公開資料 24 「構成的グループエンカウンター導入エクササイズと全体シェアリング」(片野智治)  

1.自由歩行
・ねらいは「自由に歩くとはどういうことなのかを体験すること」である。例を挙げる。ある人は,他の人と同じように歩かないと安心できないかもしれない。歩いていて,緊張する人も,不自由な感じを持つ人もいるかもしれない。逆に,楽になる人もいるだろう。実存主義の考えでは,緊張するのも,楽になるのも自分自身で意識的にしているのだと考える。
・時間は一分半。
 
2.握手
・自由歩行のまま,出会う人と握手をし,言葉は交わさず,アイコンタクトであいさつを交わす。SGEのバックボーンには実存主義が流れている。その考え方からすると,「自分を自由にするのも,不自由にするのも自分自身である」となる。
 
3.リーダー入門ガイド
・ねらいは「知ったかぶりをしない」である。人様に,自分の身振り,手振り,ものの考え方をよく見せようとすると不自由になる。知らなかったら知らない自分を丸出しにすればよい。
・知らないことは悪いことではない。ただし,SGEの実践をしよう,リーダーをしようという人であれば,10の問に答えてほしい。
・知的な事柄に対し,人は知ったかぶりをして答えてしまうことが多い。知ったかぶりか,そうでないかの見分け方は,知ったかぶりの場合は話が長いということである。
 
4.アウチ
・言葉の意味は「いつまでも君の心によろしくね!!」である。ペアになって人指し指をつけながら,ある話題について話す。相棒に対して好意を持っていることを伝えられればよい。相手の人について,知っていることを話す,知らないことは確認しながら質問すればよい。時間は3分。3分たったら,最後に相手の人に対する印象を語る。人指し指をつけ続けることに疲れたら,指を離してもかまわない。3分たったら役割を交代する。自分のことをどれだけ知ってくれているのかがわかる。質問は,関心を持っているかを伝えることになる。印象を伝えるということの意味は,相手が自分をどう思っているかを知ると,身の処し方がわかるからである。父母,あるいは担任が自分のことをどう見てくれているかをわかっていると,子どもは動きやすいだろう。よく思われていると子どもが受け止めたら,子どもは先生のそばに行くだろう。よく思われていないと思った子どもは,先生のそばに行かないだろう。
 
5.やむにやまれぬ思いを語る(突き動かされる思い,情念を語る)
・最近の自分はどうなのか,語れる範囲で語る。職場,家庭などでしていること,感じたこと,体験したことを介して,最近の自分自身を語ってみる。語る人3分,その後,聴いた人が1分で,感じたことをフィードバックする。
・多くのカウンセリング理論家は,人間は現象学的世界(思いこみ,受け取り方の世界)に住んでいるという。平たくいえば,やむにやまれぬ思いの中に,多くの人間は住んでいるとなる。
・「情念」というとネガティブに受け止める人がいるかもしれないが,けしてそうではない。例えば,津軽三味線の高橋竹山の一生などはまさに情念の世界だと思う。一人の男の情念が「高橋竹山」を生み,「津軽三味線」を生み出した。
 
6.自己説得
・自分のいいところを二つ書く。ペアになって,一方がそれを見て,異論を挟む。異論に負けないように相手を説得しているうちに自分を説得することになる。
・留意点は,異論を挟むにも挟み方があるということ。悪感情を持って異論を挟むと相手に不快感を与えることになる。リレーションのある集団であれば,「え〜,本当に?」と異論を挟んでもネガティブに響かないだろう。
・思春期の子どもたちは自分のいいところを言いたがらない場合がある。周りから褒められても「そんなことないよ」と言いやすい。このエクササイズは,相手の異論に対して「それでも自分のいいところはこれなんだ」と自己説得しているうちに,自分自身本当にそう思えてくるという点をねらっている。
 
7.むかしむかし
・ねらいは,「怖い時には怖い口調で,楽しい時には楽しい口調で相手に伝えられる,いわゆる表現の訓練」である。
・ペアになって,最初は一方が「怖い口調」で語り,次いで,役割を交代し,「楽しい口調」で語る。話し手は少しなら話の筋を変えてもかまわない。聞き手は耳を傾けるだけでよい。
・怖い口調,楽しい口調等で物語を語る時,自分の心が天真爛漫にならないとそれを表現できない。だから,このエクササイズの真のねらいは「子供心を自由に出し入れする」ということである。
 
8.トラストウォーク
・やり方は,ペアになった片方の人が目を閉じる。もう片方の人が,精一杯の優しさの感情を込めて誘導するものである。一切,言葉は使わない。
・ねらいは「信頼体験」である。だから視覚障害の体験ではない。いろいろなところを触らせたりする必要はない。
・信頼体験の「信頼」の意味をどう捉えるかは人によってそれぞれだろう。私は,次のように考えている。「人様を疑う時には,その理由,根拠が必要である。しかし,人様を信じる時には,その理由,根拠は必要ではない。ただ,任せればいい。ただ,頼ればいい。」
 
9.全体シェアリング
・イスを二重円に配置して,好きなところに座る。時間は45分間。これまでのエクササイズを通して,感じたこと,気づいたことを自由に語り合う。ペンネームを言ってから話すこと。
 
*全体シェアリングの個々の発言を名前を挙げて示すことは守秘義務の原則に抵触するので紹介はしない。ここでは,片野先生の介入に視点を当て,なおかつ,先生の著書「構成的グループエンカウンターの原理と方法」から引用しながら,まとめてみたい。参加したメンバーはあの時間,あの場所での全体シェアリングでどのような発言があり,どのような介入がなされたかを思い出してほしい。自分自身がリーダーとして前に立った時,参考になるヒントをたくさんいただいたと感じている。
 
(1)エクササイズの体験中,「不自由な感じを持った」と発言した数人のメンバーに対して
【介入1】あなた達の発言の共通点は「不自由になった」ということだが,何があなた達を不自由にさせたのか。
 
(2)「自由歩行で,途中から人の後ろをついて歩いているような感じがしたので,人と違うところを歩くようにしたら,不自由な感じにはまってしまった」という発言に対して
【介入2】人と違うところを歩こう,歩こうと考えていて,不自由になったということ?
 
(3)数分間の沈黙が続いた時
【介入3】ところで,あなた達は今,この沈黙をどう感じていますか。
 
(4)トラストウォークについて,「手を引かれている時にぎこちない感じがした。進もうとすると止められたり,その逆もあったりでジレンマを感じた。相手に合わせようとして最後は一致した」と答えたメンバーに,そのペアだったメンバーが「不安にさせたのは自分。私自身のきちんと誘導できるだろうかという不安が伝わったのだと思う」と発言を重ねた場面で
【介入4】○○さんの言いたいことは,「○○さんがどういうリードをしたにせよ,それに合わせられなかった自分がいた」ということを伝えたかったんだよね。どうしたい自分がいたの? (○○は,「相手を信頼したい自分がいた」と答えた)
 
(5)「普段3分も話すとしたら大変だと思うが,話してみると時間が足らないくらいだった。きっと先生のデモがそうさせてくれたと感じた」という発言に対して
【介入5】それは,あなた自身が話をしたかったということではないのかな。
 
(6)「エクササイズの中で,自信を持てない自分がいることに気づいた」という発言に対して
【介入6】あなた自身,自信を持ちたいと意識しているの? (ハイ) どうして,そんなに自分に自信を持ちたいのかねぇ (自己肯定感を高めたいから) 通り一遍の答えだねぇ。僕は,自分に自信がないよりは少し自信を持てているという程度でよいと思うけどねぇ。
 
(7)「今まで学習会に参加していて,本当に自分を開示していたつもりでいたが,今日はエクササイズを体験しているうちに,果たしてそうだったのだろうか,演技をしていたのではないかと不安になった」という発言に対して
【介入7】誰か,今の○○の発言に対して,メンバーの中で何か言ってあげることはないか。(メンバー二人が,自分の立場から○○を支える発言をした)(○○は,それを受けて「こんな自分もいいんだな,とストンと落ちた。ありがとう」と発言した)
 
【片野先生のまとめ】
 ○○の発言を聞いていて感じたことがある。不安定になった自分。今,話していた不安定な自分。これは本当に自分と言えるのかどうか。「不安定です」と言いながら,これもまた仮面をかぶって演じていたのか,それとも本物なのか。(○○が「本物でした」と答える) それじゃぁ,安心したよ。僕は必要に応じて自分を演じるのはいいと思うんだ。(「今までは,演じるのはよくないんじゃないかという気持ちがあった。それが今日のシェアリングでスッキリした」と○○が受けた) 不安定な自分(Pureな自分),演じている自分が意識できるという,その点が大切である。
 
【片野先生の著書からの引用;第10章〜介入,第8章〜シェアリングの仕方,第9章〜抵抗の予防の仕方,生かし方】
*今回の全体シェアリングに関連すると思われる部分を引用,紹介する。詳細については,ぜひ,片野先生の著書をご覧いただきたい。
 
@特定個人プロテクトの介入(P212)
・ある特定のメンバーが落ち込んでいる,怒っている,泣いている等への対応。原則は個室で個別面接をしないこと。グループの中で生じた問題はグループのみんながいるところで対応すること。リーダー一人で対応できない時,メンバーを活用できるし,メンバーは自分たちのどういう言動が人にどう受け取られるかの気づきのチャンスにもなるからである。では,どのようにか。グループの前で対応するとは,グループのある状況,あるいは特定メンバーの言動がどういう感情を引き起こしているかを明らかにすることである。「私はAさんと同じ感情を持ったが,○○と考えたので,落ち込まなかった」など,周りの声も参考になって,Aさんは少しずつ気分が変わってくる。
 
A沈黙への介入(P175〜176)
・リーダーは沈黙気味なグループのところに行ってこう言う。「この沈黙を気まずいと感じている人は挙手」,さらに「このシェアリングを止めたいと思う人は挙手」と。さらに,押す。「気まずい理由を言ってみて」,「止めたいと思う人はこのシェアリングの時間をどう過ごしたいのか言ってみて」と。一通り話し終わったところでリーダーはこう指示する。「今,ここで話されたお互いの理由を聞いて,感じたことを言ってみて」と迫る。そして,「今,私に無理矢理に言わされていると感じている人は挙手」と。要するに沈黙気味なグループとの対決である。
        
B変化への抵抗に対する介入(P197〜200,P203〜204)
・「私は自分が好きではないのだと思いました。自分で自分が好きになれないなんて恥ずかしいですよね」,「エクササイズをしている時,思うようにできないでイライラしていました」,「真剣に取り組んだつもりだが,一方で冷めていた自分がいた」など。これらは,程度の差はあるが「あたふたしている」自分の内面が語られている。現在の自分を変えることでもっとうまくやりたい,もっとうまくやれるはずだといった自己啓発や自己成長への欲求や期待を持ちながらも,今までに気づいていなかった「未知」の自分と今この瞬間に実際に遭遇しているという「現実」によって誘発された感情の処理ができないでいるとか,この現実そのものが耐えられないとか,これまでの自分との決別に対する躊躇(自己喪失への不安)なのである。以上のようなメンバーの反応は,エクササイズの内容そのものによって誘発されているので,「変化への抵抗」と名付けられている。リーダーはどう対処するか。例えば,リーダーはメンバーに感情表明を求める。「冷めていたというのはどんなフィーリングだったのですか。フィーリングを言ってみてください」と。また,イラショナルビリーフに焦点づけたコメントを多めにする。「人前で取り乱している自分は恥ずかしいとあなたは自分に言い聞かせていませんか」,「あなたは確かに混乱しています。しかし,それだけのことで,あなたが破滅するわけでも,おしまいになるわけでもありませんよ」と。
 
<引用文献>
・「構成的グループエンカウンターの原理と進め方」,國分康孝・片野智治,誠信書房,2001  
        

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