手塚が旅立って数日後、リョーマに一通のエアメールが届いた。
羽のように軽い手紙の封を切ると、中には一枚の便せんと二つ折りにされた細長い紙切れが入っていた。
便せんには『変わりはないか』とだけ書かれており、その下には携帯電話の番号と、Eメールのアドレスが携帯用とパソコン用に二つ書いてあった。
それを見たリョーマは大きな瞳をキラキラと輝かせる。
「行く前に教えてくれればいいのに…」
小さくぼやきながらも口元は嬉しさに綻んでいる。
そうして立ち上がりかけたリョーマは、もう一枚の細長い紙切れに目を留め、手に取った。
「あ……」
そこには四つ葉のクローバーが軽く固定されて挟まっていた。
紙切れの下の方に小さくメッセージが書かれている。
「ドイツ語じゃわかんないんだけど……」
小さく溜息を吐きながらその紙片を裏返すとそこには日本語でメッセージが書かれていた。
『お前の真似をしてみた。意味がわからない時は教える』
「………なにそれ」
一瞬憮然として頬を膨らませるが、すぐにぷっと吹き出して笑い出す。
「メールしろって、素直に書けばいいのに」
今度こそ、リョーマはすくっと立ち上がると、勢いよく階段を駆け下りた。
「親父!携帯買って!じゃなかったらパソコン買って!」
「おい…普通はあとに言う方が安いモンなんじゃねえのか?」
「じゃ安い方の携帯買ってよ」
「そう言われてホイホイ買えるか。携帯なんざ、お前にはまだまだだね」
南次郎がそう言うと予想していたリョーマはニヤッと笑った。
「じゃ、オレが親父から2ポイント取ったら、ってのは?」
きょとんとした南次郎が、ふっと、リョーマに似た笑みを浮かべる。
「いいぜ。『連続3ポイント』にしておいてやる」
「増えてるじゃん」
「文句あんなら買わねえよ〜ん」
「クソ親父」
南次郎に悪態をつきながらも、リョーマは自信ありげに微笑んだ。
「オレは負けないよ」
そうして携帯を手に入れたリョーマは、時折手塚にメールを入れている。
手塚からも、リョーマが渡した時計で時間の頃合いを見計らっているらしく、要所要所で短文のメールが届く。
「おーい、みんな!手塚からメールが届いたぞ!」
関東大会、六角中との試合前にタイミングよく大石の携帯へ届いた手塚のメールに、誰もが素直な喜びを示す中、不二だけは訳知り顔で微笑んでいた。
「なるほど…越前くんの『贈り物』がこんな風に役立つものだとはね…」
リョーマは帽子を深く被って表情を隠しながらこっそりと笑っている。
三分ほど前にリョーマの携帯に届いた手塚からのメールには大石宛に皆へと送られた同じ文章の他にもう一言、短い言葉が添えられていた。
『油断せず行こう
俺たちの明日のために』
リョーマは帽子を上げて空を見上げた。
そこには澄みきった青い世界がどこまでも広がっていた。
THE END
2003.10.18
They are wailking
on and on ……
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