公園


<2>


「手塚が来てない?」
学校に戻り、部に手塚が参加していないことを知って不二は目を見開いた。
リョーマも不二の後ろで訝しげに眉を寄せる。
部員たちに妙な心配をかけないように、不二は少し声を潜めて大石に詰め寄った。
「どういうこと?手塚が部に出てこないなんて、何かあった?」
「詳しくはわからないんだけど、家の都合だって電話で言っていたんだ」
「ふぅん……」
不二が顎に手を当てて考え込む。
「不二先輩」
リョーマに小さく袖を引かれて、不二は振り返った。
「オレ、部活終わったら、部長の家に行ってみます」
「…僕も行こうか?」
「………お願いします」
「うん。わかった」
リョーマは短く溜息をつき、とりあえずこれ以上周りに不審がられないように、練習に加わることにした。



あまり身の入らない練習を終え、コート整備や着替えをいつもの倍速ですませたリョーマは、不二と共に手塚の家へと向かった。
「手塚の家に行ったことある?」
「ぁ、いえ、初めてっス」
学校からバスや電車を乗り継いで見知らぬ駅に降り立ったリョーマは、不二にそう答えながら辺りをキョロキョロと見回した。
「こっちだよ、越前」
「ぁ、はい」
「ここからは歩いて行くからね」
「ういっス」
たぶん何度も来ているのだろう不二のあとについて、リョーマは見知らぬ街を歩き出した。
だがしばらく歩くうちに、妙な既視感があることにリョーマは気づいた。
(この道……前に通ったことある……?)
手塚の家になど行ったことはないが、なぜかこの道だけは知っているとリョーマは思った。
「もうすぐだよ」
「ういっス」
閑静な住宅街に入り、しばらく行くと和風情緒のある、付近ではかなり大きめの家の前に出た。
「ここが手塚の家」
「………」
不二に教えられて、リョーマは手塚の家を見上げた。
リョーマの家もかなり趣のある佇まいだが、手塚の家はそれ以上に風格さえ感じる。
「…とりあえず正面玄関から訪ねてみようか」
「…はい」
不二はリョーマに小さく笑いかけてから、躊躇いなくインターフォンを鳴らした。
『はい。どちら様でしょうか』
おっとりとした、だが若々しい女性の声が、インターフォンから聞こえてきた。
「青学の不二です。手塚くんはご在宅ですか?」
『あらあら不二くん?ちょっと待ってね』
ガチャンと電話の受話器を置くような音が聞こえて少しすると、玄関の戸が静かに開いた。
「いらっしゃい不二くん。お久しぶりね」
中から現れた女性に不二は静かに礼をする。リョーマもペコリと頭を下げてみた。
「手塚、いますか?」
「ああ、ごめんなさい、今ランニングに出掛けちゃって」
「そうですか」
「どうぞ中に入って。もうすぐ戻ると思うのだけど」
「いえ」
不二はチラリとリョーマを振り返り、リョーマが小さく頷くのを確認してから口を開いた。
「大した用ではないので、また改めて伺います。失礼します」
「あとで電話させるわね」
「はい。よろしくお願いします」
手塚の家に背を向けて歩き出し、角を曲がったところで二人は足を止めた。
「ここで待っていてみようか」
「はい」
「……本当に家の用事で部活を休んだのかな…」
「…………」
リョーマは俯いて唇を噛んだ。
家のドアから出てきた女性(たぶん手塚の母親と思われる)の様子から見ると、特に「何かあった」ふうには見えなかった。
だとすると、手塚は、手塚自身の理由で部を休んだことになる。
(そんなこと、今まで一度もなかったのに…)
リョーマが青学に入学してから、いや、青学テニス部に入部してから、手塚が私的な理由で休んだのは肩の治療のために東京を離れていた時だけだ。それ以外は、例えラケットを振ることが出来ない状態でも、必ず部には出ていた。
なのに、その手塚が、今日は「私的な理由」で部には来なかった。
リョーマの胸に渦巻いている不安が、さらに色を濃くした。
二人が考え込むように口を噤むと、不意に不二の携帯が鳴り出した。
「ちょっとごめん」
携帯を取り出して話し始める不二から目を逸らし、リョーマは手塚の家の方を見遣った。
間もなく完全に沈む夕陽の中、橙黄色から藍色に変わる空が向こうに見えて美しい。
リョーマは、今まであった手塚との時間をひとつひとつ思い出していた。
出会って間もない頃の、手塚に対してあまりよくない感情を抱いていた時間。それを見直すきっかけにもなった地区予選でのアクシデント。
高架下のコートでの、二人だけの試合。
関東大会での手塚の負傷。
そして、あの指輪を買った日、初めて見た手塚の素顔。
あの日以来少しずつ近づくことが出来た心の距離が、今また、突き離されようとしている。
口づけられた時の手塚の唇の感触も、肌を滑る手塚の温かな手の感触も、耳元で囁く甘く掠れた声も、すべてはっきりと思い出せるのに。
(はっきり……?)
リョーマの中で何かが引っかかった。
自分は手塚を忘れそうになっているのではないのか。
だとしたら、手塚と過ごした時間をこんなにもはっきりと思い出せるのは、どこかおかしな話だ。
(忘れるわけじゃ、ないのか……?)
鼓動が、ドキドキと嫌なリズムを刻み始める。
(死ぬよりもつらいこと……オレの中で、部長の記憶がなくなるとかじゃ、ないのか…)
「越前」
「え」
自分の考えに深く沈み込んでいた思考を、唐突に不二の声が引き上げる。
「ぁ、なんスか?」
「ごめん、すぐに家に帰らないとならなくなっちゃった」
「あ……そうなんスか。いいっスよ。オレはもう少し、ここで部長を待ちますから」
「ごめん、越前。じゃあ、また明日」
「ういっス。ありがとうございました、不二先輩」
リョーマが礼を言うと、不二は小さく笑ってリョーマの肩を軽く叩いた。
「じゃ」
背を向けて駅に向かう不二を見送って、リョーマはまた手塚の家に目を向ける。
空の藍色が、一段と濃くなってきた。








それから二時間近く待っても手塚は現れなかった。
(あのオバサン、もうすぐ帰るって言っていたのに……)
さすがにおかしいと思い始めたリョーマは、手塚の家の前まで行ってみることにした。
門扉の前まで行き、だがまたインターフォンを押すのは躊躇われて、塀伝いに歩いてみる。
すっかり日が落ちて暗くなり、家々の窓から漏れる明かりが淡く辺りを照らしている。
(部長の部屋って、どの辺なんだろう…)
背伸びをしてみたり、飛び上がってみたりしたが、塀が高くて家の様子はよくわからなかった。
(………今日は帰ろうかな……)
溜息をつきながら、ふと、少し先の塀に目をやると、そこにはまた小さな門があった。
(裏口…?)
リョーマは門に駆け寄り、中を窺ってみる。
手塚の家は本宅と、それからこの裏口に近い離れのような別邸に別れていて、両館を繋ぐ回廊のような屋根付きの細い渡り廊下が見えた。
(ここから入ったのかな…)
別邸の方に目をやると、窓から光が漏れている。
(あれ……?)
また既視感に襲われた。
別邸の窓から漏れる光を見た途端だった。
(こんなふうに、あの窓の光を…見たことが……?)
そんなはずはないと思った。
だいたい手塚の家に来るのも初めてならば、こうして別邸があるのを知ったのも「たった今」なのだ。
なのに、自分は、この光景を前に見たことがある。
リョーマは短く考えて決心すると、グッと顎を引いて門に手を掛けた。
門には鍵はかかっていなかった。
音もなく開いた門を再び音を立てないようにして閉め、リョーマは本宅よりも小さな、一部屋分程度しかない造りの別邸に近づいてゆく。
(明かりが点いているってことは、誰かいるんだよな…)
大きな窓にそっと近寄り、中を覗いてみる。
カーテンは引かれておらず、部屋の中はよく見えたが、部屋には誰もいないようだった。
(誰もいないんだ……あ?)
窓のすぐ近くにある机の上に、リョーマも買っているテニス雑誌が置いてあった。
(もしかして、ここが部長の……?)
中に人がいないなら遠慮はいらないとばかりに、グッと身を乗り出して中を窺うと、窓の反対側にあるベッドの近くに見知ったラケットケースを見つけた。
(部長のだ…!)
リョーマはこの部屋が手塚のものであることを確信した。
だが肝心の手塚は食事にでも行っているのか、部屋にはいない。やはり本宅の方にいるならば、改めて正面玄関のインターフォンを鳴らそうかと思い、リョーマは窓から離れようとした。
その途端、身体が何かに拘束された。
「な……っ?」
いきなり身体が動かなくなってビックリしたが、その「拘束の仕方」には覚えがあり、リョーマは自分を落ち着けるためにそっと目を閉じた。
きつく締め付けてくるのはよく知っている人の腕。その腕の強さ、背中に感じる相手の体温、鼓動、すべてを感じ取り、リョーマはゆっくり目を開けた。
「………部長?」
「………ああ」
リョーマは気が抜けたようにスッと身体の力を抜いた。
「ビックリした……」
「それはこっちの台詞だ。こんな時間にいきなりどうしたんだ?」
「それを言うなら、それもこっちの台詞」
そう言いながらリョーマが振り返ると、手塚は小さく目を見開いてから、ふわりと微笑んだ。
「なんだかややこしいな」
「ホントっスね」
クスッと二人で微笑み合う。
「……あがれと言いたいところだが、今日はもう遅い。送っていく」
「ぁ………ういっス」
手塚はもう一度柔らかく微笑んで、そっとリョーマの手を握ってきた。
「部長…」
「…繋いでいても、いいか?」
「うん」
嬉しそうに微笑むリョーマを見て、手塚の瞳が柔らかく細められる。
門を出て、バス停の方へ向かおうとする手塚の手を、リョーマがキュッと引っ張って制した。
「ん?」
「……少し、このまま歩きたいっス」
「…わかった」
リョーマの小さな我が儘を、手塚はひどく嬉しそうに微笑んで了承する。
手塚はリョーマの手を引いて、バス停とは反対側の方へ歩き始めた。
住宅街の中の誰もいない道を、二人だけの足音が小さく響く。
家々の窓から零れてくる明かりが仄かに足下を照らし、その光をボンヤリと見つめながらリョーマは口を開いた。
「…今日は、どうして部活に来なかったんスか?」
「…………家の用事だ」
「ホントに?」
「……ああ」
前を向いたまま答える手塚をチラリと見遣って、リョーマは小さく溜息を吐いた。
「……実は今日、朝から不二先輩と新橋に行って来たっス」
「え?」
手塚が足を止めてリョーマを見下ろしてきた。その手塚をゆっくりと見上げて、リョーマは小さく眉を寄せる。
「会えたっスよ、あの店の人に。それで、ビックリするようなことも、教えてもらったっス」
「ビックリするようなこと?」
眉を寄せてリョーマを見つめる手塚の瞳を、リョーマは真っ直ぐに見つめ返す。
「指輪を作ったのは、あの人だって。嘘かホントかはわからないっスけど、自分からそう言ってました」
「………それで?」
リョーマの手を握る手塚の手に僅かに力が籠もるのを感じて、リョーマは目を見開いた。
「……もう時間がないって。オレが何かの『答え』に気づかないと、指輪の呪いが解けないって言われたっス」
「その答えについては、何か言っていなかったのか?」
「……オレが自分で気づかないとダメみたいっス」
手塚の手から、またスッと力が抜けるのを感じ、リョーマは訝しげに手塚を見つめた。
「そうか……答えに近づいたわけではないのか……」
声音は平静を装ってはいるが、力の抜けた手塚の手が、その落胆振りを表しているように、リョーマには感じられた。
再びゆっくりと歩き出しながら、リョーマは小さく息を吐いた。
「でも、ヒントはもらった気がするっス」
「ヒント?」
チラリと、手塚の視線がリョーマに向けられる。
「オレは、『人魚姫』を見つけ出さなきゃならないって」
「人魚姫?」
手塚を見ずに言うリョーマの横顔を、手塚が凝視するのがリョーマにもわかる。
「………ねえ、部長」
「ん?」
「人魚姫に出てきた王子は、なんで人魚姫のことを気づいてやれなかったんだろう」
呟くように言うリョーマの疑問に、手塚はしばらく沈黙してから口を開いた。
「…その王子は、きっと、外見や常識ばかりに囚われて、彼女の本質を知ろうとしなかったからなんじゃないのか?」
「彼女の本質…」
「普段どんなに大人しく、控えめな女性に見えても、彼女は恋した相手のために何もかも捨てて逢いに行くほど激しい愛し方をする人だった。それほどまでに愛されているのに、彼女としっかり向き合わなかったから、王子は気づけなかったんだ」
まるで確信しているように話す手塚の横顔を、今度はリョーマがじっと見つめた。
「彼女はきっと、言葉で愛を告げられない代わりに、その瞳にありったけの想いを込めて見つめていたに違いない」
「言葉の代わりに…?」
「そうだ」
前を見つめたまま、手塚が頷く。
「人魚姫の場合は、物語性を高めるために『美声と引き替えに人間の足を得る』ということにしたのだろうが、そうでなくとも、自分の想いを何らかの事情で言葉にして伝えることの出来ない人は、この世には案外いるものだろう」
「………部長は……」
「え?」
立ち止まるリョーマに引き留められるように、手塚も足を止めた。
「部長だったら、言葉の代わりにどうやって想いを伝えますか?」
「…………」
真っ直ぐ見つめてくるリョーマの瞳を、手塚は一度ゆっくりと瞬きしてから同じように真っ直ぐ見つめ返してきた。
「…俺はもともと、言葉で伝えるのは苦手だからな。それでも全く言葉が使えないならば……傍にいることしかできないかもしれない」
「傍にいるだけじゃ、伝わらないかもしれないっスよ。人魚姫みたいに…」
「そうだな……傍にいて、相手が振り向いてくれなかったら……」
手塚はゆっくりとリョーマを引き寄せてそっと抱き締めた。
「…自分の想いに囚われて、相手の気持ちを考えずに相手をメチャクチャにする…」
「え…」
「…そんなふうになる前に、相手の傍から逃げ出すかもしれない。……正気だったらな」
ギュッと抱き締められて、リョーマは目を見開いた。
「部長…」
「ん?」
「好きだよ、国光」
「………ああ」
さらにきつく抱き締められて、リョーマは目を閉じた。
リョーマの心の中にずっとこびり付いている小さな不安が、一瞬、胸一杯に大きく膨れあがった。
「好き…」
手塚の背に腕を回して、リョーマは力いっぱいしがみついた。このまま、手塚がどこかへ行ってしまうような錯覚を覚えたからだ。
「大好き…」
「リョーマ……」
手塚の想いをしっかりと受け止めているのだからそんなはずはないとわかっているのに、リョーマの不安は消えてくれない。
「ちゃんと、アンタのこと、本当に、好きだから……」
「………わかっている」
宥めるように優しく髪を梳かれた。その優しい手塚の手の感触が、余計にリョーマの胸を締め付けてくる。
「約束、しようよ」
「約束?」
手塚の腕の中で、リョーマはそっと顔を上げた。
「オレが指輪のこと解決して、アンタに話してないこと全部話して……それでもアンタがオレのこと好きって思ってくれたら、その時は……ちゃんと、最後まで、しよう…」
暗がりでもわかるほど真っ赤に頬を染めて言ったリョーマの言葉に、手塚は大きく目を見開き、黙り込んだ。
「ぁ……その……ごめ…変なこと言って……」
「リョーマ」
慌てて離れようとするリョーマの身体を、手塚が優しく引き寄せる。
「…お前が何を言おうと、俺の想いは変わらない。約束などしなくても大丈夫だ」
「でも」
「俺は変わらない」
きっぱりと言い切る手塚にリョーマは小さく笑みを零す。だがその口元が、すぐに切なげに引き結ばれる。
「俺は、お前しか愛さない……いや、お前以外は、もう…愛せない…」
「国…み……?」
手塚の言葉がどこか苦しげな告白にも聞こえてリョーマがそっと顔を上げると、手塚の手にさらに上向かされ、深く口づけられた。
「ん……」
甘く舌を絡め取られ、リョーマはうっとりと目を閉じる。口づけながらさらにきつく抱き締めてくる手塚の腕の強さに、愛しさが込み上げてきた。
(このまま、アンタのものになりたいのに……)
口内を愛撫され、髪を優しく撫でつけられ、リョーマは手塚の感触に陶酔する。
そっと唇を解放されてもリョーマはしばらくその余韻に目を閉じたまま手塚に身体を預けていた。
「リョーマ…」
「なに…?」
手塚が優しい声でリョーマの耳元で囁く。
「…例え、指輪の呪いが解けなくとも、俺はずっとお前を愛している……」
「え……」
「愛してる…」
再び深く口づけられ、その恍惚感にリョーマの中にたった今生まれた新たな不安が掻き消された。
「ぁ……っ」
唇だけでなく、リョーマの頬や額にも口づけていた手塚が、不意にクスッと笑った。
「…歩けるか?」
「え?……ぁ、なんとか……」
「向こうから人が来る。…ここが道端だというのを忘れて押し倒すところだった」
「う…」
二人が立ち止まっていたのは街灯から外れたところだったために目立つことはなかったが、向こうから歩いてくる仕事帰りらしいサラリーマンに、すれ違いざま訝しげな視線を向けられた。
「真面目に歩かないとな」
「………そっスね」
二人は囁き合い、微笑み合う。サラリーマンには見えないように手は繋いだままだった。
「部長、明日は部活に来る?」
「………ああ」
静かに頷かれ、リョーマは少し安心して微笑んだ。
「えーと、ここってどの辺なんスか?かなり歩いた気がするンスけど」
「ああ、たぶんもうお前の家の近くだ」
「え?もう?」
「電車やバスを使うと遠く感じるが、直線距離にすると案外近いみたいだぞ」
穏やかに言われ、リョーマは「そうなんだ」と感心した。
「なんで知ってるんスか?部長、歩いてオレの家に来たことある?」
「…何度か、行ったことがある」
「え?いつ?」
手塚は短く黙り込んで、ひとつ、小さな溜息を吐いた。
「最初は……あの、お前が誘ってくれた試合観戦の日だ」
「あの日、から…?」
「ああ…旅立つ前にどうしてももう一度逢いたくなった。結局逢わなかったけどな」
少し照れたように視線を外す手塚を見て、リョーマは目を見開いた。
「治療から戻ったあとも…ランニングをしていて、急にお前に逢いたくなって……だが時間が時間だったし、いきなり押しかけるわけにはいかなくて…家の前まで行って、……そのまま帰ってきたりした」
「…………」
珍しく歯切れの悪い手塚を、リョーマは思わずポカンと口を開けて見つめてしまった。
そんなリョーマに、手塚は小さく苦笑する。
「おかしいか?俺がそんなことをするなんて」
「ううん……なんか……いや、確かに意外だけど…すごく、嬉しいって言うか……」
リョーマはギュッと手塚の手を握り締めた。
「うん、嬉しいっス。アンタがそんなふうにオレのこと想ってくれていたなんて………すごく、嬉しい…」
「俺は……たぶん、お前が思っている以上に、お前のことを愛している。お前がもし俺の心の中を見たら、きっと呆れてしまうほど、お前のことでいっぱいなんだ」
「オレのことで…?」
「ああ」
真っ直ぐ見つめられ、柔らかく微笑まれて、リョーマは頬を真っ赤に染めた。
「あのさ……アンタ、言葉で伝えるのは苦手って、さっき言ってたけど、全然そんなことないと思うけど?」
「ん?」
リョーマは繋げている手塚の手をもう一度しっかりと握り、その腕にそっと身を寄せた。
「だって…さっきから、いや、もうずっと前から、アンタの言葉は心臓に悪くて…」
「心臓に悪い?」
「ドキドキするってこと」
「………そうか」
手塚もギュッとリョーマの手を握り締めてきた。
「…俺の言葉は、お前には全然届いていないのかと思っていた」
「え……そんなことないっスよ?なんで、そんな…」
「ん……いや……そんな気がしただけだ………この辺でいいか?」
「え?」
急に足を止めた手塚に驚いてリョーマが見上げると、切なげに微笑む手塚と真っ直ぐに目が合った。
「真っ直ぐ行けば、たぶんお前もよく知っている大通りに出るから……」
「ぁ、うん」
ガッカリしたように言うリョーマに、手塚は小さく微笑んだ。
「…お前の家の前まで行くと……上がり込みたくなるんだ」
「ぁ……」
手塚の言う意味がわかり、リョーマはやっと熱が引いてきた頬を、再び真っ赤に染め上げる。
「だから、今夜はここで」
「うん…」
微笑んで頷くと、手塚も柔らかく微笑んだ。
「気をつけて帰れよ」
「うん……」
手塚はチラリと周囲に視線を走らせて誰もいないことを確認すると、チュッと音を立ててリョーマに口づけた。
「………じゃあな。おやすみ」
「おやすみ…また明日…」
「……そうだな……また、明日……」
もう一度リョーマの額に優しく口づけてから、手塚はゆっくりとリョーマに背を向けた。
「送ってくれてありがと、国光」
リョーマが声を掛けると、手塚は振り返って軽く手を挙げてくれた。リョーマも手を振り返すと、手塚は嬉しそうに微笑んで、また背を向けて歩き出した。
(訊きたいことがいっぱいあったのに…一緒にいると何も訊けなくなっちゃうな……)
手塚の傍にいると、心の奥から喜びが込み上げてきて楽しい話題だけを話したくなる。
手塚の傍にいると、それだけで身体が甘い熱を帯び、全身で手塚を感じたくて堪らなくなる。
さっきまで繋いでいた手を見つめ、リョーマはふわりと微笑んだ。
今日は手塚の言葉も、温もりも、何一つ逃さずに感じることが出来た。それがひどく嬉しくて、今まで感じていた「手塚を失くすかもしれない」という恐怖が、心から遠のいているのがわかる。
もしかしたら、今は、指輪のせいで何らかの影響を受けているだけで、そのうちに手塚の声が聞こえなくなることも、忘れそうになることもなくなるのではないかとさえ思えてきた。
途端に足取りも軽くなった。
(やっぱり逢ってよかったんだ。話をしたら、疑うこともなくなってきた…)
「ぁ、この道…ここに出るんだ……」
手塚の言った通りに歩くと、見知った大通りに出た。
(後はここを曲がって少し行けば公園があって、そこを………)
リョーマはギクリとして唐突に立ち止まった。
「公園……」
それはどこにでもあるような公園だった。さほど大きくはない滑り台と、ブランコが二つ。滑り台の近くには小さな砂場もある、オーソドックスな公園。
だが、リョーマはその公園の入り口で目を見開いたまま立ち尽くしていた。
「ここは………あの時の……」
リョーマはゆっくりと公園に足を踏み入れた。
もうすでに時間は九時近くということもあり、園内には誰もいない。その園内をぐるりと見渡し、リョーマはひとつのベンチを見つけてゴクリと喉を鳴らした。
(あのベンチだ…)
リョーマはゆっくりと、その木製のベンチに近づき、間近で眺めてみた。
公園内を照らす電灯がベンチのすぐ横にあり、まるでベンチにスポットライトを当てているかのように暗闇に浮かび上がらせている。
「そうか…だから、あの視界の中で、このベンチだけは光ってるみたいに見えて……」
全国大会前日に『あの男』と来ていた公園。
あの『夢』の中で所々に見覚えのあった場所は、すぐに見知った道に出たことからも、たぶんリョーマの家の近くにあるだろうとは思ったものの、探そうとする前にいろいろなことがありすぎて、夢で公園に来たこと自体をすっかり忘れていた。
あの時、不鮮明な視界の中でも目に留まったベンチ。それが今、目の前に、ある。そうしてリョーマは、あの時『あの男』と来ていた公園が、確かにこの公園だと確信した。
手塚とともに居てフワフワと浮かれていた気分が、一気に引き締まった気がした。
(そうだ……オレはアイツを見つけ出すって、決めたんだった…)
その手掛かりを得るために、手塚にいろいろ話を聴かなければならなかったのだと、改めて思い出した。
それなのに自分は指輪とは関係のないような話ばかり、手塚と語り合っていた。
手塚の傍にいることが嬉しくて、どこか冷静になれていなかったのかもしれない。
「………ちっ」
リョーマは自分が情けなくなって思わず前髪を乱暴に掻き上げた。投げやり気味に短く溜息を吐き捨て、どっかりとベンチに腰を下ろす。
「なにやってんだよ……なんのために部長のことずっと待って………」
そうしてふと、リョーマは手塚の家でのことを思い出した。
手塚の家に着くまでの道を、何となく知っているように思えたこと。
手塚の部屋と思われる、あの離れの窓から漏れる明かりを外から見つめた時の既視感。
そしてそこから立ち去ろうとした時、手塚に後ろから抱き締められたこと。
(そうだ……あの時……)
妙な感じだった。
抱き締められた瞬間は、ただ、自分の身体が急に動かなくなったような感じがしたのだ。
『誰かに抱き締められた』と感じたのではなく、『身体が急に動かなくなった』と感じた。
それでも冷静になれたのは、そこが手塚の家で、微かに身体に感じた拘束感が、手塚に抱き締められたのと似ていると感じ取れたからだった。
もしも全く知らない場所であんな感触に見舞われたなら、いきなり自分の身体が動かなくなったとパニックを起こしていたかもしれない。
冷静になって、自分を拘束するのが手塚なのではないかと考え、手塚だと確信した瞬間、はっきりと『それ』が『後ろから抱き締められている』のだと理解した。
(部長だ、って思ったのが先だった?抱き締められているような感じだから、部長かもしれないって思った?)
その辺がどうも曖昧な気はするが、そのことは、なぜかとても大切な問題のような気がしてきた。
(そのあとはずっと手を繋いでいて……)
だからずっと手塚を感じていることが出来た。とても幸せな時間だった。
(あれ……?)
そのことにも何かが心に引っかかったが、その『何か』を捕まえる前に、それは曖昧になって心の不安の中に溶けていってしまった。
(それから新橋に行ったことを話して……人魚姫の話をして……)
リョーマは手塚の様子を思い出して、小さく眉を寄せた。
(部長……あの指輪を作ったのがあの店の人だって話しても、あまり驚かなかったな……)
そのことよりも、その事実を知ることによってリョーマが何か答えに近づいたのかということを気にかけていた。
そして『人魚姫』の話。
リョーマは手塚の言葉をひとつひとつ思い出していった。

『外見や常識ばかりに囚われて、彼女の本質を知ろうとしなかった』

『普段どんなに大人しく、控えめな女性に見えても、彼女は恋した相手のために
 何もかも捨てて逢いに行くほど激しい愛し方をする人だった』

『しっかり向き合わなかったから、王子は気づけなかったんだ』

『言葉で愛を告げられない代わりに、
 その瞳にありったけの想いを込めて見つめていたに違いない』

『自分の想いを何らかの事情で言葉にして伝えることの出来ない人は、
 この世には案外いるものだろう』

『傍にいて、相手が振り向いてくれなかったら
 自分の想いに囚われて、相手の気持ちを考えずに相手をメチャクチャにする』

『そんなふうになる前に、相手の傍から逃げ出すかもしれない』

手塚の言葉すべてが、リョーマの心の中でパズルのピースのようにバラバラに散らばり、位置を変え、向きを変え、繋がり合って何かを形作り始める。
「外見、常識、本質…言葉で伝えられない想い…」
覚えている手塚の言葉を反芻するように呟きながら、リョーマの眉がきつく寄せられてゆく。
「気づかない王子……振り向かない相手……を……、メチャクチャに……」
ドクンと、リョーマの心臓が嫌な音を立てた。
「違うよ、部長はそんなコトしない………部長だって、そうなる前に相手の前から逃げ出すって……」
誰かに弁解するように呟いていて、リョーマは急に口を噤んだ。

『正気だったらな』

唐突に、手塚が言ったその一言が気になりだした。
「もしも、正気じゃなかったら……部長もアイツみたいにオレのこと……?」
自分でそう呟いておいて、リョーマはブンブンと頭を横に振った。
「違う。もし部長がアイツなら、オレはきっともう何度も部長と最後までしてるはずだ」
なぜなら手塚とはもう何度も疑似SEXをしてきたからだ。もしも手塚が『あの男』ならば、『夢』では何度も深く身体を繋げたはずのリョーマと、頑ななまでに身体を繋ごうとしない理由もわからなくなる。
「でも……もしも……」
あの夢の中でリョーマの意識が朦朧としていたように、あの瞬間、手塚も自分の意志ではなく、誰かに身体を乗っ取られるように動かされていたのだとしたら。
(いや、それも違う……オレみたいに乗っ取られていたなら、試合の前や試合中にオレのこと抱かなかったのはおかしい……)
そうしてリョーマは、『あの男』の行為を思い返してみた。
確かに最初の頃は乱暴に抱かれたと思う。風呂に入って身体を温めて、漸くなんとか動けるようにはなったが、身体の奥を無遠慮に掻き回されたようなあの不快感は思い出すだけでも嫌悪したくなるほどだった。
抱かれている最中に束の間だけ意識が戻るようになってからは、カラダが感じるのは快感ばかりで嫌悪を抱く暇すらなくなっていったけれど、朝起きた瞬間のひどい怠さは毎回感じていた。
(乱暴、…だったのかな……)
確かに、本来外からの異物を受け入れるようには作られていない場所に半ば強引に熱い肉塊を捩り込まれ、激しく揺さぶられたダメージは大きかった。だが揺さぶりながら『あの男』は、リョーマに何かを必死に囁いていた気がする。
(何を……言っていたんだろう……)
ずっと『あの男』には乱暴に扱われてきたと思っていた。だが思い起こしてみれば、『あの男』に殴られたり、手足を縛られたりした記憶は、ない。
最初の時も、後孔がひどく腫れてはいたものの、出血はしていなかった。
最近になって『あの男』の抱き方が優しいと感じたのは、行為の最中に意識がある時間が延びただけであって、もしかしたら最初から『あの男』は優しくリョー マを抱いていたかもしれない。リョーマが体調を崩したのは、男の持つ性器の大きさにリョーマのカラダが馴染んでいなかったからではないのか。
(初めて、だったんだし……)
行為そのものに慣れていないリョーマのカラダが、大きな男のモノを受け入れ、それだけではなく情熱的に突き上げられ、奥を掻き回されたりして、無事ですむはずがなかったのだ。
「ぁ……」
不意に、先程の手塚の言葉が、再びリョーマの頭をよぎった。

『外見や常識ばかりに囚われて』
『本質を知ろうとしなかった』

「まさか……そういう、こと……?」
初めて同性に抱かれてしまった自分は、そのことにパニックを起こしていて、すべての非が相手にあると思っていた。
だが、リョーマにとっては『誰だかわからない相手』であっても、向こうはリョーマを知っていて、とても深い想いを寄せてくれていた。
そして、リョーマは『自分の意志を無視して』抱かれたと感じているが、カラダを乗っ取られたリョーマを目の前にした『あの男』はそれがリョーマの意志だと思っていたのかもしれない。
なぜなら、もしも本当に『あの男』がリョーマの考えていたような卑怯で自己中心的な男なのだとしたら、初めて男に抱かれた日、あの程度のダメージではすまなかったかもしれないからだ。
丁寧に丁寧に扱われ、時間をかけてカラダを解されたからこそ、風呂に入っただけで回復し始めるほど軽いダメージですんだのではないのか。
「じゃあ……やっぱり部長が、アイツ……?」
自分は『被害者』だと思っていた。
だから、自分を傷つけた『加害者』である『あの男』が手塚であるはずがないと、思い込んでいた。『加害者』の本当の想いになど、正面から向き合おうともしなかった。
自分の考えだけに囚われていたリョーマは、自分の視点からだけしか、今回のことを捉えていなかったのだ。
「でも、それならなんで何も知らないフリして…オレに何も言ってくれなかっ………」
呟きかけて、リョーマは思い出した。

『自分の想いを何らかの事情で言葉にして伝えることの出来ない人は、
 この世には案外いるものだろう』

手塚はたぶん間違いなく、先程の人魚姫の話に自分とリョーマを重ね合わせて話していた。
だとしたら。
「そうか……なにか……言葉に出来ない理由が……あったんだ……」
いや、そうでなかったとしても。
毎夜抱いているカラダがリョーマの意志によって動かされているのではないと知った手塚は何を思っただろう。
そしてリョーマが、夜に起こることを忌々しく思っているのを感じていたならば。
「何かの制約がなくたって、言えない……か…」
絡み合った糸が、スルスルと解けていくような感触があった。
指輪の呪力についてはまだまだ多くの謎があるが、その指輪を着けて自分と毎夜逢瀬を重ねていた『あの男』については答えが見えてきた。
しかしそうなると、『あの男』が指輪をリョーマに委ねてきた意味がわからない。
もしも『あの男』が手塚ならば、時間の問題で自分に辿り着くだろうリョーマに、どうして『指輪の片割れの持ち主』であることの権利を放棄するような真似をするのだろう。
「……もしかして、オレにはもう……興味なくした……?」
自分で呟いておいてハッとしたように大きく目を見開き、だがすぐにギュッと目を閉じて、リョーマはブンブンと頭を振った。
「そんなこと……ない…っ!」
リョーマに飽きてしまった人間が、あんなふうに優しく笑いかけてくれるはずがない。あんなに熱い口づけをしてくるはずがない。あんなに甘い声で愛を囁いたりしない。
ならば、なぜ。
それを手塚に確かめるのが怖い。
今すぐに手塚を追いかけて、問いつめて、本当のことを聞き出せばいいのかもしれない。
指輪の持ち主は手塚だったのかと。
毎夜、自分を抱いたのは手塚ではなかったのかと。
そしてもしそうなら、どうして指輪を捨てるようなことをするのかと。
「…………」
リョーマは両手をグッと握り締めた。
「ずっと……」
ずっと『あの男』の存在を恨めしく思ってきた。
否応なく毎夜繰り返される行為によって、男に抱かれることが快感になるほどリョーマのカラダは変わってしまった。
そのことへの後ろめたさを、そのすべての元凶を、『あの男』のせいにしてきたのだ。そうすることで、自分の本能の浅ましさから目を逸らそうとしていた。
それなのに、いきなりその『元凶』が手塚だと言われても、どう反応していいのかわからない。
そして、浅ましく変貌を遂げたリョーマのカラダに興味を失ったのだと、もしも、手塚の口からはっきりとそう言われてしまったら、リョーマはきっともう立ち直れない。
今まで十数年生きてきて、こんなにも臆病になった自分を初めて見る、とリョーマは思う。
今までどんな強敵に出会っても、どんな困難な立場に追いつめられても、決して後へは引かず、前へのみ、突き進んできた。
なのに今回だけは、たった一歩、前に進むことが出来ないでいる。
そんな自分を情けないと思いつつも、自分がこれほどまで手塚国光という男を愛しているのだと、失いたくないと思っているのだと、改めてわかった気がする。
「今日は……帰ろう……」
リョーマはゆっくりと立ち上がり、溜息をひとつ吐いてから歩き出した。
決して長くはないが、指輪の呪いを解かねばならないタイムリミットまでは、あと一日ある。
だから一度家に帰って、事態を冷静に把握し直し、自分の心と真っ直ぐに向かい合ってみようと思う。
たった今辿り着いた『あの男』の正体だって、それが本当に正しいのかどうかは、まだ、わからないのだから。
「部長…明日は部活に来るって、言ったし……」
部活が終わってから、勇気を出して手塚に訊いてみればいい。一晩あれば、持ち前の潔さが戻ってくる気がする。
そうして手塚の答えがリョーマの推理を肯定するものだったとしたら。
(そうなったらそうなったで、その時にどうするか考えよう)
リョーマはふと立ち止まり、手塚が歩いていった方向を振り返った。
「きっと……アンタもいろいろ悩んだよね…?」
もう姿の見えない手塚に向かって、リョーマは語りかける。
「明日で、全部に区切りをつけよう…」
リョーマの踏み出そうとする『一歩』が、どんな結末へ繋がっているのかは、今はわからない。
だが、踏み出そうとするその一歩を躊躇うほど強い手塚への想いがあれば、そして、それと同じくらい強く深く、手塚が自分を愛していてくれるなら、二人の辿り着く未来は、きっと明るく優しい光に満ちているはずだとリョーマは思う。
(少しだけ、冷静になれる時間が欲しいんだ……)
リョーマはポケットに手を入れて、二つのリングを取り出してみた。
「お前たちだって、本当は呪いをかけるために作られたわけじゃないもんな」
街灯の光を受けて、二つのリングがキラリと輝く。
手の中のリングたちに微笑みかけてから、リョーマは再びその手をポケットにしまい込んだ。
「明日で、終わらせる」
長い長い夜の向こうに、やっと朝日の気配を感じ始めた。
(例えどんなことになったって、オレが部長のことを好きな気持ちは、絶対に変わったりしない)
それだけは自信がある。
なぜなら、それはとても深く、リョーマの心の一番奥にしっかりと根付いた想いなのだから。
だから、手塚への想いが変わるということは、リョーマ自身が変わってしまうことをすら、意味するのだ。
「明日だ……」
すべてを光へと導いてみせる。
そうしてリョーマは、真っ直ぐ前を見つめて歩き出した。

だが翌日になって、この時すぐに手塚を追いかけなかったことを、リョーマは後悔することになる。




手塚は、翌日の部活にも、姿を現さなかった。














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20060515