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「ホビットの冒険」

出版業界でも'まさかの'大ヒット、今をときめく「指輪物語」に
つながってゆく、「ホビットの冒険」。
主人公は、お山の穴ぐらに独り安穏に暮らしている
ホビット族のビルボ・バギンズ君(50歳以上なのに、ついそう呼んでしまう)、
「指輪物語」の主人公フロドのおじさんにあたる。

ホビットというのは、ドワーフよりも小さくて、
すばしっこく、お客好きで、頭と足の裏には茶色の濃い毛が
生えていて、笑顔がすてきな小人なのだそうだ。
おなかもちょっぴり出ている(映画のフロド君とはだいぶ違うが、
そこはそれ?)。
私のイメージ的には、手がはやくて笑顔の素敵なハープの名手、
マルクス兄弟のハーポである。
そのせいか、親近感がわいてくる。

人間以外の人たちにもいろんな種族がいて、
性悪のゴブリンや、宝物に目がないドワーフ、
夢と歌の世界に生きる妖精エルフ、巨人のトロルなど、
神話から脱け出たような彼らに、この世界ではぞんぶんに会える。

ある日、ひょんなことから、強引に旅へ誘われるビルボ。
旅の仲間は、13人のドワーフと、魔法使いガンダルフ。
すべて(といっても家族はいないのだが)を捨てて、
深く考える余裕も与えられず、一歩を踏み出してしまったビルボ。
霧ふり連山を越え、やみの森を抜けて、いざ。
おそろしい竜のスマウグに奪われた、いにしえのドワーフ族の宝探し。
ビルボが何の役に立つのか、本人はもとより、誰も最初はわからない。
その血にいくらか流れている妖精小人の魂が、
冒険への衝動に突き動かされたのだ、と作者は言う。

さて、予想どおり、旅は長く、つらいものとなる。
恋愛がらみの要素はみごとにまったくない。
旅の皆がひもじいと読む方もつらくて、つい、
台所へ食べものを探しに行ったりする(笑)。
難路に次ぐ難路、待ち受けるは死と裏切りの罠。
しかもビルボは、たったひとりなのだ。
というのも、ひげのドワーフ族は13人で結託しており、
ガンダルフは随所で頼れる人ではあるが、
なんといっても孤高の魔法使いである。いなくなるときもある。
そんななかで、忍びの者とか、あてにならないとか、盗人とか呼ばれながら、
気づくといつも、たったひとりで、
暗闇のなかに取り残されるビルボ・バギンズ!

旅はいつか終わるのか?
ビルボが折に触れてなつかしむ、あのお山のわが家に
再び、まどろむ日は来るのだろうか?
おいしいものが大好きで、平和に暮らしていたあの頃に?
すべてを犠牲にしてまで、
身を投じたこの旅には、それをあがなう宝があるのだろうか?

この分厚い本を読み進むにつれて、
ビルボは、あなたの期待を超えてゆくだろう。
ガンダルフでさえ、予想しなかったほどに。

そういえば、ずっと気になっていた某会社の名前に、
「ビルボ」というのがあって、もしかすると、あれは
ビルボ・バギンズ君の名前をいただいたのではと、納得している。
苦難を経て成長するというような意味合いを
持たせたのかもしれない。

なお、新訳も出ているが、あえて、ナルニアや指輪物語を訳された
瀬田貞二さんの訳で読んだ。あと書きの最後はとてもほほえましい。

『地図は、トールキン教授の描いたものを、
寺島さんにトレースしてもらいました。
月光文字は、はぶかせていただきました。』
-「訳者のことば」より-



「ホビットの冒険」 著者:J・R・R・トールキン / 訳:瀬田貞二 /
絵:寺島竜一 / 出版社:岩波書店(1983年改版)
(or 岩波少年文庫・上下巻)

マーズ , 2002/03/27(Wednesday)  



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