まとめ
1.『舞姫』年表を作らせる。
・用紙を配布し、教科書やノートを見ながら、主な出来事について作成させる。
年号 |
歳 |
時間 |
出来事 |
文久2年 |
0 |
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豊太郎誕生 |
父を失う。厳しい家庭教育で首席を通す |
明治14年 |
19 |
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大学法学部を首席で卒業 |
某省に出仕 |
3年間 |
母と暮らす |
明治17年 |
22 |
ある日夕 |
洋行の官命を受け、ベルリンに留学 |
明治20年 |
25 |
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自我に目覚める? |
エリスと出会い、交際が始まる |
免官免職になり、帰国か残留かを迫られる |
母の死を知らせる手紙を受け取る |
エリスと離れがたき仲になる |
相沢が新聞社の仕事を、エリスが同居を世話してくれる |
憂きがなかにも楽しい月日を送る |
明治21年 |
26 |
冬 |
エリスが妊娠する |
相沢の手紙を受け取る |
大臣から翻訳を依頼される |
相沢に大臣の信用を得ることと、エリスと別れることを忠告され、約束する |
一月後 |
大臣にロシアへの同行を依頼され、承諾する |
エリスの手紙を受け取り、自分の地位を知り、出世・帰国か愛かで悩み始める |
明治22年 |
27 |
元旦 |
ベルリンに帰りエリスと再会し、愛が強くなる。 |
二三日後 |
大臣に帰国の勧められ、承知する。 |
エリスへの罪悪感で苦しむ |
帰宅と同時に倒れる |
相沢がエリスに真実を伝え、エリスが発狂する |
数週後 |
意識が回復する |
エリスを残して帰国する |
二十日後 |
サイゴンの港で概略を書く |
2.「舞姫」の主題について考える。
(1)「舞姫資料」を配布する。
(2)「舞姫論争」について考える。
1)石橋忍月と森鴎外の意見を音読し、説明する。
2)石橋忍月の主張
・「舞姫」発表の翌月、同じ『国民の友』で反論する。
・太田は、小心臆病な人物で、エリスを弄び発狂させる冷酷な人間ではない。
・太田の性格と行動は支離滅裂である。
・功名を捨てて恋愛を取らせるべきであった。あるいは、そういう人物を主人公にすべきであった。
3)森鴎外の反論。
・もし、太田が病気にかからず、エリスが発狂せずに、話し合っていたら、帰国を断念していた。
・そして、大臣に対する謝罪として自殺していた。
・そうならなかったのは、思いがけない幸いである。
・しかし、豊太郎の意識の中に立身出世と帰国の気持が働いていたことは、本文中に明記されている。
4)第十段のロールプレイの一つの解答になるが、鴎外の本心かどうかわからない。
(3)「舞姫の真実」について考える。
1)小金井喜美子「森鴎外の系族」を音読し、「舞姫」との違いを質問する。
・一人っ子でなく、妹がいる。
・エリスが実在した。
・エリスは発狂しておらず、来日した。
・エリスとは深い関係ではなく、妊娠もしていない。
・父も母も健在で、母は森家の中心的存在である。
2)鴎外の留学までのプロフィールを説明し、「舞姫」との設定の違いを考える。
文久 2 |
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鴎外誕生。4人兄弟の長男。母峰子17歳。父も健在。[一人っ子。母30歳前後。父死亡](男3人女1人。長男として一家の期待を背負っている点は同じ) |
明治 7 |
12 |
東京医学校(東大医学部)入学。[法学部](入学は普通は14〜19歳。生年月日を詐称した) |
明治 14 |
19 |
28人中8番で卒業。[首席](卒業直前に下宿が火事になりノートが消失したり、肋膜炎になった。外科担当のドイツ人教師の講義を漢文で筆記していたので睨まれていた。文部省からの官費留学を希望したが、卒業成績が2位以内でないと資格がなかった) |
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陸軍省に就職。[某省に就職](父の縁故で軍医として就職。自分の意志ではなかった。映画では陸軍軍医だった) |
明治 17 |
22 |
軍医として留学。[この時、母は50過ぎ](母は39歳。自分と家の名誉のためであることは同じ) |
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母は健在。留学生仲間とはうまくやる。エリスも出てこない。 |
明治 21 |
26 |
鴎外帰国。[27歳で帰国](「舞姫」より一年はやい) |
- 3)帰国後の鴎外のプロフィールを説明する。
明治 21 |
26 |
9.7 |
鴎外帰国。 |
9・12 |
エリス来日。(鴎外は、エリスが自分の後を追って船に乗ったことを同船の上官石黒に報告している) |
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母を中心にエリスを説得する |
10・17 |
エリス帰国。(帰国を見送った後、石黒に報告している。陸軍でも問題になっていた) |
11・7 |
海軍中将赤松氏の長女登志子と婚約。(婚約は帰国前から決まっていた。) |
明治 22 |
27 |
1 |
執筆活動再開。 |
3.6 |
登志子と結婚。(母峰子の計画通り。養子ではないが赤松家の持家に移る。赤松家の老女、女中、鴎外の弟二人、妻の妹と同居。赤松家主 導の生活。弟の魚が小さいと言って叱ったり、文学仲間と徹夜で討論したりして鬱憤を晴らす) |
明治 23 |
28 |
1 |
「舞姫」を『国民之友』に発表。 |
9.13 |
長男於莵(オットー)誕生。 |
10.4 |
家出。 |
11・27 |
離婚。(性格の不一致。家柄の違い。美人でない。母も登志子を気にいっていなかったという説もある) |
明治 35 |
40 |
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判事荒木氏の長女志げ(22)と再婚。(「美術品ラシキ妻」という程の美人) |
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|
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長女茉莉(マリ)次男不律(フリッツ)次女杏奴(アンヌ)三男類(ルイ) |
大正 11 |
61 |
9.7 |
死去。(鴎外は遺書に、「墓ハ森林太郎墓ノ外一字モホル可ラ ス」と書き、没年の「大正」と刻むことを拒否した。それは、 「正」が「一而止」という不吉な年号であるにもかかわらず制定した日本政府への絶望の表れである。自分の子に欧風の名をつけたのも同じかもしれない。そして、「舞姫」の執筆動機も同じかもしれない) |
- 4)「舞姫」との相違点をまとめる。
- a)なぜ、母が死んだことにしたのか。
- b)なぜ、エリスが妊娠したことにしたのか。
- c)なぜ、エリスが発狂したことにしたのか。
- d)なぜ、豊太郎は相沢を憎んでいるのか。
- e)なぜ、森鴎外は「舞姫」を執筆したのか。
- (4)『舞姫』執筆の動機について考える。
- 1)エリスとの関係は
- ・妹の小金井喜美子は、「路頭の花」で普通の関係だとしている。
- ・次女の小堀杏奴は『晩年の父』の中で、「此の女とは長い間文通だけは絶えずにゐて、父は女の写真と手紙を全部 ・一纏めにして死ぬ前自分の眼前で母に焼却させたと言ふ」と書いている。
- ・長男の於莵は『父親としての森鴎外』の中で、「一生を通じて女性に対して恬淡に見えた父が胸中忘れかねていたのはこの人ではなかったか。私ははからず父から聞いた二、三の片言隻語から推察することが出来る」と書いている。
- 2)「舞姫」執筆の動機を読む。
- 3)渋川の保身弁明説を説明する。
- ・エリス事件が陸軍省に知れ渡り、鴎外の立場が苦しくなるのを心配した賀古が、山県に事情を打ち明けて、陸軍内部の批判を抑えるために敢えて書いた。
- ・エリスとは妊娠させた関係であることにはしながらも、発狂し、日本に来ていないことにする。
- ○相沢のモデルの賀古鶴所も、「舞姫」発表前に読んで、相沢に満足している。
- 4)平野の家族エゴへの反逆説を説明する。
- ・愛するエリスとの仲を引き裂き、発狂までさせる家族エゴへの批判。
- ・赤松家との政略結婚を推進した母への当てつけ。
- ×「舞姫」で母が死んだという設定にすれば、母の力が弱くなる。
- ×母も登志子との離婚に賛成している。
- ×母も「舞姫」を発表前の朗読会で、長男の危機脱出、無事を心から喜び、涙を流している。
- 5)稲垣の国家官僚機構に対する反抗説を説明する。
- ・愛するエリスとの仲を引き裂き、発狂までさせ、豊太郎を出世させようとする国家官僚主義への批判。
- ・個vs社会機構の個の敗北。
- ・エリス事件で奔走してくれた人々への裏切りである。
- ・西欧列強と競争するには豊太郎のような語学の才能は不可欠なものであった。
- ・鴎外も、発表後も軍医の職に止まっているのは、ドイツで学んだ、当時の陸軍を悩ませていた脚気研究の第一人者であったから。
- ○母の死は、家族エゴではないことの伏線である。
- 5)登志子への離縁状説
- ・ただでさえうまくいっていなかった夫婦関係の不和が決定的になる。
- ○仲人の西周ところへ話が持ち込まれた。
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- (5)豊太郎のモデルについて説明する。
- ・鴎外自身と、埼玉県秩父郡太田村出身の武嶋務(日本人で二人目の私費留学軍医)で、豊太郎と同じような経緯で同郷の谷口謙の中傷で免職となり、ベルリンに留まってドクトルをとるために頑張った。
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- 3.「『舞姫』ワルモノ探し」をする。
・豊太郎、エリス、相沢、大臣、豊太郎の母、エリスの母、(留学生仲間)を悪い順に順位をつけ、その理由を書かせる。
・結果は、どのクラスも、豊太郎がダントツ一位、留学生が2位、3・4位は相沢と相沢が争うという展開になった。
・豊太郎は、優柔不断な性格が悪の元凶であるという理由。
・留学生は、彼らが密告して免官になったからという理由。
・相沢は、自分の出世のために豊太郎を利用したという見方が理由。
・エリスは、豊太郎を逆ナンパしたという理由と、愛のために盲目になったという理由。
4.「舞姫」について、テーマを設定して作文を書かせる。
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