[ 闘 病 記 I < 告 知 > ]

    告  知  

 告 知 >

中学2年生というと病気に対する知識もかなりあって、あの子が自分の病気をどういうふうに捕らえ
ているのかとても心配でした。今でこそ強がりを言っているけれど、この子に白血病という病名を告
げてちゃんと立ち向かっていけるのか、とても心配でした。

主治医のK先生は年齢、治療の内容、この病気とこの先長く付き合って行かなければいけない事
などを考えると きちんと本人に告知して、一緒に戦っていく事が大切だという考え方でした。
親の気持ちとなるとそれはそれは、複雑です。 それでも、先生との何度かの話し合いの結果
白血病という病気をきちんと認識させてちゃんと治療すれば確実に治ると言う事を話し、告知する
方向へと進める事になりました。

病棟の20人近い子供達は、ほとんどが血液の病気です。 その中でも白血病の子供が多く、
彰一郎くらいの年齢になるといやでも気が付いてしまうのではないか?という心配もありました。
もしそうだとしたら逆に 白血病=死 という思い込みがあるといけないので 治療の方法と今は
白血病=死 ではなくてちゃんと治ると言う事を説明してもらった方が良いのではないかと言う
結論です。
主人は、最後まで告知には反対していました。 余計なことは耳に入れないほうが良いと・・・


本人の精神状態も考えて年末の外泊の日の午後12月28日(月)に告知する事になりました。
病院では事前に心理療法士の先生を週1〜2回付けてくださり告知に向けて精神的なケア−を
考えて下さいました。この先生には、彰はもちろんの事私も精神的に最後まで支えて頂きました。
プレ−ル−ムがあって体の調子の良い時は、テレビゲ−ムに誘って下さったり ベットから動けない
時は、新しい漫画をせっせと運んで下さったりと良く遊んでもらっていたようです。

外泊は、本人にとっても家族にとってもとにかく嬉しいものです。 ましてや6泊7日の長い外泊は
入院以来初めての事で何日も前から私も指折り数えて待っていました。

でも、その前に告知をしなければなりません。 結論を出したもののやはり心のどこかに、この子は
告知に絶えられるだろうかと不安を抱えながら臨みました。本人には、事前に先生から病状に関し
てこれからの治療法など詳しいお話があると伝えてありました。普段から何かと親だけ呼ばれて
病気の説明を受けているので、自分自身で聞きたいという気持ちが強かったようで 「今日は、ちゃ
んと色々なこと教えてもらえるんだよね」と少し張り切っていました。


面談室に入り 先生からこれからやっていく抗がん剤(本人には、抗がん剤という言葉は使っていま
せん)の種類、副作用、期間などひとつひとつ詳しく説明され、10月半ばに退院予定。でも、その後
2週間に1度、2年間通院する事。また 10年間は先生と付き合って行く事をわかりやすくお話して
下さいました。
「10年後 24歳になっても小児病院へ通うんですか?」という彰の単純な質問に思わず吹き出して
しまいました。
「本当だね 24歳で小児病院なんておかしいね」 先生も「まだ私もその頃は勤めていられるでしょ
う」と笑っておられました。 10月退院を目指してとにかく頑張ろうと思っていましたが、その時改め
てまだまだ先は長いのだ、まだ始まったばかりなのだと感じました。

その後先生が「病名のことだけれども・・・」とおっしゃった時です。
急に彰一郎が「聞かなくていいです。治療の事とかこれからの事とかよくわかったから病気の名前
は聞く必要はないです」・・・ 

この子は わかっているんだ。はっきりそう思いました。やっぱり告知されたくないんだ。

先生は「聞かなくていいなら今は辞めておこう。でも、何でも疑問があったらいつでも質問していいか
らね」と、やさしくおっしゃって  「じゃ 終わりにしましょう。おうちに帰ってゆっくりしておいで」と言っ
て「でも明日の朝は血液検査にだけ来て下さいね」と言って出て行かれました。

彰一郎に「いいの?聞いておかなくて」と言うと
「いい 聞いてもしょうがないから とにかく10月までここにいなくちゃい けないんだもんね」と寂し
そうです。

ごめんね 母さんはなんにもしてあげられないね と心の中で謝ります。 涙が出そうなのを必死で
こらえて 「さぁ 早く帰って美味しい物を食べようね お父さんもきっと急いで帰って 来るよ」と病室
へ荷物を取りに戻りました。

この時のあの子の本当の気持ちは今となってはわかりませんが つらく、せつなく、でも逃げる事は
出来ない 前に進むしかないと一生懸命自分自身に言い聞かせていたのではないでしょうか?

担当の看護婦さんから 「いかがでしたか?そうですか もしかすると気持ちの持って行き場がなくて
おうちで少し荒れるかもしれませんね。お母さん位にしか甘えられないのでつらいかもしれませんが
外泊の間うんと甘えさせて上げて下さい」 と言われました。

残念ながら甘えて私にも主人にも八つ当たりをする事はなく、家に何日もいられるのがよほど嬉し
いのか機嫌が良く 「うちは良いなぁ〜」を連発し 「うちの食事は何でも美味しい」 と良く食べほんと
に、本当に嬉しそうでした。                                                         


      
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