  香水
  
  
      
  昼時とあって、人々はレストランへ向かったり、持ち込んだ食料を食べるための広場へ向かったりして、心持ち通りは空いていた。 
      しかしリョーマと手塚は、不二の姿も爆弾魔の姿も探し出せずにいる。 
      人の背丈ほどもある見事な薔薇の花壇の前で、二人は立ち止まった。 
      「おかしい。さほど離されてはいないと思うんだが…」 
      「どこかの建物の中に入ったんじゃあ」 
      辺りを見回しながら、手塚は頷いた。 
      「可能性はあるな」 
      不二を追いかけ始めてから20分近く経つ。その間中、ずっと手塚と手を繋いでいたことにふと気がつき、リョーマはほんのりと頬を染めた。 
      (こんな時なのに…オレは…) 
      「今、稼働していないアトラクションかもしれない」 
      見下ろしてくる手塚をハッとしたように見上げて、リョーマは頷いた。 
      「もしかしたら、爆弾仕掛ける場所を決めたとか?」 
      「ああ」 
      「……あの……ちょっと、離してもいいっスか?」 
      繋いだ手を指さして、頬を染めたリョーマが手塚を見遣る。手塚は小さく頷いてリョーマの手をそっと解放した。 
      途端に手の平に寂しさを覚えて、だが、リョーマは平然とした風を装って園内の案内図を拡げた。 
      「……もしかしたら、時間が決まっているヤツで、その時間になるとたくさん人が集まってくるようなヤツかも……例えば、なんかのショーみたいなヤツ、とか…」 
      案内図を見ながら呟くように考えを話すリョーマの横から、手塚も案内図を覗き込む。ドキリと、リョーマの心臓が大きな音を立てる。 
      「なるほどな。……だとしたら、これかもしれない」 
      手塚が一箇所を指さした。 
      「ウォーターマウンテンストーリーズ?」 
      ドキドキとうるさい鼓動を悟られないように、リョーマはわざと静かな声音で手塚に訊ねた。 
      「ああ」 
      そんなリョーマの努力を知ってか知らずか、手塚はいつもの冷静さで小さく頷く。 
      それは二年ほど前に上映されたハリウッドの映画をモチーフにしたショーで、その映画をリョーマはまだ知らないが、様々な賞を総ナメにした人気の映画だったらしい。『ウォーターマウンテン』という謎のキーワ−ドを残して命を落とした冒険家である父親の足跡を辿りながら、その息子が苦難を乗り越え、人類の宝とも言える巨大な遺跡を見つけ出すという、多様な人間模様をも絡めた壮大なスペクタクルロマンなのだと、簡単な解説が案内図に載っている。 
      水と火薬を使って映画のアクションシーンを再現するショーは、このテーマパークの中でも最も人気の高い『目玉』だと言える。そんな人気のあるショーで爆発が起きたら、一体何人の人に被害が及ぶか、考えただけでも背筋に冷たいものが走る。 
      「ここに来るまでに通り越してしまったようだ」 
      「次の公演は……一時半…」 
      リョーマと手塚は顔を見合わせて頷いた。 
      「行ってみる価値は、ありそうだな」 
      「ういっス!」 
      走り出そうとして、リョーマはふと手塚を見上げた。 
      「手は……いいんスか?」 
      「………」 
      手塚は黙ったまま、リョーマの手を取った。 
      「……行こう」 
      「はい」 
      二人はしっかりと手を握り合って、来た道を引き返し始めた。
 
 
 
 
  ショーの行われる場所は限られたスペースを巧く使っているらしく、全体的には広々とした半月型の海の入り江のようにも、湖のようにも見える作りになっている。水の張ってある部分の中央には島のようなステージが、そしてその水辺を取り囲むように細長いステージが設えてあり、さらにそのステージの周りを観客席が半円状にぐるりと取り囲む形になっていた。 
      リョーマと手塚はスタッフ用の出入り口からそっと入り込み、中を窺う。 
      「誰もいないっスね」 
      「………いや…」 
      手塚がきつく眉を寄せた。 
      「ステージの方に行ってみよう。扉が、少し開いている」 
      「あ…」 
      手塚の示す方を見ると、確かにステージ側にある扉がほんの少し開いているのが見えた。 
      二人が扉に近づくと、扉の奥でガタンという重い音がした。 
      「!」 
      思わず飛び出しそうになるリョーマを、手塚は握った手に力を込めて制止した。 
      「迂闊に飛び出すな」 
      「でも…っ」 
      リョーマが手塚を振り返ると、手塚はひどく苦しげな表情をしていた。 
      「頼むから……この手を振り切って独りで行くのだけは、やめてくれ」 
      リョーマは目を見開いた。手塚の心の傷が、また痛み出したに違いなかった。 
      (……国光……) 
      グッと手を握り締めてくる手塚に、リョーマは切なげに微笑んで見せた。 
      「大丈夫。オレは一人で行かないから……一緒に行ってくれる?」 
      「………ああ」 
      手塚は微かに眉を寄せながら頷いた。 
      一呼吸おいてから、二人はそっと扉に近づき、音がしないように押し開いて様子を窺う。誰もいないことを確認すると、先に行こうとするリョーマを制して手塚が先に扉の内側に身を滑り込ませた。 
      そろそろ開場時間だというのに、スタッフの姿さえ見られないことに、リョーマは不信感を抱いた。 
      「なんかおかしいよ」 
      リョーマの言葉に手塚が「ああ」と答えるのと同時に、背後で扉がガチャンと閉まった。 
      「!」 
      「?」 
      急いで扉に駆け寄り、リョーマがノブを回してみるが外から鍵がかけられたようで開く気配がない。 
      「閉じこめる気か……?」 
      「くっそぉ…っ」 
      リョーマは思いきり扉を叩いた。 
      「こそこそするなよ!オレを狙っているなら、出てこい!オレはここにいるんだ!」 
      バンバンと、金属製の薄い扉が歪みそうな勢いで叩き続けるリョーマの手を、手塚が力強く掴み上げた。 
      「よせ。腕を痛める」 
      「く……っ」 
      悔しげに唇を噛むリョーマの肩に、手塚が宥めるようにそっと手を置く。そうしてから手塚は、扉の向こうを睨むように目を細めた。 
      「そこにいるのか?勝利宣言でもしてみたらどうだ?」 
      すると扉の向こうから低くくぐもったようないやらしい嗤い声が小さく聞こえてきた。 
      『勝利宣言は、あんたらと一緒にたくさん吹き飛ばしてからにするよ』 
      「!」 
      リョーマと手塚は顔を見合わせた。 
      「……不二はどうした?お前を追いかけていた男は」 
      『俺を追いかけていた男?そんなの知らないね』 
      「知らない?」 
      手塚はきつく眉を寄せた。 
      『俺はそのガキをここに閉じこめるように言われただけだし。そうしたらいろんなところを好きなだけ吹っ飛ばしていいって。あの人、いい人だよなぁ』 
      「あの人…?」 
      怒りを湛えたリョーマの瞳が扉の向こうを見据えた。 
      「あの人って誰?あんたと一緒に、ここに来てるの?」 
      リョーマの問いには答えずに、男はまた低い声で嗤った。 
      『ああ、忙しいなぁ。他にもいっぱい仕掛けなきゃならないからね。ここも、もうすぐ人がたくさん集まってくる。そうしたらたくさん吹っ飛ばすんだぁ』 
      正気とは思えない言葉に、リョーマと手塚は背筋に冷たいものが走るのを感じた。 
      しかしリョーマは何を思ったか、急に小さく笑い始めた。 
      目を見開いて見つめてくる手塚に、リョーマは不敵な笑みをチラリと向けた。 
      「あんた、ツメが甘いね。このドアだけ鍵閉めても、『あの窓』が開いているんじゃあ意味ないんじゃない?」 
      『………窓?』 
      「ここに入り込む前に、この建物をぐるっと見て回ったんだけど、その時にひとつだけ鍵がかかってない窓があったんだ。スタッフ用の出入り口から入れなかったら、そこから入ろうって、話していたくらい人目につかない場所にある窓でさ」 
      リョーマの意図がつかめて手塚は小さく溜息を吐いた。 
      『……そんなはったりを言っても無駄だよ。この建物の構造は充分に調べたんだ。そんな窓は…』 
      「…ああ、なーんだ、あんたも見過ごしたんだ。じゃ、楽勝でここから出られるね、手塚サン」 
      「そうだな」 
      そんな窓など知らないが、手塚はもっともらしく返事をする。 
      手塚が話を合わせてくれたことが嬉しくて、リョーマは瞳を煌めかせて手塚に頷いてみせる。 
      『バカな、そんなものは…』 
      扉の向こうで慌てたように足音が遠ざかるのがわかった。念のために扉に耳を当て、足音が完全に消えるのをリョーマが確認する。 
      「……よし、行ったみたいだ。これで時間が稼げるね」 
      「大した度胸だな」 
      「べつに」 
      肩を竦めてみせるリョーマに、手塚は瞳を和らげた。しかし、すぐに表情を引き締め、周りを見回す。 
      「時間は稼げたが状況は変わっていない。とりあえずステージの方へ出てみるか」 
      「ういっス」 
      急な階段を上り、ステージの袖に出た二人はその広さに一瞬圧倒された。 
      「こんなところで芝居する役者さんって、すごいっスね…」 
      手塚はまた溜息をつく。 
      「なんスか?」 
      「今はそんなことに感心している場合じゃないだろう。何とかしてここを抜け出して警察に…」 
      そう言いかけたところで、ステージの反対側から現れた人影に、二人はひどく驚いた。 
      「二人とも!どうしてここに?」 
      「…周助サン!」 
      「……無事だったか」 
      三人はステージの真ん中に駆け寄った。 
      「広場に行っていてって言ったのに」 
      少し怒ったようにリョーマを見つめて眉を顰める不二からリョーマを庇うように手塚が半歩歩み出た。 
      「いや、俺が追いかけようと言ったんだ。独りで行動するのは危ない、と」 
      不二はふっと表情を和らげると、困ったように微笑んだ。 
      「二人とも優しいね。ありがとう。……それで、この建物に例の爆弾魔が入り込むのを見たんだけど、どこにもいなくて…」 
      「あー、あの、……オレたち、ここに閉じこめられてます」 
      「……なんだって?閉じこめられたって、どういう……」 
      不二が目を見開いた。 
      「オレのこと付け狙っていたみたいで、ここに入り込んだ途端、ドアに鍵かけられちゃって…」 
      「向こうにどこか外に出られるような場所はなかったか、不二?」 
      「残念だけどなかった。あっちは大道具置き場が多かったよ。外に通じていそうなドアも、全部南京錠なんかで鍵がかかっていて。窓もないし」 
      「そうか……」 
      状況を互いに説明しあって、三人は暫し黙り込んだ。 
      「……あれ?でもちょっと待って。お客さんが入ってくるって、言ってたよね、あいつ」 
      「!…確かに。それを逆に行けば出られるということだ」 
      そんな容易いことになぜ気づかなかったのかと、リョーマと手塚が顔を見合わせていると、不二が「待って」と呟いた。 
      「なんか…おかしいと思わない?、ここ」 
      「え?」 
      「だって、スタッフが一人もいないなんて、変だよ?」 
      不二の言葉に、リョーマも先程感じた違和感を思い出した。 
      「そうっスね。スタッフも役者さんも、一人もいないのは変だ……まるでここが別の……」 
      そこまで言って、リョーマと不二はハッとした。 
      「もしかして、また空間をねじ曲げて、同じ場所に違う空間を作り出しているのかも」 
      「そうかもしれないっスね。あいつも、親玉がここに来ているのかって訊いた時、否定しなかったし。あいつ自身は普通の人間だろうけど、親玉ならできるかも…っ!」 
      「…ちょっと待ってくれ」 
      二人の会話を黙って聴いていた手塚は、眉間にしわを寄せながら溜息を吐いた。 
      「話がよくわからないんだが。空間をねじ曲げるとは、どういう意味だ?」 
      リョーマと不二はしまったというように口を噤んだ。今の会話の説明を巧くこなさなければ、リョーマの正体まで話すような形になってしまう。 
      黙ってしまった二人を交互に見つめて、手塚はまた溜息を吐いた。 
      「………それを俺が知ると、問題が生じるのか?」 
      リョーマはハッとしたように目を見開いた。やはり手塚は気づいているのか、と。 
      それは不二も同じらしく、大きく目を見開いてじっと手塚を凝視している。 
      「だとしたら、俺は何も訊かない。だがこれだけは確認させてくれ。あの爆弾魔は、誰かの命令で動いているのか?」 
      一瞬躊躇って、不二は頷いた。 
      「命令って言うか…あの男を利用して世の中を混乱させようとしているヤツがいるんだ。だから、あの男を捕まえるだけじゃなく、その親玉みたいな存在も捕まえないと、本当の解決にはならない」 
      不二をじっと見つめてから、手塚はリョーマを見つめた。真っ直ぐ見つめてくるリョーマの視線に、手塚は黙ったまま頷いた。 
      「まずは、この場所から抜け出すことが先決、だな」 
      「手塚……」 
      「ん?」 
      きつく眉を寄せて見つめてくる不二に、手塚は穏やかな視線を向けた。 
      「どうして、そんなにあっさり信じるの?こんな…嘘みたいな状況を、どうして…?」 
      手塚はふと、視線を足下に落とした。 
      「……もう、俺には何もないと思っていた」 
      「え?」 
      「アイツを失って、もう俺には何も残っていないのだと、そう思っていたんだ。今でも、もう俺には失うことを恐れるものなど、何もない。だが、だからこそ、信じようと、思う」 
      手塚は視線を空に向けた。 
      「今の俺は、まだ何もこの手に取り戻してはいない。だから、何かを失うかもしれないという恐れもない」 
      「手塚…」 
      俯いていたリョーマが視線を上げて手塚を見た。手塚は、とても澄んだ瞳で、リョーマを見つめていた。 
      「だから信じられる。嘘のような話も、起こるかもしれない奇跡も」 
      リョーマは大きく目を見開いて、その瞳を切なげに揺らした。 
      手塚の言動の意味が、少しわかった気がした。 
      確かに、最初に出逢った時、この手塚の心には何もなかった。いや、あったとしても、それは底なしの喪失感。それは限りなく「無」に近いものだったのだろう。 
      見るもの、聴くもの、触れるものすべてに何の感情も湧かず、ただ命を繋ぐためにだけ食事をし、睡眠を摂り、流れる時間の中にひっそりと身を置いていた。 身体は生きていたが、心は死んでいたのだ。 
      だが、だからこそ、何にも囚われずに、今目の前に確かに存在する自分を信じてくれようとしているのだと、リョーマは思う。 
      何もないからこそ、目に見えているものだけを信じる。 
      それはまるで生まれたての赤ん坊のように、目に映るものだけを、そのあるがままに受け入れ、目に映るものが発した言葉だけを信じていこうとしているのだ。 
      そんな、悲しくもあるひどく純粋な手塚の心に、リョーマは心を強く打たれ、流れ落ちそうになる涙を堪えて空を見上げた。 
      青く澄んだ空、を。 
      「……出られるかも」 
      「え?」 
      唐突に発せられたリョーマの言葉に、手塚と不二は同時に聞き返した。 
      リョーマは二人に視線を向け、ゆっくりと空を指さし、ニヤッと笑った。 
      「開いてるところ、あるじゃないっスか」 
      手塚は空を見上げて目を見開いたが、すぐに眉を顰めてリョーマを見た。 
      「だが……お前たちが言うように、ここが『空間を歪めて作られた別次元の空間』ならば、上に向かっても『ここ』からは出られないのではないのか?」 
      「確かに手塚の言う通りだよ。上に抜けても空間は抜けられない」 
      不二も頷きながら手塚と同意見だと言う。だがリョーマは笑みを消さぬままに肩を竦めてみせた。 
      「誰も『この空間から』出るとは言ってないっスよ」 
      手塚と不二は顔を見合わせてから、リョーマの方へ身を乗り出した。 
      「この『別空間』ってのは、たぶん、作った本人じゃないと、そう簡単には抜けられないと思うんス。だとしたら、さっき『窓』を探しに向かったあいつも、この空間から出られずにいるかもしれない」 
      「つまりはあの男を先に捕まえようってこと?」 
      不二の言葉にリョーマは大きく頷いた。 
      「そうしたら親玉も黙って見ていられなくなるんじゃないっスか?」 
      「なるほどな。だが少し急がなくてはならないな。元の空間では、そろそろ客が入り始めているのではないか?」 
      リョーマは時計を見ようとして、「ぁ」と思い出したように腕を下ろした。 
      (オレの時計は止まっているんだった…) 
      「…今はちょうど一時。客も、スタッフたちも、そろそろ集まりだしているはずだね」 
      不二の言葉にリョーマはキュッと唇を噛んだ。そのまま背景にあたる壁に視線を流してゆき、端の方にかかるはしごを見つけた。 
      「とりあえずあそこの、ショーで使うみたいなはしごを登っていってみましょうよ。そのまま壁の裏側に降りられるかも。よく、こういうショーでやるアクションシーンって、ザコキャラが壁の向こう側に落ちていったりするじゃないっスか。あんな何もないところに伸びてるはしごなんて、不自然っしょ?」 
      「ザコキャラ…?」 
      「まあ、確かにな…」 
      目を丸くする不二の横で、手塚が軽く溜息を吐いた。 
      「行きましょう」 
      「待って」 
      最初にはしごに登ろうとするリョーマを不二が制した。 
      「まず僕が登って様子を見るよ。向こうへ降りられそうなら、キミたちもあとから来て」 
      そう言ってリョーマの脇をすり抜ける不二に、リョーマはふと、訝しげな視線を向けた。 
      「……周助サン、コロン変えた?」 
      「ん?今日はつけてこなかったよ?なんで?」 
      不二にニッコリと微笑まれて、リョーマは曖昧に笑った。 
      「ぁ、いや、気のせいみたいっス。…気をつけて、周助サン」 
      「ありがとう、じゃ、ちょっと待っててね」 
      いつもの微笑みを浮かべると、不二ははしごを一度見上げてから、グッと手をかけて登り始めた。 
      手塚が、そっとリョーマの傍らに寄り添うように立った。 
      「……不二が、どうかしたのか?」 
      「なんか……花の香りが…したような気がして…」 
      「花の香り?」 
      眉を顰める手塚を、リョーマは見上げて頷いた。 
      「いつもはたいていグリーン系のコロンつけているんスよ。甘い香りをつけると女性と間違われて電車で痴漢に遭うからって」 
      「………花、か…」 
      手塚はさらに眉を寄せて、何事か考え始めた。 
      「手塚サン?」 
      「うん……いや、思い過ごしならいいんだが…」 
      「え?何が……」 
      不安げに見上げてくるリョーマに手塚が何か言おうとしたその時、頭上から不二の声が響いた。 
      「二人とも来て。行けるよ」 
      そう言って不二は壁の向こうに姿を消した。 
      「行こう、手塚サン」 
      「待て、…俺が先に行く」 
      何か思い詰めたような表情の手塚に、リョーマは小さく頷いた。そのリョーマに頷き返すと、手塚ははしごに手をかけて登り始めた。 
      
 
 
 
 
 
  
      続
 
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      20050314
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