028 最愛の人<2>





最愛の人

<2>



「…俯せになってくれるか?」
そっと囁かれた手塚の言葉に、リョーマは小さく頷いて身体を反転させた。
手塚が背中に覆い被さるようにしてリョーマのこめかみに口づけてくる。
「国光……」
「大丈夫だ……ゆっくりする」
ほんの少し不安を滲ませたリョーマの声に、手塚は耳元で優しく答えながらリョーマの頭を撫でた。
「あ……」
手塚の指先が宥めるように背中を優しく滑り、リョーマの双丘の間に入り込む。
先程まで指一本をやっと迎え入れていた蕾はすでに固く閉じきり、撫でてくる手塚の指を頑なに拒んだ。
手塚は手にしていたボトルから指先にオイルを垂らし、感触を確かめてからリョーマの秘蕾にその指で触れた。
「…っ!」
するりと指が奥まで入り込み、リョーマの身体がビクリと揺れる。
「ああ……あっ…っん」
「つらいか?」
低く訊ねてくる手塚の声に、リョーマはふるふると首を横に振った。
手塚は柔らかく微笑んでリョーマの背中に口づけを落とす。そうして一旦抜き取った指先に先程よりも多めにオイルをとり、リョーマの後孔をゆっくり拡げてゆく。
「あ……ああ、ん…っ」
快感とは違う、だが不快感とも違う微妙な異物感がリョーマに湧き上がる。
頑なに閉じていた蕾が少しずつ解れてくるのを、手塚は目を細めて見つめた。指を奥深くに飲み込ませて上下に揺らしてやると、リョーマが小さく声を上げる。指を先端だけ残してまた上下に揺すれば、ほんの少しできた隙間から誘うような水音が聞こえた。
「………っ」
手塚の鼓動が加速する。
リョーマへの愛しさ故に加速する鼓動を、衝動を、リョーマへの愛しさで封じねばならない矛盾に心が焼き切れそうだった。
「ああ…っ」
二本目の指を捩り込むと、リョーマの背中がしなった。その二本の指で、先程見つけた場所を撫でるように押してやると、リョーマが息を飲む。
手塚は熱く吐息を零した。
指だけでこれほど大きな反応をするリョーマを見て、これからこの場所に捩り込む自分の熱塊でリョーマがどれほど乱れるのかを思うと、今すぐにでもそこに自身を埋め込んでみたくなる。
だが手塚は大きく息を吐いて、その衝動を何とかやり過ごした。自分ばかりが身体の快感を得ても、それは心の快感にはならない。特に、初めての経験で痛みやつらさだけをリョーマが記憶してしまうのはなんとしても避けたかった。
手塚には、今日の、この一回だけで終わるつもりは微塵もないのだから。
この先、ずっとリョーマの傍にいたいと手塚は思う。そしてそれは、確実に自分がこうしてリョーマを求める時間があることも意味する。
なぜならば、手塚はリョーマの肌に触れてしまったからだ。愛しくてならない想い人の、この甘い肌の感触を知ってしまった以上、それを求めない男がどこにいようか。
「あ……あっ…う」
固く目を閉じて小さく呻くリョーマをじっと見つめながら、手塚は差し込んだ二本の指をゆっくりと拡げ、その指の間を伝わせるようにして奥にオイルを流し込む。
「やっ、なに?なんか…」
「大丈夫だ」
後孔の異物感に、さらに何かが流れ込んでくるような感覚を覚え、リョーマは身体を捩って手塚が何をしようとしているのかを見ようとする。だが落ち着いた手塚の声に少し躊躇ってから、リョーマはゆっくりと身体を元に戻した。
「…痛いか?」
「ううん…」
二本の指が自分の後孔を出入りするのを感じてリョーマは眉を寄せた。どこか焦れったさを感じる異物感に、甘い吐息が零れる。
「あ…っ」
手塚の指が三本に増えたことには気づかなかったが、その指がグッと奥まで押し込まれてリョーマは小さく叫んだ。手塚の指先があの場所を掠めるたび、リョーマは息を詰めて身体を揺らす。
ゆっくり、何度も指を出し入れされているうちに熱く勃ち上がってきたリョーマの雄を、手塚はそっと空いている方の手で撫でてやった。
「あっ、ああ…っ」
リョーマの身体が途端にビクビクと痙攣するように揺れる。
手塚はもう一度、自分の三本の指が根元まで埋まるのを確認してから、スッと引き抜いた。
「やっ?……あっ、なんで…」
後孔の喪失感に、リョーマが目を開ける。
手塚はゆっくりと眼鏡を外してベッドサイドのローチェストの上に置いた。
「…リョーマ…」
熱い手塚の囁きと共にリョーマの腰が持ち上げられ、後孔へ手塚の熱塊が押しつけられた。
リョーマはそっと目を閉じる。なるべく身体の力を抜こうと思いながらも、リョーマの意志に反して、その手だけはシーツを固く握りしめてしまう。
「……リョーマ…っ」
グッと、圧力がかかったと思った直後、指とは比べものにならない質量を伴った熱が、リョーマの中へ押し込まれてきた。
「う、あ……っ」
「……っく、うっ」
どちらのものかわからないくぐもった呻きが部屋に広がる。
「う……っく」
「……息を吐け、リョーマ」
「や……は……はぁ……っ」
手塚のいう通りに息を吐こうとして、逆にリョーマの身体がさらに強ばった。
「く……っ」
「はぁっ、あ……んっ」
手塚はきつい締め付けに顔を顰めながら、押し込めようとしていた自身の肉剣をリョーマから少し引き出し、二人の接合部分にまたオイルを垂らした。
瓶から直接垂らしたにもかかわらず、リョーマはその冷たさにも気づかないほど意識を異物感に囚われているように、手塚には見えた。
それでも、もう手塚はリョーマの身体を離すことはできない。
「あ……あ……っ」
手塚は自分を飲み込んでゆくリョーマの後孔を見つめながら、ゆっくりゆっくり小さな出し入れを繰り返し、徐々に深く埋め込んでゆく。
「…もう少しだ、リョーマ」
「ん……あっ、あ…っ」
手塚の声が聞こえているのかいないのか、リョーマはただ眉をきつく寄せ、目をギュッと閉じて苦しげな声を漏らしている。
「…痛いか?」
「………っ」
目をギュッと閉じたまま、リョーマは首を小さく横に振る。
声さえ出せないまま必死に自分を受け入れようとしてくれているリョーマに、手塚はどうしようもないほどの愛しさが込み上げるのを感じた。
「リョーマ…」
一度ゆっくり引き出した自身を、同じようにゆっくりと、今度は途中で止まらずに自身の付け根までリョーマの中に一気に埋め込んでいく。
「ああ、ああぁ……深い、よ……」
「……ああ、全部入った…」
吐息混じりの手塚の言葉に、リョーマはふわりと微笑んで目を開いた。
「全部……」
「ああ、お前の奥深くに、俺がいる。わかるか?」
そう言いながら手塚が微かに腰を左右に揺すると、リョーマが「ぁ」と叫んで眉を顰めた。
「…うん、わかる……国光のが…すごい、ドクドクいってる……」
呟くように言うリョーマの言葉に、手塚の熱塊が質量を増した。
「やっ、今、なんか……っ」
「リョーマ……動いていいか?」
「…ゆっくり」
「ああ」
約束はできないが、と手塚は心の中で呟いて、ゆるりと腰を回した。
「んっ、ああっ」
「……っ、う…っ」
リョーマの瞳が再びきつく閉じる。
それと同時に自身もきつく締め上げられて、手塚は思わず低く呻いた。
「く……っ」
甘く締め上げてくるリョーマの内壁に、手塚の理性が崩されてゆく。だめだと思いながらも、手塚は熱い激情に流され始めた。
「あっ…やっ、ああっ!」
自身を引きずり出し、勢いをつけてリョーマの中に捩り込む。
「い、やぁっ!」
途端に上がったリョーマの悲鳴に近い叫びに、手塚は全身がカッと燃え上がるのを感じた。
ゆっくりと、だが奥深くまで犯される衝撃に、リョーマはシーツを握り締めたまま歯を食いしばって耐えた。
「うっ、うっ、んっ……やっ」
リョーマの身体が強ばってゆく。手塚はそれに気づいたが、もうすでに自分の激情を抑えることが出来なくなっていた。
「ああ……っ、リョーマ…っ」
「いっ、やっあっ、ああっ、や…っあ!」
手塚はリョーマの腰を鷲掴み、のし掛かるように上から肉剣を突き立てた。
「ああっ?、やっ、ああ、んっ、……そこ……、な…っ?」
リョーマの声音の変化に手塚は気づいた。先程までとはうって変わったように艶が混じり始めている。
「ああっ、ああんっ、あっ、あはっ、あっ」
自身を突き入れた瞬間に上がるリョーマの声は明らかに嬌声に変わり、その身体が撓りながら自分に合わせて揺らめいている。手塚を包み込む内壁は、熱くきつく手塚にまとわりついてさらに奥へと誘っているようだった。
ゆっくりと、リョーマの身体に受け入れてもらってゆくように、手塚は感じた。
「…リョーマ…イイのか?」
「ん……ぁあッ、イイッ、なんで、こんな…っ、ああっ……気持ち、イイよ…国…光…っ、ああぁん!」
熱に浮かされたように呟くリョーマの言葉が、手塚の中の欲望にさらに火をつける。
その熱い欲望のまま、音がするほど強く腰を叩きつけても、リョーマから苦痛の声が挙がらない。奥深くに留まって腰を回すと、リョーマの身体がビクビクと震えた。
手塚は、自身の熱塊が、リョーマのあの場所に当たっているのだと漸く気づいた。
「ここか…っ」
先程探し当てた場所を狙うように肉剣を突き立てると、リョーマの身体が大きく撥ねた。
「い、やぁっ!!」
「うっ…く」
突き込むと同時にきつく締め上げられて、手塚は歯を食いしばった。絡みついてくるリョーマの内壁を纏ったまま激しい抽挿を繰り返す。
「ああっ、あっ、あっ、あぁぁっ、い、やぁっ!」
手塚の熱い肉棒に内臓を引っ張られ、また押し込められて、リョーマの背中にぞわりと、言い様のない感覚が這い上ってくる。
身体を大きく揺すられながら、内臓ごとあの場所を何度も強く抉られてリョーマが首を横に振り散らした。
パサリと音を立ててシーツに広がるリョーマの黒髪が、手塚の目にはひどく扇情的に映る。
「リョーマ…っ!」
「ああ、んっ!」
その声も、仕草も、肌に浮き始めた汗も、リョーマの何もかもが手塚を煽っていく。
もはや、手塚の理性は、粉々に砕け散っていた。
「リョーマ、……リョーマ……っ!」
手塚は熱くその愛しい名を呼びながら、リョーマの身体がベッドに沈み込むほど激しく腰を叩きつける。
だが、オイルを伴ってじっくりと解しきったリョーマの後孔は、野生の獣のように激しく抉ってくる手塚の熱を受け入れても傷つくことはなかった。むしろ、激しくすればするほど、その肢体には赤みが増し、普段からは想像もできないような色香を迸らせる。
手塚は深く自身をめり込ませたまま大きく腰を回した。
「やああぁっ!ああ、んんっ」
リョーマは叫びながら妖しく身体をくねらせる。
腰を回しながらさらに奥深くを抉り回し、深いところに留まったまま、手塚が力ずくでリョーマの身体を反転させた。
「やっ、あぁっ!」
リョーマの粘膜が捩れ、手塚をきつく絞り上げる。
「う、ん……っ」
込み上がった強い射精感を、手塚は歯を食いしばってなんとか堪える。
「ムチャクチャ……っ」
「……お前の…カオが見たかった」
リョーマがふわりと目を開けて手塚を見た。
「……うん……オレも、この方が、いいや……」
息を弾ませ、手塚の与える甘い熱に瞳を潤ませながら微笑むリョーマに、手塚は優しく口づけた。
「この方が、キスもできる……」
そう言いながら、さらに深く熱く舌を絡めてくる手塚の背に、リョーマは腕を回してしがみついた。
「オレも……この方が……アンタを抱き締められる……」
二人は間近で瞳を見つめ合い、クスッと笑った。
「リョーマ……愛してる」
「オレも、……アンタだけが好き。愛してる、国光…」
「リョーマ……」
手塚はうっすらと瞳を潤ませてリョーマの額に自分の額をすり寄せた。
「愛してる……誰にも渡さない……お前はもう、俺だけのものだ……」
「うん……アンタも、オレだけのものだよね…?」
「そうだ……俺は、お前だけのものだ……ずっと、一生……お前だけの……」
リョーマは堪えきれないほどの嬉しさに、自ら手塚に口づけた。
「好き、国光……愛してる……アンタはオレだけのもの……」
まるで結婚式の誓いのように、二人は互いの言葉を繰り返す。
見つめ合い、微笑み合って、もう一度深く口づけながら、手塚が腰を揺すり上げた。
「んあ、ああんっ」
抉り上げられてリョーマが仰け反る。
目の前に晒されたほっそりとした白い喉に噛みつくような勢いで口づけながら、手塚はリョーマの奥深くへとさらに熱塊を捩り込んだ。
「やぁっ!…ああっ、は、あっ」
「リョーマ…っ」
リョーマの指が手塚の背に食い込み、その爪が手塚の皮膚に傷を付ける。手塚にとってはそんな痛みさえリョーマへの愛しさに繋がってゆく。
「もっとだ……もっとお前を……っ」
グイグイと腰を捩り込みながら手塚が低く呻くようにリョーマの耳元で囁く。
「やっ、だ……、く……みつ…っ、あっ、あっ、ああっ、ああっ!」
「もっと、深く……っ」
手塚の肉剣が、リョーマの一番感じる場所を何度も強く押し上げた。
「ああっ!…あっ、も、だ、め……っ!」
リョーマの身体が痙攣を始め、直後、ビクリと硬直した。手塚と自分の腹に挟まれ、擦られていたリョーマの熱塊が堪らずに弾ける。
「ああっ!あ、ああっ!……あ、あ……んっ」
「リョーマ……っ」
何度かに分けて熱液を噴き上げ終えると、リョーマの身体から一気に強ばりが解け、グッタリと弛緩した。
手塚がリョーマの顔を覗き込んでみれば、リョーマはひどく驚いたように呆然と目を見開き、息を乱したまま頬を真っ赤に染めて手塚を見上げている。まるで自分の身体に何が起こったのかが理解できていないかのような表情だった。
「……リョーマ?」
「オレ……今、何……?」
手塚は今すぐ律動を再開したいのを堪え、リョーマの心が追いついてくるのを待った。
「…どうした…?」
「……すごく…気持ちよくて……何もしてないのに……オレ……っ」
自身に一度も触れずに吐精したことが、リョーマには信じられないのだろう。戸惑うリョーマに、手塚は優しく口づける。
「感じてくれて、嬉しい……つらくは、ないんだな?リョーマ」
リョーマは見開いている瞳を手塚に向けた。
「オレ、……変、なのかな……初めてなのに……」
動揺して手塚から瞳を逸らすリョーマの頬に、手塚は優しく口づけた。
「そうじゃない」
リョーマがゆっくりと視線を手塚に戻す。
「お前の身体は、俺に合うように作られているんだ。そして俺の身体も、お前のために作られたものだ」
「え…」
「だから、触れあえばこんなにも心地いい……」
手塚の左手が優しくリョーマの頬を撫でる。そのまま首筋を撫で下ろし、胸の突起に触れ、腹の上に撒き散らされたリョーマの愛液を塗り拡げた。
「アンタのために、作られた、オレ…?」
リョーマの瞳がゆらりと艶めいた光を浮かべる。
「アンタは、オレのために作られた……」
「ああ、そうだ…」
「じゃあ、アンタも気持ちいいの?国光…?」
手塚はしっとりとリョーマに口づけ、その耳元に唇を寄せて囁いた。
「わからないか?気持ちよくなければ、こんなふうに熱くなってお前を求めたりしない…」
そう言って手塚はリョーマの奥深くに埋め込んだままに熱塊をゆるりと動かした。
「あっ、ん…っ」
途端にリョーマの身体がビクッと反応を示す。
「国光……国光も……もっと、気持ちよく、なって……」
リョーマの腕がしっかりと手塚の背に回される。
「リョーマ…」
手塚の胸に愛しさが込み上げる。
「……リョーマ」
汗ばんで額に張り付くリョーマの前髪を払ってやり、その額に、瞼に、頬に、そして唇に、手塚はありったけの想いを込めて口づけてゆく。そしてそのままリョーマの身体に腕を回し、きつく抱き締めた。
「リョーマ……リョーマ……」
リョーマへの愛しさが、手塚から言葉を奪う。
「国光……あ…っんっ」
手塚が腰を揺らめかせ始めた。リョーマの奥深くを何度か緩く掻き回してからずるりと先端まで引き出し、なるべく優しく、だが確実に最奥まで熱塊を捩り込む。
「ああ、あ…、また……くるよ……すごい……っ」
間近でリョーマの顔を覗き込みながら、手塚は徐々に腰の動きを加速してゆく。
「あッ、ぁあッ、国光っ、ひぁっ!い、やぁっ!」
ガツンと音がするほど少し乱暴に最奥を突かれ、そのまま左右に揺すられてリョーマが叫ぶ。強い刺激に、リョーマの雄は再び固く張りつめてきた。
「リョーマ……リョー…、マ……ああ……っ」
熱い吐息を零しながら、まるでその言葉しか知らないかのように、手塚はリョーマの名前を呼び続ける。
リョーマが愛しくて、ただ愛しくて、手塚は膨れあがる想いにどうしようもないほど心を軋ませていた。
「リョーマ、あ……リョーマ…っ、…くっ…」
「あっ、ああっ、あ、んっ!んん…っ」
突き上げられながら口づけられ、リョーマは呼吸ができずに眉を顰める。手塚の腕がリョーマの頭を抱え込むように回され、息を継ごうと唇をほんの少し離すことさえ許されない。
「んんっ、ふっ、はぁっ」
やっと唇が解放される頃には、足りない酸素と強すぎる快感とで、リョーマの意識は朦朧となっていた。
「リョーマ…っ、離さない、……リョーマ……」
薄い膜が張ったような意識の中で、リョーマは手塚の声を聴いていた。甘く、切なく、深い声で囁く手塚の声。
こんなふうに切ない手塚の声を、前にも聴いた気が、リョーマは、した。
(どこで……?)
それは何もない、紗のかかったような世界の中で、手塚と二人きりだった時の記憶。
(夢……)
その時の手塚は、深い悲しみと、どうしようもない後悔で胸の奥深くを満たしていた。そんな手塚の心の苦しみをリョーマも感じ取り、涙を流さない手塚の代わりに止めどなく泣き続けた気がする。
(夢なのに………なんでこんなに、……今でも、苦しい……?)
自分を突き上げている手塚を、リョーマはギュッと抱き締めた。手塚が動きを緩めてリョーマを覗き込む。
「リョーマ…?」
「……好き……大好き、国光……もう絶対…アンタにつらい思いなんて…させないから……っ」
手塚はふわりと微笑むと、リョーマの身体をきつく抱き締め返した。
「お前がいてくれればいいんだ。それだけでも、俺は幸せだ」
「国光…っ」
「愛している、リョーマ……俺をもっと、お前の奥深くまで、受け入れてくれ…」
優しく髪を撫でられ、深く口づけられ、リョーマは甘い喜びに身体も心も震えた。
「もっと……深く……国光で、いっぱいにして……」
その言葉は身体だけの艶めいた意味ではなく、リョーマは自分の一番奥にある魂までも、手塚への想いでいっぱいになりたいと、そう願った。
「リョーマ…」
「大好き……ああ…っ、あっ!」
堪らなくなったように手塚が激しく動き出した。突き上げながら、まださらに熱塊の質量が増してゆくような猛撃に、リョーマは手塚に縋りついて必死に堪える。
「ぁあッ、あッ、ぁあぁッ、や、ぁ、んッ」
「あぁ……リョーマ……っ」
手塚はリョーマを激しく揺さぶりながら、目を閉じて感じ入ったように熱く喘ぐ。
ぶつけられる激情は、リョーマにとって決してつらいだけのものではなく、手塚の肉棒に一番感じる場所を何度も何度も激しく刺激され、リョーマの雄も固く尖りきって先端から蜜を零し始めている。
ベッドはずっと大きく軋み続け、二人分の甘い喘ぎと、荒い呼吸音と、接合部分から漏れる湿った粘着音と共に、室内を艶めいた空間に仕立て上げていた。
「あっ、ああっ、あっあ、んんっ、あぁ!」
手塚は乱れる息のまま身体を起こし、リョーマの脚を肩に担ぎ上げた。
「やあぁっ!ああぁっ!あああっ!」
リョーマの声が悲鳴に近い喘ぎに変わる。
手塚の熱い肉剣が、リョーマの一番感じる場所を狙って、鋭く、深く、確実に突き込み始めたのだ。
「ああっ、やぁっ、す、ごい、あっ、や……出る……っ」
「…っ、リョーマ…っく、うっ」
きつく締め上げてくるリョーマの内壁を切り裂くように手塚の熱塊が何度も出入りを繰り返す。
ガツガツと音を立てて腰を叩きつけられ、最奥を抉り回され、息つく間もないほど立て続けに強い快感を与えられて、リョーマは半ば失神状態で本能のままに手塚に合わせて腰を揺らしていた。
「あ、くっ……リョーマ…っ」
手塚の絶頂が近い。だがリョーマはそれすらわからずに、ただガクガクと身体を揺さぶられ、背を撓らせる。
「ああ、あッああ、んッ、国、光……ぅ」
「リョーマ…っ」
肉を打つ音がさらに大きくなる。
「ひあぁっ、ぁあッ、深いよ、も、だめ…っ!」
感じる場所を手塚の肉棒に何度も強く押し上げられて、リョーマはまた自身に一度も触れずに弾けた。それを感じながら手塚はさらに深く強く激しく、硬直するリョーマの蜜壺を限界まで固く張りつめた肉剣で突き込み続ける。
「う…、あ…っ、出すぞ、リョーマ……っん、あ…っ!」
手塚がリョーマの腰を鷲掴んで強く引き寄せ、リョーマの尻朶に腰骨をめり込ませるほど奥深く自身を捩り込んで思い切り力んだ。
「ん……くっ、あっ、リョーマ……っ」
喘ぎながら何度もリョーマの奥へ自身を突き込み、その度に熱い激情をリョーマの最奥に勢いよく吐き出してゆく。
感覚などないはずの直腸の奥が手塚の熱い体液で満たされてゆくのを、リョーマは感じるような気がした。
「くっ……はっ、……ああ………」
長い長い絶頂を終えた手塚が、最後にとどめのように一度グッとリョーマの奥へ自身を捩り込んで力んでから、すべてを出し尽くしたというように深く息を吐いてやっと身体の力を抜いた。
「………リョーマ……」
手塚が荒い呼吸のまま、リョーマに覆い被さってゆく。意識が飛びかけていたリョーマは、手塚の身体の心地よい重みに目を開けた。
「ん……」
しっとりと甘く舌を絡めてから、手塚はそっと唇を離してリョーマの瞳を覗き込む。
「……大丈夫、か?」
「……だめ」
小さな掠れた声で呟くリョーマを手塚はじっと見つめた。
「……初めてだったのに……こんな……」
ぐったりと気怠げな口調でリョーマに呟かれ、手塚は小さく眉を寄せた。
「すまない……抑えが効かなかった……」
そう言って手塚は優しくリョーマの頬を撫でた。
「……嫌いになったか?」
リョーマの瞳が、真っ直ぐに手塚を捉える。
「……そんなわけ、ないっしょ………そうじゃなくて……」
上気した頬をさらに赤く染め上げて、リョーマは手塚から視線を逸らした。
「気持ち、よすぎて……だめ。……自分がこんなふうになるなんて……思ってなかった、から……」
手塚は目を見開いた。
今、自分の下で頬を染める少年がいつもコートで見る『越前リョーマ』とあまりに違いすぎて、自然と頬が緩む。
「…俺の前でだけなら、いいだろう?」
「え…?」
柔らかな声音に、リョーマはゆるりと視線を手塚へ向けた。
「俺はお前のすべてが欲しいと言ったはずだ。お前が自分でも知らない一面さえも、すべて俺のものにしていきたい」
リョーマは目を見開いて手塚を見つめた。
「……俺も、自分があんなふうに欲望が抑えられなくなるとは思っていなかった…」
唇が触れそうなほど近くで囁くように言われ、リョーマはまた頬を染める。
「お前といると、どんどん新しい自分を発見できる気がする」
リョーマはクスッと、小さく笑った。
「アンタの人生、オレが変えちゃった?」
手塚は一瞬目を見開いてから、クッと、楽しげに笑う。
「そうかもしれないな。責任はとってもらうぞ?」
微笑みながら手塚を抱き締めようと手を伸ばした途端、リョーマは小さく呻いて顔を顰めた。手塚がハッとして笑みを消す。
「大丈夫か?」
「……大丈夫じゃなさそう」
溜息混じりにリョーマにそう言われ、手塚はきつく眉を寄せる。
「だって、アンタまだ……」
リョーマはそれだけ言って、もう一度溜息を吐く。いや、それは溜息ではなく、甘い艶を含んだ喘ぎに近い吐息だった。
「ああ……すまない……」
手塚は未だリョーマの中に留まっていた。リョーマの中で余韻を味わいたかっただけなのだが、本人の意思に反して、それは再び熱を取り戻してきている。
それでもこのままでいるわけにはいかない、と名残惜しげに身体を離そうとする手塚を、リョーマの腕が制した。
「アンタも、責任とって」
「え?」
リョーマは軋む身体に顔を顰めながら手塚を抱き寄せた。
「最初ッからこんなスゴイのしちゃって……これからどうなっちゃうんだか…」
独り言のように呟くリョーマの言葉が少し聞き取りづらくて、手塚が「ん?」と聞き返すと、リョーマは微笑みながら手塚の首筋に顔を埋めた。
「大好き…国光」
「リョーマ…」
リョーマの中で、手塚がまたズクリと脈打って質量を増す。
「あ……っ」
内部をじわりと拡げられる感覚に熱い吐息を零してから、リョーマは手塚に潤む瞳を向けた。
「…好きだよ、国光………コートに立つアンタも、屋上にいる時のアンタも、部長のアンタも、生徒会長のアンタも、……今、オレとこうしているアンタも、全部、大好き」
「リョーマ……」
リョーマは両手で手塚の頬をそっと挟んだ。
「アンタに、オレのことで悲しい思いなんか絶対させない。ずっとアンタの傍にいて、アンタと同じものを見て、感じて、一緒に笑ったり、一緒に怒ったりしたい。ずっと一緒に、…ずっと……」
真っ直ぐ自分に向けられるリョーマの瞳を、手塚も真っ直ぐ見つめ返し、そうしてふわりと微笑んだ。
「そうだな。お前とは、いつでも、どんな時でも共に在りたい。喜びの中に在る時はもちろん、つらい時も、苦しい時も、どうしようもなく悲しい時も、お前さえ傍にいてくれたら、俺は前に進んでいける」
「国光…」
「お前を失うことなど考えられない。………自分がこんなにも深く、人を愛せるとは思わなかった…」
嬉しそうに微笑んで、リョーマは瞼を閉じる。誘われるままに手塚はリョーマの額にそっと口づけ、唇にも触れるだけのキスをする。
「俺は運命論者ではないが、お前とこうして出逢えたことが運命だというなら、運命という言葉を受け入れてもいい」
リョーマはゆっくりと目を開いて、綺麗な鳶色の瞳を見つめた。
「…お前は俺にとって間違いなく、俺が心から愛せる唯一の、そして一生に一度しか出逢えない、大切な存在なんだ」
ひたむきに訴えかけてくるような手塚の声音に、リョーマは心の奥底が震えるのを感じた。
「……こんなに……オレの心の奥まで届く言葉を持っているのは、アンタだけだよ…」
瞳を揺らしながら語るリョーマを、手塚はじっと見つめる。
「アンタの言葉だけがオレの心の奥に届くんだ。……アンタだけが、本当のオレをわかってくれている……アンタだけが、オレを変えてしまえる力を持ってる……」
「お前を、変える……?」
リョーマは小さく頷く。
「アンタがいたから、オレは変われた。アンタがいたから、真っ新な気持ちでコートに立てる。それに、アンタがいたから……人を好きになるってどういうコトなのか、わかった気がする」
そう言ってほんのりと頬を染めたリョーマを、手塚は愛しげに目を細めて見つめる。
「アンタを好きでいることに、オレは何も迷ったりしない。世界中の人が反対したって、オレはずっと、アンタだけを愛してる」
「リョーマ…」
手塚はそっとリョーマに唇を寄せた。
二人は啄むようなキスを何度も交わし、間近で瞳を合わせて微笑み合う。
「愛している…リョーマ…」
「オレも……」
それきり、二人の会話は途切れた。
自然に絡み合う腕や足が、そして繋げた身体で共有する熱が、言葉よりも雄弁に互いへの想いを語る。
巡り逢えた喜びのままに、この世でたった一人の大切な存在を腕に抱き、二人は幸福に包まれる。


誰よりも何よりも、最愛の人………


心も、そして身体さえも、強く結ばれた二人の絆は、もう誰にも傷つけられることはない。
今、二人の未来はひとつになった。







次の『ハッピーエンド』は番外編???


                            



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20050405