Q01:リレーションとラポールの違いは何ですか?
A02:SGEを語るときによく耳にする「リレーション」とは,お互いに構えをとった感情交流を持っている場合のこと。そして,その中身には二つある。ポジティブな感情とネガティブな感情である。「ラポール」とは,ポジティブな感情交流の時だけに用いる。つまり,つきあい始めの男女の間にはラポールは形成されているが,リレーションはまだ形成されていない。しかし,夫婦の間には時には夫婦喧嘩というネガティブな感情交流もあるので,リレーションが形成されている。(え? ポジティブな感情交流のない夫婦はどうなのって? さぁ???) したがって,ラポールとはリレーション形成の導入である。
<参考・引用 「カウンセリングQ&A」(國分康孝・久子共著,1984,誠信書房,P132>
Q02:構成的グループエンカウンターと社会的スキル訓練の違いは何ですか?
A02:構成的グループエンカウンター(SGE)が一番にねらうのは「自己発見」である。自己のフィーリング,シンキング,アクティングに気づくことであり,それは体験的気づき,感情を伴った気づきであることが大切である。社会的スキル訓練(SST)は,感情を伴う気づきにウェイトは置かず,How
toの習得にウェイトを置く。
SGEはスキルの訓練をする技法ではない。(この質問は私自身が國分先生にお尋ねしたことです。みなさんは,どう捉えていましたか?)
<岩手大学大学院「学校カウンセリング特論」における質疑応答から>
Q03:ゲームとエクササイズの違いは何ですか?
A03:このテーマはよく話題になる。エンカウンターが普及するにつれ,「それなら昔やったことがある」とつぶやく人が出てくる。しかしながら,その場合,「ゲーム遊び風のエクササイズ」を指している場合が多い。ゲームとエクササイズは何が違うのか,以下にまとめる。
・ゲームは楽しいことが多く,苦痛は少ない。エクササイズは,楽しいことばかりでなく,自分を見つめるような場合には,つらさや苦しさを感じることがある。
・ゲームに気づきは不要だが,エクササイズには気づきの要素がある。この気づきをエンカウンターは重視する。
<以上は,「エンカウンターとは何か〜教師が学校で生かすために(図書文化)」の引用>
*ウォーミングアップで行うようなショートエクササイズはゲーム風なものが多い。エンカウンターの目的は「自己発見(気づき)」と「リレーション形成」にある。ゲームはリレーション形成に効果を持つ。エクササイズは自己発見とリレーション形成を促す心理的課題である。「ゲームはエクササイズではない」という排除の理論ではなく,「ゲームはエクササイズにもなり得る」という捉え方はいかが? (さて,どうでしょう? わかりにくいですか?)
Q04:インストラクション(導入)で伝えるルールとは?
A04:グループ・エンカウンターはもともと,パーソナリティが健全であり,特に困った問題を抱えていない人たちが主たる対象である。そうした人たちに対する一般的なエンカウンターの場合,インストラクションで次のようなルールを伝え,徹底させることが大切である。
(1)表現の自由を確保するために,期間中,メンバーから知り得た情報については秘密を厳守すること。
(2)言った側が自分の言動の影響力について気づくために,相互に率直なフィードバックをしあうこと。
(3)目が内界に向きやすくするために,期間中は電話,テレビ,新聞など外界との接触をさけること。
(4)メンバーがすることは感情表現であり,他者の行動を変えようと努力する必要はない。行動の責任は当人にある。それゆえ,人の行動を変えようとしないこと。
(5)自主独立の精神を養うために,学生同士,女性同士のようなペアリングを避けること。
(6)期間中のメンバー間の性交禁止。それだけが目当ての参加者が増えるのを防ぐためと,いらぬ社会非難を避けるためである。
(7)暴力の禁止。当人同士の罪障感,憎悪感を防ぐためである。
<以上は,「エンカウンター」(國分康孝,1981,誠信書房)からの引用>
*上記7つのルールは,宿泊スタイルの一般的なエンカウンターワークショップの際に伝えられるものである。特に(1),(6),(7)は強調される。しかしながら,日帰りのワークショップや,対象が校内の教職員であるとか,児童生徒であるとかにより,伝えるべきルール,強調されるルールが異なる。(1)などは,対象がどのような場合にも欠かせないルールであるが。
Q05:SGEとサイコエデュケーションの違いは?
A05:サイコエデュケーションとは「育てるカウンセリング(予防・開発的カウンセリング)」の一形態であり,「心理教育」のことである。知的側面を重視する。SGEも育てるカウンセリングの一形態であり,サイコエデュケーションとは類似性が高い。両者の関係を見ると,理論的にはサイコエデュケーションの下位概念にSGEが来るべきであるが,現段階では,サイコエデュケーションの実態がまだ不明確な部分があるため,並列表記となっている。今後の整理課題である。第1回日本教育カウンセラー協会全国大会(2000)において,國分は,「SGEはサイコエデュケーションの一部である,とかつては言っていたが,現在は次のように考え方を改め,両者を並列に置いている」と述べた。
・SGE〜人に教えることはできない。「俺は老人に席を譲りたくない」,「ほう,そうか,俺はしょっちゅう譲ってるけど」。教師は「おまえ,席を譲れ」と教えない。自己開示があればいい。美術に似ている。「リンゴは赤で描け」とは言わない。「黄色のリンゴを描く生徒がいてもいい」。一つの物を見て様々な表現方法があっていい。
・サイコエデュケーション〜人に教えることができる。「老人には席を譲りなさい」と教師は教える。思考,行動,感情を教える。感情を教えるのは難しいが,「内観」は有効。「リンゴは赤い」ということを教える。
Q06:時間が足りないときのシェアリングの工夫
A06:シェアリングがうまくいかない理由は大きくわかると次の4点に集約される。「話せる雰囲気にない」,「話し方がわからない」,「話す話題がない」,「話す時間がない」である。生徒がいきなり話せるわけではない。支持的な学級の雰囲気があって初めて自己開示ができる。教師の自己開示も雰囲気作りには効果的である。抵抗を和らげる方法として,ペアや小グループでまず話し合わせるとか,考える時間を与えるとか,書かせてから話させるとか等の工夫がある。話題と話し方については,「私の好きなものは〜です」といった話し方のモデルを与えることが効果的である。授業の中でシェアリングができずに終わってしまうことが多い。その場合は,授業中に書かせた振り返り用紙を帰りの会で読み上げたり,学級便りに紹介したりという方法も広い意味でのシェアリングである。その場合はあらかじめ生徒の同意を得ておく必要がある。もう一つの方法としては,短時間で行えるエクササイズを実施した方がよい。10分程度のエクササイズを行い,残りの時間をシェアリングに費やすくらいでよい。SGE=エクササイズという誤解を解き放つとよい。エクササイズは,生徒の成長を促す「触媒,心理的誘発剤」である。この点を誤解すると,SGEはゲームをして遊んでいるだけいう批判に対応できなくなる。
(エンカウンターで学級が変わる3 中学校編 吉澤克彦 P210参考)
Q07:エクササイズをすればエンカウンターか
A07:学習会で様々なエクササイズを実習すると「あ〜,構成的グループエンカウンターとはこのことか。わかった,わかった」と思いがちになる。つまり,エクササイズをすることがエンカウンターであるという誤解を招きやすい。だから,私自身も初めのうちは,学校である程度まとまった時間がとれ,しっかりとエクササイズをやり,その後でシェアリングをするという一連の流れがエンカウンターであると思っていた。
エンカウンターとは,大きく二つのねらい,すなわち「リレーション形成」と「自己発見」をめざし,最終的には人間としての自己成長をめざした集団体験学習である。構成法の場合,ねらいに迫るために重要な役割を成すのが「エクササイズ」である。それは,ねらいをよりスムーズに達成するための「触媒」としての働きを持っている。しかし,触媒はあれば確かにいいだろうが,絶対に必要なものでもない。
吉田先生は「エクササイズをすればエンカウンターなのか」という問題意識を國分康孝先生に語ったところ,「エンカウンターはエクササイズが問題なのではない。授業の終わりに,今日の授業で気づいたこと,考えたことを語り合うことがエンカウンターなのだ」とアドバイスをいただき,ハッとしたと述べている。まさに,エンカウンターは「心の心のホンネの交流」,「高級井戸端会議」であると私も再確認した部分である。
(「エンカウンターとは何か」.図書文化 P88.吉田隆江先生の文章を参考)
Q08:問題発言に対する介入
A08:シェアリングの場面で,否定的・非行的な発言をしているメンバーがいるときには,リーダーは毅然とした態度でのぞみたい。「ふざけた態度はやめなさい」とユーメッセージで叱るよりも,「真剣な話し合いができないのはとても悲しい。そういう発言をする君の気持ちをもっと話してほしい」とアイメッセージで語りかけるとよい。
シェアリングの場面ではないが,日常的な生徒のかかわりの中で,子どもの発言や態度に対して,「何をしているんだ!!」と腹が立つことがある。その時には,一呼吸置いて,「今の態度はとっても嫌な感じがしたなぁ」と自分の気持ちを伝えるようにしている。「私」を主語にしたアイメッセージは,自分自身の気持ちを抑えてストレスをためることもなく,それでいて,相手の変容を促すことにもつながる効果的なコミュニケーションスタイルである。アイメッセージは,「自分も相手も大切にするコミュニケーションスタイル」であり,まさに,「アサーション」といえるのではないか,とふと感じた。
(「エンカウンタースキルアップ」.図書文化 P158.加勇田修士先生の文章を参考)
Q09:エンカウンターと対人関係ゲームの違い
A09:田上不二夫先生(筑波大学教授)は,著作等の中で「対人関係ゲーム」という名称を使っています。「エンカウンターと何が違うの?」とはよく話題に上がる質問です。「エンカウンター」はもともと自然の中での施設等を使い,宿泊を伴う集団体験活動の中で,「リレーション形成や自己発見」を促すことをねらっています。特に構成法(SGE)はエクササイズを触媒として使い,参加者同士がお互いの気づきをシェアすることが大きな特徴となっています。田上先生は,この本来の「エンカウンター」をそのまま学校現場に当てはめるのは難しいだろう,学校現場では主にリレーション形成に主眼を置く活動でも十分効果的だろう,という考え方から「エンカウンター」ではなく,「対人関係ゲーム」という呼称を用いています。(シェアリングがないわけではありません)
私自身は,学校現場で今現在多く行われている「エンカウンター」は,本来のものをよりマイルドに,学校に適する形で構成し直した「学校版エンカウンター」のようなとらえ方をしていますので,「エンカウンター」という言葉の響きに引っかかりませんが,田上先生は,本来の「エンカウンター」の意味を大事にしたのだろうと思っています。
*2001年5月,教育カウンセラー養成講座(雫石)における田上先生の講義を参考にしてまとめた。