項王と沛公の覇権争い。2人は生い立ちから性格まで正反対である。懐王の約束があり、予想に反して沛公の方が先に函谷関に入った。項王の怒りはおさまらない。沛公は項王の力を恐れ、何とか怒りを鎮めようとした。それが「鴻門之会」である。
会見の座席は明らかに沛公を蔑視したものである。范増は項王に何度か合図を送り沛公を殺そうとした。しかし、項王の残忍な事ができない、義を重んじる性格から、承認できない。范増は業を煮やして項荘を呼び入れ、沛公を殺そうとした。項王は今度は黙認する。それは自分が直接手を下したのではないから義に反しないと判断したのであろう。ところが、張良に恩がある項伯は身を持って沛公を守ろうとする。
しかし、沛公の危機は依然として続く。張良は樊膾を呼び入れる。項王は樊膾を試すが、樊膾はそれに豪快に応える。樊膾は秦王の例を持ち出し、項王の非を攻める。項王は反論ができず、その間に沛公は脱出する。
鴻門之会で沛公を殺しておけば、項王はこんな羽目に陥らずにすんだものを、これも一つの運命なのだろう。垓下に追い詰められ、漢軍が四面で項王の故郷である楚の歌を歌うのを聞いて、項王はもはやこれまでと思う。逆に脱走兵が多く出て楚軍に加わったと思ったのだろう。あるいは、沛公の策略で漢の兵士に楚の歌を歌わせて、項王の士気を削いだのかもしれない。
いずれにせよ、項王は覚悟を決め、最後の宴を開こうとした。愛人の虞と愛馬の騅の前で辞世の歌を歌う。その中でも、項王はこういう事態になったのは自分の力不足ではなく、時の利がなかったものだと考える。この歌を聞き、側近たちはみな涙を流した。一説によると、虞も唱和し、項王の剣で自害し、その後に咲いた花を虞美人草というらしい。
垓下を脱した項王はようやく烏江に辿り着く。ここを渡れば故郷の楚に着く。烏江では亭長が項王のために船を用意して待っていてくれた。もう一度項王に再興してほしいという郷里の人々の期待の大きさが表れている。しかし、項王はせっかくの申し出を断る。逃げ延びる積もりでここまで来たが、良く考えると、自分が滅びるのは天命であ り、それに逆らうことは天に背くことになる。また、江東から八千人の若者を連れて出たのに、一人の生存者もなく自分一人帰るのは、若者たちの父母に合わせる顔がないと考えたからである。項王は亭長に愛馬の騅を託し、最後の戦いに挑む。数百人の敵を殺したが、自らも多くの傷を負い、もはやこれまでと死を覚悟する。手柄をかつての部下であった呂馬童に与えようと声をかけ、自らの首を切って自害する。
あらすじ 沛公の危機 樊會登場 壮士樊會 樊會の弁明 沛公の脱出 張良の演説 四面楚歌 項王の最期 我何面目見之(項王の最期10)
あらすじ
1.『史記』について説明する。
・作者=司馬遷
・成立=前漢
・巻数=百三十巻
・内容=中国最古の通史
紀伝体(編年体)
2.本文までの概要について、人形を利用しながら説明する。
・秦の始皇帝の没後、秦の勢力が弱まり、世の中は混乱した。
・楚の懐王は諸将に、「先に関中に入った者にその地を与えよう」と約束した。
・項王は、名は籍、字は羽。楚の将軍の家に生まれ、二十四歳の時、叔父の項梁と挙兵した。北回りで関中を目指した。本命中の本命であった。
・沛公は、姓は劉、名は邦。農民出身で、中年を過ぎて宿場の役人をしていたが、天下人になることを暗示する不思議な現象が次々起こり、沛県の公(知事)になり、挙兵した。南回りで関中を目指した。大穴であった
・関中に先に入ったのは沛公であった。
・項王が函谷関に到着すると、沛公の兵が守っており、入れなかった。
・曹無傷という男が、「沛公は関中の王になるつもりだ」と密告する。
・兵力に勝り、当然自分が王になるつもりでいた項王は激怒し、函谷関を破り、沛公を討とうとする。
・攻撃前夜、昔恩のある項伯が張良を訪ね、逃げるように勧める。
・張良は沛公に告げ、沛公は項伯と義兄弟の杯を交わし、和解の場を設定してもらう。
沛公の危機
0.学習プリントを配布し確認する。
1.教師が音読する。
2.生徒と音読する。
3.項王・項伯東嚮坐、亜父南嚮坐。亜父者、范増也。沛公北嚮坐、張良西嚮侍。
1)語句の意味を説明する。
・東嚮=東に向く。西側に座る。
●者(は)=主語を強く提示する。
・亜父=父に次いで尊敬している人。
・侍=(身分の高い人の側に)控える。
2)訳す。
・亜父者、范増也は挿入文。
3)登場人物の説明をする。
・項伯=項王の伯父。中国で兄弟の順番は「伯・仲・叔・季」。「実力伯仲」とは、長男と次男の間に実力差がないことに由来。
・范増=項王の参謀。叔父の項梁にも仕える。
・張良=沛公の参謀。
4)会見の席を人形を使って確認し、序列について説明する。
・身分は、東嚮、南嚮、北嚮、西嚮の順で高い。(対面する時は南面して北側)
・本来は、来賓の沛公を東嚮させるべきであるが、項王は自分の優位を誇示するために沛公を第三位の北嚮の席に座らせた。
・項王の沛公に対する奢りが感じられる。
4.范増数目項王、挙所佩玉決、以示之者三。項王黙然不応。
1)語句の意味を説明する。
・数=何度も。
・目=目で合図を送る。
・佩=腰に付ける。古代、身分の高い人が大帯に飾り玉を付ける習慣があった。
●以=手段、方法、材料。(〜で。〜を用いて)
理由、原因。(〜のため。〜によって)
補語(時間、場所)、目的語を示す。
前文の内容を受ける接続的用法。(そのことによって)
ここでは前文の内容を受ける接続的用法。
●者(こと)=動作の回数や量、状態を表す。
●然=状態を表す。突然、忽然、漠然。
2)訳す。
3)范増が、目くばせしたり、玉決を挙げたりした意図を考える。
・項王に沛公を殺すように合図した。
・范増は、昔は沛公は財貨を貪り美女を好んだのに、関中に入ってからは財物や美女に手をつけなかったので、志がもっと高い天下取りにあると考えていた。
また、雲気を占うと、五色の竜虎という天子の気が出た。だから、沛公を殺さなければ項王は天下を取れないと判断した。
4)項王が黙って応じなかった理由を考える。
・謝罪してきた沛公を殺す大義名分がない。
5.范増起、出召項荘、謂曰、君王為人不忍。若入前為寿。寿畢請以剣舞、因撃沛公於坐 殺之。不者、若属皆且為所虜。
1)語句の意味を説明する。
・為人=人柄。
・不忍=むごいことができない。
●若=二人称の代名詞。「汝、女、爾、而」と同じ。
・為寿=(杯を献じて)長寿を祝う。
・畢=「終」と同じ。
・請=願い出る。
●以剣=手段を表す。
●因=その機会を利用して。
★不者=そうしなければ。前文を受けて否定する、逆接条件。
・属=複数を表す。
★且A=再読文字。「まさニAス」と読む。ヌ(未来)今にもAしようとする。Aするだろう。ネ(意志)Aするつもりだ。「将」も同じ。
★為所=受身の句法。「為A所B」(AのためにBされる)。ここでは、Bは「虜」だが、A=沛公が省略されている。
見(被・為・所(る))二〜一。
Bセラル二於(乎・于)Aニ一。
・虜=捕虜にする。
2)訳す。
3)どんな手段を用いても沛公を殺そうとする范増の気持ちを考える。
・項王に対する忠義。
4)項荘を説得する理由を考える。
・項荘だけでなく、一族が捕虜にされてしまう。
6.荘則入為寿。寿畢曰、君王与沛公飲。軍中無以為楽。請以剣舞。項王曰、諾。
1)語句の意味を説明する。
●則=〜ならば。仮定条件。レバ則。ここでは「すぐに」の意味。
即=〜するとすぐに。前後の二つの動作が時間的にくっついている様子を表す。
乃=そこで。二つの動作の間に時間的な間や心理的曲折がある。
便=たやすく。すぐに。支障なく事が運ぶ。
輒=〜すると必ず〜する。習慣性。
●以為楽=手段を表す。前に「有、無」が付いた場合は手段方法。
★請フA=願望の句法。「自分に〜させてほしい」。請フ・冀ハクハ・願ハクハ〜文末(未然形+ン)
・諾=よろしい。
2)訳させる。
3)范増の合図には「不応」だったのに、項荘の申し出を承諾した理由を考える。
・項王は項荘の剣舞の意図を知っていた。
・宴会の席で直接自分の手で殺すのは卑怯であり、大義に反して悪評がたつ。
・部下である項荘が勝手にしたことにすれば、自分の責任は免責される。
7.項荘抜剣起舞。項伯亦抜剣起舞、常以身翼蔽沛公。荘不得撃。
1)語句の意味を説明する。
●以身=手段方法を表す。
・翼蔽=(鳥が翼を広げるような姿勢で)かばう。
★不得A=Aできない。不可能。
2)訳す。
エ項伯が沛公をかばった理由を考える。
・項伯は以前、命を助けられた張良を救うため、沛公の軍に行った。
・張良は「逃げ去るは不義なり」(自分だけ逃げることはできない)と言って、沛公に告げた。
・沛公はプライドを捨てて敵の叔父を自分の義兄にして親戚づきあいをすることを申し出て、とりなしを頼んだ。
・項伯は沛公に項王の陣に来て謝罪するように薦めた。
・そして、項王に「今、人に大功有るに、之を撃つは不義なり」(沛公は大きな功績があるのに、これを撃つのは道理に反している)と諭した。
8.確認プリントをする。
樊會登場
0.学習プリントを配布し確認する。
1.教師が音読する。
2.生徒と音読する。
3.於是張良至軍門見樊會。
1)語句の意味を説明する。
・於是=そこで。上の内容を大きく受けて「そのような状況になったので〜する」の意味。
・樊會=食用犬の屠殺業に従事していたが、沛公挙兵の際に食客になった。一七四の首級、二八八人の捕虜をあげた武勇だけでなく知的にも優れていた。
2)訳す。
3)張良の気持ちを考える。
・思わぬ沛公の危機に瀕して、あわてている。
4.樊會曰「今日之事何如」良曰「甚急。今者項荘抜剣舞。其意常在沛公也」
1)語句の意味を説明する。
★何如=疑問の句法。どうですか。主題を提示した後に来て、状態や相手の考えを問う。
・急=差し迫っている。短い表現で緊迫感を出している。
2)訳す。
5. 曰「此迫矣。臣請入与之同命」 即帯剣擁盾入軍門。
1)語句の意味を説明する。
・迫=切迫している。短い表現で緊迫感を出している。
・矣=助字。断定で「也」より語気が強い。
・臣=わたくし。臣下が君主に対してへりくだっていう自称のことば。「僕」。
・即=〜するとすぐに。前後の二つの動作が時間的にくっついている様子を表す。
・擁=両腕で、胸の前に抱き抱える。また、抱いたようにすっぽりと包む。
2)「与之同命」について、「之」の指示内容と「命」の意味を質問する。
・之=沛公、命=運命。沛公と運命を共にする。沛公に対する忠義心の表れ。
・之=項王、命=命。項王と刺し違えて死ぬ。
3)訳す。
6.交戟之衛士欲止不内。樊會側其盾以撞。衛士仆地。
1)語句の意味を説明する。
・交戟之衛士=左右から矛を交差させて警備している兵。
・側=横になっているものを立てて起こす。盾の平らな部分でなく、側面を相手に当 てる。
・以=前文の内容を受ける接続的用法。(そのことによって)
2)訳す。
3)「樊會側其盾以撞。衛士仆地」からわかる様子を考える。
・たいへん力が強い。
壮士樊會
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1.教師が音読する。
2.生徒と音読する。
3. 遂入、披帷西嚮立、瞋目視項王。頭髪上指、目眦尽裂。
1)語句の意味を説明する。
●遂=そのまま。物事が順調に進むこと。
遂=最終地点に至る過程を含む。
終・卒=最終地点であることを表す。最後には。とうとう。
・披=両側に開く。
・瞋目=目を張り裂けるばかりに見開いて見つめる。
・視=漫然と眺めるのでなく、注意してじっと見る。
2)訳す。
3)樊會の位置について理解する。
・張良が座っていた東側から入り、西に向いて項王と正面から向き合う。
4)「瞋目視項王」の樊會の気持ちを考える。
・怒り。
5)「頭髪上指、目眦尽裂」の表現を説明する。
・図示して説明する。
・実際にはあり得ないが、漢文特有の誇張表現。怒髪衝天。
6)樊會の性格を考える。
・激しい気性。
・相手が誰であろうと気後れしない。
・樊會が壮士であることが表現されている。
4.項王按剣而キ曰「客何為者」
1)語句の意味を説明する。
・按=手で抑える。
・キ=両膝を地面につけて腿を踵につけて中腰になる。実演する。
●客=おまえ。余所から来た者。見知らぬ人を呼ぶ言葉。
★何為(体言)ゾ=何をする。本来の語順は「為何」。文末に体言が来る場合は「ぞ」を送る。普通は「なんすれぞ」と読み、「どうして」の意味。
2)訳す。
3)「按剣而 」とした項王の気持ちを考える。
・いつでも相手に斬りかかれる態勢をとっている。
・樊會の勢いに押され危険を感じて身構えた
5.張良曰「沛公之参乗樊會者也」
1)語句の意味を説明する。
・参乗=ボディーガード。貴人は車に乗る時左側に乗り、中央に御者がおり、右側に参乗が乗る。
2)訳す。
6.項王曰「壮士。賜之巵酒」則与斗巵酒。會拝謝起、立而飲之。
1)語句の意味を説明する。
・壮士=勇敢で義侠心のあるすはらしい堂々とした男。
・賜之=目上の者が身分の低い者に与える。反対に目下の者が貴人に捧げる語は「献」。之=樊會。
●則=〜ならば。仮定条件。レバ則。ここでは「すぐに」の意味。
・飲之=巵酒。
2)訳す。
3)項王が樊會に巵酒を与えた意図を考える。
・樊會の度胸の大きさを試す。
4)それに対して、樊會が立ちながら飲んだ豪快な振る舞いを鑑賞する。
7.項王曰「賜之テイ肩」則与一生テイ肩。樊會覆其盾於地、加テイ肩上抜剣切而啗之。
1)語句の意味を説明する。
2)訳す。
3)項王はさらに樊會を試し、樊會は豪快に応えていることを鑑賞する。
8.確認プリントをする。
樊會の弁明
0.学習プリントを配布し確認する。
1.教師が音読する。
2.生徒と音読する。
3.項王曰「壮士。能復飲乎」
1)語句の意味を説明する。
★〜乎=疑問の句法。〜か。邪・哉・耶・与・也・歟。
2)訳す。
3)項王が樊會に再び巵酒を与えた理由を考える。
・樊會を試すためでなく、樊會を称賛したから。
4.樊會曰「臣死且不避。巵酒安足辞。
1)語句の意味を説明する。
★Aスラ且ツB=抑揚の句法。本来は「Aスラ且ツB況ンヤC」で、「AでさえもBである。ましてCはなおさらBである」と訳す。ここでは、「死スラ且ツ不避、況ンヤ巵酒ヲヤ」になる。
★安クンゾAンヤ=反語の句法。どうしてAだろうか、いやAでない。
・足A=Aする必要がある。
・辞=辞退する。断る。
2)訳す。
3)樊會の言いたかったことを理解する。
・死ぬ覚悟でこの場にいる。
・巵酒を辞退するつもりはないが、意見を述べる転機を作る。
5.夫秦王有虎狼之心。殺人如不能挙、刑人如恐不勝。天下皆叛之。
1)語句の意味を説明する。
●夫=そもそも。新たな話題に転ずる語。
・虎狼之心=残酷さを虎や狼に例えている。
・叛之=秦王。
2)訳す。
3)秦王の例を出して、項王との共通点を指摘する論法を確認する。
6.懐王与諸将約曰「先破秦入咸陽者王之」
1)語句の意味を説明する。
・王之=先破秦入咸陽者。
2)訳す。
3)教材に入るまでのあらすじとして説明しているので、簡単に確認する。
7.今沛公先破秦入咸陽、毫毛不敢有所近。封−閉宮室、還軍覇上以待大王来。
1)語句の意味を説明する。
・毫毛=少しも。元来は長く伸びた細い髪。
★不敢A=強い否定。決して〜ない。
●以=ハ前文の内容を受ける接続的用法。(そのことによって)
2)「還軍覇上以待大王来」の構文を考える。
・還(述)軍(目)覇上(補)以(接)待(述)大王(主)来(述)
3)訳す。
4)事実を説明する。
・沛公は秦を破った後、秦の宮殿を占領し、勝利によって快楽に身を任せることを望んだが、樊會と張良に諫められて軍を覇上に戻した。
8.故遣将守関者、備他盗出入与非常也。労苦而功高如此。
1)語句の意味を説明する。
・故=わざわざ。
もと、もとヨリ=以前。以前から。
ゆゑ、ゆゑニ=理由。だから。
ふるシ=古い。昔から。
★遣ハシテAヲBセシム=使役の句法。Aに命じてBさせる。
・如此=今沛公先〜非常也。
2)訳す。
9.未有封侯之賞。而聴細説欲誅有功之人。
1)語句の意味を説明する。
・封侯=領土を与え諸侯にする。
●而モ=その上。
而(しこう)シテ、而(しか)シテ=そして(順接)
而(しか)レドモ、而(しか)モ、而(しか)ルニ=しかし(逆接)
・細説=取るに足りない。沛公の部下の曹無傷が項王に「沛公が関中の王になろうとしている」と密告したこと。
・有功之人=沛公。
2)訳す。
10.此亡秦之続耳。窃為大王不取也。
1)語句の意味を説明する。
・此=聴細説欲誅有功之人。
・続=二の舞。
★A耳=限定の句法。Aだけだ。已、而已、而已矣、爾。
・窃=はばかりながら。謙遜を表す語。
・大王=項王。
・取也=賛成できない。
2)訳す。
3)樊會の説得のテクニックを確認する。
・秦王の虎狼の心を強調し、天下がそむいた事実ことを確認する。
・懐王の約束(先に咸陽に入った者を王にする)を確認する。
・沛公が先に咸陽に入り王になる権利があることを確認する。
・沛公の功績(宮室を封閉し、関を守り、項王を待つ)を列挙する。
・項王の過ち(沛公に褒美を与えていない+細説を聞き沛公を殺す)を指摘する。
・項王は秦の二の舞になることを予想する。
・項王の為に進言する。
11.項王未有以応。曰「坐」樊會従良坐。
1)語句の意味を説明する。
●以上=ヌ方法、手段。
2)訳す。
3)項王の気持ちを考える。
・樊會の勢いに押されている。
・樊會の筋の通った説得に反論することができない
・論理的な否を突かれると弱い。
12.坐須臾、沛公起如廁。因招樊會出。
1)語句の意味を説明する。
・須臾=しばらく。
・廁=便所。
2)訳す。
13.確認プリントをする。
沛公脱出
0.学習プリントを配布し確認する。
1.教師が音読する。
2.生徒と音読する。
3.沛公已出。項王使都尉陳平召沛公。
1)語句の意味を説明する。
★使ム二AヲシテBセ一=使役の句法。AにBさせる。「令・教・遣」も同じ。
・陳平=項王の部下。後に沛公に仕える。項王と范増を離間させる。
2)訳す。
3)この時、項王は便所に行ったものと信じている。遅いので呼びに行かせる。
4.沛公曰「今者出、未辞也。為之奈何」
1)語句の意味を説明する。
★未ダA=再読文字。まだAしていない。
・辞=別れの挨拶。無断で帰るのは非礼の最たるものであった。
・為之=辞。
★奈何=疑問の句法(手段や方法を問う)。どうしたらよいか。「如何・若何」も同じ。
2)訳す。
3)「奈何」と大切なことを部下に聞く沛公の性格を考える。
・張良から項王が沛公を撃破しようとしていると聞いた時、その対策を張良と協議している時にも同じことを言っている。
・窮地に部下の意見を求め、部下の知謀を引き出し、部下の気持ちを汲んで行動する人使いの上手さ。
・冷静で沈着な性格を表現している。
・直情径行型の項王と対照的である。
・上に立つ者としては頼りない感じもする。
5.樊會曰「大行不顧細謹。大礼不辞小譲。
1)語句の意味を説明する。
・大行=大きなこと。
・細謹=小さな慎み。
・大礼=重大な儀式。
・小譲=ささいな譲り合い。
2)訳す。
3)「大行」と「細謹」と同じ意味の語を探し、比喩しているものを考える。
・大行=大礼=天下を統一する大義
・細謹=小譲=項王に別れの挨拶をする礼儀
4)樊會がそのように言った理由を考える。
・礼儀を通すために別れの挨拶をしに行けば、今度こそ項王は沛公を殺す。
・天下を取るのに、ここで命落としては元も子もなくなる。
5)「細謹」や「小譲」を気にする沛公の性格を考える。
・礼儀正しい。
・状況判断ができない。
6.如今人方為刀俎、我為魚肉。何辞為」
1)語句の意味を説明する。
●人=項王。
★何ゾAンヤ=どうしてAだろうか、いやAでない。
2)訳す。
3)「刀俎」と「魚肉」の比喩を考える。
・刀俎=項王の立場。
・魚肉=沛公の立場。
・沛公の命は項王の手中にある。
7.於是遂去。乃令張良留謝。良問曰「大王来何操」
1)語句の意味を説明する。
●遂=そのまま。
●乃=そこで。二つの動作の間に時間的な間や心理的曲折がある。
★令ム二AヲシテBセ一=使役の句法。AにBさせる。
・大王=ここでは沛公。張良が沛公を敬って言った。
★何ヲカA=疑問の句法。何をAか。
2)訳す。
3)部下の張良を留めて謝罪させた理由を考える。
・最後まで礼を尽くそうとした。
・このまま逃げ去れば項王の怒りを買い、直ぐに難が起こる可能性が高い。
・部下を危険な目に合わせるが、承知してくれると踏んでいた。
・樊會も知的で献身的であるが、ここでは張良の知力を信じた。
8.曰「我持白璧一双、欲献項王、玉斗一双、欲与亜父、会其怒不敢献。公為我献之」張 良曰「謹諾」
1)語句の意味を説明する。
・献、与=共に与える意味だが、相手によって敬意が異なる。
・不敢A=思い切ってAできない。
・其怒=項王。
・公=張良。
・献之=白璧一双と玉斗一双。
2)訳す。
9.確認プリントをする。
張良の演説
0.学習プリントを配布し確認する。
1.教師が音読する。
2.生徒と音読する。
3.沛公已去。間至軍中、張良入謝曰
1)訳す。
ヌ「至」の主語を考える。
・沛公。
ネどこに「入」かを考える。
・宴席。
2)沛公が自軍にたどり着くまでの間、張良が時間稼ぎをしていることを説明する。
4.「沛公不勝杯杓、不能辞。
1)語句の意味を説明する。
・杯杓=杯やひしゃく。もう飲むことができないという意味。
2)訳す。
3)「不勝杯杓」は別れの挨拶に来れない言い訳であることを説明する。
・実際は酔っぱらっていない。
5.謹使臣良奉白璧一双、再拝献大王足下、玉斗一双、再拝奉大将軍足下」
1)語句の意味を説明する。
・再拝=二度お辞儀をする。丁寧にお辞儀をする。
・足下=相手をいう場合に、敬意を込めて直接相手を指さないで、その足元にと言う。
「閣下、殿下、陛下、机下」も同じ。
★使シムAヲシテBセ=使役の句法。AにBさせる。
・大王=項王。
・大将軍=范増。
2)訳す。
ヌ「臣」と「良」は同じ人物を指す。
ネ上中下点が使ってあり、しかも長文であり、どこまで使役になっているか注意する。
3)「白璧一双」や「玉斗一双」を話題にしながら時間稼ぎをしている。
6.項王曰「沛公安在」良曰「聞大王有意督過之脱身独去。已至軍矣」
1)語句の意味を説明する。
★安クニカA=疑問の句法。場所。
・督過=責めとがめる。
・督過之=沛公。
2)訳す。
ヌ「聞」「脱」「至」の主語を考える。
・すべて沛公。
3)「已至軍矣」に対応する文を考える。
・間至軍中。
4)ここで初めて、沛公が自軍に帰ったことを知らせていることを考える。
・沛公が自軍に到着した時間を見計らっている。
・自分の死を覚悟している。
・張良は主君のために命も投げ出す忠誠心がある。
7.項王則受璧、置之坐上。亜父受玉斗置之地、抜剣撞而破之曰
1)語句の意味を説明する。
・置之坐上=璧。
・置之地、破之=玉斗。
2)訳す。
3)項王と范増の沛公に対する考えの違いを考える。
・項王=天下を取ったことに満足し、沛公の将来に脅威を感じておらず、逃がしたこともたいしたことではないと思っている。
・范増=沛公を逃がしたことが致命傷になることを予感して、非常に悔しがっている。
8.「アア、豎子不足与謀。奪項王天下者、必沛公也。吾属今為之虜矣」
1)語句の意味を説明する。
★アア=詠嘆の句法。ここでは恨みを含んだ嘆き。「嗚呼、噫、嗟、 」と同じ。
・豎子=小僧。人を罵って言う語。
・之虜=沛公。
2)訳す。
3)「豎子」とは誰を指すのか考える。
・沛公を殺すのに失敗した項荘も考えられるが、
・何度もした合図にも応じず、沛公を逃がしても後悔していない項王の人のよさを罵っている。
9.確認プリントをする。
四面楚歌
1.学習プリントを配布し確認する。
2.教師が音読する。
3.生徒と音読する。
4.鴻門之会から四面楚歌に至るまでの経過を説明する。
・項王は都に入り、秦の宮室を焼き払う。
・手柄のあった諸侯に領土を与えるが、一番の功労者である沛公には、辺鄙な西辺の領土しか与えなかった。
・沛公は力を蓄え、項王に対抗しようとするが失敗し、項王に捕らえられる。2回目のピンチである。
・項王の使者が来た時、御馳走を並べておいて、范増の使者かと思ったと言って、御馳走を取り返させ、項王と范増の仲を裂こうとする。
・項王は范増が沛公と通じていると思い、范増を退ける。
・沛公は将軍の紀信を身代わりにして、脱出する。
・これを転機に、沛公は力をつけ、項王を追い詰める。
5.項王軍壁垓下。兵少食尽。漢軍及諸侯兵囲之数重。
1)語句の意味を説明する。
・項王軍=楚軍。
・壁=立て籠もる。
・漢軍=沛公軍。
・囲之=項王軍
2)訳す。
3)漢軍だけでなく諸侯も沛公の味方についたことを説明する。
6.夜聞漢軍四面皆楚歌、項王乃大驚曰、
1)語句の意味を説明する。
・楚歌=楚の国の歌を歌う。
2)訳す。
ヌ「聞く」「楚歌」の主語を考える。
・聞く=項王
・楚歌=漢軍
3)漢軍が楚歌していた理由を考える。
・漢軍に降伏した楚の兵士が、故郷を懐かしんで楚の歌を歌っていた。
4)項王が大いに驚いた理由を考える。
・項王は楚の出身で楚軍の王である。
・味方である楚の多くの人々が漢軍に降伏したことを知ったから。
・故郷の人に見放されては、再起の望みがない。
5)これが漢軍の策略だとすればどんなことが考えられるか。
・漢の兵士に楚の歌を歌わせ、項王の士気を挫く。
7.「漢皆已得楚乎。是何楚人之多也」
1)語句の意味を説明する。
★A乎=疑問の句法。Aか。
★何ゾA也(や)=感嘆の句法。何とAであることよ。
2)訳す。
8.項王則夜起飲帳中。有美人、名虞、常幸従。駿馬、名騅。常騎之。
1)語句の意味を説明する。
・則=ここでは「乃」と同じ。そこで。
・幸=寵愛する。
・騎之=駿馬、騅。
2)訳す。
ヌ「幸」「騎」の主語を考える。
・幸=虞。
・騎=項王
3)夜起きて帳中で宴を開いた項王の気持ちを考える。
・いよいよ最期の時が来たことを覚悟し、最愛の虞と騅を側に置いて別れの酒を飲む。
4)自分の最期の時に誰に側にいてほしいか質問する。
9.於是項王乃悲歌 慨、自為詩曰
1)語句の意味を説明する。
・於是〜乃=この時に及んで。そこで。前文を受けて後の結果を説き起こす。
・悲歌 慨=悲痛な思いで歌い、心に憤り嘆く。
2)訳す。
10.力抜山兮気蓋世 時不利兮騅不逝 騅不逝兮可奈何 虞兮虞兮奈若何
1)語句の意味を説明する。
・兮=語調を整える助字。
・気蓋世=意気は天下を覆い尽くすほど盛んである。
・時=時の運。時勢。
・逝=進む。
★A奈何=反語の句法。Aをどうすることができようか、いやできない。
・騅が進まないのをどうしようか、いやどうしようもない。
2)訳す。
3)「騅不逝」の具体的な意味を考える。
・戦いが有利に展開しなくなった。
4)項王は天下を取れなかった理由をどのように考えているか。
・実力がないから戦いに負けたのではない。
・時の運が自分に味方してくれなかったから。
11.歌数ケツ美人和之。項王泣数行下。左右皆泣、莫能仰視。
1)語句の意味を説明する。
・数ケツ=数回。
・和=唱和する。一緒に歌う。
・和之=項王。
・左右=左右にいる者たち。
★莫A=否定の句法。名詞を否定する。Aするものはない。
2)項王の涙を流した気持ちを考える。
・虞や騅への深い愛情
・自分の悲運に対する嘆き
・項王が涙を見せるのは後にも先にもこの時だけである。
3)虞の最期について説明する。
・項王に唱和しながら、項王の剣で自害した。その後に可憐な花が咲いたという。その花が虞美人草である。
12.確認プリントをする。
項王の最期
1.学習プリントを配布し確認する。
2.教師が音読する。
3.生徒と音読する。
4.項王乃欲東渡烏江。烏江亭長ギ船待。謂項王曰、
1)語句の意味を説明する。
・烏江=位置を確かめる。
・亭長=宿場の長。
・ 船=船を出す用意をする。
2)訳す。
3)項王が烏江を渡ろうとした気持ちを考える。
・もう一度兵を集めて再起しようと考えていた。
4)亭長は同郷人として項王の復興を待望していることを確認する。
5.「江東雖小、地方千里、衆数十万人、亦足王也。
1)語句の意味を説明する。
★雖A=ヌ逆接の確定条件。Aであるが。ネ逆接の仮定条件。たとえAだとしても。
・衆=人口。
2)訳す。
6.願大王急渡。今独臣有船。漢軍至、無以渡」
1)語句の意味を説明する。
★独リAノミ=限定の句法。Aだけが。
2)訳す。
7.項王笑曰、「天之亡我、我何渡為。且籍与江東子弟八千人、渡江而西、今無一人還。
1)語句の意味を説明する。
★何ゾAン=反語の句法。どうしてAだろうか、いやAでない。
・籍=項王の名。中国ではよほど親しい間柄でないと名を呼ばない。目上の者が目下の者を呼ぶ場合、自分自身を呼ぶ場合に使う。
2)訳す。
3)項王が笑った理由を考える。
・烏江を渡って再起しようと思ってここまで来たが、それが愚かなことであると気づいた。
・生への未練に対する嘲笑と、覚悟を決めた居直りの笑い。
4)項王が江を渡らなかった理由を考える。
・天が私を滅ぼそうとしているから逆らえない。
・江東の子弟八千人を犠牲にしておいて、私一人だけ帰ったのでは、彼らの父兄に申し訳ないから。
★垓下で「時不利」と言ったことと合わせて考える。
5)沛公ならどうしたか考える。
・天命など考えず、船に乗って渡った。
・自分だけ生き延びても父兄に対して恥ずかしいとは思わなかった。
8.縦江東父兄憐而王我、我何面目見之。縦彼不言、籍独不愧於心乎」
1)語句の意味を説明する。
★縦ヒAトモ=仮定の句法。たとえAとしても。
「如・若(もシ)、苟(いやしクモ)」も同じ。
★何ノA(体言)カB(連体形)ン=反語の句法。どんなAでBだろうか、いやない。
「何必(なんゾかならズシモ)・何以(なにヲもっテカ)・何為(なんすレゾ)
何不A(なんゾAざル)・何A之有(なんノAカこれあラン)・何+動詞(なに
ヲカ動詞)
★独A乎=反語の句法。どうしてAか、いやない。
・見之、彼=江東父兄。
2)訳す。
3)どんな面目があるのか、何を愧じるのかを考える。
・江東父兄の子弟八千人を死なせて、自分一人が生きて帰ったこと。
・上に立つ者の責任を考える。
・現代社会に欠けている重要な理念である。
9.乃謂亭長曰、「吾知公長者。吾騎此馬五歳、所当無敵。嘗一日行千里。不忍殺之、以 賜公」
1)語句の意味を説明する。
・公=あなた。相手に対する尊称。
・長者=人格者。徳の高い人。
・殺之=馬。騅。
2)訳す。
ヌ「謂」の主語を考える。
・項王。
ネ「吾知公長者」の構文を考える。
・吾(主語)知(述語)(目的語)[公(主語)長者(述語)]
3)騅を亭長に与えた項王の気持ちを考える。
・四面楚歌と同様、愛馬に対する労りと愛情を確認する。
・四面楚歌で虞美人と別れ、ここで名馬騅と別れる。
・この場所で死ぬことを心に決めた潔さ。
10.乃令騎皆下馬歩行、持短兵接戦。独項王所殺漢軍数百人。項王身亦被十余創。
1)語句の意味を説明する。
★令ムAヲシテBセ=使役の句法。AにBさせる。
・短兵=短い武器。刀や剣。長兵とは弓矢。
・接戦=接近して入り交じって戦うこと。白兵戦。
2)訳す。
3)項王の豪傑ぶりを鑑賞する。
11.顧見漢騎司馬呂馬童曰、「若非吾故人乎」馬童面之指王翳曰、「此項王也」
1)語句の意味を説明する。
・呂馬童=以前項王に仕えていた。
★非ズ(亦)A乎(や)=詠嘆の句法。なんとAではないか。
・故人=古くからの友人。旧友。
・面=顔をそむける。
・面之=項王。
2)訳す。
12.項王乃曰「吾聞『漢購我頭千金邑万戸』吾為若徳」乃自刎而死。
1)語句の意味を説明する。
・購=賞金を懸ける。
・邑万戸=戸数一万の領地。
・徳=恩恵を施す。
・自刎=自分で自分の首をはねる。
2)訳す。
3)項王が呂馬童に声をかけた理由を考える。
・どうせ殺されるなら、昔の部下に殺されれば、彼に報酬が与えられるから。
4)呂馬童が顔をそむけた理由を考える。
・昔の主君を殺すのに忍びないから。昔の主人に対する忠誠心がまだ残っていた。
・項王の人望を表している。
5)項王の最期を鑑賞する。
・潔い豪傑らしい死に方。
・平家物語の木曽義仲や今井兼平の死に方と比較する。
13.確認プリントをする。
我何面目見之
1.【指】学習プリントを配布し、原文写しと書き下し文と訳を宿題にする。
2.【指】読み方を確認する。
3.【指】音読する。
4.【説】書き下し文のポイントを確認する。
5.於是項王乃欲東渡烏江。烏江亭長檥船待。謂項王曰、
1)【説】語句の意味。
・於是=そこで。
・烏江=位置を確かめる。
・亭長=宿場の長。
・檥船=船を出す用意をする。
2)【L1】訳させる。
・そこで、項王は東の方に烏江を渡ろうと思った。烏江の宿場の長は船を出す用意をして(項王)を待っていた。(宿場の長は)項王に言った。
3)【説】主語を確認する。
4)【L3】項王が烏江を渡ろうとした気持ちを考える。
・もう一度兵を集めて再起しようと考えていた。
6.「江東雖小、地方千里、衆数十万人、亦足王也。願大王急渡。今独臣有船。漢軍至、無以渡」
1)【説】語句の意味。
★雖モ〜ト=1)逆接の確定条件。〜であるが。
2)逆接の仮定条件。たとえ〜だとしても。
・衆=人口。
・足=十分である。
★願ハクハ〜=どうか〜してほしい。
★独リ〜ノミ=限定の句法。〜だけ。
2)【L2】訳させる。
・「江東は狭いと言うけれども、土地は千里四方、人口は十万人、王になるのに十分です。どうか大王は急いで渡ってほしい。今私だけが船を持っている。漢軍が到着しても、渡ることはできない。
3)【説】亭長は同郷人として項王の復興を待望している。
7.項王笑曰、「天之亡我、我何渡為。且籍与江東子弟八千人、渡江而西、今無一人還。 縦江東父兄憐而王我、我何面目見之。縦彼不言、籍独不愧於心乎」
1)【説】語句の意味。
★何ゾ〜ン=反語の句法。どうして〜だろうか、いや〜でない。
・籍=項王の名。中国ではよほど親しい間柄でないと名を呼ばない。目上の者が目下の者を呼ぶ場合、自分自身を呼ぶ場合に使う。
★縦ヒ〜トモ=仮定の句法。たとえ〜としても。
「如・若(もシ)、苟(いやしクモ)」も同じ。
★何ノ〜(体言)カ〜(連体形)ン=反語の句法。どんな〜で〜だろうか、いやない。
「何必(なんゾかならズシモ)・何以(なにヲもっテカ)・何為(なんすレゾ)
何不A(なんゾAざル)・何A之有(なんノAカこれあラン)・何+動詞(なに
ヲカ動詞)
★独〜乎=反語の句法。どうして〜か、いやない。
2)【L2】反語の連続に注意して訳させる。
・項王が笑って言った。「天が私を滅ぼそうとしているのに、私はどうして渡ろうか、
いや渡らない。たとえ江東の父兄が憐れんで私を王にしても、私はどんな面目があって彼らに会えるだろうか、いや会えない。たとえ彼らが何も言わなくても、私は一人でどうして心に恥じないだろうか、いや恥じる。
3)【L1】見之、彼の指示内容は。
・江東父兄。
4)【L3】なぜ、項王は笑ったのか。
・烏江を渡って再起しようと思ってここまで来た。
・しかし、亭長から指摘されて自分の愚かさに気づいて、自嘲した。
・生への未練に対する嘲笑と、覚悟を決めた居直りの笑い。
5)【L3】なぜ、項王は江を渡らなかったのか。
・天が私を滅ぼそうとしているから逆らえない。
【注】垓下で「時不利」と言ったことと合わせて考える。
・江東父兄の子弟八千人を死なせた責任があるから。
【説】現代社会に欠けている重要な理念である。
6)【説】沛公ならどうしたかを説明する。
・天命など考えず、船に乗って渡った。
・自分だけ生き延びても父兄に対して恥ずかしいとは思わなかった。
8.乃謂亭長曰、「吾知公長者。吾騎此馬五歳、所当無敵。嘗一日行千里。不忍殺之、以賜公」
1)【説】語句の意味。
・公=あなた。相手に対する尊称。
・長者=人格者。徳の高い人。
2)【L1】訳させる。
・そこで(項王は)亭長に言った。「私はあなたが徳の高い人であることを知っている。私はこの馬に五歳の時から乗っている。向かう所敵なしであった。かつては一日に千里を走った。これを殺すことはできない。だからあなたに差し上げよう。」
3)【説】「吾知公長者」の構文。
・吾(主語)知(述語)(目的語)[公(主語)長者(述語)]
4)【L1】殺之=の指示内容は。
・馬。騅。
5)【L4】騅を亭長に与えた項王の気持ちは。
・四面楚歌と同様、愛馬に対する労りと愛情を確認する。
・四面楚歌で虞美人と別れ、ここで名馬騅と別れる。
・この場所で死ぬことを心に決めた潔さ。
9.乃令騎皆下馬歩行、持短兵接戦。独項王所殺漢軍数百人。項王身亦被十余創。
1)語句の意味を説明する。
★令ムAヲシテBセ=使役の句法。AにBさせる。
・短兵=短い武器。刀や剣。長兵とは弓矢。
・接戦=接近して入り交じって戦うこと。白兵戦。
2)【L2】訳させる。
・そこで騎兵にみんな馬から下りて歩かせ、短い武器を持って接近戦をした。項王一 人で殺す漢軍は数百人。項王もまた十余りの傷を受けた。
3)【説】項王の豪傑ぶりを鑑賞する。
10.顧見漢騎司馬呂馬童曰、「若非吾故人乎」馬童面之指王翳曰、「此項王也」
1)語句の意味。
・呂馬童=以前項王に仕えていた。
★非ズ(亦)〜乎(や)=詠嘆の句法。なんと〜ではないか。
・故人=昔なじみ。
・面=顔をそむける。
・面之=項王。
2)【L2】訳させる。
・振り返ると漢の騎兵隊長である呂馬童を見つけて言った。「あなたはなんと私の昔なじみではないか。」呂馬童は項王を指さして王翳に言った。「これが項王です」と。
11.項王乃曰「吾聞『漢購我頭千金邑万戸』吾為若徳」乃自刎而死。
1)【説】語句の意味。
・購=賞金を懸ける。
・邑万戸=戸数一万の領地。
・徳=恩恵を施す。
・自刎=自分で自分の首をはねる。
2)【L1】訳させる。
・項王はそこでこう言った。「私は,『漢が私のクビに千金と一万戸の町を懸けた。』私はあなたのために恩恵を施そう。」そこで自分で自分の首をはねて死んだ。
3)【L3】なぜ、項王は呂馬童に声をかけたのか。
・どうせ殺されるなら、昔の部下に殺されれば、彼に報酬が与えられるから。
4)【L3】なぜ、呂馬童は顔をそむけたのか。
・昔の主君を殺すのに忍びないから。昔の主人に対する忠誠心がまだ残っていた。
・項王の人望を表している。
5)【説】項王の最期を鑑賞する。
・潔い豪傑らしい死に方。
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