公開資料 26 「コミュニケーションの原理と技法」(國分康孝)                 

 
1.心理コミュニケーションとマスコミュニケーション
 心理コミュニケーションは,特定の人間が特定の相手に対して行うもの。マスコミュニケーションは,不特定集団に世論を形成するために行うもの。
<両者の共通点>
・情報を与えるという点で共通している。
<相違点>
(1)対象が違う。「心理」は特定個人(もしくは確認できている相手)を対象,「マス」は不特定集団が対象。
(2)コンタクトがあるかどうか。「心理」は特定の人間が情報を伝え,受ける人も特定であるために両者の間にコンタクトがある。一方,「マス」はテレビ,新聞などを介して情報を伝え,受ける人も不特定であるために両者の間にコンタクトはない。
(3)目的が違う。「心理」は特定個人,特定集団の成長を助けることが目的になる。一方,「マス」は世論を形成することが目的となる。
 
2.なぜ,心理コミュニケーションが必要なのか
・これまでのカウンセリングはロジャース流の傾聴が重視されてきた。例えば,産業カウンセラー協会は産業カウンセラーの養成に対して,多くの時間をとり,カウンセリングの理論と技法を教え,特に傾聴を多めに教えている。それはなぜかといえば,企業では部下の話を聴かない上司が多いのでその改善に向けて傾聴スキルを重視している。しかし,教員の場合は聴くだけでは教育にならない。アクティブリスニングだけでは教育ができない。
・ルソー,ペスタロッチ,フレーベル,エレンケイなどの考え方は,「子供は草木と同じであり,本来成長する力を持っている。だから,ああしろ,こうしろと言わなくてもいい。太陽と水さえ与えれば伸びる存在である」ということである。ロジャースもほぼ同じ思想を持っている。それゆえ,「非審判的,許容的」という考え方になる。ノイローゼの治療の場合はそうした考え方でいいだろう。しかし,教育の場合は,教師が自分の考えを子どもに対してコミュニケートする必要がある。能動的コミュニケーションが必要である。例えば,バスの座席に座っていて,老人が近くに立っていたなら,席を譲るものであるということを教えるのが教育である。
・「教育カウンセリング」とは,教師の誰もが使えるカウンセリングであり,教師だからこそ使えるカウンセリングのことである。教育カウンセリングには次のようなものがある。
(1)構成的グループエンカウンター(SGE);SGEは現在,ほぼ全国の教育センターの研修で取り入れられ,脚光を浴びている。学級経営,友だち作りに効果的なSGEを行う場合,コミュニケーションの力は不可欠である。例えば,「今日は,こういうエクササイズをしますよ」と伝えたり,「5人一組になってください」と伝えたり等,エクササイズを展開していく上でコミュニケートする力が必要である。SGEを実践している教師の声として,「授業がうまくなった」という報告が多い。それは,おそらく学級にSGEを実践しているうちに教師のコミュニケーション能力が高まったのであろうと考えられる。
(2)キャリアガイダンス;教師が一方的に進路の話をするだけでなく,プログラムを作り,「○○を見学してきなさい」,「4人組になってシェアリングしてください」等の能動的コミュニケーションなしにはキャリアガイダンスは展開しない。アメリカのスクールカウンセラーはキャリアガイダンスも行う。そして,「僕たちは心理療法家ではない,教育者だ,サーティファイド・プロフェッショナル・エデュケイターだ」と言う。日本のスクールカウンセラーもアメリカ同様に,「僕は教育者であり,プロの教師である。プロとは教育も知っているし,カウンセリングも知っているということである」となってほしい。
(3)サイコエヂュケーション;ソーシャルスキル教育などがその目玉商品である。人権教育,性教育,エイズ予防教育,薬物予防教育,ソーシャルスキル教育,自己主張訓練,スタディスキル教育,問題解決スキル教育(コーピングスキル教育),いずれもカウンセラーの話す能力が必要であり,教育的色彩が極めて強い,対集団のカウンセリングである。おそらく,今後,教育の世界でサイコエヂュケーションが拡がってくるので,子どもにかかわる者は,傾聴,共感的理解だけではなく,思考・行動・感情の表現方法(パンチの効いた出し方)を訓練する必要があるだろう。日本の心理学ではコミュニケーションの理論や技法を教えない風潮がある。社会学の分野にコミュニケーションがあるが,コミュニケーションの専門家はいない。子どもにかかわる者は,これからカウンセリングで使えるコミュニケーション(心理コミュニケーション)を学ぶといい。
(4)授業に生かすカウンセリング(別称,対話のある授業);この分野でもコミュニケーションの力が必要になってくる。聴くだけではいい授業ができない。
(5)チーム支援;養護教諭と学年主任,担任がチームを組んで子供をヘルプしようということ。職種の違う人同士,がうまくコミュニケーションが取れないとチームとしての支援はできない。東北大の長谷川先生は家族療法を研究しているが,コミュニケーションがうまくいかないから家庭がうまくいかないという考え方である。精神分析,論理療法の分野にも家族療法があり,その他いろいろな立場からの家族療法があるが,コミュニケーションの立場からの家族療法が有名である。チーム支援においてもコミュニケーションの知識と技法が必要である。
 
・教育カウンセラーにはコミュニケーションの知識と技法が必要である。それでは,教育カウンセラー以外の人には必要ないかといえばそうではない。カウンセリング主要理論の全てはコミュニケーションの理論と技法を必要としている。それゆえ,全てのカウンセラーにとって,コミュニケーションの知識と技法が必要ということになる。主要理論を一つ一つ以下に説明する。
 
(ア)精神分析理論;面接時間50分のうち,40分はクライエントの自由連想。その後,10分でカウンセラーが解釈する。例えば,職場等でいつも年上の人とけんかするのは,年上の兄さんとの不和が職場の人間関係にも出ているのではないか,と解釈する。解釈とは行動の原因の説明などである。カウンセラーの解釈を受けて,クライエントがなるほどと思うことがある。カウンセラー(分析者)には解釈という名のコミュニケーション能力が必要になる。ベテランカウンセラーは簡単に語っただけでクライエントは納得する。ところが経験不足のカウンセラーはべらべらしゃべってもクライエントは納得しない。解釈の仕方についての研究は今のところない。しかし,カウンセラーの解釈は,思想としては「打って出る」という感覚である。
(イ)ロジャースの自己理論;ロジャースの極端な受け身的なカウンセリングが日本に普及したことが現在においても影響を及ぼしている。1957年のロジャースの「人格変容に必要かつ十分な条件」は一番引用される論文である。共感的理解,無条件肯定感情,受容などの言葉がロジャース理論のキーワードであり,それだけが強調されているが,それだけではクライエントの症状は治らないとロジャースは言っている。「私は○○のように理解したがどうでしょうか,伝わってますか」と絶えず,自分の気持ちや共感的理解,無条件肯定をクライエントに伝えなければならないと言っている。クライエントの問題を解決するために条件が6つあると論文に示されている。「カウンセラーはクライエントとコンタクト持つこと」,「カウンセラーはクライエントよりも自己一致が高いこと」,「共感的理解」,「無条件の好意の念を持つこと」,「コミュニケートすること」などである。ところが,「伝える」という部分を日本では強調せず,聴くことだけが強調され,それがカウンセリングであると誤解した。あれほど受け身的なロジャースですら「伝える」という能動的コミュニケーションの必要性を言っている。
(ウ)行動療法;「来週までにこの課題をしてください」というような指示が多い。系統的脱感作においても「1日2回やるんだよ」と課題を出しておいて,クライエントがやってきたら「よくやったね」とほめ,ポジティブな感情を伝える。まさに,コミュニケーション能力が必要とされる。
(エ)論理療法;クライエントのイラショナルビリーフ(非論理的な信念)に焦点を当て,カウンセラーの人生観を相手に伝え,「君はそう思わないか」と迫る。まさにコミュニケーション能力が必要である。
(オ)実存主義的カウンセリング;フランクルの実存分析が代表的。クライエントの話を聴くのが半分,カウンセラーが語るのが半分。妻(久子)の指導教授であるムスターカスとのエピソード。留学後,学費生活費を稼ぐためアルバイトをしようとしたが,留学担当教授が「勉強しなさい」と言って,許可しなかったことがある。当時,学生は週に12時間アルバイトの権利があった。「アルバイトが許可されずに困っている」とムスターカスに相談したところ,担当教授に掛け合ってくれたが,話がこじれてしまった。その後,ムスターカスにお礼を言いに行ったところ,「君個人のために喧嘩をしたのではない。アメリカンジャスティスが犯されているから喧嘩したんだ」とムスターカスが言った。その時に,実存主義は自分を打ち出すことがメインであると学んだ。非言語でも自分の気持ちを打ち出すことが必要だが,言語でも打ち出すことが必要であるということを学んだ。聴くだけがカウンセリングではない,必要な自己主張ができることもカウンセリングには必要であるということである。
(カ)交流分析;エゴグラムをもとにして,「君はPが足りないね」と伝えていく。これはまさに学校の教師風アプローチである。交流分析はコミュニケーション能力なしには使いにくいだろう。
(キ)特性因子理論;心理テストの理論。テストをして,相手がイヤな気持ちにならないように伝える言い方が必要である。例えば,「君,英語は0点だけど,国語80点だよ」と伝える言い方と,「君,国語は80点だったぞ,でも残念ながら英語は0点だったなぁ」と伝えるのではだいぶ与える印象が違うだろう。最初にほめておいてから,指導をするとクライエント(子ども)は受け入れやすい。ナーシズムがふくれていると辛いことにも耐えやすいということがある。こうした伝え方なども一つの技法であり,言うならば,心理テストにおけるコミュニケーションの技法であると言えるだろう。
 
・結論は現存する理論のどれもがコミュニケーション能力なしには使えないということである。それ故にカウンセラーにとってコミュニケーション能力は必要不可欠ということになる。特に,教育カウンセラーはコミュニケーション能力がないとSGEをはじめとするそれぞれのエリアで十分な教育カウンセリング活動できないということである。
 
3.心理コミュニケーションとはなにか。
・心理コミュニケーションは,ある人が情報を出し,それに対して相手の人が反応するというやりとりを繰り返す。「出す−反応する」というやりとりがマスコミュニケーションとは異なる点である。一言で言えば,「情報を共有する」ということである。「僕は君が好きだ」と伝え,相手から「そう言われてうれしい」という反応が返れば,フィーリングを共有したことになる。簡単に言えば,一方的伝達ではない情報の共有ということである。情報のことを「メッセージ」という。その中味は何かといえば,思考と感情,行動(事実)であり,この三つを総称してメッセージという。教師のコミュニケーションと言った場合,それは思考,感情,行動(事実)を生徒と共に共有するということである。
・イメージを持つための具体例。14歳,幼年学校に在学中,父が面会に来た。「今度いつ会えるかわからない」と話したら,「おまえがいなくなると俺は寂しくなる」と父が言った。その時に,「父も母と同じように子供を慈しむ気持ちあるんだ」と思い,子供ながらに両親に愛されているという感じを強く持った。「おまえがいなくなると俺は寂しくなる」という言葉は感情のコミュニケーションである。
・具体例その2。アメリカで博士論文が通った時,指導教授のファーカーに「おかげさまで論文が通りました」とお礼を言おうとした。その時,ファーカーが「大事なことだからクリアにしておく。学位は人からもらうものではない。私は君に学位をやった覚えはない。君自身が基準を突破したんだ,君が勝ち取った学位だ」と言った。これはファーカーが思考をコミュニケートした瞬間である。日本に帰ってから大学院の学生の論文指導をする際,ファーカーの言葉を学生に伝えた。「君たちは俺から修士をもらうのではない。人生は頭を下げて人からもらうのではない,自分で勝ち取るものだ」という思考の教育を論文指導の際に行った。
・事実のコミュニケーションとはどういうものがあるか。例えば,内観療法など。母にしてもらったこと,してかえしたこと,自分の事実を思い出す,父が3歳の頃,おぶって医者に連れて行ってもらった,事実を思い出すことによってフィーリングを思い出す。もちろん父自身がそれを語ればそれもいいのだが。
・柏木先生(ターミナルケアのパイオニア。現大阪大教授)から次のようなエピソードをうかがった。ある患者(元の職業が総婦長)が死の間際のことである。「あなたは総婦長までやっていたのだから医者の僕に何かためになることを言ってもらえませんか。ぜひ,僕の改善点を言ってほしい。」と頼んだという。すると,「かつて私が『死にたくない,死ぬのが怖い』と言ったら先生は真っ正面からその言葉を受け止めてくれず,『そんなに弱気にならずに頑張りましょう』と言った。あれが患者としては一番いやだった。」と話してくれた。そのことが一番よかった。あの時に,なぜ正面から患者の言葉を受けられなかったのか,それは,僕自身が死が怖かったからだ。自分が怖いからだと気づいた。それからは患者に,「死ぬのは怖いですよね」と言えるようになった。患者から肩すかしの事実を教えてもらい,知って,自分のものの言い方を工夫した,というエピソードである。
・心理コミュニケーションとは何かと聞かれたら,「感情思考事実を相手と共にシェアすること」であると答えればよい。なぜ必要なのか,そのねらいはと聞かれたら,第1には「リレーション作りたいから」と答えればよい。例えば,「君に近づきたいけど近づけない」と伝えると,相手は「僕の何がだめでしょうか」と聞くので,「理屈っぽいから」と伝える,そうこうするうちにリレーションがついてくる。第2には,「認知が拡がったり,修正したりするのがねらいである」と答えればよい。他人から,ある感情,思考,事実など聞くと自分のそれらが変わる。そのねらいを意識しているのが,「教師サポートグループ」の取り組みである。自分自身の例としては,学生の頃,精神分析を一生懸命勉強した。ところが当時の大学の先生から,「民間の学問を勉強してどうするんだ」と言われ,すっかり落ち込んでしまった。その後,アメリカに行き,教授に「僕は精神分析を知っている」と言ったら「ワンダフル!! これまで,精神分析について知っている日本人学生はいなかった」と言われ,自信回復を回復した。「僕ははみ出しものである」という認知から,「僕はまとも中のまともである」というように認知が変わった。この例が示すように,教師はいろいろな認知を与える仕事である。どういう認知が子供を変えるかということを考えないといけない。ねらいの第3としては,「行動の修正,変容,アクションが変わってくる」ということを答えるとよい。大学で人事を担当していた頃,学位とって,論文も多数書いている青年が何故教授になれないのか不思議だった。しかし,ある酒席で,その青年が年配の教授を差し置いて一番に刺身をとろうとした。その時に教授から「待ちなさい。若い者から先に箸をつけるものではない。」と注意をされた。これもまたコミュニケーションの一つである。青年は,「いい勉強になりました」とメッセージを返した。年配の教授からのコミュニケーションが青年の行動変容を促した例である。
 
4.心理コミュニケーションの伝え方(方式)
・コミュニケーションにも伝え方の方式がある。授業でも,カウンセリングでも,全てのものにモデルがある。例えば,カウンセリングを例にとれば,ヘルピング,マイクロカウンセリング,コーヒーカップ方式等のモデルがある。
・「話し手」,「メッセージ」,「聴き手」という三つのものがどうつながっているか。コミュニケーションとは何かを伝えたいということである。話し手は聴き手に対して,伝えたいメッセージを口で伝えることもあるし,スライドを使うこともあるだろう。話し手は,聴き手からフィードバックを受けながら,状況を検討し,「どうも受けが悪いなぁ」と感じたらメッセージを変えればいいし,「私語がなくしっかりと聴いている」と感じたら,そのままでいいだろう。いいコミュニケーションというのは,「話し手」,「メッセージ」,「聴き手」につながる矢印がぐるぐる回りになる。(話し手が聴き手のフィードバックを受けながら,その都度メッセージを検討しつつ,送るということ。)
・話し手は,聴き手の持っているボキャブラリーで語れ,フィードバックを見ながら語れということが大切である。
・メッセージを伝える時に,原稿見ながらでは聴衆にアピールできない。メモを用意することが大事である。エンカウンターのインストラクションで語る時にも,授業を進める時にも,何を伝えたいかを書き記したメモが必要である。そのメモを「スピーチプラン」という。
 
5.スピーチプランについて
・スピーチプランを作成する際には,次のような柱で進めるとよい。
(1)トピック
・話のうまい人はトピックの選び方が上手である。選び方のポイントは4つある。第1は自分自身がよく知っている分野から選ぶことである。すると,「〜だそうです」と言わずにすむ。第2は自分自身興味を持っている分野から選ぶことである。第3は聴いている人がたぶん興味を持っていそうな分野から選ぶことである。それには聴衆の分析が必要となる。つまり,聴衆に興味のある分野として,対象が会社員なら残業,教師集団なら日曜日の部活動というトピックなら「聴いてみたい」という気持ちになるだろう。第4はためになるものを選ぶことである。面白かったけど,記憶に残らないのでは困る。
・豊富にトピックを設定できるように,専門だけでなく,他の分野も勉強しておくとよい。スピーチではトピックの選定がとても大切なポイントである。スピーチを頼まれてもどうしても興味が持てないときには断った方がよい。その方が誠意がある。どうしても,自分の守備範囲でなければ断る方が誠意がある。
(2)要旨
・スピーチで,何を言いたいのか,何を伝えたいのかを考えることが大切。つまり,要旨,強調したいことである。自問自答して自分の言いたいホンネを探すことである。何を言いたいのかクリアにしないとただの漫談になってしまう。
(3)骨組み(筋書き)と肉付け
・どのようにスピーチの骨組みを組んだらいいかという公式はない。絵を描くように,極めてクリエイティブな作業である。例えば,トピックを「アルバイトのすすめ」とする。柱は次の三つ。T.「アルバイトで得たもの」〜社交能力が身に付いた,現実原則に気づいた(遅刻したら給料から引かれた経験),経済的なメリットがあった(バイトで12万稼げた) U.「アルバイトの問題点」〜勉強の時間がなくなった,家族団らんの機会を逸した, V.「アルバイトのすすめ」〜青年期に大切なこと,親離れできない仲間へメッセージ(親に全部もらっていたお金など,依存から心理的離乳,バイトすると離乳できますよ,という訴え) 結論として,アルバイトをするといくつかの問題点もあったが,全体として自己成長の足しになったという話をしたい。
・スピーチの骨組みに肉付けをしていく時,個人的体験,他人の体験,他人の意見,たとえ話,統計などが,「肉」となる。
(4)導入
・スピーチの導入も大切である。「何も準備していませんが」,「きちんと話が苦手ですが」という言い方はしない方がいい。自分で自分の商品(スピーチ)価値を下げることはない。
 
・スピーチの際に言語と非言語を織り交ぜて使えるのがスピーチの上手な人である。伝えたいことを伝えるのに,どういう言語,非言語がいいかということを考えておくとよい。
・突然スピーチを指名されることもある。会に参加した時には,「もし指名されたら」と可能な限り,何を話したらいいかということを考えておくとよい。予期していないとうまくしゃべれないのは当然である。
 
6.スピーチの種類
 次の4種類のスピーチになじんでおくとよい。
(1)情報提供的スピーチ
・田中先生が本講義の前に行ったスピーチがそれにあたる。青森支部についての情報提供,事実の報告,情報を聴いている人間が感情を動かしていた,つまり,説得性があった。
(2)説明的スピーチ
・因数分解,面接の仕方,カレーの作り方,スピーチプランの作り方など,聴いた人が作ろうかなと思うような,説得性があるもの。
(3)説得的スピーチ
・例えば,筑波大学で行われる教員対象の中央研修の時などは,「カウンセリングと心理療法は違う」と言いたいので,説得調でスピーチをする。その際に,どういう手順で話せば説得できるかを考えておく。論理療法を使うならば,相手の考え方のどこに非現実的なところがあるか,非論理的(必然性のなさ),不幸にしているものがないか等の点についてアタックしていけばいいだろう。
(4)娯楽的スピーチ
・忘年会のスピーチ,漫才,落語などがそれにあたる。笑わせるということで,気分が落ち込んでいる人を助ける効能もある。ちなみに,アルバートエリスは治療の中に,クライエントに歌(替え歌)を歌わせることを導入した。自分が歌って聴かせる,歌詞がおかしいから笑うということが治療になると考えた。
 
・全てのスピーチは説得性(人の心を動かすということ)がポイントである。スピーチの訓練するときには,4種類のものをすればいい。
 
*以上の点について,さらに詳しく知りたい方は,「心を伝える技術」(國分康孝,PHP文庫,2001)を参照のこと。
       

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