  最愛の人
   <1>
  
      
  水族館から手塚の家に着くまで、二人はほとんど何も喋らなかった。 
      ただ、時折手塚の視線を感じてリョーマが顔を上げると、真剣で、深い色をした手塚の真っ直ぐな瞳に見つめられていた。 
      リョーマが小さく微笑むと、手塚も微笑んでくれた。 
      ただそれだけのことが、リョーマには、ひどく幸せに感じた。
 
 
 
 
  ***
 
 
 
 
  手塚の家には誰もいなかった。 
      父と祖父は前日から、今日はそれぞれ出掛けると言っていたのでいないことはわかっていたが、彩菜までいないとは、手塚は思わなかった。 
      黙り込んでしまった手塚を、リョーマはじっと見上げる。 
      「部長…」 
      「……ん?」 
      呼びかけたはいいものの、その先の言葉が出てこなくて、リョーマは手塚を見つめたまま口を噤んでしまった。 
      手塚が小さく眉を顰めて視線を逸らす。 
      「そんな顔をするな……」 
      「え?」 
      「理性がもたん…」 
      リョーマは大きな目を目一杯見開いた。ついでに頬どころか耳朶まで真っ赤に染まっている。 
      「だから………いいって、………言ったじゃないっスか……」 
      「………」 
      手塚はまだ繋いだままになっていた手をぐっと握り込むと、そのままリョーマの手を引いて自分の部屋に連れて行った。
 
  リョーマを先に部屋の中に入れ、手塚が逃げ道を塞ぐように後ろ手にドアを閉める。 
      パタンと、軽い音がしてドアが閉まるのを、リョーマは手塚に背を向けたまま聴いていた。 
      「越前…」 
      後ろから、そっと手塚が抱き締めてくる。 
      リョーマの心臓は、すでに壊れそうなほど高鳴っていたが、ゆっくりと深呼吸をしてから、手塚に寄りかかるように身を預けた。 
      手塚に身体の向きを変えさせられ、何も言わずに口づけられる。深く深く、手塚の舌が入り込み、リョーマの舌を絡め取る。 
      明らかに情欲に火をつける意図を持った甘く激しい口づけに、リョーマは全身を火照らせ始めた。 
      そうして自分よりも大きな背中に、リョーマはそっと腕を回してしがみつく。 
      「国光……」 
      ビクッと、手塚の身体が揺れた。 
      「え?あ、……あれ?ごめん…オレ、…名前で……?」 
      「いいんだ」 
      そういって手塚はリョーマを深く抱き締めた。 
      するりと自分の口から出た手塚のファーストネームに、リョーマ自身驚いていた。 
      初めて手塚の名を呼んだはずなのに、違和感がない。もう何度もその名を呼んだかのように、自分の唇にしっくりと馴染んでいる気すらした。 
      「そう呼んで欲しかった。俺も、お前のことをリョーマと呼んでいいか?」 
      「うん」 
      リョーマは嬉しくなって、手塚の胸に頬をすり寄せた。 
      「国光…国光……」 
      「……リョーマ…」 
      手塚はもう一度リョーマに甘く口づけると、リョーマを抱き上げ、ベッドにそっと下ろした。 
      「本当に、いいんだな?」 
      リョーマが一目で魅せられた綺麗な鳶色の瞳に覗き込まれて、リョーマの鼓動が新たにドキリと音を立てる。 
      「……今までだって…嫌だったわけじゃないんスよ。ただ……アンタに触られると…あんまりにも気持ちがいいから、自分がどうなっちゃうのかが、少し怖かっただけっス」 
      リョーマの呟くような告白に手塚は目を見開いた。 
      「焦らすみたいなコトしてごめん、国光……でももう、何も我慢しなくていいから……オレを…アンタのものにしていいから……」 
      言葉を言い終わる前に、リョーマの唇は手塚の唇に塞がれていた。 
      貪るように激しく口づけながら、手塚の手がリョーマの髪を掻き乱す。 
      「ん、ああ……っ」 
      リョーマの顔中に優しいキスの雨を降らせながら、手塚の左手がリョーマの服の中に差し込まれた。 
      「あ…っ」 
      腹を撫でられ、脇腹を撫で上げられ、胸の上を滑る手塚の指先に、リョーマの身体はビクビクと跳ね続ける。 
      爪の先で胸の突起を引っかかれると、リョーマの身体は痛痒い快感に震え上がった。 
      「……リョーマ……」 
      いつもよりも熱を帯びた手塚の声が、少し掠れながらリョーマの耳をくすぐる。 
      「リョーマ…」 
      「あぁ……ゃ…っ」 
      吐息混じりに熱く名を囁かれて心が震えた。 
      リョーマは瞼を固く閉じて手塚の与えてくれるすべての刺激を、身体と、そして心で受け止めてゆく。 
      パサリ、と音がして、リョーマはふわりと目を開いた。 
      一枚一枚剥ぎ取られてベッドの下へ落とされてゆく服をボンヤリと見つめ、リョーマは全身で感じる幸福感に酔い始めていた。 
      相変わらず心臓はドキドキと壊れそうなほど強く脈打っているが、手塚がリョーマに口づけようと身体を密着させてくるたびに手塚の鼓動もリョーマと同じくらいに激しく脈打っているのを感じて、そこでもまたリョーマは眩暈を起こしそうなほど喜びを感じた。 
      「あ……」 
      手塚の指先が、リョーマの熱塊を掠める。 
      「……感じてくれているのか?リョーマ……熱くなっている……」 
      「……わかんない……けど、……気持ち、いい……っ」 
      ゆっくりと手塚の温かな手に撫で上げられて、全身を駆け抜ける電流のような快感に言葉を詰まらせながら、リョーマは小さく微笑んでみせる。 
      「ごめん、国光…」 
      「え…?」 
      「ずっと待たせたままで……ごめん……」 
      「リョーマ……?」 
      リョーマは切なげに瞳を揺らしながら手塚の首に腕を回して縋りついた。 
      「こんなに好きなのに……なんでオレ、逃げていたんだろ……」 
      手塚の首筋に顔を埋めて、リョーマは大きく息を吸い、唇を震わせながらゆっくりと吐いた。 
      リョーマの胸に、自分でもよくわからない切なさが込み上げてきて、思うことを巧く言葉にできない。なぜだろう、手塚にひどくつらい思いをさせた気がする。 
      「リョーマ」 
      優しく髪を撫でられて、リョーマはそっと顔を上げて手塚を見た。 
      「お前の身体だけが欲しいわけじゃない」 
      「え…?」 
      リョーマは揺れる瞳を微かに見開いた。 
      「お前の心が追いついていないのに、身体だけ手に入れても意味がない」 
      「………」 
      手塚は柔らかく、リョーマの額に自分の額を押しつけた。 
      「俺はお前が欲しい。だがそれは身体のことだけじゃない。お前の心も、身体も、全部が欲しい」 
      「国光……」 
      「綺麗事に聞こえるかもしれんが、迷っているお前を抱くつもりはなかった。今でも、お前がまだ迷うなら、ここでやめられる」 
      リョーマの唇に優しく触れるだけのキスをしてから、手塚はそっと身を起こした。 
      「上辺だけの付き合いや、形だけの恋愛をするつもりはない。待てというなら、俺はいつまででも待つ。待たされている間に褪せてゆくような、そんな半端な気持ちでお前を好きになってなどいない」 
      「国光…」 
      手塚は静かな瞳でリョーマを見つめる。 
      「どうすれば、お前に伝わるんだろうか。………俺は、お前と共にいられるだけで、こんなにも幸せを感じているのだと…」 
      「あ……」 
      微笑む手塚に、リョーマは心を鷲掴みにされた気がした。 
      その微笑みは、今まで見たどの微笑みよりも柔らかく、優しく、すべてを包み込んでくれるほど深く、どんな言葉よりも強くリョーマに対する手塚の熱い直向きな想いを伝えてくるようだった。 
      屋上で、ただ黙って二人で過ごす時間を、リョーマはふいに思い出した。 
      何も語らず、どこも触れあわず、なのに互いの心は幸福に満ちてはいなかったか。少なくともリョーマの心は、穏やかな幸福感に満たされていたはずだった。
 
     『大切な人がいて、 
          大切な人の傍にいられて、 
          一緒に微笑んでいられるだけで、 
          すごく幸せなことなんだよね』
 
 
  
      (え………?) 
      自分の声に似た誰かの声が聞こえた、気がした。 
      (誰だろう……前にそんな話を…したような…) 
      自分とよく似た淡い色の瞳に穏やかに見つめられながら、その言葉を聞いた気がする。 
      (思い出せない……けど、本当にその通りだ……) 
      誰とどんな状況でその話をしたのかは全く記憶にない。 
      だが、その言葉を発した淡い色の瞳をした誰かの想いは、手に取るようにわかる。そんなささやかな日常を過ごせることこそ、幸せと呼べるものなのだと。 
      「……大切な…人がいて、こんなふうに、その大切な人の傍にいられて、同じものを見て、同じことを感じて、一緒に微笑んでいられるだけで、すごく幸せなこと……」 
      手塚はちょっと驚いたように小さく目を見開いてから、ふわりと微笑んだ。 
      「…そうだな」 
      「だったらオレは、アンタがいて、アンタの傍にいられて、アンタと同じものを見て、アンタと同じ時を過ごして、そうして一緒に笑っていられれば、幸せなんスよ…」 
      「リョーマ……」 
      リョーマは迎え入れるように、手塚に向かって両手を拡げた。 
      「アンタとひとつになれたら、もっともっと、幸せになれそうな気がするよ」 
      「………」 
      手塚がゆっくりとリョーマの腕の中へ身体を倒してゆく。 
      「俺でいいのか?………後悔するかもしれないぞ?」 
      「アンタがいい。アンタしかいらない」 
      そう言いながらリョーマは手塚を抱き締めた。 
      「オレがこうしたいって思っているんスよ。自分で選んだことなのに、後悔なんか、するわけないじゃないっスか」 
      手塚が静かに笑った。 
      「お前らしいな…」 
      「あ…っ」 
      手塚がグッと腰を押しつけてきた。布越しに、手塚の固く張りつめたものが当たり、リョーマの熱塊を押し上げる。 
      「ああ…」 
      熱い吐息を零しながら、手塚は片手で手早くズボンの前を開き、下着をずらして熱塊を取り出した。 
      「…あ…っ」 
      手塚がリョーマの脚の間に腰を割り込ませるようにして、互いの高ぶりを直に触れあわせる。ゆるゆると腰を蠢かされて、リョーマはその焦れるような快感にギュッと目を閉じた。 
      「ああ…あ、国光……んっ」 
      腰を揺すられながら深く貪るように口づけられて、堪らなくなったリョーマは自ら腰を手塚に押しつけ始めた。 
      「……ああ…リョーマ…」 
      熱っぽくリョーマの名を囁きながら、手塚が二人分の熱塊を一緒にまとめて握り込んだ。腰を揺らしながらしごき始めると、すぐに湿った音がたち始める。 
      リョーマの唇からも甘い声が漏れ始めた。 
      「ああ、あ、すごい…気持ちいいっ、国光…っ、いい、あっ」 
      息を乱しながら呟かれるリョーマの艶めいた訴えに、手塚の理性は危うくなる。 
      「あ…、ああっ……んっ」 
      二人分の荒い呼吸と密やかな喘ぎ声が部屋を満たしてゆく。 
      目を閉じて喘ぐリョーマの表情を、手塚も苦悶に眉を顰めながら食い入るように見つめていた。 
      擦れ合う先端から二人分の透明な雫が零れ出て手塚の左手を濡らしている。 
      「このまま……出すか?リョーマ」 
      「ん……もう、出そう……っ」 
      リョーマの呼吸がさらに荒くなってゆく。開いたままの唇からは呼吸と共に甘い声が漏れ出し、無意識のうちに手塚を甘く誘惑していた。 
      手塚の左手に少しきつい力が加わる。ぐちぐちと派手な音が上がった。 
      「やっ!…ああっ、すご……っ…あっ!」 
      リョーマの身体が硬直した。直後、噴き上がったリョーマの温かな白濁液が手塚の左手をしっとりと濡らしてゆく。 
      その光景に手塚も一気に追い上げられた。 
      「は…っ、あっ、くっ!」 
      息を詰めながら手塚も吐精する。 
      「…国光も……すごい、いっぱい……」 
      「………リョーマ…」 
      まだ芯を残す二人の熱塊を握り締めたまま、手塚がリョーマに口づける。 
      乱れたままの呼吸を整えようともせず、時折唇をずらして息を継ぎながら、二人は熱く深く、舌を絡め合った。 
      微かな水音をさせて唇を離すと、手塚は握り締めたままだった左手をゆっくりと開く。 
      「あ……すごいね…」 
      「…二人分だからな…」 
      ティッシュで手を拭いながらそう言って、手塚はまたリョーマに口づける。その触れるだけの口づけをリョーマは恥ずかしそうに微笑みながら受け止めた。 
      「まだ……続けても、いいか?」 
      ふと笑みを消して真剣な顔で訊ねてくる手塚に、リョーマは頬を染めて、小さく頷き返した。 
      「まだ、アンタのものにしてもらってないからね……ちゃんと、最後まで、しよう…」 
      「……つらいかもしれないぞ。いいのか?」 
      「いいよ………だって、国光のこと、大好きだから……」 
      真っ直ぐに見つめてくるリョーマの瞳を、手塚は眩しそうに見つめ返す。 
      「……たぶん、手加減が、できない」 
      「うん」 
      「怪我を、させるかもしれない」 
      「…うん」 
      手塚はきつく眉を寄せた。 
      「それでも、受け入れてくれるのか?」 
      リョーマは困ったように眉を寄せて、クスッと笑った。 
      「…アンタ、またヒトの話聴いてないの?アンタならいいって、言ってるっしょ?」 
      それでもまだ、眉を寄せたまま動かずにじっと見つめてくる手塚を、リョーマはそっと抱き寄せた。 
      「アンタにされることなら、どんなことでもいいんだ。もう、怖くなんかないよ……」 
      「リョーマ…」 
      「夢、見たのかもしれないけど……」 
      そう言ってリョーマは手塚の頬に、自分の頬をすり寄せた。 
      「その夢の中で、オレはアンタにすごく悲しい思いをさせたんだ……アンタが泣くくらい、つらい思いをさせた……」 
      「………」 
      手塚は不思議そうな表情をしてリョーマの言葉に耳を傾ける。 
      「だからね、オレは……オレたちは、こうして一緒にいる一瞬一瞬を、大事にしなきゃいけないって、思うんスよ」 
      そっと身体を離して、手塚がリョーマの瞳を覗き込んだ。 
      「アンタと過ごす時間は、一秒だって無駄にしたくない。その時勇気がなくて踏み出せなかった一歩が、一生踏み出せないまま終わったりするのは、嫌だから」 
      「リョーマ…」 
      リョーマの言わんとする意味がわかって、手塚も頷いた。 
      「俺はもうお前を手放す気などないが、それでも、離れて過ごさなくてはならなくなった時、どんなに遠くにいても互いに強く信じ合える絆を、お前と結びたい」 
      「……うん」 
      「それが、身体を繋げることなのかはわからないが、ひとつになって、初めてわかることもあるかもしれない」 
      「そうっスね」 
      手塚はもう一度、リョーマを深く抱き締めた。抱き締めて、深く溜息を吐いた。 
      「……いや、理由なんか、建前だ。……お前のすべてが欲しい。そして俺のすべてを、お前に見せたい」 
      「うん。……だから、アンタも全部、脱いで…」 
      身体を離して手塚は頷いた。ゆっくりと、一枚一枚服を脱ぎ、ベッドの下へ落としてゆく。その様子を、リョーマは起きあがってじっと見つめていた。 
      露わになってゆく手塚の肌は、ジャージを着ていることが多いせいか案外白かった。だが決して脆弱な印象はなく、むしろ適度に張った筋肉を美しい彫刻のように見せている。ほとんど大人に近い体つきの手塚は、きっとこれから先、年を重ねるごとに、この彫刻のような身体にさらなる大人の男の色香を纏ってゆくのだろう。 
      すべてを脱ぎ落とした手塚と目があって、リョーマの心臓はドキリと、大きな音を立てた。 
      (今から、オレは、この人と……) 
      ふいに恥ずかしさが込み上げてきて、リョーマは僅かに視線を逸らした。 
      手塚はそんなリョーマの頬を優しく両手で包み、自分の方を向かせる。 
      「…今更逃がさないぞ」 
      そっと唇を啄まれ、リョーマが真っ直ぐ手塚を見上げる。 
      「逃げないっスよ」 
      挑むように見つめられ、手塚はスッと目を細めた。 
      「その瞳が、気になって仕方がなかった…」 
      「え?」 
      ゆっくりと、手塚がリョーマの身体を倒してゆく。 
      「初めてお前と言葉を交わした時、この真っ直ぐで強い瞳が…とても印象に残ったんだ」 
      「生意気そうだから?」 
      頬を染めながらも怪訝そうに訊ねてくるリョーマに、手塚は小さく微笑んだ。 
      「理由はわからない……だがお前に見つめられると、心が、騒ぐんだ」 
      しっとりと口づけられ、そのまま首筋に優しく舌を這わされて、リョーマは微かに身体を揺らした。 
      「…もしかして、オレに一目惚れ?」 
      「……かもしれんな」 
      静かに笑いながら、手塚の手がリョーマの胸を撫でる。 
      「こんなふうになるとは、思っていなかったが、な…」 
      「んっ、あ…っ」 
      胸の突起に口づけられ、リョーマが小さく声を上げる。そのまま、手塚の唇がその突起を挟み、舌先で先端を転がした。 
      「あ、あっ、やっ、あ……っ」 
      先程の余韻がまだ下半身に残っていたらしく、リョーマの熱塊はすぐに頭を擡げ始めた。 
      「は、ああ……」 
      手塚がリョーマの胸の突起を吸い上げるたびに、組み敷かれた身体がビクリと反応する。手塚が執拗にそこを舌で嬲り続けているうちにリョーマの片膝がゆっくりと立てられ、不安定にゆらゆらと揺れ始めた。手塚がその膝に手をかけ、グッと脚を開かせると、リョーマは「あッ」と叫んで恥ずかしげに顔を背ける。 
      膝を支える手はそのままに、勃ち上がりかけている熱塊を優しく撫で上げてやると、リョーマの唇から甘い声が漏れだした。 
      「もう熱いな……先も、濡れてる…」 
      「だって、アンタが……あっ」 
      生暖かい感触に自身を包まれて、リョーマは驚いて上半身を起こした。そうして手塚のしていることを目で確認し、リョーマは目を見開いた。 
      「なにやって……っ、あっ、や………ああ、んっ」 
      まだ幼さを残す熱塊が手塚の口内にすっぽりと納められ、吸い上げられる。柔らかな舌の感触に、リョーマは全身の毛が逆立つような快感を感じた。 
      「ああ……すごい……気持ちいい……っ」 
      根元から先端まで何度も舐め上げられ、口内をゆるゆると出し入れされているうちに、リョーマの膝は支えがなくても大きく開いたままになっていた。 
      リョーマの先端から溢れ出す透明な雫と、手塚がたっぷりと絡めた唾液が混じり合い、リョーマの熱塊を伝い落ちて流れてゆく。その流れを指先で追いかけて辿り着いた窪みに、手塚は雫のぬめりを借りてゆっくりと指をめり込ませた。 
      「あっ?」 
      リョーマが目を見開いて大きく身体を揺らした。 
      「…痛いか?」 
      「ううん……痛くない……」 
      手塚は長い指を根元まで、時間をかけてリョーマの固い蕾にゆっくりゆっくり飲み込ませていった。指を奥に差し込んだままリョーマに目をやると、リョーマは固く目を閉じて、何かに堪えるようにきつく眉を寄せている。 
      「息をしろ」 
      「は……ぁっ」 
      手塚に言われて、思い出したようにリョーマが息を吸い込んだ。呼吸ができたせいで、ほんの少し身体から力が抜け、手塚の指を受け入れている違和感も、僅かに和らいだような気がした。 
      だが微かに緩んだリョーマの身体の変化に、手塚はすかさず、リョーマに埋め込んでいる指でその内壁を擦ってみた。 
      「あっ?」 
      リョーマの身体がビクリと揺れる。 
      手塚は付け根ギリギリまで指を押し込んで、探るようにリョーマの内部を撫で回す。 
      「ああっん!」 
      その一点に触れた瞬間、リョーマの身体が大きく跳ねた。 
      「…これか…」 
      手塚は小さく呟くと、その一点をじわりと押し上げてみる。 
      「やっ!やだっ、何?それ、ヘン……あ……あ、んっ」 
      リョーマの雄がみるみる固く張りつめてゆく。 
      手塚の喉が、ごくりと音を立てた。自分の指一本だけでリョーマが甘く乱れてゆくのが堪らない。 
      だが手塚は、最後の理性を振り絞ってそっと指を先端まで引き抜き、蕾の入り口を解しにかかった。 
      「ああ、あっ、んん……痛っ」 
      もう一本指を入れようとしていた手塚の動きが止まる。 
      「………すまない」 
      「………あ…ごめん、大丈夫っ」 
      手塚は指を一旦引き抜いて少し考えてから、リョーマに覆い被さって優しく口づけた。 
      「ちょっと待っていてくれ」 
      「え……あ……うん」 
      柔らかく微笑まれ、額にそっと口づけられて、リョーマは真っ赤に頬を染めた。感じたことのない痛みを、普段意識しないような場所で感じてしまったために思わず声を上げてしまった自分が恥ずかしかった。 
      手塚はベッドから降りると机の一番下の引き出しから小さな紙袋を取り出し、それをしばらく見つめてから溜息を吐いた。 
      「国光…?」 
      「ん、ああ、……不本意だが、これが役に立ちそうだなと思ってな」 
      そう言って手塚は紙袋の中から小さなボトルを取り出した。 
      「なんスか?、それ」 
      「………もらい物なんだが……その、……お前を傷つけないようにするためのものだ」 
      「…………ふーん」 
      平然としているように振る舞いたかったが、リョーマは手塚から目を逸らして横を向くのが精一杯だった。 
      「………誰がくれたのか、だいたい想像つくんスけど……」 
      「え?」 
      「不二先輩じゃないんスか?」 
      リョーマは手塚から、不二には二人の関係がバレているだろうことを聴いている。あの、いつも微笑んでいる割に心の奥を見せない先輩ならば、プレゼントだと言ってニッコリと微笑みながらそういう『グッズ』を手渡しそうだと、なぜか強く、そう思えた。 
      「なぜわかる?」 
      「……なんとなく」 
      手塚は怪訝そうに眉を寄せたが、小さく溜息を吐くと、ベッド脇に腰掛けた。 
      「クセはあるが、根はいいヤツだ。俺たちのことを、本当に心配してくれている」 
      「……知ってるっス」 
      自分でそう言っておきながら、リョーマはなぜ「知っている」のかを不思議に思った。記憶を辿ってみても、不二に直接手塚への想いを語ったのは、あの河村の店で夢現の状態で話した時だけだ。「素面」の時にはまともに話したことさえないように思う。 
      それなのに、なぜ自分は「知って」いるのだろう。 
      「…リョーマ?」 
      「え?」 
      自分の考えに囚われていたリョーマは手塚に覗き込まれて我に返った。 
      「……今は俺のことだけ考えてくれないか?」 
      真剣な顔でそう言われ、リョーマは目を見開いた。返事をしようと開きかけた唇を手塚に奪われ、腰を押しつけられる。 
      「ん……、ふ…ぁっ」 
      「リョーマ…」 
      手塚の甘い吐息がリョーマの耳朶にかかり、リョーマは思わず「ぁ」と声を漏らした。 
      ほんの少しだけおさまりつつあった身体の熱が、再び呼び覚まされてゆく気がした。 
      
 
 
 
 
 
  
      続 次回は「大人仕様」(笑)
 
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      20050331
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