公開資料 31 「カウンセリング基本技法」(國分康孝)                 

 
 教師は個人面接も,授業も両方上手になって欲しい。集団を育てるのには構成的グループエンカウンターが有効であるが,今回は個人を面接したり,家庭訪問したりする場合の心構え,つまりカウンセリングの基本技法について話をしたいと考えている。
 
1 カウンセリングの基本原理
 
@治そうとするな分かろうとせよ。
 クライアントの中には「実は今のままでいたい(極端に言ってしまえば治りたくない)」と思っている人がいる。だから,成功率は6割と言われている。であるから,クライアントがどうしてこのような状況になったのか分かろうとするほうがカウンセリングの成功率が高い。とにかく相手の身になって話を聞くことである。
 
Aことばじりをつかまえるな。感情をつかめ。          
 言葉は感情に左右されるものである。クライアントの言葉の裏にある感情をつかむことが大切である。
 察しの良い教員は,保護者や子どもと同じ様な体験をした人が多い。急に体験を積むことは無理であるが,察しの良い教員になるためには,いろんな体験をした人の話を聞くことである。そうすると,人の感情に気付くようになる。
 
2 カウンセリングの3本柱
 カウンセリングの方法は年齢や発達段階によって工夫しなくてはならないものであるが,どの学年でも使えそうな方法がコーヒーカップ方式である。これは人間関係をもつときの3本柱とも言える。
 
(1)リレーションを作る
(2)問題の把握
(3)適切な処置
さて,ではどうしたらこの3本柱をもった面接をすることができるのだろうか。
 
3 カウンセリングの基本技法(説明・デモ・実習 の順で)
 
(1)受容(単語の繰り返し,うながしを含む)
 一番使う頻度が高い技法である。カウンセリングは社交会話ではないので,相手の世界に入り込み,相手の目で,相手の世界を見ることが必要になってくる。カウンセラーは受容することで自分の考えに固執せず,クライアントと同じ考えをもつことができる。また,クライアントは受容されることで,カウンセラーを受け入れる。咎められることがないので自己肯定感が高まる。
 
(2)繰り返し(言い換え)
 繰り返しとは,聞いたことを繰り返すことであるが,この方法でクライアントの自問自答を促進することができる。問題を解決する場合には良い方法である。ポイントとしては結局この人は何を言いたいのか,ということをつかむことである。クライアントが難しい話ばかりしたり,べらべらしゃべったりして,なかなか何を言いたいのかつかめない場合には「ようするに,あなたの言いたいことを一言で言うと?」などと,問いかけてみるとよい。繰り返しがうまくいくと,クライアントは分かってもらえたという感じがする。
 
(3)明確化(感情・意味の反射) 
 明確化とはクライアントが言葉にしていないが,潜在的に気付いていることをカウンセラーが言葉にしてやることである。例えば,「僕,死にたいんですけど。」と言ってきたクライアントの潜在意識には「生きたい。」という気持ちが隠されている。そういうときには「生きる意味さえ見つかれば生きたい,と言っているように聞こえるけど?」といってやるとよい。意識の拡大が悩みを解決してくれる。
 
(4)支持
 カウンセラーがクライアントに「私もそう思うよ。」「みんな,そうだと思うよ」などと言う方法である。この方法は自己受容を促進する。ただし,支持するためには根拠が必要である。根拠には,理論的なもの,類似の事例を出す方法,自分を振り返り個人体験を持ち出す方法がある。
 
(5)質問
 質問をする場合のねらいは3つある。1つ目は情報収集,2つ目はリレーションづくり,3つめは相手に考えさせる時間を与えることである。
 質問には2つの種類がある。1つ目は閉ざされた質問(closed question)である。これはYESかNOで答えられるものである。診断するのに使うが,詰問風になるので恐怖心を与えることになりかねない。2つ目は開かれた質問(open question)である。これは自分の言葉で答えるような質問である。自分の言葉を選んで答えられるというよさがあるが,話すのが苦手な人には負担になることもある。この2つをとりまぜて聞くと良い。よくぞ聞いてくれましたとクライアントが思っているような質問ができたらしめたものである。
 問題をつかむためには芋蔓式に聞いていくこと。そして,聞かれて嫌なことは後回しにすること。そして自分の立場を利用して好奇心を満たすようなまねをしないこと。
 
4 問題の扱い方
 
(1)リファー
 リファーとは他にまわすと言う意味である。自分で手に負えない問題の場合は専門家にまかせるのがよい。全部自分で抱え込むことは子どもの幸福を妨げることになりかねない。
 
(2)ケースワーク
 物理的に何かをして助けたり(金銭の援助,食事を与えるなど),環境を変えてやったりすることである。
 
(3)スーパービジョン
 How toを教えるということである。例えばスキルを知らないで悩んでいる人のために,ティーチングスキルを教えたり,ソーシャルスキルを教えたりしてスキルの改善を図ってやる。
 
(4)コンサルテーション
 情報提供とアドバイスをすることである。情報の得方を教えたり,得た情報の使い方や使う方法をアドバイスする。
◎アドバイスをする場合のポイント
・無理矢理しない。相手が気兼ねなく拒否できるようにしておく。
・命に関わる場合は強引にする。
・実行したときに生じる問題も予告しておく。
・アドバイスを受けた人が戻ってきたら,もう一度一緒に考えてやる。
 
(5)具申
 問題がクライアントが所属している組織にある場合,組織の長に具申する責任がある。
 
(6)狭義のカウンセリング
 何をしてもだめなとき,真のカウンセリングが必要になってくる。ロジャースの来談者中心法などである。
 
(7)その他
@内観法
 日本で古くから行われてきた方法である。内観法は吉本伊信が開発した自己探求法であり、体系的な自己反省を通しての 精神修養法。
A対決法
 伝家の宝刀。「あとは野となれ山となれ」と言う時の方法である。地位や身分を捨てて一人の人間としてあたると言う方法である。相手の矛盾を正したり,つきつける。
 
※この講義の内容は,「2002年教育カウンセラー養成講座 岩手会場」で行われた國分康孝先生の御講義から引用したものです。 
 
       

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