観光案内4
明神岬の色彩:西の断崖。こちらは滑らかに摩滅した岩層と、敷きつめ
られたような野の花、目の前の小島、強い海風。小道を伝って西の端の端
へ行くと――見事。
まっすぐに切り立った目の眩むような絶壁、打ち寄せ砕ける荒波、恐ろしい
様な硬質の輝きを放つ崖下の深み。
高い所は大丈夫ですか?じゃ、ここでお弁当にしましょう。あ、とんび。
二羽、三羽…、匂いが届くのですね、私達の上をくるくる廻っています。
本当はいけないんですよ、餌付けしたら。でも、唐揚げあげましょう。はいっ…。
放物線を描く唐揚げを、鳶は空中を滑りながら私の目の前でがっちりと爪で掴んで、そのまま崖下からの気流に乗って、すっと高みに舞い上って行きます。
…澄みきった高い空。西側の染み入る様な青い海に、海中公園の建物がぽつっと白く光っています。
御覧下さい。黒いシルエットのような蜘蛛館は本来、こんな鮮やかな色彩に囲まれた環境にあったのです。事件が曇天の続く三月末に起こり、織作家の人々が皆喪服だったために単色の風景と思われていましたが、織作の人々は日々この色彩を目にして暮らして居たのです。
イメージが湧かない?だってほら、考えてみて下さい、この世のものとも思えぬ美しい織作四姉妹の名前を。水平線近くの“紫”、断崖の深みの“碧”、明け方の空の“葵”、夕暮れの空の“茜”。
1998年08月
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