NHK スクエア【公式】 on Twitter: "「DVD化してほしい ...

 

 NHKオンデマンドで愉しむ「大富豪同心2」~じれったい、しかし手に汗握る美鈴と卯之吉の恋とその行方~

(1) 「もう一人の卯之吉」 (2) 「若旦那と若君」   (3) 「若君暗殺!」 
(4) 「謀殺の器」  (5) 「姫の江戸入り」  (6) 「二つの恋」  
(7) 「小判狂乱」   (8) 「江戸動乱(えどどうらん)」  (9) 「天下一の放蕩(とう)者」  


大富豪同心1 大富豪同心3


大富豪同心2 (1) 「もう一人の卯之吉」  (脚本:小松江里子)    幡大介の原作を読む  
あらすじ   桜舞い散る春の江戸。将軍が病に倒れ、徳川政権を揺るがす事態が発生。そんなことなどつゆ知らず、南町奉行所の同心で実は江戸一番の豪商・三国屋徳右衛門の孫である八巻卯之吉(中村隼人)は近頃、寺社巡りにハマり、寺の境内にて自らに瓜二つの謎の男とすれ違う。一方、夜の江戸にて甲府勤番を名乗る謎の籠が襲われる。そこに卯之吉の先輩の南町同心・村田(池内博之)たちが遭遇する…。 ○大奥御年寄富士島と住吉屋藤右衛門は姉弟 、原作は父と娘(23巻『大富豪同心 影武者 八巻卯之吉』8頁 御中﨟の富士島様)てある。
06分30秒~ 
















31分05秒~


37分40秒~
同心屋敷の朝。
卯之吉「美鈴さん、今日から晴れて夫婦(めおと)だよ」
美鈴「はい」
美鈴「あのような夢を見るなんて…。あっ、いけない。」
銀八「お運びしましょうか?」
美鈴「あ、いえ私が」
卯之吉「いただきます」
卯之吉{おや?」
美鈴「何か?」
卯之吉「今日は、いいおだしです」
銀八「そりゃあ、腕も上がりますよ。毎日、若旦那のために作り続けてるんですから。ねっ、美鈴さん!」
美鈴「あっ…、はい」
銀八「で、そろそろ、どうでがす?」
卯之吉「何がだい」
銀八「『何が』って、分かってるでしょう」(三右衛門が事件を知らせにやってくる)

(路上の捕縛シーン)
気絶している卯之吉を守って美鈴、消える。が影から見守ったいる(33分14秒~)

(同心屋敷)
卯之吉「しばらく、いとまを取りたい?」
美鈴「はい。勝手なことを言って申し訳ごさいません。お許しいただけますでしょうか」
卯之吉「わかりました。ご随意に」
銀八「若旦那、いいんでけすか?」
卯之吉「いいもなにも、出ていきたいと言っているのに止める理由もありませんから」
銀八「そんなこと言っちゃ…」
卯之吉「美鈴さんは、美鈴さんの思うとおりにすればいいんです。私に気兼ねなどせずに」
美鈴「では、そのようにいたします」
銀八「美鈴さん…。ああ~、とうするんてげけす?」
美鈴、風呂敷包みを片手に、いつもと違う方向を進み左折する。
銀八「若旦那。まさか美鈴さんのことをお嫌いになったとか」
卯之吉「そんなことあるはずはありません」
銀八「だったらどうして…」
卯之吉「私と、このままにいて美鈴さんは幸せなのかと」
大富豪同心2 (2) 「若旦那と若君」  (脚本:小松江里子)   幡大介の原作を読む   
あらすし  将軍の実弟で後継候補の幸千代と同心・八巻卯之吉(中村隼人)がそっくりうり二つと知った老中・甘利(松本幸四郎)と沢田彦太郎(小沢仁志)は、屋敷から失踪した幸千代の代わりに卯之吉を替え玉にし、幸千代を訪ねて屋敷を訪れた大奥御年寄・富士島(萬田久子)に対してなんとかごまかそうとする。一方、江戸見物をする幸千代とその護衛を仰せつかった美鈴(新川優愛)は、金細工師の娘と遭遇する。  ○原作では老中は馴染み深い本多出雲守であるが、テレビでは老中・甘利備前守となっている。 
 07分20秒~







20分40秒~
団子屋で幸千代「お前が助けに入った男、わしとそっくりじゃったのう。だが敵を前にして気絶するなど、とんだ腰抜けよ」
美鈴「そのようなことはございませぬ! 弱きを助け、強きをくじく、立派なお方でございます」 
幸千代「あのへなちょこがか」
美鈴「南町奉行所同心、八巻卯之吉様。人呼んで江戸の守り神でございます」
幸千代「何?同心だと?」
美鈴「ご無礼いたしました」
幸千代「ひょっとして、あやつのことを好いておるのか?」
幸千代「ハハハハ…! 図星か? なるほど。いさましい女ほど優男む(やさおとこ)が好きというが…。ハハハハ…!」
神社で柏手を打つ美鈴の回想「美鈴さん、今日から晴れて夫婦(めおと)だよ」」
 
大富豪同心2 (3) 「若君暗殺!」  (脚本:小松江里子)  幡大介の原作を読む    
あらすじ  一向に屋敷に戻らない幸千代(中村隼人)を案じた老中・甘利備前守(松本幸四郎)は、幸千代を南町同心・八巻として活動させるという奇策を思いつく。そのことで南町奉行所では、急に捜査に情熱を燃やす八巻卯之吉(本当は幸千代)の勤務態度に村田(池内博之)たち同僚は戸惑う。一方、甘利の屋敷を訪れた富士島(萬田久子)は、上様からの命として、甘利の屋敷に避難用の抜け穴を掘れと伝える。 


























原作で地下に閉じ込められたのは水谷、由利之丞、尾上。導火線を引き抜くのは卯之吉である。24巻『大富豪同心 昏き道行き』よりより抜粋すると次のとおり。116頁~117頁。

尾上が叫ぶ。
「導火線をなんとかしろ! 火薬に火がつく!」
「はあ、これですかぇ?」
卯之吉は導火線を無造作に火薬の箱から引っこ抜いた。水谷も叫んだ。
「遠くへやってくれ!」
「はい」
卯之吉は真後ろにポイッと投げ捨てる。
「それで、皆様方はここで、なにをしていらっしゃるのですかね?」  
15分00秒~








20分45秒~












26分50秒~ 





















38分10秒~
荒巻「『おちか』ですかい?」
幸千代「そうだ」
荒巻「吉原…いや、岡場所の女かもしれねえな。そうなると、あっしらの領分だ。見つけ出しましょう」
幸千代「うむ」
荒巻「ただし若君の御為(おんため)に働くわけじゃねぇ。ドジを踏まれたら八巻の旦那のお名に傷がつく。それじゃ困るから手を貸そうてっんだ。そこんところ、よ~く了見していただきましょう」
幸千代「何!?」
銀八「これから先が思いやられるでげす…」

甘利屋敷
卯之吉「あれ? 美鈴さん」
美鈴「卯之吉様」
卯之吉「聞きましたよ。若君をお守りする役目だとか」
美鈴「はい。幸千代君は同心八巻卯之吉として、お勤めに励んでおられます。南町奉行所の者は誰も疑ってはおりません」
卯之吉「そうですか。それはよかった。こちらにも、誰も私が替え玉だとは思っていないですよ」
美鈴「ですが、若君の身代わりとは、卯之吉様に何かあったらと思うと…」
卯之吉「身についてしまいましたね」
美鈴「えっ?」
卯之吉「私の身を案じることが」
美鈴、立ち去る。回想「身についてしまいましたね。私の身を案じることが」。老中から聞かされた抜け穴の出口で、水谷と由利之丞を見つけて「あっ…、そなたたち、どうして、ここに?」。水谷「美鈴殿こそ」、由利之丞「何で」

「おちか」の調査から犯人がトキゾウであることが判明、三右衛門ほか抜け穴へ走る。美鈴は、一人、近道を行く。
手燭を持った卯之吉「誰かいるんですかい?」 
人のうめき声(縛られて猿ぐつわを嵌められた水谷と由利之丞)
「やはり書院の真下を掘っていたんですねえ…。何してるんで゛す? こんな所で…」
由利之丞「ううっ…! ううっ…!」
卯之吉「これじゃあ答えられませんよね。ちょっと待っててくださいよ」
(殴る音)卯之吉、倒れる。
地上に出てきたトキゾウに美鈴「そこで何を!」
トキゾウ、導火線に火をつける。
水谷「八巻殿!」
美鈴、地下へ。「弥五郎殿!」。水谷「早く消せ!」
美鈴、導火線の火を消す。水谷と由利之丞、地上に逃げる。
美鈴、卯之吉の後頭部を布地で冷やしながら「まだ痛みますか?」
卯之吉「いつも美鈴さんには助けてもらってばかり…。私が、あなたを守ると言ったのに、これでは守るどころか、守られてばかり」
美鈴「卯之吉様」
卯之吉「離れ離れになってる今がいい機会です。もう一度、私とのことをよく考えてみてはどうですか?」 
美鈴「えっ…」
卯之吉「美鈴さんにとっての、一番の幸せとは何かを」

庭で蟻を見ている卯之吉後ろ姿に
幸千代「おい、へなちょこ」
卯之吉「あれ? 若君…。まずいんじゃないですかい? ここで一緒にいちゃ。もし、誰かにみつかったら…」
幸千代「人払いはしてある。お前と少、し話がしたいと思うてな」
座って向かい合う。
幸千代「どうじゃ? わしの替え玉は」
卯之吉「そうですね…。正直言って、少々、退屈でございます」
幸千代「そうではなく、いつも、命を狙われるのは、生きた心地がせぬであろう。わしも、子どものころから、ずっと、そうであった。側近といえど信じず、自分を守り、精いっぱい生きてきた。自分以外の者のことなど考えもせずにな」
卯之吉「しかたありません。信じ合える者がいなければ、自分で自分を守るしか、手はありませんからねえ」
幸千代「のんきなやつじゃ」
卯之吉「はい。喜楽な放蕩者(ほうとうもの)でございます」
幸千代「じゃが、お前はいい手下を持っておる。荒船や銀八、弥五郎に由利之丞そした美鈴」
卯之吉「若君は、何か勘違いを。されているんじゃありませんか? 手下ではありません。仲間ですよ。私は、どなたが公方様の跡を継がれてもいいんです。誰がなっても、お天道(てんとう)様は、毎日、顔を出してくれるんですからねえ。けれど、子どもを怖がらせたりするお人や、信じ合える仲間もいないお人に、正直言って、人の上に立ってほしいとは思いません」
幸千代「何…?」
卯之吉「若君は、お寂しそうです。心にぽっかりと、大きな穴があいているようで…」
大富豪同心2 (4) 「謀殺の器」  (脚本:小松江里子)  幡大介の原作を読む   
 あらすじ 幸千代を殺し損ねた大奥御年寄・富士島(萬田久子)は、大名梅本家の三男・源之丞(石黒英雄)を、卯之吉(中村隼人)の友人とは知らずに仲間に引き入れる。一方、江戸の外れの塗師の仕事場で死骸が動くという幽霊怪事件が発生、同心・八巻に身をやつした幸千代が現場を捜査するが、謎は深まるばかり。その頃、弟の幸千代を思いやり、上様から葵の御紋入りの食器が賜われることとなったことを富士島から告げられる。   
01分10秒~












06分00秒~





39分10秒~
美鈴が老中に報告している最中に卯之吉が庭に出てくる。
老中「何て、勝手に庭に出ておる!」
卯之吉「このお庭、いにしえの歌心が、いかにもあらわれてますねえ」
老中「よいから、早く中に戻れ…! ほかの者に怪しまれる!」
卯之吉「はいはい…」
老中「あんなのを夫に持つ嫁は、さぞ苦労するだろうなあ…」
美鈴「苦労などごさいませんが…」
老中「えっ?」

美鈴「いえ! お嫁になられる方は、さぞ大変だろうなと…」
老中が去ったあとの二人。美鈴、回想「離れ離れになってる今がいい機会です。もう一度、私とのことをよく考えてみてはどうですか?」「えっ…」

事件現場で
幸千代「今、わしが、この男を問いただしておる。邪魔だてをいたすな」(略)
由利之丞「役に立たない同心は、あんただよ!」(略)
幸千代「何!?」(略)
幸千代「帰る!」 (略)

幸千代「不思議な男だ。全く腰抜けで不遜(ふそん)…まあ、取り調べだけは、なかなかの腕前たが」
美鈴「ええ。本人は、ただの道楽だと言っておりますが」
幸千代「わしは、その道楽すら、まともにできぬとでもいうのか?」
美鈴「いえいえ、そのようなことは…」
幸千代「彼奴(きゃつ)め…、わしを駒のように扱いおって。替え玉が終わり次第、処断してやる」
場面変わって卯之吉(くしゃみ)「誰か、また、私のことをうわさをしているかねえ?」
銀八「いいえ。こんな、日のあるうちから、深川に寄り道なんかするからでげすよ」
卯之吉「しかたないだろ? あのお屋敷の食事は、どうにも、まずくてさ」
銀八「つまりは、美鈴さんの食事が恋しいってことでげすよ。どうして、遠ざけようとするんでげす? 美鈴さんを」
卯之吉「幸せになってほしいのさ。私といるよりは」
銀八「でも、美鈴さんは…」

卯之吉「さあ! お屋敷に戻って温かい湯漬けでも食べようかね? ハハハハ…!」
銀八「ちょっと、また、そうやって、ごまかして!」
ナレーション〈はあ~! 素直になれない恋の道〉
大富豪同心2 (5) 「姫の江戸入り」  (脚本:小松江里子)   幡大介の原作を読む    
あらすじ  甲府より、幸千代の許嫁・真琴姫(深川麻衣)が上京することとなった。警護には甲州勤番の侍が、江戸入り後は八巻卯之吉(中村隼人)を敬愛してやまないヤクザの大親分・荒海三右衛門(渡辺いっけい)がそれに加わる。一方、街では川に死体が流れ着き同心たちが捜査を始めるが、調べがまったくできない幸千代を案じた銀八(石井正則)は、屋敷の卯之吉に助けを求める。    
17分05秒~  深川、菊野の座敷で三味線を弾く卯之吉。
菊野「ところで、卯之(うの)さんほうは美鈴さんとは? 今年は、お二人のご婚礼があるかと、思っていたのに」
卯之吉「今は疎遠にしております」
菊野「そのようですね。けれど、どうして?」
卯之吉「菊野姐さんは、いつも生き生きとしている。それは自分の好きなことを生業にしているからかと。芸者の仕事も、おじい様のもとでの商いの修行も。だからこそ、いつも美しく輝いているんですよ。私は、美鈴さんにも、そんな生き方をしてもらいたいんでけす。美鈴さんは、何よりも剣術が好きなんですよ。でも、私の妻になれば、美鈴さんは、きっと剣術を捨てようとする。私のために。それは美鈴さんにとって、幸せでないように思うんです」
菊野「卯之さんが、そう思っていることは…?」
卯之吉「言ってません。私に、そのような勇気はありまんよ」
菊野「卯之さん…」 
大富豪同心2 (6) 「二つの恋」  (脚本:小松江里子)     幡大介の原作を読む   
 あらすじ 真琴姫は無事、江戸入りし老中・甘利の屋敷に入るが、幸千代とは会えずじまい。その頃、江戸の街では悪質な辻斬りが発生し、幸千代を思わせる幸と書いた紙が残される。卯之吉(中村隼人)は死骸を検分し、犯人は真琴姫を襲った公家崩れの殺し屋だと見抜く。美鈴(新川優愛)は卯之吉との関係が上手く行かず悩む。一方、上京したものの自分と会ってくれない幸千代を思って苦しむ真琴姫を思い、卯之吉は、ある作戦を思いつく。    




















































原作では菊野の配慮で真琴姫と幸千代を会わせている。場所は歌舞伎小屋てある。席は上桟敷。格の高い東の上桟敷には御簾が下ろされているが、中には住吉屋父娘ほか悪党が席を占めている。

25巻『大富豪同心 贋の小判に流れ星』第二章「卯之吉攫わる」中161頁~178頁。
18分30秒~







































25分25秒~
 





26分35秒~

































39分00秒~
ナレーション〈翌日、意外なお方が、お屋敷を訪れたのでございます〉
菊野「これを姫様にと」 
真琴姫「誰からじゃ?」
菊野「三国屋の若旦那でございます。真琴姫様が江戸に入られたと知り、献上せよと」
真琴姫「三国屋…そのような者に心当たりはない。要らぬわ」
菊野「そうおっしゃらずに。この色柄、姫様に、よくお似合いになりましょう」
真琴姫「ほう…いい色合いじゃのう」
菊野「はい。お顔が、より華やかになるかと。ねえ? 美鈴さん」
美鈴「恐れながら、よくお似合いでございます」
真琴姫「そうかのう」
菊野「はい。ほかのものも当てられてみては?」
真琴姫「では、頼む」
菊野「これもまた、よくお似合いで…!」
真琴姫「そうかのう?」

真琴姫「えっ、では、そなたたちも知っておるのか? 替え玉の一件を」
菊野「はい。今、身代わりとなっていらっしゃる幸千代様は、先ほど、お話しした三国屋の若旦那で、そして同心の八巻様です」
真琴姫「何? 町人が同心だと?」
菊野「ややこしいとお思いでしょうが、このことは、ご内密に。知っているのは、限られた者ばかりでございます」
真琴姫「分かった。そうしよう。だが、どうして<みんな気付かぬのじゃ? わらわは、すぐに分かったぞ。幸千代様は、あのように腑抜けた顔などしておらん」
菊野「腑抜けた顔?」
美鈴「卯之吉様のことです」

菊野「まあ…フフフ…! 姫様、そのようなことをおっしゃると、美鈴様がおかわいそうです。その腑抜けが、お好きなのですから」
真琴姫「えっ? もの好きじゃのう」
美鈴「お言葉でございますが、卯之吉様が腑抜けて見えるのは、見せかけにすぎませぬ。一度は、命懸けで私を助けてくだされました」
菊野「はい。ですが、剣は使えず、駆けるのは苦手、おまけに、いい年をして、まだお化けが怖くて、そのうえ、ぎらりとした刀(やいば)を目にすると、立ったまま気絶できるのでございます」
真琴姫「まことか?」
回想「(銀八)ああ~若旦那…」
美鈴「菊野さん…」
菊野「あっ、つい…。ごめんなさい」
真琴姫「立ったまま気絶できるとは、なんと器用な。そのような男を、美鈴は好きだと?
美鈴「はい」

真琴姫「その気持ち、わらわは分かるぞ。一度、恋心を抱いた殿方を、女子は、そうやすやすと諦めるものではない。会いたいものじゃ、幸千代様に。なのに、どうして、お顔を見せてはくれぬのじゃ」

真琴姫「礼を言うぞ。良い着物が出来上がった」
卯之吉「はい。きっとお似合いになられますよ」
真琴姫「そうかのう…。はあ…」
卯之吉「そのような、ため息をつかれるとは…」
真琴姫「悲しゅうて、今夜も、また眠れぬわ」
卯之吉「では、気晴らしに良い所へ。美鈴さん、お願いしたいことが」

真琴姫「ここか? いい所とは」
卯之吉「はい。江戸は深川の料理屋にございます」
菊野「まあまあ…! ようこそ、おいでくださいました!」
真琴姫「そなた、この前の…」
菊野「はい。夜は、こちらで芸者に出ております。今日は貸し切りでございます。思う存分、楽しんでいってくださいまし」
(略)
菊野「今宵は、檜(ひのき)屋に起こしいただき誠に…。(一同)ありがとうございます」
(略)
卯之吉「銀八、�御酒(ごしゅ)を」
銀八「はいはい! どうぞ」
真琴姫「そうか」
美鈴「あっ、姫様…」
真琴姫「大丈夫じゃ。はあ…! うまい。酒も、うまいのう」
銀八「でしょう? もう一杯」
真琴姫「ああ…!」
菊野「なかなかいける口でございますね」
真琴姫「何せ、諏訪は、酒が名物での。美鈴も飲め」
美鈴「いえ、私は…」
真琴姫「いいから飲め」
菊野「どうぞ」
美鈴「では…」(せきこみ)(わらい声)
ほい! よい、よい、よいの~、ほっ!
ああ~! 卯之さん、負けました~!
はい! お回り、お回り、お回りよ~!
美鈴「そもそも、意気地がないのでございます! せっかく、江戸まで来られたというのに、これっぽっちも姫様に会おうとせぬとは」
真琴姫「そうであろう? わらわも、そう思うぞ」
美鈴「男なんて所詮、情けないものです!」
ナレーション〈酒癖は、よろしくないようで…〉

お回り、お回り、お回りよ~!、はい!
卯之吉「よい よい よい!」

老中「何ということを! 姫様がご無事でよかったものの、もし、何かあったら、どうする気だ!」
真琴姫「無礼者!」
老中「えっ! ああ…姫様…」
真琴姫「幸千代様に、何という物言いじゃ!」
老中「えっ…あっ、そうか…ああっ…! ご無礼の段、ひらに ひらに…!」
ナレーション〈機転が利く真琴姫〉
卯之吉「いやあ、助かりました。でも、よいのですか? 私が、幸千代君の替え玉でも」
真琴姫「ああ、かまわぬ。わらわは、そなたとも、仲良うしたい。なので、これからは、そなたを幸千代様と思うて、ふるまう。そのかわり…」
卯之吉「何でございますか?」
真琴姫「幸千代様とわらわのことを頼む」
卯之吉「恋の成就でございますね?」
真琴姫「わらわは決して諦めぬ」
卯之吉「はい。私にできることであれば何なりと」
ナレーション〈恋は無敵でございます〉

大富豪同心2 (7) 「小判狂乱」  (脚本:小松江里子)      幡大介の原作を読む   
 あらすじ 遂に卯之吉(中村隼人)と幸千代の替え玉作戦が大奥御年寄・富士島(萬田久子)に気づかれてしまう。富士島の弟・住吉屋藤右衛門(羽場裕一)は大規模な偽小判の生産に着手する。そのため町では小判の代わりに米が値上がりし、庶民の生活が立ち行かない事態が発生。しかしそんな事態にもかかわらず屋敷の卯之吉は、あるきめんです老師の算法に夢中。一方、民の苦しみを救えず自らの無力を感じた幸千代は、卯之吉に出動を依頼する。    
18分10秒~































23分30秒~














30分55秒~







































40分05秒~

 
卯之吉「それは困ったねえ」
銀八「由利之丞さんの芝居子屋だってどうなることか皆目見当がつかねえでげすよ」
幸千代「お前は<どう思う?」
卯之吉「えっ?」
幸千代「悪党のせいで民は飢え、商人は米を買い占める。兄上の江戸をどうすれば…」
銀八「若旦那」
幸千代「皆は、八巻卯之吉が、なんとかしてくれると、口をそろえて言っていた。お前の背には、皆の思いが、重くのしかかっておる」
卯之吉「のしかかる…重さ…。ちょっと失礼をさせていただきますよ」
銀八「ちょっ、ちょっ…! 若旦那!」
幸千代「美鈴、あいつだけでは頼りにならん。行ってやれ」
美鈴「はい」

徳右衛門、菊野「あるきめんです老師?」
「はい。老師の算法を用いて、贋小判を見分けられるのてはと」
徳右衛門「ややや…! すぐに取りかかりなさい!」
卯之吉「はい。では本物と偽物の小判をください」
銀八「これが本物でげす」
銀八「重さは同じでげす」
卯之吉「この偽物の小判、本物より少しだけ大きいねえ。だから混ぜ物が本物より多くても、同じ重さになってるんだ」
銀八「だから見破るのが難しいんでがすね」
卯之吉「でも、こうすると…」
菊野「わあ~…!」
美鈴「偽物の方が上に!」
卯之吉「重さが同じでも、混ぜ物をしているほうは、水に押されて上に上がってくるんです」
菊野「つまり、本物と偽物を秤(はかり)に載せ、水につければ…」
卯之吉「偽物がすぐに分かるのさ」
徳右衛門「喜七! すぐにありったけの秤を…!」
喜七「へい!」
ナレーション〈こうして、江戸中の両替商が、この方法で、贋小判をあぶり出したのでございます〉

三国屋のテーブルを囲む徳右衛門、沢田、美鈴、菊野の四人。
沢田「贋小判のことは、分かるようになったものの、悪党どもの居場所は、どうしても見つからん」
徳右衛門「そうでございますか」
沢田「それと甘利様が、どうやら富士志島様が、こっちの替え玉のことを知っておるのではと」
菊野「それは危のうございますね」
銀八「いいんでがすか? 見回りになんか出て」
卯之吉「深川八幡で、由利之丞さんの芝居が初日だろ? ついでに、ご祝儀も届けられるしさ」
沢田「何を、こそこそしておる?」
卯之吉「そろそろ、見廻りへ」
美鈴「お供いたします」
卯之吉「いいえ。美鈴さんは、真琴姫様をお守りするお役があるので、お屋敷に戻ってください」
美鈴「お助けしたいのです!」
卯之吉「大丈夫ですから。では」


由利之丞「まさか、初日に小屋が閉まっちまうなんてさ!」
弥五郎「衣装も道具も、すべて、おじゃんだよ!」
銀八「2人とも飲みすぎでげす」
卯之吉「見回りがなければ、つきあったんだけどねえ」
衣装を頭から被されて銀八「ちょっ…! ちょっ ちょっ ちょっ…! あれ…? 若旦那?」
と、贋小判作りの一団と出くわす
うわっ…!
悪党が落とした刻印を拾って卯之吉「おや? この刻印、変だねえ」
悪党の猿喰「お前…誰だ?」
卯之吉「私は…」
酔っ払った由利之丞「控えい! こちらは、江戸一番の剣豪同心、八巻卯之吉様だぜえ~!」
猿喰「八巻…? では、まさか、幸千代か?」
卯之吉「おやおや…?」
猿喰「ならば、都合か良い。やっちまえ!」
捕り方がやって来る。抜刀。
酔っている弥五郎に銀八「弥五郎さん、しっかりなすって!」
猿喰「幸千代! 覚悟!」
卯之吉、気絶。銀八が隠す。そこへ幸千代と美鈴やって来る。
(略)
由利之丞「ああ~、怖かった! 若旦那、芝居に来てくれるんなら、お衣装も大事にしてほしいよ!」
卯之吉「すまなかったねえ」
美鈴「卯之吉様。見回りではなく、皆さんと飲んでいたんですか?」
卯之吉「私は、ただ、見回りをしていたたけです」
美鈴「見損ないました」
銀八「いや、美鈴さん、それは勘違いで…!」
呼子笛
幸千代「屋敷へ戻る。あとは任せた」
(略)
同心屋敷の庭で美鈴。回想「ようやく、自分の気持ちに気付きました、あなたを守りたいと」。また回想「もう一度、私とのことをよく考えてみてはどうですか? 美鈴さんにとっての、一番の幸せは何かを」
卯之吉「美鈴さん! さっきのことですが…」
美鈴「卯之吉様の言葉は、どれ~、どう信じればよいのですか?」
卯之吉「それは…」
美鈴「私を守ると言いながら、考え直せと言い、うそをついて…」
卯之吉「それは…!」
美鈴「これ以上、苦しめないでください」


真琴姫に対して美鈴「私は、もう八巻卯之吉を、信じられなくなりました」、
  
大富豪同心2 (8) 「江戸動乱(えどどうらん)」  (脚本:小松江里子)     幡大介の原作を読む   
あらすじ  卯之吉(中村隼人)の策により一度は偽小判の摘発に成功するが、米騒動は収まらない。また美鈴(新川優愛)は卯之吉のついた嘘に傷つき、別れを決意してしまう。そんな中、住吉屋に言いくるめられた両替商たちは、インチキ占い師・呑龍先生のお告げを信じて米投機に財産を投入。米価の値上がりを誘導することで三国屋を追い落し滅ぼそうとする住吉屋の思うつぼとなる。富士島姉弟は勝利を確信し、最後の仕上げに取りかかる。  米の相場は大坂の堂島で決まり、江戸には飛脚便で知らせくる。 住吉屋は不等な手段で、それを早く知り大もうけをしていたのてある。
テレビでは鳩、原作では手旗信号という人界戦術であった。 
18分10秒~










20分25秒~










33分25秒~








35分40秒~
美鈴「また、お出かけでございますか?」
卯之吉「ちょっと、息抜きを」
美鈴「まだ、そのようなことを…」
卯之吉「大丈夫です」
美鈴「卯之吉様。今は、どのようなときか、分かっておいでですか?」
卯之吉「どのようなときでも、私は私です。楽しみを取ってしまったら、私じゃなくなります。美鈴さんも、そうじゃありませんか? 美鈴さんから剣を取ってしまったら…。剣を持つ美鈴さんは、本当に生き生きとしていす。人には、生まれ持った性分というものがあります。魚が水にすむように、鳥が空を飛ぶように。それがなくなってしまったら、生きるのも苦しくなってしまう。いってまいります」


南町奉行所
幸千代「盗人(ぬすっと)ごとき構っている暇きない! 一刻も早く、贋小判の動向を突き止める。贋小判は、徳川の天下を揺るがす一大事。市井の盗みなど、関わってる暇などない!」
村田「何、言ってやがる!」
幸千代「何…!?」
村田「」何が、一大事だ! 捕り物に大きいも小さいもねえんだよ! 俺たち同心の勤めはな、悪党を減らし、江戸の町に平穏をもたらすこと。その市井で暮らす連中の味方に、なることなんだよ! この十手はな、そんな者たちを守るために、お上から与えられてんだ。八巻はな、確かに、剣は使えねえ、走れねえ。けとな、どんなときでも、弱い者には手を差し伸べ、なんとかしてやろうってな。本当に強い男ってのは、そういうやつしゃねえのか」

檜屋。
卯之吉「おじい様に、一つ、お願いが」
徳右衛門「おお~…、何だい?」
卯之吉「上様に、お目にかかりたいのですが」
徳右衛門「ええ~!」
菊野「えっ?」
徳右衛門「上様にと?」
卯之吉「はい」

卯之吉、幸千代と間違われて誘拐される(美鈴に虫の知らせ)
大富豪同心2(9) 「天下一の放蕩(とう)者」  (脚本:小松江里子)   幡大介の原作を読む    
あらすじ  大奥御年寄・富士島(萬田久子)たちにより、卯之吉(中村隼人)は誘拐されてしまう。行方を捜索しようと三右衛門(渡辺いっけい)たちが江戸を疾走する中、甲府へと隠密調査に向かっていた源之丞(石黒英雄)も戻り、富士島の出自の秘密が明らかに。三国屋徳右衛門(竜雷太)は住吉屋の怪しい米投機のカラクリを見抜こうと四苦八苦。幸千代と美鈴は卯之吉を救い出すべく、捨身の潜入に臨む。  ○蔵の中の戦い、これに対応する原作の部分を抄出する。25巻『大富豪同心 贋の小判に流れ星』の「第三章 江戸の夜空に流れ星」中297頁~301頁。
*誘拐されたのは真琴姫と美鈴である。
*場所は港に面した住吉屋の別邸(寮)。

「早くお逃げくださいッ。ここは私が防ぎます!」
 幸千代も立ち向かおうとしたが、腕の中で真琴姫が気を失っている。村田銕三郎も促す。
「若君ッ、今はお逃げください!」
 苦渋の決断だ。
「美鈴、すまぬ!」
 幸千代は真琴姫を抱えて走り出す。同心たちも周囲を守って走り去った。
「タアッ!」
 美鈴は不逞旗本を倒した。すかさず身を翻して真琴姫の後を追おうとしたところで、目の前に焼け崩れた家屋が倒れてきた。逃げ道を塞がれてしまう。
「美鈴、櫓だむ! 櫓へ逃げろ」
 炎の向こうで幸千代が叫んでいる。美鈴は上を見上げた。寮の屋根の上に櫓が建っている。旗信号を遠望するためのものだ。
 美鈴は梯子を摑んで櫓に上った。周囲は火の海だ。火に包まれていない場所は櫓しかない。
 櫓に立って下を見下ろす。幸千代と真琴姫は塀の穴から敷地の外に出た。内与力の沢田たちに迎えられている。その光景が高い場所からよく見えた。
「よかった。ご無事だった」
 ホッと安堵の吐息を吐いた。と同時に自分の置かれた状況も理解する。
 周りは炎に包まれている。この櫓もいずれは焼け落ちるだろう。
「卯之吉様……美鈴の命はここまでです……」
 刀の切っ先を自分の喉に向ける。敵が放った炎で焼き殺されるぐらいなら、武士の娘らしく、我が身を突いて一息に死ぬ。
「せめて最後ぐらいは、あなた様の腕に抱かれて死にとうございました。それが美鈴の願いでした……」
 美鈴の頬を涙が伝った。
 その時であった。
「美鈴様~!」
 卯之吉が夜空をとんでくる。素っ頓狂な声を上げている。美鈴は自決しようとしていたことを一瞬にして忘れ。「えっ……」と間抜けな声を上げてしまった。
 空を飛んできた卯之吉が櫓にビタッと張りついて止まった。
「お助けに参りましたよ。さぁ行きましょう。ここにいたら焼け死んでしまいますからね」
 卯之吉は太い綱で身体を縛っていたのだ。綱は滑車を介して吊り木に繋がり、帆桁は帆柱で支えられていた。掘割に船が浮いている。廻船に重い荷を運び入れるための轆轤船(クレーン船)だ。船には荒海一家と源之丞、溝口左門が乗っていた。轆轤と吊り木を力一杯に操っている。
「さぁ美鈴様。火の手が回らないうちに」
 卯之吉が手を差し伸べる。美鈴は刀を捨てて卯之吉の首に抱きついた。刀が床にカランと落ちた。
「いきますよ!」
卯之吉が櫓を蹴って宙に飛びだす。轆轤船の上では源之丞が叫んでいる。
「今だッ、吊り木を回せッ」
 三右衛門と荒海一家、溝口左門が帆柱を回した。吊り木がグウンと大きく旋回し、卯之吉と美鈴は縄でで吊られるがままに宙を飛んだ。
 眼下は大火事。炎の上を飛ぶ。
「もう大丈夫ですよ」
 卯之吉が囁く。寮の外にも目を向けた。
「真琴姫様もご無事に救い出されたのですねぇ。南町奉行所の大手柄だ。これで沢田様も出雲守様の前で冷や汗を流さずにすむでしょう」
「あなた様も南町奉行所の同心様。真琴姫を助けにゆかずともよかったのですか」
「お姫様は皆で助けるから大丈夫ですよ。あたし一人ぐらいは、美鈴様を助けにゆかないとねぇ」
 卯之吉はニッコリと笑った。
「お江戸の町明かりのなんと綺麗なことでしょう。天のお星さまみたいだ。お城の白壁もよく見えますよ」
 いかにも卯之吉らしい吞気な物言いする。
「旦那様は本当におかしな人です」
 美鈴はいろんな感情が込み上げてきて自分でも抑えきれなくなり、卯之吉にしがついて泣いた。
 00分45秒~






























05分33秒~










08分57秒~


























































24分00秒~
幸千代「とらわれたのは八巻じゃ。だが、敵は、このわしと勘違いしておるに違いない!」
老中「恐れ多くも、将軍家のお世継ぎをかどわかすとは、許しがたき悪逆非道。しかしながら、本物の幸千代君でなくて幸い、あっ…、あっ…。(せきばらい。*廊下に美鈴がいる)それてさらった相手でございますが、やはり大奥年寄、富士島の手の者かと」
幸千代「まことか!? 富士島は大奥を預かり、兄上も頼りにしておる者のはず」
沢田「間違いございませぬ。かの女が江戸を混乱に陥れ、若君のお命を狙っていたのでございます」
幸千代「何と…。わしの身代わりになるとは…。卯之吉の身が案じられてならぬ」
(足音)
「申し上げます。ただいま、上様より備前守様へ、即刻、登城せよとのご下命にございます」
老中「この夜更けにか?」
幸千代「まさか、兄上のご容態が…!」 
老中「確かめてまいります。上様に万が一のことがあれば、幸千代君、あなた様が次の将軍。何とぞ、お覚悟を。町奉行所の者ことごとくを、八巻の探索に当たらせろ」
沢田「はっ! 直ちに」
美鈴「お待ちください」
幸千代「じっしてなどはおれぬ! わしなら悪党をたたきのめすが、あの男では、どうにもならぬ!」
美鈴「ご短慮はなりませぬ! 甘利様のお帰りを、ここでお待ちを」
幸千代「ええい、どけ!」
美鈴「いいえ、どきませぬ! お気持ちは、この私とて同じ」

江戸城
ナレーション〈この夜、久々に上様へのお目通りがかなうこととあいなりました〉
「申し上げます。備前守様、お越しにございます」
徳川家政「うむ。入れ」
老中「そのようなことをなされては…!」
家政「小判が著しく値を下げ、それに反して、米が天井知らずの高値だそうじゃな」
老中「ははっ…」
家政「何もかも、卯之吉と申す者から聞き及んだ」
老中「えっ、なんと…?」

家政「明日、金蔵(かなぐら)を開く」

卯之吉「ここは…? どうやら、さらわれたようですねえ…。はあ~…」

ナレーション〈こうして、眠れない夜が明けました〉

甘利屋敷、真琴姫の部屋
幸千代「急用じゃ! 開けよ! 兄上は無事だとの知らせが、甘利から入った。これから、八巻を救い出しに行く! 必ず連れて戻る。お前のためにも」
美鈴、頷く。
真琴姫「幸千代様! お気をつけて」
幸千代、頷く。

番所
「親分…!、駒込の龍応寺に富士島様のお駕籠が入りやした」
三右衛門「何…? 富士島様が?」
「へい!」
銀八「それって、ひょっとして…」
荒海一家、銀八、水上、走り出す

龍応寺。
住吉や「姉上! 昨夜、甘利殿がお城に呼ばれたと…」
富士島「これ、寺内で騒がしいぞ」
住吉屋「上様のお耳には、すべてのことが…」
富士島「こうなることは承知のうえ」
住吉屋「何と…!」
(略)
蔵の中
富士島「昨夜は、ぐっすりとお休みになられましたかな? 幸千代君」
卯之吉「やはり、あなたが黒幕たったんですね」
富士島「驚かれましたか?」
卯之吉「いいえ、世の中には不思議なことが、たくさんありますからねえ」
富士島「さすがでございます。こと、ここに至っても、落ち着いていらっしゃるとは」
住友屋「幸千代君、あなた様には人質になってもらいますよ」
卯之吉「私が、人質?」
住友屋「はい。事が露見した今、船ょ仕立てさせ、有り金をすべて積み込んで、異国に逃げようと思っております」
卯之吉「異国ですか? それは面白そうですえ。ですが、人質にはならないと思いますがね、この私では」
住吉屋「ハハハハ…! 上様の弟君を見捨てるような者には…」
富士島「どうした」
住吉屋「あの男に似てるのでございます」
猿喰「そうであろう。同心、八巻に似ていて当然。八巻は幸千代の替え玉だ」
住吉屋「いや、そうではなく、三国屋の放蕩」息子、卯之吉に…
卯之吉「そうですよ。私が卯之吉です」
住吉屋「ええっ!」
富士島「まことか?」
猿喰「どういうことだ?」
卯之吉「ややこしいですが、実は、私、卯之吉が同心八巻でして、その八巻が、幸千代君にそっくりということは、私、卯之吉も幸千代君にそっくりということになります」
住吉屋「卯之吉が八巻で…」
猿喰「八巻が幸千代…?」
卯之吉「はい」
実行犯「おかしいと思ったのだ。刀(やいば)ょ見たとたん、気を失うとは…」
(略)
卯之吉「いつものことでして…、はい」
富士島「ええい! こうなったら、どちらでもよい! では、三国屋の孫だな? あの徳右衛門の」
卯之吉「あれまあ…、、おじい様をご存じで?」
富士島「存じておる。昔、私を大奥に容れたのは、その徳右衛門じゃ!」
卯之吉「えっ?」
猿喰「どういたします? こやつ」
富士島「殺しておしまい」
弥市「大変でございます! 幸千代君が、外に…。八巻を返せば、代わりに、みずから人質になると申し出ておられます」
富士島「何?」
門前。
幸千代「あの者を、わしは最初、腑抜けた腰抜けと思うておった。(略)。だが、この世で一番大切なことを、教えてくれた。(略)。人を信じること。仲間の大切さをな。そして、わしのために替え玉となってくれた。頼む! 行かせてくれ…!」
村田「ですが…」
幸千代「もし、ここで、八巻を見殺しにしたならば、このわしは、二度と天地の間に立つことができぬ!」

卯之吉「危ないですよ。前をあけてくたさいな」
大筒じゃねえか。大筒か。
沢田「こんなもの、どこから持ってきたのだ?」
卯之吉「ちょっと、上様から」
沢田「上様?」
(略)
沢田「何をするつもりだ?」
卯之吉「この大筒で、塀を打ち破るんですよ」
三右衛門「俺は、こんなもん、触ったことがねえぜ」
水谷「よし…、わしが撃とう」
源之丞「俺にも任せろ」
猿喰「遅い! 船は、一体、どうしたんだ?」
弥市「それが…まだ何の返答もありません」
猿喰「まさか、幸千代君を見捨てるとは思えぬが、もし、うまくゆかぬときは…」
小六「少々、下です」
小六「源之丞様、すこし上に。そこです」
(砲声)
富士島「何事じゃ!」
住吉屋「塀が壊され、捕り方たちが押し寄せてございます!」
(鬨の声)
(略)
美鈴「卯之吉様!」
卯之吉「美鈴さん!」
銀八「姫様!」
(略)~蔵に火ががつけられる~
真琴姫「幸千代様…!」(蔵へ向かって走り出す)
美鈴「姫様」(あとを追う)
ナレーション〈恋は、無敵でごいます〉
(略)~蔵の中では幸千代が縛られている縄と格闘していた~
幸千代「ううっ…! くっ…! ううっ…!」
真琴姫「幸千代様」
幸千代「真琴か?」
真琴姫「ご無事で!」
美鈴「さあ、早く、ここから!」(刀で幸千代を自由にする)
猿喰「逃げられると思ったか! せめて、お前の命だけは取ってくれる」
美鈴「ここは、私にお任せを。姫様とお逃げください」
幸千代「たが…!」
真琴姫(せきこみ)
美鈴「早く!!」
幸千代「美鈴…!、すまぬ!」
卯之吉「美鈴さんは?」
幸千代「まだ中に!」
銀八「若旦那」
卯之吉「銀八」
蔵の中。戦いは二階へ移る。美鈴、右手に傷を負うが猿喰を倒す。しかし猛火で゛一階へは降りられない。
美鈴(せきこみ)「もう一度、会いたかった…」
その頃、卯之吉「銀八!、火縄を…」
銀八「ああ…! はい…!」
卯之吉「さあ、早く…」
銀八「ああっ つきやした!」
卯之吉「熱い…!」
銀八「ああっ ああっ…!」
卯之吉「早く、火を!」
銀八「えっ? あっしがですかい?」
卯之吉「ほかに誰がいるんだい1」
銀八「ああ~…!」
(砲声)
銀八「ああ…!」
壁に穴があき、あたらしい空気が入ってくる。階段を下りる。卯之吉が見える。
卯之吉(せきこみ)「美鈴さん! 無事ですか!?」
美鈴「卯之吉様…」と、胸に飛び込む。抱擁。
銀八「助けにきたでげす!」
卯之吉「もう大丈夫ですよ…」
銀八「若旦那、早くしないと!」
卯之吉「美鈴さん、ここから逃げましょう!」と、美鈴、卯之吉に抱き抱えられるようにして外に出る

(事後処理も済んだ現場)
源之丞、柄杓で水を飲む銀八に「銀八 卯之さんは?」
銀八「あちらに。今は、2人だけにと」(本堂の入り口に腰かけている)
卯之吉「ほかに、けがはありませんか?」
美鈴「きっと来てくださる。心のどこかで、そう信じておりました」
回想、美鈴。真琴姫「そなたはどうなのじゃ?」美鈴「私は…。信じています。卯之吉様を」
美鈴「私の幸せは、剣術です。ですが、卯之吉様のおそばにいることも、幸せなのです。どちらも選べません」
卯之吉「美鈴さん…。分かりました。どちらか一つと思った私が間違いでした、2つとも手に入れればいいんですよね。剣術も、この私も。美鈴さんの幸せが、私の幸せですから」
美鈴「卯之吉様」

    12巻『甲州隠密旅』より抜粋、292頁。

美鈴の腕に先ほどの痛みが残っている。打ち払おうとした時、相手の膂力を受けきれずに、筋を痛めてしまったらしい。それほどまでの豪腕と、重い刀であったのだ。

「おや」
と、卯之吉が美鈴を見た。
「どうかなさいましたかえ? 腕がお悪いのですか?」
美鈴は努めて痛みをこらえていたのであるが、医工の修行を積んだ卯之吉の目を誤魔化すことはできなかった。
「お見せくださいまし」
卯之吉は美鈴の腕を取って袖を捲(まく)り上げようとする。
美鈴は顔を紅く染めて恥じらった。真っ白な腕を剥き出しにされて、しかもその手を卯之吉に握られている。
「お、おやめくださいませ……っ」
「何を仰っているのです。これは医工の見立てです」
卯之吉にとってはそうなのであろうが、美鈴にすれば、好いた男に手を取られ、柔肌を見つめられ、時には優しく撫でさすられるのだからたまらない。恥ずかしいやら嬉しいやら、今にも昇天しそうな顔つきで、身を震わせ続けたのであった。

    18巻『大富豪同心 卯之吉江戸に還る』より抜粋。18頁。

三右衛門が美鈴を見つけて睨みつけた。
美鈴までちゃっかりと小上がりに座って汁粉の椀を手にしている。男装の女武芸者ではあるが、やはり年頃の娘。こちらも甘い物に飢えていたようだ。
「いや、わたしは別段……」
などと白(しら)をきってみせたが、椀から手を放そうとはしなかった。
卯之吉はまったく悪気も邪気もない笑顔をみせている。
「皆さんもご一緒にどうです」
     


アクセスカウンター