公開資料 23 「構成的グループエンカウンターの理論と実際」(吉田隆江)                 

1.教育相談のとらえ方
・教育相談,学校カウンセリングをどう捉えるか。そのベースの上に構成的グループエンカウンターがある。
・國分先生が日本に構成的グループエンカウンターを導入した時には,学校教育にカウンセリングを生かしたいという発想があった。
・武南高校の校長・篠塚信と片野智治による編集でガイダンスセンターのメンバーがまとめた著書が「実践サイコエデュケーション」。ガイダンスセンターは進路指導部と教育相談部を統合し,生徒の進路と心のケアをトータルにしていこうという部署であり,教育相談のベースである。
・私自身,教育相談を勉強し始めた時は個別面接の仕方を教えてもらってきた。確かに20年前に,学校にカウンセリングを導入しようとした先生方は,個別相談を中心にしてきた。問題を抱えた生徒が対象であり,不登校,問題を起こした生徒への対応が主であったと感じている。武南高校ではそれをやらず,文部省の考え,「全ての子どもに対して計画的な教育相談」に基づいた実践を展開してきた。
・私自身,担当した当初は,不登校や神経症に苦しむ生徒とのかかわりは難しいと感じたし,自信もなかった。しかし,個別面接ができる力がつくとかかわることができるようになる。また,それはエンカウンターのリーダーをやる際にも役立つ。
・生徒の話をきちんと聴けることが大切である。一生懸命,生徒の話を聴いてわかってあげようとすればよい。それだけでも生徒は変わる。國分先生がよく言うことだが,「治そうとするな,わかろうとせよ」である。
・若い時には,治療的カウンセリングはとてもできないと感じていた。まずそこで,面接練習は健康な生徒たちに相手になってもらった。健康な子は自分の問題をそれなりに解決していく力を持っている。ところが,問題を持つ子供は内面に食い込む話を拒むので難しい。面接の後,「どうだった?,何か役に立った? 嫌な言葉合った?」と聞く。すると生徒からフィードバックをもらえる。「学習の仕方がわかった」とか,「今の自分ではいけない」など,言ってくれる。言ってもらうことで自分の不足に気づいたり,これでよいと思わせてくれるのが,健康な生徒たちに相手をしてもらう効果である。もう一つの効果は口コミ効果である。教育相談担当としては,いろいろな生徒に相談室に来てほしいという願いがある。開設当時,相談室のイメージが,「病気の子がいくところ,暗い」などの重さがあった。それを払拭したいという気持ちもあった。「吉田先生のところにいくと,いい気分になるよ,行ってみなよ」という口コミの宣伝効果を健康な生徒たちはもたらしてくれた。
・学校の全ての子どもが,その子なりの良さを持っている。その子にあった声のかけ方やかかわり方がある。それが教育相談の原点である。子どもの痛み,深い部分にあるところを気づくのがベースとなる。聴き方,技法などはスキルとして持っているにこしたことはないが,ベースには愛がなければ教育相談はできない。國分先生は,「今の人は全ての人が愛を欲している。愛が人を癒す」と語っている。どの子も救われるべき存在であり,良さを伸ばそうというのが教育相談のベースである。しかし,個別面接は大変でエネルギーもたっぷり使うことになる。カウンセリングルーム(相談室)だけのかかわりでは根付かない。私自身,担任を持って先生方と同じことをすることによって,教育相談が認知されたと思っている。まさに,「同じ釜の飯を食う」ということを大切にしてきた。そうすることで,周りの先生たちに受け入れられた,という体験をした。同じ教員だから一緒に動くことで認知される。
・生徒たちとの個別の相談はすごく大切である。個別相談は学校の中では欠かせない。生徒たちは教師からいろいろなことを言われるのは嫌だが,自分から話すのは好き。黙って聞いていると,そのうち自分から問題などを話し出すことがある。そうした教育相談の面接を続けていくと,「先生は好きな話,聞いてくれるよ」,「こんなだったよ」,ということが口コミで伝わっていく。担任をしている時もそれまで相談室での面接をずっと拒否していた男子生徒が「俺も面接をやってみたい」と言い出した。「なんで面接が嫌だったの?」と尋ねたら,「今まで面接でいい思いをしたことがない。先生が一方的に言うだけ。勉強の話と説教だけだから」と答えた。
・しかし,一方で個別面接はエネルギーを使う。多くの生徒たちの話を聞くのは教師だって疲れるし,自分の時間を割くことになる。ホームルームの時間を利用しても足りない。そこで,個別の対応だけでなく,何とかグループに返したい,グループを利用した指導が必要だなということを実感するようになった。個別面接で煮詰まった生徒がいたが,その子がJRCの宿泊研修で変わった。たった3泊4日の宿泊を通して大きく変化した。それはグループの力だった。そのことから,人が仲間に受け入れられる体験の大きさを強く感じた。生徒同士からもらったフィードバックが大きな力となった例である。グループの中に入っていくとその子自身が活性化する。先生と話すより,生徒同士の方が効果があるということを実感した例でもある。一人の教師の言葉より,仲間からの多数の言葉がエネルギーになるということだろう。
・「もう少し,教育相談が開かれる必要があるのではないか」ということで,次のような活性化できる方法を考え出した。それは,「仲良しグループの面接」である。面接が終わると,「今日はためになった。だって○○ちゃんが考えていることわかってよかった」と話す生徒が多い。今の生徒たちはいつも一緒にいても,何ら深い話をしていない。内面に入る話はしないことが多い。そうした話も友だち同士でできるといいだろうと感じた。そして,そうした関係作りをしたいと考え,教育相談も個別でなく,グループによる教育の側面を重視したいと思った。
・人間関係は,作りあげていく過程(プロセス)が大切である。ある調査によると,最初から「100%いい先生」と子どもたちから評価される教師はよくないらしい。それは,やがてボロが出るからだという。だから,教師も普通の人間として,少しずつ,いいところが子どもたちの前に出てくる方がいい。最初にいいところばかりを前面に押し出していくと,やがて疲れてくるだろう。だから,「私は普通の,ありのままの私でいいかな」と思っている。人と人との関係はプロセスが大切である。教師と生徒,生徒同士の過程を大切にしたい。
・授業の終わりに,「インタビューのエクササイズ」をして,最後のまとめをしたことがある。ある生徒が振り返り用紙に,「こんな授業をやっていてはダメだ」と書いたことにショックを受けた。でも,その生徒は最後の方で「みんなの意見はいろいろあった」という感想も書いたのを見て,「ああ,これなら大丈夫」と思った。人は誰でも苦手なタイプがいる。教師だって苦手なタイプの生徒がいるだろう。そうした時はちょっと退散するとよい。教師が「この子は苦手だなぁ」と思っている生徒にしつこくかかわっていくと逆に嫌がられることになる。ある生徒とのやりとりの例。少し反抗的な態度の生徒で,授業中も寝ていることがあり,話をきちんと聞いている感じでもない。彼が「俺はいつも寝ているから勉強がわからない」と言ったことがあった。「でも,君は授業中は寝ていても,何でも自分でできる子じゃないの? だから,先生の授業聞かなくてもいいんじゃない。自分でできるのだから,そこが君のいいところじゃない」と言ったら,「そうか」と答え,その後,態度が変わってきた。また,別の生徒の例。「次の時間に教科書でやるところは絶対に読まないようにという宿題を出します!!」と宣言した。すると,彼が休み時間に「先生ダメでしょ!! 読まないでください,なんていう宿題を出したら!!」と話しかけてきた。「どうして?」と聞いたら,「だって,読みたくなるじゃないですか」と答えた。エンカウンターの授業の後に「よくない」と書いてきた生徒とのエピソードである。
・生徒との関係作りは,週1回だけ学校に配属されるカウンセラーではなかなかできないことである。エンカウンターは生徒同士の関係作りがメインになるが,教師との関係ができてないとその時点で終わってしまう。だから,いかにして,教師と生徒の雰囲気を作るかということが大切である。構成的グループエンカウンターだけが学校に入るというよりは,「育てるカウンセリング(予防・開発的カウンセリング)」が学校に浸透するとよい。学校の中に相談する雰囲気があるといい。
・日頃,「相談する能力も大切である」と生徒たちには伝えている。「誰に相談したらいいのか」など考えることも力である。相談を受けた先生に「教育相談の雰囲気がない」と生徒はそこでおしまいになってしまう。いつでもどこでも相談,考えるチャンスがめぐるように,そうした場を学校内にたくさん作ってほしい。授業の中でも相談できる雰囲気を作ってほしい。私自身は,生徒たちが「わからない」とどうやって自由に言える雰囲気を作るかが課題である。「生徒は何がわからないのか」ということがわからないといけないだろう。そこにカウンセリングを生かしたい。
・埼玉県高等学校教育相談研究会の実験。教育相談的授業と普通の授業の比較研究。教育相談的授業では教師が「目を見て呼名する」「目を見る」「余談を入れる」「机間巡視をする」「生徒の発言を必ず取り上げる」を意識して行うようにする。そのような授業をある程度の期間行った後で,教師と生徒の心理的距離について両群を比較した。その結果,何がわかったかというと「何か働きかけを行わないと,教師と生徒の間に関係はできない」ということであった。教師の働きかけの大切さを示唆した実験である。
 
2.育てるカウンセリングの実践
・「キャリア」とは,文部科学省が言っているように,「生き方,あり方」の指導である。キャリアガイダンスとは,先が見えるようにする指導である。職業を通して自分を知ることが大切。キャリアガイダンスの指導領域の一番に「自己理解」がある。自分のことを知らないと職業の選択もできない。
・サイコエデュケーションの中で,「自己主張訓練」がお薦めである。自己主張とは,自分のことを言いたいだけ言うのではない。自分も相手も大切にすることが「自己主張」であり,「アサーション」ともいう。その考えた方のベースに「人間は自分のことを表現する権利を持っている」ということがある。自分に表現する権利があるのと同様,相手にも自分を表現する権利があるということである。
・構成的グループエンカウンターは感情に焦点が当たるが,苦手な人もいるだろう。そういう人は,サイコエデュケーションとして知的側面から迫ればいい。「皆から好かれなくちゃいけない」と考え,悩んでいる人に対しては,論理療法を使う。「自分が全ての人を好きになれないように,嫌われることもある」というように,知的に教えていくことも大切である。グループワークというのは,何かの作業を通してグループを構成するメンバーに達成感を持たせることがねらいである。体育のダンスの授業で,メンバー全員で創作ダンスを作りあげていくようなこともグループワークである。神奈川のある中学校が荒れていた時に,最初に取り上げたのがグループワーク。皆で一緒に何かに取り組むことでグループにまとまりが出てくる。荒れている子どもたちに,心を正面から見つめさせるのはきついことである。
・教師も様々。エンカウンターは得意じゃないが,知的なレベルで子どもにかかわるのは得意という教師もいる。だから,学校にはいろいろなメニューがあるといい。
・エンカウンターとは,「出会い」の意味。最終的には自分自身と出会うということだろう。そのためにはいろいろな人と出会うことが大切である。自分の背中は見ようとしても見えない。他人の背中は全部見ることができる。自分の顔も自分では見ることができない。だから,自分のことを知っているといっても,偏ってみている可能性がある。そのような偏りを修正する意味でも,他者からのフィードバックは大切であり,自分のことをよりよく知る機会ともなる。(例;「ジョハリの窓」)
 
3.構成的グループエンカウンターとは何か
・ベーシック(非構成)グループエンカウンターの方が構成的グループエンカウンターよりも先に実践されたが,時間や人数,課題などの枠が全く設けられないため,学校現場では利用が難しい。構成的グループエンカウンターは,國分康孝・久子先生が1970年代半ばに日本に導入した。大学生に試し,日本人に使いやすいようにまとめ,それを著書「エンカウンター」として,発刊した。
・「ホンネのふれあい」をエンカウンターでは求めるが,生徒たちは「本当にホンネを言ってもいいの?」というように,ホンネを言うことは悪いことだというイメージがあるようだ。エンカウンターでいうホンネとは,その場,その瞬間での「見方,感じ方」のことである。
・「エクササイズとゲームは同じではないか」という質問がある。ゲームもレクリェーションもとても大切である。楽しいと気持ちが解放されるのでいい。リレーションづくり,関係作りにゲームは有効であり,エクササイズも,それらをねらい,ゲーム的なエクササイズを行うことがある。エンカウンターのねらいの一つの「自己発見」は集団内に安心できる雰囲気がないとできないものである。エクササイズには6つのねらいがある。「自己理解」「他者理解」「感受性」「自己主張」「信頼体験」「役割遂行」である。
・自分を知っている程度にしか他人のことを理解できない。他者理解は自己理解がベースになっている。しかし,その逆もあるだろう。小中学生の頃に受けたいじめの影響が,高校になって出てくる生徒がいる。いじめを受けていた時には,嫌かどうかわからなかったという。その時に嫌と感じたり,嫌と言えればよいのだが。「感受性」,「自己主張」の力がほしいところである。
・「友だちに裏切られたので,生きていけない」という生徒もいる。自分のことが嫌いという生徒も多い。自分を信頼する,他人を信頼するという経験も大切。人に身を任せるという経験として「トラストフォール」や「トラストウォーク」のエクササイズがある。健康な人は,人に頼ることもできるし,逆に頼られることもできる。甘えたり,甘えられたりできるということである。大人になると,特に他者に甘えにくくなる。エンカウンターのワークショップでは,甘える,甘えられる体験ができる。
・エクササイズの中で,「インタビュー」など,聴く役割,話す役割を交代して行う。「役割遂行」をねらっている。
・構成的グループエンカウンターの「構成」とは,人数,時間,課題などの枠を与えるということである。教師であれば誰もが授業を通してやっていることである。エンカウンターでは,気づきや発見を心のレベルで行おうとするものであるが,一般の授業では知的レベルで行なおうとするものである。
・自分のことを知るために,「ジョハリの窓」がわかりやすい。人間は誰もが四つの窓を心に持っている。「自他にオープンな領域」「秘密の領域」「自己盲点の領域」「未知の領域」の四つである。「自分の背中は見えない」というのは,「自己盲点の領域」のことであり,エンカウンターは自己盲点を埋めていくことが大きなねらいである。よいところも悪いところも含めて,他者からフィードバックを受けることで,盲点が埋まっていく。不登校の生徒は自分のことは語りたくないという。だから生きにくいのである。  
        

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