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公開資料 21「心のかよう学校・学級づくりに生かすSGE」(曽山和彦)
1.心のかよう学校・学級とはどのような集団か
・集団内にリレーションが形成されている集団。すなわち,相互にふれあい,自己開示がある集団である。
・学校や学級がリレーションのある集団,場となるためには,次のような点が子どもに認知される必要がある。
@「この集団は安全だ!!(安全・安定欲求が満たされている)」
A「この集団には自分の居場所があるぞ!!(所属欲求が満たされている)」
B「この集団はお互いに認めあう,大事にしあう雰囲気があるぞ!!(承認・自尊欲求が満たされている)」
<理論的背景>
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5.自己実現 |
4.承認と自尊心 |
3.所属と愛情 |
2.安全と安定 |
1.生理的満足 |
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【マズローの欲求階層説】(本来の図はピラミッド型)
人間は第一の欲求(生理的欲求)が満たされると,次に第二の欲求(安全と安定欲求)が生じ,これも充足されると第三の欲求へとすすんでいく。つまり,上位の欲求は下位の欲求がたとえ部分的にせよ満たされて初めて発生すると考えた。 |
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参考;「リレーションとラポールの違い」
リレーションとはお互いに構えをとった感情交流を持っている場合である。そして,その中身は二つある。ポジティブな感情交流とネガティブな感情交流である。ラポールとはポジティブな感情交流の時だけに用いる。知り合ったばかりの男女にラポールはあるが,リレーションはまだ成立していない。したがって,ラポールとはリレーション形成の導入である。(國分.1984) |
2.なぜ,学校・学級に構成的グループエンカウンターなのか
今,「心のかよう学校や学級」が求められている。学校や学級にあたたかな心のふれあいが回復し,望ましい人間関係が生まれたならば,学校現場に続発する問題の多くが解消されるだろう。(諸富.2000)
(1)子どもたちの自尊感情を高めよう!!
あるがままの自分を受容でき,他者をも受け入れることができれば集団は自由で安全な雰囲気が作れるはずである。自分のことを大事に思う感情,すなわち,自尊感情が高まると,自己受容や他者受容が容易になる。さらに,自己開示や自己主張,自己理解や他者理解等が容易になる。
(2)人とのかかわりのスキルを高めよう!!
今の子どもたちは嫌なことがあるとポキンと折れるか,逆に攻撃を加えるかのどちらかの傾向を示す子どもたちが増えている。(何とか耐えられる力が弱い) また,その嫌なことをどうすれば解決できるのかがわからないし,わかっていたとしても実行に移せる力が弱い。(例;電車で注意を受けた若者が突然切れて,殺人事件を起こしてしまうなど,人とのかかわりのスキルを学んでいないということだろう。) 例えば,「嫌なことを嫌と言う」,「相手も大切にしながら自分の主張をする」などは必要なスキルである。
人間関係が希薄になった現在,学校教育のカリキュラムの中に上記二つの力を育てるようなプログラムが必要である。その有効な技法の一つが,構成的グループエンカウンター(Structured
Group
Encounter;SGE)である。SGEは,予防・開発的カウンセリング(育てるカウンセリング)の一技法である。エクササイズ(心理的課題)を用いた集団体験を通してその集団内にリレーションを作り,リレーションづくりを介して自己発見や他者発見をしていくことを目的とする。
参考;「育てるカウンセリング」
スクールカウンセラー(主に臨床心理士)が学校に配置されるようになり,教師とスクールカウンセラーの役割分担を考える必要性が出てきた。國分(2000)は次のように指摘している。
(1)臨床心理士は精神疾患の治療をめぐる知識と技法の専門家。ところが学校は治療機関でなく教育機関である。それ故に,学校に求められるのは治療方法ではなく,教育方法である。
(2)学校は集団を対象にプログラムが展開されることが多い。それ故,個室の中で一対一の面接を重ねる治療的カウンセリングよりも,集団を対象とした機動的な教育方法 が注目される。
(3)教師の仕事は治療ではなく教育である。それ故に治療的カウンセリング(治すカウ ンセリング)よりも予防・開発的カウンセリング(育てるカウンセリング)の方が教 師には役に立つ。
<結論>教師にできることは,予防・開発的カウンセリング(育てるカウンセリング)である。できないことは,心理療法(箱庭療法,夢分析等)などの治療的カウンセリング(治すカウンセリング)である。教師と臨床心理士が連携していくためには,お互いに「自分たちのできること,できないこと」を明示しあう必要がある。 |
<参考文献>
・カウンセリングQ&A1;國分康孝・國分久子.誠信書房.1984
・自分を好きになる子を育てる先生;諸富祥彦.図書文化.2000
・構成的グループエンカウンター〜育てるカウンセリングのすすめ;國分康孝.日本教育 平成12年9月号 283 19-21
