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学習プリント  「あなたは上司とうまく付き合えるタイプか」   性格テスト  山月記パロディ  山月記私見

教材観 

李徴はなぜ虎になったのか。
1) 理由もわからず押しつけられ理由もわからず生きていく生き物のさだめ
2) 臆病な自尊心と尊大な羞恥心のため
3) 妻子のことより詩業の方を気にかけていたから
 1)は戸外で我が名を呼んだ「だれか」、運命と言っていいのかもしれない。その運命の声に誘われて走っているうちに李徴は虎に変身した。運命という不条理である。ま た、それは芸術家の魂と言い換えてもいいかもしれない。芸術家になるには常人であってはならない。常人の域を超越して発狂した状態に達したとき、真の芸術家になれるのかもしれない。役人としてエリートコースを歩みながら、それに満足できずに詩人になろうとした所にも現れている。
 2)は「尊大」と「自尊心」、「臆病」と「羞恥心」が捩じれた状態である。それは 「優越感」と「劣等感」と言い換えてもいいかもしれない。詩人としての才能を人に誇ろうと優越感を抱きながらも、もしかしたら才能のなさが暴露するのではないかと劣等感に悩まされる。その劣等感を隠すために人との交わりを避け、優越的な態度をとる。こうした悪循環が虎である。いわば、対人関係の病である。それは、若い頃の傲慢な性格や、己の詩業に対する絶望、復官後の生活によく現れている。
 3)は人間性と言ってもよい。人間性がないから獣に身を落とすのである。しかし、妻子の衣食のために復官しているところなどは人間らしさが現れている。
 こんな李徴の詩に対して袁參が感じた、第一流の作品になるのに欠けている微妙な点とは何か。
 それは3)の人間性ではないだろう。むしろ、1)の芸術家の魂に誘われながらも、2)の「臆病な自尊心」によって詩人になりきれなかった甘さにあるのではないか。第一流の作品になるには、芸術のためには妻子すら(な ど)犠牲にするぐらいの非情さや、対人関係など気にしない傲慢さが必要であったのではないか。「臆病さ」や「羞恥心」を持ち合わせていなければ、李徴は第一流の詩人にこそなれ、虎にはならなかっただろう。
 人間でなくなることに対する矛盾する気持ちをだれも分かってくれないと嘆いたり、芸術家への未練に自嘲的になったり、空費した過去を悲しむ気持ちをだれも分かってくれないと嘆いたりしているからこそ、虎になったのだ。
さらに作品自体を批判的に見れば、なぜ虎であって、小動物でなかったのか。「人虎伝」をもとにしているという事情はあるが、変身して空費した過去を嘆くにしては、まだ十分に「尊大」であり「自尊心」に満ちた動物である。芸術家に徹しきれない李徴の甘さからすれば、虎ではないだろう。また、人ではなく兎を食べておののいているところにも試練の不足がある。

指導観

 まず、李徴が述べている虎になった3つの理由について考える。次に、それらのどれが真の理由なのかと関連させて、李徴の作品に欠けている第一流になるのに欠けている非常に微妙な点について考える。そして、運命の不条理について、矛盾する気持ちについて、人間性と芸術について考えていく。
 生徒にとって、矛盾する気持ちや、運命の不条理は何となく分かるかもしれない。自分の中の優越感と劣等感、何者かに操られている運命については、考えたことがあるだろう。自分の性格などを通して、もう生まれ変わるとすればどんな動物がふさわしい か、象徴として考ええさせるのも面白い。人間性と芸術は難しいだろうが、芸術とは何かについて考える契機となればよい。
 また、「人虎伝」と対照させて、作者の主張をとらえさせるのも面白い。
授業の形態としては、説明と発問が中心になる。その中で、何箇所かで寸感を書かせ、発表させてみたい。できれば、それをバズ・セッションに発展させれば面白いだろう。
 また、チャート式性格テストを実施して、李徴の身の上を自分に置き換えて考えてみることも生徒の興味をひくだろう。
 
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ほ〜む
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
   
 
 
 
展開1

導入 
0.「学習プリント」を配布して、漢字の読みと語句調べと段落分けを宿題にする。
1.宿題点検(5分)
2.教師がゆっくり芝居っ気たっぷりに範読する。(20)分
  • これで生徒の目はバッチリ引きつけられる。 
  • 野村万作の朗読テープは秀逸であり、非常に参考になる。 
  • できればBGMなんかをかけると効果倍増である。 
3.感想を聞く。(5分) 

4.李徴が考える虎になった理由を考えることを指示し、感想を書かせる。次の時間に提出させる。(15分) 

5.段落構成について説明する。(5分) 

 第一段 虎になる以前の李徴 
 第二段 袁參との出会い 
 第三段 虎になった気持ち 
 第四段 詩の伝録 
 第五段 臆病な自尊心と尊大な羞恥心 
 第六段 妻子の依頼と別れ 


第一段 

1.語句の意味を説明しながら音読する。(5分) 

2.「若い頃の李徴の様子」について、質問する。(8分) 

  1. 博学才穎(才能に恵まれる) 
  2. 若くして名を虎榜に連ねる(エリートコースを歩む) 
  3. 性狷介(協調性がない)
  4. 自ら恃むところが厚い(自信過剰)
  5. 賤吏に甘んずるを潔しとしない(自尊心が高い) 
    • 「若くして名を虎榜に連ねる(エリートコースを歩む)」には「科挙」という非常に難しい官吏登用試験に合格せねばならない。そのためには、「博学才穎(才能に恵まれる)」で、家柄や家庭環境、幼児教育に恵まれていなければならない。
    • こうした成育暦をもった人は、「性狷介(協調性がない)」で、「自ら恃むところが厚い(自信過剰)」「賤吏に甘んずるを潔しとしない(自尊心が高い)」性格が形成される。★現在も幼児教育が盛んであり、同じような状況である。とすれば、李徴のような人物が増えていく可能性がある。また,住専やエイズの問題で、大蔵省や厚生省の役人が問題になっているが、彼らも同じような性格の持主である。
3.「退官した理由」について、質問する。(3分) 
  • 詩家として名を残すため 
    • 「人との交わりを絶って詩作にふける」ことは、虎になった理由の自尊心や羞恥心の現れである。
4.「復官した理由」について、質問する。(5分) 
  • 貧窮に堪えず、妻子の衣食のため
  • 己の詩業に半ば絶望したため 
    • 虎になった理由に、妻子よりも詩業を気に掛けているからだとあったが、ここでは妻子のことを考えている。
    • 「半ば」ということは完全ではない。詩業に未練はあるが、自尊心が強いために「文名が容易に上がらず」ことに我慢ができない。
    • つまり、退官したのと同じ理由で復官したことになる。
 
5.「復官後の様子」について、質問する。(5分) 
  • 自尊心が傷ついた
  • 怏怏として楽しまず(不平不満)
  • 狂悖の性が抑え難い(常識外れの言動) 
    • 自尊心が3回傷ついたことになる。しかも今回は以前馬鹿にしていた者たちの命令を受けなければならないので、一層深い傷である。
    • 若いころの李徴と比べて理解する。
6.出張先で行方不明になったことを説明する。
 
7.「あなたは上司とうまく付き合えるタイプか」チャートをさせる。(15分)

第二段
 
1.難しい語句を解説しながら音読する。
 
2.李徴と袁惨が友人であった理由を質問する。 
  • 袁惨の温和な性格
  • 李徴の峻峭な性情↓ 
  • 衝突しない 
    • 生徒の友人との性格について考えさせる。似たようなもの同士が友達になることは多いが、全く性格の違う友達がいれば、互いにないものを求めあい衝突しないことになり、この二人の場合と同じになる。
3.この状況の異常さについて説明する。 
  • 人間が虎と話している。しかし、その虎は草むらに隠れているのだから、袁惨は草むらに向かって喋っていることになり、草むらのなかから人間の声が聞こえてくる。もっとも、虎が人間の言葉を喋っているところが見えればさらに異常である。

第三段 

1.音読する。 

2.虎になるまでの過程を説明し、その後の気持ちを質問する。 

  1. 戸外でだれかが我が名を呼んでいる
  2. 声を追って走る。
  3. 気がつくと虎に変身していた。
  4. 目を信じなかった
  5. 夢にちがいないと思う
  6. 茫然とし、どんなことでも起こりうると思って懼れた。
  7. 理由を考えたがわからない。
  8. 死のうとを思った
  9. 兎を見たとたんに食い殺してしまった。
 
3.「だれか」とは誰か。 
  • 自尊心(李徴の内部に潜む悪魔の声)
  • 運命★多くの生徒に当てるが答えは出ないだろう。後で考える。
 
4.「理由も分からずに押しつけられたものをおとなしく受け取って、理由も分からずに生きてゆくのが、我々生き物のさだめだ」「獣でも人間でも、もとは何かほかのものだったんだろう。初めはそれを覚えているが、しだいに忘れてしまい、初めから今の形のものだったと思い込んでいるのではないか」について考える。
 1)みんなは自分が今の姿で生きている理由を知っているか質問する。
○なぜここにいるのか。
○なぜ日本に住んでいるのか。
○なぜ人間なのか。
 2)理由もわからず生きていることに対して、人間はどうするのか。
○無自覚で生きていく
○何らかの理由や理屈をつけて納得する
5.死のうと思うが死ねない苦しさを説明する。 

6.「自分の中の人間はたちまち姿を消した」とはどういうことか。 

  • 人間としての理性を失った。
7.人間の心に還る時の様子。 
  • 人間の言葉も喋れるし、複雑な思考もできる。
  • 虎としての残虐な行いの跡を見、自分の人生を振り返るのが、情けなく恐ろしく憤ろしい。
     ★矛盾する気持ちに注意する。
 
8.人間の心が消えてしまうことについて
 1)なぜ「しあわせ」と考えているのか。
○虎としての残虐な行為に悩まなくてすむ
○自分の存在を懐疑しなくてすむ
○詩への未練が断ち切れる
 2)なぜ「恐ろしく」感じているのか。
○運命に引きずられる不安
○人間、詩人への未練
 3)李徴の本心はどちらか。
 
 
 
 
展開2

第四段
 
1.音読する。
 
2.李徴が詩の伝録を頼んだ理由を質問する。 
  • 自分が生涯執着したものを後代に伝えたい。
 
3.袁惨の感想を質問する。
  • 格調が高く優れている。
  • 第一流の作品になるには、どこか微妙な点において欠けている。
     ★微妙な点とは何か。
 
4.漢詩を朗読し、訳す。
   ○偶然、精神病によって人間以外のものになってしまった。
災いが襲いかかって避けることもできなかった。
今では、この爪や牙に誰が歯向かうだろうか。
当時は、私も君も二人とも評判が高かった。
私は虎になって雑草の下にいるが、
君はすでに車に乗って順調に出世している。
この夕方谷山の明月に向かって、
私は詩を吟ずるのでなくほえ叫んでいるだけだ。

第五段 

1.音読する。 

2.「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」について説明する。 

  • 「臆病な」=「羞恥心」、「尊大な」=「自尊心」。傍線の色分け。
  • 「羞恥心」「自尊心」は心理、「臆病な」「尊大な」はその態度。
 
3.対句部分を板書し、判別をする。
 
  1. 詩によって名をなそうと思いながら(自尊心)、進んで師についたり、詩友と交わって切磋琢磨に努めたりすることをしなかった(臆病)。
  2. 俗物の間に伍することも潔しとしなかった(尊大)
  3. 己の珠にあらざることを惧れるがゆえに(羞恥心)、あえて刻苦して磨こうともせず(臆病)、
  4. 己の珠なるべきを半ば信ずるがゆえに(自尊心)、碌々として瓦に伍することもできなかった(尊大)。
  5. 才能の不足を暴露するかもしれないとの卑怯な危惧と(羞恥心)、刻苦をいとう怠惰(尊大)
4.「臆病な自尊心」「尊大な羞恥心」とは何か、虎になった理由を考える。 
  1. 自分の才能に対して半分は自信があるが(自尊心)、半分は自信がないので(羞恥心)、2つの気持ちが入り交じり、時と場合によっていずれかが強く現れる。
  2. 羞恥心があるが、それを隠そうとして尊大になる。
  3. 自尊心はあるが、失敗を恐れて臆病になる。
  4. 羞恥心と自尊心のバランスがとれずに悪循環し、ストレスが肥大して精神的におかしくなる。
  5. 自分でも自分の性情が抑えきれない=猛獣
     ○自尊心
     ↓(失敗するかもしれない)
     臆病
     ↓
     羞恥心
     ↓(隠そうとする)
     尊大
     ↓
      自尊心
     ↓
      ・
       ・
       ・
    ○性情=猛獣
5.虎になった今も、かつて人間であった時も、誰も自分の気持ちを分かってくれなかったことを説明する。 

6.山月記のパロディを配布して、このような物語が現在でも起こりうることを理解させる。 


第六段 

1.人間には背反する2つの部分が同居している。性格テストをしてみる。 

2.音読する。 

3.「おれは死んだと告げてほしい」と依頼した理由を質問する。 

  • 虎になった理由を知られるなんて自尊心が許さないから。
  • 生きているかもしれないという期待や、夫が虎になってしまったという驚きを 起こさせないため。
4.李徴が自嘲的な調子に戻った理由を質問する。 
  • 妻子の生活よりも、自分の詩の方を先に依頼するような、人間性の欠如に気がついて自らを恥ずかしく思っている。
  • 虎になった理由でもある。
 
5.帰りにこの道を通らないで欲しいと言った理由を質問する。 
  • 完全に虎になっていて、袁惨を食べてしまうかもしれない。 
 
6.最後に虎となった姿を見せた理由を質問する。
  • 袁惨に再び自分に会おうという気を起こさせないため。
  • 自尊心や羞恥心を捨て、ありのままの自分を見てもらおうと思った。
 
7.李徴が咆哮した気持ちを質問する。
  • 人間への未練を捨てきった。
  • 袁惨に会えた喜び。

全体を振り返って
 
1.全文を音読する。
 
2.李徴の詩が第一流になるのに欠けている非常に微妙な点とは何かを質問する。
 
  • 人間性の欠如
  • 努力不足
  • 妻子を捨てて詩に打ち込む覚悟の欠如
  3.「山月記私見」を配布し、教師の読みを示した後、生徒に感想を書かせる。 
 
 



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