研究論文 5
中学生の友人関係行動におけるストレッサー認知について
〜対人不安意識と状況特性の関連から〜
秋田大学教育学研究科 川井 貴絵
目的
学校ストレスの研究は認知的評価と対処行動の関連によるストレスの表出が主なものであった。認知的評価や対処行動に影響を及ぼしているものは、個人的資源(ソーシャルサポート)以外、個人的な特性に対しての研究はあまりなされていない。しかし、中学生では特に重要視される友人関係においては、対人関係を築くことに苦手意識がある者とそうでない者との間で、対人ストレッサー認知に違いが出てくるものと考えられる。つまり、対人不安意識の高まりにより、出来事をよりストレッサーととらえやすくなるものと推測される。また、対人不安意識によって社会的場面や新しい出会いの場面に入ってくことを避けるようになったりするとされている(堀井・小川、1996)。そのため、このような個人のパーソナリティ特性、状況が対人ストレスに及ぼす影響は無視することができないものであると考える。
本研究は、中学生の対人不安意識が友人関係行動における対人ストレッサー認知にどのような影響を及ぼすかについて検討していくことを目的としている。
方法
(1) 調査対象と期日
公立中学校の全校生徒254名(男子141名、女子113名)を対象に、2000年8月に調査を実施した。
(2)質問紙の内容
・対人不安意識→「対人恐怖心性尺度」(堀井・小川、1996)を用いた。〈30項目、6件法〉
・認知的評価→「中学生用認知的評価尺度」(三浦・坂野、1996)を用いた。〈12項目、4件法〉
〔状況設定について〕
状況の変化による差を検討するために、中村(1996)によって抽出された4つの知覚次元、親和性(高低)、拘束性、関与・不安(高低)、対等性に基づいて設定した。また、友人関係行動を新しいところに入っていこうとする参加行動と、もともとの関係ができていたときの維持行動に分けて設定した(合計8場面)。
→クラスがえの後、あなたが仲よくなった新しいクラスメイトのAさん(同性)が、あなたがあまり親しくないほかのクラスメイトと休みの日に出かける話をしていました。あなたは今までAさんたちと出かけたことがなく、その行き先もあまり興味のないところだったのですが、なんとなく自分も一緒に行こうと思い声をかけました。しかし、Aさんはあなたの話をあまり聞いてくれず、一緒に行くことに乗り気でないようにも感じます。
結果と考察
《対人不安意識各下位尺度が認知的評価に及ぼす影響について》(3要因の分散分析)
・「自分や他人が気になる」
男子は親和性が低い状況以外、対人不安意識が高い群の方が影響性を高く評価した(親和性高p<0.01、それ以外はp<0.05)。女子は、状況の違いに関わらず、対人不安意識が高い群の方が影響性を高く評価した(全てp<0.01)。
・「集団に溶け込めない」
男子は興味・関心が高い状況、関係参加状況において、対人不安意識が高い群の方が影響性を高く評価した(共にp<0.05)。女子は、親和性が低い状況以外、対人不安意識が高い群の方が影響性を高く評価した(親和性高・興味低p<0.01、その他はp<0.05)。
・「目が気になる」
女子は、状況の違いに関わらず、対人不安意識が高い群の方が影響性を高く評価した(親和性低・維持場面p<0.05、その他はp<0.01)。
以上の結果から、中学生においては対人不安意識が強いかどうかによって、その状況をストレッサーととらえるかどうかに違いが出てくるということが明らかにされた。
また、自分の興味・関心が高い出来事に関して、友人との関係が親密であればあるほどに、その状況をストレッサーと認知しやすくなることが明らかにされた。
「自分や他人が気になる」「集団に溶け込めない」→不安意識が高い群が影響性を高く評価したのは、この不安意識の他人や集団の中に友人が含まれているために、この不安意識が自分を取り巻く友人たちとの間でのトラブルもネガティブにとらえるようになると考えられる。また、これらの意識による自己評価の低さも、影響性を判断する規定因となりうると推察される。
「目が気になる」→女子においてのみ不安意識の高低による認知的評価に有意な差がみられた。これは、中学生女子においては友人との間で容姿や服装のことなどについて話すことが多いため、自分が人に見られているということを意識する場合が多くなるものと考えられる。そのために、周囲の目、または自分の目に対しての不安意識が影響を及ぼしたものと考える。
〜引用文献〜
・田中康弘・穂苅千恵・福田周/小川捷之 1994 青年期における対人不安意識の特性と構造の時代的推移 心理臨床学研究第12巻第2号 121‐131.
・堀井俊章・小川捷之 1996 対人恐怖心性尺度の作成 上智大学心理学年報第20巻 55‐65.
・M.R.リアリー/R.S.ミラー著・安藤他訳 不適応と臨床の社会心理学 誠信書房.
・中村和彦 1996 社会心理学における状況研究 日本性格心理学会第5回大会発表論文集 3.
・竹中晃二編 1996 子どものためのストレス・マネジメント教育〜対症療法から予防措置への転換〜 北大路書房.
・嶋田洋徳 小中学生の心理的ストレスと学校不適応に関する研究.
・三浦正江・坂野雄二 1996 中学生における心理的ストレスの継時的変化 教育心理学研究第44巻第4号 368‐378.
・榎本淳子 1999 青年期における友人との活動に対する感情の発達的変化 教育心理学研究第47巻第2号 180‐190.
・落合良行・佐藤有耕 1996 青年期における友達とのつきあい方の発達的変化 教育心理学研究第44巻第1号 55‐65.