三船の才  雲林院の菩提講  兼通の執念  肝だめし 競べ弓(政敵との競射)  姉詮子の推挙  花山院の出家  花山天皇の出家10


三船の才


1.全文、音読する。
2.登場人物を把握する。
 ・入道殿=藤原道長。
 ・大納言殿=藤原公任。『和漢朗詠集』の編者。『和漢朗詠集』は漢詩と和歌を集めたもの。
3.一四六頁の系図から二人の関係は。
 ・またいとこ。はとこ。
4.場所は。
 ・大井(堰)川。嵐山周辺。
5.何をしたか。
 ・逍遙した。舟遊びをした。
 ・作文(漢詩)の船、管弦(音楽)の船、和歌の船に別れて、才能を競った。
6.敬語のまとめをしておく。

7.ひととせ、入道殿の、大井川に逍遥せさせたまひしに、作文の船、管弦の船、和歌の船と分かたせたまひて、その道に堪へたる人々を乗せさせたまひしに、
 1)道長の行為には二重尊敬が使われている。
 2)「堪ふ」の意味。
  @我慢する。A能力がある。

8.この大納言殿の参りたまへるを、入道殿、「かの大納言、いづれの船にか乗らるべき。」と のたまはすれば、
 1)「参りたまへ」は二方面の敬語。
 2)「る」は尊敬、「べき」は適当。
 3)「のたまはす」について
  ・のたまふ+す(尊敬の助動詞)
  ・「のたまふ」より高い敬語。
  ・道長には「のたまはす」、公任には「のたまふ」と使い分けている。

9.「和歌の船に乗りはべらむ。」とのたまひて、詠みたまへるぞかし。
 1)会話の主を確認する。
 2)「はべら」は丁寧語で大納言殿から入道殿へ。
 3)道長には尊敬の助動詞+補助動詞「たまふ」と二重尊敬が使われていたが、公任には補助動詞「たまふ」だけである。

10.をぐら山あらしの風のさむければもみぢの錦きぬ人ぞなき
 1)掛詞に注意する。
  ・嵐(強い風)+嵐山
 2)見立てに注意する。
  ・紅葉=錦の着物
 3)訳す。
  ・小倉山と嵐山から強く風が寒いので、散りかかる紅葉の錦の着物を着ない人はいない。

11.申しうけたまへるかひありてあそばしたりな。御みづからものたまふなるは、
 1)「申し受け」の意味。
  ・申し出て引き受ける。
 2)「申し受けたまへ」の二方面の敬語。
 3)「あそばす」
  ・詩歌、管弦、狩猟などの遊びをするの尊敬語。
 4)「なる」は伝聞の助動詞。

12.「作文のにぞ乗るべかりける。さて、かばかりの詩を作りたらましかば、名のあがらむことも まさりなまし。口惜しかりけるわざかな。
 1)「の」が準体格である。
 2)「べかり」は適当、「ける」は詠嘆の連体形。「ぞ」の結びになっている。
 3)「ましかば〜まし」が反実仮想。
  ・事実=和歌の船に乗って和歌を作った。
  ・仮定=漢詩を作る。
  ・想像=もっと名前が上がっていた。
 4)当時は、教養として和歌より漢詩の方が評価が高かった。
 5)「口惜し」の意味。
  ・残念な。

13.さても、殿の、『いづれにかと思ふ。』とのたまはせしになむ、我ながら心おごりせられし」
 とのたまふなる。
 1)「さても」の意味。
  ・それにしても
 2)「いずれの船にか」について
  @「に」は断定。
  A「か」の結びの省略。
   ・乗らるべき
   ・道長の言葉をそのまま入れる。
 3)「なる」は伝聞の助動詞。

14.一事のすぐるるだにあるに、かくいづれの道も抜け出でたまひけむは、いにしへもはべらぬことなり。
 1)副助詞「だに」の意味。
  ・類推。軽いものを挙げて重いものを類推させる。
 2)「ぬ」は打消、「なり」は断定。


雲林院菩提講

 「大鏡」の序に当たる部分である。これから歴史を語る経過と目的が書かれている。主な登場人物は、書き手である私、大宅世継、夏山繁樹、侍の四人である。
 私が雲林院の菩提講で大宅世継と夏山繁樹の二人の老人を見かける。
 まず、世継から語り始める。長年昔の人に会って見聞してきたことや道長の様子を語りたいと思っていたが念願がかなった。言いたいことを言わないのは腹の張ることなので、昔の人は穴を掘ってまで言ったという。あなたは何才なのか。と体面の喜びを語る。
 それに対して、繁樹が話す。自分が故太政大臣の貞信が蔵人の少将であったときの小舎人童であったとき、あなたは皇太后の召使であって二十五、六歳だった。と年齢について答える。
 そこで、世継が相手の名前を問う。
 繁樹が答える。太政大臣の邸宅で元服した時に姓を聞かれたので「夏山」と答えると「繁樹」という名をいただいた。
 聞いている私は、余りに昔の話なので、この老人たちは何歳なのかと驚きあきれて聞いていた。二人の会話を聞いて、身分の高い人や教養のある人が集まった。その中で三十歳ぐらいの侍が興味を示して「信じられな〜い」と言うと、二人の老人はからかい半分に笑った。
 講師の待つまで退屈なので、世継が昔話を始めようと提案する。繁樹も賛成し、私も適当に受け答えしましょうと言う。大勢の人が集まってきたが、その中でも先程の侍は熱心であった。
 世継ぎが話し始める。昔から懸命な帝の治世には、国中から老人を探し、政治について意見を求め、それを参考にして政治をなさった。老人は尊重すべきで、侮ってはいけない。と言いながら扇で顔を隠して気取って笑うのも面白い。
 つまり、人の気を引きつけて、老人パワーを見せつけようというのである。


0.『大鏡』の説明をする。
 ・成立=平安時代後期。
  ジャンル=歴史物語。
  作者=未詳。
  内容=藤原道長の栄華。
  形式=紀伝体。
     大宅世継(一九〇歳)と夏山繁樹(一八〇歳)の会話。
  特徴=批判を交える。
     「栄華物語」は賛美。
  続編=増鏡、今鏡、水鏡。四鏡。
2.学習プリントを配布し、書写、語句調べ、訳をさせる。
3.全文音読する。
4.会話の主を質問する。
 ・年ごろ〜=世継
 ・いくつということ〜=繁樹
 ・しかしか、さ侍りしこと〜=世継
 ・太政大臣殿にて〜=繁樹
 ・いで、いと興ある〜=侍
 ・いで、さうざうしきに〜=世継
 ・しかしか、いと興ある〜=繁樹
 ・世はいかに興ある〜=世継
5.敬語の知識を復習する。
 ・敬語の種類と訳し方。
 ・敬意の主体と対象。
6.「に」「なり」「ぬ」「る」の識別、「せ」「ば」の用法について説明する。

7.先つころ雲林院の菩提講に詣でて侍りしかば、例人よりはこよなう年老い、うたてげなる翁二人、嫗と行き会ひて、同じ所に居ぬめり。あはれに同じやうなるもののさまかなと見侍りしに、これらうち笑ひ、見かはして言ふやう、
 1)語句の意味を確認する。
  ・菩提講 詣づ 侍り こよなし うたてげ
 2)「に」「なる」「ぬ」の識別をする。
 3)「ば」の用法に注意する。
 4)敬語の種類と主体と対象を考える。
 5)訳させる。
 6)二人の老人が、大宅世継(一九〇歳)と夏山繁樹(一八〇歳)であることを説明する。

8.「年ごろ、昔の人に対面して、いかで世の中の見聞くことをも聞こえあはせむ、このただ今の入道殿下の御有様をも申しあはせばやと思ふに、あはれにうれしくも会ひ申したるかな。今ぞ心安く黄泉路もまかるべき。
 1)語句の意味を確認する。
  ・いかで ばや 入道 黄泉路 まかる
 2)「に」の識別をする。
 3)「べき」の意味に注意する。
 4)敬語の種類と主体と対象を考える。
 5)訳させる。

9.おぼしきこと言はぬは、げにぞ腹ふくるる心地しける。かかればこそ、昔の人は、もの言はまほしくなれば、穴を掘りては言ひ入れ侍りけめと、おぼえ侍り。返す返すうれしく対面したるかな。さても、いくつにかなり給ひぬる。」と言へば、
 1)語句の意味を確認する。
  ・かかれば おぼゆ
  ★「おぼゆ」は2カ所の意味が異なるので注意する。
 2)「ぬ」「るる」「なれ」「に」「なり」の識別をする。
 3)「ば」の意味に注意する。
 4)「かかればこそ」の結びを質問する。
  ・侍りけめ。
  ★「まほしくなれ」ではない。
 5)敬語の種類と主体と対象を考える。
 6)訳させる。
 7)「おぼしきこと言はぬは、げにぞ腹ふくるる心地しける」は後世の『徒然草』にも見  あるので、当時の諺のようなものであることを説明する。
 8)「もの言はまほしくなれば、穴を掘りては言ひ入れ侍りけめ」は「大様の耳はロバの  耳」という童話と類似していることを説明する。

10.いま一人の翁、「いくつといふこと、さらにおぼえ侍らず。ただし、おのれは、故太政の大臣貞信公、蔵人の少将と申しし折の小舎人童、大犬丸ぞかし。主は、その御時の母后の宮の御方の召使、高名の大宅世継とぞ言ひ侍りしかしな。されば、主の御年は、おのれにはこよなくまさり給へらむかし。自らが小童にてありし時、主は二十五、六ばかりのをのこにてこそはいませしか。」と言ふめれば、
 1)語句の意味を確認する。
  ・太政大臣 蔵人 小舎人(童) さても さらに ぞかし されば います 主
 2)「に」の識別をする。
 3)「ば」の意味に注意する。
 4)敬語の種類と主体と対象を考える。
 5)訳させる。
 6)官職について説明する。
 7)時代を類推する。
  ・故太政大臣の貞信である藤原忠平が蔵人の少将の時は八八五年頃。
  ・当時の世継が二十五、六歳であった。
  ・雲林院の菩提講は一〇二五年五月。
  ・世継の年齢は、二十五+(一〇二五−八八五)=一六五歳になる。

11.世継、「しかしか、さ侍りしことなり。さても、主の御名はいかにぞや。」と言ふめれば、「太政大臣殿にて元服仕まつりし時、きむぢが姓は何ぞと仰せられしかば、夏山となむ申すと申ししを、やがて繁樹となむつけさせ給へりし。」など言ふに、いとあさましうなりぬ。
 1)語句の意味を確認する。
  ・しかしか 仕まつる きむぢ 仰す やがて あさまし
 2)「なり」「に」「ぬ」の識別をする。
 3)「られ」「ば」「させ」の意味に注意する。
 4)「夏山となむ」の結びを質問する。
  ・「申ししを」で結ぶはずだが、接続助詞「を」があるので流れている。
 5)敬語の種類と主体と対象を考える。
 6)訳させる。
 7)「さ侍り」の指示内容を質問する。
  ・ただし、おのれは〜いませしか。
 8)命名について説明する。
  ・五月生まれなので、「夏山」。
  ・夏山には葉が繁るので「繁樹」。
 9)「いとあさましうなりぬ」の理由を質問する。
  ・あまりに昔話なので驚き呆気にとられている。

12.誰も少しよろしき者どもは、見おこせ、居寄りなどしけり。年三十ばかりなる侍めきたる者の、せちに近く寄りて、「いで、いと興あること言ふ老者たちかな。さらにこそ信ぜられね。」と言へば、翁二人見かはしてあざ笑ふ。
 1)語句の意味を確認する。
  ・せち
 2)「なる」「に」の識別をする。
 3)「られ」「ば」の意味に注意する。
 4)敬語の種類と主体と対象を考える。
 5)訳させる。
 6)「少しよろしき者ども」について説明する。
  ・「よろし」ではなく「よし」、「少し」なので貴族ではない。
  ・また、菩提講に集まったのだから女房でもない。
  ・新たに出現した庶民的なインテリ層である。
 7)老人二人があざ笑った理由を質問する。
  ・若い侍が信じられないと言うので、からかい半分に戯れて笑っている。

13.かくて講師待つほどに、我も人も久しくつれづれなるに、この翁どもの言ふやう、「いで、さうざうしきに、いざ給へ。昔物語して、このおはさふ人々に、さは、古は、世はかくこそ侍りけれと聞かせ奉らむ。」と言ふめれば、
 1)語句の意味を確認する。
  ・かくて さうざうし いざ給へ おはさふ さは 奉る
 2)「に」「なる」の識別をする。
 3)「せ」の意味に注意する。
 4)敬語の種類と主体と対象を考える。
 5)訳させる。

14.いま一人、「しかしか、いと興あることなり。いでおぼえ給へ。時々、さるべきことのさしいらへ、繁樹もうちおぼえ侍らむかし。」と言ひて、言はむ言はむと思へる気色ども、いつしか聞かまほしく奥ゆかしき心地するに、そこらの人多かりしかど、ものはかばかしく耳とどむるもあらめど、人目に表れてこの侍ぞ、よく聞かむとあどうつめりし。
 1)語句の意味を確認する。
  ・さるべき さしいらへ 奥ゆかし そこら はかばかし あどうつ
 2)「なり」「に」の識別をする。
 3)「る」の意味に注意する。
 4)敬語の種類と主体と対象を考える。
 5)訳させる。
 6)先程は信じられないと言っていた侍が熱心に聞こうとしていることを確認する。

15.世継が言ふやう、「世はいかに興あるものぞや。さりとも翁こそ少々のことはおぼえ侍らめ。昔さかしき帝の御政の折は、国の内に年老いたる翁・女やあると召したづねて、古の掟の有様を問はせ給ひてこそ、奏することを聞こし召しあはせて、世の政は行はせ給ひけれ。されば、老いたるは、いとかしこきものに侍り。若き人たち、な侮りそ。」とて、黒柿の骨九つあるに黄なる紙はりたる扇をさし隠して、気色だち笑ふほども、さすがにをかし。
 1)語句の意味を確認する。
  ・さりとも さかし 召す 奏す 聞こし召す かしこし 気色だつ さすがに
 2)「に」「なる」の識別をする。
 3)「せ」の意味に注意する。
 4)敬語の種類と主体と対象を考える。
  ・「奏す」は、絶対敬語で、天皇や上皇に対してだけ用いられる。
  ・「啓す」は、皇太子や皇后に対して用いられる。
 5)訳させる。
 6)「さりとも」の前に省略されている内容を質問する。
  ・すべて忘れずに覚えているわけではない。
 7)二人の老人が昔語りをする理由を質問する。
  ・老人の覚えている昔の掟などの話を参考にして、政治をするほうがよい。
  ・老人の力を見くびってはいけない。 
 8)その意図を明確に述べている部分を抜き出させる。
  ・このただ今の入道殿下の御有様をも申しあわせばや。
  ・古は、世はかくこそと侍りけれと聞かせ奉らむ。


兼通の執念

 兄の堀川殿(=兼通)と、弟の東三条殿(=兼家)は、非常に仲が悪かった。兼通が危篤になった時、兼家は兼通の家の前を通った。兼通は、普段仲が悪くてもさすがに兄が危篤と聞いて見舞いにやってきたのだと少し感激し、身辺を片づけて弟を迎える用意をさせる。ところが、兼家は兼通の家の前を通りすぎて御所へ向かったと言う。兼通は兼家が来たならば関白の位も譲ってやろうと思っていたのに、このままでは家来たちも自分を馬鹿にするだろうと思い、危篤の体に鞭打って起き上がり、車や前駆の用意をさせて、正装をして、御所に向かう。息子たちの肩を借りてようやく帝の所へたどり着く。ちょうど兼家が帝の前に控えていた。兼家はすでに兼通が死んだと聞いたので、兼通の家の前を素通りして御所に来て、次の関白に自分を任命するように依頼していたところであった。そこに目を見開いた怒りの形相で現れた兼通を見て、兼家も帝もすっかり驚いてしまった。兼家は決まりが悪くてすごすごと鬼の間へ退散した。兼通は帝の前に進み出て、蔵人の長官を呼んで、次の関白には頼忠を任命し、兼家の大将の職を取り上げて小一条の済時の中納言に与え、兼家は治部卿に職を下げるようにと、最後の除目を行った。その後まもなく死んでしまった。兼通はこれほど意地っ張りで、危篤であっても兼家憎さのために御所まで押しかけて宣旨を下すとは、他の人にはできないことである。


1.学習プリントを配布し、書写、語句調べ、訳、識別をしておく課題を指示する。
2.課題を点検する。
3.人物関係を整理する。
 ・藤原兼通=堀河殿
  藤原兼家=東三条殿
 ・兼通が兄で兼家が弟で、仲が悪かった。

4.堀河殿御病重くならせ給ひて、今は限りにておはしまししほどに、東の方に先追ふ音 のすれば、御前にさぶらふ人たち、「誰ぞ。」など言ふほどに、「東三条殿の大将殿参らせ給ふ。」と人の申しければ、
 1)語句の意味を確認する。
  ・今は限り 先追ふ
 2)「なら」「に」の識別をする。
 3)敬語の種類と主体と対象を考える。
  ・「ならせ給ひ」の二重尊敬に注意する。
  ・「参らせ給ふ」の主体と二方面の敬語と二重尊敬に注意する。
 4)訳す。
 5)兼通が危篤状態である時に、兼家が家の近くに来たことを確認する。
  ・「先追ふ」は貴人の行列が通過することである。

5.殿聞かせ給ひて、年ごろ仲らひよからずして過ぎつるに、今は限りになりたると聞き てとぶらひにおはするにこそはとて、御前なる見苦しきもの取りやり、大殿籠りたる所 ひき繕ひなどして、入れ奉らむとて、待ち給ふに、
 1)語句の意味を確認する。
  ・とぶらひ 大殿籠る ひき繕ふ
 2)「なり(る)」「に」の識別をする。
 3)「おはするにこそはとて」の結びを質問する。
  ・「こそは」の後に「あらめ」が省略されている。
 4)訳す。
  ・「入れ奉らむ」の目的語を補う。
 5)兼通の心内語を抜き出させる。
  ・年ごろ仲らひよからずして〜おはするこそは
  ・終わりは「とて」で受ける。
 6)敬語の種類と主体と対象を考える。
  ・「大殿籠る」の意味に注意する。
  ・心内語の主体に注意する。
 7)普段仲が悪い兄弟だが、さすがに兄の危篤を聞いて弟が見舞いにやって来るという常  識的な展開を確認する。

6.「早く過ぎて内裏へ参らせ給ひぬ。」と人の申すに、いとあさましく心憂くて、御前 にさぶらふ人々も、をこがましく思ふらむ。おはしたらば、関白など譲ることなど申さ むとこそ思ひつるに、かかればこそ、年ごろ仲らひよからで過ぎつれ。あさましく安か らぬことなりとて、
 1)語句の意味を確認する。
  ・あさまし 心憂し をこがまし かかれば  安からず
 2)「ぬ」「に」「ば」の識別をする。
 3)訳す。
  ・「おこがましく」の目的語、「おはしたらば」の主語、「譲ることなど申さむ」の   目的語に注意する。
 4)兼通の心内語を抜き出させる。
  ・御前にさぶらふ人々〜安からぬことなり
  ・終わりは「とて」で受ける。
 5)敬語の種類と主体と対象を考える。
  ・「参らせ給ひぬ」の主体と二方面の敬語と二重尊敬に注意する。
  ・「さぶらふ」の主体と対象が兼通になるが、これは作者からの感じである。
 6)「早く過ぎて内裏へ参らせ給ひぬ。」とは誰が何の目的で内裏に行くのか。
  ・兼家が、兼通が危篤なので、帝に自分の昇進を頼みに行く。
 7)何を「をこがましく思ふらむ」と想像したのか質問する。
  ・兼家が来たと早合点して、兼通が身辺を整理するなど準備させて迎え入れようとしていたこと。
  ・兼通の方から仲直りの意志を見せようとしたこと。
 8)「かかれば」の内容を質問する。
  ・兼家が危篤の兄兼通の見舞いもせず、家の前を素通りしたこと。
 9)兄の喜びが一転していっそう強い憎しみに変わることを確認する。

7.限りのさまにて臥し給へる人の、「かき起こせ。」とのたまへば、人々あやしと思ふ ほどに、「車に装束せよ。御前もよほせ。」と仰せらるれば、物の憑かせ給へるか、現 し心もなくて仰せらるるなど、あやしく見奉るほどに、
 1)語句の意味を確認する。
  ・あやし 装束 現し心
 2)「に」の識別をする。
 3)訳す。
  ・「限りのさまにて臥し給へる人」が兼通であることを確認する。
  ・「車に装束せよ。御前もよほせ。」と言ったのが兼通であることを確認する。
  ・「物の憑かせ給へるか」の主語が兼通であることを確認する。
  ・「あやしく見奉る」の主語が人々、目的語が兼通であることを確認する。
 4)人々の心内語を抜き出させる。
  ・物の憑かせ給へるか、現し心もなくて仰せらるる
  ・兼通の執念に対する周囲の人々の気持ちを理解する。
 5)敬語の種類と主体と対象を考える。
 6)車の装束について説明する。
  ・車宿りから車を出して、牛を付け、牛飼童や同乗者(関白の場合は六〜八人)。
 7)危篤の体を押してまで内裏に行こうとする兄の怒りと執念を確認する。

8.御冠召しよせて、装束などをさせ給ひて、内裏へ参らせ給ひて、陣の内は君達に掛かりて、滝口の陣の方より、御前へ参らせ給ひて、昆明池の障子のもとにさし出でさせ給 へるに、昼の御座に、東三条の大将、御前にさぶらひ給ふほどなりけり。
 1)語句の意味を確認する。
  ・召しよす 君達 さし出づ
 2)「に」「なり」の識別をする。
 3)訳す。
  ・「御冠召しよせて」の主語が兼通であることを確認する。
  ・「させ給ひ」が、「せ(サ変)させ(尊敬)給ひ」の略であることを説明する。
  ・「御前」が帝の前であることを確認する。
 4)敬語の種類と主体と対象を考える。
  ・「参らせ給ひ」「さぶらひ給ふ」の二方面の敬語に注意する。
 5)兼通の健康状態の悪さを確認する。
 6)兼通が内裏に参内したとき、予想通り兼家がいたことを確認する。

9.この大将殿は、堀河殿すでに失せさせ給ひぬと聞かせ給ひて、内に関白のこと申さむと思ひ給ひて、この殿の門を通りて参りて申し奉るほどに、堀河殿の、目をつづらかに さし出で給へるに、帝も大将も、いとあさましく思し召す。大将はうち見るままに、立ちて鬼の間の方におはしぬ。
 1)語句の意味を確認する。
  ・内 つづらか まま
 2)「ぬ」「に」の識別をする。
 3)訳す。
  ・「参りて」の目的語を確認する。
  ・主語の変化を確認する。
 4)敬語の種類と主体と対象を考える。
  ・「申し奉る」が謙譲+謙譲になっており、かしこまっている様子を強調する。
 5)「関白のこと」とは具体的に何か質問する。
  ・兼通のあとに関白にしてほしいこと。
 6)「鬼の間の方におはしぬ」の理由を質問する。
  ・死んだといっていた兼通が登場して決まりが悪かった。
  ・兼通の怒りの形相に圧倒された。
 7)突然の兄の登場にあわてる弟の様子を確認する。

10.関白殿御前につい居給ひて、御気色いとあしくて、「最後の除目行ひに参り給へるな り。」とて、蔵人頭召して、関白には頼忠の大臣、東三条殿の大将を取りて、小一条の 済時の中納言を大将になし聞こゆる宣旨下して、東三条殿をば治部卿になし聞こえて、出でさせ給ひて、ほどなく失せ給ひしぞかし。
 1)語句の意味を確認する。
  ・つい居る 宣旨
 2)「に」「なり」の識別をする。
 3)訳す。
  ・「大将を取りて」は大将の「職」を取り上げること。
  ・「御気色いとあしくて」は健康状態も機嫌も悪い様子。
 4)敬語の種類と主体と対象を考える。
  ・「参り給へる」の「給へ」は兼通の会話中なので兼通から兼通になるが、直接話法の中に作者の敬意が入り込んだ表現。
  ・2つの「なし聞こゆる」のそれぞれの対象に注意する。
 5)除目は春と秋が恒例だが、ここでは兼通の独断による臨時の除目であることを説明する。
 6)頼忠は、以前摂政の地位を兼家と争った時に、兼通を指示したので後任に任命したことを説明する。
 7)兼通の怒りの報復人事と死ぬ直前にそれをした執念を確認する。

11.心意地にておはせし殿にて、さばかり限りにおはせしに、ねたさに、内裏に参りて申させ給ひしほど、異人すべくもなかりしことぞかし。
 1)語句の意味を確認する。
  ・ねたさ
 2)「に」の識別をする。
 3)訳す。
  ・「異人すべく」が可能の意味であることを確認する。
 4)敬語の種類と主体と対象を考える。
 5)何を「申させ給ひ」なのか質問する。
  ・除目のこと。
 6)この部分は作者の感想であることを確認する。


肝だめし

 花山院の治世(九八四〜九八六年)の五月の新月の雨の降る夜。帝が寂しくなって殿上の間で管弦の遊びの後、怪談話になった。帝が「こんな気味の悪い夜に一人で離れている所へ行けるかなぁ」と言い出すと、人々が行けないでしょうと言っている中で、道長だけが何処へでも行きましょうと言い出す。帝は調子乗りなので、肝試しを提案する。そして、勝手に、道隆は豊楽院、道兼は仁寿院、道長は大極殿へ行くことに決めてしまう。
 道隆は、兼家の長男で、九九〇年に摂政になり、九九四年には長男の伊周が道長を越えて内大臣になるなど「中の関白」と言われる全盛期を築いた権力者である。道兼は、道隆の弟で道長の兄であり、道隆没後関白になるが一〇日で亡くなる。九八七年、父兼家と謀って花山天皇を退位させる謀略家である。道長は、九九五年疫病が流行し、兄の関白道隆・道兼が相ついで没したため、その後継をめぐって、道隆の長男伊周との激しい争いに勝ち、右大臣に昇り、翌年左大臣に進んだ。以後、その権勢は摂政・関白と異ならずと評された。一〇一九年に出家したので入道と呼ばれている。
 周りの公達も無益であると思い、道隆と道兼も困ったと思っているが、道長はやる気満満である。さらに、自分の部下を連れて行くと真偽が怪しまれるので、他の人を付けて証人にしてほしいと申し出る。帝も調子に乗ってのれでも証拠がないというので、道長は帝の御手箱から小刀を貰い受けて立ち上がった。道隆と道兼もも渋々出発することになった。午前一時半に提案があって二時までの間議論をしていた。帝はさらに道筋まで指定する。
 道隆は我慢して陣まで行ったが、宴の松原辺りで得体の知れない声が聞こえるのでどうしようもなくなって帰ってきた。道兼は震えながら露台の外まで行ったが、仁寿院の石畳の当たりで軒ほどもある人影を見たような気がしたので無我夢中で、命あって帝の命令も聞けると言って帰ってきたので、帝は扇を叩いて笑った。
 しかし、道長と帰って来ない。どうしたのかと思っている頃に、さりげなく帰ってきた。
そして小刀で削った物を帝に差し上げ、「証拠に高御座の南側の柱の下を削ってきた」と言ったので、帝は驚きあきれる。道隆と道兼は、感心しもて騒いだが、うらやましくもあり物も言わなくなった。翌朝、帝は信じられなくて蔵人に削り屑をあてがわせたが、全く違わなかった。末の世にその削り跡を見る人も驚きあきれていた。


1.時代設定を説明する。
 ・花山天皇の在位期間。
 ・九八四〜九八六年。
2.登場人物を、系図を見ながら紹介する。
 ・道隆=兼家の長男。
     九九〇年に摂政、九九四年に長男の伊周が道長を越えて内大臣。
     中の関白と言われる全盛期を築いた権力者。
     九九五年疫病が流行し、没す。
 ・道兼=道隆の弟で道長の兄。
     九八六年、父兼家と謀って花山天皇を退位させる。
     道隆没後関白になるが、一〇日で亡くなる。
 ・道長=道隆・道兼没後、道隆の長男伊周との激しい争いに勝ち、権力を確立する。
     一〇一九年に出家。
3.学習プリントを配布し、書写、語句調べ、訳をさせる。
4.敬語の知識を復習する。
 ・敬語の種類と訳し方。
 ・敬意の主体と対象。

5.花山院の御時に、五月下つ闇に、五月雨も過ぎて、いとおどろおどろしくかきたれ、雨の降る夜、帝、さうざうしとや思しめしけむ、殿上に出でさせおはしまして遊びおはしましけるに、人々、物語申しなどしたまうて、昔恐ろしかりけることどもなどに申しなりたまへるに、
 1)語句の意味を確認する。
  ・御時、下つ闇、五月雨、おどろおどろし、さうざうし、思しめす(敬語)、殿上、おはします(敬語)、遊び。
 2)「さうざうしとや思しめしけむ」の訳に注意する。
  ・や(疑問)→けむ(過去推量体)
  ・思しめし=尊敬「思ふ」作者→帝。
  ・物足りないとお思いになったのだろうか。
 3)「出でさせおはしまし」の二重尊敬を説明する。
 4)「申しなどしたまうて」「申しなりたまへる」の二方面の敬語を説明する。
  ・謙譲、作者→帝 + 尊敬、作者→人々
  ・一旦、人々の動作を謙譲語で下げ、尊敬語で上げて回復する。
 5)状況を整理する。
  ・五月下旬(今の初夏)の夜。
  ・雨が降っている。

6.「今宵こそ、いとむつかしげなる夜なめれ。かく人がちなるだに、気色おぼゆ。まして、もの離れたる所など、いかならむ。さあらむ所に、一人往なむや。」と仰せられけるに、
 1)語句の意味を確認する。
  ・むつかしげ、人がち、だに、往ぬ、仰す。
 2)「だに」の用法に注意する。
  ・だに=[最小限の限度]せめて…だけでも。せめて…なりとも。▽命令、願望、意志などの表現を伴って。
      [ある事物・状態を取り立てて強調し、他を当然のこととして暗示、または類推させる]…だって。…でさえ。…すら。
  ・類推。人がちである所を強調して、もの離れたる所を類推させる。
 3)助動詞「む」の意味に注意する。
  ・ならむ(推量)、あらむ(婉曲)所、往なむ(意志)
 4)「仰せられ」の二重尊敬を説明する。
 5)「さあらむ」の指示内容を考える。
  ・もの離れたる

7.「えまからじ。」とのみ申したまひけるを、入道殿は、「いづくなりとも、まかりなむ。」と申したまひければ、
 1)語句の意味を確認する。
  ・まかる。
 2)「え〜打消語」の陳述に注意する。
 3)会話中の敬語の主体に注意する。
  ・誰の会話かを確認する。
 4)2つの「申したまひ」の二方面の敬語に注意する。
  ・謙譲、作者→帝 + 尊敬、作者→人々
  ・謙譲、作者→帝 + 尊敬、作者→道長
 5)帝と人々の何気ない会話に、道長が割って入り、自分のペースにしていく様子に注意する。

8.さるところおはします帝にて、「いと興あることなり。さらば行け。道隆は豊楽院、道兼は仁寿殿の塗籠、道長は大極殿へ行け。」と仰せられければ、よその君達は、  「便なきことをも奏してけるかな。」と思ふ。
 1)語句の意味を確認する。
  ・さらば、君達、便なし、奏す。
 2)「さるところ」の内容を説明する。
  ・肝試しなどをおもしろがる性格。
  ・悪戯好き。
 3)人と行先を順路図を見ながら確認する。
 4)「仰せられ」の二重尊敬に注意する。
 5)「奏す」の絶対敬語を説明する。
  ・「奏す」は、天皇や上皇に申し上げる。
   「啓す」は、皇后や皇太子に申し上げる。
 6)「便なきこと」の指示内容を考える。
  ・「いづくなりとも、まかりなむ。」
 7)助動詞「ける」の意味に注意する。
  ・詠嘆。
 8)道長の発言に対する帝の悪ノリによって話が発展することに注意する。
確認テスト1をする。

9.また、承らせたまへる殿ばらは、御気色変はりて、益なしと思したるに、入道殿は、つゆさる御気色もなくて、
 1)語句の意味を確認する。
  ・承る 殿ばら 益なし 思す つゆ
 2)敬語とその種類を確認する。
  ・承ら(「受く」の謙譲)せ(尊敬の助動詞)たまへ(尊敬の補助動詞)
  ・思し(「思ふ」の尊敬)
 3)「つゆ〜打消語」の陳述を説明する。
  ・全く〜ない。
 4)「さる」の指示内容を質問する。
  ・御気色変はりて、益なしと思したる
 5)敬語の主体と対象を質問する。
  ・承ら(→帝)せ(→殿ばら)たまへ(→殿ばら)の二方面の敬語と二重尊敬に注意する。
 6)道長と他の殿の違いを確認する。

10.「私の従者をば具しさぶらはじ。この陣の吉上まれ、滝口まれ、一人を、『昭慶門まで送れ。』と仰せ言賜べ。それより内には一人入りはべらむ。」と申したまへば、
 1)語句の意味を確認する。
  ・従者 具す さぶらふ まれ 仰せ言 賜ぶ
 2)敬語とその種類を確認する。
  ・さぶらは(丁寧の補助)
  ・賜べ(「与ふ」の尊敬)
  ・はべら(丁寧の補助)
  ・申し(「言ふ」の尊敬)たまへ(尊敬の補助)
 3)助動詞の意味の確認をする。
  ・じ=打消意志。
  ・む=意志。
 4)地図で「昭慶門」を確認する。
 5)敬語の主体と対象を質問する。
  ・申し(→帝)たまへ(→道長)。
 6)道長が自分の家来を連れて行かなかった理由を質問する。
  ・自分の家来では嘘の報告があると疑われるので役人の立会人を希望した。

11.「証なきこと。」と仰せらるるに、「げに。」とて、御手箱に置かせたまへる小刀申して立ちたまひぬ。いま二所も、苦む苦む各々おはさうじぬ。
 1)語句の意味を確認する。
  ・証 苦む おはそうず
 2)敬語とその種類を確認する。
  ・仰せ(「言ふ」の尊敬)らるる(尊敬の助動詞)
  ・置かせ(尊敬の助動詞)たまへ(尊敬の補助)
  ・申し(「請う」の謙譲)て立ちたまひ(尊敬の補助)
  ・おはさうじ(「行く」の尊敬)
 3)助動詞の意味の確認をする。
  ・ぬ=完了。
 4)会話の話し手を確認する。
 5)「二所とは何かを質問する。
  ・道隆と道兼。
 6)敬語の主体と対象を確認する
 7)何のために小刀をもらって言ったのかに留意しておく。
 
12.「子四つ。」と奏して、かく仰せられ議するほどに、丑にもなりにけむ。「道隆は、右衛門の陣より出でよ。道長は、承明門より出でよ。」と、それをさへ分かたせたまへ ば、しかおはしましあへるに、
 1)語句の意味を確認する。
  ・さへ
 2)敬語とその種類を確認する。
  ・奏し(「言ふ」の謙譲・絶対敬語)
  ・仰せ(「言ふ」の尊敬)られ(尊敬の助動詞)
  ・分かたせ(尊敬の助動詞)たまへ(尊敬の補助)
  ・おはしまし(「行く」の尊敬)
 3)助動詞の意味の確認をする。
  ・に(完了)けむ(過去推量)
 4)子四つ、丑の時刻を確認する。
  ・午前一時半と二時。
  ・その間、帝の指示などで時間が経過した。
 5)右衛門(宜秋門)の陣、承明門を地図で確認する。
  ・道兼は門を出ないで行く。
 6)「それをさへ」の指示内容と副助詞について確認する。
  ・「それ」は、出る場所。
  ・「さへ」は、添加の副助詞。
  ・人気のない寂しい場所へ行かせるのに加えて、その道筋までも。
 7)「しか」の指示内容を確認する。
  ・道隆は、右衛門の陣より出でよ。道長は、承明門より出でよ
 8)敬語の主体と対象を確認する
 9)帝の指示の手の込み具合を確認する。
  ・帝はこの企画にかなり執心している。

13.中の関白殿、陣まで念じておはしましたるに、宴の松原のほどに、そのものともなき声どもの聞こゆるに、術なくて帰りたまふ。
 1)語句の意味を確認する。
  ・念ず そのものともなし 術なし
 2)敬語とその種類を確認する。
  ・おはしまし(「行く」の尊敬)
  ・帰りたま尊敬の補助)
 3)中の関白殿が長男の道隆であることを確認する。
 4)宴の松原を地図で確認する。
  ・『今昔物語集』に、ある月の夜に若い女が鬼に食われた話がある。
 5)敬語の主体と対象を確認する
 6)道隆の失敗を確認する。

14.粟田殿は、露台の外まで、わななくわななくおはしたるに、仁寿殿の東面の砌のほどに、軒と等しき人のあるやうに見えたまひければ、ものもおぼえで、「身の候はばこそ、 仰せ言も承らめ。」とて、各々立ち帰り参りたまへれば、御扇を叩きて笑はせたまふに、
 1)語句の意味を確認する。
  ・わななく ものもおぼえず
 2)敬語とその種類を確認する。
  ・おはしまし(「行く」の尊敬)
  ・見えたまひ(尊敬の補助)
  ・候は(「あり」の丁寧)
  ・承ら(「受く」の尊敬)
  ・参り(「来」の謙譲)たまへ(尊敬の補助)
  ・笑はせ(尊敬の助動詞)たまふ(尊敬の補助)
 3)助動詞の意味の確認をする。
  ・め=推量。
 4)粟田殿が道兼であることを確認する。
 5)仁寿殿の東面の砌を地図で確認する。
  ・砌は雨垂れを受けるための石。
 6)道兼が引き返した直接の理由と、その言い訳を確認する。
  ・軒先ほどもある大きな者の姿を見た。本当にいたのではなく、錯覚であろう。
  ・命あっての物種。帝への奉公で臆病さを誤魔化す。
 7)「帰り参りたまへ」「笑はせたまふ」の主語を確認する。
 8)敬語の主体と対象を確認する
 9)道兼も臆病で失敗したことを確認する。
 10)帝が笑った理由を質問する。
  ・二人がおびえて帰って来た様子が面白かった。
  ・予想通り失敗したから。
確認テスト2をする。

15.入道殿はいと久しく見えさせたまはぬを、いかがと思しめすほどにぞ、いとさりげなく、ことにもあらずげにて参らせたまへる。
 1)敬語を指摘させ種類を質問する。
 2)「ぬ」が打消の助動詞であることを確認する。
 3)訳させる。
 4)「いかがと思しめす」の主語を質問する。
  ・帝
 5)敬語の主体と対象を確認する
  ・「参らせたまへ」の二方面と二重尊敬に注意する。
 6)道隆と道兼が失敗したあとの道長の成否に関心が集まっていることを確認する。

16.「いかに、いかに。」と問はせたまへば、いとのどやかに、御刀に、削られたる物を取り具して奉らせたまふに、「こは何ぞ。」と仰せらるれば、
 1)語句の意味を確認する。
  ・奉る 具す
 2)語を指摘させ種類を質問する。
 3)「れ」が受身の助動詞であることを確認する。
 4)訳させる。
 5)「問はせたまへば」「取り具して奉らせたまふ」「仰せらるれば」の主語を質問する。
  ★主語が頻繁に変わるので注意する。
 6)敬語の主体と対象を確認する

17.「ただにて帰り参りてはべらむは証候ふまじきにより、高御座の南面の柱のもとを削りてさぶらふなり。」と、つれなく申したまふに、いとあさましく思しめさる。
 1)語句の意味を確認する。
  ・高御座 つれなし あさまし
 2)敬語を指摘させ種類を質問する。
 3)「まじ」が打消推量の、「なり」が断定の、「る」が自発の助動詞であることを確認  する。
 4)訳させる。
 5)「申したまふ」「思しめさる」の主語を質問する。
 6)敬語の主体と対象を確認する
  ・道長の会話中の主体に注意する。
 7)道長が帝から小刀をもらって出て行った理由を確認する。
  ・高御座の南面の柱を削って証拠にしたかったから。

18.異殿たちの御気色は、いかにもなほ直らで、この殿のかくて参りたまへるを、帝よりはじめ、感じののしられたまへど、うらやましきにや、また、いかなるにか、ものも言 はでぞ候ひたまひける。
 1)語句の意味を確認する。
  ・いかにも なほ 感ず ののしる 候ふ
 2)敬語を指摘させ種類を質問する。
 3)「れ」が自発の、「に」が断定の助動詞であることを確認する。
 4)「にや」「にか」のあとに「あらむ」が省略されていることを確認する。
 5)訳させる。
 6)「異殿」「この殿」が誰であるか質問する。
  ・異殿は道隆と道兼、この殿は道長。
 7)「ものも言はでぞ候ひたまひける」の主語を質問する。
  ★他にも明示されている形で主語が頻繁に変わるので注意する。
 8)敬語の主体と対象を確認する。
  ・「候ひたまひ」の二方面の敬語に注意する。
 9)道隆と道兼の、賞賛と羨望の混じった複雑な気持ちを理解する。

19.なほ疑はしく思しめされければ、つとめて、「蔵人して、削り屑をつがはしてみよ。」と仰せ言ありければ、持て行きて押しつけて見たうびけるに、つゆ違はざりけり。 その削り跡は、いとけざやかにて侍めり。末の世にも、見る人はなほあさましきことにぞ申ししかし。
 1)語句の意味を確認する。
  ・つとめて 蔵人 つがわす つゆ けざやか
 2)敬語を指摘させ種類を質問する。
 3)訳させる。
 4)敬語の主体と対象を確認する
  ・「申し」の対象はあいまい。
 5)「末の世にも」以降は作者の感想であることを説明する。
確認テスト3をする。


競べ弓(政敵の競射)

 道隆の子供である伊周は叔父の道長より八歳年下であったが、道長より昇進していた。のちのち栄華に輝く道長は、伊周に抜かれた一年間、不遇な状況で面白くなく思っていらっしゃった。それは天の神の道長に対する戒めであろう。しかし、道長は全く気後れすることなく、公的には伊周の下の地位に甘んじて政務をこなしていたが、私的には遠慮なさることはなかった。
 ある時、伊周が南院で親しいものを集めて競射を開催したところ、政敵である道長がやってきた。道隆は驚いたが、断ったり動揺すれば沽券に係わるので、調子を合わせてご機嫌をとり、普通は身分の高い者から射る順番を変えて、身分の低い道長を先に射させた。結果は、伊周が二本負けてしまった。そこで道隆や取り巻きの人々も、「もう二回延長なさいませ」と言って無理に延長させたので、道長はすでに勝負がついているので不愉快に思ったが了承した。そしてまた射る時に、「自分の家から皇后が立ち、子供を産んで帝になるならばこの矢当たれ」と言って射ると、なんと真ん中に当たった。次に伊周の番であるが、もともと過保護に育って気弱く臆病な性格だったので、大変気後れして手も震えてとんでもない方向へ飛んでしまった。折角延長させたのに恥の上塗りになり、道隆は真っ青になった。さらに道長は「自分が摂政関白になるはずならば、この矢当たれ」と言って射たところ、先程と同じように真ん中に的も破れるばかりの勢いで当たった。余裕を見せるために道長のご機嫌をとり接待をしていた雰囲気も白けてしまい、気まずくなった。それでも伊周は動転してまだ射ようするので、道隆はあわてて制止した。
 后が立つとか、摂政関白になるとか、直ぐに実現するわけではないが、道長の気迫に伊周は臆してしまったのだろう。


1.学習プリントを配布し、書写、語句調べ、訳、識別をしておく課題を指示する。
2.課題を点検する。
3.人物関係を整理する。
 ・伊周は道隆の息子、道長の甥で、八歳年下であるが、道長より栄進していた。
4.帥殿の、南の院にて、人々集めて弓あそばししに、この殿渡らせたまへれば、思ひがけず、あやしと、中の関白殿おぼし驚きて、
 1)【説】語句の説明
  ・帥殿=藤原伊周。道隆の長男。定子の兄。
      道長より八歳年下であるが、栄進していた。
  ・南の院=道隆(父)の二条邸の一部。
       道隆のホームグランドである。
  ・この殿=藤原道長。兼家の三男。道隆の弟。彰子の父。
  ・中の関白殿=藤原道隆。兼家の長男。道長の兄。伊周の父。
  ・弓=競射。
  ・あそばす=「す」の尊敬語。
  ・渡る=行く。
  ・あやし=不思議な。
 2)【L1】助動詞の意味
  ・し=過去連体。(下に「時」が省略)
 3)【L1】敬語の種類
 4)【L2】訳させる。
  ・伊周が、南の院で、人々をお集めになって競射をなさった時に、道長がいらっしゃったので、思わず不思議だと、道隆はお驚きになって、
 5)【説】主語の確認
  ・伊周→南院にて、人々集めて弓あそばししに、
  ・道長→渡らせ給へれば、
  ・道隆→思ひがけず、あやしと、いみじう饗応し申させ給うて、
 6)【L2】敬語の主体と対象
  ・あそばしし(作者→伊周)
  ・渡らせ給へ(作者→道長)
  ・思し(作者→道隆)
 7)【説】競射をした理由。
  ・父親の道隆が、息子の伊周のために、気の合う仲間と遊びのつもりで始めた。
 8)【説】道隆が「思ひがけず、あやし」と思った理由。
  ・道隆と道長は兄弟だが仲が悪く、道長が道隆の邸を訪れることはなかったから。

5.いみじう饗応し申させたまうて、下臈におはしませど、前に立てたてまつりて、まづ射させたてまつらせたまひけるに、帥殿の矢数いま二つ劣りたまひぬ。
 1)【説】語句の意味
  ・饗応す=もてなす。
  ・下臈=身分が低いもの。
 2)【L2】助動詞の意味
  ・させ=尊敬連用。下に尊敬語がある。
  ・させ=使役連用。下に尊敬語がない。
  ・せ=尊敬連用。下に尊敬語がある。
  ・ぬ=完了終止
 3)【L2】敬語の種類
 4)【L2】訳させる。
  ・(道隆は)(道長を)たいへんもてなし申し上げなさって、(道長は)官位の低い者でいらっしゃるが、(道長を)前に立て申し上げて、(道隆は)(道長を)先に射させ申し上げなさったが、伊周の矢の数が、後2本お劣りになった。
 5)【L2】主語と目的語を補う。
  ・「前に立て〜奉らせ給ひける」の主語は、伊周ではなく、道長を「饗応し」たこの   場を仕切っている道隆と考える。
 6)【L2】敬語の対象は。
  ・饗応し申さ(→道長)せたまう(→道隆)。二方面の敬語。
  ・おはしませ(→道長)
  ・立てたてまつり(→道長)
  ・射させ(使役)たてまつら(→道長)せたまひ(→道隆)
  ・たまひ(→伊周)
 7)【L3】なぜ、道隆は道長をもてなしたのか。
  ・一応客であるし、仲が悪いから冷遇すると世間の評判が悪くなるから。
 9)【L2】競射の順番の決まりは。
  ・身分の高いものが先に射る。
  ・この場合、饗応として、身分の低い道長を先に射させた。
 10)【説】道長を優遇して競射をしたが、結果として伊周が負けた。

6.中の関白殿、また御前にさぶらふ人々も、「いまふたたび延べさせたまへ。」と申して、延べさせたまひけるを、やすからずおぼしなりて、「さらば、延べさせたまへ。」と仰せられて、
 1)【説】語句の意味。
  ・やすからず=心穏やかでなく
  ・さらば=それならば。「さ+あらば」
 2)【L1】助動詞の意味
  ・させ=尊敬連用。尊敬語の上にある。
  ・られ=尊敬連用。尊敬語の下にある。
 3)【L1】敬語の種類
 4)【L1】訳させる。
  ・道隆も、また(道隆の)前にお仕えする人々も、「(道隆が)もう一度勝負を延長なさいませ」と(人々が)申し上げたので、(道隆が)延長なさったのを、(道長は)心穏やかでなくお思いになって、「それならば、(道隆が)延長なさいませ」とおっしゃって、
 5)【L2】主語と目的語を補う。
  ・延長の決定権は伊周ではなく道隆にある。
 6)【L3】敬語の主体と対象は。
  ・さぶらふ(作者→道隆)
  ・ふたたび延べさせたまへ(人々→道隆)
  ・申し(作者→道隆)
  ・延べさせたまひ(作者→道隆)
  ・おぼし(作者→道長)
  ・延べさせさせへ(道長→道隆)
  ・仰せられ(作者→道長)
 7)【L3】3つの「延べさせ給へ」の違いは。
  ・1つ目は、人々が道隆に進言した。
  ・2つ目は、道隆が決断した。
  ・3つ目は、道長が道隆に承諾した。
 8)【L1】なぜ、人々は道隆が延長させたのか。
  ・伊周に逆転のチャンスを与えるため。
 9)【L1】なぜ、道長の気持ちは。
  ・一度勝った勝負のやり直しをさせられるので面白くない。

7.また射させたまふとて、仰せらるるやう、「道長が家より帝・后立ちたまふべきものならば、この矢当たれ。」と仰せらるるに、同じものを中心にはあたるものかは。
 1)【説】語句の意味
  ・同じものを=同じ当るにしても
 2)【L1】助動詞の意味。
  ・べき=当然連体。
  ・なら=断定未然。
 3)【L1】訳させる。
  ・(道長は)また射なさろうしと、おっしゃったことには、「道長の家から帝や皇后がお立ちになるはずならば、この矢、当たれ」とおっしゃると、同じ当たるにしても的の真ん中に当たるではないか。
 4)【L1】主語を補う。
 5)【L1】敬語の主体と対象。
  ・射させ給ふ(作者→道長)
  ・仰せらるる(作者→道長)
  ・立ち給ふ(道長→帝・后)
 6)【説】道長の言葉の意図。
  ・自分の娘が帝の皇后になり、できた孫が帝になり、自分が摂政や関白になって政治   をする。
  ・伊周の地位を奪い取ることを宣言した。
 7)【L2】道長の性格は。
  ・自信家。
  ・豪胆。
 7)【L2】矢が中心に当たったことの意味は。
  ・道長の予言が完全に実現する。
  ・しかも真ん中に当るのだから、その確率も高い。

8.次に帥殿射たまふに、いみじう臆したまひて、御手もわななくけにや、的のあたりにだに近く寄らず、無辺世界を射たまへるに、関白殿、色青くなりぬ。
 1)【説】語句の意味。
  ・臆す=臆病になる。
  ・わななくけ=震えたせい。
  ・無辺世界=見当違いの方向。
 2)【L2】文法事項
  ・に=断定連用。「に」+係助詞は断定。
  ・や=係助詞、疑問。下に「あらむ」が省略。
  ・だに=副助詞、最低限。〜さえ。
  ・ぬ=完了終止。
 3)【L1】敬語の種類。
 4)【L1】訳させる。
  ・次に伊周が射なさる時に、たいへん臆病になられて、手も震えたせいであろうか、的の周辺にさえ近寄らず、見当違いの方向を射なさると、道隆は顔色が真っ青になった。
 5)【L1】敬語の対象。
  ・すべて(→伊周)
 6)【L3】敬語の過ちは。
  ・「なりぬ」は道隆の動作であるのに、尊敬語になっていない。
  ・「ならせ給ひぬ」
 7)【L2】伊周の性格は。
  ・過保護に育てられたせいか、臆病、プレッシャーに弱い。
 8)【L2】道隆の気持ちは。
  ・折角逆転のチャンスを作ったのに、伊周が期待に応えないばかりか、恥の上塗りをさせられて、伊周に腹を立てている。
  ・伊周が道長の引き立て役、道化役を演じてしまったことが悔しく、情けない。

9.また入道殿射たまふとて、「摂政・関白すべきものならば、この矢あたれ。」と仰せらるるに、初めの同じやうに、的の破るばかり、同じ所に射させたまひつ。
 1)【説】語句の意味。
  ・入道殿=道長。
 2)【L1】助動詞の意味。
  ・つ=完了終止。
 3)【L1】訳させる。
  ・また道長が射なさろうとして、「自分が摂政・関白になるはずであれば、この矢当たれ」とおっしゃると、初めと同じように、的が破れるほど、同じ所を射なさった。
 4)【L1】敬語の対象は。
  ・すべて(→道長)
 5)【L1】2回目の道長の願いは。
  ・自分の地位を予言する。
  ・1回目より直接的である。

10.饗応しもてはやしきこえさせたまひつる興もさめて、こと苦うなりぬ。父大臣、帥殿に、「何か射る。な射そな射そ。」と制したまひて、ことさめにけり。
 1)【説】語句の意味。
  ・もてはやし=引き立てる。
  ・な〜そ=禁止。〜するな。
 2)【L2】助動詞の意味。
  ・ぬ=完了終止。
  ・か=係助詞、疑問。結びは「射る」(ワ行上一段)
  ・に=完了連用。
  ・けり=過去終止。
 3)【L2】敬語の種類。
 4)【L2】訳させる。
  ・(道隆が)(道長を)もてなし引き立て申し上げた興も冷めて、気まずくなってしまった。道隆は伊周に「どうして射るのか。射るな、射るな」とお止めになって、白けてしまった。
 5)【L1】主語と目的語を補う。
 6)【L2】敬語の対象。
  ・聞こえ(→道長)させたまひ(→道隆)
  ・制したまひ(→道隆)
 7)【L2】「饗応しもてなし」の場面は。
  ・饗応し申させ給うて
  ・下臈におはしませど、前に立て奉りて、まづ射させ奉らせ給ひける
 8)【L2】道隆の気持ちは。
  ・勝負がついたばかりでなく、赤っ恥をさらしていることに気づかず、なおも射よう   とする息子に腹立たしさを感じている。
  ・伊周の愚鈍あるいは判断能力を低さ、関白の資格がないことを強調している。

11.【説】このエピソードが、後に道隆の病死後、道長の時代が来る事を示している。


姉詮子の推挙

 道隆、道兼が死んだ後、次の権力者を誰にするかという争いが始まった。一条天皇は、愛する定子の兄、道隆の息子である伊周を推していたが、道隆の妹の詮子は兄の道長を推していた。
 詮子が道長をあまりにも特別扱いするものだから、伊周は詮子によそよそしい態度をとった。帝は定子を寵愛していたので伊周も帝の側に仕えて、道長や詮子にはつれなかった。詮子も不愉快であった。帝は道長が権力を握ることを嫌い、道隆が亡くなって定子の評判が悪くなる前に、道隆の弟の道兼を関白にしようとしたのであったが、その道兼も死んでしまった。詮子は道兼の次の関白は弟の道長であるという道理に適ったことを考え、伊周に対してもよく思っていなかった。そこで、詮子は帝に談判した。「道長は内大臣になるのさえ伊周に先を越されたことも気の毒だった。これは伊周の父の道隆が無理やりしたことなので帝も拒否することができなかった。道隆の後は弟の道兼を関白にしたのに、道長を関白にしなかったならば、道長が気の毒と言う以上に、帝に対する批難が高まり不都合が起こるでしょう」。帝は詮子がうとましくなり、その後は詮子の部屋には通わなくなった。すると、詮子の方から帝の寝室に押しかけ、泣きながら訴える。側には道長が控えている。二人は一心同体である。詮子が帝の寝室から長い間出て来ないので道長は心配していたが、出てきた詮子の顔は泣きながら訴えたせいか涙に濡れて赤らんでいたが、口許は快く笑みを浮かべて、「やっと道長に関白の宣旨が下った」と説得に成功した様子であった。少しのことでも前世の因縁であるので、次の関白を決めると言う重大なことを詮子の思い通り決めることはできないはずであるが、詮子の力は大きかった。道長はその後も詮子をおろそかにせず、常識を超えて大切にお世話した。詮子の骨さえも自分の首に掛けていたほどである。


1.学習プリントを配布し、書写、語句調べ、訳、識別をしておく課題を指示する。
2.課題を点検する。
3.人物関係を整理する。
 ・道隆と道兼は他界し、権力は道隆の息子の伊周と、道隆の弟の道長の間で争われた。「政敵との競射」で学んだように、度量では道長が圧していた。ここでの登場人物は帝、道長(入道殿)、詮子(女院)、伊周(帥殿)、定子(皇后)である。

4.女院は、入道殿を取りわき奉らせ給ひて、いみじう思ひ申させ給へりしかば、帥殿はうとうとしくもてなさせ給へりけり。
 1)語句の意味を確認する。
  ・取りわく うとうとし もてなす
 2)訳す。
  ・「女院」が詮子、「入道殿」が道長、「帥殿」が伊周であることを確認する。
  ・「うとうとしくもてなさ」の目的語が詮子であることを確認する。
 3)敬語の種類と主体と対象を考える。
  ・「奉らせ給ひ」「申させ給へ」が二方面の敬語であることに注意する。
 4)登場人物と対立関係を確認する。
  ・詮子は道長を推挙し、伊周は詮子を不快に思っている。

5.帝、皇后宮を懇ろに時めかさせ給ふゆかりに、帥殿は明け暮れ御前にさぶらはせ給ひて、入道殿をばさらにも申さず、女院をもよからず、事に触れて申させ給ふを、おのづ から心得やせさせ給ひけむ、いと本意なきことに思し召しける、理なりな。
 1)語句の意味を確認する。
  ・懇ろ 時めく ゆかり さらに 明け暮れ 本意なし 理
 2)「に」の識別をする。
 3)訳す。
  ・「皇后宮」が定子であることを確認する。
  ・「よからず」と「事に触れて申させ給ふ」が倒置になっていることに注意する。
  ・「おのづから心得やせさせ給ひけむ」の主語が詮子であることを確認する。
  ・「や」は係助詞で疑問を表し「けむ」で結ぶ。作者の想像である。。
 4)敬語の種類と主体と対象を考える。
  ・「さぶらはせ給ひ」「申させ給ふ」が二方面の敬語であることに注意する。
 5)「本意なきこと」は何に対してかを考える。
  ・伊周が道長を無視したり詮子の悪口を帝に申し上げていること。
 6)それに対する作者の立場を確認する。
  ・「理なり」と詮子の立場に立っている。

6.入道殿の世をしらせ給はむことを、帝いみじう渋らせ給ひけり。皇后宮、父大臣おはしまさで、世の中をひき変はらせ給はむことを、いと心苦しう思し召して、粟田殿にもとみにやは宣旨下させ給ひし。
 1)語句の意味を確認する。
  ・渋る とみに
 2)訳す。
  ・「父大臣」が「おはしまさで」、「皇后宮」が「世の中をひき変はらせ給はむことを」、(帝)が「いと心苦しう思し召して」いることに注意する。
  ・「や」は係助詞で反語で「し」で結んでいることに注意する。
  ・名詞の前の「む」の用法が婉曲であることに注意する。
 3)敬語の種類と主体と対象を考える。
 4)「帝いみじう渋らせ給ひけり」の理由を考える。
  ・帝は愛する定子の兄である伊周を関白にしたいと思っていたから。
 5)「粟田殿にもとみにやは宣旨下させ給ひし」の事情を説明する。
  ・道隆の死から十七日後に道兼を関白にする宣旨を下している。道兼の死から三日後に道長に宣旨が下る。帝は道隆の死後も伊周に宣旨を下したかった。
  ・現時点は、道兼の死の直後である。

7.されど、女院の、道理のままの御事を思し召し、また帥殿をばよからず思ひ聞こえさせ給うければ、入道殿の御事をいみじう渋らせ給ひけれど、
 1)訳す。
  ・「渋らせ給ひ」の主語が帝であることを確認する。
 2)敬語の種類と主体と対象を考える。
 3)「道理のままの御事」とは何かを考える。
  ・関白を、道隆→道兼→道長と兄弟順に任じること。
 4)「入道殿の御事」とは何かを考える。
  ・道長に宣旨を下すこと。

8.「いかでかくは思し召し仰せらるるぞ。大臣越えられたることだに、いと、いとほしく侍りしに、父大臣のあながちにし侍りしことなれば、否びさせ給はずなりにしにこそ侍れ。粟田のおとどにはせさせ給ひて、これにしも侍らざらむは、いとほしさよりも、御ためなむいと便なく世の人も言ひなし侍らむ。」など、いみじう奏せさせ給ひければ、むづかしうや思し召しけむ、後には渡らせ給はざりけり。
 1)語句の意味を確認する。
  ・いとほし あながち 便なし 言ひなす
 2)「に」「なり」「し」の識別をする。
 3)訳す。
  ・帝の会話であることを確認する。
  ・主語の変化を確認する。
   ・(詮子が)「思し召し」
   ・(道長が)(伊周に)「越えられたる」
   ・(道隆が)「し侍りし」
   ・(帝が)「否びさせ給はず」、(道兼に)「せさせ給ひ」、(道長に)「侍らざ
   ・「世の人」が「言ひなし」
   ・(帝が)「むづかしうや思し召しけむ」、(詮子に)「渡らせ給はざりけり」
  ・「られ」「む」の用法を確認する。
  ・「かく」の指示内容が、道長に宣旨を下したくないことであることを確認する。
  ・「粟田のおとどにはせさせ給ひて」の「せ」の具体的な内容が、宣旨を下したことであることを確認する。
  ・「これ」の指示内容が、道長であることを確認する。
  ・「御ため」とは、帝のためであることを確認する。
  ・「や」は係助詞で疑問を表し「けむ」で結ぶ。
 4)敬語の種類と主体と対象を考える。
  ・「侍り」が丁寧語であることに注意する。
 5)「父大臣のあながちにし侍りしこと」は何かを考える。
  ・道隆が道長を越えて伊周を昇進させたこと。
 6)「いとほしさよりも、御ためなむいと便なく世の人も言ひなし」の説得の技術を説明する。
  ・詮子が道長のためでなく、帝のために進言していることを強調する。
  ・世論の動向を根拠にして説得している。
 7)帝は詮子を疎ましくなり、部屋に通わなくなったことを確認する。

9.されば上の御局に上らせ給ひて、「こなたへ。」とは申させ給はで、我夜の御殿に入らせ給ひて、泣く泣く申させ給ふ。その日は、入道殿は上の御局にさぶらはせ給ふ。
 1)語句の意味を確認する。
  ・上の御局 
 2)訳す。
  ・主語を確認する。
  ・「こなた」は、詮子の上の御局であることを確認する。
  ・「我」の指示内容が、詮子であることを確認する。
 3)敬語の種類と主体と対象を考える。
  ・二方面の敬語に注意する。
 4)詮子は上の御局で待つだけでなく、帝の夜の御殿に自分から行く積極性について確認する。
  ・帝が中宮の部屋に行くことはあっても、その逆は極めて稀れである。
 5)道長が詮子のもとに控えている関係を確認する。

10.いと久しく出でさせ給はねば、御胸つぶれさせ給ひけるほどに、とばかりありて、戸を押し開けて、出でさせ給ひける御顔は赤み濡れつやめかせ給ひながら、御口は快く笑ませ給ひて、「あはや、宣旨下りぬ。」とこそ申させ給ひけれ。
 1)語句の意味を確認する。
  ・とばかり つやめかす ながら
 2)「ぬ」の識別をする。
 3)訳す。
  ・主語を確認する。
  ・「よからず」と「事に触れて申させ給ふ」が倒置になっていることに注意する。
  ・「おのづから心得やせさせ給ひけむ」の主語が詮子であることを確認する。
  ・「や」は係助詞で疑問を表し「けむ」で結ぶ。作者の想像である。。
 4)敬語の種類と主体と対象を考える。
 5)「御顔は赤み濡れつやめかせ給ひ」の理由を考える。
  ・帝に涙を流しながら訴えたから。
 6)「御口は快く笑ませ給ひ」の理由を考える。
  ・詮子の願いがかなったから。
 7)「宣旨下りぬ」の内容を確認する。
  ・道長を関白にする。

11.いささかのことだにこの世ならず侍るなれば、いはんや、かばかりの御有様は、人のともかくも思し置かんによらせ給ふべきにもあらねども、いかでかは院をおろかに思ひ申させ給はまし。その中にも、道理過ぎてこそは、報じ奉り仕うまつらせ給ひしか。御骨をさへこそは掛けさせ給へりしか。
 1)語句の意味を確認する。
  ・ともかくも
 2)「なり」「に」の識別をする。
 3)訳す。
  ・「人」の指示内容が、詮子であることを確認する。
  ・主語の変化に注意する。
  ・「べき」の用法が当然であることを確認する。
  ・「か」は係助詞で疑問を表し「まし」で結ぶ。
 4)敬語の種類と主体と対象を考える。
  ・「奉り」「仕うまつら」「せ」「給ひ」が謙譲語+謙譲語+尊敬語+尊敬語であること注意する。
 5)「この世ならず侍る」の当時のものの考え方を説明する。
  ・あらゆる出来事は現世や個人の原因でなく、前世からの因縁によるものであるという、仏教の因果思想による宿世観である。
 6)「かばかりの御有様」とは何かを確認する。
  ・道長が関白になる宣旨を下すこと。
 7)「道理過ぎて」は何が道理を越えているのか考える。
  ・道長が詮子のおかげで関白になれた恩に報いるために色々なことをしたこと。
  ・当時の考え方では、道長が関白になったのも因縁であって、詮子のおかげではないはずであるから。


花山院の出家

花山天皇は冷泉院の第一皇子で、永観二年、十七歳で即位なさった。ところが、二年後の寛和二年六月二十二日の夜に、十九歳で花山寺へ行って出家してしまった。その後二十二年間生きていた。
 作者がかわいそうと思ったのは、出家する夜の様子であった。御所を出る時、有明の月が明るいので、躊躇した。しかし、粟田殿はすでに神壐と宝剣を次の一条天皇に渡してしまっているので、決行を迫った。
 月に雲がかかって少し暗くなってきたので、花山天皇は出家は成功するだろうと自分を奮い立てて御所を出ようとする時、弘徽殿の女御の手紙を忘れてきたのを思い出し、取りに戻ろうとするのを、粟田殿は、この機会を逃しては出家は出来ないと、嘘泣きまでなさっんた。
 花山天皇が花山寺に到着すると、粟田殿はそれを見届けて、父親に出家する前の姿を見せに行くと言い出す。花山天皇は粟田殿が一緒に出家しようと約束したことが嘘であったことを知り、嘆き涙を流す。権力争いのために、天皇まで欺くとは、悲しいことである。


0.教材を初見で、登場人物と時間と話の流れを把握させる。
1.学習プリントを配布し、漢字の読みを調べさせ、分からない語句を調べさせ、書き写 し、訳させるのを、宿題にする。
2.教師が音読する。
3.生徒と音読する。

4.次の帝、花山院の天皇と申しき。冷泉院の第一の皇子なり。御母、贈皇后宮懐子と申す。
 1)花山院について系図を見ながら説明する。
 2)敬語を確認する。
  ・天皇と申しき=謙譲「言ふ」作者→花山
  ・懐子と申す=謙譲「言ふ」作者→懐子
 3)助動詞「き」を確認する。
  ・直接過去。
  ・作者が直接体験した昔のことを回想する。
  ・作者は百数十年生きている。
 4)訳す。
  ・次の天皇は、花山院の天皇と申し上げた。冷泉院の第一の王子である。母は、贈皇后宮懐子と申し上げる。

5.永観二年八月二十八日、位につかせ給ふ、御年十七。寛和二年丙戌六月二十二日の夜、あさましく候ひしことは、人にも知らせ給はで、みそかに花山寺におはしまして、御出家入道せさせ給へりしこそ、御年十九。世を保たせ給ふこと二年。そののち、二十二年おはしましき。
 1)年号を西暦で確認する。
  ・永観二年=九八四年。
  ・寛和二年=九八六年。
  ・在位が二年。十七歳〜十九歳。
 2)十干十二支について説明する。(別紙)
 3)語句の意味を確認する。
  ・あさまし=驚きあきれる。
  ・みそか=こっそり。
 4)敬語を確認する。
  ・つかせ給ふ=尊敬、補助、作者→花山
  ・あさましく候ひし=丁寧、補助、作者→読者
  ・知らせ給はで=尊敬、助動詞+尊敬、補助、作者→花山(二重尊敬)
  ・おはしまし=尊敬、行く、作者→花山
  ・入道せさせ給へりし=尊敬、助動詞+尊敬、補助、作者→花山(二重尊敬)
  ・保たせ給ふこと=尊敬、助動詞+尊敬、補助、作者→花山(二重尊敬)
  ・おはしまし=尊敬、生く、作者→花山
 5)「給へりしこそ」の結びは。
  ・省略。なれ(断定、已然)
 6)訳す。
  ・永観二年八月二十八日、(花山天皇は)天皇の位にお着きになる。御年十七歳。 和二年丙戌六月二十二日の夜、(私が)驚きあきれましたことは、(花山天皇は)人にもお知らせにならないで、こっそりと花山寺にいらっしゃって、御出家入道なさいました時は、御年十九歳。在位なさったのは二年。そののち、二十二年間生きていらっしゃいました。
 7)「あさましく候ひしことは」の主語は。
  ・作者。
  ・作者の感想が挿入されている。
  ・突然の出家に驚いている。

6.あはれなることは、下りおはしましける夜は、藤壺の上の御局の小戸より出でさせ給ひけるに、有明の月のいみじく明かかりければ、「顕証にこそありけれ。いかがすべからむ。」と仰せられけるを、
 1)語句の意味を確認する。
  ・あはれ=しみじみと感じる。
  ・下る=退位する。
  ・顕証=あらわではっきりしている。
 2)敬語を確認する
  ・下りおはしましける=尊敬、補助、作者→花山
  ・出でさせ給ひける=尊敬、助動詞+尊敬、補助、作者→花山(二重尊敬)
  ・仰せられける=尊敬、言ふ、+尊敬、助動詞、作者→花山(二重尊敬)
 3)助動詞「けり」の意味の違いは。
  ・地の文=過去。
  ・会話文=詠嘆。
 4)訳す。
  ・(私が)しみじみと感じたことは,花山天皇が(天皇の位を)お下りになった夜は、藤壺の上の部屋の小戸からお出になった時に、有明の月がたいへん明るかったので、「あらわではっきりしているなぁ。どうしたらいいのだろうか」とおっしゃったのを、
 5)「あはれなることは」の主体は。
  ・作者。
  ・出家の様子があまりにも哀れであった。
 6)藤壺の上の御局の位置を清涼殿図で確認する。
 7)時間帯を考える。
  ・明け方。
  ・二十二日なので、有明の月が残っている。
 8)花山院が「顕証こそありけれ。いかがすべからむ」と言った理由を考える。
  ・月が明るすぎたので、こっそり出るのに都合が悪いと思った。
  ・出家を嫌がったわけではない。

7.「さりとて、とまらせ給ふべきやう侍らず。神璽・宝剣わたり給ひぬるには。」と、粟田殿のさわがし申し給ひけるは、まだ帝出でさせおはしまさざりける先に、手づから取りて、春宮の御方にわたし奉り給ひてければ、帰り入らせ給はむことは、あるまじくおぼして、しか申させ給ひけるとぞ。
 1)語句の意味を確認する。
  ・さりとて=そうはいっても
  ・さわがす=せきたてる。
  ・手づから=自分の手で
 2)新たな登場人物に注意する。
  ・粟田殿。
  ・藤原道兼。
  ・太政大臣兼家の三男。
  ・兄道隆に対抗意識を持っている。道隆が子どもの伊周に摂政を譲ろうとした時、反   対して関白になったが、在職七日で没した。
  ・花山天皇を退位させ、一条天皇を即位させ、兼家が摂政になるようにする。
 3)神璽・宝剣の説明をする。
  ・神璽は、八坂に(ヤサカニ)の勾玉(マガタマ)。
  ・宝剣は、天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)。
  ・三種の神器のもう一つは、やた鏡(ヤタノカガミ)。
 4)敬語を確認する。
  ・とまらせ給ふ=尊敬、助動詞+尊敬、補助、粟田→花山(二重尊敬)
  ・侍ら=丁寧、あり、粟田→花山
  ・わたり給ひ=尊敬、補助、粟田→神璽・宝剣
   ・主語に注意する。神璽・宝剣は人間ではないが、主語と認める。
  ・さわがし申し給ひ=謙譲、補助、作者→花山+尊敬、補助、作者→粟田(二方面)
  ・出でさせおはしまさ=尊敬、助動詞+尊敬、補助、作者→花山(二重尊敬)
  ・わたし奉り給ひ=謙譲、補助、作者→神璽・宝剣+尊敬、補助、作者→粟田
                                   (二方面)
   ・「奉り」の対象は春宮とも考えられるが、前出との関連で神璽・宝剣とする。
  ・入らせ給は=尊敬、助動詞+尊敬、補助、作者→花山(二重尊敬)
  ・おぼし=尊敬、思ふ、作者→花山
  ・申させ給ひ=謙譲、言ふ、作者→花山+尊敬、助動詞+尊敬、補助、作者→粟田

    
・粟田殿に二重尊敬を使っている。(二方面+二重尊敬)
 5)訳す。
  ・「そうかといって、(出家を)お止めになるわけにはいきません。神璽・宝剣 (春宮のところへ)移ってしまったので」と、粟田殿はせき立て申し上げなさるのは、、まだ花山天皇がお出にならない先に、(粟田殿が)自分の手で(神璽・宝剣を)取って、春宮の方に渡しせ申し上げなさったので、、(花山天皇が)(宮中へ)お帰りになることは、あってはならないとお思いになって、そのように申し上げなさったとか。
 6)粟田殿が花山天皇を急かせた理由は。
  ・本来は、花山天皇の出家後に譲渡すべき神璽と宝剣を、すでに春宮にを渡し皇位 承をしているので、花山天皇が出家を思い止まられると困るから。
 7)「しか」の指示内容は。
  ・「さりとて、とまらせ給ふべきやう侍らず。神璽・宝剣わたり給ひぬるには。」

8.さやけき影を、まばゆくおぼしめしつるほどに、月の顔にむら雲のかかりて、少し暗がりゆきければ、「わが出家は成就するなりけり。」と仰せられて、歩み出でさせ給ふほどに、
 1)語句の意味を確認する。
  ・さやけし=はっきりした。
  ・影=月の光。
  ・成就=成功。
 2)敬語を確認する
  ・おぼしめし=尊敬、思ふ、作者→花山
  ・仰せられ=尊敬、言ふ+尊敬、助動詞、作者→花山
  ・歩み出でさせ給ふ=尊敬、助動詞+尊敬、補助、作者→花山(二重尊敬)
 3)訳す。
  ・はっきりした月の光を、まぶしくお思いになっている内に、月の顔にむら雲がか って、少し暗くなったので、(花山天皇は)「私の出家は成功するのだなぁ」とおっしゃって、歩き出しなさる時に、
 4)「さやけき影」は前の部分ではどのように表現されていたか抜き出す。
  ・有明の月のいみじく明かりければ
 5)「まばゆくおぼしめし」の気持ちを前の部分ではどのように表現されていたか抜き出  す。
  ・顕彰にこそありけれ
 6)花山天皇が出家が成功すると思った理由を考える。
  ・顕証であった月に雲がかかって暗くなったので、人目につかなくなったと持ったか   ら。

9.弘徽殿の女御の御文の、日ごろ破り残して御身も放たず御覧じけるをおぼしめし出でて、「しばし。」とて、取りに入りおはしましけるほどぞかし、
 1)敬語を確認する。
  ・御覧じ=尊敬、見る、作者→花山
  ・おぼしめし出で=尊敬、思ひ出づ、作者→花山
  ・入りおはしまし=尊敬、補助、作者→花山
 2)「弘徽殿の女御の御文の」の「の」の用法を確認する。
  ・弘徽殿の、女御の=連体格
  ・御文の=同格。下に「御覧じける」と連体形がくる。
 3)「ぞかし」の意味は。
  ・係助詞+終助詞。感動を持った強調。〜であるよ。
 4)訳す。
  ・弘徽殿の女御の手紙で、日ごろ破らずに残しておいて身から放たず御覧になって る手紙をお思い出しになって、「しばらく、待ってほしい」と言って、取りにお入りになったことであるよ。

10.粟田殿の、「いかに、かくはおぼしめしならせおはしましぬるぞ。ただ今過ぎば、おのづからさはりも出でまうで来なむ。」と、そら泣きし給ひけるは。
 1)語句の意味を確認する。
  ・さはり=支障。差し障り。
 2)敬語を確認する。
  ・おぼしめし=尊敬、思ふ、粟田→花山。
  ・ならせおはしまし=尊敬、助動詞+尊敬、補助、粟田→花山。
  ・出でまうで来=謙譲、出で来、粟田→花山。
  ・泣きし給ひ=尊敬、補助、作者→粟田。
 3)「なむ」の識別をする。
  ・強意の助動詞+推量の助動詞。
   ・花咲かなむ=未然形+なむ→願望の終助詞。
   ・花咲きなむ=連用形+なむ→強意の助動詞+推量の助動詞。
   ・花咲くなむ=連体形+なむ→係助詞
   ・花なむ咲く=名詞+なむ→係助詞
 4)訳す。
  ・粟田殿が、「どうして、そのようにお思いになるのですか。ただ今が過ぎてしま ば、おのづから差し障りも出てまいるでしょう。」と、うそ泣きをなさったとは。
 5)「かく」の指示内容は。
  ・弘徽殿の女御の手紙を取りに戻ること。
 6)粟田殿が「そら泣き」した理由は。
  ・手紙を取りに戻ることを思い止まらせ、早く出家させようとしたから。

11.花山寺におはしまし着きて、御髪下ろさせ給ひてのちにぞ、粟田殿は、「まかり出でて、大臣にも、変はらぬ姿、いま一度見え、かくと案内申して、必ず参り侍らむ。」と申し給ひければ、「我をば、はかるなりけり。」とてこそ、泣かせ給ひけれ。
 1)語句の意味を確認する。
  ・案内=事情。
  ・はかる=だます。
 2)敬語を確認する。
  ・おはしまし着き=尊敬、着く、作者→花山。
  ・下ろさせ給ひ=尊敬、助動詞+尊敬、補助、作者→花山。
  ・まかり出で=謙譲、出づ、粟田→花山。
  ・申し=謙譲、言ふ、粟田→花山。
  ・参り侍ら=謙譲、来、粟田→花山+丁寧、補助、粟田→花山。
  ・申し給ひ=謙譲、言ふ、作者→花山+尊敬、補助、作者→粟田。(二方面)
  ・泣かせ給ひ=尊敬、助動詞+尊敬、補助、作者→花山。(二重尊敬)
 3)訳す。
  ・(花山天皇が)花山寺にお着きになって、髪をお剃りになった後に、粟田殿は 「退出して、父の大臣にも、変わらない姿、いま一度見せ、このようにと事情を申し上げて、必ず帰って参りましょう。」と申し上げなさったので、(花山天皇は)た申し給ひければ「私を、騙していたのだなぁ」と言って、お泣きになった。
 4)「変わらぬ姿」とは何かを考える。
  ・粟田殿の出家する前の姿。
 5)「かく」の指示内容を考える。
  ・花山天皇が出家し、自分も出家すること。
 6)粟田殿の本心は。
  ・父に報告したまま、花山寺には帰って来ない。
  ・花山天皇を退位させ、妹の詮子と円融天皇の子である一条天皇を即位させる。
  ・父兼家が幼帝である一条天皇の摂政になり、将来は功労者である自分に関白を譲ら   れると期待した。

12.あはれに悲しきことなりな。日ごろ、よく御弟子にて候はむと契りて、すかし申し給ひけむが恐ろしさよ。
 1)語句の意味を確認する。
  ・すかし=だます。
 2)敬語を確認する。
  ・候は=謙譲、あり、作者→花山。
  ・すかし申し給ひ=謙譲、補助、作者→花山+尊敬、補助、作者→粟田。
 3)訳す。
  ・しみじみと悲しいことであるなぁ。日ごろ、よく弟子としてお仕えしましょうと 束して、だまし申し上げなさたのは恐ろしいことですよ。


花山天皇の出家10

 作者がかわいそうと思ったのは、出家する夜の様子であった。御所を出る時、有明の月が明るいので、人目につくのではないかという口実に躊躇した。しかし、粟田殿はすでに神壐と宝剣を次の一条天皇に渡してしまっているので、帰って来られると困るので、決行を迫った。
 月に雲がかかって少し暗くなってきたので、花山天皇は出家は成功するだろうと自分を奮い立てて御所を出ようとした。ところが、弘徽殿の女御の手紙を忘れてきたのを思い出し、取りに戻ろうとする。粟田殿は、この機会を逃しては出家は出来ないと、嘘泣きまでなさった。
 花山天皇が花山寺に到着すると、粟田殿はそれを見届けて、父親に出家する前の姿を見せに行くと言い出す。花山天皇は粟田殿が一緒に出家しようと約束したことが嘘であったことを知り、嘆き涙を流す。権力争いのために、天皇まで欺くとは、悲しいことである。

0.【指】学習プリントを配布して、本文写し、語句の読みと意味、現代語訳を宿題にする。
1.【指】学習プリントとノートの点検をする。を配布し、漢字の読みを調べさせ、分か らない語句を調べさせ、書き写 し、訳させるのを、宿題にする。
2.【説】大鏡について
・平安時代後期に成立した紀伝体の歴史物語。
・「四鏡」の最初の作品。水鏡、増鏡、今鏡。
・作者は不詳。藤原為業・藤原能信・藤原資国・源道方・源経信・源俊明・源俊房・源顕房・源雅定らの名前が挙げられているが、近年では村上源氏の源顕房とする説がやや有力。
・文徳天皇即位から後一条天皇に至るまで十四代一七六年間の宮廷の歴史。
・大宅世継(一九〇歳)と夏山繁樹(一八〇歳)という長命な二人の老人が雲林院の菩提講で語り合い、それを若侍が批評するという対話形式で書かれている。
・道長の栄華を軸。
・飽くなき権力欲への皮肉も垣間見える。
3.【指】教師が音読する。

4.あはれなることは、下りおはしましける夜は、藤壺の上の御局の小戸より出でさせたまひけるに、有明の月のいみじく明かかりければ、「顕証にこそありけれ。いかがすべからむ。」と仰せられけるを、
 1)【説】語句の意味。
  ・あはれ=しみじみと感じる。
  ・下る=退位する。
  ・顕証=あらわではっきりしている。
 2)【L2】助動詞の意味。
  ・おはしましける、たまひける、仰せられける=過去。
  ・ありけれ=詠嘆。
  ・させたまひ=尊敬。尊敬語の上は尊敬。
  ・べから+む=適当+意志。
  ・仰せられ=尊敬。敬語の後は尊敬。
 3)【L1】係り結び。
  ・こそ(強意)→けれ。
 4)【説】訳す。
  ・(私が)しみじみと感じたことは、(花山天皇が)退位なさった夜は、藤壺の上の部屋の小戸からお出になった時に、有明の月がたいへん明るかったので、「あらわではっきりしているなぁ。どうしたらいいのだろうか」とおっしゃったのを、
 5)【L2】主語は。
 6)【L2】敬語を確認する
  ・下りおはしましける=尊敬、作者→花山
  ・出でさせ給ひける=尊敬+尊敬、作者→花山(二重尊敬)
  ・仰せられける=尊敬+尊敬、作者→花山(二重尊敬)
  ★花山院しか登場していないので、すべて花山院。
 7)【L3】いつの話か。
  ・一日の時間帯は、明け方。
  ・月単位でいえば、有明の月が残っているので下旬。
 8)【説】花山天皇が退位して出家しようとする場面である。
 9)【L2】なぜ、花山院は「顕証こそありけれ。いかがすべからむ」と言ったのか。
  ・月が明るすぎたので、内緒でこっそり出るのに都合が悪いから。
  ・出家を嫌がったわけではない。

5.「さりとて、とまらせ給ふべきやう侍らず。神璽・宝剣わたり給ひぬるには。」と、粟田殿のさわがし申し給ひけるは、まだ帝出でさせおはしまさざりける先に、手づから取りて、春宮の御方にわたし奉り給ひてければ、帰り入らせ給はむことは、あるまじくおぼして、しか申させ給ひけるとぞ。
 1)【説】語句の意味。
  ・さりとて=そうはいっても
  ・さわがす=せきたてる。
  ・手づから=自分の手で
 2)【説】粟田殿について
  ・藤原道兼。
  ・太政大臣兼家の三男。
  ・兄道隆に対抗意識を持っている。道隆が子どもの伊周に摂政を譲ろうとした時、反   対して関白になったが、在職七日で没した。
  ・花山天皇を退位させ、一条天皇を即位させ、兼家が摂政になるようにする。
 3)【説】神璽・宝剣について
  ・神璽は、八坂に(ヤサカニ)の勾玉(マガタマ)。
  ・宝剣は、天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)。
  ・三種の神器のもう一つは、やた鏡(ヤタノカガミ)。
  ・この譲渡によって天皇が代わった証になる。
 4)【説】訳させる。
  ・「そうはいっても、(出家を)お止めになるわけにはいきません。神璽・宝剣が ってしまったので。」と、粟田殿が(花山天皇を)せき立て申し上げなさるのは、まだ花山院天皇がお出にならない先に、(粟田殿が)自分の手で取って、春宮の方に渡し申し上げなさったので、(花山天皇が)(宮中へ)お帰りになることは、あってはならないと(粟田殿は)お思いになって、そのように申し上げなさったとか。
 5)【L2】主語や目的語は。
 6)【L2】敬語は。
  ・とまらせ給ふ=尊敬+尊敬、粟田→花山(二重尊敬)
  ・侍ら=丁寧(あり)、粟田→花山
  ・わたり給ひ=尊敬、粟田→神璽・宝剣
   【注】主語に注意する。神璽・宝剣は人間ではないが、主語と認める。
  ・さわがし申し給ひ=謙譲、作者→花山+尊敬、作者→粟田(二方面)
  ・出でさせおはしまさ=尊敬+尊敬、作者→花山(二重尊敬)
  ・わたし奉り給ひ=謙譲、作者→春宮+尊敬、作者→粟田(二方面)
   【注】「奉り」の対象は神璽・宝剣とも考えられるが、春宮とする。
  ・入らせ給は=尊敬+尊敬、作者→花山(二重尊敬)
  ・おぼし=尊敬(思ふ)、作者→花山
  ・申させ給ひ=謙譲(言ふ)、作者→花山+尊敬+尊敬、作者→粟田
  ・粟田殿に二重尊敬を使っている。(二方面+二重尊敬)
 7)【L1】「しか」の指示内容は。
  ・「さりとて、とまらせ給ふべきやう侍らず。神璽・宝剣わたり給ひぬるには。」
 8)【L2】なぜ、粟田殿が花山天皇を急かせたのか。
  ・本来は、花山天皇の出家後に譲渡すべき神璽と宝剣を、すでに春宮にを渡し皇位    継承をしているので、花山天皇が出家を思い止まられると困るから。

6.さやけき影を、まばゆくおぼしめしつるほどに、月の顔にむら雲のかかりて、少し暗がりゆきければ、「わが出家は成就するなりけり。」と仰せられて、歩み出でさせ給ふほどに、
 1)【説】語句の意味。
  ・さやけし=はっきりした。
  ・まばゆし=まぶしい。(相手がまぶしいほど自分が)恥ずかしい。気が引ける。
  ・影=月の光。
  ・成就=成功。
 2)【L1】助動詞の意味。
  ・なり(断定用)けり(詠嘆止)
  ・仰せられ(尊敬用)
 3)【説】訳す。
・はっきりした月の光を、(花山天皇が)まぶしくお思いになっている内に、月の にむら雲がかかって、少し暗くなったので、(花山天皇は)「私の出家は成功するのだなぁ」とおっしゃって、歩き出しなさる時に、
 4)【L1】敬語は。
  ・おぼしめし、仰せられ、させ給ふ=尊敬、作者→花山
 5)【L2】「さやけき影」は前の部分ではどのように表現されていたか。
  ・有明の月のいみじく明かりければ
 6)【L2】「まばゆし」の意味を考える。
  ・月の光が明るくてまぶしい。
  ・出家に対して気が引けている。
 7)【L2】「まばゆくおぼしめし」の気持ちを前の部分ではどのように表現されていたか。
  ・顕彰にこそありけれ
 8)【L3】月に雲がかかっていることの意味は。
  ・普通な行く末を暗示している。
 9)【L2】なぜ、花山天皇が出家が成功すると思ったのか。
  ・顕証であった月に雲がかかって暗くなったので、人目につかなくなったと持ったか   ら。
  ・出家する決意が固まった。

7.弘徽殿の女御の御文の、日ごろ破り残して御身も放たず御覧じけるをおぼしめし出でて、「しばし。」とて、取りに入りおはしましけるほどぞかし、
 1)【L1】敬語は。
  ・御覧じ、おぼしめし、おはしまし=尊敬、作者→花山
 2)【L1】「の」の用法は。
  ・同格。
  ・下に「御覧じける」と連体形がくる。
 3)【説】「ぞかし」の意味は。
  ・係助詞+終助詞(感動を持った強調)。〜であるよ。
 4)【説】訳す。
  ・弘徽殿の女御の手紙で、日ごろ破らずに残しておいて身から放たず御覧になって る手紙をお思い出しになって、「しばらく、待ってほしい」と言って、取りにお入りになったことであるよ。

8.粟田殿の、「いかに、かくはおぼしめしならせおはしましぬるぞ。ただ今過ぎば、おのづから障りも出でまうで来なむ。」と、そら泣きし給ひけるは。
 1)語句の意味を確認する。
  ・障り=支障。差し障り。
 2)【L3】「なむ」の識別。
  ・強意の助動詞+推量の助動詞。
   ・花咲か(未然形)+なむ=願望の終助詞。
   ・花咲き(連用形)+なむ=強意の助動詞+推量の助動詞。
   ・花咲く(連体形)+なむ=係助詞
   ・花(名詞)+なむ+咲く=係助詞
 3)【L2】接続助詞「ば」の意味は。
  ・過ぎ(上二未)+ば=順接仮定条件。
  ・〜ならば。
 4)【L1】敬語は。
  ・おぼしめし、せおはしまし=尊敬、粟田→花山。
  ・まうで=謙譲、粟田→花山。
  ・給ひ=尊敬、作者→粟田。
 5)【L1】訳させる。
  ・粟田殿が、「(花山天皇は)どうしてそのようにお思いになるのですか。ただ今 過ぎてしまえば、おのづから差し障りも出てまいるでしょう。」と、うそ泣きをなさったとは。
 6)【L2】「かく」の指示内容は。
  ・弘徽殿の女御の手紙を取りに戻ること。
 7)【L2】なぜ、粟田殿がそら泣きしたのか。
  ・手紙を取りに戻ることを思い止まらせ、早く出家させようとしたから。
  ・作者の怒りが込められている。

9.さて、土御門より東ざまに率ていだしまゐらせたまふに、晴明が家の前をわたらせたまへば、みづからの声にて、手をおびたたしくはたはたと打ちて、
 1)【説】清明について
  ・安倍の清明。陰陽師、天文学者。
  ・天変を察した時は天皇に報告する義務がある。
  ・当時は、世の中の重大事と天体の変動を関連して考えていた。
 2)【説】語句の意味。
  ・率る=連れる。
  ・おびただし=激しく。
  ・はたはた=ぱちぱちと。
 3)【説】訳す。
  ・こうして、土御門から東の方に(粟田殿が花山天皇を)お連れ申し上げなさった時に清明の家の前を(花山天皇が)お通りになると、(清明が)自分の声で、手を激しくぱたぱたと打って
 4)【L2】敬語は。
  ・いだしまゐら(謙譲、作者→花山)せたまふ(尊敬、作者→粟田)
  ・わたらせたまへ(尊敬、作者→花山)
 5)【説】清明が手をたたいた理由について。
  ・家の者を起こすためにたたいた。

10.「帝王おりさせたまふと見ゆる天変ありつるが、すでになりにけりと見ゆるかな。参りて奏せむ。車に装束とうせよ。」といふ声聞かせたまひけむ、
 1)【説】語句の意味。
  ・下るる=退位する。
  ・天変=天空の変動。日食、月食、彗星など。
  ・参る=参内する。宮中に行くこと。
  ・奏す=(天皇に)申し上げる。(皇后に)啓す。
  ・装束=支度をする。
 2)【L2】助動詞は。
  ・なり(四用)に(完了用)けり(詠嘆止)。
  ・奏せむ(意志)
 3)【説】訳す。
  ・天皇が退位なさると見える天空の変動があったが、すでになってしまったのだなぁ。(天皇の所へ)参内して申し上げよう。車の支度を早くしなさい。」という(清明の)声を(花山天皇が)お聞きになったのだろうか。
 4)【L2】敬語は。
  ・させたまふ(尊敬、清明→花山)
  ・参り(謙譲、清明→花山)
  ・奏す(謙譲、清明→花山)

11.さりともあはれにはおぼしめしけむかし。
 「且、式神一人内裏に参れ。」と申しければ、
 1)【説】語句の意味。
  ・さりとも=そうはいっても。花山天皇が自ら出家を決意したといっても。
  ・且つ=とりあえず。
  ・内裏=宮中。
 2)【L2】助動詞は。
  ・けむ(過去推量)
 3)【説】訳す。
  ・そうはいっても、(花山天皇は)しみじみと思っていらっしゃったことだろう。
   「とりあえず式神を一人宮中に参上させろ。」と申し上げたので
 4)【L1】敬語は。
  ・おぼしめし(尊敬、作者→花山)
  ・参れ(謙譲、清明→花山天皇)
 5)【L2】「さり」の指示内容は。
  ・覚悟して出家した。
 6)【説】作者が花山天皇の心情を推察して同情している。同時に粟田殿の陰謀を批判し  ている。

12.目には見えぬものの、戸をおしあけて、御後ろをや見まゐらせけむ、「ただ今、これより過ぎさせおはしますめり。」といらへけりとかや。その家、土御門町口なれば、御道なりけり。
 1)【説】語句の意味。
  ・御後ろ=花山天皇の後ろ姿。
 2)【L2】助動詞は。
  ・ぬ=打消体
  ・めり=推定。式神が様子を見てきたので推定している。
 3)【説】訳す。
  ・目には見えない者が、戸を押し開けて、(花山天皇の)後ろ姿を見申し上げたので   あろうか、「只今、ここより(花山天皇が)お通りになっていらっしゃったようだ。
   と答えたとかいうことだ。その家は、土御門門口なので(花山天皇の)お通りにな   る道だった。。
 4)【L1】敬語は。
  ・見まゐらせ(謙譲、作者→花山)
  ・過ぎさせおはします(尊敬、目には見えぬ者→花山天皇)

13.花山寺におはしまし着きて、御髪下ろさせたまひてのちにぞ、粟田殿は、「まかり出でて、大臣にも、変はらぬ姿、いま一度見え、かくと案内申して、必ず参り侍らむ。」と申したまひければ、「朕をば、謀るなりけり。」とてこそ、泣かせたまひけれ。
 1)【説】語句の意味
  ・花山寺=北花山にある元慶寺。
  ・髪下ろす=髪を剃って仏門に入ること。出家する。
  ・大臣=兼家。道兼の父。
  ・案内=事情。
  ・朕=帝が自分を指す呼称。私。
  ・はかる=だます。
 2)【L1】文法事項は。
  ・ぬ=打消連体。
  ・む=意志終止。
  ・なり=断定、けり=詠嘆。
  ・こそ=係助詞(強意)→けれ(過去已然)。
 3)【説】訳す。
  ・(花山天皇が)花山寺にお着きになって、髪をお剃りになった後に、粟田殿は 「退出して、父の大臣にも、変わらない姿を、いま一度見せ、このようにと事情を申し上げて、必ず帰って参りましょう。」と申し上げなさったので、(花山天皇は)「私を、騙していたのだなぁ」と言って、お泣きになった。
 4)【L2】敬語は。
  ・おはしまし(尊敬「着く」、作者→花山)
  ・せたまひ(尊敬、作者→花山)
  ・まかり出で(謙譲「出づ」、粟田→花山)
  ・申し(謙譲「言ふ」、粟田→大臣)
  ・参り(謙譲「来」、粟田→花山)侍ら(丁寧、粟田→花山)
  ・申し(謙譲「言ふ」、作者→花山)たま(尊敬、作者→粟田。二方面。
  ・せ給ひ(尊敬、作者→花山)
 5)【L2】「変わらぬ姿」とは何かを考える。
  ・粟田殿の出家する前の姿。
 6)【L2】「かく」の指示内容を考える。
  ・花山天皇が出家し、自分も出家すること。
 7)【L3】粟田殿の本心は。
  ・父に報告したまま、花山寺には帰って来ない。
  ・花山天皇を退位させ、妹の詮子と円融天皇の子である一条天皇を即位させる。
  ・父兼家が幼帝である一条天皇の摂政になり、将来は功労者である自分に関白を譲られると期待した。

14.あはれにかなしきことなりな。日ごろ、よく、「御弟子にて候はむ」と契りて、すかし申したまひけむが恐ろしさよ。
 1)【説】語句の意味
  ・あはれ=気の毒。
  ・すかし=だます。
 2)【L1】助動詞は。
  ・なり=断定終止。
  ・に=断定連用。
  ・む=意志。
 3)【説】訳す。
  ・気の毒で悲しいことであるなぁ。日ごろ、よく(粟田殿が)「弟子として(花山 皇に)お仕えしましょう」と約束して、(粟田殿が)(花山天皇を)だまし申し上げなさたのは恐ろしいことですよ。
 4)【L1】主語と目的語を補う。
 5)【L2】敬語は。
  ・候は(謙譲「あり」、作者→花山)
  ・申し(謙譲、作者→花山)給ひ(尊敬、作者→粟田)。

15.東三条殿は、「もしさることやしたまふ」とあやふさに、さるべくおとなしき人々、なにがしかがしといふいみじき源氏の武者たちをこそ、御送りに添へられたりけり。
 1)【説】語句の意味
  ・東三条殿=兼家。道兼の父。
  ・あやふさ=心配。
  ・さるべき=ふさわしい。
  ・おとなし=分別のある人。
  ・なにがしかがし=だれそれ。
  ・いみじ=優れた。
 2)【L1】文法事項は。
  ・や=係助詞(疑問)→たまふ。
  ・こそ=係助詞(強意)→流れ(けれ)。
  ・られ(尊敬連用)たり(完了連用)けり(過去終止)
 3)【説】訳す。
・東三条殿(父の兼家)は、「もし(息子の粟田殿が)そのようなことをなさるのではないか」と心配で、ふさわしい分別のある人々、だれそれという優れた源氏の武士たちを、お送りにお付けになった。
 4)【L1】主語と目的語を補う。
 5)【L2】敬語は。
  ・たまふ(尊敬、東三条→粟田)、(作者が代弁しているので作者でも良い)
  ・られ(尊敬、作者→東三条)。
 6)【L2】「さること」の指示内容は。
  ・粟田殿が出家をすること。

16.京のほどはかくれて、堤の辺りよりぞ出て参りける。寺などにては、「もし、おして人などやなしたてまつる。」とて、一尺ばかりの刀どもを抜きかけてぞ守り申しける。
 1)【説】語句の意味
  ・おして=無理矢理に。
 2)【L1】文法事項は。
  ・や=係助詞(疑問)→たてまつる。
 3)【説】訳す。
  ・京の町の間は隠れて、鴨川の堤のあたりから姿を現してお伴した。寺などでは「もし無理矢理に誰かが(出家)させ申し上げるのではないか」と、一尺ほどの刀を抜いて守り申し上げた。
 4)【L1】「なし」の内容は。
  ・出家すること。
 5)【L2】敬語は。
  ・参り(謙譲、作者→粟田)。
  ・たてまつる(謙譲、源氏の武者→粟田)。
  ・申し(謙譲、作者→粟田)。



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