[ 闘 病 記 H−3 〈髪が抜ける〉]

    交 換 日 記  

  11月 5日  (彰)
今は頭の中はとにかく外泊の事しかありません。  詳しい事 もう一度ちゃんと聞いといてョ
今から外泊した時の計画を練る予定です。
学校に通っている時よく「1日位 休ませてョ」って言ったけど、今はすごい贅沢に思います。
もぅ絶対「休みたい」なんて思わないから戻してほしいョ
あんな事 言っちゃったからこんな事になっちゃったのかな。
部活も辛いと思ったけど、今に比べれば全然楽です。  この頃、体力が落ちて心配です。
心配なのは外泊した時 急に外に出て頭が くらくらしたりしないかです。    動くのが辛いからな。
まぁ とにかく早く帰り タ〜〜〜〜イ


 11月 6日  (彰)
今日、桧田先生が来てくれた。 将棋、やったけど又全然勝てなかったよ。  でも 楽しかった。
けっこう長くいてくれたよ  又、来てくれるって。
やっぱり早く戻りたいな〜  でも2年3組には戻れないんだよね。
退院の時はクラス替えになってるョ。  今のクラス 最高にいいのになぁ。   うまくいかない!

寿司が食べた〜い!


 11月 7日  (母)
時間がたつのが早いのか 遅いのか・・・      本当に忙しい毎日です
ごめん。 彰は「ひまだョ〜」と言ってるョネッ!
人生は長いんだから暇な時があっても良いのでは・・・  
K先生が来て下さって良かったね!
いつもいつもありがたいから、何か お礼をしようね。    何かいいかな〜 考えといてね。
お寿司は残念ながら駄目です。 退院がもっともっと遅くなるゾ〜 なるべく順調に治療が進むように
我慢しましょうね。
外泊迄2週間・・・楽しみ〜 頑張ろうね。   母


 11月 7日  (彰) 
あと2週間で外泊できるね。 うまいもの いっぱいくうゾ〜 。21日に外泊できるとしたら何時に
来れる?  外泊の時は何時にきてもいいんだよ。    なるべく早くね!      楽しみだな。
約15日 ガンバルよ。  ひとつ お願いだけど何か内緒で差し入れしてよ チョット位 大丈夫だよ
待ってるよ。 
それから髪の毛がすっごく抜けて困るよ〜   どうにかしてくれ  長いから少し変  ヤダナ〜
外泊まで あと15日


 11月 8日  (母)
明日、髪 切ってあげるね。 素晴らしいハサミを買いました。 これで母さん いっぱしの床屋です
まぁ まかせなさい。 彰が小さい時 母さんが切ってたんだから。
昨日の日記に初めて『ガンバル』と言う言葉があって嬉しかったです。
この頃 本当に少し大人になったネ!     
では 明日の髪型 楽しみにして下さ〜い



 《髪が抜ける》

抗ガン剤の副作用で髪が抜けるという事は事前に先生から彰も説明を受けていました。
中学2年になり自室にそっとヘア−ム−スなどを忍ばせている年頃になっていた彰にとって、これは
大変辛いことでした。 女の子ならカツラも用意できますが、男の子なのでなかなかカツラという訳に
もいかず病室と自宅以外はいつも帽子をかぶっていました。

友達に会いたくても髪の事を思うと一歩引いてしまったようです。 私もまわりも何とかこれを克服さ
せようとおだてたり、しかったり、いろいろ手を尽くしました。 そんな11月9日の事件です。 床屋に
行くのを嫌がるので、私が髪を切ってやることにしました。 髪がだいぶ抜けて、中途半端なので短
い方がいいのではと思ったのです。 彰も承諾して、2人で病院のお風呂場へ入りました。

「上手く切ってよ 本当に大丈夫なの?」
「大丈夫ョ!任せて!!こう見えても母さん 起用なんだから」
「エ〜 信じられない とにかく変にしないでョ」 
髪が抜けているこんな状態でも「変にしないでョ」と言う彰が不憫でした。
まず 髪を洗いました。 すごい抜け毛です。ビックリしました。
人間は、こんなに抜けてもまだ髪があるんだ・・・・
彰は「頭 洗いたくない どんどん抜けちゃうんだから イヤだョ」
「抜けちゃうならみんな抜けちゃう方がいいんじゃないの 中途半端より」
「無責任な事 言わないでよ 人ごとだと思って〜」
その後 髪を切りました。 なかなかの出来栄えです。

「彰 母さんもなかなかのもんでしょう?」
「ホント? 見たい 鏡 持ってきて」
「うん チョット待ってて母さんの持って来るから」
迂闊でした この病院には 何故か鏡が1つもありませんでした。

想像はしている物の、実際自分を見るのはこの時が初めてなのです。
私達は、徐々に髪が抜けるのを見てきたので見慣れていましたが彰にとっては大変なショック
でした。そんなことに気がつかず 手鏡を渡しました。

「エ− ・・・・・ こんなんじゃ外なんか歩けないョ」
「そぅ?上手く切れてると思うけど」
「髪型じゃないよ こんなハゲじゃぁ・・・ もぅイヤだョ」
「なにを言ってるの 先生から話しを聞いているでしょう 小さい子達だって みんな同じじゃない」
「小さい子とは違うよ」
「今更何を言ってるの これは 最初からわかっていた事だよ」
「もぅ イヤだ!何もかもイヤだ!もぅ 本当にイヤだ!!」
「イヤだったらどうするの?甘えるのもいい加減にしなさい」
「こんなんじゃ 誰にも会えない 絶対に笑われる」
「あなたは笑うの?お友達が病気で仕方なく髪が抜けたら あなたは笑うの?」
「オイラは笑わなくても 笑うやつはいるんだョ」
「でも笑わない人の方が断然多いと思うよ!いつ迄もお風呂を占領してたら 悪いから病室に
戻ろう」
「イヤだ もぅ イヤだ」
「じゃあ 勝手にしなさい」 お風呂の中で つい大きな声を出してしまいました。

病室へ1人で戻ると 主人が待っていました 「どうしたの?」
「髪 切ってやって、つい鏡を見せちゃったの・・・初めて見たからショックを受けちゃってごねてる
の困っちゃった・・・・」
「どっちにしろ乗り越えなきゃいけないんだから、仕方ないよ チョット行ってみるか」
主人がお風呂場に入って行きました。 10分位して2人で出て来ました。
何を話したのかは知りませんが彰もその後は普通にしていました。



      
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