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one of my favorite movies.
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薄れゆく記憶のなかで
In Fading Memory
【ストーリー】
橋の上で長良川の流れを見つめながら、和彦は、薄れゆく記憶のなかでただひとつ今も忘れられない、10年前のあの頃のことを思い出していた。
田舎に行けばどこにでもあるような緑濃い県立高校。鷲見和彦(堀真樹)はブラスバンド部に所属する3年生。同じクラブには、分厚いメガネをかけ、歯科矯正金具がピカリと光るさえない女の子、琴澄香織(菊池麻衣子)もいる。彼らは人並みに、進学や友人とのつき合い、そして「自分は何がしたいんだろう」などといった悩みを持ちながら、すっきりしない毎日を過していた。
そんなある日、前からブスだと思っていた香織のメガネを偶然壊してしまった和彦は、その切なげな素顔にドキッとする。意識し始めると気になってしまう和彦。実は香織もまた、ずっと前から和彦のことを......。夏休みに入り、ブラスバンド部の合宿で香織への想いを打ち明ける和彦。それからはおたがいのもの足りないものを補うかのようにたどたどしく仲良くなっていく。しかし和彦には、時折見せる香織の不安げな暗い表情を見る余裕などなかった。
そして二人にとって初めてのデート、至福の時を過ごしながら、ギクシャクと、しかし一生懸命、自分の将来の夢や悩みを話す二人。そして思いがけない初めてのキス......。しかし、幸福になればなるほど、香織の表情は翳りを増していった。そして天文ドームで二度目のキスをしようとする和彦の頬をたたいてしまう。訳が分らずに怒る和彦。
星祭りの夜、再び仲直りをしたのもつかの間、和彦は、香織の隠された秘密を知り、二人の関係は大きく変わってゆく......。
【解説】
初めて異性に対して友情以上の好意を抱き、純粋に少しでも長く一緒にいたいと思うこと......初恋。誰もが必ず一度は経験するであろう、あの甘美で幸福で、それでいてもどかしく胸をかきむしられるような想い。初恋は、たとえそれがアンハッピーに終わったとしても、そしてその後いくつかの恋を経ても、心の奥深くに永遠の思い出として残るもの。『薄れゆく記憶のなかで』は、一人の男性の初恋の記憶を、透明感あふれる映像とリアルな描写で綴っている。
美しく、豊かな長良川の流れる町を舞台に、自分が将来何をしたいのか悩む男子高校生と、目標は決まっているが人に言えない秘密を持つ少女が、ぎこちなくも愛を育んでゆく。しかしその少女の秘密を思いがけず発見してしまった彼。やがて二人は離れていく......。初めて好きになったときのときめきや喜びと、相手を思いやる余裕がないがため知らぬ間に相手を苦しめ、またもう一方で傷ついてしまうといったこの映画が描く”思い”は、必ずそれぞれの”想い”として刻まれるに違いない。
監督の篠田和幸は、この『薄れゆく記憶のなかで』で、デビューを飾った。今まで一度も現場経験がなく、しかも学生時代に自主映画を撮ったこともないとはとても思えない才能と情熱で、この作品を完成させた。5年前から脚本を練り続けてきた篠田監督は、純粋さと純粋さであるがゆえの残酷さの両面を描くことで、初恋に込められた新鮮な物語をくっきりと浮かび上がらせている。
またスタッフは、プロの技術を全面的に信頼し、経験豊かな力強い人材で固めた。撮影は『1999年の夏休み』『12人の優しい日本人』などを手掛けたベテラン高間賢治。プロデューサーには『少年時代』『遠き落日』の永井正夫。これら日本映画の第一線で活躍するスタッフが篠田監督の脚本に惚れ込み、いいものを作ろうという共通の目標による強い団結力で、このすばらしい作品が完成した。
キッストは、全国4ケ所(東京、大阪、岐阜ほか)で数千人ものオーディションから選ばれた和彦役の堀真樹と、香織役の菊池麻衣子。スタッフの全員一致で決定したこの二人が、実は今まで役者経験がまったくないのみならず、学芸会すら経験したことのない、いわばまったくの「演じる素人」だったという事実は、映画を見終わった人々を驚かせるだろう。
配給 ヘラルド・エース/日本ヘラルド映画 (96分)1992年作品
製作 丸八篠田/Never Forget Films(N.F.F.)
製作プロダクション サクセスロード
製作協力 岐阜教育映画センター
監督 篠田 和幸
撮影 高間 賢治
音楽 辻 陽
出演 堀 真樹(鷲見和彦) 菊池 麻衣子(琴澄香織)
田中洋子(早乙女由美子) 日比野 暢(小熊一平) 田村 貫(鷲見金造)