公開資料 12「構成的グループエンカウンター」(片野智治先生)

1.ポイントその1〜定義
・構成的グループエンカウンターの定義は「リレーションづくりと自己発見のための教育技法」である。
・エンカウンターという言葉の意味は「ホンネとホンネの交流」であり,「自分のホンネに気づいたり,ホンネを主張したり,他人のホンネも受け入れたりするような一連の流れ」のことである。このエンカウンターをグループでやるのでグループエンカウンターという。
・エンカウンターを行うとどうなるか? 結論は二つある。一つは「人間とはどういうものか,関係はどういうものか,つまり人間関係を見直すきっかけになる」ということ。「袖ふれあうも他生の縁」,「旅は道連れ世は情け」などは構成的グループエンカウンターを体験してみて実感していることである。もう一つ,確実に言えるのは「自己疎外感が払拭でき,自己肯定感を高めることができる」ということである。この結論の根拠は,自身を含む,多くの研究者が統計処理等により,効果の検証をしているからである。
・「自己概念」とは「思いこみの自分像」であり,他者からの評価を摂取してできあがっていくものである。親,親友など重要な他者からの評価を核にしてできあがり,時として否定的な自己像を創り上げたりする。この思いこみの自己像を肯定的なものに変えるために有効なのが構成的グループエンカウンターである。

2.ポイントその2〜なぜグループなのか?
・グループには三つの機能がある。
@気づき,洞察の機会に恵まれている。例:誰とでも話せると思っていた女の子が,初対面で関係づくりがうまくできない子がいるのを知った。
A模倣の対象に恵まれている。
B我慢強くなれる(欲求不満耐性がつく)。例:部活がハードでやめたいが,友だちがいるからもう少し頑張ろうという踏ん張りがきく。
 
3.ポイントその3〜なぜ「構成」するのか?
・構成とは「枠を与える」ということであり,次のような枠がある。
@エクササイズの枠
Aグループサイズの枠(例:二人一組になってください。)
B時間の枠
 
*なぜ時間を構成するのか?(例:30秒で言ってください等)
・意識性が高まる。(言う内容を頭の中で整理する。結論から言うようになる等)
・心的外傷を防げる。(短いエクササイズをこなせばよい。こなしながら乗れるエクササイズに乗ればよい。)
・哲学的背景による。(実存主義哲学。ナチの収容所で自由を奪われたベテルハイムの言葉「人生は時間である。時間こそ人生である。時間の目安があるからこそ人は苦痛に耐えられる。」)
・人は枠があると不安や緊張から解放されて自由になるという側面もある。(全ての人がということではない。)
 
4.ポイントその4〜目的
・目的は「リレーションづくり」と「自己発見」
・リレーションに関しては,上野ら(1994)の交友関係の研究が参考になる。現代青年の多くは「表面的交友」をしているという。一対一の親密さより,グループのつきあいを大切にする。といっても,団結するとか深く心を通じ合わせているわけではない。なぜ,一対一の親密を避けるかと言えば,親密になるには自己開示が必要になるから。自己開示すると何か言われるのではないかと自分が傷つくのを恐れている。構成的グループエンカウンターはこの「表面的交友」を打破し,お互いの関係を創り上げる効果がある。
・ウィッシュ(1976)の研究では対人関係の4つのタイプを明らかにしている。
・協力,友好的な対人関係
・対等な人間関係
・親密な人間関係
・気持ちと気持ちを通じ合わせるような人間関係
・構成的グループエンカウンターでは,上記のようなタイプ全ての対人関係づくりを目的としている。
・自己発見とは「自己の盲点に気づくこと」。周りから見ている他者は知っているのに自分だけが知らない自分というものに気づくことである。自分のことがわかる程度に人のこともわかってくる。人のことがわかりたいなら,自分のことがもっとわかるようになるとよい。
・大人のレベルでは「自己の盲点への気づき(自己発見)」を重視したいが,子供に対しては「自己発見」を迫っても苦しくなる。それ故,「長所発見」にねらいを絞った方がよい。
・気づきは感情体験を伴った気づきということを重視したい。例:白内障で視力が弱り,手術を受ければ治るというのは頭ではわかっている。しかし,怖くてなかなか受けられない。いざ,手術を受けてみると(体験),「こんなにも周りが明るくよく見えるんだね」と気づく。
 
5.ポイントその5〜インストラクションのつぼ
・インストラクションとは「エクササイズのねらいや内容,留意点を事前に説明すること」である。
・つぼは二つある。   
 ・簡にして要を得ている。(無駄なことを言わない)

 ・ねらいを言うとき,しっかりと理論を踏まえ自分の言葉で伝える。 *カウンセリングの諸理論
 
6.ポイントその6〜教師の自己開示のつぼ
・教師が開示することで,子供たちが親近感を持てるようにする。
・教師は自己の鬱積した感情の発散的な自己開示をしてはいけない。
・自己開示のモデルになる。子供たちがどんな風にやったらいいのか見通しを持てるようにする。
・だから,何でも自己開示すればいいというわけではない。自己開示の美名のもと,泥を吐かせるような強要の仕方はいけない。人間関係の質に応じて,自己開示させていくのが,リーダーの腕の見せ所。
 
7.ポイントその7〜心理的抵抗のある子供への対応
・実際にワークショップに参加してみて,構成的グループエンカウンターの楽しさ,うれしさ,つらさなどを経験してみると,その時に子供の気持ちにもなれるだろう。そして,その対応を「じぶんだったらこうしてほしかった」というものが浮かぶのではないか。
 
8.ポイントその8〜グループを画一化しない
・久子Tが強く言っていること。誰もが参加しやすく,自己開示しやすいような雰囲気をリーダーが作れれば,グループは画一化しない。エクササイズの順序等だけに熱心な人がいるが,それでは子供の目顔に注意がいかない。エクササイズはやらせるという感覚でやってはいけない。
 
9.ポイントその9〜構成的グループエンカウンターを支える哲学
・実存主義の二つの言葉
*康孝Tの好きな言葉;「Courage to be」(ありたいようにあれ)
*久子Tの好きな言葉「Being is choosing」(人生は選択の連続。人生の主人公は私)
 
10.ポイントその10〜エンカウンターを学ぶ人に
・まず最初に読むべき本が「エンカウンター」(1981.國分康孝)
 
<エクササイズ実習>
・國分先生がエンカウンターのエクササイズをやるときには必ず,次の二つのことを行っている。  
 ・リチュアル(儀式):前後左右の人と握手

 ペンネームづくり
*「なぜ作るのか?」と言えば,名前というのは親の期待が込められたものである。構成的グループエンカウンターでは,「人生の主人公は自分」という哲学を支えとしている。それ故,自分の選択で決めたペンネームを使ってエクササイズを行う。それに,守秘義務ということもある。本名を使わない方が予防にもなる。ど んなペンネームにするかといえば,「なれそうな自分,なりたい自分,素の自分 が出せそうなもの」を。
 
(1)インストラクション:軽く目をつぶって,片野先生の次の言葉を聞く。
 「私がこの世に存在するのはあなたの期待に添うためではない。しかし,私がこの世に存在するのはあなたがかけがいのない存在であることを確認するためである。そして,私もかけがいのない存在としてあなたに確認してもらうためである。お互いにふれあいがあるときのみ,我々は完全に自由になる。私があなたと心がふれあうのは偶然ではない。積極的に求めるから,あなたとの心のふれあいが生まれる。受け身的に事の流れに自分を任せるからではなく,意図的に求めるから心のふれあいができるのである。」 
 
(2)エクササイズ1:「質問をして,相手に好意の気持ちを伝える」
<ねらい>リレーションづくり
 
(3)エクササイズ2:自己開示「好きな色,好きな本,子供の頃の話,夢,希望」
<ねらい>リレーションづくり
 
(4)エクササイズ3:「相手の印象を語る」
<ねらい>リレーションづくり
<留意点>理由はいらない。
 
(5)エクササイズ4:「お互いに見つめ合う」
  <ねらい>非言語の読みとり
<留意点>結構エネルギーを使うので,15秒が限度。
 
(6)エクササイズ5:「トラストフォール」
   <ねらい>不安や緊張を体験してみる。そして,徐々に安心してくる自分を体験してみる。
  <留意点>たくさん倒す必要はない。
 
(7)エクササイズ7:「二者択一」
<ねらい>リレーションづくり
<留意点>理由をくどくど言わない。

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