公開資料 20 「スーパービジョンの原理と方法」(國分康孝) 

 
T.スーパービジョンの原理
・スーパービジョンのイメージは自動車学校である。教官は「あなたは臆病者ですね」とは言わない。性格に触れると教育分析のイメージとなる。自動車の運転というスキルに焦点を当てるとスーパービジョンのイメージとなる。
・スーパービジョンについての研究はまだ始まったばかりである。
 
(1)定義
・「方法や技法,すなわちスキルに関する自己盲点に気づかせる」ということがスーパービジョンの定義である。
・「君は面接の時に,クライエントにクローズドクエスチョンばかりだったが,何か理由があったのか?」と投げかけられて初めて,自分の面接の「傾向・癖」に気づくこともあるだろう。
・自分のやり方を外から離れて見るという機会はなかなかない。
・面接でも学習指導でも,何年経験を重ねても自分の盲点に気づかないかぎりは,腕は上がらないのではないだろうか。
・人様からお金を取ってカウンセリングをするカウンセラーは,スーパービジョンをしっかりと受けて,自分の腕を磨くことが職業倫理である。(ソーシャルワークを学ぶ人の場合は,一般的に2年程度はスーパービジョンを受けている。)
 
(2)カウンセリングとの相違
・カウンセリングではクライエントのパーソナリティに触れるなど,深入りすることができるが,スーパービジョンでは,深入りすることはない。(生い立ちや自殺に関する話題などに触れることはない) クライエントにどのような対応をしているかに焦点を当てる。ヘルピングスキル,コーピングスキル,コミュニケーションスキル,アサーションスキル,スタディスキルなどのスキルに焦点を当てる。「○○のやり方は,よくない」というようにスキルの足らない部分を積極的にクリアにしていく。
・カウンセリングでは,「君の人生だから最終決定は君がすればいい」という考えに立つので,その決定に関して責任を問われるということはない。しかし,スーパービジョンでは,問題の解決をスーパーバイジーと共に,スーパーバイザーが検討し考えていくので,共に責任を持つことになるし,責任も問われることになる。ちょうど,自動車学校の教官が教習中に生徒が事故を起こせば責任を問われるのと同じである。
 
(3)その他
・アメリカでカウンセリングを勉強していると,「カウンセリングのスーパーパーザーは誰か?」,「教育分析は誰に受けたか?」,「リサーチに関するスーパーパーザーは誰か?」ということが必ず,質問される。それほど,スーパービジョンが大切ということである。・以前,教育研究所で,教師の相談を担当していた時の経験では,病休の教師のほとんどは,若い時に先輩教師からスーパービジョンを受けていれば,病気にならずにすんだのではないかと推測できる。「子供たちに話しかけながら板書しても,子供たちにはしっかりと話が伝わらないようだよ」,「子供たちが板書を写している時に説明をするのはどうだろうか?」など,先輩教師から手取り足取り,授業の進め方についてスーパーバイズを受けた教師は将来息詰まらないように見える。
・教育カウンセラーの場合は,次の7つのスキルについて,可能な限り,スーパービジョンを受けておくことが望ましい。「構成的グループエンカウンターのリーダーとしてのスキル」,「キャリアガイダンスを展開していくためのスキル」,「サイコエデュケーションを展開していくためのスキル」,「カウンセリングを生かした授業のスキル」,「特活,グループ指導などのグループワークのスキル」,「個別指導のスキル」,「リサーチのスキル」である。ただし,何から何までスーパービジョンを受けることも難しいだろうから,その時には,「このスキルに関してはこの人ならスーパーバイザーとして適任である」という人的ネットワークをリファー先として持っていると強い。
 
U.スーパーバイザーの条件
(1)カウンセリングモデルを持つこと
・スーパーバイザーは自分にとってしっくりとなじむモデルを持っていることが大切である。アイビーのマイクロカウンセリング,カーカフのヘルピング,コーヒーカップ方式,上地安昭さんのモデルなどを参考にして,自分が使いやすいモデルを持つことがポイントである。私(國分)は,個別面接,構成的グループエンカウンター,サイコエデュケーションなどのスーパービジョンを行う際に,コーヒーカップ方式をモデルとして用いている。そして,「思考・行動・感情」の三位一体論を視点にしてスーパービジョンを行うことが多い。
 
(2)複数の理論や方法になじんでおくこと
・人を指導する場合,「作戦の立て方(トリートメントプラン,ストラテジー)」がうまいかどうかは大きなポイントとなる。作戦の中でも,アセスメントが特に大切である。何がこの人の問題なのかを読みとることがアセスメント。問題をつかんだら,目標(ゴール)を設定する。設定したら,目標達成のためにはどうすればいいかという方法を考える。作戦の善し悪しを左右するアセスメントのための理論に複数なじんでおくとよい。診断に役立つ理論としては「精神分析」「論理療法」「交流分析」が挙げられる。一方で,診断には少し弱いのが「ロジャーズの自己理論」だと思われる。ロジャーズは面接における会話そのものが薬となるという考えなので,診断には少し弱い。
 
(3)アセスメントやインターベンション(介入)がスムーズにできること
・複数の理論や方法になじんでおくと,アセスメントやインターベンションがパッとできるようになる。
・授業の中で指名したり,指導したりすることもインターベンション。また,解釈したり,サポートしたりすることもインターベンション。つまり,授業の中でも,カウンセリングの中でも何かをするということはインターベンションである。
 
V.スーパービジョンのスタイル
・二つのスタイルがある。一つは「伝統的立場」,一つは「新しい立場」である。
・伝統的立場は,「君はクライエントの話を傾聴していない」のように,説教風のスーパービジョン。新しい立場は,ケーガンに代表される,「今の君の進め方で,クライエントはどう感じただろうか?」のように,クライエントが叱られたと感じることなく,自らが気づいていくようにする,育てるスーパービジョン。
・育てるスーパービジョンは,スーパーバイジーが,終わったあとで元気になるのがポイントである。質問技法で進められる点もポイントである。例えば,カウンセリングモデルをコーヒーカップ方式に据え,育てるスーパービジョンを行うと次のような展開になる。(スーパーバイザーの質問の一例を紹介する)
 
<スーパーバイジーとクライエントのリレーションを考えさせるために>
・「今日のカウンセリングを,クライエントはどう思ったと思う?」
・「クライエントはどういう気持ちで来週来ると思う?」
・「面接の間,クライエントはどういう表情をしていた?」
 
<問題の把握が妥当だったかを考えさせるために>
・「クライエントが君に一番言いたかったのはどんなことだったの?」
・「クライエントの気持ちを確認した?」
・「クライエントが言いたかったことは何なのか,確認したい気持ちはあるの?」
 
<処置の仕方が妥当だったかを考えさせるために>
・「課題を出したそうだけど,クライエントはどんな様子だったの?」
・「もし課題をやってこない時には,どうしようと思っているの?」
                  

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