  
        天使 
          
         
<3> 
        
         
 
        
        
息苦しさに、意識が浮上した。 
「ん……」 
小さく声を発すると、その息苦しさはさらに強くなった。 
「苦し……」 
「リョーマ?」 
「……え?」 
すぐ近くで手塚の声が聞こえ、同時に息苦しさが和らいだ。 
「リョーマ、か?」 
「ぶちょう?」 
手塚は大きく息を吐き出すと、押さえつけるように抱き締めていたリョーマの身体を解放した。 
「ぁ……オレ……昨夜……」 
「……行かせなかった。どこにも」 
「!」 
リョーマは大きく目を見開いて手塚を凝視した。 
「じゃあ、オレ……」 
手塚が静かに頷く。 
「失神するようにお前が眠り込んでしまったあと、しばらくしていきなり身体を起こしてどこかに行こうとしたんだ」 
「やっぱり…」 
「ああ。だから俺は、力ずくでお前を引き留めた」 
「ぶちょ……」 
「よかった…」 
優しく抱き締められ、リョーマはギュッと目を閉じる。 
「………ありがと……部長……」 
手塚は何も言わずにリョーマを抱き締める腕に力を込めてくる。リョーマも手塚の背に腕を回してしっかりと抱き締め返した。 
「オレ……どこに行くって、言ってました?」 
「………いや、行き先は……言わなかったと思うが…」 
「そっスか………他にも何も言ってなかったっスか?」 
「……ああ…『行かせろ』の…一点張りだった」 
「……そっスか……」 
小さく息を吐いて、リョーマは手塚の胸に頬を擦り寄せた。 
例の強烈な眠気に襲われたということは、自分が『あの男』のもとへ行こうとしたことは間違いない。だがなぜか今回は、眠りに入ってから今までの記憶が一切
ない。いつもならば『あの男』と接触している時に意識が浮上するのに、今回全く意識を取り戻さなかったのはどうしてなのだろうか。 
(部長のおかげでアイツのところへは行かなかったせいかな…) 
「部長…もしかして寝ないでオレのこと、こうして引き留めていてくれたんスか?」 
「…ああ」 
穏やかな声音に、リョーマの心の奥がじんと熱くなる。 
「ありがと……少し寝てください。オレはもう、どこにも行かないから」 
手塚は小さく笑うと、「そうだな」と呟くように言って目を閉じた。 
カーテンの向こうはほんのりと明るいだけでまだ夜は明けていない。 
静かな部屋の中、手塚の鼓動を直に感じながらリョーマも目を閉じようとして、やめた。 
(部長がいたのに…オレは行こうとした……アイツのところに……) 
リョーマはきつく眉を寄せる。 
手塚が一緒にいてくれれば、自分は絶対に『あの男』のもとへは行かないと思っていた。確信に近かった。 
なのに。 
(オレは……オレのカラダはやっぱり……) 
抱かれることに慣れてしまった身体は、抱かれずにはいられない身体にまで成り果ててしまったのか。 
手塚さえ傍にいれば、そう、心が満たされていれば、カラダの熱でさえ封じ込めると思っていたのに。 
(オレ…は……) 
悔しさに、涙が滲んできた。 
いくら指輪の呪力が働いたからとはいえ、大好きな手塚の腕の中にいながら別の男のもとへ行こうとするなんて。 
「………っ」 
「リョーマ?」 
「…トイレ、行ってきます」 
手塚に顔を見られないように身体を起こして布団から出ようとすると、腕を掴まれ、引き倒された。 
「なぜ泣いているんだ」 
「………」 
両手を布団に縫いつけられるようにして組み敷かれ、手で顔を覆うことも出来ずに、リョーマは静かに涙を流す。 
「リョーマ……」 
手塚の唇が、そっと涙を吸い取ってくれる。その優しさが嬉しくて、だが余計に悲しさが込み上げてきて、リョーマはまた涙を零した。 
「泣くな………泣かないでくれ……」 
手塚が優しくリョーマを抱き締め、髪を撫でながら涙に濡れた冷たい頬に口づけ、頬擦りしてくれる。 
「部長が……」 
「ん?」 
「部長がいたのに……行こうとするなんて……オレは、もう……アンタに、言えない……」 
「なにを?」 
柔らかな手塚の声音が、打ちひしがれたリョーマの心にすっと溶け込み、リョーマの唇を自然に動かした。 
「アンタに、好きだって……」 
言ってしまってから我に返り、リョーマは大きく目を見開いて手塚から身体を離そうとした。 
「ぁ………!」 
「リョーマ」 
離そうとした身体を、手塚にしっかりと押さえつけられた。 
「だめ……違う、そ…じゃなくて……オレは……っ」 
「違うのか?」 
「ち、違わないけど、違うっ、…そんなこと、オレが……オレなんかが言っちゃいけなくて…」 
「なぜ?…俺は嬉しい…」 
囁きながら手塚が口づけてくる。 
「ん……っ」 
軽く啄まれ、唇を甘噛みされ、解けた唇に深く手塚の唇が重なる。 
深く、甘く、熱く、艶めいた動きで舌を絡め取られ、リョーマは軽い眩暈を起こす。 
「は、ぁ………んっ」 
「好きだ……リョーマ……」 
「あ…」 
静かな告白にビクリと身体を揺らして、リョーマはゆっくりと目を開けた。慈しむような、それでいてどこか甘い危険を思わせるような手塚の瞳に見つめられている。 
「ぶちょ…」 
「そろそろ名前で呼んでくれ……こんなふうに二人でいる時くらいは、な…」 
「国光……」 
「リョーマ……愛している……」 
「ぁ……っ」 
再び甘く口づけられ、手塚の左手がリョーマの身体の線を辿り始める。腹の辺りまで降りた手は、そこからTシャツの中に入り込んできて直にリョーマの肌に触れてきた。 
「ぁあ……」 
それだけでリョーマのカラダの熱が中心に集中し始める。 
「あっ」 
さらに胸の突起を摘み上げられ、一気にリョーマの雄が膨らんだ。 
「ぶちょ…っ」 
「国光、だ」 
「く…国光……」 
「ん?」 
優しく聞き返され、チュッと音を立てて口づけられる。 
「んっ、ぁ…」 
口づけながら胸を掴まれ、揉み込まれ、するりと撫で降りて脇腹を手の平で擦られる。 
「ぁ……あ……んっ」 
「好きだ……リョーマ……ずっと…お前が好きだった…」 
「国…光……」 
手塚がリョーマのTシャツを捲り上げ、露わになった乳首に唇を寄せる。 
「ああっ」 
電流のような快感が胸元から全身を駆け抜け、リョーマが仰け反りながら軽い痙攣を起こす。 
「あっ、や……ぁ、んっ」 
そうしてまた脇腹を撫で下ろされ、服の上から雄を撫で上げられ、リョーマは身体を捩った。 
手塚がふっと吐息だけで微笑む。 
「リョーマ…」 
とろけそうなほど甘い声で名を囁かれ、口づけられる。うっとり目を閉じて手塚の口づけに応えていたリョーマは、だが、直に雄を握り込まれて驚いたように目を開けた。 
「ぁ…だめ……まだ、オレは……っ」 
言い終わる前に手塚に口づけられた。 
深く甘く熱く、舌を絡め取られ、口内を余すところなく愛撫され、眩暈を起こす。 
「………わかっている……すべてをはっきりさせるまで、お前を抱くつもりはない」 
「ぶちょ…」 
「だから、触れるだけだ」 
そう言って微笑み、手塚は身体を起こしてリョーマの下穿きをずり下ろした。ぷるんと、先を濡らしたリョーマの雄が跳ね上がる。 
「やっ」 
思わず恥ずかしさに両手で顔を覆ったリョーマに微笑みかけてから、手塚は躊躇うことなくリョーマの熱塊を口に含んだ。 
「ぁ……ああ、ん、んっ」 
根元から先端までを丁寧に舐め尽くされ、雫の溜まった先端を音を立てて啜られた。 
「ああ、は……あ、ん……」 
茎を扱きながら先端を熱い舌で舐め回されると、リョーマの腰が揺らめく。 
「ぁ…いい……あっ、もっと…強く……あぁっ」 
きつく吸い上げられて強い射精感が込み上げたが、リョーマはなんとか堪えた。 
「ぶちょう…は?…一緒に……」 
呼吸を乱しながらリョーマが手塚を見遣ると、手塚は柔らかく微笑んで小さく頷いた。手塚が下穿きをずらすとすでに固く聳り立つ熱塊が現れる。 
「オレが……」 
「いや、いい」 
リョーマが手塚の熱に唇を寄せようとするのを、手塚はそっと制した。 
「お前にそんなことをされたら、抑えが効かない」 
「でも…オレばっかり…」 
熱に潤んだ瞳で見つめてくるリョーマに、手塚は小さく笑いかけてから優しく口づけた。 
「…ならば、少し協力してくれ」 
「え…」 
手塚はリョーマの膝裏に手を掛けると、そのままグッと押し上げ、リョーマの胸につくほどに膝を折り曲げさせた。 
「や…」 
後孔が手塚に晒され、リョーマは恥ずかしさに頬を真っ赤に染めた。 
カーテンの向こうで太陽の気配がする。 
だんだんと視界が明瞭になってゆく部屋で、秘部を晒したままリョーマは困惑した。 
「膝を閉じて抱えるんだ」 
手塚に言われるままに、リョーマは両足を揃えて膝が胸につくほどに深く抱え込んで固定した。 
「そう…そのまま、そうしていてくれ」 
「ん…」 
柔らかく微笑みかけられ、リョーマは真っ赤に頬を染めたまま頷いた。 
手塚が己の雄を軽く扱き、リョーマの後孔に擦りつける。 
「ぁ……だめ…」 
「…挿れないから…じっとしていてくれ」 
固く湿ったものが何度も後孔の上を行き来し、時折円を描くように淵をなぞられる。 
「は……ぁ、あ……っんっ、ん…」 
そのまま後孔の奥まで挿れて掻き回して欲しい、と何度も言いそうになり、リョーマは唇を噛んで堪える。 
「リョーマ…」 
後孔の上を行き来していた熱塊にグッと力が籠もり、湿った水音をさせて閉じたリョーマの内股の間に捩り込まれた。 
「ああ……」 
手塚が目を閉じて熱い吐息を零す。 
「お前の中にいるようだ……気持ちいい…」 
熱く見下ろしてくる手塚の視線だけで達きそうになり、リョーマは膝をギュウッと強く抱え込んでなんとか射精を堪えた。 
手塚の腰が緩くうねり始める。内股の間を小さく音を立てて熱塊が行き来し、手塚の呼吸が荒くなってくる。 
「ぁ……リョーマ……」 
「あっ、んっ……オレも…気持ちいい…っ」 
手塚の熱塊に袋が押し上げられ、根元から先端まで指先で擦り上げられているように感じてリョーマは悶えた。 
「リョーマ…」 
腰を揺らしながら手塚が前屈みになって口づけてくる。リョーマも少しだけ頭を持ち上げて自ら手塚に唇を寄せ、甘く舌を絡め合った。 
唇が離れると手塚の動きが加速した。激しく腰を打ち付けられ、まるで本当に身体を繋げているかのようにリョーマの身体が揺さぶられる。 
「あっ、あ、あぁ、んっ」 
勢いよく出入りする手塚の熱塊にリョーマ自身も強く擦り上げられ、快感がじわじわと全身に満ちてくる。リョーマは自分の膝にしがみつくようにして熱い快感の波に流されてしまわないように歯を食いしばった。 
「達きそうだ……リョーマ……っ」 
「オレも……イク…ッ!」 
我慢しきれずにリョーマが先に弾けた。 
「ぁあっ、あ………っ」 
リョーマが射精している間も手塚の腰は止まらずにリョーマの袋を押し潰しそうな勢いで強く叩きつけられている。 
「あ、はっ、あ…」 
リョーマが最後の雫をトロリと流し終える頃、手塚の熱塊がリョーマの内股から勢いよく引き抜かれた。 
「くっ……!」 
手塚に晒されてる後孔や袋に熱い液体がかけられ、濡らされていくのをリョーマは感じた。 
「うっ、んっ……っ!」 
何度も力みながら手塚がすべてを出し終える。 
リョーマに向かって大量に出された精液がゆっくりと流れ落ち、浮き上がっているリョーマの腰の方にまで伝い落ちていった。 
息を乱したまま、手塚がリョーマの腰まで濡らす自分の精液を右手で拭い取る。そうして、ゆっくりとリョーマの腰を布団の上に下ろしてやってからのし掛かって口づけた。 
「んっ、ん…」 
互いに息を乱しながら深く口づけ、余韻というよりはまた熱がぶり返しそうなほど激しく舌を絡め合う。 
そっと唇を離し、身体を起こした手塚はリョーマが撒き散らした白濁液を左手の指で掬い、その指をぺろりと舐めた。 
「なっ……そんなの舐めんな……っ」 
真っ赤になってリョーマが抗議すると、手塚はクスッと微笑んだ。 
「お前のは甘い…不思議だな…本当に人間なのか?」 
「なに言って……っ」 
クスクスと笑いながら言う手塚から、恥ずかしさのあまりリョーマが顔を背けると頬にチュッと口づけられた。 
「もっと、味わいたい……お前の味……」 
頬に口づけた唇をずらして耳元で囁いてから、手塚は濡れそぼったリョーマの雄を躊躇いなく口に含む。 
「や、ぁあ……んっ」 
すでに固さを取り戻してきていたリョーマの雄は、手塚の口内ですぐに大きく膨らんでゆく。 
「あ……いい……ぶちょ……気持ちいい…」 
「国光、だ」 
困ったように微笑みながら手塚が身体を起こし、首のあたりに引っかかっていたリョーマのTシャツを完全に脱がせた。 
手塚のなすがままにカラダを投げ出していたリョーマは、その視界に入り込んだ自分の右手をボンヤリと見つめた。 
(あれ………?) 
リョーマは小さく目を見開く。 
(熱く……なってない……?) 
右手を持ち上げてそっと薬指のリングに唇を押し当ててみるが、リョーマの唇には体温と同じ暖かさしかない金属の感触が伝わっただけだった。 
(なんで?部長のこと想っている時は、もっと熱くなるのに……) 
そういえば、昨日の朝手塚が訪れてから、一度も指輪の熱を感じていない。いつもは、着けているのを忘れるほど指に馴染んでいる指輪でも、手塚を想って発熱する時は改めてその存在に気づかされるほどだったのに。 
(どうして……?) 
「リョーマ?…どうした?」 
「………え」 
微かに眉を寄せて覗き込んでくる手塚と目が合い、リョーマはフルフルと小さく首を横に振った。 
「ううん。……もっとして、ぶちょ…じゃなくて、…国光…」 
じっとリョーマを見つめていた手塚がふわりと微笑み、優しく口づけてから再びリョーマの雄に舌を這わせ始めた。 
「ぁ………国光……っ」 
射精後の気怠さが徐々に新たな熱情に塗り替えられてゆくのを感じながら、リョーマは発熱していないリングをそっと噛んだ。 
(また……わからないことが……増えた……) 
手塚を想う時にリングが発熱すると思っていた。それは勘違いだったのだろうか。 
(そんな……) 
自分が手塚を想う熱い恋情が、リングにも伝わっているのだと思っていた。なのにそうでないなら、自分の手塚への想いが本当は曖昧なものなのではないかとリョーマは感じてしまった。 
(違う……オレは本気で部長のことを……) 
「ああ……っ」 
きつく吸い上げられてリョーマの思考が中断する。とろけそうに甘いはずの快感が、ほんの少しだけ苦しかった。 
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
         
「今日もコート、行きます?」 
「ああ…そうだな…」 
朝日が昇り、しばらく経ってやっと行為を終わらせてから、二人はほとんど全裸に近い状態で布団の上に寝そべっていた。 
身体は繋げていないが、二人は甘い満足感を感じている。 
だが手塚は行為を終えた今も、まだリョーマの身体に手を滑らせ、時折いたずらをしかけるように胸の突起に爪を立てたり、双丘を柔らかく揉んだりしている。その度にリョーマは頬を染めて小さく手塚を睨んだ。 
「アンタの手つき、ヤラシイ」 
「そうか?」 
カーテンの隙間から差し込む光の中で、手塚が微笑む。 
身体中に手塚が紅い痕を残したので、リョーマはもう、手塚の視線から肌を隠さなかった。無数に散らばる紅い痕を見て、自分のつけたものと、自分がつけたものではないものを区別できるとは思えない。 
「でも……ありがと」 
「ん?」 
唐突に礼を言ったリョーマに、手塚は小さく目を見開いた。 
「ちゃんとけじめがつくまで、その……最後までやらないでいてくれて……ありがと」 
「……いや」 
静かに、手塚が微笑んだ。その微笑みに、何かわけのわからぬ小さな不安がよぎり、リョーマは手塚にしがみついた。 
「どうした?」 
「ごめん……」 
手塚の胸に顔を埋めながらリョーマが小さく呟くと、手塚はしばらく黙り込んでから、そっと、リョーマの髪を撫でた。 
「お前は謝らなくていい………」 
「でも」 
顔を上げたリョーマに、手塚はふわりと微笑みかける。 
「謝るのは俺の方だ。お前を求めすぎてお前を苦しめている気がする………すまない」 
「そんなことないっス!」 
リョーマはもう一度手塚に強くしがみついた。 
「部長の方こそ、オレのことなんか好きにならなければもっと楽しい恋ができたかもしれないのに……オレなんかが部長のこと好きになって……オレのせいで……」 
「そんなことはない」 
手塚の静かな声にリョーマはそっと目を閉じる。 
「お前と出逢うまで、俺にはテニス以外、何もなかった。いや、そのテニスでさえ、ただ漠然と巧くなりたいと思っていただけで、本当の意味でテニスへの愛情がわからなかった自分を、青学で全国制覇するという夢を語って誤魔化してきたのかもしれない」 
リョーマは少し驚いて手塚を見上げた。 
ずっと、手塚はテニスを学び始めた時からテニスを愛しているのだと思っていた。その愛情があるからこそ、自分の身体を投げ出しても、青学の勝利をもぎ取ろうとしたのだと。 
そんなリョーマの想いが伝わったのか、手塚は小さく苦笑した。 
「本当にテニスを愛しているヤツなら、テニスができなくなるかもしれないことを、もっと恐れるはずだ。怪我を負ってまで試合を続けることで、俺はテニスを愛しているのだと、自分にも、周りにも、示したかっただけなんだ」 
「そんなこと……」 
「だが、怪我をして、一時とは言えテニスが出来なくなって……自分がどれほどテニスが好きだったかを、漸く思い出せた」 
「部長……」 
手塚はゆっくりと目を閉じて懐かしい思い出を語るように口を開いた。 
「怪我をして、ラケットさえ持てなくなって……その時に見たお前のプレイが、俺を熱くさせた…」 
「オレの、プレイ?」 
手塚が頷く。 
「俺の試合のあとでコートに立ったお前を見て、俺は目が覚めた気がした」 
「………」 
「生き生きと戦うお前の姿が眩しかった。とても輝いて見えた。絶対にもう一度、お前と同じコートに立ちたいと思った」 
静かに語る手塚を、リョーマはじっと見つめる。 
「それ以前からも、お前のプレイが好きだった。特に都大会以降の、荒削りだが見ているものの心を熱くさせるようなお前のプレイが」 
「誉めすぎっスよ」 
「いや、少なくとも、青学テニス部は、お前の熱さに皆刺激されたはずだ」 
「………」 
あまり面と向かって手塚に誉められたことがないリョーマは、どこか恥ずかしげに俯いた。 
「お前の父である越前南次郎氏はかつて『天衣無縫』と謳われたが、今のお前は彼のプレイスタイルとも違う、…巧く言い表せないが……背中に羽でもあるのではないかと思えるような軽やかなプレイかと思えば、瞳で相手を陥れるような策士な面もある」 
「天使と悪魔って感じっスね」 
リョーマがクスクス笑うと、手塚も小さく笑った。 
「お前のプレイを見ていて、俺もテニスが好きだったことを思い出せた。それと同時に、お前自身にも強く惹かれていた自分に気づいた」 
「…………いつから……オレのこと…」 
「明確にはわからない……だが、初めて出逢った瞬間に、自分の心の中に違和感が起こったのは覚えている」 
「違和感?」 
「そうだ……それまでの自分が見てきたものとは何もかも違うものを見るような…」 
手塚がゆっくりと視線をリョーマに移す。その瞳があまりにも綺麗で、透明で、リョーマは思わず見入った。 
「きっと…お前の存在を認識した時にはもう、お前のことで頭がいっぱいになっていたんだろうな……」 
「それって……オレに一目惚れ?」 
小さく微笑んで、手塚がチュッと音をさせて口づけてきた。 
「最初からこんなことをしたいと思っていたわけではないが、な」 
「……『こんなこと』……したいと思ったのは…いつからっスか?」 
「……たぶん、お前が試合観戦に誘ってくれた、あの日からだと思う」 
「オレも……」 
「ん?」 
「オレも、あの日から、アンタのこと、好きになったんだと思う。……自分でもなかなか気づけなかったけど……あの日から、アンタのことが気になって仕方なくて…」 
「そうか……」 
ふぅっと息を吐いて、手塚は小さく笑んだ。その微笑みが、どこか寂しそうに見えて、リョーマは小さく眉を寄せる。 
「すぐに……お前が好きだと言えば良かったんだな……なのに…全国大会のせいにして、勇気を出すのを躊躇っていた俺が悪いんだ…」 
「部長……?」 
「もっと早くお前に好きだと言っていれば、お前をこんなに苦しめたりしなかっただろうに……」 
グッと抱き締められ、リョーマはうっとりと目を閉じる。 
「すまなかった、リョーマ………でももう、これ以上は…お前を苦しませたりしない……」 
「え……?」 
手塚の言葉の後半がうまく聞き取れずにリョーマはそっと顔を上げようとしたが、さらに強く抱き込まれて動けなかった。 
「もう少しだけ……触れていてもいいか……?」 
「………うん」 
手塚は小さく「ありがとう」と呟いてリョーマの肌に手を滑らせる。 
何度も達かされたはずのカラダが、再び甘い熱に溶け始めるのを、リョーマは感じた。 
  
         
         
 
         
         
         
         
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        20060314 
         
         
          
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