こころ 08


0.あらすじ
 私とKの生い立ちと、そのクロスする部分。私のポイントは、叔父に裏切られ人間不信に陥るが、奥さんとお嬢さんに接するうちに回復したこと。そして、奥さんやお嬢さんを「策略家」ではないかと疑っていること。Kのポイントは、強い信念の人であること。そして、私はKにも同じように神経衰弱から回復してもらおうとしたが、行き過ぎて嫉妬していること。
一.Kの告白
 正月、かるたをすることになり、お嬢さんは友達がいないKに同情してか策略からか、目立つようにKの加勢をする。Kに得意らしい様子が認められなかった。
 その二、三日後、Kはいきなりた「ふすま」を開けて、いつになくお嬢さんの行き先を問う。Kの口元が震え重い言葉が出る前兆を示していた。そして、お嬢さんに対する切ない恋が打ち明けた。私は魔法棒のために一度に化石にされたよう、恐ろしさの塊、苦しさの塊になった。すぐに、先を越された、しまったと人間らしい気分を取り戻して思った。Kの告白は重くてのろい代わりに、容易なことでは動かせないという感じがあり、相手は自分より強いのだという恐怖の念で一杯で、何も言えなかった。ただ、その苦しさは私の顔に明白に表れていたはずだったが、Kも自分のことに一切を集中していくので、私の表情を気にする余裕がなかった。後で考えれば悔やまれるが、Kの話が一段落した時に、何も言う気がしなかった。
 めいめいの部屋に引き取った時、私の心もKに打ち明けるべきだと思った。しかし、時機が遅れてしまったという気も起こった。さっきは不意打ちだった。今度「ふすま」を開けて突進してきたら取り戻そうと思っていた。しかし、襖に永遠に開かなかった。私はたまらなくなって散歩に出で、Kを姿を咀嚼しながらうろつく。Kはどうして私に打ち明けたのか、どうして恋が募ったのか、強いまじめな平生のKはどこに吹き飛ばされたのか。どう考えてもKを動かすことはできず、Kが一種の魔物のように思えて気味悪かった。
 下宿に帰って四人で夕食を食べた。奥さんとお嬢さんは外出したので晴れやかであったが、私とKは沈黙がちだった。私は奥さんに問われると少し気持ちが悪いからと答え、Kはお嬢さんに問われると話したくないからだと答える。お嬢さんがKをからかうとKの顔が赤くなる。四人が食事をする場面は、私の告白後にもあるので対照的である。
二.私の後悔
 私は部屋に帰って、当然自分の心をKに打ち明けるべきだと思ったが、時機が遅れたとも思い、悔恨の念に揺られてぐらぐらした。Kが仕切りのふすまを開けて突進してくれないかと思うが、ふすまはいつまでたっても開かない。
 たまらず散歩に出た私はKについて考える。どうしてお嬢さんのことを私に突然打ち明けたのか、どうして恋心が募ったのか、平生のKはどこに吹き飛ばされたのか。Kが魔物のように思われ、永久に祟られたのではないかという気がした。
 その夜、ふすま越しに「おい」と声をかける。まだ寝ないのかと聞いた後、何をしているのだと問うたが返事がなかった。夜中にもう一度声をかけ、もっと詳しい話がしたいと切り出すが、Kは「そうだなぁ」と低い声で渋る。私ははっとする。
 学校が始まって、Kに肉薄する。告白が私だけに限られていることを確認した後、恋を動取り扱うつもりかと聞くと、何も私に話す必要はないと断言する。
三.Kの逆襲
 ある日、図書館でKの方から私に話しかける。私は、Kの胸に一物があって談判に来られたような気がして外に出る。
 Kの方からお嬢さんへの恋という例の事件について口を切った。まだ、お嬢さんや奥さんに告白するという実際的な方面には進んでいないようである。Kは「どう思う」と、恋愛の淵に陥った自分を私がどんな目で眺めているのかと、現在の自分について私の批判を求めてきた。これは、平生のこうと信じたら一人でどんどん進んでいく度胸も勇気もあるKとは明らかに違っていた。
 私は私の批評が必要な理由を尋ねた。Kは「自分が弱い人間であるのが恥ずかしい」と悄然とした口調で言った。そして「迷っているから自分が自分でわからなくなってしまったので、君に公平な批評を求めるよりほかしかたがない」と言った。Kは私を公平な立場にいると信じている。私は迷うという意味を聞きただした。Kは進んでお嬢さんに告白していいのか、退いてお嬢さんを諦めた方がいいか迷っていると説明した。ここで私は一歩先に出て、退こうと思えば退けるのか、お嬢さんを諦められるのかと聞いた。するとKは言葉に詰まり、ただ苦しいとだけ言った。もし、お嬢さんのことでなければ、私はお嬢さんに告白しろとKに都合の良い返事を与えたはずであった。それぐらいの美しい同情は持った人間だった。
 私は他流試合をしているようにKを注視し、無防備で彼の要塞の地図をゆっくり眺め、自分の道を貫くという理想と、お嬢さんに恋をしているという現実の間を彷徨していたKを発見した。そして、一打ちで倒す方法だけを考え、Kの虚につけ込んで、策略から厳粛な態度で、「精神的に向上心のないものはばかだ」と言い放った。この言葉は、房州旅行の際に、お嬢さんへの恋に悩む私にKが言った言葉で、その時は同情より侮蔑が込められていた。Kは精進という言葉が好きで、道のためには全てを犠牲にすべきであり、欲を離れた恋そのものも道の妨げになると考えていた。その同じ言葉を、侮蔑仕返すという単なる復讐ではなく、Kの前に横たわる恋の行く手をふさぐために言った。それはKの尊い過去を今までどおり積み重ねさせてゆかせるというより、私の利害と衝突することを避けた単なる利己心の発現であった。Kは「僕はばかだ」と答えた。それは居直ったにしては力に乏しいものであった。
 私は羊を狙う狼のように、Kの正直で単純で善良なKを待ち伏せてだまし討ちにしようとしていた。Kは「その話はやめよう」と悲痛に言った。私は「それやめるだけの覚悟があるのか」と残酷な答えを与えた。「お嬢さんの話」をやめるを、「お嬢さんへの恋」をやめるにすり替えたのである。
 するとKは「覚悟ならないこともない」と独り言のように夢の中の言葉のように言った。この「覚悟」という言葉が、後々私の中でさまざまな解釈を呼ぶ。Kの姿は「霜に打たれて青みを失った木立の茶褐色」のようであり、その心は「薄黒い空」のようであった。その頃になって、ようやく私は体の温かみを感じるように、狼から人間に戻ってきた。
 下宿に帰って四人で食事をする。私はKと上野公園を散歩したことだけを話し、Kは黙ったままだった。
四.Kの覚悟
 上野から帰った晩、私は「覚悟」の意味を考える。Kには投げ出すことのできない尊い過去があった。養家からも実家からも勘当されてまで哲学を学んだ過去である。また、Kには現代人(明治の後期)の持たない強情と我慢もあった。その双方からKが古い自分を投げ出して新しい方角へ走り出さない、Kはお嬢さんを諦めると、私は確信していた。
 夕食後、私はわざわざKの部屋に行き、勝利者のように世間話をした。この時初めて、Kを恐れるに足りないと自覚した。
 その夜遅くに、「ふすま」が二尺程開いて、Kが黒い影のように立っていた。Kは「もう寝たのか」「まだ起きているのかと思って便所に行ったついでに聞いてみただけだ」と普段より落ち着いた声で言って、ふすまをぴたりと立てきった。
 朝食の時にKに確かめると、確かに襖を開けて名前を呼んだと言う。そして理由を尋ねると調子の抜けた頃に近頃は熟睡できるのかと向こうから問うた。学校へ行く道で「あの事件について何か話すつもりではなかったのかと念を押すと、Kは「その話はもうやめよう」と注意するような強い口調で言った。
 その時「覚悟」の2文字が再び私の頭を抑え始めた。Kの性格は一般に果断に富んでおり、この事件においてだけ例外的に優柔になったのだと私は解釈していた。しかし、すべての疑惑、煩悶、懊悩を一度に解決する最後の手段を胸に畳み込んでいるのではないか、果断に富んだ性格をお嬢さんへの恋にも発揮するというのが「覚悟」の意味ではないかと考え直した。
五.私の告白
 私は奥さんにお嬢さんをくれと談判する最後の決断が必要だと考えた。Kより先にKの知らない間に事を運ばなければならない。一週間後、仮病を使ってその機会を作った。
 私はKが告白していないか確認した後で、Kの打ち明け話を内緒にして、突然「奥さん、お嬢さんを私に下さい」と談判する。奥さんよく考えたのかと念を押した後、「よござんす。差し上げましょう」ときっぱり言った。父親のない子を宜しく頼むと、他に何の条件も出さなかった。そして「本人が不承知の所へ、やるはずがない」と本人の意向すら確かめる必要はないと明言した。つまり、奥さんとお嬢さんの間では話はできていたのである。とにかくこの時、私の未来の運命は定められた。私はできるだけ早くお嬢さん伝えてほしいと頼む。
六.私の良心
 私はさっきの奥さんの記憶と、お嬢さんのうちへ帰ってからの想像で一杯で、散歩をしていた。その間、Kのことは全く考えなかった。そしてKの部屋を抜ける瞬間、ようやくKに対する良心が復活した。もしKと二人きりなら謝っただろうが、奥には人がいる。体面を気にする私にとってそれはできなかった。
 私とKと奥さんの三人で鉛のような夕食をとった。さすがにお嬢さんは同席しない。すべてを知っている私は、なんにも知らないKの前で、なんにも知らない奥さんの口から私とお嬢さんのことを話されてはたまらないとヒヤヒヤしていた。部屋に帰ってKへの弁解を考えたが、どれも不十分であった。
 私にKになんとか事態を告げようと考えたが、倫理的に否を自認している私には至難の業であった。奥さんに頼んで私のいない間にありのままを告げてもらっても、面目がないのは変わりない。こしらえごとを話してもらおうとすれば、理由を話さねばならず自分の弱点をさらすことになる。結婚する前から恋人の信用を失うことは耐えられない。
 私は、Kに謝罪するという正しい道を歩くつもりで、自分の体面のためにその機会を逸し足を滑らせた馬鹿者、狡猾な男であった。その事に気づいているのは、「天」と私の「心」だけである。私は滑ったことを隠したがると同時に、前に出ずにはいられなかった。
 五、六日後、奥さんがKに私とお嬢さんの結婚を告げたことがわかった。その時Kは最も落ち着いた驚きで迎えたらしい。儀礼的な挨拶だけで他に何も言わなかったそうである。私はそれを聞いて胸がふさがるような苦しさを覚えた。
 Kは話を聞いてから二日立つが、私には以前と異なる様子を見せなかった。その超然とした態度と私の態度を比べて、「策略では勝っても人間として負けたのだ」という感じが胸に渦巻いて起こった。それでも、今さらKの前に出て恥をかかされるのは、私の自尊心には苦痛だった。
七.Kの自殺
 私が進んでKにお嬢さんとの婚約を話そうか、よそうかと考え、とりあえず明日まで待とうと決心した土曜の晩、Kが自殺する。上野公園から帰ったこの前の晩と同じように「ふすま」が開いていて、そこから吹く風に気で目が覚めた。Kの部屋を見るとKは自殺していた。
 第一の感じは、Kに恋を告白された時と同じであった。私の目はガラスで作った義眼のように動く能力を失い、棒立ちになった。次に、私がKを殺したことが世間に明白になり、私の未来が取り返しのつかない黒い光に照らされてしまうことに「しまった」と思う。
 それでも私は冷静に、Kの遺書を見つける。それは予期したように私宛になっていたが、予期したような私を責める内容は書いてなく、世間体の上だけだが助かったと思った。
 遺書の内容は、Kが薄志弱行で行く先の望みがないから自殺する、最後にもっと早く死ぬべきだったのになぜ今まで生きていたのだろうと、書き添えてあるだけだった。お嬢さんの名前はなく、私はKがわざと回避したのだと思った。
 私はみんなが遺書を読む方が私に有利になると考え、わざとみんなの目につくように元の通り机の上に置いた。
八.私の結婚
 Kの葬式で、私はKの自殺の原因について質問される。第一発見者であり、唯一の親友であったのだから当然の人選だが、私はその質問の裏に、お前が殺したのだろうという声を聞く。それはそういう自覚があったからである。遺書のおかげで、私の罪はばれず、Kはきちがい扱いまでされる。しかし、ばれなかったことが却って真綿で首を絞めるように私を苦しめる。ただ、お嬢さんの名前が出なかったことは幸いだった。
 引っ越し、卒業、結婚。私は外面上は幸福の連続であった。しかし、この結婚が自殺への導火線に火をつけたことになっていたのであった。ある日、妻が私をKの墓参りに誘う。妻はKに結婚を報告して喜んでもらうつもりだっただろうか、私は心の中で済まないと繰り返すだけだった。早くも二人の間に亀裂が走る。穿った見方をすれば、妻は私の所業を知っていて、私を誘ったとしたら、じわじわと私を苦しめ、死にいたらしめる序章であったとも考えられるが、考えすぎだろう。
 私が自殺の導火線になる結婚に不安があったが、もしかしたら新しい生涯へのプロローグになるかもしれないとの一縷の望みをかけたが、無残にうち砕かれる。妻が中間に立ってKと私をどこまでも結びつける。私はこの一点おいて妻を遠ざける。妻からは詰問や怨言を受ける。そのころの私には結婚前のような自尊心はなく自分を飾る必要はなかった。ありのままを話せば妻も許してくれることは分かりながら、妻にKの自殺に関係していることを知らせないために、つまり妻の記憶に暗黒な一点を印するに忍びなかった、純白なものに一滴のインキも振りかけるのは苦痛であった。とすれば、Kが遺書にお嬢さんの名前を書かなかった理由も自然と納得される。Kも自分の自殺にお嬢さんを巻き込みたくなかったのだ。ただ、穿った見方をすれば、妻はそんなことは先刻承知で私のひとり相撲だったかもしれない。
 私は腕組みをして世の中を眺めだした(何もしないで過ごすようになった)。妻は心の弛みだと言うが、実際は叔父に裏切られ人に愛想を尽かしたのに、Kを裏切ってしまい自分にも愛想を尽かしてしまったのだ。
 それを妻に説明できない自分が悪いのだが、たった一人親愛する妻にも理解してもらえない寂しさを痛感する。その時、はたと、Kも唯一の親友だと思っていた私に理解されない寂しさのために自殺したのではないかと思い当たる。Kは奥さんから婚約の話を聞かされた時、「覚悟」の意味をお嬢さんに進むと誤解されたことに気づいて、驚いたのだ。自分はそんな人間に見られていたのかというショックである。そして、私は、私もKと同様自殺するのかとこの時初めて自覚して、ぞっとする。
九.私の自殺
 私が世の中に意欲を持とうとすると、そんな資格はないと私を押さえつける力が働く。私の内面には常にこうした苦しい戦争があった。そんな繰り返しに私は疲れ果てる。その時、一番楽な努力で遂行できる道として、自殺が手を広げて待っている。Kの遺書にあった「薄志弱行」とはこのことだったのだろう。しかし、私は妻を一人残すことが不憫で、また一緒に死ぬ勇気もなく思い止まる。穿った見方をすれば、妻は一人でも生きていけるし、それを願っていたと考えると、身も蓋もなくなってしまう。
 そんな私もついに自殺を決意する日がくる。その引金になったのが、明治天皇の死であり、乃木大将の殉死である。明治の精神は天皇に始まって天皇に終わった。厳格と完全を求める古い部分と、自由と独立を求める新しい部分を表裏一体に併せ持った明治の精神を生きた自分の、そろそろ引き際だと思った。お嬢さんへの恋に代表される新しい精神と、Kに体する罪悪感を担い続けた古い精神。そんな明治の精神を体現している自分が次の時代を生きるのは時代後れだと感じた。
 気になる妻も一人で残す決意をした。乃木大将のように妻を道連れにするのは、忍びなかった。たが、妻には残酷な血の色は見せたくないし、自分のおぞましい過去も知らせたくない。妻はいつまでも純白のままでいてほしい。Kが襖を開けたまま自殺したのも、私に発見させることでお嬢さんに血の色を見せたくない思いからだったのだろう。たとえ、きちがい扱いされてもいいとも思ったのだろう。
 私は、Kに対する罪悪感で何をするのも許されない人間であったが、最後に長い遺書を書くことによって、こんなふうにして生きてきた自分を、明治の精神を、青年の胸に記憶してもらおうとした。その試みは、成功したのだろう。


授業の展開

 今回の授業は、ワークショップ形式で進める。
 事前に、『こころ』一冊か、少なくとも教科書の部分を読ませて、「なぜKは自殺したのか?」という題で作文を書かせる。最初の授業で、4人組で話し合わせる。そして、出てきた意見を拾い上げる。
 構造的に読むために、全体のあらすじを確認し、教科書の部分を「一 Kの告白」「二 私の後悔」「三 私の逆襲」「四 Kの覚悟」「五 私の決断」「六 私の良心」「七 Kの自殺」に分け、順番でなくあちこち飛びながら読解していく。
 「七.Kの自殺」から読み始める。自殺の原因の手がかりになることを読解する。a)襖が開いていたことと、遺書の内容が手がかりになる。遺書の中では、b)「薄志弱行」c)「お嬢さんの名前がない」d)「もっと早く死ぬべきだったのになぜ今まで生きていたのか」が気になる。a)はなぜ襖が開いていたのか、b)は何に対する意志が弱かったのか、c)はなぜ名前がないのか、あきらめたからか。d)はいつ死ぬべきだったのか。また、この段落では、私の気持ちや行動も問題になる。e)第一の感じ、f)冷静な行動、g)予期した内容である。これらの発見や探求をグループで考えさせる。そして、全体へ広げていく。
 まず、「これまでのあらすじ」と「一 Kの告白」「二 私の後悔」でKの性格を考える。a)「襖」問題に関する部分も出てくる。さらに、「一」ではKがお嬢さんを好きになった理由の一端であるカルタ事件が出てくる。「補助テキスト 私とお嬢さんとK」で、お嬢さんの思わせぶりな態度を確認し、母子陰謀説の伏線を張る。
 次に、「三 私の逆襲」「四 Kの覚悟」を考える。c)お嬢さんを諦める覚悟なのか、お嬢さんに進む覚悟なのか。Kの迷いと追い詰める私の会話をロールプレイしてKの気持ちを考える。また「補助テキスト 房州旅行」で精神的な向上心のも問題も深める。a)「襖」問題のシーンもここである。この問題を考えるには、Kの性格が問題になる。また、諦めるなら遺書に名前がないのはわかるが、進むならなぜ書かなかったのかという疑問が沸く。その問題は保留する。
 そして、「五 私の決断」「六 私の良心」と読み進める。これから先は私の問題である。最後の決断、奥さんへの談判、私の罪悪感について考える。なぜ、こうなるまで告白しなかったのか、「補助テキスト 私の結婚観」で考える。また、e)死ぬべき時期が明らかになる。
 さらに、「補助テキスト 私の結婚」以降の部分を読み、私の自殺の原因を考えていく内に、私とKは双子のようであることを理解し、私の自殺の理由を考えることによって、Kの自殺の原因について、4度目の書き込みと話し合いをさせる。


【指】指示。【説】説明。【注】注釈。【交】交流。【確】確認。【W】グループワークや心理テストなど。
【L1】抜き出す。【L2】縮めたり組み合わせたり言い換えたりする。【L3】解釈や想像。【L4】体験や知識。


導入

1.【指】「こころ」一冊、最低でも教科書に掲載されている部分を読んで、「Kはなぜ自殺したのか」という題で作文を書いてくる事を宿題にする。
2.【交】4人チームになり、書いたものを1分間で要約して、他のメンバーに伝える。
3.【説】チームごとに、出てきた意見を発表させる。
 ・教師は、黒板にまとめていく。
4.【説】教科書の記述に沿って、「こころ」全体の構成を説明する。
 ・上〈先生と私〉は、学生の「私」と先生の出会い。
  ・大学を出ながら職を持たない。
  【説】当時の大学卒は超エリートである。
     現在のニート。「高等遊民」と呼ばれている。
  ・美しい奥さんがいながら、人間が信じられない。
  【注】美しい奥さんと人間不信は逆接ではない。
  ・一人で友人の墓参りをする。
  【注】奥さんと二人ではない。
 ・中〈両親と私〉は、私の重病の父親の看病。
 ・下〈先生と遺書〉は、先生の遺書。ここでの「私」は「先生」のこと。
5.【説】掲載部分を7つに分ける。
 1)Kの告白  そのうち年が暮れて(一四二上1)〜
 2)二私の後悔 二人はめいめいの部屋に引き取ったぎり(一四五下4)〜
 3)私の逆襲  ある日私は久しぶりに学校の図書館に(一五一下1)〜
 4)Kの覚悟  そのころは覚醒とか新しい生活とか(一五七上16)〜
 5)私の告白  私は私にも最後の決断が必要だ(一五九下13)〜
 6)私の良心  Kに対する私の良心が復活したのは(一六二下15)〜
 7)Kの自殺  私が進もうかよそうかと考えて(一六六下19)〜


1.Kの自殺1

1.【指】「Kの自殺」をチームリーディングさせる。
2.【交】チームで、Kの自殺の原因を考える上で重要なポイントをまとめさせる。
3.【説】Kの自殺の原因のポイントをまとめる。
 a)Kと私の部屋との仕切りの襖が、この間の晩と同じぐらい開いている。
 b)薄志弱行で行く先の望がないから自殺する。
 c)お嬢さんの名前だけはどこにも見えない。
 d)もっと早く死ぬべきだった。
 【注】世話になった礼、死後の片づけ、奥さんへの詫び、国元への連絡は、重要度から見て低いので除外する。
4.【L3】ポイントから考えられる問題点は。
 a)なぜ襖が開けてあったのか。
  この間の晩とはいつか。
 b)何に対する意志が弱かったのか。
 c)わざと回避したのかどうか。
  わざとなら、なぜ書かなかったのか。
 d)もっと早くとはいつか。
  なぜ死ねなかったのか。
 【注】これらの問題点を頭において、さかのぼって読解していく。


2.あらすじ

1.【指】チームリーディングをさせる。
2.【説】二人が幼なじみで、同じ大学に通っている。
3.【説】私の過去をまとめる。
 1)両親を病死して孤児になる。
 2)遺産の管理を任せた叔父に裏切られ、人間不信に陥る。
 3)下宿の奥さんとお嬢さんの世話になり、厭世的な心がほぐれる。
 4)お嬢さんに心が傾く。
4.【L1】Kの過去を、私の過去1)2)と対照させる。
 1)真宗の寺の次男に生まれ、医者の家の養子にやられる。
 【注】真宗の教義は厳しくない。次男は寺を継げない。
 2)勝手に進路を変更し、養家からは離縁、実家からは勘当され、過労から神経衰弱になる。
 【注】1)は親との関係、2)は精神的なダメージで共通。
5.【L1】Kの変化を、私の変化3)4)と対照させる。
 3)下宿のお嬢さんによって、心がほぐれる。
 4)お嬢さんと親しくなる。
 【注】3)は心理的回復、4)はお嬢さんへの気持ちで共通。
6.【L1】私の変化は。
 5)Kに対する嫉妬の念にさいなまれる。
 6)お嬢さんへの愛をKや奥さんやお嬢さんに打ち明けようとして果たせない。


3.Kの告白

1.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
2.読み方を確認する。
 歌留多 往来 生返事 懐手 軽蔑 加勢 喧嘩 留守居 漠然 肱 腮 襖 敷居 叔母 細君 年始 切ない 塊 腋 得策 給仕
3.次の語句の意味を確認する。
生返事 いいかげんな受け答え。はっきりしない返事。気のない返事。
懐手 自分では何もしないこと。                       
加勢 力を貸して助けること。                        
細君 親しい人に対し、自分の妻をいう語。                  
年始 新年を祝うこと。また、新年のあいさつ。                
注視 注意深くじっと見ること。                       
平生 ふだん。いつも。つね日ごろ。                     

4.【説】Kのお嬢さんへの思いと、Kの性格について考える。

5.【指】「そのうち年が暮れ〜切り上げることができませんでした」をチームリーディングさせる。
6.カルタ事件について
 1)【L1】お嬢さん、K、私の状況は。
  ・嬢=眼に立つようにKを加勢する。
  ・K=得意らしい様子が認められない。
  ・私=喧嘩せずに、無事にその場を切り上げられた。
 2)【L3】お嬢さんが加勢した理由を、チームで考え、発表させる。
  ・私がKを軽蔑しているように思ったので、同情したから。
  【注】他に理由が考えられないか。
 3)【説】他の場面で、お嬢さんがKと親しい場面を紹介する。
  ・「下二十六」私が家に帰ると、Kの部屋からお嬢さんがいた。お嬢さんの嫌な笑い。
  ・「下三十二」私が家に帰ると、Kの部屋からお嬢さんの笑い声がした。
  ・「下三十三」雨後の路上で、Kと一緒にいるお嬢さんとすれ違った。
 4)【L3】もう一度、Kと親しくするお嬢さんの気持ちを考える。
  ・Kに好意を寄せていた。
  ・私に対する当てつけ。
 5)【説】「下十七」私は奥さんがお嬢さんを私に接近させようとしていると疑っている。
  ・お嬢さん悪女説の始めになる。
5.「それから二三日〜いつ帰るのだか分かりませんでした」をペアリーディングさせる。
6.Kの告白と私の反応について
 1)【L1】「いつもに似合わない話」とは。
  ・奥さんとお嬢さんはどこへ何をしに行ったのか。
 2)【L1】私が不思議に思った理由は。
  ・以前は、私のほうから二人の問題を話しかけた時は無関心であった。
  ・今日は、Kの方から話題にし、話をなかなかやめない。
 3)【L1】Kが口のあたりをもぐもぐさせている理由は。
  ・重要なことを言い出す前兆。
  【注】実演してみる。
 4)【L1】Kの口から出てきたものは。
  ・お嬢さんに対するせつない恋。
 5)【L1】私の反応は。
  ・魔法の棒のために化石にされた。
 6)【L1】言い換えると。
  ・恐ろしさ塊、苦しみの塊になる。
  【説】あまりの恐怖のために思考停止状態になった。
 7)【L2】私がKを恐ろしく感じた理由は。
  ・相手は自分より強いのだという恐怖の念が兆し始めたから。
  【説】Kの強さを確認する。
 8)【L1】その後の私の気持ちの変化は。
  ・人間らしい気分を取り戻す。
 9)【L1】「人間らしい気分」とは。
  ・しまった、先を越されたと思った。
  【説】今後の具体的な対処法を考える。
 10)【L2】「先を越された」とは。
  ・自分がKにお嬢さんへの愛を告白しようとしていたのに、Kの方から先に告白された。
  【注】お嬢さんにではないことは救いである。
 11)【L1】私の表情は。
  ・苦しさが、広告のように顔に貼り付けられていた。
 12)【L1】Kがそれに気づかない理由は。
  ・自分のことに一切を集中しているから。
  【注】ここで私の様子に気づいていたなら、今後の展開は変わっていた。
 13)【説】Kの告白の調子が、重くてのろい代りに、とても容易なことでは動かせない。
 14)【説】私は何も何も言う気になれない。


4.私の後悔

1.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
2.読み方を確認する。
 時分  彩って  支度  惜しがる  素っ気ない  寡言  差異  明瞭 横着  収める
3.語句の意味を確認する。
時機 何かを行うのによい機会。しおどき。
手抜かり 不注意のため、しなければならないことを十分にしないこと。手落ち。 
悔恨 過ちを後悔して残念に思うこと。                    
下心 心に隠しているたくらみごと。                     
始終 事柄の成り行きの、始めから終わりまでの全部。             
咀嚼 言葉や文章などの意味・内容をよく考えて理解すること。         
素っ気ない 他人に対する思いやりや温かさが感じられない。          
寡言 言葉が少ない。                            
追及 どこまでも追いつめて、責任・欠点などを問いただすこと。        
差異 他のものと異なる点。ものとものの違い。                
てんでん 各自。めいめい。                         
肉薄 厚みの少ないさま。                          
横着 すべきことを故意に怠けること。できるだけ楽をしてすまそうとすること。 

4.【指】「二人はめいめい〜咀嚼しながらうろついていたのです」をチームリーディングさせる。
5.私の悔恨について
 1)【説】私の悔恨をまとめる。
  1)自分の心もKに打ち明けるべきはずだ
  2)時機が遅れてしまった
  3)さっき逆襲しなかったのが手抜かりである。
  4)今から切り出すのは不自然である。
 2)【L2】不自然な理由は。
  ・Kがお嬢さんを好きだから、自分も好きになったと思われる。
  ・後出し。
 3)【L2】どんな解決策があるか。
  ・Kの方からもう一度相談してくれたら,その時に自分も告白する。
  【説】「午前に失ったものを、取り戻す」ことになる。
 4)【L2】私のKに対する敵意が表れている表現は。
  ・「逆襲」「手抜かり」「突進」「不意打ち」
 5)【L3】「仕切りの襖」の効果は。
   ・私とKの心の壁。
  【注】後々、この襖が大きな役割を果たす。 
6.「私は第一に彼が〜人気のないように静かでした」をチームリーディングさせる。
7.Kへの疑問と対処について
 1)【L1】Kに対する疑問は。
  1)どうしてあんなことを突然私に打ち明けたのか。
  2)どうして打ち明けなければいられないほどに恋が募ったのか。
  3)平生のKはどこに吹き飛ばされたのか。
 2)【L3】3つの疑問について、チームで考えさせ、発表させる。
  1)私を信頼していたから。
   私しか恋について相談する相手がいなかった。
  2)?
  3)強い、まじめ、女性や恋愛に興味がない。
 3)【L1】今後のKへの対応は。
  ・聞かなければならないことが多くある。
  ・相手にするのが変に気味が悪い。
 4)【説】「永久に彼にたたられているような予感」が自殺の伏線になる。
8.「私がうちへはいると〜見ている前で飲みました」をチームでリーディングさせる。
9.【説】食卓での四人の様子をまとめる。
 ・お嬢さんと奥さん=外出帰りではれやか。
 ・私=少し心持ちが悪い
 ・K=口を利きたくない
    お嬢さんにからかわれて赤くなる
10.「私は遅くなるまで〜はっと思わされました」をチームでリーディングさせる。
11.襖事件1)について
 1)【説】私とKのやりとり1)をまとめる。
  私 「おい」と声をかける
  
K 「おい」と返事する。
  私 「まだ寝ないのか」と聞く。
  
K 「もう寝る」と簡単な返事がある。
  私 「何をしているのだ」と重ねて問う。
  K 答えず布団を敷く。
 2)【説】私とKのやりとり2)をまとめる。
  私 「おい」と声をかける。
  
K 「おい」と同じ調子で答える。
  私 「もっと詳しい話がしたいが、都合はどうだ」
    【注】私から切り出す
  
K 「そうだなぁ」と低い声で渋る。
  私 はっと思わされた。
 3)【L3】私がはっとして思ったことは。
  ・Kが直接お嬢さんに告白するのではないか。
 4)【L1】私がイライラし出した理由は。
  ・二人きりでお嬢さんのことを話す機会がないから。
12.「Kの生返事は翌日になっても〜ついそれなりになってしまいました」は省略する。
 ・この間、お嬢さんのことについて二人で話す機会がないのでイライラしたり、自分から切り出そうと思ったり、Kはまだお嬢さんに告白していないのを観察して安心したり、した。ある日突然往来でKに肉薄して、告白していないことを確かめ、さらに今後告白するつもりかと問い詰めるが、そこになるとKは何も答えない。

3.「確認テスト1」をする。


5.私の逆襲

1.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
2.読み方を確認する。
 所作  胸に一物 淵 思惑 養家 悄然 渇き 慈雨 隙間 要塞 彷徨 厳粛 滑稽 羞恥 復讐 塞ごう 生家 宗旨 男女 精進 妨げ 侮蔑 蹴散らす 刹那 騙し打ち 卑怯 赤面 咽喉笛 萎縮 強情 質 卒然 蒼み 茶褐色 梢 外套
3.語句の意味を確認する。
所作 身のこなし。しぐさ。                         
胸に一物 口には出さないが心の中にたくらみを抱くこと。           
談判 件やもめごとに決着をつけるために相手方と話し合うこと。交渉。     
天性 天から授けられた性質。また、生まれつきそのようであること。      
悄然 元気がなく、うちしおれているさま。しょんぼり。            
尻馬 人の言動に便乗して事を行うこと。                   
彷徨 目的もなくあちこち歩き回る。その辺りを行ったり来たりする。      
羞恥 恥ずかしいと思うこと。                        
精進 一つのことに精神を集中して励むこと。一生懸命に努力すること。     
侮蔑 見くだしさげすむこと。                        
刹那 きわめて短い時間。瞬間。
卒然 事が急に起こるさま。だしぬけ。突然。

4.【説】「c)お嬢さんの名前だけはどこにも見えない」について、Kはお嬢さんを諦めたのかどうかを考える。
  この場面は、Kからお嬢さんへの恋を告白された私が、逆襲に出る場面である。
5.【指】「ある日私は〜しかしその時の私は違っていました」をチームリーディングさせる。
6.【説】図書館でKに声をかけられた私は、Kの心に一物があるように感じた。何か事件が起こる予兆を感じさせる。
7.【説】地図で二人の歩いた道を確かめる。
8.Kと私のやりとりについて
 1)【L1】「例の事件について口を切った」の「例の事件」とは。
  ・Kが私にお嬢さんへの恋を告白したこと。
  【注】Kの方から話題にした。
 2)【L1】「実際的な方面」とは。
  ・お嬢さんに告白する。
 3)【L1】「どう思う」とは。
  ・恋愛の淵に陥った彼をどんな目で私が眺めているか。
 4)【L1】一言でいうと。
  ・現在の自分について私の批判を求めたい。
 5)【L1】「Kの平生」とは。
  ・人の思わくをはばからなるほど弱くない。
  ・こうと信じたら一人で進んでいくだけの度胸も勇気もある。
 6)【説】養家事件を説明する。
  ・医者の家に養子に出されたKが、医学の勉強をせずに、自分の勉強したかった哲学科に転科していた。
 7)【L1】私の批評が必要な理由は。
  ・弱い人間であるのが恥ずかしいから。
  ・迷っているから自分で自分がわからない。
 8)【L1】「迷っている」とは、何に迷っているのか。
  ・進んでいいのか、退いていいのか。
 9)【L2】「進む」「退く」とは。
  a)進む=お嬢さんに告白する
  b)退く=お嬢さんを諦める。
 10)【L1】「退こうと思えば退けるのか」とは。
  ・お嬢さんを諦められるのか。
 11)【L1】Kの返事は。
  ・苦しいと言っただけ。
  ・諦められない。
9.【指】「確認テスト2」をする。
10.【指】「私はちょうど他流試合〜そろそろそまた歩きだしました」をチームリーディングさせる。
11.私の攻勢について
 1)【L1】戦いを表す表現は。
  ・他流試合、要塞、一打ち
  【説】私はKを敵として見ている。
 2)【L3】Kの「理想と現実」とは何か、後でチームで考えさせ、発表させる。
  a)理想=お嬢さんに告白する。
   現実=お嬢さんに告白できない。
  b)理想=自分の道を貫く。
   現実=お嬢さんへの恋に進む。
  【注】意見を聞くだけで結論は持ち越す。
 3)「精神的に向上心のないものはばかだ」について
  1)【指】補助テキスト「房州旅行」を配布し、チームリーディングさせる。
   ・Kがお嬢さんを好きになる以前の場面である。
   ・私は、お嬢さんを恋していた。
   ・Kは、同情より侮蔑の気持ち。
  2)【L2】「向上心」について、チームで考える。
   ・道のためならすべてを犠牲にすべきだ=精進。
   ・「道」とは、人として立派に生きること。
   ・「すべて」とは、欲を離れた恋そのものも含む。
   【注】お嬢さんへの恋が精神的なものであったにしても、それさえ犠牲にすべき。
  3)【L2】Kの使った意図と私の使った意図の違いを、チームで考えさせる。
   ●私は、一打ちでKを倒す。
   ・策略から。緊張感もあった。
   ・復讐以上に残酷な意味とは、Kの恋の行く手をふさぐ。
   ・善意で言い換えると、せっかく積み上げてきた過去を今までどおり積み重ねてゆかせる。
   ・単なる利己心。
   ・Kが私の利害と衝突するのを恐れた。
   ●Kは、私を侮蔑する。
  4)Kが「僕はばかだ」という返答した気持ちを、チームで考える。
   ・「居直り強盗」とすれば、居直ってお嬢さんに恋をする。
   ・Kの声は、力に乏しい。
   ・向上心のなさを認めた。
   ・居直るのか。
   ・やり直すのか。
12.【指】「私はKと並んで〜自分の部屋に引き取りました」をチームリーディングさせる。
13.Kの覚悟について
 1)【L1】Kの性格は。
  ・正直、単純、善良。
 2)【説】Kは背が高く、私は見上げる。
  ・精神的にも、身体的にもKの方が優位にあった。
 3)【L1】そんなKを動物にたとえると。
  ・罪のない羊。
 4)【L1】それに対して私を動物にたとえると。その性格は。
  ・狼。ずるい賢い。
 5)【L1】Kは何を止めてくれといったのか。
  ・お嬢さんの話。
 6)【L1】言い方の変化は。
  ・悲痛。
  ・頼む。
  【説】よほど困っている。
 7)【L2】私は何を止める覚悟があると聞いたのか。
  ・お嬢さんの話だけでなく、お嬢さんとの恋までも含んでいる。
  【説】巧妙なすり替えが行われている。
 8)【説】Kは、独り言のように、夢の中の言葉のように、「覚悟ならないこともない」と言う。
 9)【L1】Kの身長が萎縮したように感じた理由は。
  ・強情だが、正直なので、矛盾を非難されると平気でいられない。
  ・気が小さいところがある。
  【説】二人の関係が逆転した。
 10)【L1】私の心情を表現している描写は。
  ・寒さが背中にかじりついたような気持ち。
 11)【L2】Kの心情を表現している風景描写は。
  ・霜に打たれて青みを失った杉の木立の茶褐色。
14.「確認テスト3」をする。

6.Kの覚悟の意味

1.【指】学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
2.【L1】読み方を確認する。
 覚醒  熾烈  穏やか  宵  果断  煩悶  懊悩  催促  生返事  布団 膳  頓着  拘泥
3.【説】語句の意味を確認する。
覚醒 目を覚ますこと。目が覚めること。                   
一意 一つの物事に心を集中すること。                    
熾烈 勢いが盛んで激しいこと。                       
果断 物事を思いきって行うこと。決断力のあること。             
煩悶 いろいろ悩み苦しむこと。                       
懊悩 なやみもだえること。                         
事を運ぶ うまく処理する                          
生返事 いいかげんな受け答え。はっきりしない返事。             
給仕 食事の席にいて世話をすること。
頓着 く気にかけてこだわること。
拘泥 こだわること。必要以上に気にすること。                

4.【指】「そのころは覚醒とか新しい〜いちずに思い込んでしまってのです」をペアリーディングさせる。
5.Kの覚悟1)について
 1)【L2】私はKの覚悟をどのように解釈していたか。
  ・お嬢さんを諦め、今まで通り自分の道を貫く。
 2)【L1】その2つの理由は。
  1)投げ出すことのできないほどの尊い過去がある。
  2)現代人の持たない強情と我慢があった。
 3)【説】「尊い過去」を確認する。
  ・養家の意志に背いて道を追求したために勘当された。
 4)【説】「現代人」とは明治四十五年頃である。
  ・明治末期の人も昔の人に比べれば、強情や我慢がなかった。
 5)【説】その夜の私の態度を確認する。
  ・わざわざKの部屋に座り込んで、取り止めもない世間話をした。
 6)【L1】この時の私のKに対する気持ちは。。
  ・Kを恐れるに足りないと思った。
  【注】告白された時は,強くて適わないと思っていた。
6.襖事件2)について
 1)【説】起こったことをまとめる。
  
K 襖を開けて私の名を呼ぶ。
    
黒い影が立っている。
    
部屋には宵のとおりまだ灯火がついている。
    
「もう寝たのか」
  私 「何か用か」
  
K 「もう寝たか起きているか、便所に行ったついでに聞いてみただけ」
    
普段より落ち着いて答える。
    
襖をぴたりと立て切る。
  (翌朝)
  私 「なぜ襖を開けたのか」と聞く。
  
K 「近ごろは熟睡できるのか」と調子の抜けた時に問う。
  私 変な感じがする。
  (通学路で)
  私 「あの事件について何か話すつもりではなかったか」と念を押す。
  
K 「そうではない。その話はもうやめようと言ったではないか」と強い調子で言い切る。
 2)【説】自殺した夜の「この間の晩」とはこの夜である。
 3)【説】Kが私に自白した夜の場面(襖事件1))と比較する。
  ・襖事件1)では、私から話しかけた。
  ・Kも起きていた。
  ・私が「まで寝ないのか」と聞いた。
 4)【L2】「黒い影」を何を暗示するか。
  ・死。
  ・Kの自殺の予感。
 5)Kが襖を開けて私の名を呼んだことについて
  1)【L1】Kの言っている理由は。
   ・便所に行ったついでに聞いてみただけ
  2)【L2】それは本当か。
   ・ついでではなく、わざわざふすまを開けた。
  3)【L2】なぜ分かるか。
   ・Kの部屋の明かりが宵のとおりまだついている。
  4)【説】Kは寝られず、私に話したいことがあった。
  5)【L3】何を話したかったのか。
   ・お嬢さんのことを相談したかった。
   ・私のお嬢さんへの気持ちを聞きたかった。
   ・私に謝りたかった。
   【注】ここでは答えを出さずに、次の質問を続ける。
 6)「もう寝たか」について
  1)【L2】裏の言葉に直すと。
   ・まだ起きていると思っていた。
   ・すでに寝ていたことを意外に思っている。
  2)【L3】なぜ、Kは私が起きていると思っていたのか。
   ・Kは私も考え事をして寝られないはずだと思っていた。
   【注】何を考えていたかはここでは聞かない。
 7)【L3】Kが襖を開けた理由は。
  ・私にお嬢さんのことを相談したかった。
  【注】これを否定するために、次の質問をする。
 8)【L3】普段より落ち着いた声で言った理由は。
  ・昼間のような迷いがない。
  ・覚悟を決めている。
 9)【L3】Kが襖をぴたりと立て切った理由は。
  ・私が寝ていたので話す必要はないと思った。
  【注】何を話そうとしていたかはここでは聞かない。
 10)「近ごろ熟睡できるのか」について
  1)【L2】裏の言葉に直すと。
   ・近ごろ、悩み事があって寝られないのではないか。
  2)【L2】「近ごろ」と言った理由は。
   ・昨夜は寝ていたが、最近はどうかを確かめたかった。
  3)【L1】悩み事とは。
   ・お嬢さんのこと。
   【注】何を悩んでいたかはここでは聞かない。
 11)【L3】お嬢さんの話ではないと強い調子で否定したのは本当か。
  ・本当である。
  ・Kは自分の言ったことを誤魔化す人間ではない。
  ・平生の強いKに戻っている。
7.Kの覚悟2)について
 1)【L1】私はKの覚悟をどのように解釈し直したか。
  ・お嬢さんに対して進んでいく。
 2)【L1】私はKの一般的な性格をどのように理解していたか。
  ・果断に富んだ性格である。
  ・この事件についてだけ優柔である。
 3)【L2】「一般」と「例外」とは何か。
  ・果断な性格が一般で、道に進む。
  ・今は例外として優柔になって恋をしている。
 4)【L2】どう変化したか。
  ・恋は優柔な例外でなく、果断な一般ではないか。
 5)【L1】すべての疑惑、煩悶、懊悩を一度に解決する最後の手段とは。
  ・お嬢さんに告白する。
 6)【L3】どちらの解釈が正しいか。
8.グループで、ロールプレイをする。
 1)「ロールプレイシナリオ」を配布する。
 2)グループで、私役とK役と観察役を決めて、一人一回私とKを体験するようにロールプレイをさせる。
 3)感想と、Kの覚悟の意味2)をノートに書かせる。
  ・グループで意見を交流させ、まとめ、全体で発表させる。
9.「確認テスト4」をする。

7.私の告白

1.【指】「私は私にも最後の決断が〜水道橋の方へ曲がってしまいました」をチームリーディングさせる。
2.私の最後の決断について
 1)【L1】最後の決断とは。
  ・奥さんにお嬢さんと結婚したいと談判する。
 2)【L3】なぜ、お嬢さんに直接言わないのか。
  ・当時のしきたりで、親の了解が先決である。
 3)【L1】談判する条件は。
  ・Kより先に、Kの知らない間に。
 4)【L1】どのようにしてその状況を作ったのか。
  ・仮病を使って、Kとお嬢さんが学校へ行った後、奥さんと二人きりになる機会を作った。
 7)【説】私の談判をまとめる。
  私 「実は少し話したいことがある」
  
奥 (軽い調子で)「何ですか」
  私 「Kが近ごろ何か言いはしなかったか」
  
奥 「何を? あなたには何かおっしゃったのですか」
  私 「いいえ」
  
奥 「そうですか」
  
私 (突然)「奥さん、お嬢さんを私にください」
  
奥 (驚いた様子を見せない)
  私 「ください、ぜひください」
  
奥 (落ち着いて)「あげてもいいが、あんまり急じゃありませんか」
  私 「急にもらいたくなったのだ」
  
奥 「よく考えたのですか」(と念を押す)
  私 (強い言葉で)「言い出したのは突然でも、考えたのは突然でない」
  
奥 「よござんす。差し上げましょう。差し上げるなんて威張った口の聞ける境遇ではありません。どうぞもらってやってください」
    
(何の条件も持ち出さない)
    
「本人の意向さえ確かめるには及ばない」
  私 「当人にはあらかじめ承諾を得るのが順序らしい」
  
奥 「本人が不承知の所へ、私があの子をやるはずがない」
 8)【L3】二人の会話で不思議なことはないか。
  ・「本人が不承知の所へやるはずがない」
  ・奥さんはお嬢さんが私を好きであることを確認していた。
  ・奥さんとお嬢さんの間で、私との結婚話ができていた。
  ・奥さんは私が談判に来ることを予期していた。
  【説】だから、私が突然お嬢さんをくれといっても、驚いた様子を見せなかった。
  【説】仕組まれた罠に私が嵌まった。
 9)【L3】私はどんな条件を予想していたか。
  ・私の財産に関する条件。
  【説】すべてにおいてKに劣っている私が、唯一Kに勝てるのは経済力である。
  【説】かつて、叔父が財産目当てに、自分の娘と結婚させようとした。
 10)【L3】なぜ、何も条件を出さなかったのか。なぜ、承諾したのか。
  ・金目当てでなく、純粋に私を愛してくれていた。
  ・お嬢さんは父親がなく、ハンデを持っていた。
  【説】「差し上げるなんて威張った口の聞ける境遇ではない」と言っているように、
    当時は男性中心社会で、母子家庭は不利な条件であった。
 11)【L2】Kが何か言わなかったか聞いた理由は。
  ・Kが先に奥さんにお嬢さんをくれと談判していないか確かめる。
 12)【L1】私がKから何も聞いていないと嘘を言った理由は。
  ・私はKの告白を奥さんに伝える気がなかった。
 13)今までのKに対するお嬢さんの態度は何だったのか。
  ア.私がお嬢さんにKを世話してくれと言ったことを忠実に守っていた。
  イ.私とKと二人に好意を持っていた。
  ウ.私がお嬢さんを好きであることに気づいていたが、なかなか求婚して来ないので、私に嫉妬させて、求婚を急がせる策略であった。
3.告白後の私の気持ちについて
 1)【L1】どんな気持ちか。
  ・未来の運命が定められた。
 2)【L4】未来とは。
  ・Kの自殺?
  ・私の自殺?
  【注】答えは出ない。

8.私の良心

1.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
2.読み方を確認する。
  界隈  回顧  格子  気性  挙止動作  至難  面目  詰問  狡猾  窮境  障子  勘定
3.語句の意味を確認する。
界隈 そのあたり一帯。付近。                        
きまりが悪い 他に対して面目が立たない。恥ずかしい。            
挙止動作 立ち居振る舞い。                         
至難 この上なくむずかしいこと。
面目 世間や周囲に対する体面・立場・名誉。また、世間からの評価。
詰問 相手を責めて厳しく問いただすこと。
狡猾 ずるく悪賢いこと。
窮境 非常に苦しい境遇・立場。
なじる 相手を問いつめて責める。詰問する。
どうりで またそうである道理がわかって納得するさま。なるほど。
別段 (あとに打消しの語を伴って用いる)特にとりたてて言うほどではないさま。

4.「私は猿楽町から神保町の通へ出て〜挟まって立ちすくみました」をチームリーディングさせる。
5.散歩中の私の気持ちについて
 1)【L1】私が歩かされていた二つのものとは。
  1)さっきの奥さんの記憶。
   ・お嬢さんとの婚約を承諾した。
  2)お嬢さんがうちへ帰ってからの想像
   ・奥さんから私の告白を聞いたお嬢さんの反応。
 2)【L2】この間、私が考えなかったことは。
  ・Kのこと。
6.良心の復活について
 1)【L1】私が帰ってきた時のKの対応は。
  ・いつものとおり机に向かって書見をしていました。
  ・いつものとおり書物から目を離して、私を見ました。
  ・いつものとおり今帰ったのかと言わずに、病気はいいのかと言った。
 2)【L2】Kのどんな気持ちは。
  ・私を疑っていない。
 3)【説】私は彼の前に手を突いて謝りたくなった。
 4)【L1】それをしなかった理由は。
  ・奥に人がいるので、Kに謝れば私のしたことがばれる。
 5)【L1】私の自然とは。
  ・Kに謝ること。
  ・良心。
7.夕飯の様子について
 1)【説】お嬢さんは同じ食卓に並ばなかった。
  ・いつもは一緒に食べる。
 2)【L1】その理由は。
  ・結婚が決まった私と同席するのが恥ずかしかった。
 3)【説】Kの様子は、何も知らず、ただ沈んでいるだけで、私に疑いの眼を向けない。
 4)【L1】何も知らないとは何を知らないのか。
  ・私が求婚し、奥さんに承諾を得たこと。
 5)【説】奥さんに、「お嬢さんとどうしたのか」と不思議そうに聞く。
 6)【説】奥さんの様子は、何も知らず、いつもより嬉しそうで、ちょっと私の顔を見る。
 7)【L1】何も知らないとは何を知らないのか。
  ・私がKを出し抜いて求婚したこと。
 8)【L2】ちょっと私の顔を見る理由は。
  ・話してもいいかという合図。
 9)【L2】私が、奥さんの顔つきで、推察した事の成り行きは。
  ・奥さんは、私とお嬢さんの婚約を、Kに話していない。
 10)【説】鉛のような飯を食べた私の気持ちは。
  ・奥さんが私の目の前で話すのではないかと、ひやひやしていた。
  ・男勝りの奥さんなら言い兼ねない。
8.今後の対応について
 1)【L1】私の、Kに対する絶えざる不安とは。
  ・なんとかしなければKにすまない。
  ・奥さんやお嬢さんの態度が始終私を突っつく。
 2)【L1】奥さんやお嬢さんの態度とは。
  ・男らしい奥さんは、いつ私のことを食卓でKにすっぱ抜くかわからない。
  ・お嬢さんの私に対する挙止動作が目立つように思える。
 2)【説】私は、なんとかして私がお嬢さんの婚約をKに伝えなければと思っていた。
 3)【L1】それが至難のことのように感じられた理由は。
  ・論理的に弱点を持っているから。
 4)【L2】論理的な弱点とは。
  ・先にKから相談を受けていたのに、Kを出し抜いてお嬢さんを手に入れたこと。
 5)【L1】私が伝える以外で、私の取り得る2つの対応とは。
  1)私のいない時に、奥さんに頼んで事実をKに話してもらう。
  2)事実でなく、こしらえごとを話してもらう。
 6)【L2】1)の方法の利点と欠点は。
  ・Kから直接非難されることは回避できる。
  ・Kの反応から、奥さんに、私の卑怯な行動がばれる。
  ・面目がない。
 7)【L3】2)の方法の具体的な言葉は。
  ・(例えば)お嬢さんや奥さんの方から私に求婚した。
 8)【L2】2)の方法の利点と欠点は。
  ・Kには非難されない。
  ・奥さんに理由を詰問される。
  ・奥さんに、私の卑怯な行動を話さねばならない。
  ・面目がない。
 9)【L2】誰に対する面目か。
  ・奥さん。
  ・Kではない。
 10)【L1】根本的な理由は。
  ・自分の弱点を、奥さんやお嬢さんにさらけ出さなければならない。
  ・結婚する前から恋人の信用を失うことは、耐えきれない不幸だと考えている。
9.そんな自分について
 1)【L1】何と表現しているか。
  ・正直な道を歩くつもりで、つい足を滑らしたばか者(狡猾な男)。
 2)【L2】「正直な道」「足を滑らす」とは。
  ・正直な道=自分の気持ちに正直にお嬢さんへの恋を選んだこと。
  ・足を滑らす=Kを裏切った。
  【注】×正直=Kに謝る。
      滑る=Kに打ち明けられない。
      これでは堂々巡りになる。
 3)【L1】それを知っているものは。
  ・天と私の心
  【説】漱石に座右の銘が「則天去私」である。
10.「五、六日たった後〜私の自尊心にとって大いな苦痛でした」をチームリーディングさせる。
11.婚約を知ったKの反応について
 1)【L1】「Kにあのことを話したか」の「あのこと」とは。
  ・私とお嬢さんの婚約が成立したこと。
 2)【説】奥さんがKに話した。
 3)【L1】「Kが何か言いはしなかったか」の「何か」とは。
  ・Kの方が先に私にお嬢さんへの恋を相談していたのに、私に裏切られた。
 4)【説】Kの様子をまとめる。
  ・最後の打撃を最も落ち着いた驚きをもって迎えた。
  ・「そうですか」と一口言っただけ。
  ・「おめでとうございます」と微笑を漏らして言う。
  ・立ち去る前に「結婚はいつですか」と聞く。
  ・「お金がないのでお祝いを上げられない」と言う。
 5)【L1】「最後の打撃」とは。
  ・私とお嬢さんが婚約したこと。
  【注】私が最後の打撃と考えているだけで、Kには打撃ですらなかったのかもしれない。
 6)【L3】落ち着いていた理由は。
    ア.私がお嬢さんを好きなことに気づいていたので、あまり驚かなかった。
  イ.お嬢さんを諦めていたからどうでもよかった。
  ウ.自殺を覚悟していたからどうでもよかった。
  エ.驚いたが、驚くことはプライドが許さなかったから、自分の驚きの感情を抑えた。
 7)【L3】結婚の時期を聞いた理由は。
  ・自分の自殺の時期と関連がある。
  ・社交辞令で聞くようなKではない。
12.私の気持ちについて
 1)【L1】どのように思ったのか。
  ・策略で勝っても人間としては負けた。
 2)【L2】「策略」とは何か。
  ・仮病まで使ってKをだまして、お嬢さんへの恋を奥さんに伝えたこと。
 3)【L3】「人間としては負けた」とは。
  ・私の卑怯な行為を責めないこと。
 4)【L1】私の苦痛はどんな心から出ているか。
   ・自尊心。
13.「確認テスト5」をする。

9.Kの自殺2

1.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
2.読み方を確認する。
  因縁  敷居  疾風  世間体
3.語句の意味を確認する。
因縁 仏語。物事が生じる直接の力である因と、それを助ける間接の条件である縁。すべての物事はこの二つの働きによって起こると説く。
国元 その人の郷里。故郷。                         

4.「私が進もうかようそか〜最後」をペアリーディングさせる。
5.その夜の様子について
 1)【L2】「進もうかよそうか」とは何かを考える。
  ・Kに謝るか謝らないか。
 2)【説】自殺した夜の様子について。
  1)偶然西枕に寝ている。
   ・西にKの部屋との仕切りの襖がある。
   ・襖が開いて冷たい風が吹き込んだので目を覚ました。
  2)ふすまの様子。
   ・この間の夜と同じように開いている。
   ・Kの黒い姿はそこにない。
6.私の反応について
 1)【説】「おい」と声をかける。
  ・襖事件1)と同じ。
 2)【L1】第一の感じは。
  ・目が動く能力を失った。
  ・しまったと思った。
  ・もう取り返しがつかない。
  ・私を忘れることができない。
 3)【説】Kの告白を聞いた時と同じ。
 4)【L1】「目が動く能力を失った」とはどうなることか。
  ・一つの塊になる。
 5)【L2】「しまった」「取り返しのつかないこと」とはどう思うことか。
  ・取り返しのつかない黒い光が全生涯を照らした。
  ・私がKを自殺に追い込んだという罪を追及されること。
  【注】Kに済まないと言う気持ちではない。
 6)【L2】「私を忘れることができなかった」とはどうすることか。
  ・Kの遺書を見つける。
  ・何とか自分に不利にならない、裏切りがばれない方法を考える。
7.Kの遺書について
 1)【説】遺書の内容を確認する。
  a)薄志弱行で生きていく望みがない。
  b)お嬢さんの名前がない。
  c)もっと早く死ぬべきだった。
  d)なぜ今まで生きていたのか。
 2)【L1】予期したことは書いてなかったとあるが、予期したこととは。
  ・私のせいで自殺したということ。
 3)【L2】助かったと思った理由は。
  ・奥さんやお嬢さんに私の悪事がばれないから。
  ・世間体の上だけ。
  【注】Kに対する罪悪感はない。
 4)【L3】遺書をみんなの目のつくように置いた理由は。
  ・自分に不利な事か書いていないので、読んでもらったほうが疑いが晴れる。
8.その後の私の行動について
 1)【L2】振り返って襖の血潮をはじめて見たことを意味は。
  ・ようやくKの死そのものを受け止めた。
  ・それまでは自分のことに終始していた。
 2)【L3】「運命の恐ろしさ」とは。
  ・自分もKと同じように自殺すること。
 3)【L1】奥さんを起こさなかった理由は。
  ・奥さんが起きればお嬢さんも起きる。
  ・特に、お嬢さんには恐ろしいありさまを見せたくなった。
 4)【L3】「永久に暗い夜」とは。
  ・Kの自殺に苦しみ続けること。
9.【W】チームで、再度Kの自殺の原因を考える。
 ・「Kの自殺をめぐる考察」を埋める。

10  私の自殺

1.学習プリントを配布し、学習の準備を宿題にする。
2.読み方を確認する。
  厭世  顛末  冷罵  脅かす  映る  詰問  癇  怨言  懺悔  容赦  駆逐  愛想
3.語句の意味を確認する。
厭世 世の中をいやなもの、人生を価値のないものと思うこと。         
端緒 物事の始まり。
詰問 相手を責めて厳しく問いただすこと。  
ちょっとしたことにも興奮し、いらいらする性質・気持ち。
懺悔 犯した罪悪を告白して許しを請うこと。
容赦 ゆるすこと。大目に見ること。手加減すること。控え目にすること。
駆逐 追い払うこと。
スポイル 損なうこと。台なしにすること。  
愛想をつかす あきれて好意や親愛の情をなくす。見限る。
寂寞 ひっそりしていてさびしいこと。                    
処決 自分の進退・生死の覚悟を決めること。
歯がゆい 思いどおりにならなくて、いらだたしい。もどかしい。        
畢竟 さまざまな経過を経ても最終的な結論としては。つまるところ。結局。  
遂行 任務や仕事をやりとげること。
ふびん かわいそうなこと。                         
述懐 思いをのべること。過去の出来事や思い出などをのべること。       
崩御 天皇・皇后・皇太后・太皇太后を敬ってその死をいう語。 
時勢 移り変わる時代のようす。世の中の成り行き。
殉死 君が死亡したときに、臣下があとを追って自殺すること。         
大葬 天皇・太皇太后・皇太后・皇后の葬儀。
刹那 きわめて短い時間。瞬間。                       
頓死 突然死ぬこと。急死。                         
酔狂 好奇心から人と異なる行動をとること。物好きなこと。
徒労 むだな骨折り。無益な苦労。                      
4.4人チームになる。。
5.プリントを順次配布する。
6.チームリーディングさせる。
7.相談しながら問題を解答する。他のチームと答えを確認し、正解にたどり着く。
8.「確認テスト6〜9」をする。
8..Kの手記、妻の日記、奥さんの日記を書かせる。
 ・もし、Kが遺書を書こうとして手記を残していたらという想定の元に、作成した。
9.グループワーク「こころ悪者探し」をする。
 ・登場人物の私、K、お嬢さん、奥さん、叔父を悪い者順に並べさせる。
 ・個人でランキングさせ、グループで統一のランキングをさせる。
 ★叔父ははじめから悪意があるので悪者の筆頭する人が多いが、あとは誰もが悪意がなく順位付けが難しい。



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