公開資料 22 「シェアリング方式のサポートグループ」(片野智治) 

T.サポートグループの定義
1.なぜ必要なのか
・現代は,職場内のコミュニケーションがいっそう求められる時代である。教育現場にも査定が始まり,職員間の協力が難しい場面も出てくるだろう。すると,うまくいかない人や疎外される人が出てくる。ある学会発表では,学級崩壊からの回復率の高い職場に共通項が示唆されている。それは,「管理職と一般教諭の間のコミュニケーション」,「日頃,お互いに授業を見せ合っている」,「職場内にモデルになるような人がいる」ということである。
 
2.定義
・「教育カウンセラーが同僚や仲間を支援していくという活動の総称のこと」(國分)
 
3.種類
(1)remedial
・問題解決的なサポートグループ 例;シェアリング方式
 
(2)preventive
・予防的なサポートグループ 例;QUを使った学級指導のコンサルテーション
 
(3)developmental
・開発的なサポートグループ 例;対話のある授業の仕方のスーパービジョン,進路指導や特別活動のスーパービジョン,教育相談活動の促進や活性化のためのスーパービジョン
 
U.シェアリング方式の目的
1.目的
・シェアリング方式では,問題解決を目的とする。
例1;感情の修復(いやし)
・学級内に万引きをした生徒が出た。担任は悩んで,周りから何か知恵を貸してほしいと思っている。でも,それをなかなか言えない。サポートグループの中では,自由に惨めさや孤独感などを話すことができる。するとどうなるか。メンバーとの感情交流を通して,いやしが得られる。
・周囲から「指導が甘すぎる」と言われ,悩んでいる女性教師。サポートグループの中で,その辛い思いを語り,いやしが得られる。
 
例2;修正感情体験(F.Alexander,corrective emotional experience)
・「自分には指導力がない」と悩み,劣等感の固まりになっている教師。サポートグループで悩みを語っているうちに,劣等感が少し消えていく。修正されていく。
 
*シェアリング方式の目的をまとめると次のようになる。
(1)感情の修正
(2)思考の修正
(3)行動の修正(行動,対応の仕方が修正される,コーピングスキルが身に付くなど)
 
2.シェアリング方式と構成的グループエンカウンターとの相違点
・構成的グループエンカウンターのシェアリングには大きく分けて次の二つがある。「ショート;いくつかのエクササイズの後に5,10分程度で行う」,「ロング;90分間,ワンセッションそのものを使う」 サポートグループのシェアリング方式とは,このロングのシェアリングをモデルにしている。
 
<構成的グループエンカウンターとの相違点>
(1)感情交流と自己発見に加えて,問題解決にまで踏み込んでいる。
(2)エクササイズ(プログラム)がない。
(3)グループサイズは小。構成的グループエンカウンターは100人でも可能。
 
V.シェアリング方式の方法
1.インストラクション
(1)ねらいや進め方,ルールを伝える
(2)ペンネームを作成する
(3)リチュアルを行う;メンバーと握手,簡単な自己紹介など
(4)二重の円陣を作る;10人前後なら二重でなくてもよい。「物理的距離は心的距離」ということから,輪が小さい方がいいだろうという理由から。
 
2.トピック
・「職場で感じていることや,職場で体験していることで聞いてほしいこと」,「仲間に助言がほしいこと」
 
*通常,シェアリング方式は120分間。そのうちの90分はトピックによるシェアリング,その後,10分間に「ポスト(事後)」のシェアリングをする。ポストシェアリングでは,90分を終えて,感じたことや気づいたことを10分くらいでシェアする。90分の話題を引きずる人もいる。アドバイスめいたことを話す人もいる。しかし,そうではなく,ポストでは気づいたことや感じたことを話すようにする。
 
3.介入
・リーダーとして特に大切なのが,この介入である。介入することで,そこから盛り上がりが生まれる。ここぞと思う時に,ためらってはならない。どのような時に介入をするか。次のような場面が考えられる。
(1)知的な話し方をしている時(自己開示的でない,感情表現に欠ける)
(2)堂々巡りになっている時
(3)無意味な沈黙が続く時
・沈黙を処理する時に次の二つの方法がある。
@沈黙そのものに焦点を当てて介入する〜「皆さん,この沈黙をどう感じていますか? グッドフィーリングですか? バッドフィーリングですか? どちらかに手を挙げてください。今の気持ちは,落ち着いている感じですか? それとも気まずい感じですか?」
A沈黙そのものに焦点を当てずに介入する〜「この沈黙にどんな意味があるのでしょうか? 今の重たい気持ちを語ってみてください。グッドフィーリングの人はそれを語ってください」
 
(4)評論的な発言をしている時
・第三者的な発言になっている。
(5)サポーティブに欠ける発言をしている時
・相手の身になった発言をしていない。
(6)押しつけがましい発言をしている時
 
4.ルール
(1)守秘義務
(2)ペンネームを伝えてから発言すること
(3)言いたいことから話す,結論から先に言うこと
・限られた時間の中,他人の時間まで奪わないように。
 
W.シェアリング方式の特徴と効果
1.特徴
(1)自己開示なサポート
・圧迫感や押しつけがない
 
(2)治す,治されるの役割がない
 
(3)治療的要素がない
 
2.効果
(1)カタルシス
・話せて気持ちがすっきりした,聴いてもらってすっきりした,という体験。カタルシスによって周りからのサポーティブなアドバイスや助言に耳を傾けられる。
 
(2)いやしや修正感情体験
 
(3)自己肯定感
・なぜ,自己肯定感が高まるのか。人様に聴いてもらったという経験が自分の存在価値を高めることになる。この体験が自己肯定感を高めていく。
 
(4)コーピングスキル(対処行動)の学習
 
(5)自己開示抵抗感の減少
 
3.その他
・教師が指導をすればするほど,子供たちが離れていく。子供たちは態度で「俺たちにかまうな」と言っている。教師は「どうしてこれほど親身になっているのにわからないの?」と悩む。そうした悩みをサポートグループで話したら,メンバーからアドバイスをもらえた。「伝え方を変えたら伝わる(リフレーミング)」,「他の人ではなかなかそこまで親身になれないこと」など。悩んでいた教師は,「そうか,距離の取り方をうまくとればいいんだなぁ」と気づく。
・サポートグループでサポートされた人は,是非,職場に帰ったら仲間をサポートする側に立ってほしい。「私はこんなことで困っている」という自己開示をためらわず,職場の中で開示していくことが,周りの人のサポートになっていく。言いたくても言えないで悩んでいる人は周りに結構いる。 
 
        

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