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☆ニーベルングの指輪物語

「持主に力と同時に破滅をもたらす指輪」といえば
「指輪物語」の「ひとつの指輪」と言う人より
ワーグナーのオペラ「ニーベルングの指輪」と
答える人のほうが映画以前は多かったでしょうね。

そういえば「ニーベルングの指輪」の名前は
聞いた事あるけど曲は聞いた事がないという方。
ほら、大音量のクラッシック音楽にのってヘリコプターが
ベトナムの戦場を飛ぶ、映画「地獄の黙示録」で有名になった
「ワルキューレの騎行」、あれがその中のひとつです。

上演に四日、総演奏時間が15時間にも及ぶ重くて長い楽劇ですが、
私はときどき徹夜作業の時などにビデオで通して流しています。
なんだかどんどん脳が危険な領域に近付いていくような
高揚感と陶酔感が生まれます。(←近寄らない様に)

では、こちらも長い「ニーベルングの指輪」の物語の中から
「指輪物語」と関連のある部分を。

醜い小人ニーベルング族のアルベリッヒが
ライン川の乙女達から奪い取った黄金で力の指輪を作る。
神々の王ヴォータンがその指輪をだまし取ったため、
アルベリッヒが指輪に呪をかける:「序夜・ラインの黄金」

天駆ける戦場乙女ワルキューレの一人が
父神のいいつけに背いたため罰として眠りに入る:「第一夜・ワルキューレ」

若い英雄ジークフリートが折れた剣を鍛え直し、
森の洞窟で宝を守る大蛇(ヴォータンに指輪を
報酬として貰った巨人の変身した姿)を倒して
姿を変える兜と指輪を手に入れる:「第二夜・ジークフリート」

指輪を欲する人間の策略にかかって英雄は暗殺され、
衰退の様相を現していた神々の世界は燃え盛る炎の中に滅び、
指輪はラインの水底に還される:「第三夜・神々の黄昏」

ごらんの通り。「指輪物語」の「ひとつの指輪」は
北欧神話の神々と名高い英雄ジークフリートを
ワーグナー作品の中で殺し、世界を滅ぼした
「呪いの指輪」の生まれ変わりです。

最終夜「神々の黄昏」の最後、
地上と天上の世界の終焉の中で、死せる英雄の指から抜き取られ
ラインの乙女のもとに返され黄金に戻ったはずの指輪は、
長い歳月の後に冥王サウロンの手によって指輪に鋳直され
再び世界を危機に陥れるのかもしれません。

なんと恐ろしい宝でしょう。
ニーベルングの指輪をめぐって、
巨人は欲に凝り固まって仲間を殺し洞窟に隠れた、
その力を知る妖精達は持つ事を恐れる。
人間は身の程知らずにも指輪が欲しくてたまらない、
神々ですら指輪の呪いに蝕まれ滅びてしまった。
指輪の価値も恐ろしさも知らない屈託のない英雄だけは
無事であるかのように見えたけれど、やがて。
全ての者を陥れる指輪にまたもや世界は滅ぼされるのでしょうか。

そうはさせない。
人間よりも心の清く、人間よりも力を望まない、
質朴で勇敢な小さな人が、初めて歴史に登場してきたのです。
今度こそ世界を救うために。

ナルシア , 2002/04/25(Thursday)  



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