  観覧車
  
  
      
  リョーマは軽やかに地を蹴って待ち合わせの駅へと走っていた。 
      遅刻しそうだから、と言うわけではなく、早めに家を出たのにもかかわらず、早く早くと心に急かされて、気がついたら走っていたのだ。 
      今日は初めて手塚と二人で出かける約束をした日だ。そう考えただけで頬も緩んでくる。 リョーマと手塚は、ついこの間から付き合い始めた。 
      付き合う、というのはもちろん「恋人として」である。 二人は互いの性別に囚われることなく、相手に想いを寄せ、恋するようになった。同性ということに抵抗がなかったわけではないが、常識よりも、世間体よりも、何よりも相手の傍にいることを選んだ。その場所が、自分にとってはどんな楽園よりも、素晴らしい場所に思えるから。 
      もうすぐ駅が見えて来るというところまで来て、リョーマは突然足を緩めた。ふいに、先週のことを思い出してしまったのだ。 
      (また…あんな雰囲気になったらどうしよう……) 
      止まってしまった足下を見つめて、リョーマはほんのりと頬を染めた。
 
 
 
 
  都大会を終えて家に帰ろうとしたリョーマは、さりげなく名を呼ばれて手塚を振り向いた。 
      「少しだけ、うちに寄らないか」 
      「……っ」 
      他のメンバーには聞こえないようにそっと耳打ちされ、リョーマは頬を染めながら頷いた。 
      不自然にならないように他のメンバーたちと別れ、二人は手塚の家へと向かった。 
      手塚の家に上がったのは初めてだった。出迎えてくれた手塚の母親はとても可愛らしく、それでいてしっかりした女性のようで、リョーマはとても好感を持った。 
      手塚が、滅多に連れてこない友人を連れて帰ったことが手塚の母・彩菜には心底嬉しかったらしく、リョーマは大歓迎され、夕飯をごちそうになることにまでなってしまった。 
      「お夕飯の用意ができたら呼ぶわね」 
      「はい、では部屋に行きます」 
      夕食までにはまだ時間があったので、その間、手塚の部屋で過ごすことにする。案内された部屋はきちんと整理されていて、いかにも手塚らしいとリョーマは思った。 
      だが、きちんと整理されているせいで、リョーマは部屋の端にあるベッドの存在をひどく意識してしまい、心なしか動作がぎこちなくなってしまった。 
      手塚とはキスまではした。互いの想いが通じ合った日の夕方に、二人が想いを通わせ合うようになった屋上で、夕陽に包まれながらそっと優しく唇を重ねた。 
      そのあと、二人で更衣室に入って着替えながら、リョーマは自分に注がれる手塚の熱い視線を感じてしまった。その、熱く燃えるような光を宿した手塚の瞳に、リョーマの身体もほんのりと熱を帯びてしまったのだ。 
      それ以来、リョーマは手塚と二人きりになると、自分たちはキス以上にも進むのだろうかと、そんなことばかり考えてしまうようになった。 
      (部長は…やっぱりしたいのかな……) 
      手塚は、体型的にもほとんど「大人に近い男」だ。そういう欲求がないはずがない。 
      だが、同じ男である自分相手でもそういう気になるのかはわからない。もしかしたら、意識しているのは自分だけかもしれない、ともリョーマは思う。 
      じっとベッドを見つめてしまったリョーマを、手塚もじっと見つめていた。 
      「越前」 
      名を呼ばれてハッとしたようにリョーマが振り返ると、すぐ後ろに手塚がいた。 
      「え?なん…」 
      見上げるリョーマを手塚はギュッと抱き締めてきた。 
      「部長……?」 
      「………」 
      何も言わず、手塚はリョーマに口づけてきた。 
      「ん………」 
      熱い舌がそっと差し込まれる。 
      あの屋上でのキスよりも少し深いキスに、リョーマはびくりと震えて身体を離そうとした。が、身体をガッチリと手塚に抱き込まれていて、逃げられない。 
      「んー、んんっ」 
      呼吸が巧くできず苦しくなったリョーマが手塚の腕を掴んで藻掻くと、やっと唇を離してくれた。 
      「はぁ……っ」 
      ほっと息をつくリョーマの視界がぐらりと傾いた。 
      「わっ?」 
      バスン、とベッドの上で二人の身体が軽くバウンドする。 
      何が起こったのかリョーマには一瞬わからなかったが、すぐに我に返り、自分が手塚に押し倒されたのだと理解した。 
      「な…」 
      言葉を紡ぐ前に、唇が手塚に奪われていた。言葉を発しようとして開いていた唇をさらにこじ開けるようにして、先程よりももっと深く舌が入り込んでくる。 
      「んんっ」 
      リョーマは手塚の腕を掴んだ。だがその手は手塚に捉えられ、自分の頭の横に、両手共に縫いつけられてしまった。 
      「………越前……」 
      唇と唇の隙間で手塚に熱く名を囁かれてリョーマの身体が震えた。そっと目を開けると、手塚の熱っぽい瞳に見つめられている。 
      「ぶ…ちょ……」 
      「好きだ……越前……」 
      囁きながら、もう一度手塚が口づけてくる。リョーマはそっと目を閉じた。 
      今度はゆっくりと、リョーマを気遣うように舌が入り込んでくる。その柔らかさに少しだけ安心して、リョーマも大人しく手塚を迎え入れた。 
      手塚の舌が優しくリョーマの舌を絡め取る。時折軽く吸い上げられ、唇を噛まれて、その度にリョーマの鼻孔から甘い吐息が微かな声と共に漏れた。 
      リョーマの両手を押さえつけていた手が外され、髪を撫でられる。深く重ねられていた手塚の唇がそっと離れて顎から喉に触れ、熱い吐息を漏らしながらリョーマの首筋にしっとりと触れてゆく。 
      「あ……」 
      学ランのボタンはすべて外され、シャツのボタンも外しながら、手塚の唇がリョーマの鎖骨のあたりに痕を残す。 
      「や…」 
      ちくりとした痛みに小さく眉を寄せると、また手塚に口づけられた。口づけられながら、どんどんシャツのボタンが外されてゆく。 
      「………ぁ…」 
      やがてシャツのボタンもすべて外され、手塚の温かな手が入り込んでくる。ゆっくりと胸や脇腹を撫でられ、リョーマの鼓動はさらに加速を始めた。 
      (部長……やっぱりオレと…こうしたかったんだ……) 
      全身が心臓になってしまったかのように身体全体が脈打ち、鼓動のたびに眩暈がする。 
      「越前……」 
      手塚の甘い声が耳元で自分の名を囁くと、リョーマの身体が小さく揺れる。手塚の優しい愛撫にうっとりと目を閉じて、リョーマも手塚の背に手を回そうとした時、ビクリと、リョーマの身体が強ばった。 
      手塚が布越しにリョーマの中心を撫で上げたのだ。 
      「あ……や……っ」 
      それだけで、とてつもない快感だった。その未経験の快感があまりに強すぎて、リョーマは急にこの行為が怖くなった。 
      「や、やだ……ぶちょ……や…っ」 
      「越前…?」 
      ギュッと目を閉じて身体を硬くしたまま震えるリョーマを見下ろし、手塚はそっと溜息を吐いた。 
      「………すまない、越前……」 
      そう言ってリョーマの額に軽く口づけ、手塚はゆっくりと身体を離した。 
      「…性急すぎたな……悪かった。もう何もしないから…」 
      「……うん」 
      リョーマは手塚に背を向けるように起きあがり、急いでシャツと学ランのボタンを閉めた。 
      「………嫌いになったか?」 
      「え?」 
      振り向いた先の手塚の表情がほんの少し強ばっているように見えて、リョーマは無理に笑みを作った。 
      「…そんなことないっスよ。……でも、こういうのは………もう少し、待って……」 
      「……わかった」 
      そういいながら小さく微笑む手塚の笑顔に、リョーマは心を抉られた。大好きな手塚の笑顔が、また自分のせいで苦しそうな影を含んでしまった。 
      だがリョーマには、あの強烈な快感の先にある、さらに身を焦がすであろう瞬間を受け入れる勇気が、まだ、出ない。 
      でもいつかは、とリョーマは思う。 
      いつかは手塚とひとつになりたい。手塚の想いを身体の奥に深く受け入れて、熱を共有したい、と。 
      それがいつになるかは、今はまだわからないが。 
      「…抱き締めるだけなら、いいか?」 
      手塚がそっと訊いてくる。リョーマは、今度は心から微笑んで頷いた。
 
 
 
 
  そんなことがあってから、手塚と二人きりになると、少しだけ身体が強ばってしまうようになった。 
      心は変わらず、いや、前にも増して手塚を想っているのに、その意思に反して、身体が勝手に手塚を警戒するのだ。 
      (部長は、約束を破ったりしない人だ……だから、オレがいいって言うまで、もうあんなことはしない…) 
      リョーマは一度目を閉じて短く息を吐き出すと、真っ直ぐ駅を見据え、手塚が待っているだろう場所へ再び駆け出した。
 
 
 
 
  *****
 
 
 
 
  手塚が誘ってくれたのは水族館だった。 
      釣りを嗜むだけあって、魚類をはじめ海洋生物などに博識な手塚は、水槽の横にある説明文には書いていない細かなことをリョーマに教えてくれたりする。リョーマは説明のたびに少し触れ合う肩にドキドキしながら、手塚の話に耳を傾け、興味深げに頷いたりした。 
      「そろそろ昼飯にするか」 
      「ういっス!」 
      水族館の中にあるレストランで、手塚と向かい合って昼食を摂ることにした。 
      注文した品が運ばれてくるのを待ちながらふと窓の外に目をやり、リョーマは目を輝かせた。 
      「観覧車……!」 
      リョーマの言葉に手塚も窓の外を見、微笑んだ。 
      「…日本で何番目かに大きな観覧車だぞ。あとで乗るか?」 
      「うん!」 
      輝くようなリョーマの笑顔に、手塚もクスッと笑った。 
      「好きなのか?観覧車」 
      「あ、うん。スリルいっぱいのヤツもいいけど、ああいう、ゆっくり動いているのに、ちょっとスリリングなヤツも大好きっス」 
      「そうか」 
      そう言って優しく微笑む手塚にリョーマも微笑み返した。 
      リョーマの大好きな手塚の笑顔が見られた。ただそれだけなのに、リョーマの心の中が喜びで埋め尽くされてゆくのがわかる。 
      (怖がらなくても、いいのかもしれない……) 
      手塚の笑顔を見つめながら、リョーマはボンヤリとそんなことを思った。 
      大好きな手塚が望むことならば、この身体のすべてを手塚に差し出してもいい。あの強烈な快感の先に何があろうと、手塚が導いてくれる場所ならば恐れる必要などないのかもしれない、と。 
      「………部長」 
      「ん?」 
      「あ、の………今日、このあとで……」 
      そこまで言いかけたところで注文した品が運ばれてきて、リョーマは言葉を飲み込んだ。 
      (べつに、今から言うことないか……) 
      「このあとで、何だ?」 
      ウエイトレスが去ってから、手塚がリョーマに話の続きを促した。 
      「え、あ、いや、その、………観覧車が楽しみっスね」 
      「……そんなに楽しみなら、ここを出たらすぐ乗りに行くか?」 
      「ぁ、ういっス」 
      微笑むリョーマに手塚も微笑んでくれた。 
      (観覧車の中で言おう……もう、待たなくていいっスよ、って……) 
      途端にリョーマの鼓動がドキドキと加速し始めた。今からこんなんじゃそのうち心臓が壊れそうだと、そんなことを思いながらリョーマはナイフで切り分けたハンバーグを口に運んだ。 
      なんだか味が薄いような気がした。
 
 
  昼食を終えて外に出た。 
      真っ青な空に白い雲がひとつ。快晴だった。きっと観覧車に乗って空に近づけば、もっと気持ちいいに違いない。 
      「部長、早く行こう!」 
      そう言って振り返った手塚の後ろに、どこかで見たような人影が見えた。 
      (え…?) 
      瞬きすると、その人影は消えていた。 
      「どうした?」 
      自分の方を向いたまま怪訝な顔をしているリョーマに、手塚も同じように怪訝そうな表情で訊ねてくる。 
      「……ううん、何でもないっス。行こうよ、部長」 
      (目の錯覚、だよな……?) 
      人影を見たように思ったのは気のせいということにして、リョーマは手塚の手を取って観覧車に向けて歩き出した。
 
 
  観覧車には少し列ができていた。やはり日本で五本の指に入る大きさを誇るものだけあって、人気も高いらしい。 
      「結構並んでいるけど、どんどん回ってきてるし、すぐに乗れそうっスね」 
      「そうだな」 
      そう言いながら手塚が微かに笑ったような気がして、リョーマは自分の横に立つ恋人を振り仰いだ。 
      「……いいのか?このままで」 
      「え?」 
      手塚が繋がったままの手をギュッと握り締めてきた。そうされて初めて、リョーマは手塚の手を掴んだままでいたことを思い出した。 
      「あっ」 
      リョーマの頬が赤く染まる。そんなリョーマに、手塚の目が愛しげに細められた。 
      「…離すか?」 
      「………」 
      リョーマは少し考えて首を横に振った。小さく、手塚にしかわからないほど微かに。そうしてギュッと、手塚の手を握った。すぐに手塚もぎゅうっと握り返してくれた。 
      嬉しくなってリョーマが手塚を見上げると、手塚も優しく微笑み返してくれる。 
      幸せだ、とリョーマは思った。 
      大好きな人がいて、その人が自分の傍で自分だけに微笑みかけてくれている。そんなささやかなことが、なぜだかひどく嬉しくて、泣きたくなるほどの幸福感に包まれた。 
      (…絶対に、観覧車に乗ったら言おう……オレをあげるって……その代わり、アンタが欲しいって…)
 
  だが、もうすぐリョーマたちが乗り込む番になる、という時に、その異変は起きた。 
      観覧車の列の後ろの方が何やら騒がしい。女性の悲鳴も聞こえる。 
      「なんだ…?」 
      手塚が眉を寄せて後ろを振り返った。リョーマも同じように騒がしい後方へ視線を向ける。 
      「下がってください!この観覧車は、只今より閉鎖します!!」 
      武装した機動隊のような十数人の警察官らしき団体が、並んでいる人間を掻き散らすようにしてズカズカ歩いてきた。 
      「皆さんは速やかに避難してください。この観覧車には爆弾が仕掛けられた疑いがあります!」 
      二人の周りにいた人々はどよめき、驚きと恐怖に戦く言葉を口にしながら観覧者から離れていく。 
      「越前、俺たちも下がろう」 
      「ういっス」 
      下がりながら、リョーマはチラリと観覧車乗り場の方を見た。 
      「あ…」 
      警察官に誘導されながら観覧車から降りる人々に紛れて、その乗り場に一人の少年が立っていた。さっきリョーマが見かけた、手塚の肩越しに見た人影に似ている気がする。 
      淡い髪色をしていた。背格好はリョーマと同じくらい。全身、ほぼ白い服を着ている。 
      (あんなところにいていいのかな、アイツ……) 
      そう思いながらリョーマがその少年を見つめていると、ふわりとその少年が振り向いた。リョーマと目があった途端、その少年はひどく驚いたように目を見開いた。そしてリョーマ自身、信じられないものを見るように大きく目を見開いて言葉を失った。 
      (あれは……っ?) 
      その少年はリョーマとそっくりな顔立ちをしていた。目のきつさも、眉の繊細さも、引き結ばれた口元も、まるで鏡を見るようにそっくりだった。 
      少年を見つめたまま呆然としているリョーマの耳に流れ込むように、警官たちの会話が聞こえてくる。 
      「止まれば爆発すると言うことらしいぞ。だからこのまま止めずに乗り込んで爆発物を探し出し、処理すれば問題ないだろう」 
      その会話は手塚の耳にも届いたらしく、リョーマの肩を抱き寄せながら「脅迫状が届いたらしいな」と呟いた。 
      「ねえ……あんなところにいて大丈夫なのかな…」 
      「え?」 
      視線を乗り場の方に向けながら訊ねてくるリョーマに、手塚は訝しげな視線を向けた。 
      「あんなところ?向こうに誰かいるのか?」 
      「?見えないの?乗り場のところに、オレとそっくりな………あれ?」 
      ちょっと視線を手塚に向けている合間に、少年の姿が消えていた。 
      (見間違い…じゃないよな……) 
      「越前?」 
      「もしかしたら、観覧車に乗っちゃったのかも!」 
      「……」 
      青ざめたリョーマの顔色を見て手塚はそれが緊急を要する事態だと判断した。 
      「すみません、もしかしたら、誰かが観覧車に乗り込んでしまったかもしれません」 
      立ち入り禁止のテープが張られたギリギリのところに立って、手塚が傍にいる一人の警察官に声をかけた。 
      「え?本当ですか?」 
      「連れが人影を見たらしいのです。越前、詳しく話せ」 
      リョーマは頷いて前に進み出た。 
      「オレとそっくりなヤツがあそこに立っていたんですけど、目を離した隙にいなくなっていて、どこにもいないから、もしかしたら乗っちゃったんじゃないかって…」 
      「わかりました。君たちはここに居なさい!」 
      そう言って走ってゆく警察官を見送るリョーマの耳に、小さく、声を潜めて嗤うような耳障りな声が聞こえた。 
      「バーカ。もうすぐ爆発するんだから、今から行ったって間にあわねぇよ」 
      リョーマはそっと、相手に気づかれないようにその声の主を確認した。三十代くらいの、小太りの男が歪んだ笑みを浮かべながら観覧車を見ている。 
      (止まったら爆発するんじゃなくて、時間が来たら爆発するのか…) 
      「部長、後ろの太った男、捕まえておいて。犯人みたいだよ」 
      「え?」 
      そう言い残してリョーマは手塚の手を離れ、立ち入り禁止のテープをくぐった。 
      「越前!」 
      手塚の呼ぶ声が聞こえたが、リョーマは真っ直ぐ、観覧車の方に向かった。先程の警察官を見つけ、大声で呼びかける。 
      「そっちに行っちゃダメだ!爆弾は時限爆弾なんだ!」 
      だが先を行く警察官はリョーマの声に気づかない。 
      爆発物処理班らしい警官が、すでに何人か観覧車に乗り込んでいっている。 
      (さっきのヤツも、乗り込んだのかな…) 
      走り寄るリョーマに気づいて、他の場所に立っていた警察官が駆け寄ってきた。 
      「入って来ちゃダメだ!戻りなさい!」 
      「爆弾は時限爆弾だって!さっきオレのいたところの近くでそう言って嗤っているヤツがいたんです!」 
      「なんだって?」 
      「だからみんなを早く…」 
      言いかけて、リョーマは目を見開いた。観覧車の中に、さっきの少年の姿を見つけたのだ。 
      (やっぱりアイツ乗ってる…!) 
      観覧車の中の少年もリョーマを見つけたらしく、何かを叫んでいる。何を言っているのかはわからなかったが、なぜか、リョーマは彼を助けなければならないと思った。 
      思って、しまった。 
      「君!待ちなさ…」 
      その警官の言葉を最後まで聞くことはできなかった。 
      凄まじい閃光を放ったのは、観覧車ではなく、それを支える、リョーマのすぐ近くにある支柱だった。 
      リョーマの視界が真っ白い光に飲み込まれる。 
      「うぁあぁぁぁ………っ!」
 
  一瞬の浮遊感。
 
  そして次の瞬間、リョーマは闇の中に放り出された。 
      
 
 
 
 
 
  
      続
   次→
 
 
 
  
  
      20050121
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