シンデレラをさがせ!


    噂    


<2>




バスに乗り、電車に乗り、またバスに乗って、手塚の住む街まで来た。
リョーマが走り去るバスを目で追いかけていると、手塚に、優しく手を取られた。
「こっちだ」
「うん」
手を引かれ、間もなく沈む夕日を横顔に受けて、リョーマは歩く。
手塚の背中は広くて、逞しくて、この背中だからこそ、いろいろなものを背負っていられるのだろうと、リョーマはぼんやり思った。
暫く歩いて、やがて手塚は、一軒の和風建築の家の前で立ち止まった。
「…ここが俺の家だ」
振り返って優しく告げる手塚をじっと見つめてから、リョーマは視線を建物に移し、ゆっくりと見上げていく。
造りは、リョーマの住む家と、少し似ていた。
(由緒正しき、って感じ……)
手塚は先ほど部室で、家のことを「狭い」と言っていたが、その言葉は明らかに謙遜だとわかった。
(部屋、いくつあるのかな…)
呆然と家を見上げるリョーマを見て、手塚が小さく苦笑する。
「入るぞ、越前」
「ぁ……ういっス」
手塚に肩を抱かれ、玄関へと通される。
「ただ今帰りました」
手塚が奥へ向かって声をかけると、パタパタと足音が聞こえて、エプロンを着けた女性が現れた。
「お帰りなさい、国光。……あら珍しいわね、お友達?」
ニッコリと微笑む女性に向かってリョーマはペコリと頭を下げる。
「テニス部の後輩の越前です。個人的に話があったので、家に連れてきました。連絡もせずにすみません」
手塚が小さく頭を下げると、その女性はクスクスと笑った。
「あなたが誰か連れてくるなんて珍しいからビックリしたけど、大歓迎よ。えぇと、越前くん、だったかしら?ゆっくりしていってね」
「ぁ、はい。お邪魔します」
リョーマにニッコリ笑いかけてからその女性───手塚の母・彩菜───は、何か思い出したように手塚に視線を移す。
「そうそう、国光、大石くんから電話があったわよ」
「大石から?わかりました、越前を部屋に連れて行ってから電話してみます」
手塚は頷いて、またリョーマの手を取った。
「越前、俺の部屋に案内する」
「ぁ…はい」
彩菜の前で手を取られて少し動揺しながら、リョーマは手塚に手を引かれて手塚の部屋へと案内された。



「悪いがここで少し待っていてくれ。適当に寛いでいてくれて構わない」
リョーマを部屋に通し、バッグを下ろした手塚が小さく苦笑する。
「ういーっス」
部屋をざっと見回して返事をしてから、リョーマはふと、本棚に目を留めた。
「ぁ、ねえ」
「ん?」
部屋を出て行こうとする手塚を呼び止める。
「…本棚の本、適当に見てもいい?」
「ああ、好きにしていい。じゃあ、すぐ戻る」
「うん」
頷いてリョーマが小さく笑うと、手塚は一瞬黙り込み、いきなりリョーマを引き寄せた。
「わ」
ぎゅうっと抱き締められ、リョーマはうっとりと目を閉じる。
「………待っていてくれ」
「うん……大丈夫、逃げたりしないから」
クスクスと笑うと、手塚も表情を和らげてリョーマの額にチュッと口づけてから、そっとリョーマを解放した。
部屋を出て行く手塚を見送ってから、リョーマはスッと、視線を本棚に向けた。
上段や中段にかけて大量に並ぶ参考書や文学小説には興味はない。
リョーマが興味を持ったのは、最下段。
(これ、アルバム、だよな)
リョーマはチラリとドアを見遣ってから何冊かあるアルバムの端から手に取って開いてみる。
「うわ、可愛…っ」
生まれたばかりの写真や幼い頃の手塚の写真。同じ場所でも表情やポーズが違うものが何枚も撮られていて、両親の愛情がひしひしと伝わってくる。
一冊目のアルバムにはやっと歩き出したらしい頃までが収まっていた。
リョーマはそっとアルバムを閉じて本棚に戻し、その隣のアルバムを取り出して丁寧に開く。
幼い手塚の写真が続き、やがて幼稚園に入園したらしい、制服を着た手塚の写真が増える。
「天使みたい」
今でも手塚の顔の造りは整っていて綺麗だと思うが、幼い頃は愛らしさも加わって、まるで天使のようだった。髪も今よりも柔らかかったようで、毛先にほんのりとウェーブがかかっている。
「こんな天使が今じゃカミサマって感じだよな…」
今の手塚には「愛らしい」などという言葉を使う者はいない。静かに燃える青い炎のようなオーラを纏った、神々しい男、だ。
特にコートに立った時の手塚は、身震いするほど、その凄みも、格好良さも跳ね上がる。
(もうオレ、メロメロじゃん)
頬を赤く染めて小さく苦笑しながらアルバムを戻し、三冊目を取り出して開く。
「あ」
手塚がラケットを持ち始めた。
まだまだラケットがとても大きく見えるのだが、その瞳の輝きは、今の手塚に近づいている。
「ふーん……昔はオレのと似てるフレームのラケットだったんだ」
今の手塚のラケットは主にシルバーのフレームだが、写真の頃の手塚は赤いフレームのラケットを持っている。成長にあわせて、ラケットの形状やデザインの好みも変わったということなのだろう。
「リストバンドとかもラケットの色に合わせてる」
今の手塚はあまり赤系の色を身につけないが、まだ小さい頃は、母親の好みもあったのか、所々に赤系のアクセントの入ったものを身につけている。
だがそれも青学に入学してからはほとんど見られなくなった。
「一年生の時は、結構小さかったんだ?」
それが今ではリョーマよりも30センチ近く高い身長に成長している。
「じゃ、オレもまだ伸びるな」
「何が伸びるんだ?」
ドアが開くとともに手塚に笑われて、リョーマはグッと唇を尖らせた。
「アルバムを見ていたのか」
「うん。可愛いアンタをいっぱい見ちゃった」
「可愛い…」
手塚は薄く頬を染めて咳払いをしてから、机の前で学ランを脱いで椅子の背もたれに掛けた。
「大石先輩、何の用事だった?」
「ああ…次の大会のオーダーについての相談と、……数学と英語の話を少し、な」
「ふーん」
途中の妙な「間」が少し気になったが、リョーマは深く問い質そうとは思わなかった。
「………何か、飲むか?」
「……べつに…」
手塚の視線の熱に気づいて、リョーマはほんの少し手塚から視線をずらす。
「越前…」
「………オバサン、いるのに、するの?」
チラリと手塚を見遣ってまた視線をそらすと、手塚は小さく笑った。
「母は夕飯の支度に忙しい」
「………」
手塚は、黙り込んで俯くリョーマの腕を取って立ち上がらせ、ベッドに座らせる。
「………」
「続きを、してもいいと言ったな」
口を噤んだまま、リョーマは頬を真っ赤に染めて頷く。
「……なのに、まだ、好きだとは言ってくれないのか?」
リョーマは両手をグッと握りしめて俯く。
手塚は溜め息を零すと、リョーマの隣に腰を下ろした。
「越前」
「………」
頬に手を添えられ、手塚の方を向かされる。
「…俺は別にお前を追いつめる気はない。お前のやりたいように、納得のゆくまで考えればいい」
「ぶちょ…」
「だが俺も男だ。好きな相手を部屋に呼んで、ただ触るだけで我慢できるかは、保証できない」
「!」
「嫌なことは、本気で拒んでくれ」
手塚の瞳の奥で、妖しい炎が揺れている。その炎はとても美しくて、官能的で、リョーマはその炎に焼かれてみたいと、思った。
ゆっくりと二人の唇が重なる。
しっとりと舌が絡み合って、艶めいた水音が室内に響く。
「ん…」
「……えちぜん…」
手塚の唇がリョーマの首筋に降りてゆき、同時に学ランのボタンが、そしてシャツのボタンが外されてゆく。
「ぁ……」
手塚の手の平がリョーマの肌を滑る。
「や……っ」
ゆっくりと胸や腹を撫で回され、リョーマは小さく身体を揺らした。
学ランが脱がされ、ベッドの下に落とされる。シャツのボタンはすべて外され、ゆっくりと押し倒された。
「ぶちょ…」
リョーマがそっと手塚を呼ぶと、手塚はリョーマと視線を合わせて柔らかく微笑みかけてくれた。
「下、触ってほしいのか?」
「……うん…」
素直に頷くと、手塚は笑みを深くして手を下へと滑らせた。
「………」
ズボンのベルトが外され、ファスナーが下ろされる。すぐに下着の中に滑り込んできた手に性器を柔らかく握り込まれ、リョーマは「あ」と小さく叫んでギュッと目を閉じた。
「もう硬くなってきているな」
「ぁ……やっ、んっ」
ゆるゆると扱かれ、先端を親指でぐりぐりと弄られて、リョーマは唇を震わせる。
「あぁ…」
「越前」
甘く囁かれて深く口づけられ、口づけながら性器を柔らかく揉み込まれて、リョーマはきつく眉を寄せた。
「んっ、んっ」
優しく幹を扱かれ、袋を持ち上げるようにして性器全体を何度も撫で上げられる。
リョーマの腰が、堪らずに揺れ始めた。
「…越前…」
唇を離して吐息混じりにリョーマの名を囁き、手塚はさらに熱っぽく口づけてくる。
「ぁ……は、んっ」
舌を絡め取られているうちに、下着ごとズボンを脱がされた。
「あ……だめ……っ」
手塚の指先がリョーマの袋の奥に隠された秘蕾を探ってくる。
「あっ」
「越前…」
リョーマの頬にチュッと口づけ、手塚が身体を起こす。そして、リョーマの両脚に手をかけ、左右に大きく割り開いた。
「やっ、ヤダっ!」
その格好の恥ずかしさに抵抗を試みるが、手塚は小さく笑っただけでリョーマの中心に躊躇いなく顔を埋めた。
「あっ……ぁ…」
根元まですっぽりと手塚の口内に飲み込まれ、リョーマは抵抗をやめて熱い吐息を零す。
いつものように袋を弄られながら幹や先端を舐め回され、甘い快感の中でリョーマの身体は小さく痙攣を起こす。
「ぁ…あ……っ、んっ」
無意識に零れる声は、まるで甘えているような色を帯び、両手はいつの間にか手塚の頭を抱え込むようにして髪を弄っている。
(気持ちいい……っ)
静まり返った部屋に艶めいた水音が響き続け、リョーマの荒い呼吸がさらに不規則に乱れ始める。
「や……も、ぅ……イク……っ」
「…いいぞ…出せ」
「ぁ…っ、あっ!」
リョーマの腰が跳ねる。
「あぁっ!」
思い切り身体を反り返らせて、リョーマは手塚の口内で勢いよく弾けた。
手塚の口の端から、受け止めきれなかった濁液が流れ落ち、リョーマの淡い茂みや双丘の狭間を濡らしてシーツへと滴り落ちてゆく。
「ぁ……ぁ……は、ぁ……っ」
腰を痙攣させ、すべて出し切ったリョーマの身体がベッドに沈み込むと、手塚は優しくリョーマを解放し、口元を手の甲で拭いながらゆっくりと身体を起こした。
「………」
何も言わず、手塚が愛しげにリョーマの髪を撫でる。
「ぶちょ……また…飲んじゃった?」
「半分、な」
「はんぶん?」
手塚は目を細めてリョーマに微笑みかけ、リョーマの額や頬に口づけてから、リョーマの胸の突起に舌を這わせ始めた。
「あっ、やっ、ぁ、んっ」
ゾクゾクと、リョーマの背筋を快感が這い上がってくる。
舌の平で乳首全体を舐め上げられ、舌の先で先端をつつかれた。
「んんっ」
尖らせた舌の先は焦らすように先端や乳輪を滑り回り、もう一度しっとりと舐め上げられてからいきなりきつく吸い上げられた。
「いっ…ぁ、んっ」
「ん…」
妖しく波打つリョーマの身体に伸し掛かり、手塚はさらにリョーマの乳首を執拗に愛撫する。
「や……そこ、ぁ……もう、やめ…っ」
呼吸を乱しながら弱々しく抗議するが聞き入れてもらえず、それどころか軽く歯を立てられてリョーマの身体が跳ねる。
「やっあっ」
仰け反るリョーマの首筋に手塚が吸い付く。
「越前…」
「ぁ……あ……」
耳元で名を囁かれ、甘い恋情にリョーマが吐息を零すと、ぬめる指先がリョーマの後孔に差し込まれてきた。
「は、あっ……ダメ……そこ……っ」
「越前……」
手塚がリョーマの耳朶を甘噛みしながら後孔に差し込んだ指を蠢かす。
「あぁっ、ぁ、んっ」
「…痛くないか?」
「痛くない……けど、ぁ…っ…やめ……っ」
「なぜ?…指を挿れるのは初めてじゃないだろう?」
耳に熱い吐息がかかる。それだけでリョーマの腰の奥が疼いた。
もっと深いところに、手塚からの刺激が欲しくなる。
(ダメだ……流される…っ)
「や…っ」
リョーマは力の入らない腕でなんとか手塚の胸を押し返した。
「こんな……今、それ、されたら……オレ…っ」
「………」
「まだ……ヤダ…っ」
ギュッと目を瞑って唇を噛み締める。
本当は手塚を受け入れたい。身体の奥深くまで手塚を迎え入れて、この狂おしい熱を共有したい。
だが。
(もう少しで、わかりそうなんだ)
手塚が『あの人』だという証拠が。
あの黒縁の眼鏡の謎が。
だから。
「今は……まだ……」
恋情と、欲望と、プライドが葛藤を起こして涙さえ滲んでくる。
手塚はそんなリョーマを暫く黙ったまま見下ろし、やがて小さく溜息を吐いた。
「わかっている」
「………」
リョーマが薄く目を開けると、手塚は小さく微笑んだ。
「大丈夫だ。お前を、気持ち良くしてやりたいだけだ」
「ぁ…」
「触るだけ、だ。…それも駄目か?」
リョーマは潤む瞳で手塚を見上げる。
「触るだけ…?」
「お前を追いつめたいわけじゃないと、さっきも言っただろう?」
「………でも、触るだけですむか、保証できないって…」
呟くように言うリョーマに、手塚は苦笑する。
「確かに、このままお前を抱いてしまいたい衝動はある。だが、それでは俺は、ただのケダモノに成り下がる」
優しく髪を撫でられ、リョーマはゆっくりと瞬きをする。
「今はケダモノにはならない。お前に触れたいだけだ。お前のすべてに、触れさせてくれ」
「ぁ……」
そっと口づけられ、柔らかく性器を撫でられる。そうしてまた探るように後孔を指先でなぞられ、その指をゆっくりと押し込まれた。
「あ……っ」
「お前は、快感だけ感じていろ」
「や、あっ、ぁあっ」
手塚の長い指がリョーマの腸壁を優しく撫でる。
「お前の中は、熱いな…」
「あ……んっ」
「越前…」
手塚はリョーマにチュッと口づけ、そのまま身体をずらしてリョーマの性器にも口づけ、またすっぽりと根元まで銜え込む。
「は…っあっ」
巧みに舌を使って煽られ、後孔の指は、リョーマの一番感じる場所を探り当てて、そこを重点的に刺激し始めた。
「やっ、あぁっ、スゴイ……あっ」
身体の内側と外側からの刺激に、リョーマの身体は妖しく撓る。
「ふ、……ぁ、あっ、んんっ」
全身が快感に震え、時折ビクビクと痙攣が起こる。
もう自分の取らされている格好を恥じらう余裕がリョーマにはなかった。大きく脚を開き、背を撓らせ、仰け反り、開いたままの唇からは、熱い吐息と甘い嬌声が零れる。
「あぁ、ぁ…は、ぁっ、んっ」
「気持ちいいか?越前」
「ん……いい……っ」
素直に頷くと、深く口づけられ、胎内の指がさらに深くめり込んできた。
「んんぅっ!」
「…越前……一緒に出して、いいか…?」
手塚の硬い雄が自分の太腿に当たっていることにリョーマは気づいた。
「うん……一緒に、しよ…」
リョーマは、いつも自分ばかりがイかされることを寂しいと感じていた。
手塚の熱に、直に触れてみたいと、ずっと思っていた。
嬉しくて、リョーマが手塚に微笑みかけると、手塚も頬を染めて微笑んだ。
「んっ」
後孔から名残惜しげに指が引き抜かれ、リョーマは小さく声を漏らす。
「越前…」
手塚がリョーマに口づけながら自分のズボンのベルトを外し、ファスナーを下ろした。
「触ってくれ」
「ん」
手塚に手を取られて下腹部へと導かれる。そこで触れたものに、リョーマは少し驚いた。
(スゴ……大きくて、熱い…)
ゴクリと、リョーマの喉が鳴る。
「ぁ……」
恐る恐る、リョーマが太い幹を握り込むと、手塚が小さく声を漏らした。その声の艶に、リョーマの官能がさらに刺激される。
「ぶちょ……すごい……ドクドクしてる…」
少し上擦った声でリョーマが呟くと、手塚は吐息を零すように笑った。
「…そのまま……」
「え…」
手塚がゆっくりと腰を揺すり上げる。
「ぁ…」
「越前…」
愛おしげに目を細めて手塚がリョーマを見つめる。リョーマは堪らなくなって手塚に縋り付いた。
「ぶちょ…」
「越前…」
「ぶちょお…っ」
(好き…っ)
込み上げてくる言葉を押し込めて、リョーマはさらにきつく手塚にしがみつく。
「越前」
密着する二人の身体に挟まれ、二つの熱塊が擦れ合う。
「あ……ぁ……ぶちょ……っ」
「越前…、ぁ…くっ」
意図を持って手塚の腰が強く押し付けられ、硬い熱塊がゴリゴリとリョーマの雄に擦り付けられる。
「ぁ…ぶちょ…っ、ダメ…、も……出る……っ」
「少し、我慢できるか?……一緒に、いこう」
「うん…っ」
手塚は少しだけ身体を起こすと、腰を浮かせてリョーマと自分の性器をまとめて左手で握りしめた。
「あ…っ」
手塚が二本の肉棒を一緒に扱き始めた。
「くっ」
「あ…あっ、ぶちょ…っ」
リョーマの頭を右腕に抱え込むようにして、手塚がリョーマの表情を覗き込む。
「ぶちょ……ぁ……っ、んっ」
手塚は呼吸を乱しながらリョーマの額に口づけ、頬にも口づけ、やがて二人は見つめ合い、深く口づけ合う。
「んっ、んっ」
リョーマが手塚の背に回した手で手塚のシャツをギュッと掴むと、唇が解放され、手塚にきつく抱き締められた。
「……いいぞ、出せ、越前」
「あ……っ!」
耳元で熱い吐息混じりに囁かれ、それが引き金になったようにリョーマは一気に弾ける。
「あぁっ、あっ、はっ、あ……っ!」
「くっ、うっ、……んっ、あ…っ」
手塚もほぼ同時に弾け、二人分の熱い濁液がリョーマの腹の上にたっぷりと注がれた。
「ぁ……ぁ……っ」
「ん……っ」
リョーマの耳元で呼吸を荒げながら、なおも手塚の左手が二本の熱塊をきつく扱き上げると、絞り出されるように二つの先端から熱液がビュッと勢いよく飛び散った。
「………」
「………」
二人は暫く荒い呼吸のまま重なり合い、動かなかった。
やがて、手塚がゆっくりと身体を起こすと、リョーマも固く閉じていた目をふわりと開いた。
「越前……」
手塚が優しく微笑み、そっと口づけてくる。
その口づけに素直に応えながら、リョーマはまた手塚の背に腕を回してしがみついた。
「好きだ……越前…」
「………うん…」
熱い瞳で見つめられ、甘く囁かれ、リョーマの胸に苦しいほどの恋情が込み上げる。
(早く……全部アンタのものになりたい……)
満たされきれない欲求が、腰の奥で燻っているのがわかる。
再び重なってくる手塚の唇を受け止めながら、リョーマは自分の浅ましさに小さく眉を顰めた。



















手塚の母に夕飯にも誘われたが丁重に断ってリョーマは帰宅した。
「はぁ……」
自室に入った途端にベッドに身体を投げ出し、深く溜息を吐く。
先ほど玄関で、夕飯の準備はできているからすぐに着替えて降りてこいと母に言われたが、リョーマはすぐには動かなかった。空いているはずの腹も、空腹を訴えてこない。
「部長……」
呟いて、頬を染めて、枕に突っ伏す。
(部長の……すごかった…)
手で触れた手塚の大きさ、固さ、そして熱さを思い出してリョーマはさらに頬を染める。
(オレのと全然違う…)
自分の性器に擦り付けられた感触を思い出し、リョーマはベッドの上で丸く縮こまった。
「……なにアレ。もうオトナじゃん」
火が吹き出しそうなほど頬を熱くしながらそう呟き、いつかは自分のもあんなふうになるのだろうかと考える。
(なんか……ムリっぽい……かも…)
確かに青学に入ったばかりの、アルバムの中にいた手塚は案外背も低くて、たった二年で今ほど成長するとは本人も予想していなかったかもしれない。それを考えればリョーマにもまだまだ身長が伸びる可能性は大いにあると言える。
「やっぱ、牛乳?」
二年間で手塚の身長ほどになるには、やはり乾が薦めるように、もっとたくさんのカルシウムが必要だろうか、と考え始めて、リョーマはふと、違うことも思い出した。
「ぁ、そうだ」
手塚の幼い頃のアルバムを見ていて、幼い頃の手塚は、『可愛らしい』という意味で今と少し外見が違うことがわかった。
今までは漠然と手塚の姿を探していたが、はっきりと『昔の手塚』を覚えてきたリョーマは、その姿を改めて写真の中から見つけようと思う。
「探してみる価値はあるよな…」
リョーマは起き上がり、ベッドを降りて机に置いてある分厚いアルバムに手を伸ばす。
だがそこで階下から声が掛かった。
「リョーマ、早く降りてきなさい!冷めちゃうわよ!」
「……ちぇ」
「リョーマ!」
「今行くよ!」
大きな声で返事をしてから、リョーマは溜息を吐いてアルバムをポンと叩いた。
「とりあえずお預け、か」
もう一度深く溜息を吐いて、リョーマは手早く着替え、部屋を出て階下へと向かった。


夕飯を食べ始めてすぐに、「そういえば」と母・倫子がリョーマに視線を向けた。
「あなたが帰ってくる少し前に、テニス部の先輩から電話があったわよ」
「え?テニス部の先輩って、部長?」
リョーマが瞳を輝かせると、倫子は首を横に振った。
「いいえ、副部長の大石さんですって」
「大石先輩?」
怪訝に思ってリョーマが首を捻ると、さらに倫子は付け足した。
「大事な話があるから、出来れば明日、少し早めに朝練に来てくれって」
「大事な話?」
大石からされる『大事な話』に皆目見当がつかず、リョーマはきつく眉を寄せる。
「電話させましょうかって言ったら、直に話した方がいいと思うので、って……あなた、何かしたの?リョーマ」
「……べつに」
母にチラリと視線を向けてから、リョーマは溜息を吐いて食事を再開する。
(そういえば……部長にも、大石先輩から電話がかかってきてたな…)
もしかしたら手塚と自分の「噂」に何か関係があるのかもしれないと、直感的にリョーマは思った。
(まさか、キスしてるとこ見られた、とか……)
陸上部の連中はいなかったが、もしかしたら大石が何かの理由で戻ってきて、見ていたかもしれない。
普通の生徒なら大石も見て見ぬ振りをしたかもしれない。だが、『手塚国光』が、校内で、しかも後輩の男子生徒とキスしていたなどとあっては、大石も黙って見過ごすことは出来ないだろう。
(……アンタはいろんなもの背負ってるから……)
リョーマが知っているだけでも、テニス部の部長と生徒会長という二つの大役を背負っている。
(それ以外にもきっと、『生徒の手本』とか、『青学の誇り』とか、『日本テニス界の未来を担う者』とか、『期待の息子』とか……言われてるんだろうな)
時折取材にくる『月刊プロテニス』という雑誌の記者も、手塚のことを誉め讃えていたのを知っている。
(それなのに、オレのこと、好きになってくれて……噂になっても気にしないなんて、言ってくれて……)
そんな男を、好きにならない方が、おかしい。
(オレだって、噂になることなんか気にしない。でも、アンタが揶揄われたり、悪く言われたりするのは、イヤだ…)
人の『噂』というものは、真実とは違う色づけがされて広まっていくことの方が多い。もしかしたら、自分と手塚とのことも、尾鰭がたくさんついて、とんでもないものになってゆく可能性だってある。
自分はただ、『手塚国光』という人間を好きになっただけなのに。
そして、自分を好きになってくれた人と、自分が好きになった人との繋がりを確かめたいだけなのに。
(……やめよ。今ここで考えていてもしょうがない)
小さな小さな不安が胸に影を落としたが、それ以上考えるのはやめて、リョーマは食事に集中した。







食事と入浴をすませてやっと部屋に戻ったリョーマは、逸る心を抑えてベッドの上でアルバムを開く。
(もう何回も見たけど、部長っぽい子供は写ってなかったよな…)
前半を少し飛ばして、「リッキー」が写り始める頃から丁寧にページをめくる。
(やっぱ、いない、か…)
リッキーや、その友達と一緒に写っている写真をくまなく見てみたが、手塚らしき人物は写ってはいない。背景のように小さく写り込んでいる人物に目を凝らしてみても、手塚はいなかった。
「ダメ、かな…」
リッキーたちとの写真が終わってしまい、リョーマは溜息を吐く。
「………もう一回」
もう一度、リッキーと写り始めたところへ戻ろうと、丁寧にページを戻していて、リョーマは、ふと、手を留めた。
「?」
自分やリッキーたちの着ている服からして、たぶん同じ日に撮ったのであろう何枚かが見開きページに貼り込まれている。
その中の一枚に、なぜか違和感があった。
他の写真はリョーマ自身はもちろん、リッキーやその友達らもきちんとポーズをとって写っている。
だがその一枚だけは、少しピントもぶれたような、リョーマの振り向き様の表情だった。
「ん?」
その写真に写り込んでいるものに、リョーマはじっと見入った。
「………これ……まさか……」
リョーマはその一枚をアルバムから剥がして手に取り、さらにじっと見つめる。
「そっか……だからこの一枚だけ、『違う』んだ」
写真を見つめるリョーマの瞳が輝き始める。
「見つけた……!」
リョーマは写真を額に当て、興奮を抑えるように、深く息を吐いた。







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20080602