「くっ、ああ……っ」
手塚の喘ぎ声がシャワーの音に吸い込まれた。
荒い呼吸を繰り返しながら壁に背を預けると、手塚はゆっくりと瞳を開いた。
「………」
目に映るのはオフホワイトのシャワーブースの壁。ふと視線を足下に落とせば、自分が吐き出した白い濁りが、シャワーの湯に散らされながら排水溝に流れていった。
手塚は大きく息を吐いた。
「……リョーマ…」
愛しいその名を口に出して呟き、もう一度溜息を吐いてから自嘲気味に小さく微笑む。
────やっぱ、アンタじゃないとダメっスよ……全然足りない…
先程の電話での、リョーマの言葉が胸に蘇る。
「本当に、足りないな…」
生理的な欲望なら独りでも処理することはできる。
だが精神的な欲望まで満たすことはできない。
それが自慰行為とSEXとの違いなんだと、手塚は今更ながら身を以てわかった気がした。
シャワーブースから出て着替え終えた頃、手塚の携帯にメールが入った。
日本では真夜中にあたる時間に、誰からだろうかと眼鏡を着けてから不審そうに画面を見る。
「…リョーマ?」
メールはリョーマからだった。
(まだ起きていたのか?)
微かに眉を寄せながらメールを開くと、短い文章が現れた。
『今、くにみつの夢見た。内容はそっちに行った時に話す!』
手塚はポカンとした顔でしばらくその文章を見つめていた。
(今……?)
そうして携帯を折りたたんでからほんのりと微笑んだ。
「想いは、届いたようだな……」
手塚は窓辺に立って、空を見上げた。
物理的にはどんなに遠く離れていようとも、この想いには距離などないのだ。そう、この空のように、自分とリョーマの心はいつだって繋がっている。
ふいに部屋の内線電話が鳴った。
「はい、手塚です」
『今日の検査結果と明日のメニューの確認をしましょう。準備ができたらカウンセリングルームにいらっしゃい』
「わかりました」
手塚は電話を置くと、もう一度空を見つめた。
(今は、アイツはアイツのやるべきことを、そして俺は俺のやるべきことをやり遂げるしかない)
今の状況を感傷的に過ごす気はない。 リョーマとの未来のために選んだ道は、確実に光へと向かっているのだ。
「待っている、リョーマ」 リョーマが自分の元へやってくる日を。 そして、自分がリョーマの元へ戻る日を待っていてほしい。
手塚は瞳に強い光を宿しながら空にそっと微笑みかけ、ウェアを着込むと部屋を出て行った。
窓から差し込む光が、まるで未来からの祝福のように、部屋の中を明るく照らしていた。
THE END
2004.9.10
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