「濱島与右衛門」は人間ではない。卑怯かつ卑劣が人間の仮面を被ったら、こんな男になるのだろう。記憶喪失に陥った人間を自分の都合のいいように洗脳するのであるから悪質極まりない。当然のことながらエンディングダンスに顔を出す資格はない。悪党なら清少将で十分なのだ。 (3)「仇討ち二人」までの「おカネ」といい、登場人物が悪すぎた。「大富豪同心1」「大富豪同心2」の天衣無縫とてもいえる明るさはどこへ消えた?

*最後の原作と大きく外れた脚本はハッピーエンド、視聴者の期待を裏切らないものだった。ありがとう。

 NHKオンデマンドで愉しむ「大富豪同心3」~じれったい、しかし手に汗握る美鈴と卯之吉の恋とその行方~ 


(1) 「おカネがきた!」  (2) 「消えた帳簿」   (3) 「仇討ち二人」
(4) 「悪行の橋」  (5) 「化け物あらわる」  (6) 「大切な女(ひと)」 
(7) 「美鈴を探せ!」  (8) 「天下無双の型破り」   

 大富豪同心1  大富豪同心2

大富豪同心3 (1) 「おカネがきた!」   (脚本:小松江里子)  幡大介の原作を読む  
 あらすじ  三国屋徳右衛門(竜雷太)が老中・甘利(松本幸四郎)の命で甲州の立て直しのため旅立つ中、その留守を預かるため、卯之吉(中村隼人)の叔母・おカネ(若村麻由美)がやってくる。おカネの一番の仕事は、美鈴(新川優愛)を卯之吉の嫁候補として見極めることであった。そのころ、江戸では頻繁に大火事が起こる。一方、卯之吉は、濱島(古川雄輝)と出会い「火除け地」の構想に意気投合するが、火事が悪党による火付けと気づく…。  
04分35秒~  ナレーション「こちらは、美鈴といいまして、卯之吉とは、心を通わせ合う仲でございます」
美鈴「どうぞ」
銀八「そうしてると、若夫婦みたいですね。そろそろでげすか?」
卯之吉「んっ…」
美鈴「お口に合いませんでしたか?」
卯之吉「いえ、ちょっと、からいだけですよ」
ナレーション「こちらは、すご腕浪人と、売れない役者のお二人」
由利之丞「味なんて、どうでもいいのさ! 腹いっぱい食えれば、それでいいんだから。お代わり!」
美鈴「ああ…、はい」
銀八「これで、もう3杯目ですよ。よく、まあ、食うもんだ」
由利之丞「おとといから、何も食べてないんだよ。ここんとこ、仕事が全くなくてね。そもそも興行がないんじゃ、役者は、どうやって食っていけばいいんだい?」
水谷「すまん! わしに甲斐性がないばかりに。昨今は」
 
大富豪同心3 (2) 「消えた帳簿」   (脚本:小松江里子) 幡大介の原作を読む 
   八巻家では、美鈴(新川優愛)がおカネ(若村麻由美)に家事でしごかれ自信を無くしていた。そんな時、大奥の秋月ノ局(前田美波里)から頼母子講の運営を任されていた講元(運営者)が世直し衆に襲われ殺害される。全ては尾張家老・坂田(新藤栄作)の陰謀。秋月ノ局から内々に相談された老中・甘利(松本幸四郎)は内密に捜査を進めるが、逆に秋月ノ局の怒りを買いピンチに立つ。甘利を助けるため卯之吉(中村隼人)たちが動く。  
   
大富豪同心3 (3) 「仇討ち二人」   (脚本:小松江里子) 幡大介の原作を読む 
  荒海一家の厄介になりたいと訳ありの子ども・昇太郎(三上来輝)がやって来る。三右衛門(渡辺いっけい)は昇太郎の様子を見て、ヤクザの盃は交わさず見習いとして受け入れる。江戸の街では世直し衆が夜な夜な押し込み強盗として暴れていた。その中に、猪五郎(比留間由哲)というやくざ者が居た。猪五郎は昇太郎の親の仇でもあった。そんななか、卯之吉(中村隼人)の前に三右衛門の元親分・権平(花王おさむ)が現れる。   
     
 大富豪同心3 (4) 「悪行の橋」   (脚本:伊藤靖朗) 幡大介の原作を読む 
 あらすじ 江戸が長雨の影響で不景気が長引く中、尾張藩家老・坂田(新藤栄作)は将軍に景気対策の目玉として「日光社参」を勧めつつ、濱島(古川雄輝)たち世直し衆に接近する。一方、おカネ(若村麻由美)のシゴキに悩む美鈴(新川優愛)は濱島の過去を知り同情。そんな中、世直し衆の大越(青山草太)は、三国屋の用心棒・水谷  
     
 大富豪同心3 (5) 「化け物あらわる」   (脚本:小松江里子 幡大介の原作を読む 
 あらすじ 銀八(石井正則)の故郷・下総は、長雨による増水で利根川が決壊の危機にさらされていた。そんな中、下総でバケモノが暴れ堤が壊れたとの知らせが届く。老中・甘利(松本幸四郎)の命を受け、南町奉行所の沢田(小沢仁志)は壊れた堤を視察に、卯之吉(中村隼人)は、バケモノの正体を暴くため下総に向かう。現地には下総の危機を聞きつけた濱島(古川雄輝)も来ていた。果たして、卯之吉たちは銀八の故郷を守ることができるのか。   
00分00秒~



02分05秒~











04分35秒~




























 
同心屋敷の朝。
卯之吉「いただきます」美鈴の不安そうな表情を見て「おいしいてすよ」
美鈴「あっ…!」ほっとして嬉しそうである。「今、お茶をお持ちいたします」


三国屋
(略)
おカネ「また、三国屋が、お金を貸すことになったんだよ。そうだろ? 彦坊」
沢田「あっ、いや…。あの…、その物言い、なんとか…」
おカネ「何?」
沢田「いえ…。かの地が、今、どうなっておるのか、見てまいれと、甘利様が、わしに、じきじき、密命を下された。よって、おぬしも供をせよ」
卯之吉「私がですかい?」
おカネ「ご領地を守るに、なんぼ、かかるんか、三国屋の名代として、あんたが見てきなはれ」
卯之吉「はい。分かりました」

ナレーション「こちらは、下総への街道でございます」
銀八「どうして、由利之丞さんが?」
由利之丞「うん? いや、弥五さんが来れればよかったんだけど、三国屋の用心棒を頼まれちゃてさ、それで、おいらだけでもってね」
沢田「どうせ、八巻の供をすれば、小遣い稼ぎに、なるとでも思っておるんだろう」
由利之丞「違うよ! おいらは、そんなけちな野郎じゃ…」
銀八「図星でげす」
由利之丞「それにしても、卯之さんが、お役に張り切るなんて珍しいじゃないか」
卯之吉「私は、これを確かめに来たんだよ」
由利之丞「うん? ええっ? 化け物の出る所かい?」
卯之吉「気になるだろう?」
銀八「でも、美鈴さんは残って、こっち(料理)の勉強をしていたほうが…」
美鈴「卯之吉様に、もしものことがないともかぎりませぬ」
卯之吉「皆さんがいるから大丈夫ですよ」
美鈴「当てになりません。いざというとき、私がお守りせねば…」

沢田「先を急ぐぞ」






















 
大富豪同心3 (6) 「大切な女(ひと)」     (脚本:小松江里子 幡大介の原作を読む 
あらすじ  濱島(古川雄輝)率いる「世直し衆」は夜な夜な暗躍していた。必死に捜査を続ける南の同心・村田(池内博之)たちは、世直し衆を何度も追い詰めるが、ここ一番の所で逃がしてしまい窮地に至る。一方、卯之吉(中村隼人)は、ひょんなことから病で苦しむお登勢(橋本マナミ)を助け、診察し投薬もしてやる。卯之吉のやさしさに励まされ、お登勢は気色を取り戻す。そんななか、南町奉行所に「世直し衆」の正体を告げる密書が届く。   
00分00秒~









01分45秒~











09分00秒~












16分37秒~


















































40分16秒~










三国屋
卯之吉が算盤を置いている。障子の向こうにいるおカネ「変だろう?」
菊野「変です。卯之さんが算盤をはじくなんて」
おカネ「なのに、下総から帰ってきてからこっち、ず~っと、あんな調子なんだよ」 
菊野「やはり、美鈴さんのことが…」
(略)
銀八「若旦那。若旦那がお仕事をするなんて、お体に触りやす。どうか、やめてください」(算盤をはじく音)
(爆発音)兎と鈴が結ばれた美鈴の根付けが残された。美鈴の笑顔が卯之吉の脳裡を離れない。

三右衞門宅(卯之吉前にする三右衛門の右に寅三、銀八。左に由利之丞、水谷が座る)。
三右衞門「申し訳ありやせん。捜させたんですが、行方は分からなかったようで…」
卯之吉「そうですか…」
三右衞門「ですが、下総の村人の話では、美鈴さんは、濱島の後を追っていったと。そこまでは分かりやした」
銀八「堤を壊したのは、その濱島先生に間違いありやせん!」
三右衞門「濱島の洲崎の住まいも訪ねさせました。おい!」
寅三「へい。ですが、ここにはいねえの一点張り…」
由利之丞「やっぱり、あの、どか~んで! で、2人して、ばらばらの粉々に…」
水谷「おい! そんなことを…」
三右衞門「ばか野郎! 鬼姫が死んだりするか! どこかで、きっと、生きてるはすだ」
卯之吉「ええ。親分さんの言うとおりです」

三国屋
おカネが屋敷神に手を合わせている。菊野が出てくる。
おカネ「こんなことになるんやったら、もう少し、やり方があったんかもしれへんな。なかなか一緒にならない2人を、なんとかしたいと、親父(おやじ)様から相談されて。それなら、荒療治に限るって、一芝居、打ったんだけど」
回想、(美鈴)「今から食事の支度を…」(おカネ)「もうええ。作っといたで」(おカネ)「まだ汚れてるじゃないか! ここも! ここも! まあ、拭き掃除一つできひん…」
菊野「それを言うなら、私も同じです。そうだと思って、便乗させていただいたんですが…」
おカネ「分かっていましたよ。まあ、家のことは、一つもできひんのには驚いたけど、素直で、まっすぐな、ええ娘さんや。それに、何より、卯之吉のことを、本気で思うてくれてる」
菊野「ええ。誰よりも慕ってくれています」
おカネ「卯之吉の、あの気の落ちよう。2人が、どれだけ、互いに相手を、大切に思うてるのか、よう分かりました」

料亭
(三味線と太鼓)
卯之吉が踊っている。銀八「若旦那を誘ってくれてよかったでげす」
源之丞「俺も気になってたからな」
菊野「いてもたってもいられないだろうにねえ。みんなに心配かけまいとして…」
〽(三味線と太鼓)

(料亭からの帰途)
源之丞「いつも、そうやって着替えてるのか?」(三国屋の若旦那から同心に変わっている)
卯之吉「八丁堀に帰るときはね」
源之丞「ほお…」
銀八「若旦那と同心の一人二役も、大変でげす」
源之丞「よし! 飲み直そう!」
銀八「そうでげすね!」
源之丞「なあ、飲み直そう!
銀八「そうでげす、そうでげす…!」
卯之吉、兎と鈴が結ばれた根付けを取り出して眺めている。
悪党「南町奉行所の同心、八巻だな? 貴様に討たれた仲間の無念、晴らしてくれる!」
銀八「ああ、また…」と気絶した卯之吉に寄り添う。
源之丞「世直衆か。ならば、一切容赦はせぬ!」
掛かってくる7人~8人の手を切っている。
源之丞「これで、当分、刀は持てまい」
最後に残った一人が抜刀する。中段の構えである。
源之丞「なかなかの使い手のようだな」
斬りかかってきた刀応戦の余地も空しく、顔面に刃を突きつけられる。
(呼子笛)美鈴、去る。
悪党「引け…! 引け! 引け!」
卯之吉「あっ…、あれ?」
源之丞「あの太刀筋…」

古寺
(略)
卑劣漢・濱島「けがはありませんか?」
美鈴「はい」
卑劣漢・濱島「せんだっての傷は、もう塞がっている。これで、体のほうは大丈夫かと…」
美鈴「ありがとうございます」
卑劣漢・濱島「何か、思い出しましたか?」
美鈴「何も…。私が誰なのか、名さえ…。ただ…」
卑劣漢・濱島「ただ?」
美鈴「あの者を見たとき…」回想「(源之丞)よし! 飲み直そう!」「 (銀八)そうでげすね!」「(源之丞)なあ、飲み直そう!」美鈴「知っているような…」
卑劣漢・濱島「いかにも。同心、八巻は、あなたの仇敵です」
美鈴「仇敵…」
卑劣漢・濱島「そうです。我ら世直し衆にとっても邪魔な相手です」
美鈴「次に会ったさきは…。斬ります」
卑劣漢・濱島「さあ、薬をのんでください。まだ、本調子ではない」
卑劣漢・濱島「あなたの名前は、美佐緒です」


三右衞門宅(三右衞門と源之丞)
三右衞門「何だと? その侍が美鈴さんだと!?」
源之錠「何度思い返しても、あの太刀筋、間違いようがない」
三右衞門「どうしてだ?」
源之丞「それは分からん!」
三右衞門「けど、この江戸にいるってことだな?」

古寺
美鈴「剣豪同心、八巻、次こそ…!」刀でロウソクを斬る。
卑劣漢・濱島が背後から美鈴のを見つめている(計画どおり、しめしめといったところてあろう)。

 
 大富豪同心3 (7) 「美鈴を探せ!」   (脚本:伊藤靖朗)  幡大介の原作を読む
あらすじ  卯之吉(中村隼人)は「世直し衆」の中に美鈴(新川優愛)が居たことを源之丞(石黒英雄)から知らされる。一方、尾張の家老・坂田(新藤栄作)は、尾張の商人・香住屋(山崎銀之丞)を使い江戸の商人から投資の金を集めていた。姿を消していた濱島(古川雄輝)が突然、卯之吉の前に現れ、美鈴が亡くなったと伝えるが、信じない卯之吉。卯之吉の仲間たちは必死に美鈴を探すが、江戸のはずれに悪党たちが集まっていると聞きつける。   
00分01秒~


































09分45秒~







23分20秒~


















































































































35分20秒~


































































 
(爆発音)
卯之吉の手には美鈴が右の腰に結んでいた兎と鈴が一体となった根付けが残された
ナレーション「下総(しもうさ)の爆発から、半月たっても、美鈴の行方は、分からないままでございました」

三国屋(卯之吉を中央に菊野、銀八、源之丞、水谷、由利之丞、三右衛門が囲んでいる)
卯之吉「美鈴さんが、世直し衆に?」
源之丞「ああ。あの太刀筋、間違いない」 
銀八「何かの間違いでは…」
菊野「でも、どうして?」
由利之丞「分かった!」
源之丞「何が?」
由利之丞「手切れ金目当てじゃないかい? 卯之さんが、あんまりにも、煮え切らないから」
水谷「ばか! 美鈴殿が、そのようなことを、するはずがなかろうが…」
銀八「さいでげす!」
由利之丞「何…、冗談だよ、冗談」
菊野「美鈴さんが、世直し衆に入るなんて、天地がひっくり返ったって、ありゃしませんよ」(おカネが廊下で聞いている)
銀八「そうそう、人違いでげす」
源之丞「俺も、そう願ってるんだが」
菊野「卯之さん、どう思います?」
卯之吉「もし、そうなら、美鈴さんは生きてたってことだろ? よかったじゃないか」
三右衛門「さ…、さすがは旦那だ」
銀八「親分?」
三右衞門「どんなときでも動じねえ、江戸一番の剣豪同心の名は、だてじゃねえな!」
由利之丞「いや、よく分かってないだけじゃ…」
三右衞門「ばか野郎! 旦那は、あっしらを信じてくださってるんだよ。必ず、美鈴さんを取り戻すと」
卯之吉「それは、そうですが…」
三右衞門「皆まで言いなさんな。さあ、油売ってねえで、捜しに行こうじゃねうか!」
源之丞「よし! 俺は、美鈴殿のご実家を当たる」
水谷「俺は、賭場を当たろう」
菊野「料理屋は任せとくれ」
三右衞門「よ~し、行くぜ!」
源之丞「おう!」おカネが立ち去った廊下を歩んでいく面々が勇ましい。

古寺
美鈴「ああ…」額を押さえている。
卑劣漢・濱島「どうしました?」
美鈴「やつが…、八巻が頭から離れんのです。あの夜、見かけてから、ずっと」
卑劣感・濱島「やつは仇敵だからですよ」
美鈴「けれど、どうして、こんなに悲しいのでしょう? 本当に大切な何かを、忘れている気が…」

卑劣漢・濱島「無理は禁物てす。ゆっくりお休みください。この世には、忘れたほうがいいこともあるのですよ。美佐緒さん」

料亭「檜屋」
ナレーション「数日後、檜屋には、卯之吉を訊ねて、意外なお方が…」
卯之吉「濱島先生、ご無事で何よりです」
卑劣漢・濱島「下総で、今まで養生していました。ですか、皆さんが、美鈴さんを捜していることを聞き、矢も楯もたまらず、参上したしだいです」
卯之吉「先生は、美鈴さんの行方をご存じで?」
卑劣漢・濱島「美鈴さんは、もう生きていないと思います」
卯之吉「それは、確かですか?」
卑劣漢・濱島「ええ」
銀八「そんな…」
卑劣漢・濱島「下総で、私が堤を火薬で吹き飛ばした際に、恐らく、土砂崩れに巻き込まれて…。そのあとに、私も必死で捜しましたが、見つかりませんでした。申し訳ありません」
銀八「どうして、美鈴さんを、巻き込んだんでげすか!?」
卑劣漢・濱島「私を追ってきたのです」
銀八「美鈴さんが?」
卑劣漢・濱島「ええ。私の身を案じて」
銀八「そうなんでげすか…」
卯之吉「大丈夫です。私は、美鈴さんの無事を信じています」
卑劣漢・濱島「どうして、そう言い切れるんです?」
卯之吉「私は、美鈴さんなしでは、何もてきないんです。生きていてくないと困ります」
卑劣漢・濱島「それは、あなたの願いにすぎない」
卯之吉「そうですけど…。私には分かるんですよ」
卑劣漢・濱島「では、仮に生きているとして、どうして、あなたのもとに戻ってこないので?」
卯之吉「それは…、どうしてでしょうね」
卑劣漢・濱島「いいかげんにしてください! 私は、あなたを嫌いになりきれない。でも、あなたの、そういう、曖昧で、いいかげんなところが大っ嫌いだ! みずからが、どれほど恵まれているかも気付かず、周りに、その尻拭いをさせている。分かりますか?」
卯之吉「いいえ。さっぱり」
卑劣漢・濱島「そうでしょう。自分は、何一つ、苦労せずに、生きてきた身でしょうから」
卯之吉「確かに、苦労などしたことはありませんねえ」
卑劣漢・濱島「だから、周りの者の苦労も分からない。美鈴さんが戻らないのは、そのせいです。この江戸も同じ。本来ならば、面倒なこと、つらいことを、みんなで分かち合って、世間を支えていかないといけない。でも、今は、あなたたちのようなやからが、うまみを独り占めし、下々の者は苦しみしか味わえない!」
卯之吉「美鈴さんを、私は苦しめていたと」
卑劣漢・濱島「いかにも。だから、失うことになったのですよ」
卯之吉「そうだったんですね」
卑劣漢・濱島「私は、あなたは、普通の商人(あきんど)とは違うと思っていました。でも、所詮は同じですね。もう二度と会うことはないでしょう。失礼します」
銀八「若旦那。美鈴さんは…」
卯之吉「ちょいと、銀八、追っかけてくれないかい?」
銀八「えっ?」
卯之吉「先生をだよ」
銀八「ど…、どうしてでげけすか?」
卯之吉「先生、おっしゃることが、少し、おかしな気がするんだよ。さあ、急いでおくれ」
銀八「かしこまりやした」
(略)

三右衞門一家宅
寅三「親分、深川、洲崎(すさき)の外れの古寺に、名うての悪党どもが集まっておりやす」
三右衞門「悪党どもが?」
寅三「ええ。そいつらが、世直し衆だとすりゃ、美鈴さんも、ひょっとして…」
三右衞門「ばか! 早合点は禁物だ!」
寅三「すいやせん」
三右衞門「そいつらが何者か、探り出してこい」
寅三「へい!」

古寺(銀八が茂みから覗いている。剣術の稽古の声が聞こえてくる。卑劣漢・濱島が座っている)
「濱島殿。こちら、鳥居左衛門。腕は確かでござる」
鳥居「それがしも、まことの世直しに加勢いたす」
卑劣漢・濱島「よろしくお願いします」
銀八「何でげすか? ここは…」

料亭「檜屋」(卯之吉を中央に右から菊野、銀八、水谷、由利之丞、源之丞、三右衞門が座っている)
菊野「濱島先生が古寺に?」
銀八「そうなんでげす。しかも、そこには、柄の悪い連中が、ぞろぞろと…」
卯之吉「先生のご門弟たちじゃないのかい?」
銀八「ありゃ、違うでげす」
三右衞門「寅三の調べじゃ、その古寺に、名うての悪党どもが、集まってるそうですぜ」
源之丞「ひょっとして、そこが、世直し衆の根城かもしれんな」
菊野「じゃあ、美鈴さんも、そこに…」
卯之吉「どうでしょうねえ」
菊野「銀八さん、何か、手がかりは?」
銀八「美鈴さんは見ませんでしたが、鳥居左衛門という浪人がいやした」
水谷「鳥居左衛門だと?」
銀八「ええ」
三右衞門「名うての人斬りだな」
水谷「ああ」
菊野「捜しに行きたくても、危なすぎますね」
三右衞門「あっしが行きてえところだが、悪党どもに面が割れてて行けねえ!」
源之丞「俺は、濱島に顔を知られてる」
水谷「わかった。わしが行こう。美鈴殿が心配だ」
由利之丞「弥五さん、大丈夫かい?」
水谷「ああ」
菊野「水谷様、お願いします」
卯之吉「お願いします」水谷、頷く。

古寺の夜
美鈴、根付けを持った同心姿の卯之吉が過ぎる


同心屋敷の朝。
銀八「若旦那。あれ? 若旦那。あれ? あっ…。うん?」部屋中と庭を捜して、台所「 えっ? どうしたんでげすか? こんなときに料理だなんて」
卯之吉「みそ汁はね、十分に煮立てるんです」
銀八「えっ?」
卯之吉、味見の小皿を渡して「はい」
銀八「はあ…。うえっ! まずい!」
卯之吉「風味が全部飛んでるだろう?」
銀八「なんで、こんな、みそ汁を…」
卯之吉「これが、美鈴さんの味なんだよ。私はね、大抵のことは、どうでもいいんです。でも、この味をなくしてから、どうにも飯がのどを通らない」
銀八「どうして…? どうして、それを、もっと早く、美鈴さんに言ってあけねえですか? あっしも、みんなも、若旦那と美鈴さんが一緒になってほしいって、ずっと思ってるんでげすよ。それなのに、いつも、すれ違って。若旦那は、このまま、美鈴さんが、戻ってこなくてもいいんでげすか?」
卯之吉「美鈴さんが、世直し衆に入ると決めたなら、私は、どうにもできないじゃないか…!」
銀八「違いやす! 若旦那が戻ってきてくれって…、心の底から伝えたら、美鈴さんは、必ず戻ってきやす」
卯之吉「銀八…」
銀八「あっしは、そう信じてるてげす」

(略)

古寺(水谷が茂みから覗いている)
鳥居「濱島先生! 濱島先生!」
卑劣漢・濱島「どうした?」
鳥居「今宵、世直しを行えと」
卑劣漢・濱島「今宵? 一体、どこを?」
水谷、聞き耳をたてている。

三国屋(菊野、銀八、水谷、由利之丞、源之丞が座っている)
水谷「今宵、世直し衆が商家を襲う。上州屋だ」
菊野「上州屋…」
源之丞「すぐに奉行所へ知らせろ」水谷、腰を上げようとするが。
菊野「待って」
由利之丞「どうしたんだい? 菊野姐さん」
菊野「もしも、美鈴さんが、そこにいたら、美鈴さんまで、世直し衆として捕まっちまうよ」
源之丞「それなら、荒海の親分も呼んで、俺たちだけでやるしかねえな」
水谷「久しぶりに暴れるか」
由利之丞「親分に知らせてくる」
菊野「頼んだよ。あとは…」
障子の外から卯之吉「私も行くよ」中に入ってくる。
銀八「若旦那…」
卯之吉「銀八、心配かけて、すまなかったね」
銀八「いえ…。みんな待ってたんでげすよ」
菊野「これで役者がそろいましたね」
源之丞「よし! 行くぞ!」
水谷「よ~し! 合点だ!」

古寺(夜)
美鈴が刀に打ち粉を打っている。
卑劣漢・濱島「何をしているんです?」
美鈴「今宵、私も加勢を…」
卑劣漢・濱島「いけません! 体が、まだ…」
美鈴「もう大丈夫です。今宵こそ八巻に会える気がするのです」
卑劣漢・濱島「駄目だ! 危険です」
美鈴「いいえ。だれが何と言おうと、私は八巻を討ちます!」

上州屋の前
悪党「よし、行くぞ。何だ? てめえら」
三右衞門「ご一党さん、こんな夜更けに、どちらにお帰りで? 随分、重たそうな分、担いでやがるな。ああ?」寅三ほか2名が三右衞門の後で待ちかまえている。
悪党「ええい、引け! 引け!」反対側に源之丞と水谷が待つ。
源之丞「その金は、お局様のもんだろ?」
悪党「おのれ…。なぎ倒せ!」
乱戦。
悪党「地獄にたたき落としてくれる!」
源之丞「そうはさせねえよ」
卯之吉「美鈴さんは、いるかい?」
銀八「覆面ばかりで分からないでげす…」
卯之吉「よく見ておくれよ」
美鈴「八巻、覚悟!」
水谷「なぜだ!?」
美鈴、水谷に打ちかかる。
水谷「うわっ、ううっ…!」
源之丞が向かう「落ち着け!」
美鈴、水谷の胸に刀の柄頭で一撃、水谷「うわっ…!」と気絶、次いで源之丞「うっ…!」は首のあたりを柄頭で打ち、気絶さす。
再び、卯之吉に向かう。八相の構えである。
卯之吉「美鈴さん」
美鈴の目が左右し、目をつぶり、左手で額の部分を覆う。剣を持つ右手は完全に下を向いている。思い出しているのか。
そくへ呼子笛。美鈴、去る。
悪党「引け、引け! 急げ!」
三右衞門「逃がすな! 追え 追え!」
銀八「あれは間違いなく美鈴さんでげす」
ナレーション「すべてのものには、終わりがあるといいますが、卯之吉たちにも、おしまいの時が、訪れつつあるのでしょうか?」

大富豪同心3 (8) 「天下無双の型破り」  幡大介の原作を読む 
 あらすじ  尾張の家老・坂田(新藤栄作)は、濱島(古川雄輝)率いる世直し衆を陰で操り、香住屋(山崎銀之丞)を使い、江戸の商人たちに江戸ではなく尾張に投資させる企てを進めていた。そんな中、卯之吉(中村隼人)は、将軍を講元にする公金貸付を思いつき、江戸からの金の流出を食い止めようと画策。江戸中の商人たちの金を三国屋に集めて、江戸城の御金蔵に運び込もうとするが、そこに世直し衆と美鈴(新川優愛)の刃が襲いかかる。
 女賊は駆けた。自分が何者なのかわからない。わかっているのは世直し衆だということだけだ。仇敵(きゅうてき)は目の前にいた。憎むべき悪徳商人、三国屋の荷車がある。そして一人の若旦那が、ボンヤリと立っていた。
 ヤクザ者たちが立ち塞がる。女賊にとってはなんの障壁にもならない。
「どけぇッ」 
 突きつけられた六尺や長脇差を打ち払う。その一振り一振りが力の入った一撃だ。ヤクザ者たちは撥(は)ね飛ばされて次々と転倒した。
 三右衛門が喚き散らしている。
「旦那に近づけさせるなッ」
 だが三右衛門も群衆に揉まれて身動きできない。
 女賊は走った。
「三国屋ッ、覚悟!」
刀を振りかざして若旦那に突進する。怒りを込めて柄を握った。ただの一振り、斬り下ろせば一刀両断にできる、そのはずだった。
 しかしここで女賊は「ハッ」と息を呑んだ。
 足が止まった。振り上げた刀を振り下ろすことができない。女賊の身体は硬直し、その場で停止してしまった。
 若旦那が突然、失神から覚めて目を開けた。ニッコリと笑みを向けてきた。
「美鈴さん、お帰りなさい」
 女賊は息を呑んだ。
「美鈴……」
「そうです。あなたのお名前です。お帰りなさい美鈴さん。帰ってくるのを待っていましたよ」
 女賊の頬を涙が伝った。
「わたしは泣いている……。どうして?」
 その瞬間、美鈴はすべてを思い出した。
「卯之吉様」
 刀をポトッと落とした。倒れそうになった身体を卯之吉が抱き止めた。
 美鈴は卯之吉にしがみついて泣き始めた。

0分秒03秒~















15分30秒~
































21分08秒~








































35分50秒~







 
三右衛門宅。正面に三右衛門と寅三、右に源之丞と銀八、左に水谷と由利之丞が座っている。
由利之丞「美鈴さんが無事でいることが、分かったのはいいけれど、どうして、世直し衆に?」
源之丞「しかも卯之さんを襲うとはな…」
水谷「何か、訳があるのかもしれん」
由利之丞「どんな訳なんだい?」
水谷「いや、それは分からぬが…」
銀八「きっと、美鈴さんは、世直し衆と一緒に、あの古寺にいるでげす」
三右衛門「こうなりゃ、誰かが探りに行くしか、ねえようだな」
水谷「けれど、悪党が、うようよいる所だぞ」
源之丞「悪党か…」全員が水谷ょ注視する。
由利之丞「ここは、弥五さんが、一肌脱ぐしかないね」
水谷「うん?」
由利之丞「どう見ても悪党の人相じゃないか」水谷、驚いたように人差し指で「わしが?」というふうに指す。全員が頷く。
ナレーション「一同納得」

ナレーション「こちらは、世直し衆の根城でございます」
鳥居左衛門「世直し衆に加わりたいと申すのは、そこもとか?」
水谷「上州浪人、水谷弥五郎と申す」
鳥居「いい面構えをしてるな。よし、いいだろう」
門弟「先生、おかえりなさいませ」卑劣漢・濱島を筆頭に悪党が続く。最後に美鈴もいるが水谷には反応がない。
寺の外の石段に座っている由利之丞に石を包んだ手紙が飛んでくる。文面「推察通り、古寺にて美鈴殿の姿、我見つけたり。然りども何故か素知らぬ顔にて、通られ候。弥五郎」を読んで由利之丞「弥五さん…!」

(とある座敷。正面に幸千代、右に卯之吉、左に菊野、出口に銀八)
幸千代「三国屋に集まった金を、江戸城の御金蔵に運びいれると、甘利より聞いた。さすれば、その道中が狙われる。」
卯之吉「はい、そのとおりかと」
菊野「じゃあ、そこを捕まえて一網打尽に?」
幸千代「あえて、危険を冒し、敵をおびき出す策か。よし、わしも手を貸すぞ」
銀八、小声で「とんでもねえことでげす…」
幸千代「だが、よくそんな大胆なことを、思いついたものじゃ」
卯之吉「上様ですよ」回想(家政)「ならば、こちらから餌を投げ出し、悪党どもに食らいつかせよう」
幸千代「さすが、天下人の兄上じゃ。ますます、わしも、一肌脱がねばなるまい」
銀八、小声で「だから、それが、とんでもねえことなんでげす…」
由利之丞「卯之さ~ん! 卯之さん、大変だ!」幸千代に顔で右を指示される。由利之丞「あっ…!」座って低頭する。
卯之吉「何だい?」
由利之丞「弥五さんが、美鈴さんを見つけたって」
卯之吉「えっ?」と由利之状の元へ寄って手紙を見る。
由利之丞「濱島先生が今いる寺だよ。けど、弥五さんを見ても、誰だか分からない顔だったらしいんだ」
幸千代「美鈴の身に何かあったのか?」
菊野「行方知れずになっていたんですよ」
幸千代「何?」

(古寺)
美鈴の回想「もう大丈夫ですよ…。(蔵の壁を破って助け出された「(9)天下一の放蕩者」のシーン)」回想「ここから逃げましょう!(同一場面)」「あの男は、八巻は私が倒します」

ナレーション「そして翌朝」
村田「行くぞ!」
一同「へい!」
銀八「まるで戦場(いくさば)に行く気持ちでげす…」
(略)
村田「止まれ! 世直し衆だ!」
(略)
卯之吉と銀八の前に賊が立ちはだかる。銀八「あっ…! ちょっと…、ほら、ほら…!」と卯之吉に十手を持たせるが「ああ~…、また、こんなところで…」失神である。しかし賊が刀を振り上げたとき「うっ…!」、水谷「待たせたな」。
銀八「水谷の旦那…!」。賊姿の水谷は他所へ行き、失神した卯之吉と銀八の二人となる。
(略)
美鈴「八巻は私が…」
卑劣漢・濱島「待て!」、源之丞・三右衛門・水谷の前を走り抜けていく美鈴であった。
美鈴「八巻、覚悟!」
銀八「若旦那…!」、失神から覚めた卯之吉は美鈴の方へ歩き出す。
銀八「えっ?」
卯之吉「信じていました。きっと生きていると。美鈴さん」(美鈴振り上げていた刀を下ろす)卯之吉「私が、ばかでした。あなたが、いなくなって、初めて気付いたんです。あなたが、どれほど大事かということを」(美鈴、卯之吉の十手に結ばれている美鈴の飾りを見る)卯之吉「おかえりなさい。美鈴さん」
美鈴「美鈴…?」
卯之吉「はい。あなたの名前ですよ」(美鈴、剣を地面に落とす。覆面を外す。涙が頬を伝っていく)
美鈴の回想「美鈴さん。(最初の同心屋敷の「回想」は未来を紛れ込ませたのではないか。遊びである。「鬼姫の初恋!」「天狗の神隠し!」「地獄の沙汰も金次第!一万両の長屋!」「刺客と揚羽蝶!」「天下一の放蕩者」。剣を持つ美鈴さんは、本当に生き生きととしています。)」「卯之吉様…」と卯之吉の胸に飛びこむ。

後から手負いの清少将がやってくる。二人に刀を振り上げるが卑劣漢・濱島が間に入って後から斬られる。(*清少将に向かって抜刀すべきところ、こともあろうか卯之吉と美鈴の方を向いて両手を広げる。斬ってください。二人の命を救ったという脚色の意図かも知れないが、余りにも不自然、自殺てあろう)。脇差しを抜いた美鈴が清少将の胸を刺す、清少将、倒れて、息尽きる。
卯之吉「濱島先生…」と抱き起こす。
卑劣漢・濱島「あなたが、八巻だったとは…」
卯之吉「だますつもりじゃなかったんですが、すいません」
卑劣漢・濱島「いえ…。謝るのは私のほう…。三国屋の荷を襲わせたのは私です」
卯之吉「先生…」
卑劣漢・濱島「母のためにと誓った世直し。皆を幸せにしたかった。なのに…、忘れていたのです。一番大事なものを…。それを思い出しました。あなたと美鈴さんを見て…。この江戸を、誰もが、幸せに生きられるようにしてください」
卯之吉、強く頷く。
卑劣漢・濱島「美鈴さん…、許してください」
美鈴「濱島様…」
卑劣漢・濱島は死んだ。卯之吉と美鈴を見守っているのは水谷、源之丞、三右衛門、寅三、銀八であった。


同日、三国屋の縁側。
おカネ「これで江戸の町も救われます」
徳右衛門「お前にも面倒をかけた。後見人、ご苦労だったね」
おカネ「いいえ。卯之吉は、もともと、商人(あきんど)の才があったんです。おとっつあんも、それは知っていたはず。けれど、美鈴さんをしごいたのは、裏目に出ちまった」
徳右衛門「まあ、これで、あの2人は、互いの気持ちを、しっかりと確かめ合えた」
おカネ「好き合った者同士、よかった」
徳右衛門「うん」
おカネ「おとっつあん」
徳右衛門「うん?」
おカネ「2人の婚礼の支度、そろそろ、しないとね」
徳右衛門「おお…。はんなりが役に立つとはねえ」
おカネ「えっ?」
徳右衛門「卯之吉たよ。無用の用とは、よく言ったもんだな。あの子がいたからこそだよ」
おカネ「ええ」
徳右衛門「わしをも超え、三国屋をも超えて、もっと、世の中のためになることになるだろう」
襖の影から喜七が大きく頷いている。

江戸城(将軍の前に甘利・卯之吉・幸千代が座っている)
家政「皆の者、大儀であった」
甘利「上様。この者から申し出があった、火除地(ひよけち)を橋で結ぶ策でございますが、町奉行に命じ、早速、取りかかりたいと」
卯之吉「三国屋の祖父も、お手伝いいたしますと申しております」
家政「余にも願い事がある。八巻卯之吉、そちを、側用人(そばようにん)として取り立てたい」
甘利「そ…、側用人?」
家政「幸千代とも話し合(お)うた」
幸千代「はい」
家政「八巻、そちは隙だらけじゃ。だが、それ故に、わしのそはに置くことができる。人を安心させ、心を開かせるのじゃ。どうじゃ?」
卯之吉「困りましたねえ。では、私の願いもお聞きいただけますか?」
甘利「これ! 上様に対し奉り、何を申す! 無礼な…!」
家政「よい。申してみよ」
卯之吉「上様には、この国を、皆が幸せに暮らせるよう、したいただきとうこざいます。そのお手伝いとあれば、お引き受けいたします」
家政「あい分かった。この分なら、飢饉、天災も、すぐに収まるわ。ハハハハ…!」
卯之吉「それと、甘利様」
甘利「わしにもか?」
卯之吉「お勤めは、月に、8日ほどにさせていただけませんか? 料理屋通いも続けたいので…」
甘利「な…、何じゃと?」
家政「ハハハハ…! このたびの一件で、余は、甘利を天下の大器と確信した。だが、その大器を蹴り破るとは…。ハハ…! これぞ、天下無双の型破りじゃ! ハハハハ…! 八巻卯之吉、誠に、あっはれ! ハハハハ…! ハハハハ…!」

ナレーション「そして、その日の夕刻…」
同心屋敷で美鈴が木剣を振るっている。
銀八「美鈴さん、すっかり元気になられたでげすね」
卯之吉「もう心配要りません」
台所から庭の美鈴へ「美鈴さん、出来ましたよ」耳にした美鈴は満面の笑みである。
卯之吉「味見をお願いします」
美鈴「はい」
卯之吉「どうぞ」
美鈴「うん! とってもおいしいです」
卯之吉「そうですか、よかった」卯之吉も笑顔が先行している。
美鈴「どうして、この味が出せないんだろう?」
後ろで聞いていた銀八、障子を閉めて消える。幕前か、幕外、二人だけの世界である。
卯之吉「うまくできる方が、作ればいいんですよ」
美鈴「では、私は、これからも、卯之吉様を、得意な刀でお守りいたします」
卯之吉「お手柔らかに」
美鈴「はい。フフッ…!」
(笑)

ナレーション「おあとが、よろしいようで…」


 

NHK スクエア公式】 on Twitter: "「DVD化してほしい ...


アクセスカウンター