シンデレラをさがせ!


    彼氏の制服    







家に帰り着いたリョーマは、駆け込むように自室に向かい、バッグを投げ出してベッドにダイブした。
「はぁ………」
零れたのは熱い吐息とも、やるせない溜息とも取れる、複雑なもの。
部室を出て、短い寄り道をして、リョーマが先に電車を降りるまで、手塚はいつも通りの落ち着きを取り戻していて、リョーマはホッとした反面、その落ち着きようになぜか焦燥感が募った。
(あんなふうに宣言したけど……)
どこからどう突き崩していけば真実に辿り着けるのかと、不安がある。
例えば乾に直球を投げるように空港でのことをストレートに尋ねたとしても、あの乾のことだからすぐ正直に何もかもを話してくれるとは限らない。
何か、乾が知りたい情報と交換ならば話してくれるかもしれないが。
「情報、か……」
リョーマは暫し考え込んでから徐に身体を起こし、机の引き出しから例の黒縁眼鏡を取り出した。
「オレにはこれしかないよな…」
物質的な「情報」はこの眼鏡だけ。あとはリョーマの「感覚」での情報しか持っていない。
声と。
香りと。
感触。
(指紋でも採れれば別だけどさ)
刑事物のドラマでもあるまいし、と思う。
それに、もう何度もリョーマが手にして眺めたせいで、例え指紋を採る機会があったとしても、自分の指紋しかでてこないだろうと苦笑が漏れる。
(古い、よな…)
改めて眺めてみて、やはり今時のデザインではないと思える。
フレームを両手で持って広げると、ギシギシと音がした。分厚いレンズも少しキズや曇りがある。
「ぁ……Made in USA…」
フレームの内側に小さな文字でそう書かれているのを初めて見つけた。
取り立てて珍しくもないデザインだからこそ、格式張らない店で、普段使いとして買ったような印象がある。
(じゃあこれ、もしかしたらアメリカで買ったってこと…かな…)
だとしたら。
(部長、アメリカに行ったこと、あるんだ…?)
「うーん」
いや、これは手塚が買ったものではないのではないか。
(だって、これ、やっぱ、かなり古いよね…)
だが、ただ古いだけではなく、長く使い込まれたような「温もり」を感じる。
「この眼鏡の持ち主の人って……」
その時、リョーマの思考を中断させるかのように、階下から母の声がした。
「リョーマ!ご飯出来たわよ!」
「はーい」
思考を一時中断させ、リョーマは空腹を満たすべく、階下へと降りていった。



ダイニングでは、すでにテーブルの上に料理が並んでおり、リョーマは目を輝かせる。
「やった、焼き魚」
リョーマが小さく呟いたのを見て、従姉の菜々子がニッコリと微笑む。
「あれ、親父は?」
リョーマが帰ってきた時には居間にいたように思ったが、今は姿が見えない。
「お父さんは、ちょっと用事があって、先に夕飯をすませて出掛けたわよ」
「ふーん」
リョーマの父・南次郎がふらりと出掛けることはよくあったのでさほど気には止めず、リョーマは自分の席に着く。
「いただきます」
全員が席に着いたところで夕食が始まった。
焼き魚や、色とりどりの野菜と鶏肉の炒め物、茸類や油揚げの入った味噌汁、豆腐やアボカドを使ったサラダと、いつもながら目にも楽しく、舌にも嬉しい料理が並んでいる。
黙々と夢中で食べるリョーマの向かいで、リョーマの母・倫子が「そう言えば」と菜々子に視線を向けた。
「今週末だったかしら、結婚式」
「ええ、そうですよ、おばさま」
「あら、じゃあ、お洋服に見に行かないと」
「結婚式?」
二人の会話を聞いてリョーマが首を傾げる。
「誰の?」
「私のお友達のお姉さんのよ。私ともとても仲良くしてくださって、今回招待してくださったの。大々的な披露宴はしない代わりに、たくさんお友達を呼んでガーデンパーティーみたいなのを開くんですって」
「ふーん」
菜々子の説明にリョーマは一応相槌を打ってから、味噌汁に手を伸ばす。
「でもね、一応パーティーって言うくらいだから、少しはおめかししないとって、友達と話してて。センスのいいおばさまに見立ててもらう約束をしたの」
「私のセンスなんてそんな大したもんじゃないけど、女の子のお洋服を見立てるのって、母親の憧れなのよ」
「へぇ。よかったじゃん」
あまり抑揚のない声でそう言い、リョーマはサラダを口に放り込む。
「リョーマのウェアを見立てるのも結構楽しかったけど、今はほとんど部活の指定のしか着ないしねぇ……」
恨めしげに見つめられている気はしたが、リョーマは母とは視線を合わさずに菜々子を見遣った。
「でも女の人の服って結構するんでしょ?服はサイズとかあるだろうけど、靴とかバッグとかは母さんの借りたら?」
「あら、そんな図々しいことは…」
「バカね、リョーマ」
いきなりバカ呼ばわりされて、リョーマはムッとして母を見る。
「私の持ち物じゃ、若くて可愛い奈々ちゃんには可哀相でしょう?やっぱりこう、ヒラヒラっとしてるのとか、キュートなやつじゃないと」
「……そうなの?」
リョーマが不思議そうに菜々子を見遣ると、菜々子は何とも複雑そうな微笑みを浮かべていた。
「そう言えば昔っからリョーマはすぐ人のもので使い回ししようとしていたわね」
何か思い出したように、いきなり倫子が笑い出した。
「使い回し?」
「そうよ。仲良しだったお隣さんのラケットが壊れたって聞いたら、すぐにお父さんの新品のラケット持って行ってあげちゃうし、遊びにいったお友達の家でお鍋に穴が開いたって聞いたらやっぱりうちのキッチンからお鍋をごっそり持って行っちゃうし」
「まあ、リョーマさん、そんなことを?」
「……したっけ?そんなこと」
眉をグッと寄せて倫子を見つめると、母は楽しげにコロコロと笑った。
「まあ、あげるばかりじゃなかったかしらね。庭のお花が枯れちゃったからって、お隣からお花を土ごと貰って来ちゃったり……服とか靴とかもよくお隣から貰ってきていたわね」
「……全然覚えてない」
「まあ、あの頃、あなたはまだ小さかったから」
「ふーん…」
昔を懐かしむように微笑む母から目を逸らして、リョーマは甘辛く味付けされた鶏肉を口に運ぶ。
「……隣の人と仲良かったんだ?オレ」
「ええ。毎日のように遊びに行っていたわね」
「ふーん」
そこまで訊いても全く記憶は蘇ってこないが、自分の幼い頃の話には、ほんの少し興味はある。
「そのお隣によくお孫さんが遊びに来ていて、そのお孫さんとあなたは兄弟みたいに仲が良かったわ」
「孫?」
「ええ……んー…、なんていったかしら、あの子の名前……リック?ロック?……とにかく綺麗な金髪でグリーンがかったブルーの瞳の男の子よ」
「………リッキー?」
「ぁ、そうそう、そんな名前だったわ!思い出したの?リョーマ」
「なんとなく」
話を聞いているうちに、そんな名前が浮かんできた。フワフワしたとても綺麗な金髪と、その髪の色によく似合う瞳の色をしていたように思う。
「写真とかないの?」
「たぶんあるわよ!あとで探してみるわね」
「うん」
リョーマはニッコリ微笑んでから、焼き魚に箸を落とす。
(ま、たまには現実逃避したっていいよね)
現実ではいろいろ考えなければならないことが山積みだが、ひととき、昔の懐かしさに浸るのもいいではないかと自分に言い訳する。
(リッキー、か……)
まだ今ひとつピンとは来ないが、写真でも見れば何か思い出すかもしれない。
「ん、このサカナ美味しい、何、これ?」
「エボ鯛。ちょっと旬は外れちゃったけど、でも美味しいでしょ?」
「うん。…へぇ。覚えておこうっと」
美味しいものと、ちょっとした昔話に気分が解れ、リョーマは上機嫌のまま食事を終えた。



食休みをとってから風呂に入り、攻略途中のゲームをしているところで部屋のドアがノックされた。
「リョーマ、あったわよ、写真!」
倫子がウキウキとした表情で部屋に入ってくる。
「ホント?見せて」
ゲームを一時停止させてリョーマが母の元へ駆け寄る。
「このアルバムの前の方にいっぱい映っているから、ゆっくり眺めなさい」
ニコニコと分厚いアルバムを手渡されて、リョーマは瞳を輝かせた。
「サンキュ、母さん」
「でもあまり夜更かしはしないのよ?じゃあね、おやすみ」 
「おやすみ」
ドアを閉め、アルバムをベッドにそっと置いて、途中だったゲームを終了させてから、リョーマはベッドに戻ってきた。
「よっこいしょ」
ずっしりと分厚いアルバムをひっくり返し、最初から丁寧にページを捲ってゆく。
「うわ、ちっさい」
どこか見覚えのあるような風景の中で、ブカブカのキャップを被った2歳か3歳くらいの自分がこちらを睨んでいる写真がまず目に入った。手には大きなラケットを持ち、唇をひき結んで何かを堪えているような表情だ。
(これ、確か、巧くボールが打てなくて泣いたあとじゃなかったかな)
まだテニスのラケットを握って間もない頃、ラケットに振り回されていた頃の自分だ。
ページを捲れば、若々しい母と一緒に映っているものや、まだ長髪の父との写真が続いた。
「この頃って、まだ父さんは現役だったのかな」
自分が幼い頃に突然引退を決めた父。髪型は今とは全然違うが、その笑顔は今と全く変わっていない。
(納得して引退したってこと、だよな)
世間では突然の引退の理由についていろいろと取り沙汰されたらしいが、変わらぬ笑顔が、父に何も悔いがないことを物語っている。
「ぁ……」
一目見て、すぐにわかった。
フワフワの金髪に、グリーンがかったブルーアイズ。
「『リッキー』だ」
彼はリョーマよりも頭ひとつ分背が高く、ずいぶん年上だったのではないかと思われる。
だがどの写真も、リョーマと一緒に映るリッキーはとても優しげで、弟のようにリョーマを可愛がっていてくれたことが伝わってくる。
リッキーとのツーショットや、何人かの、おそらくはリッキーの友達たちとの写真が何枚か続く。
そうしてページを捲って、リョーマはある写真に目を留めた。
「これは……?」
リョーマと、リッキーと、そしてリッキーの家族と写した写真。リッキーの家族とは言っても、彼の両親ではなく、おそらくは祖父母。
「ぁ、もしかして、これが『お隣さん』?」
優しそうな老夫婦。
色こそ白くなってしまったものの、リッキーと同じフワフワの髪に穏やかなブルーアイズの老紳士と、品のある、優しげな笑みを浮かべるその妻。
「………うん……なんか、覚えてるかも……リッキーのお祖父さんとお祖母さん…」
父と母との三人で暮らしていたリョーマが、本当の祖父母のように甘えていた老夫婦。
リョーマがいきなり遊びに行ってもいつも笑顔で迎えてくれ、たくさんのお菓子を振る舞ってくれて、楽しい話を聞かせてくれた。
(そうだ……よくリッキーの着られなくなった洋服を貰ったりしてて……だから、『使ってないものはあっさり捨てないで、必要な人にあげる』ってことを覚えたんだ)
だから、その『お祖父さん』が使っていたテニスのラケットが壊れてしまったと聞いた時は、父がもう使わないと言ったラケットを持っていった。結局は、その ラケットは父の元に帰ってきてしまったけれど、そのリョーマの気持ちが嬉しいと言って、たくさんお菓子を貰った覚えがある。
「このお祖父さんたち、どうしているんだろう」
しばらくしてリョーマが引っ越してしまったために、リッキーや老夫婦との写真は途中からぷっつりとなくなってしまっている。
リッキーは今もテニスを続けているだろうか。
そしてあの老夫婦はどうしているだろう。とても元気な二人だったから、きっと今も変わらぬ笑顔で生き生きと過ごしているのではないかと思う。
懐かしさに心をいっぱいにしながら、リョーマはまた何枚か頁を戻して、もう一度じっくりと眺めてゆく。
その時、あることにリョーマは気づいた。
優しげにリョーマと映っている老紳士の写真。その老紳士の顔を見て、リョーマは目を見開く。
「これ……」
リョーマはベッドから飛び降りて机の引き出しを勢いよく開け、あの眼鏡を手にしてベッドに駆け戻った。
「やっぱり……これ……同じ、もの……」
老紳士がかけていたのは、今、リョーマの手元にある黒縁の眼鏡。
シンプルなデザインではあるが、フレームのちょっとしたカーブの角度や、全体の形が、そっくりだった。
「なんで……?……どういうこと…?」
なぜ老紳士がこの眼鏡をかけているのか。
いや。
なぜそれを、手塚が、持っていたのか、だ。
「なんで……部長が……」
思いもかけなかった展開に、リョーマはきつく眉を寄せた。


















翌日、昼休み。
リョーマは昼飯を急いで平らげ、生徒会室へと向かった。
コンコンと軽くノックすると、しばらくしてドアが静かに開いた。
「越前…」
手塚が嬉しそうに微笑む。
その手塚を見上げて、リョーマも小さく微笑んだ。
中に通され、二人以外誰もいない静かな空間で、二人は向かい合う。
「もう来てくれないかと思っていた」
「なんで?」
「……もうああいうことはしたくないと言ったのはお前だぞ。来ないと思う方が普通だろう?」
「………べつに……あーゆーコトだけしに来たワケじゃないないし」
そっぽを向いてボソボソ呟くと、手塚が小さく笑う。
「コーヒーでも飲むか?インスタントしかないが」
「うん」
小さく微笑みながら頷くと、手塚も微笑みながら頷いた。
「俺の席に座っていろ」
「はーい」
座り心地のいい、黒いフェイクレザーのイスに深く腰掛けると、その心地良さにリョーマはうっとりと目を閉じたくなる。
「ホント、このイス、座り心地いいね」
「そうか?」
紙コップを二つ手にして手塚が戻ってくる。
「砂糖とミルク、適当に入れたが、よかったか?」
「うん。ありがと」
礼を言って受け取ると、手塚は会議用の机の方からイスを一脚引き寄せてリョーマの隣に腰を下ろした。
「オレがこっちに座っちゃっていいの?」
「構わない。好きなんだろう?そのイスが」
「ん…まぁ…」
べつにイスに座りに来たわけではない、と言おうと思ったが、やめた。
手塚に逢いたかったから来たのだと、簡単に白状させられてしまいそうだったから。
「もうすぐ試合だね」
「ああ」
コーヒーを啜りながらリョーマが言うと、手塚の表情が、少し引き締まったように見えた。
「オーダーとか、もう決めた?」
「いや……まだ決定はしていない。竜崎先生といろいろ話しているところだ」
「ふーん」
話したいことからずれた話題になっている自覚はあったが、核心に触れる勇気が、リョーマにはなかなか出せない。
なぜ、手塚があの眼鏡を持っていたのか。
だがそれを訊くためには、手塚が空港でリョーマを助けてくれた『あの人』であると、手塚自身に認めさせなければならない。
その証拠は、まだリョーマの手には、ない。
グルグルと考え込んでリョーマが黙っていると、手塚がふぅと、溜息を吐いた。
「ぁ………え?、どうかした?」
内心動揺してリョーマが手塚の表情を覗き込むと、手塚が、どこか困ったように眉を引き寄せてリョーマを見た。
「………やはり、触れては駄目か?」
「え…」
「少しでもいい、お前に触れたい」
「………」
直接的な手塚の言葉にリョーマの頬が紅く染まる。
リョーマも、手塚に触れられのるが嫌なわけではない。
手塚に触れられて、我を忘れて手塚を求めてしまうのが、恐いのだ。
「越前……駄目か?」
「………」
熱い瞳にじっと見つめられ、リョーマの鼓動が早鐘のように鳴り響く。
手塚が、そっと紙コップを机に置き、リョーマの手を握ってくる。
「ぁ……」
「越前…」
手塚がリョーマの手を引くと、キャスターの着いたイスは簡単に手塚の方へ引き寄せられた。
「あ……っ」
「捕まえた」
優しく抱き寄せられ、手の中の紙コップは取り上げられて机に置かれ、リョーマ自身は手塚の膝の上に座らされる。
「キスは……訊かなくていいんだったな?」
「……訊いてるじゃん」
リョーマが火照る頬を見られたくなくてそっぽを向こうとすると、その前に顎を捕らえられ、口づけられた。
ほろ苦いコーヒーの味のする舌を絡められ、リョーマはうっとりと目を閉じる。
「越前……」
甘く名を囁かれ、手塚の唇がリョーマの首筋に寄せられる。
「ぁ……あ、んっ」
ゾクゾクと背中を快感が駆け上がり、リョーマは思わず声を漏らす。
いつの間にか手塚の指先が器用にリョーマの学ランのボタンをすべて外し、シャツのボタンも外して肌に直に触れてくる。
「あっ」
胸を撫でられ、突起に爪を引っかけられてリョーマが悶える。
「や、め…っ」
抗議しかけた口は、手塚の唇で塞がれてしまう。
「んっ……んんっ」
ねっとりと舌を絡められ、力が抜けてゆくリョーマの身体を手塚の腕がしっかりと支えてくれる。そうして手塚の指先が胸を滑り降りてズボンのファスナーにかかり、微かな音を立てて引き下ろし、変形を始めているリョーマの雄を取り出した。
「だ、め……っ」
「なぜ……?……何が嫌なんだ?」
甘く甘く、耳元で囁かれてリョーマは小さく身体を震わせる。
「こ、……声、が……っ」
「……声?」
「こえ……外に……聞かれたら、ヤ…ダ……っ」
飛ばされそうな理性の欠片でそう偽ると、手塚は少し黙ってから、徐に自分の学ランを脱いでリョーマの頭から被せた。
「な、に…?」
「それで口を塞いでいればいい」
そう言ってふわりと微笑むと、手塚はリョーマを抱き上げて、さっきまでリョーマが座っていたイスにリョーマを下ろした。
「や……だめ……」
「駄目じゃない。それで声を抑えていろ。言いたくない言葉も、だ」
「……っ?」
手塚は、自分の思考を何もかも理解してるのではないかと、リョーマはそんな気がした。
もしそうならば、手塚は、頑なな自分の態度をきっとひどく焦れったく感じているだろう。
それでも。
リョーマはリョーマのポリシーを持って行動する。
例えそれが手塚を焦らすことになっても、そして、自分の心の中が焦燥感でいっぱいになっても。
すべての違和感がなくなるまで、手塚には好きだと言わない。
「越前……」
リョーマの前に跪きながら、手塚が言い聞かせるようにリョーマに言う。
「お前に触れないと、俺がおかしくなる」
手塚は甘い吐息を零すと、乱れたリョーマの服をさらに乱して、ズボンを完全に押し下げてしまった。
「んっ!」
リョーマの雄が手塚の口内で愛され、上がりそうになった叫び声を、リョーマは、抱き締めた学ランに吸い込ませる。
「……っ!……んっ、ぁ……あっ」
抱き締めている学ランから手塚の香りがする。抱き締めているのは自分なのに、まるで手塚に抱き締められ、快感を与えられているような感覚に、リョーマは声にならない叫びをあげて身悶えた。
手塚は口でリョーマの性器を愛撫しながら、両手でリョーマの肌を撫で回し、腰を持ち上げさせて双丘をグッと鷲掴みにする。
「ふ、んんっ!」
ただ尻を強く掴まれただけなのに感じてしまい、リョーマは自分の反応に驚いて目を見開いた。
(なんで……今日は、いつもより、スゴイ、感じる……?)
そうしてリョーマは気づいた。
(これの、せいだ……)
顔を埋めている学ランから、手塚の甘い体臭が立ちのぼり、リョーマのあらゆる神経も、精神も、犯してくる。
(部長の、匂い……)
リョーマの雄が、固く張りつめる。
(好きだよ、部長……好き、好き、好き……っ!)
手塚の学ランを抱き締めたまま、リョーマが身体を撓らせる。
「んんっ、んっ、ん────っ!!!」
先端をきつく吸い上げられ、堪らずにリョーマは手塚の口内で一気に弾けた。
「んっ、あっ、ぶちょ……っ!」
何度か腰を痙攣させ、最後に一度強く硬直してから、リョーマの身体がゆっくりと弛緩してゆく。
詰めていた息を解放し、深呼吸するように息を吸い込むと、抱き締めた学ランから手塚の香りが胸一杯に広がった。
「………越前……」
手塚が立ち上がり、自分の学ランごとリョーマの身体を抱き締める。
「……そんなに嫌だったか?」
「……?」
抱き締められたまま囁かれ、リョーマは自分が泣いていることに気づいた。
「すまない……」
さらにぐっと抱き締められ、その腕の中でリョーマは首を横に振った。
「越前…?」
顔を覗き込まれ、リョーマは固く目を閉じたまま、もう一度首を横に振る。
「嫌じゃ…なかったのか…?」
コクンと、小さく頷くと、再びきつく抱き締められた。
「そうか…」
手塚の声に、喜びが混じる。
ポンポンと、優しく背中を叩かれて、リョーマの胸に幸福感が込み上げてきた。
零れた涙は手塚への想い。
好きで、好きで、好きすぎて、言葉にできない感情が溢れて涙になった。
「ぶちょ…は……いいの?」
「ん?」
呟くようにリョーマが問うと、手塚は優しく聞き返し、クスッと笑った。
「止まらなくなるからいいと、前にも言ったはずだ。それとも、ここで最後までしてもいいのか?」
「!……ダメっ!」
ビックリして離れようとするリョーマを、手塚の腕がグッと引き留める。
「だから、今は、しない。……俺に抱かれてもいいと思った時は、いつでも、どこでもいいから、誘ってくれ」
「な……っ」
「俺はいつでも、お前を抱きたいと思っている。それを忘れるなと言う意味だ」
「………」
リョーマは了解の意味を込めて、真っ赤に染まった顔を手塚の胸に埋める。
「好きだ……越前……ずっと……」
甘く囁かれて、リョーマはゆっくりと手塚を見上げる。
「ぶちょ……」
「早く俺を好きになってくれ……越前……」
強く熱い瞳で真っ直ぐ見つめられ、甘く、深く、口づけられる。
コーヒーとは違う微かな苦みに小さく眉を顰めながら、リョーマは求められるままに手塚の口づけを受け入れる。
「ぶちょ……」
静かに唇が離れたあとで、リョーマはぼやけてしまいそうな思考を無理矢理引き締めて、手塚を見上げた。
「ひとつだけ、教えて」
「ん?」
大好きな甘い声が、さらに熱っぽくリョーマの耳に届く。
「なんだ?」
「ぶちょ………アメリカの…L.A.に、行ったこと、ある?」
「………」
手塚は短く沈黙してから、静かに口を開いた。
「ある」
「………そっか…」
リョーマはそれだけ言って、もう一度手塚の胸に顔を埋めた。
今は、この質問だけで充分だった。
少しずつ、少しずつ、真実が綻び始めている。
(もうすぐ、アンタを、捕まえるよ…)
そしてその時、自分も手塚に捕まえられるのだろうとリョーマは思う。
(アンタを捕まえて、早くアンタに捕まりたい)
きっと自分は、自分で思う以上に手塚を求めている。
「………」
手塚の胸に頬を擦り寄せると、少しだけ乱暴に顎を掴まれ、上向かされて口づけられた。
もう何度も口づけを交わしたが、口づけるたびに、手塚の舌が熱く、甘くなる気がする。
うっとりと目を閉じ、心の中で、リョーマは甘く甘く、想いを込めて呟く。
(好きだよ、部長…)
「越前……」
リョーマの声が聞こえたかのように、手塚は熱い吐息を零しながら、さらに深くリョーマの身体を抱き締めた。
そうしてリョーマは、胸に抱き締めたままの手塚の学ランにそっと口づける。
(いつか……アンタの学ランじゃなくて、アンタ自身に、もっともっと包まれたい、な……)
手塚の声、息遣い、腕の力強さ、そして爽やかで甘い体臭。
それを直に、全身で感じ取りたい。
自分が手塚と同じ男であることは、もう一切、気にはならない。
その同じ男に「包まれたい」と願ってしまう自分の感情にも、もう、嘘はつけない。
八重桜の下で出逢った、甘い声の、とても綺麗に微笑む男。
(アンタが、すごく、好きだ……)
この想いを直接言葉にして伝えられる日は、きっとそう遠くはないと、リョーマは思った。







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20080223