「舞姫」ロールプレイ |
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豊太郎 |
(目覚める) |
エリス |
豊太郎様、お目覚めになりましたか。 |
豊太郎 |
(記憶をたどり、エリスに帰国を伝えるかどうか考える) |
相沢 |
(戸を開けてはいってくる。エリスを見て驚く)はじめまして、豊太郎の友人の相沢謙吉です。 |
エリス |
エリスです。いつも豊太郎がお世話になっています。 |
豊太郎 |
………。 |
相沢 |
(なぜエリスがここにいるのかと思いながら)いいえ、こちらこそお世話になっています。ところで豊太郎から何か聞いていますか。 |
エリス |
いいえ何も。何かなったんですか? |
豊太郎 |
(日本語で)ちょっと待ってくれ。もしかしてエリスに真実を告げるつもりか? |
相沢 |
当然だろう。大臣との約束を破る気か? |
豊太郎 |
それは……。 |
相沢 |
私はここでエリスに言うつもりだ。 |
エリス |
豊太郎様、あの夜いったい何があったの。 |
豊太郎 |
いや、何もないよ。君が心配するようなことは何も。 |
相沢 |
エリスさん。実は豊太郎は日本に帰ることになったんだよ。だから豊太郎と別れてもらえませんか。 |
豊太郎 |
おい相沢! |
エリス |
私を捨てるつもりなの!?お腹の子供はどうするつもり。 |
豊太郎 |
どうするも何も……僕は日本に帰らないよ。エリス。 |
相沢 |
どんな手段を使ってでも日本に連れ戻してやる。 |
エリス |
相沢さんお願い。豊太郎を私から奪わないで! |
相沢 |
エリスさん。本当に彼の事を思っているなら素直にみを引いてもらえませんか。 |
エリス |
豊太郎は富や地位よりも私を選ぶと言ってくれたわ。 |
豊太郎 |
そう……確かに僕はそう言った。けれどエリス。実は相沢の言ったことは本当なんだ。僕は大臣と日本に帰る約束をしたのだ。 |
エリス |
ずっと私を騙していたの? |
豊太郎 |
まぁ、最後まで聞いてくれ。僕はここへ帰ってきて倒れるまでの間、君にこのことを伝えるべきか伝えざるべきか悩んだ。ここへ帰ってきて倒れ、今日目覚めるまで、僕は日本に帰るつもりでいた。大臣の話を断れば僕は自分の国を捨てることにもなるし、出世をすることも永遠にないから。でも、今は違う。はっきり、今度こそはっきり決断したよ。そして断言する。僕はもう日本に帰らない。ずっとここにいる。 |
エリス |
まぁ、そうだったのね!!愛しているわ、豊太郎!!! |
豊太郎 |
僕もだよ!マイハニー!!(がしっ) |
相沢 |
豊太郎!本当にそれでいいと思っているのか。それで幸せになれると思っているのか。 |
豊太郎 |
相沢。君はそうまでして僕を日本に連れ戻そうとするのだい。僕の出世のためだけじゃないようだな。 |
相沢 |
そ、それは。 |
豊太郎 |
君自身の出世のためでもあったんじゃないか。君は僕を利用していたということになる。違うかい? |
相沢 |
それは違う。きみのことを利用しようなどと思ったことなんてない。 |
豊太郎 |
じゃなんなんだ。 |
相沢 |
実を言うと、最初は君の事を利用しようとしたが、君に会ってからだんだん善意に変って来た。これは本当だ。 |
豊太郎 |
そうか……。今の君に僕を利用しようとする心はないんだな。じゃどうかここへとどまらせてくれ。僕はもう決心したんだ。故国も出世も捨ててエリスと子供と僕の三人で初めからやり直そうと思っているんだ。善意で僕を帰国させようとしていてくれたのなら、ここに残ることに賛成してくれないか。 |
相沢 |
今まで君のためにして来たことが無駄になる。同責任をとるんだ。 |
豊太郎 |
君は善意でしてくれたんじゃなかったのか。 |
相沢 |
もちろん善意さ。しかし、僕の立場上、君を日本に連れ戻さなければいけない。それにだ。もとはといえばエリス、君の責任だよ。 |
エリス |
私たちが出会ったのは運命だったのよ。それを相沢さん、あなたがかき乱したのよ。 |
相沢 |
何を言っているんだ。君と豊太郎が出会わなければこんなことにならずに済んだのだ。現にかき乱すつもりなら、豊太郎に仕事を紹介したりなんかしない。 |
エリス |
それはあなたの出世のためでしょう。豊太郎は今ドイツに残ることを望んでいるのよ。さぁ、帰ってください。早くここから出て行ってください。 |
豊太郎 |
ちょっと待ってくれ二人とも。そんな口論していても結論が出ないなんてこと目に見えているだろう。僕がエリスに出会えたこと、そしてこうなってしまったことはもう変えようがないんだよ。君は僕に善意で帰国を勧めてくれた。つまり僕の事を考えてくれた上で勧めてくれたんだね。僕の事を考えてくれているのなら、身を引いてくれないか。これは確か君がさっきエリスに言った言葉だ。勝手なことを言っているのはわかる。けれどお互いさまだ。君だって僕を利用しようとしたんだからね。ぼくはもう何もかも捨てる覚悟だ。君の友情さえも。わかってくれ。これが最初で最後の僕の君へのわがままだ。大臣には君が不利にならないようにうまくする。お願いだ、相沢。 |
相沢 |
もう長い間、話をして君の言うことはわかった。なら豊太郎、ここに残ってエリスと暮らせ。 |
豊太郎 |
ありがとう、相沢。 |
エリス |
ありがとう、相沢さん。 |
相沢 |
(二人の礼には反応せず、無表情で素早くその場を去る) |
豊太郎 |
(しばらく沈痛な顔をしていたが、ふとエリスを振り返って微笑む)エリス、僕はここに残るよ。僕の君への気持ちは永久に変ることはない。裏切ることもない。信じてくれるね。さぁ、ゆっくり休みなさい。お腹の子が元気で生まれるように。 |
エリス |
(涙を流して頷き、抱き合う) |
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(窓の外には馬車に乗る相沢。雪が降り出す) |