雨上がりの虹
土曜日。くもり、のち雨。
午前中はそれぞれの部で練習を終え、手塚とリョーマはあらかじめ決めておいた場所で落ち合った。
大通りから少し奥に入ったところにある、二人のお気に入りになってしまった小さな喫茶店で昼食を済ませてからしばらく雨宿りをしている。
部活帰りに制服のまま喫茶店に寄るのは気が引けた手塚だが、夏の制服は冬の学ランよりは、喫茶店にいても目立たない。
「よく降るね。天気予報で晴れるって言っていたのに」
「まだ梅雨だからな」
頬杖をついたまま窓の外を見つめて呟くリョーマに手塚が穏やかに応える。
相変わらず客のいない店内には小さくジャズが流れているが、突然降り出した雨音のせいで高いピアノの音しか聞こえてこない。
「あ、言い忘れてたけど、オメデト」
「ん?」
頬杖を外してリョーマがニッコリと手塚に微笑みかける。
「インターハイ出場決定」
「ああ」
手塚は小さく笑って頷いた。
「夏休みはお互い、練習がキツクなりそうっスね」
「…そのことなんだが」
「え?」
手塚は少し真面目な顔になってリョーマを正面から見つめた。
「一緒にやらないか?」
「は?」
素っ頓狂な顔をしてしまったリョーマに少し眉を寄せてから手塚はゆっくりと言葉を続けた。
「うちのコーチと部長がおまえのプレーを見て関心を持ったようで…高等部の練習に出てみないかと言っているんだ」
「へーえ」
「おまえの他に、桃城と海堂にも声を掛けるらしい。正式には竜崎先生から話があると思う」
「ねえ」
まっすぐ手塚を見つめて話を聞いていたリョーマが、テーブル越しに少しだけ身を乗り出した。
「アンタの部の人、強い?」
手塚は小さく目を見開くと、大きく頷いた。
「かなりのレベルだと思う。今年のレギュラークラスはほぼ全員が全国区だ」
「アンタも含めて、でしょ?」
「…ああ」
リョーマは椅子の背もたれに寄りかかるとニヤッと笑った。
「おもしろそうっスね」
「…そう言うと思っていた」
表情を和らげて、手塚が軽く息を吐いた。
「高等部はプレーも練習も中等部とはレベルが違う。甘く見ない方がいいぞ」
「油断せずに行こう、っスか?」
クスッと笑ってリョーマが瞳に強い光を宿す。
「オレも、いつまでも同じレベルじゃないっスよ。何たって『手塚国光』を追いかけているんだから」
リョーマの熱い瞳が揺れる。手塚もリョーマを真っ直ぐに見つめ返した。
二人の間に恋愛感情とは少し違う、『同じく高みを目指す者同士』の共鳴が起こる。
だが、そのまま高揚してしまいそうになる感情を、手塚はそっと目を閉じて制した。
「…そろそろ出るか?」
「…そっスね」
リョーマも軽く息を吐き、高ぶってきていた心をクールダウンさせる。
会計を済ませて表に出ると、雨が多少小降りになっていた。
「どっか寄るの?」
「いや、特に用事はないが…おまえは?」
「ないっス」
ポンッと傘を開いてリョーマが一歩踏み出すと手塚も傘を開いて歩き出す。
ちょうど学校に傘を忘れて置きっぱなしになっていたリョーマは、突然の雨に傘を広げることができた。手塚はむろん、念のためにと折り畳み傘を持ってきていた。
並んで歩くリョーマが小さくクスッと笑ったので手塚は不審に思ってリョーマの傘を覗き込んだ。
「どうした?」
「あ、……去年の今頃のこと、ちょっと思い出しちゃってさ」
「…………」
昨年の今頃は、というより、七夕前の数日間は二人にとってはあまり楽しい思い出ではない。
だが一年経った今、リョーマはあのときのことを笑って話せる。それは、あの出来事が自分たちの心をさらに強く結びつけることに繋がったからだ。
「今年は大丈夫だろうな?」
溜息をつきながら、ほんの少しだけ不愉快そうに手塚が呟く。
「さあね」
人の悪い笑みを浮かべてリョーマがちらりと視線を向けると、手塚は一瞬、眉間に深くしわを刻んだ。が、すぐに表情を緩めてリョーマを見ずに言った。
「おまえもか……」
「えっ?」
手塚の言葉に驚いたリョーマは足を止めて手塚に向き直った。
「何、アンタ、今年も不二先輩と賭けたのっ?」
リョーマの真っ直ぐなキツイ瞳が手塚を見上げる。
手塚も足を止めてリョーマの方を向く。
「おまえは桃城と、また賭けたのか?」
「賭けてないっスよ。誘われたけどちゃんと断った」
その言葉を聞いた途端に、手塚の瞳がやわらかく細められた。
「俺もだ」
「!」
リョーマは思い切り目を見開くと、次の瞬間真っ赤になって手塚を睨みつけた。
「アンタ、また性格悪くなったんじゃない?」
「お互い様だ」
そう言って穏やかに自分の言葉を受け流してしまった手塚に、リョーマは心の奥で焦燥感に似た思いがほんの少し湧き上がるのを感じた。
「…どうした?」
「………別に」
俯き加減で黙ってしまったリョーマに手塚が優しく声をかけると素っ気ない返事が返ってくる。
「怒ったのか?」
「怒ってないっス」
自分と目を合わそうとしないリョーマに手塚はそっと笑みを零した。
「リョーマ」
名を呼ばれてリョーマが顔を上げると、手塚が傘を傾け、優しく口づけてきた。
リョーマの傘と手塚の傘で、小さな小さな二人だけの空間を作る。
すぐに離れていってしまった手塚を、リョーマは揺れる瞳で見上げた。
「……と…」
「ん?」
掠れた声で小さく呟いたリョーマの言葉を手塚は優しく問い返す。
「…もっと」
頬を染めてリョーマが俯く。
「30分我慢しろ」
「10分しか…もたないっス」
拗ねたようにプイッと横を向いてしまったリョーマに、手塚は胸が苦しくなるほど愛しさを感じる。
抱きしめたい衝動を必死に押しとどめ、手塚はリョーマの耳元にそっと囁いた。
「10分しか我慢しないなら10分以下、30分我慢したら三時間以上。どっちがいいんだ?」
「なにそれ。クイズ?」
さらに頬を赤くしてリョーマがキツイ瞳で手塚を見上げる。
すかさず手塚はもう一度リョーマの唇を掠め取った。
「30分、我慢しろ」
今度は有無を言わさぬ言い方に、リョーマは少しの間じっと手塚を見つめてから小さく頷いた。
「…合宿…」
「ん?」
また歩き出しながらリョーマがボソッと呟く。
「アンタの部も夏の合宿ってあるんでしょ?いつ?」
「正式な日程はまだ聞いていないが…大会の前と8月の後半にあるらしい」
「ふーん。忙しいっスね」
「………」
手塚はちらっとリョーマに視線を投げたが、そのまま『合宿』の話には触れずに歩き続けた。
















      
  












         




「あと3分」
間もなく手塚の家の近くのバス停に到着すると言うところで、リョーマが口の中で呟いた。
そんなリョーマを見やると、手塚は停車したバスの扉が開く寸前にリョーマに囁いた。
「走るぞ」
「え…」
バスから降りると同時に手塚がリョーマの腕をつかみ、傘もささずに走り始める。
「ちょっ、くにみつ!…傘っ、雨っ…わわっ」
「黙って走れっ!」
天気予報の通りさっきまで小降りだった雨が、急にまた本格的に降り始めてきていた。走るせいでよけいに顔に雨粒が当たり、リョーマは目を開けていられない。
「前見えないっ!」
「俺に任せろ」
「……」
手塚がリョーマの腕を握る手に力を込める。
しっかりと自分の腕を掴む手塚の力強さに、リョーマの頬がほんのりと赤く染まった。
水たまりをよけることなく走り抜けると足下で水が激しく跳ね上がる。
それでも角を曲がる際にはスピードを緩めて自動車が来ないかちゃんと確かめるあたりが手塚らしくて、リョーマは手塚に気づかれないようにクスクスと笑ってしまった。
だが、全力で雨の中を駆け抜ける手塚が、まるでいつもと違う世界へ自分を連れて行ってくれるような気がしてきて、リョーマはぼやける視界の中で手塚の背中だけを必死に見つめ続けた。
手塚の家に到着するまで二分もかからなかったが、二人はやはり全身ぐっしょりと濡れてしまっていた。
身体に張り付くズボンのポケットから家の鍵を取り出し、手塚がもどかしそうに引き戸を開ける。
手塚に続いて玄関に入ったリョーマは、少し荒くなった呼吸を整えようと深呼吸しながら呆れたように手塚を見上げる。
「アンタ、ムチャクチャ…やるね」
「だが約束の時間に間に合ったぞ」
「え?…あっ!」
バッグを足下に落として手塚がリョーマをいきなり抱き締めた。
引き寄せられた反動でリョーマのバッグも下に落ちる。
「ちょうど30分だ」
きつく抱き締められて、冷え切ったリョーマの身体が熱を持ち始める。
「…アンタさ、『五分前』がポリシーじゃなかったっけ?」
口ではそう言いながらリョーマの腕も手塚の背に回される。
「確かにな……ならばその埋め合わせを後でしないとならんな」
「…っ」
少し乱暴に、手塚がリョーマの唇を自分のそれで塞いだ。
呼吸さえ許さないほど深く深く舌を絡ませてくる手塚に、リョーマも必死になって応え始める。
口づけながら手塚が優しくリョーマの濡れた髪を掻き上げる。そのまま首から肩、背中、腰へと滑り降りた指先は器用にベルトを外して濡れたズボンの中に差し込まれた。
「あっ…や…だっ……んんっ」
「リョーマ……っ」
甘く名を囁いてはすぐにまた深く舌を絡め、リョーマの柔らかな唇を激しく貪りながら、手塚の指がリョーマの欲望を強引にしごいてゆく。
「んんっ、んっ、んうっ!」
「リョーマ…」
手塚の熱い吐息がリョーマの唇にかかる。
「くにみつ…」
唇が触れそうなほど近くで互いの瞳を見つめ合う。
手塚は小さく微笑むと、リョーマの額に軽く口づけてから跪き、濡れた前髪を掻き上げて熱く脈打ち始めたリョーマの熱塊を口に含んだ。
「やっ!」
離れようとするリョーマの腰を押さえつけて、手塚は熱い口腔内でリョーマを愛撫する。
「あっ…は、あっ……やっ」
強弱をつけてしごきながら甘く舌を這わされ、角度を変えながらきつく吸い上げられて、リョーマの熱塊が急速に堅く張りつめてゆく。
真っ直ぐ立っていられなくなったリョーマが手塚の肩に手を置き、はっとしたように目を見開いた。
「ね…アンタ…肩……冷やしたら、だ…め……っ、あっ!」
リョーマの言葉が聞こえないかのように手塚は黙ったまま熱くリョーマを追い上げる。
「あっ、くにみ…っ、も、出るっ!」
小さく痙攣を始めた熱塊を口腔から外し、手塚は立ち上がってリョーマの震える身体を抱き締めた。
「リョーマ…」
「あっ……んんっ」
耳元で吐息とともに熱く名を囁き、きつく抱き締めてくる手塚の背中に腕を回して、リョーマは自分より大きな身体を思い切り抱き締め返した。
「…我慢するな……リョーマ」
優しく言いながら手の動きは止めずに手塚がリョーマの耳朶をそっと噛む。
「やっ!あっ……んんっ、あ…………っ!!!」
リョーマの指が手塚の背中に食い込む。それと同時に熱い飛沫が手塚の左手の中に飛び散った。
身体を震わせて全てを吐き出し終えたリョーマは、全身の力を抜いて手塚にもたれかかる。
右手だけでリョーマの身体を抱き締め、手塚はしっとりと濡れた自分の左手を見つめて甘い溜息を吐いた。
「……シャワーで暖まろう」
「…………」
フラつくリョーマの身体を支えながらハンカチを取り出して左手を拭うと、手塚はまだ履いたままだったシューズを脱ぎ、リョーマのシューズも脱がせてやった。
「…信じらんない……家に誰もいないからって……誰か来たらどーすんの」
「鍵なら閉めたぞ」
リョーマのズボンのファスナーを上げてやりながら大真面目に答える手塚をちらりと見上げ、リョーマは呆れたように大きな溜息をつく。
「玄関でいきなり襲われるとは思わなかったっス」
「30分我慢しろと言ったからな……約束は守る」
「三時間以上って言うのは?」
「むろん、続行中だ」
リョーマはプッと吹き出した。
「じゃ、次はシャワー浴びながらするわけ?」
からかうような瞳で見上げてきたリョーマを、手塚はじっと見下ろした。
「そうだな」
「…………」
真っ赤になって言葉をなくしてしまったリョーマを見て、手塚は小さく微笑んだ。
「今度は俺の方がもたなくなってきたからな……だめか?」
「ダメ」
と言ってから、リョーマが手塚をじっと見上げる。
「…………じゃないっス」
さらに頬を赤く染めながら唇を尖らすリョーマに、手塚は堪らず口づける。
「…そんな顔をするな……風呂場までもたなくなる」
「今ここでまた襲ったら絶交。風呂場まで我慢したら今度はオレがアンタをイかせてあげる。どっちにする?」
目を見開く手塚に向かってリョーマがニヤッと笑ってみせる。
「すぐそこでしょ?我慢してよ」
「…生意気だな」
「アンタの真似しただけっスよ」
「それを生意気と言うんだ」
「ふーん」
上目遣いに見上げながら、リョーマが手塚の正面に回り込んで行く手を塞ぐ。
「なんだ?」
「でも好きなんでしょ?生意気なとこも」
「…………ああ」
手塚の瞳がやわらかく細められる。
「愛している」
「…っ」
優しく口づけられ、予想外の手塚の反応にリョーマが大きな目をさらに大きく見開いた。
「行くぞ」
「…ういっス」
ふてぶてしいほどだったリョーマの表情が途端に年相応の初々しいものに変わる。
手塚は逸る心を抑えつつ、大人しくなってしまったリョーマの肩を抱いて浴室に向かった。


脱衣所に入り、濡れて張り付いた衣服を脱ぎ落とすと、リョーマはそっと手塚の左肩に触れた。
「やっぱ冷たくなってる」
きつく眉を寄せてリョーマが手塚を見上げる。
「心配ない。もう完治している」
「アンタの『心配ない』は信用できないっス」
一年前の氷帝戦のこと思い出してリョーマは唇を噛んだ。
痛いという感情さえなかなか表に出さない手塚ゆえに、周囲の誰も気づかぬうちに症状は悪化の一途を辿っていた。
「もうあんなのはヤだからね」
突然突きつけられた過酷な現実。唐突な別れ。そして底なしの喪失感。
それでもただ見守ることしかできなかったあのときの自分を思い出すたび、リョーマは全身が震え出すほどの悔しさを今でも感じてしまう。
唇を噛みしめたまま、リョーマは冷え切った手塚の身体を温めるかのようにぴったりと肌を合わせる。
手塚はそっと溜息をつき、リョーマの頭をポンポンと軽く叩いた。
「おまえも冷えてしまったな…シャワーでは暖まらないかもしれんな」
「…大丈夫っスよ……アンタといられれば」
手塚はふっと微笑み、リョーマの頬に優しく口づけた。








      







        
    










       

     










       






  
























      

     

シャワーを浴びて二人が浴室から出てくると、リビングの大きな窓から明るい日の光が見えた。
「やっぱ晴れた……さっきの雨は何だったんスかね」
「ドラマの演出のようだな」
真面目な顔で小さくそう呟いた手塚がおかしくて、リョーマは思い切り吹き出した。
怪訝そうな顔で見つめてくる手塚に「何でもないっス」と言って笑いかける。
「ねえ、それよりさ…約束の続きは?」
「ああ…」
手塚はソファに腰を下ろすとリョーマに向かって両手を広げた。
「来い」
「…ここでするの?」
手塚の膝の上に向かい合わせになる形で座りながらリョーマがクスッと笑った。
「その前に話すことがある」
「え?」
自分を見上げてやわらかく微笑みかけてくる手塚の瞳を、リョーマは首を傾げて覗き込んだ。
「8月後半の合宿の前に、二人で旅行に出ないか?」
「え…」
リョーマの目が大きく見開かれる。
「卒業前に約束したろう?俺が高等部に上がったら、今度は二人だけで旅行に出よう、と」
「!」
「『高校生』というだけでいろいろな制約が緩くなるようだ。俺の親にはもう許可はもらったぞ」
「覚えていたんだ…」
リョーマは大きな瞳を揺らしながら頬を染めて微笑んだ。
「当然だ。おまえと交わした約束は必ず守る」
手塚の首に腕を回してリョーマは嬉しそうに瞳を輝かせる。
「うん。行こうよ、二人だけで。アンタが一緒なら親父も母さんも文句言わない」
「行きたい場所を考えておけよ」
「ういーっス」
見つめ合って、二人は同時にクスッと笑う。
「そう言えば、もう一つ、ずっと前にした約束があるの、覚えてる?」
「それは明後日、だろう?」
「さすが!」
言いながらリョーマは手塚に抱きついた。
一年前の七夕の日。夜空の芸術を目で見ることは叶わなかったが、遙か雲の上に横たわる天の川の下で二人だけの熱い時間を過ごした。
きっと何も変わっていないだろうあの川の畔で、変わらぬ愛を抱いて想いを遂げる天空の恋人たちに、一年前とは違う今の自分たちを見せたいと思う。
「あの日からいろいろなことがあったな……」
「そっスね」
僅か一年の間に起こった様々な出来事を二人はそれぞれ胸に思い浮かべる。
つらいとは口に出せなかった離ればなれの日々、言葉が浮かばなかった再会の喜び、上を目指すが故の葛藤、ジレンマ、そして二人だけで分かち合ってきたささやかな優しい時間たち。
どれも二人にとっては大切で必要なものばかりだった。
苦しさは二人を成長させ、喜びは絆を深めさせた。
そう、このたくさんの出来事のおかげで、今の二人は一年前よりもずっと『前』に進んでこれたのだ。
「リョーマ」
手塚はリョーマの身体を自分から少し離して、その大きな瞳を真っ直ぐに見つめた。
「愛してる」
囁きながらそっと口づける。
やわらかく舌を絡めてゆっくり唇を離すと、リョーマが手塚の唇を追いかけて触れるだけのキスをしてくる。
「オレも…アンタだけが好き………愛してる、くにみつ…」
再び、どちらともなく唇を寄せ合い、深く口づけてゆく。
一年前、自分はこれ以上相手を好きになれないと思うほど、二人は互いを心から想っていた。
だが今の自分は確実に、一年前よりも相手のことを愛しく思い、狂おしく求めている。
だから、きっと、また一年が過ぎたとき、自分たちは今以上にお互いを求め合っているに違いないと二人は確信していた。
「んっ」
熱を孕んで激しくなる口づけに二人の身体が反応し始める。
「あ…っ」
「リョーマ…」
愛しい名を囁き、もう一度口づけながら手塚がリョーマの身体をそっとソファに倒してゆく。
「くにみつ…」
少し離れた唇の隙間でリョーマが切なく手塚を求める。
そうして二人は窓の外にかかる美しい虹に気づかないほど、互いしか目に入らないまま熱く溶け合っていった。


二人の二度目の夏がくる。
昨年にはできなかったことを、昨年の分まで、今年は目一杯味わい尽くそうと二人は思う。
熱い暑い夏を、ずっと二人で………



THE END      
2003.7.8