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         手塚のお気に入りのカフェは、昨今全国展開しているチェーン店とは違ってこじんまりとした造りで、座席数もメニューの数も少ないが客も少ないのでのんびり過ごすことが出来た。 
その店で他愛無い会話を交わし、会話が途切れそうになった所で、リョーマの方から店を出ることを提案した。 
(なんてことない話だったけど、もう充分) 
今までの手塚との会話の内容はどこか事務的で、時には殺伐としたものだったのに比べて、この店での会話は、学校の食堂に5月から新メニューが出るとか、三
年を担当している数学の教師はたまに数式を間違えるとか、そんな、ごく普通の生徒がするような話を、手塚の方からしてくれた。 
このひと時だけは、エージェントとしてのランクの差も、歳の差もほとんどない、同じ学生同士でいられた。 
本当はもっともっとそんな普通の話がしたいリョーマだったが、明日からの会話がまた事務的なものに戻ると考えると、これ以上長く、この幸せな時間を味わってしまうのが怖い気がした。 
「あ」 
先に店を出ようとしたリョーマは、だがすぐに足を止め、空を見上げた。 
「どうした?」 
空を見上げて突っ立っているリョーマの背中を手塚が不審そうな目で見つめる。 
「………降って来ちゃった」 
リョーマの呟きに、手塚も空を見上げて小さく眉を寄せた。 
まだ大降りではないが、空からはポツポツと大きな雨粒が途切れることなく落ちて来る。 
「……傘、持っているか?」 
「持ってないっス」 
「だろうな。俺もだ」 
溜息を吐きながら手塚が言うのを聞いて、リョーマはギクリと顔を強ばらせた。 
「ぁ……その……ごめん、部長」 
「え?」 
「天気予報でも昼くらいから雨が降るって言ってたのに…カサも持たずに……連れ出しちゃって…」 
「………」 
手塚はもう一度溜息を吐いて前髪を掻き上げてから少しだけ考え込み、そうしてリョーマに視線を向けた。 
「……戻るか」 
「え?」 
「お前の家」 
「ぁ、はぁ…いいっスよ」 
「……着いたら傘を貸してくれ。俺の家はバス停からかなり歩くんだ」 
「あー……なるほど」 
リョーマはコクコク頷いてから手塚を見上げてニッコリ笑った。 
「でもオレの家に行くまでもちょっと濡れるけど、いいんスか?」 
「これくらいの小降りなら問題ない」 
「了解っス」 
リョーマはまた頷き、店を出てから駅までどう行けばあまり濡れずにすむかをシミュレーションし始めた。 
「少し遠回りだけど、向こうのアーケードの方から駅に向かいます?そうすれば、暫く屋根があるから濡れないで駅に行けるっス」 
「あぁ……そうだな」 
手塚はチラリと空を見遣ってから頷き、そうしていきなりリョーマの手を取った。 
「行くぞ」 
「え」 
リョーマの返事をほとんど聞かずに、手塚が走り始める。 
「わ、ちょっ、ぶちょ…、手っ!」 
「………」 
頬を真っ赤にして叫ぶリョーマを完全に無視して、手塚はアーケードまで一気に走った。 
「………」 
「………」 
屋根のある場所まで辿り着いた二人は、軽く息を弾ませて見つめ合った。 
二人の手は、まだ繋がれたままだ。 
「なんで……部長……」 
「……今は恋人同士なんだろう?」 
「……」 
自分から言い出したことではあるが、今になってリョーマは、自分がとても大胆な「ご褒美」をねだってしまった気がしてきた。 
どう言えばいいか、どうすれば本心を気取られずにすむか、リョーマは困惑し、だが繋がれた手の感触の嬉しさに頬を染めて俯く。 
「……俺と手を繋いで歩きたいと言ったのもお前だ」 
「え…」 
リョーマは驚いて手塚を見上げた。 
(一昨日言ったこと、覚えていてくれたんだ……) 
「部長……」 
「俺は約束は守る主義なんだ」 
「ぁ……」 
真っ赤な頬をさらに紅く染めて瞳を揺らすリョーマから視線を外し、手塚は、リョーマの手を握り締めたままスタスタと歩き出す。 
(どうしよう……) 
自分の手を引いて歩く手塚の背中を、リョーマはじっと見つめる。 
(どうしよう、オレ……) 
あまりに頬が熱くて、視界が揺らぐ。 
(アンタのこと、こんなに好きになっちゃって……どうしよう……) 
ギュッと、手塚の手を握ると、手塚がリョーマを振り返った。 
「…どうした?」 
「ぁ……あの、……もう少し、ゆっくり、歩いて……」 
「………わかった」 
手塚は頷き、歩くペースを落としてリョーマと並んだ。 
「このくらいでいいか?」 
「うん…」 
「………」 
俯いて頷くリョーマを暫し見つめ、手塚は徐にリョーマの手を離し、そうして指を絡めるようにして繋ぎ直した。 
「え、わ、こ、これ、こ……恋人繋ぎ、みたい……」 
「みたい、じゃない。俺はお前の恋人なんだろう?」 
「う……」 
しっかりと握り込まれ、リョーマはまた俯いた。 
(部長って、コーユー人だっけ?) 
動揺してグルグルと混乱する思考の中で、リョーマは冷静になろうと必死に試みる。 
だが、それはまったくの無駄な抵抗というものだった。 
アーケードを抜け、駅に入り、電車に乗っても手塚はリョーマの手を離さなかった。 
リョーマの思考回路は完全に停止し、ただただ、手塚への甘い想いだけで胸の中が満たされた。 
「これくらいの雨なら走らなくてもそれほど濡れないな」 
空を見上げて言う手塚を、リョーマはうっとりと見つめる。 
「……越前?」 
「ぇ……ぁ……え?な、何スか?」 
「………ここからお前の家まで走らなくてもいいかと訊いたんだ」 
「ぁ、ああ、はい、いいっスよ」 
いつの間にか電車を降り、バスに乗って、降りて、そうして自分の家の近くのバス停に立っていることにリョーマはやっと気がついた。 
手塚に見とれていた自分が恥ずかしくてリョーマが慌ててコクコク何度も頷くと、手塚は小さく溜息を吐いてからゆっくり歩き出す。 
「……家族が帰るのは夜遅いのか?」 
「たぶん親父は明日の夜まで帰って来ないっス。母さんは夕飯の時間くらいまでには戻るって言ってましたけど…いつもそう言ってだいたい八時くらいになるかな…」 
「そうか」 
なんでそんなことを訊くのか、と問いかけそうになってリョーマは口を噤んだ。 
(いくらオレの家族だからって、仕事の話は聞かせるわけにはいかないもんな) 
先程は「青学校歌の謎解き」の途中で出かけてしまったから、きっとその続きを話すのだろうとリョーマは思う。そうでなければ、わざわざ、もう一度自分の家に手塚が来るなどと言うはずがない。 
(カサだって、どっかで安いヤツ買えばすむのに…) 
しっかりと手塚に握られたままの自分の手をチラリと見遣り、リョーマはまた頬を染める。 
嬉しさと、恥ずかしさと、そして幸せすぎて感じる切なさが同居したこの想いが、小さな溜息となってリョーマの唇から零れた。 
「…溜息を吐くと幸せが逃げるんじゃなかったのか?」 
「え……あー……オレのは、幸せ過ぎて、口から幸せが零れちゃっただけっス」 
「逃げるのと零れるのはどう違うんだ?」 
「全然違うっしょ。オレのは、胸の中が幸せでいっぱいになっちゃってるから、溢れちゃったんスよ。捕まえておいたのが逃げちゃったわけじゃないっス」 
「なるほど」 
手塚がクッと笑うのを見て、リョーマもクスクスと笑った。 
「今、お前の胸の中は幸せでいっぱいなのか?」 
「うん。もうギュウギュウ。幸せしかないって感じっスよ、……今はね」 
自分で言っておいて、リョーマは小さく苦笑した。 
(「今は」ね……) 
明日からは、また手塚の冷たい視線に胸が痛くなる日々に戻るのだろう。それを思い出してしまうと、胸の奥が、音を立てずに、静かに軋み始める。 
「…幸せとは、どんなものなんだ」 
「え?」 
ふいの問いかけに、リョーマは目を見開いた。 
「俺は、今のお前のように、溢れるほどの幸せを感じたことなど一度もない。幸せだと、自覚したこともない。どんな感覚を、幸せと呼ぶんだ?」 
「………うーん…」 
リョーマは少し考え込み、そうして、手塚と繋がっている自分の手を見て、ふわりと微笑んだ。 
「幸せって、人それぞれだから『何が』って訊かれると困るけど、幸せを目一杯感じちゃってる時に、どんなふうになるのかは、わかるっス」 
「……どうなるんだ?」 
手塚が珍しく興味深げにリョーマをじっと見つめて来る。 
その瞳を真っ直ぐに見つめ返し、リョーマは柔らかく微笑みながら言った。 
「全部がキラキラするんスよ」 
「……キラキラ?」 
「うん」 
リョーマは雨雲で覆われた空を見上げ、そっと目を閉じた。顔に当たる雨粒が、少し心地いい。 
「自分の目に映るもの全部がキラキラするんス。……それだけじゃなくて、聞こえてくる音も、食べ物の味も、風だってキラキラするし」 
リョーマをじっと見つめながら話を聞いていた手塚が、濡れた前髪を掻き上げて溜息を吐いた。 
「…よくわからんな」 
「とにかく、世界中がキラキラしてるように感じるんスよ」 
「………今もそうなのか?」 
「え?」 
リョーマが目を開けると、手塚の透明な瞳に見つめられていた。 
「お前の見るものや感じるものすべてが、今は、キラキラしているのか?」 
「……」 
少しだけ迷って、リョーマは素直に頷いた。 
「今は、全部……キラキラっス」 
「………」 
「アンタがオレのパートナーだっていうだけで、もうずっと、オレの世界はキラキラっスよ」 
「………」 
リョーマの言葉に手塚は一瞬小さく目を見開き、そして、すぐに眉を顰めて視線を逸らした。 
「……それは幻想だろう」 
「え…」 
「………」 
そのまま手塚は黙り込み、リョーマも何も話しかけることが出来ず、二人はただ歩いた。 
         
         
         
 
         
雨が強くなり始め、それぞれの髪がぐっしょりと濡れてしまった頃に、漸く二人はリョーマの家に辿り着いた。 
「部長、先にシャワー使ってください。着替えは親父のでいいっスか?」 
「ああ…」 
家に入るなりリョーマは手塚を浴室まで連れて行って先にシャワーで身体を温めるように言い、自分は客用のバスタオルや、洗い立ての父のTシャツをタンスから引っ張り出してきて脱衣所へと運んだ。 
「あ」 
脱衣所には手塚の脱いだ服が、簡単に畳まれた状態で置いてあった。 
「…部長、濡れた服はハンガーに吊るしておくっスよー」 
シャワーの音のする浴室に向かって大きな声でリョーマがそう言うと、中から「すまない」という返事が返って来た。 
濡れてしまったのはシャツだけで、下に穿いていたジーンズや下着はさほど濡れてはいなかったのでそのままにした。 
手塚の服に触れるだけでドキドキと胸を高鳴らせている自分に、リョーマは深く溜息を吐く。 
「これじゃヘンタイみたいじゃん」 
ブツブツと呟き、シャワーの音が聞こえてくる背後を振り返る。 
「………っ」 
思わずゴクッと喉が鳴ってしまった。 
この扉の向こうに、何も身につけていない手塚がいるのかと思うと、心臓が壊れそうなほどドキドキしてきた。 
(……やっぱオレ、ソーユー意味で、部長が好き、なんだよな…) 
妙に冷静に自分を分析し、深い溜息を吐いて脱衣所を出ようとしたその時、いきなり浴室のドアが開いた。 
「わっ」 
「あぁ、やはりまだいたか。お前も入れ」 
「はぁっ!?」 
「スポーツ選手が身体を冷やすな。小さな油断が、あとで大きなダメージに繋がることもあるんだぞ」 
「え…でも…っ」 
濡れた手塚の身体を直視することが出来ず、明後日の方を向きながらモゴモゴと口籠るリョーマに、手塚は短く溜息を吐いた。 
「いいから来い」 
「え!ちょっ、ぅわぁっ」 
腕を掴まれ、服を着たままいきなり浴室に引き込まれて、リョーマは抵抗する間もなくシャワーを浴びせられて全身ずぶ濡れになった。 
「うわー…びちゃびちゃ…」 
「すぐに来ないからだ」 
「アンタ……ちょっとこれ、強引過ぎっしょ」 
自分の格好を見下ろし、リョーマが盛大に溜息を吐くと、手塚は小さく笑った。 
「早く脱げ」 
「はいはい」 
どこかコメディドラマのワンシーンのようで、リョーマも先程までのドキドキは遠ざかり、笑いが込み上げてきた。 
クスクスと笑いながらリョーマは自分のTシャツに手をかけて脱ぎ始めるが、濡れて貼り付いてしまった服は、なかなか身体から剥がれない。 
「……まったく」 
もたつくリョーマに溜息を吐き、手塚がいきなり手を伸ばしてきた。 
「まるで幼稚園児だな。自分の服も脱げないのか」 
「だって、貼り付いちゃって……アンタが濡らすからでしょ」 
「ほら、こっちを向け」 
「わ」 
少し強引に手塚の方を向かされ、小さな子のように「バンザイ」をさせられてTシャツを剥ぎ取られた。 
「下は自分で脱げるか?」 
「幼稚園児じゃないから脱げるっス!」 
唇を尖らせてリョーマがそう言うと、手塚がまた小さく笑ったようだった。 
下着ごと膝のあたりまでジーンズを引き下ろし、苦労して右足を引き抜き、左足からジーンズと下着を剥がそうとして、リョーマはふと、視線を感じた。 
(なんで、そんなに、じっと見て…) 
視界にある手塚の足は、ずっとこちらを向いたままだ。 
リョーマは急に恥ずかしくなってきて、よろけるフリをして手塚に背を向けた。 
(反応しちゃったらどうしよう) 
もうすでに心臓はまた爆発しそうなほどドキドキし始めているし、恋愛対象として好きな相手のすべてを目の当たりにして、冷静でいられる自信がない。 
脱いだ服を見下ろして、手塚に背を向けたままどうしたものかと考え込んでいると、いきなり肘を掴まれ手塚の方へ引き寄せられた。 
「な…」 
「脱いだ服はあとで洗濯すればいいだろう」 
リョーマが脱いだ服をどうしようか考えていると思ったらしく、手塚はそんなことを言って無理矢理リョーマをシャワーの中へ引き入れた。 
「わっ」 
いきなり温かな雨で全身を打たれ、リョーマは一瞬竦み上がって手塚に縋り付いてしまった。 
「…すまない、熱かったか?」 
「ぁ……べ、べつに…」 
慌ててリョーマが離れようとすると、また捕まえられた。 
「バカ、そんなに離れたらシャワーが当たらないだろう」 
「……っ」 
「…向かい合うのが恥ずかしいなら、こうしていればいいか?」 
そう言って手塚は、背後から抱き締めるようにリョーマの身体を引き寄せた。 
「…やはり少し冷えているな……寒くはないか?」 
「うん……ヘーキ」 
手塚は、リョーマの方に多く湯が当たるようにシャワーのヘッドを傾けてくれている。 
だがその湯の温かさを、リョーマはすぐに感じなくなった。 
全身が、甘い熱を帯びている。 
(どうしよう……こんなに密着したら……っ) 
ピクリと、自分の性器が微かに揺れて反応し始めた。 
(ち、違うこと、なんか、部長じゃないこと考えて……ああ、そーだ、青学の、校歌の謎、とか……えーと……) 
「越前」 
「……え?」 
(もう気づかれた???) 
ギクリと身体を揺らしてリョーマが返事をすると、手塚が、大きく溜息を吐いた。 
(もうダメだ……気持ち悪いって、嫌われる……っ) 
「お前は、俺と一緒にいると、幸せだと言ったな」 
「え……」 
静かに問いかけられ、リョーマは少しだけ落ち着くことが出来た。 
「うん………アンタといると、全部キラキラしてるよ」 
「………」 
手塚はまた溜息を吐き────いや、それは溜息というよりは甘く、熱く、優しくリョーマの耳をくすぐった。 
「ならば、お前は、俺と………キス以上のことをしたいと、思っているのか?」 
「………っ」 
背後にいる手塚の表情はわからないが、その声は、今まで聞いたことがないほど穏やかで、柔らかで、甘かった。 
「YESって言ったら、部長はキス以上のコトしてくれるの?……それともドン引く?」 
「キス以上のことはしてやれるが、恋愛関係にはなれないと言ったら、お前は『ドン引く』のか?」 
「………」 
(ソーユーこと、か…) 
ああ、と、リョーマは思った。 
全部繋がったと、リョーマは思った。 
手塚が自分に冷たかった理由、桃城の話、そして今日の手塚の優しさ。 
(アンタはオレを……いや、「白虎を受け継ぐ可能性のある者」を、手放したくないんだね……) 
おそらくは、桃城から「余計な情報」を得てしまったことが原因なのだろう。 
リョーマはまだどこの組織にも属しておらず、つまりは今後、どの組織に属するかはリョーマ自身の自由ということになる。だから、最終的にリョーマが手塚の属する組織以外の所を選ぶことは避けなければならないと、上層部から指示があったのかもしれない。 
(オレを「青龍」に引き止めさせようってこと…か……) 
それでも手塚は本来とても誠実な人間であるために、リョーマと偽りの恋愛関係を築くことは出来ないと、ちゃんと教えてくれているのだ。 
期待はするな、と。 
たとえ身体を繋げたとしても、それは仕事としてのことであって、二人の間に仕事上の関係以上の絆が生まれることはないのだ、と。 
(どうせなら、もっと夢見させておいてくれればいいのに…) 
このまま「それでもいい」と言ってリョーマが振り返り、手塚と「キスの先」に進むのか。 
それとも「それはイヤだ」と言って、手塚との関係に明確な一線を引き、一緒に仕事をするパートナーとして、感情を捨てて過ごすのか。 
傷つくことを承知で手塚に触れるか、傷つくのを避けて今までの距離を保つのか。 
どちらかを選べと言うなら、リョーマは迷うことなく選ぶ。 
「ねえ、部長。それって、今日だけのこと?それとも、ずっと、ソーユーふうに付き合ってくれるんスか?」 
「………それも、お前次第だ」 
「じゃあ、オレが一生続けて、って言ったら、アンタは一生付き合ってくれるんだ?」 
「………ああ」 
「ふーん」 
リョーマはひとつ溜息を吐いて、ゆっくりと、身体ごと手塚を振り返った。 
「オレは、今日だけでいいっス」 
「え…?」 
「アンタがオレと恋愛関係になれないなんていうのは、最初っから知ってる。だからオレ、『今日だけはコイビトになって』って言ったんスよ」 
「……っ」 
手塚が微かに目を見開く。 
「大丈夫。オレは、アンタが身体張って繋ぎ止めてくれなくてもアンタと同じ組織に入るし、アンタがオレのこと恋愛対象にしなくても、オレは、今まで通り、アンタを…青龍だけを目指して頑張るから」 
「越前……、俺は…」 
「それに、今日一日恋人として過ごしたからって、明日からはそう言う目でアンタのこと見たりしないし、仕事も完璧にやってみせる」 
「………」 
「オレは、アンタの立場が悪くなるようなことはしない。アンタを悩ませたりもしない」 
リョーマは真っ直ぐに、手塚を見つめた。 
「………散らかってるけど、オレの部屋でいい?」 
そう言って微笑むと、手塚は呆然とリョーマを見つめ、だがすぐに視線を逸らして「ああ」と頷いた。 
         
         
         
         
         
         
        
        ※今回も敢えて「歳の差』という字を使っています※
         
        
         
         
        TO BE CONTINUED... 
         
 
        
 
        
         
         
         
20091014 
        
        
        
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