「京極クトゥルー」ができるまで。   


2001年3月、縁側BBSでは「クトゥルー神話」の話題で盛り上がっておりました。
高い文章レベルを誇る京極贋作を産出する「日本京さん党」(笑)一党は、
その怪奇幻想に耽溺する傾向によって当然のごとく二十世紀初頭の怪奇幻想小説の巨匠
H・P・ラブクラフトの創世した「クトゥルー神話」世界のファンでもあったのです。
京極堂シリーズ世界の同時代、人気探偵小説家高木彬光が現実世界で
日本初クトゥルー小説を書いていた事もあり、京極堂達がかの邪神達と対決したら?
という冗談から、この巨大な企画は生まれました。

この無謀な企画に御参加頂いたのは、
腕に覚えの京極贋作者執筆総勢なんと七名。
無気味なクトゥルー世界と当時の時代背景を融合させた作品舞台を
膨大な蘊蓄で読者を翻弄する京極堂、じゃない狛犬さんと、
戦後生まれの戦中派・病の理ことやまいさんが設定、
おおまかな話の流れに沿って「現場監督」ナルシアが、
それぞれのキャラクターを描かせたら天下一品の
魚骨さん、玄機さん、くわんさん、さやさんに
各担当パートを振り分けて執筆をお願いしました。
その結果、それぞれのパートが書き手の個性を存分に発揮した
完成度の高い作品でありつつ、完璧な京極パロディ小説でもあり、
全体でも破綻のない一本の流れとなりました。

ただ、残念ながらこれまで完成しているのは事件の謎の部分までです。
当初の予定を超える盛り上がりで、内輪で作品設定がどんどん増殖してしまい、
後半の、これまでの分量すら超える謎解きと説明の部分が、
リレー方式では収拾がつかなくなってしまったのです。
実は全ての謎について、全ての設定については合理的な説明の準備ができているので、
残りの部分をだーっと書いて事件を収斂させてしまえば終わるのですが、
前半の皆さんの文章の完成度を考えると、後半に入ってただひたすら説明するだけで
終わらせるわけにもいかず、いまだ「解決篇」は深海の底で眠り続けております。
いつか必ず、皆様の前にその全貌を表す事を誓って。

関係者の皆様、ご尽力本当にありがとうございました。

これからお読み下さる皆様、途中までで申し訳ありません。必ず完結させます。
それまで、それぞれの個性と全体の雰囲気の調和した、
他所ではお目にかかれない奇跡的な京極クトゥルーリレー小説をお楽しみ下さい。



謎篇前編 目次

「或る浜辺近く」作・やまい
「古書肆店先」 作・ナルシア
「里村医院」  作・やまい
「京極堂座敷」 作・狛犬
「保存庫」   作・やまい
「関口家書斎」 作・魚骨
「都内某所」  作・やまい

謎篇後編 目次

「猫目洞」       作・玄機
「海岸・遠くない過去」 作・やまい
「薔薇十字探偵社」   作・くわん
「薔薇十字探偵社・2」 作・やまい
「関口家書斎・雪絵」  作・さや
「京極堂座敷・木場1」 作・狛犬
「喫茶店」       作・なるしあ
「京極堂座敷・木場2」 作・狛犬
「京極堂座敷・益田」  作・ナルシア
「洞窟」 原案・やまい 作・ナルシア 


このリレー小説製作の際、「旦那書いて!旦那書いて!」とお願いした
玄機(しゃんじー)さんの文章を、私達は
永久に読む事がかなわなくなってしまいました。
後半ではラスト近くの感動的なパートをお願いしたい、とお話していたのに。
もとはといえば蓮田(はすたー)こと玄機さんが縁側BBSで
ラブクラフトネタを盛り上げたのがこの企画の発端だったのです。
あれが、この熱狂と奇跡のはじまりだったのです。


この未完の長編を永久の憩いに安らぐ蓮田卿に捧げる。
果て知らぬ時の後に再び我ら相見える事を信じて。

2004年6月 ナルシア







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