夢中

<2>



約束通り、手塚は十時きっかりにリョーマの家へやって きた。
「いらっしゃい、部長」
「ああ。遠慮なく来させてもらった。………越前?」
「え?」
小さく眉を寄せた手塚に顔を覗き込まれて、三和土に立っていたリョーマは一歩だけ後ろに下がった。
「少し…顔色がよくないようだが大丈夫なのか?」
「大丈夫っスよ。またちょっと…寝不足で…」
「寝不足…」
手塚はさらに眉を寄せると玄関内に入り込み、玄関の戸をピシャリと閉めてから少し乱暴にシューズを脱いでリョーマの腕を掴んだ。
「部長?」
「お前の部屋は二階か?」
「え?ぁ、ういっス」
リョーマの腕を掴んだまま手塚は二階へと上がる。
「どこだ」
「その、そこの部屋っス」
リョーマが自室を指さすと、手塚は黙ったままその部屋へとリョーマを引っ張り込んだ。
「ぶちょ……?」
「少し寝ろ」
「は?」
「お前がちゃんと寝て、起きるまで俺はここにいるから。少しでもいい、眠るんだ」
「でも」
「寝ろ」
手塚の迫力に押されて、リョーマは渋々ベッドに潜り込んだ。
「部長…」
「…また妙な夢を見るようになったのか?」
「………」
リョーマは小さく頷いた。手塚は微かに溜息を吐く。
「また見知らぬ誰かが出てくるのか?」
コクリと、またリョーマは頷く。
「そいつに、何か嫌な思いをさせられるのか?」
「………」
リョーマは少し迷ってから曖昧に頷いた。
「………そうか」
手塚はまた溜息を吐くと、タオルケットを掴んでいたリョーマの手を取り、そっと握り込んだ。
「ぶちょう?」
「…握っててやるから、安心して眠るんだ。少なくとも現実には、誰もお前に近づけないでいてやるから」
リョーマは小さく目を見開いた。
しかめっ面をしていた手塚の顔が、ふと、緩む。
「俺では役者不足か?」
「……そんなことないっス」
「だったら眠るんだ。手を握るだけでは不安だというなら、添い寝してやってもいいが?」
リョーマは真っ赤に頬を染めてきつく眉を寄せた。
「なにそれ」
「冗談だ」
手塚はやわらかく微笑んで、空いている方の手でリョーマの頭を撫でた。
「部長…」
「ん?」
「オレが寝ぼけて変なコトしたり、言ったりしても、本気にしないでね」
力無く笑うリョーマの顔をじっと見つめてから、手塚は小さく笑んで頷いた。
「いいから、目を閉じるんだ。暑くないか?」
「うん」
「少し、窓を開けるか?」
「いいから……このまま…ぶちょ……」
リョーマは、自分が吸い込まれるように眠りに落ちてゆくのがわかった。
それは、毎夜繰り返される嫌な引き込まれ方ではなく、ひどく自然な、久しぶりにゆったりとした気分での眠りに感じた。
(アンタがいてくれるからだ…)
手塚がリョーマの髪を撫でながら何か囁いてくれている。
何を言ってくれているのかはわからなかったが、その心地よい声音はリョーマの耳から心の奥まで染みこんで、優しく、穏やかに、荒んだ心を癒してくれた。
(…部長……大好き…)
唇にうっすらと笑みを浮かべながら、リョーマは完全に深い眠りへと、落ちた。








リョーマが目を覚ますと、時計はすでに午後二時を回っ ていた。
「ぶちょ…」
「起きたか?」
「うん…」
トロリとした瞳で手塚を見遣ると、間近で目が合ってリョーマは頬を染めた。
「部長……ホントにずっとこうしててくれたんスか?」
「ああ」
リョーマの手は眠りに落ちる前と変わらず、しっかりと手塚に握られたままだった。
「眠れたか?」
「うん……夢も見なかったみたいっス」
リョーマが小さく笑うと、手塚もふわりと微笑んで「そうか」と言った。
「ありがと……部長……」
「ん?」
「部長が手を握っててくれたおかげで、気持ちよく眠れたっス」
手塚はまたやわらかく微笑みながらリョーマの髪を撫でた。
「…夜もこうして手を握っていてやれたら、お前はしっかりと眠れるかもしれないな」
「うん。たぶん…よく眠れると思うっス」
「ならば…」
「ダメっスよ。夜は……ダメなんス」
手塚が言いかけた言葉の続きを察知して、リョーマは困ったように小さく微笑んだ。
「なぜ?」
責めるのでも詰るのでなく、穏やかに手塚が尋ねてくる。
「……オレ、すっごく寝相が悪いから」
冗談めかして言うリョーマに、手塚は微かに眉を寄せる。
「越前…」
「え……」
手塚がゆっくりとリョーマに覆い被さり、唇を寄せてきた。
だがリョーマは、唇が触れ合う寸前でそっと横を向く。
「………越前」
「………」
「……嫌なのか?」
リョーマは小さく首を横に振った。
「ごめん、部長……」
「嫌じゃないなら、なぜ謝る?」
甘く掠れた声で手塚に囁かれ、リョーマの理性がグラつく。
「今は……今のオレは、…そんなコトしてもらう資格…ないんス…」
「資格?」
リョーマはそっと手塚を押し退けてゆっくり起きあがった。
「部長、お腹空いたよね。菜々子さんが朝、出掛ける前にサンドイッチ作っておいてくれたから、下で食べ……」
「越前」
ベッドを降りて立ち上がったリョーマは、後ろから手塚に抱き締められた。
「ぶちょ…っ?」
「………」
手塚がグッと腕に力を込めてリョーマを抱き締める。
(部長……)
リョーマはきつく目を閉じた。
力強い手塚の腕の感触が愛しくてならない。このまま、手塚の方を向いて正面から抱き締め合いたい。
(でもまだ、ダメだ……)
唇を噛み締めてリョーマが切ない衝動に堪えていると、手塚は腕を緩めてそっとリョーマを解放した。
「……すまない。今日は、もう帰った方がよさそうだ……」
「…そっスか」
俯いたまま、リョーマはそれだけをやっとの思いで答えた。
「…また明日、同じ時間に来てもいいか?」
「え」
明日の約束を申し出てくれる手塚に驚いてリョーマが振り返ると、穏やかな手塚の瞳に見つめられていた。
「明日…?」
「ああ。明日も、来ていいか?」
てっきり手塚を怒らせたのだと思っていた。だから帰ると言い出したのだろうと。
だが手塚の瞳には、怒りなどは微塵も見られない。それどころか、その瞳はリョーマへの想いに溢れていて、言葉にされなくとも手塚がリョーマをどれほど大事 に想ってくれているのかが手に取るようにわかった。
「部長…」
「明日は、ちゃんとコートで『練習』をしよう。いいか?」
リョーマは瞳を揺らしながら頷いた。
「……じゃあ、また明日」
「ういっス」
小さな声でそう答えてリョーマが微笑むと、手塚も包み込むような微笑みを浮かべてリョーマの髪を撫でた。
リョーマの横をすり抜け、階段を下りてゆく手塚を振り返り、リョーマはその背中に叫んだ。
「部長には、きっと全部話すからっ!……だから…もう少し、待ってください……」
階段の途中で手塚が振り返る。
「………わかった」
穏やかに、だがしっかりと頷かれてリョーマはほんの少し肩の力を抜いた。
少しして、玄関の戸が開き、そして締められるのが聞こえた。
「部長……」
手塚が抱き締めてくれた身体を、リョーマも自分で抱き締めてみる。
力強い腕だった。
大きな手だった。
そして耳元で囁かれる声音は、リョーマの思考をとろけさせるほど甘かった。
「部長……好きだよ……アンタが好き……っ」
リョーマは自分の身体を抱き締めたまま、その場に蹲った。
あの夢さえなければ、すぐにでも手塚に応えられるのに。
抱き締めてもらって、抱き締め返して、唇で触れ合えるのに。
「ちくしょ……っ!」
リョーマは一度ギュッと目を閉じ、そして開いた。
(絶対に、全部解明してやる…っ)
傷ついた心に、リョーマは怒りに似た強い決意の鎧を纏った。






*****





手塚のおかげで寝不足は少し解消されたらしく、夕方に なるとリョーマは軽くジョギングをして家の門扉の前でストレッチもしてみた。
(昨夜は手加減でもしたのかな、アイツ)
今朝起きた時も、その前日ほどは身体は重くなかった。
それに、リョーマの身体に強く刻まれていたのは、痛みよりも甘い快感。少し体温が上がると、まるで発情したように『あの男』の愛撫やカラダを貫く熱塊を思 い出してしまうのだ。
乱暴に扱われて傷を負わされる方が、まだ心の方は楽だった。
そう、今は、カラダよりも心の方が重い。『あの男』に触れられて、快感を感じてしまうカラダが疎ましい。
今夜も、自分はあんなふうに男のモノを銜え込んだまま、熱く激しい快感の中で射精してしまうのだろうか。
「……っ!」
ゾクリと、リョーマの身体が震えた。
それは恐怖ではなく、明らかに、甘い、欲情の震え。
カラダは、『あの男』の愛撫を求めてしまっているのか。
それとも、自分はもともとあんなふうに男に触られるのが好きだったのか。
(そんなはず、ないけど…)
「お、越前」
「え?ぁ、桃先輩」
朝練の時に偶然通りかかったのと同じように、自転車に跨った桃城がリョーマの背後で止まった。
「珍しいな、お前も真面目に自主トレしていたのか」
いつものようにニカッと笑う桃城を、リョーマは少しムッとしたように睨んだ。
「桃先輩こそ、大会終わったばっかなのにウェアなんか着ちゃって、自主練っスか?」
「まあな。例のコートで何戦かやってきた帰りだ」
「ああ、あの……」
リョーマが入部して間もなくの頃、桃城と一緒に偶然通りかかった野外のテニスコートを思い出した。そこはリョーマがダブルスの難しさを思い知らされた場所 でもある。
「ぁ、お前も明日行かねぇ?久々にダブルスやろうぜ」
「ダブルスはもういいっス」
うんざりしたように言うリョーマに、桃城は声をたてて笑った。
「でも筋トレばっかじゃつまらねぇだろ?相手、欲しいんじゃねぇの?」
「明日は…先約があるから、いいっス」
「へぇ…先約」
桃城の表情が、微妙に固く変化する。
「もしかして不二先輩?」
「え?違いますよ」
きょとんと見つめるリョーマに、桃城は意外そうに目を見開いた。
「ふん?ま、いいや。そんじゃ、今から少し打つか?お前ンちのコートで、日が落ちるまで」
「いいっスよ」
「そうこなくっちゃ」
二人はニヤリと、似たような笑みを交わした。






「ゲーム・アンド・マッチ!……オレの勝ちっスね、桃 先輩」
「あーくそ、やられた!あとワンゲームあれば俺の勝ちだったのに」
「そんなわけないっしょ。じゃ、今度、チーズバーガー三個、桃先輩の奢りっスよ」
「へいへい」
「ぁ、ちょうど日が沈みましたね。練習終了っス。お疲れッした」
まだ夕陽の名残を映す空を見上げながらリョーマがニッコリと笑った。
そんなリョーマの表情を見て桃城がクッと笑う。
「…なんスか?」
小さく眉を寄せて桃城を見ると、桃城はどこか嬉しそうにリョーマを見ていた。
「お前、いつもそういう顔してろよ。可愛いぜ」
「は?」
残照を頬に受けて桃城がニカッと笑った。
「なぁ、越前、お前、好きなヤツ、いる?」
「え?」
「俺はいるぜ。すっげー、可愛いヤツ」
「ふーん」
小さく眉を寄せたままどうでもよさそうにリョーマが返事をすると、桃城がまたククッと笑った。
「…ったく、夢中になってるのがバカみてぇだな」
ぼそりと呟いてから、桃城はリョーマの髪をクシャッと掻き回して背を向けた。
「んじゃ、俺は帰るぜ。またな、越前」
「……ういっス。ありがとうございました」
ペコリと頭を下げながら、リョーマはふと思い出した。
(桃先輩も『あの男』かもしれないんだった……)
リョーマは桃城に掻き回された髪を手櫛で直しながら、きつく眉を寄せた。
(またな、って……今夜もまた、って意味…?)
それは考え過ぎかもしれないとは思いながらも、リョーマは去ってゆく桃城の背中をキツイ瞳で見つめる。
「桃先輩!」
「あ?」
リョーマは桃城の元に小走りに駆け寄り、じっと見上げた。
「桃先輩の部屋に、何か、青くて四角いもの、あります?」
「はぁ?青くて四角いもの?なんだそりゃ」
「まあ、ちょっとした占い」
桃城は目を丸くしてから「うーん」と言って首を捻った。
「…大きさとかは関係ないのか?」
「うん。とにかく、青くて四角いもの」
「………ああ、この前買ったCDの初回生産分の特別仕様パッケージが、青くてロゴだけが入ったヤツで…いい感じのデザインだったから、気に入って本棚に立 てかけて飾ってあるんだ」
「!」
リョーマは小さく目を見開いた。桃城には気付かれないように両手を握り締める。
「…その本棚って、ベッドから見えるところにあるんスか?」
「ああ。部屋のどこにいても見えるぜ。俺の部屋はそんなに広くはないからな」
「ふーん」
リョーマは自分の心の奥が、スッと冷えるのを感じた。
「で、占いの結果は?」
「え?」
怪訝そうに見上げてくるリョーマを、桃城は不思議そうに見つめ返した。
「だから、今のは占いなんだろ?その結果は、って訊いてンだよ」
「………忘れたっス」
「なんだそりゃ」
桃城は溜息を吐きながら頭を掻いた。
「わざわざ呼び止めておいてそれかよ、ったく」
「………ああ、思い出したっス」
「ん?」
リョーマは真っ直ぐ桃城を見上げた。
「確か『こんな状態はいつまでも続かない』っスよ」
桃城はふと表情を硬くしてリョーマを見つめた。
「へぇ、……なるほどな」
「なんか、心当たりがあるんスか?」
桃城の表情の、微妙な変化を見逃さなかったリョーマは、探るような瞳で桃城を見つめた。
「べつに。あるような、ないような」
またいつものようにニカッと笑って、桃城は再びリョーマに背を向けた。
「んじゃな、そろそろ腹減ったから、もう帰るわ。またな、越前」
はぐらかされたような気分になりつつも、バッグを担いで歩いてゆく桃城をリョーマは黙ったまま見送った。
(あるんだ…)
グッと、唇を噛み締める。
(桃先輩の部屋には、『青い四角いもの』が、ある…)
もちろんそれだけで桃城が『あの男』だと断定は出来ない。
だが、今のやりとりで、桃城は何かをリョーマに隠している気がした。それが何なのかを知る必要があるかもしれない、とリョーマは思う。
(手っ取り早いのは桃先輩の部屋に入ることだけど…それはちょっとヤバそうだし…)
もしも、桃城が『あの男』だとしたら、部屋に二人きりになるのはマズい気がする。
(そうか…一人で行かないで、誰かと行けばいいんだ…でも、誰と……)
「………」
少し考えてリョーマは大きく溜息を吐いた。
桃城は「お友達」ではないわけだし、その桃城の家に「遊びに」行くこと自体、案外難題だ。
(何か別の方法を考えるか…)
早く『あの男』を見つけたいのは山々だが、焦ってはいけない。
それに、『あの男』を見つけただけでは、問題の解決にはならない。
「………」
リョーマは右手のリングを見つめた。
(これのことも、まだ全然わからないままだし…)
リングを見つめていると、リョーマの脳裏に手塚の微笑みが浮かんだ。途端にリングも熱を帯び始める。
(全部話したら……部長はなんて言うのかな……やっぱり、軽蔑されるのかな……だって、オレは……)
リングの熱が全身に広がりそうになるのを感じて、リョーマは頭をブンブンと振り散らした。
「風呂にでも入ろ。親父たちもそろそろ帰ってくるだろうし」
ボールを回収し、ラケットを拾い上げてリョーマは家に向かった。

























そうして今日もまた、夜はやってくる。
いつものように眠気に襲われながら、リョーマの鼓動はドキドキと音を立てていた。
(なんで、こんなにドキドキしてるんだろ…)
心臓の鼓動は加速しているのにどんどん眠りの世界へ引き込まれる矛盾。その矛盾の中、リョーマは従順に目を閉じた。
ドキドキと、心臓の立てる音がリョーマの意識の中に広がってくる。
しばらく暗闇の中で鼓動を聴いていると、急にふわりと身体が浮くような感覚があった。
(あれ…?)
何とか目を開けようとすると、すでにそこは不鮮明な視界へと変わっていた。
(もう『あの男』の部屋…?)
浮くような感覚があったのは、リョーマが男に抱き上げられたからだった。男はリョーマを抱えたまま歩き、ベッドらしき柔らかな場所にリョーマをそっと寝か せる。
(始まるんだ…)
リョーマの鼓動が、またドキドキと加速を始める。
すでにリョーマはほとんど衣服を身につけていないようだった。直に触れてくる男の手や唇に、甘い疼きが走る。
「ぁあ…」
声もすぐに出た。
甘い吐息を絡めながら男が何か耳元で囁く。そのまま首筋に口づけられてリョーマの身体はビクリと揺れた。
「や……ぁ、んっ」
自分の中心に熱が集まってゆくのをリョーマは感じる。
(違う、こんなの……)
男がリョーマの雄に触れて、ふと、動きを止める。
「      」
また何か囁かれたが、やはりその声は聞こえなかった。
男はリョーマの額に優しく口づけ、すぐにリョーマの熱塊を口に含んで愛撫を始める。
「ああ……あっ、はぁ……っ」
自由にならない自分の腕がシーツの上を彷徨い始めるのがわかる。男の愛撫に合わせて腰が小さく揺れ始める。
(違う……感じてなんか……っ)
それでも。
リョーマの自由にならないカラダは、素直に快感を受け取り、淫らに開き始めた。膝を立て、左右に開き、男に腰を擦り寄せる。
仰け反った背中を快感がゾクゾクと這い上がり、薄い意識に残る理性を食い荒らしてゆく。
「あっ、やっ、いい……っ」
男に強く吸われてリョーマは嬌声を上げた。
「やっ、ダメッ…」
男がリョーマを口から外すと、自然に抗議の言葉が出た。
「もっと……もっと、して…っ」
初めて言葉らしい言葉が、リョーマの口から零れた。
しかも、半分は、自分の意志で。
(ああ、違うっ!「もっと」じゃなくて「やめろ」だろう!)
頭ではそう思うのに、カラダは気持ちいいと、もっと欲しいと訴える。
「      」
また男が何か言う。
そしてリョーマのカラダは、頷き返した。
ベッドが揺れ、男がリョーマから離れてゆく。だがすぐに戻ってきた男は、昨夜と同じように、クリームのようなものをたっぷりとリョーマの後孔に塗り始め た。
「ああ、あっ、早く……っ」
唇が、勝手に言葉を紡ぐ。腰が揺れる。早くその場所に、男の熱いモノを挿れて欲しいと。
「あっ、そこっ、あぁっ」
男の指がリョーマの胎内の感じる場所を何度も強く刺激する。
(ダメだ……気持ち、いい……っ)
激しい快感に、リョーマの理性が飲み込まれてゆく。だが意識はまだはっきりとしていて、その状況を克明にリョーマに伝えてくる。
「あ……あ、はっ、あっ!」
後孔で蠢く指の力が強くなった。たぶん本数も増やされ、何度も勢いよく抽挿されているのだろう。
リョーマの腰が浮き上がる。浮き上がったまま、男の指に揺らされる。
「ああぁっ!」
堪らずに、リョーマが弾けた。腰を浮き上がらせたまま噴き上げたせいで、自分の頬にまで熱液が飛んできた。
(……ああ)
リョーマの身体がベッドに沈み込む。
そして心は、奈落の底へと突き落とされた。
「……っぅ…」
悔しさに涙が零れた。
(部長………部長………っ)
男がゆっくりとリョーマの脚を広げる。そして、大きく開かせた脚の間に自分の腰を割り入れ、熱塊を擦りつけてくる。
「     」
男が何か囁きながら、リョーマの頬に飛び散った精液を舐め取るのがわかった。
(……部長……オレ、こんなに、汚く……)
熱く解れたリョーマの後孔に男が自身を捩り込み始める。
「う、ぁっ……あ、あぁ……っ」
後孔の襞が目一杯伸ばされ、胎内も男の形に広げられゆくのがわかる。
熱い大きな塊が、臍のすぐ近くまで押し込まれるような感覚だった。
「     …マ……る」
(え?)
一瞬、男の声が聞こえた気がした。
だがそれはすぐに男自身の熱い吐息に掻き消され、リョーマの耳の奥で曖昧な音になってゆく。
ガツンと、男の腰骨がリョーマの尻に当たった。リョーマの中に男が根元まで埋め込まれたのだと、知る。
(あ……っ)
絶望的な心とは裏腹に、リョーマのカラダは甘い快感をリョーマの意識にも伝えてきた。
男を深く銜え込んだまま、リョーマのカラダがビクビクと歓喜の痙攣を起こす。
「     」
熱い吐息とともに男がリョーマの耳元に何か囁きかけ、動き始めた。
「あ、あぁっ、あ、あ、はっ」
小刻みに揺すられ、時折大きく突き上げられて、リョーマは甘い嬌声を上げる。
あまりの気持ちよさに、すでに理性は麻痺し、思考は働くのを放棄した。
「あぁ、ぁ、んッ、イイ、気持ち…いいよ…っ、あぁん!」
男の動きが激しくなり、熱棒がもの凄い勢いでリョーマの後孔を出入りする。
「ああっ、あぁぅ、あっ、あ、や、ぁっ!」
カラダが、男に合わせて妖しくうねる。奥まで捩り込まれた男をきつく締め上げると、リョーマの胎内で男がさらに大きく変形した。
「ああっ、あぁっ、あああっ」
右手のリングが、ひどく熱を持っていることにリョーマは気付いた。
(これが……部長だったら……)
有り得ないはずのことを思い浮かべ、リョーマのカラダがさらに熱を持った。
もしも、自分を貫く熱い凶器が手塚のものだったなら。
理性の欠片でそう考えた途端、リョーマは幸せに包まれた。
「…ぶちょ……っ」
心で思い浮かべたその人の名を、リョーマの唇が微笑みとともに声にしてくれた。
ビクッと、男のカラダが揺れ、動きが一瞬止まった。
(え?)
だがすぐに男は動きを再開し、乱暴なほどの激しさでリョーマの後孔を突き荒らしてくる。
「ぁあっ、ぅ、あっ、やっ、い、ぁあぁッ!」
メチャクチャに揺さぶられ、もの凄い勢いで男のモノが抽挿を繰り返す。敏感な場所を
痛いほど強く突き上げられてリョーマはまた熱液 を噴き上げた。
だが男は止まらない。
射精の力みで硬直し、銜え込まされている異物を締め上げるリョーマの胎内を、男は容赦なく出入りし、奥深くを掻き回す。
「ぁあっ、あっ、ぁ、はっ、ぁあっ、イイ…ッ!」
リョーマは強すぎる快感に泣きながら射精し続ける。射精が終わってもトロトロと体液が流れ出し、快感が途切れなかった。
リョーマの腰を抱えるようにして抉り回していた男が、リョーマに覆い被さり、きつく抱き締めてくる。
「う、ああっ」
抱き締められたまま腰を激しく振り立てられ、信じられないような奥まで男が入り込んできた。
「やぁぁぁッ」
カラダが裂けるのではないかと思われるほど男が奥を犯してくる。
嵐のように突き込まれ、抉り回され、リョーマは声も出せないほどの強すぎる快感に襲われ た。
そして、奥深く肉剣を突き立てながら、男が息を詰めるのがリョーマにもわかった。
「     っぁ!」
感極まった男の声が、一瞬だけリョーマの耳に届く。直後、リョーマは下腹の奥に熱を感じた。
(ウソ……っ)
男が息を継ぎながら力み、何度も強く腰を押しつけている。
(中で……出してる……?)
まだ熱を持つリョーマのカラダから切り離された心が、急速に熱を失っていった。
男はまだリョーマの奥へ射精を続けている。
(本当に……もう……)
男がすべて出し切って深く息を吐くのと同時に、リョーマの瞳から涙が溢れた。
意識が、また深い闇に落ちてゆく。
このまま朝など来ずに、深い闇の底にいられればいいのにと、リョーマは思った。































翌朝、ベッドの中で目を覚ましたリョーマは、絶望の中 で前日と同じように後孔に触れてみた。
(すごい…まだこんなに熱い……)
昨日と同じようにしっとりとクリームでぬめる後孔に、リョーマは恐る恐る指を差し込んでみた。
「あれ?」
後孔の内部は、クリームでしっとりと潤ってはいるものの、掻き出してみると、男の精液らしき物は残っていなかった。
(確かに…中で出されたと思ったのに……)
入り口にクリームが残っていることから見ても、胎内の精液を拭き取られたのでも、洗われたのでもないと思える。掻き出しただけではこんなふうに何も残って いないほど綺麗にはならないだろう。
(やっぱり、夢…?)
そう思いそうになって、後孔がクリームまみれになっていることからその考えは否定する。
(まさか、オレが自分で塗ったとか?)
ゆっくり身体を起こし、その考えも否定した。リョーマの部屋には「クリーム状のもの」は存在しない。
胎内に男の精液が残っていない理由はよくわからないが、リョーマは少しホッとしていた。
(本当にカラダを汚されたかと思った……)
今まで、リョーマのカラダに痕は残されるものの、胎内に男の精液が残されることはなかった。
そしてそれだけが、唯一の救いでもあったのだ。
リョーマは昨夜の、あの絶望的な瞬間を思い出して身震いした。
(本当にあんなことになる前に、早くなんとかしなきゃ)
ベッドを降りて立ち上がろうとして、リョーマはその場に崩れ落ちた。
「な……」
足腰に力が入らない。
痛みはないが、ひどい怠さが残っており、力が入らないほど膝や股関節が疲労していた。
そうしてリョーマは、昨夜の男の激しい行為を思い出した。
(確か…オレが思わず「部長」って言っちゃった後からだ…)
リョーマの呟きを聴いた男が、一瞬動きを止めたのを何となく覚えている。
(やっぱり、アイツはテニス部なんだ……だからオレが部長のこと呼んだのに驚いて…)
だがその後、男は激しさを増してリョーマのカラダを貪った。まるで独占欲を剥き出しにされたように。
(じゃ、アイツは、部長をライバル視しているヤツなのかも……)
そう考えて、リョーマは一人の男の顔を思い浮かべた。
不二周助。
手塚自身も、不二のことは大いに認めているのをリョーマは知っている。
(それに、不二先輩は、リングが見えるんだった…)
誰にも見えないはずのリングが、不二だけには見えているのも変だ。
(もしかして、不二先輩は何か知っていてオレに隠してる…?)
青い四角が部屋にある桃城も怪しいが、不二はもっと怪しいとリョーマは思い始めた。
(不二先輩にも、会ってみた方がいいな…)
座り込んだまま、リョーマは唇を噛んだ。
もしも『あの男』が不二だとしたら、謎の解明は一筋縄ではいかなくなるのは必須だろうと思う。
(どうすれば……)
リョーマはベッドに寄りかかり、天井を見上げた。
身体を動かすと、後孔にまだ異物が挟まっているような違和感を感じる。
(本当に……アイツが部長だったらいいのに……)
そう考えてしまってから、リョーマはフルフルと頭を振った。
『あの男』と手塚を一緒にするなど、以ての外だと思う。
(でも、もしも、アイツとのことがなかったら…部長はオレのこと……)
手塚に抱き締められた時の感触を思い出して、リョーマは頬を染めた。
「あ……」
リョーマの雄が、ピクリと反応し始める。
快感を覚えてしまったリョーマのカラダは、ちょっとしたきっかけで甘く疼き始めてしまうようになった。
「ごめん、部長……」
リョーマは下着の中へ手を滑り込ませ、直に自身を握った。
「ぶちょ……っ」
後孔に残る異物感を手塚のものが埋め込まれていると想像すると、急激にリョーマのカラダが熱を帯びた。
(リングが……)
「あ……んっ、ん……っ」
熱を発するリングを嵌めた右手で、リョーマは自分の胸をまさぐり、突起を摘み上げる。
「ぁあっ」
左手の中で、リョーマの雄がどんどん尖ってゆく。
「ごめんね、部長……オレ、こんなヤラシイヤツになっちゃった……」
夢中で左手を動かしながら手塚の腕の感触を、そしてあの柔らかな微笑みを、甘い声音を、必死に思い浮かべる。
リョーマは全身で手塚を思い描いた。
「あ………!」
ドクリと、溢れてくる熱い精液がリョーマの左手を濡らす。
そしてリョーマの頬を、一筋の冷たい雫が伝い落ちた。
「部長……」

何も考えず、手塚にだけ夢中になれるならどんなに幸せだろうか と、リョーマは思った。










 ←                              


*****************************************
←という方はポチッと(^_^)
つながりが悪い時は掲示板やお手紙でぜひ一言を!
*****************************************

掲示板はこちらから→
お手紙はこちらから→




20060108