにとって、発狂(赤ん坊は無事)と流産(正気のまま)ではどちらがよかったか?豊太郎にとってはどうか?
 1)エリスにとって
  a)発狂 ○嫌なことを忘れられる。
      ×一生台無しになる。
      ×子どもがどうなるか不安。
  b)流産 ○人生をやり直せる。
      ×豊太郎への恨みは一生残る。
 2)豊太郎にとって
  a)発狂 ○責められることなく帰国できる。
      ○最後までエリスを抱きしめられる。
      ○エリスの中にいい思いでだけが残る。
      ×道義的な憐憫の情が残る。
  b)流産 ○入院している間に帰国できる。
      ×エリスの恨みが残る。

9.漫画とハーレクインスロマンス風舞姫を配布する。
10.あらすじを60字以内でまとめる。
1)相沢がエリスに真実を伝え、2)エリスが発狂する。3)豊太郎はエリスを残して帰国するが、4)相沢を憎む心が今日までも残っている。(57字)


まとめ

1.「出世と愛情のバロメーター」を考える。
 1)配布する。
 2)ここまでの場面ごとの、出世と愛情の度合い、人間関係を整理する。
 3)出世と愛情の度合いを10満点で配分し、その場に直接登場する人物に○、間接的に登場する人物に△、無関係になった人物に×をつける。

出世 愛情 官長 相沢 エリス トヨ
II 生い立ちと留学 10  ○  ○  −  −  ○ 
III 自我の目覚め 5  ?  ○  ○  −  −  ○ 
IV エリスとの出会い 3  7  −  ○  ○ 
免官と母の死とエリスとの生活 0  10  ×  ×  −  ○  ○ 
VI エリスの妊娠と相沢の手紙 2  8  △  ○  ○ 
VII 大臣との面会と相沢との約束 3  7  ○  ○ 
VIII ロシア行きの承諾 3  7  ○  ○ 
ロシア行き 10  0  ○  △  ○ 
エリスとの再会 0  10  ○  ○ 
IX 帰国の承諾 10  0  ○  ○ 
エリスへの罪悪感 8  2  ○ 
相沢が来る −  −  ○  ○ 
エリスの発狂と帰国 9  1  ○  ×  ○ 

 4)わかったことをまとめる。
  ・出世が強くなるのは、ロシア行きから。
  ・エリスとの愛情に一瞬風が吹くのはエリスとの再会である。
  ・目の前の人物に影響を受ける。
  ・絶えず、豊太郎はエリスか相沢か、一対一の関係にいる。
 5)豊太郎とエリスと相沢が顔を揃える可能性のある場面を考える。
  ・Xで相沢が家に来る場面で、豊太郎が目覚める。
 6)その時、豊太郎はどうするか考える。
  ・エリスには、別れる約束や帰国の承諾などを自分で話さなければならない。
  ・出世を選べば、エリスは激怒する。
  ・恋愛を選べば、相沢の地位まで危うくなる。
             帰国や出世ができなくなる。
             父や母の遺志を実現できなくなる。
2.「舞姫」と現実の異同を考える。
 1)「森鴎外の真実」を配布する。
 2)音読する。
 3)「舞姫」と真実の異同を考える。
  ・エリスが実在した。
  ・エリスは発狂しておらず、来日した。
  ・エリスとは深い関係ではなく、妊娠もしていない。
  ・父も母も健在で、母は森家の中心的存在である。
  ・一人っ子でなく、妹がいる。
 4)「太田豊太郎と森鴎外」を配布する。
 5)「太田豊太郎」の年齢と出来事を記入する。
 6)年号を記入する。
  1)エリスの妊娠が明治21年、その年に相沢の手紙があり、1カ月後ロシア行きがあり、伯林には元旦の朝に帰ったのだから、帰国は翌年の22年になる。
  2)5年間留学していたのだから留学したのは17年になる。
  3)そこから3年前の14年に大学卒業、3年後の20年に自我の目覚め。
 7)鴎外の経歴を説明する。

文久 二



一四
一七

二一




12
19
22

26
鴎外誕生。
4人兄弟の長男。[一人っ子](男3人女1人。長男として一家の期待を背負っている点は同じ)
母峰子17歳。[30歳前後]
父も健在
東京医学校(東大医学部)入学。[法学部](入学は普通は14〜19歳。生年月日を詐称した)
28人中8番で卒業。[首席](卒業直前に下宿が火事になりノートが消失したり、肋膜炎になった。外科担当のドイツ人教師の講義を漢文で筆記していたので睨まれていた。文部省からの官費留学を希望したが、卒業成績が2位以内でないと資格がなかった)
陸軍省に就職。[某省に就職](父の縁故で軍医として就職。自分の意志ではなかった。映画では陸軍軍医だった)
軍医として留学。[この時、母は50過ぎ](母は39歳。自分と家の名誉のためであることは同じ)
(母は健在)
(「独逸日記」によると留学生仲間とはうまくやる。エリスも出てこな い)
鴎外帰国。[27歳で帰国](「舞姫」より一年はやい)

 8)帰国後の鴎外のプロフィールを説明する。

二一




二二
二三

三五









大正一一
26





27
28
40









61
9.7
9.2

10.7
11.7

3.6

1
9.13
10.4
11.27






9.7
鴎外帰国。
エリス来日。(鴎外は、エリスが自分の後を追って船に乗ったことを同船の上官石黒に報告している)
母を中心にエリスを説得する
エリス帰国。帰国を見送った後、石黒に報告している。陸軍でも問題になっていた)
海軍中将赤松氏の長女登志子と婚約。(婚約は帰国前から決まっていた。)
執筆活動再開。
登志子と結婚。(母峰子の計画通り。養子ではないが赤松家の持家に移る。赤松家の老女、女中、鴎外の弟二人、妻の妹と同居。赤松家主 導の生活。弟の魚が小さいと言って叱ったり、文学仲間と徹夜で討論したりして鬱憤を晴らす)
「舞姫」を『国民之友』に発表。
長男於莵(オットー)誕生。
家出。
離婚。(性格の不一致。家柄の違い。美人でない。母も登志子を気にいっていなかったという説もある)
判事荒木氏の長女志げ(22)と再婚。(「美術品ラシキ妻」という程の美人)
長女茉莉(マリ)
次男不律(フリッツ)
次女杏奴(アンヌ)
三男類(ルイ)
死去。(鴎外は遺書に、「墓ハ森林太郎墓ノ外一字モホル可ラ ス」と書き、没年の「大正」と刻むことを拒否した。それは、 「正」が「一而止」という不吉な年号であるにもかかわらず制定した日本政府への絶望の表れである。自分の子に欧風の名をつけたのも同じかもしれない。そして、「舞姫」の執筆動機も同じかもしれない)

 9)補足説明をする。
  ・鴎外自身と、埼玉県秩父郡太田村出身の武嶋務(日本人で二人目の私費留学軍医)で、豊太郎と同じような経緯で同郷の谷口謙の中傷で免職となり、ベルリンに留まってドクトルをとるために頑張った。
3.『舞姫』の問題点を考える。
 1)「舞姫」と現実の違いから、問題点を挙げる。
  a)なぜ、エリスを妊娠させ発狂させ捨てたことにしたのか?
  b)なぜ、相沢を恨んでいるのか?
  c)なぜ、母が死んだことにしたのか?
  d)なぜ、「舞姫」を公表したのか?
 2)なぜ、エリスを妊娠させ発狂させ捨てたことにしたのか?
  ・本当はエリスを愛していたので、引き裂かれた悲劇を強調するため。
  ×妹の小金井喜美子は、「路頭の花」で普通の関係だとしている。
  ○次女の小堀杏奴は『晩年の父』の中で、「此の女とは長い間文通だけは絶えずにゐて、父は女の写真と手紙を全部一纏めにして死ぬ前自分の眼前で母に焼却させたと言ふ」と書いている。
  ○長男の於莵は『父親としての森鴎外』の中で、「一生を通じて女性に対して恬淡に見えた父が胸中忘れかねていたのはこの人ではなかったか。私ははからず父から聞いた二、三の片言隻語から推察することが出来る」と書いている。
 3)なぜ、相沢を恨んでいるのか?
  ・相沢のモデル賀古鶴所への恨み。
  ×賀古鶴所は発表前に読んで、相沢に満足している。
  ・相沢に代表される、愛するエリスとの仲を引き裂き、発狂させ、出世させようとする国家官僚主義への批判。
 4)なぜ、母が死んだことにしたのか?
  ・政略結婚を仕組んだ母に代表される家族エゴへの批判。
  ・母への恨み。
  ×「舞姫」で母が死んだという設定にすれば、母の力が弱くなる。
  ×母も登志子との離婚に賛成している。
  ×母も「舞姫」を発表前の朗読会で、長男の危機脱出、無事を心から喜び、涙を流している。
 5)なぜ、「舞姫」を公表したのか?
  ・エリス事件が陸軍省に知れ渡り、鴎外の立場が苦しくなるのを心配した賀古が、山県に事情を打ち明けて、陸軍内部の批判を抑えるために敢えて書いた。
  ・エリスとは妊娠させた関係であることにはしながらも、発狂し、日本に来ていないことにする。

4.「舞姫悪者さがし」をする。
 1)7人をベースにしたグループを作る。
  ・豊太郎、エリス、相沢、大臣、豊太郎の母、エリスの母、留学生仲間の弁護役を決める。
 2)7人の登場人物を悪い順に順位をつけ、その理由を話し合う。
 3)全体で発表する。



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