研究論文 1 

不登校を背景要因に持つ生徒に対する構成的
グループエンカウンターの効果と実施上の留意点
曽山和彦
(秋田県立本荘養護学校)
 
【目的】
 現在,不登校やいじめなどの問題行動に対する予防開発的な技法として構成的グループエンカウンター(以下,SGE)が脚光を浴びている。本研究は不登校を背景要因に持つ生徒にSGEを実施し,生徒の自尊感情や社会的スキルの向上,ストレス反応の軽減に及ぼす影響について考察を加える。さらに,効果的なSGE実施上の留意点についても整理し,問題解決的技法としてのSGEの可能性を探る。
 
【方法】
対象:A病弱養護学校中学部生徒9名(1年男1,女1,2年男1,女4,3年男2)

SGE実施期間と回数
:19○○.10月〜20○○.2月に6回のSGEを実施。(表1)

測定具:@社会的スキル:戸ヶ崎他(1997)の「中学生用社会的スキル尺度」25項目に,独自に作成した12項目を加えた37項目。A自尊感情:Rosenberg(1965)の「自尊感情尺度」10項目。Bストレス反応:三浦他(1995)の「中学生用ストレス反応尺度」24項目。

効果検討の観点
a)生徒の自己評定:上記@ABの測定具を用いた質問紙をSGE事前(7月)と事後(2月)の2回,生徒9名に実施した。生徒自身による自己評定である。
b)教師による生徒評定:上記@Bの測定具を用いた質問紙を同様な手順で教師12名に実施した。生徒9名に対する独立した評定である。
c)生徒の自己評定と教師による生徒評定の差:上記の質問紙で得たデータを用いる。
d)生徒の振り返り:SGE実施後,毎回,9名の生徒に自由記述させた感想や気づきをまとめたものである。e)教師の振り返り:6回のSGE実施後,社会的スキル,自尊感情,ストレス反応に関する生徒の変化を12名の教師に自由記述してもらい,まとめたものである。

留意点検討の観点
授業記録:SGE実施後,毎回,T-Tとして入った教師に授業の展開,生徒の様子,今後に向けて,等に関して自由記述してもらい,まとめたものである。
表1.実施エクササイズのねらいと主な内容
  エクササイズ名 ねらい・主な内容
1
 
気になる自画像
<ねらい>自己・他者理解,自己受容
・25個の肯定的な言葉から自分や友だちに当てはまりそうな言葉を選び伝え合う。
2
 
宇宙船での選択
 
<ねらい>自己・他者理解,自己主張
・シナリオを読み,5人の登場人物に順位付けをし,グループの合意形成を図る。
3
 
エゴグラム
 
<ねらい>自己・他者理解
・各自,エゴグラムをつけ,グループメンバーに対してもイメージを伝え合う。
4
 
権利のプレゼント
 
<ねらい>自己・他者理解
・10個の権利に順位付けをし,グループ内で各自の考えを話し合う。
5
 
みんなでリフレーミング  <ねらい>自己・他者理解
・各自が記した短所を友だちに長所に書き換えてもらい,感想を伝え合う。
6
 
あなたにピッタリ
 
<ねらい>自己・他者理解
・家,花,風景について友だちにピッタリのイメージを伝え合う。

 
【結果】
1.SGEの効果について
効果検討のために設定した観点の中,以下のようにSGEの効果が示唆された。(表2)
b)では,ストレス反応得点が有意に下がった。(両側t検定:t(129)=2.338,p<.05)
c)では,事前は,両者の評定差が社会的スキル得点(生徒>教師)で有意(両側t検定:t(73)=3.054,p<.01),ストレス反応得点(生徒<教師)で有意(両側t検定:t(73)=-2.742,p<.01)であったが,事後は,両者の評定差がいずれの得点も有意でなくなった。
d)では,「知らない自分を知ることができた」,「友だちが私のために言葉を考えてくれたのがうれしかった」,「今まで短所が多くて気になっていたが,リフレーミングをしてみると結構楽しかった」,「ほめてもらえることはうれしい」等の記述が見られた。
e)では,「友人関係がよくなってきた」,「ほめられたことを素直に受け止めるようになってきた」,「お互いの個性を尊重できるようになってきた」,「投げやりな言動が減ってきた」等の記述が見られた。
 
表2.SGE事前事後の各変数の平均及び標準偏差

変数
 
生徒の自己評定 教師の生徒評定
SGE事前 SGE事後 SGE事前 SGE事後
平均 SD 平均 SD 平均 SD 平均 SD
社会ス 105.89 14.86 97.22 15.04 93.24 11.49 93.72 11.78
自尊 24.89 6.47 25.89 7.80        
スト反応 47.33 16.48 48.33 13.98 59.33 10.69 55.20 9.44
 

2.SGE実施上の留意点について
 教師による授業記録の中から一部を以下に掲載する。
段階的なスキンシップが用意されていたので,生徒は抵抗なく活動に入れた。
・ロールプレイなど生徒にとって厳しいかなと思える内容でもT-Tの配慮や設定の仕方で取り組めることがわかった。
・ウォーミングアップでかなりいいムードになるのがわかった。
・自己開示しにくい生徒の実態を踏まえたウォーミングアップの長さや構成が必要である。
・教師が介入しないとシェアリングが全く進まないグループもある。
・教師が一人だけでは生徒の表情や動きを見切れないので,複数の目でそれとなく様子を見る必要がある。
 
 エクササイズに入る前のウォーミングアップに関することやT-Tの動き,シェアリングに関することが多く指摘された。
 
【考察】
1.SGEの効果
 複数の教師が生徒のストレス反応軽減を捉えている事実はSGEの効果と考えてよい。教師評定の数値は,日常,生徒に接する複数の教師による評定の平均値であり,その信頼度は高いと推測されるからである。また,SGE事前から事後にかけて,生徒自己評定と教師評定の差がなくなったことも効果と考えられる。この結果は表2に示したように,生徒の自己評定が下がり,教師による生徒評価が上がったことによるものである。前籍校で登校できなかった生徒が,養護の環境(少人数,緩やかなカリキュラム,教師とかかわる時間の多さ等)に適応した結果が,SGE事前の質問紙調査に表れ,高い自己評定の値を示したものと推測される。そうした生徒がSGEを体験する中で,自身が不当に高く「思いこんでいた自分」から「ありのままの自分」へと自己認知を修正したのではないかと考えられる。さらに,生徒及び教師の振り返りの結果も,SGEの効果を後押しするものであった。

2.SGE実施上の留意点
 不登校を背景要因に持つ生徒に対してSGEを実施し,その指導の反省を一つ一つ積み上げた結果,以下のような留意点が整理された。
@十分なウォーミングアップ:集団内の緊張を解きほぐすには,ショートエクササイズを織り交ぜたウォーミングアップを十分に行う。
Aスキンシップのエクササイズ:抵抗を示す場合が多いが,十分な配慮のもとに活動を取り入れるとその効果は大きい。
B非言語エクササイズ:エネルギーの乏しい生徒には,まず非言語のエクササイズから入ると和やかな雰囲気が作れる。
C心的外傷を防ぐT-T:状況を見ながら,複数の教師で指導にあたり,生徒の心的外傷を防ぐ配慮は欠かせない。
D振り返り用紙を使ったシェアリング:話すことは苦手でも書くことには抵抗のない生徒が多く,用紙に書かれた感想等を教師が発表することで,お互いの考えを全員で共有することが可能。

 
【結論】

 本研究の結果から得られる結論は,「不登校を背景要因に持つ生徒に対するSGEは生徒の自己一致を促進したり,ストレス反応を軽減したりする効果がある」ということである。すなわち,問題解決的な技法としてのSGEの可能性が本研究の結果から示唆されたと言える。本研究の対象生徒のようにエネルギーの不足した生徒にも効果が示唆されたSGEは,普通学校の生徒に対しては,さらに大きな効果が得られるだろうと考えられる。学校現場からは,「SGEの実践がうまくいかない」という声も聞かれるが,本研究で整理した留意点が一つのヒントになるようであれば幸いである。
 教師の誰もが使うことができ,現代を生きる子供たちの心を育てる効果的なカウンセリング技法として,SGEがさらに多くの学校・学級で実践されることを願っている。

<参考文献>
・戸ヶ崎泰子,岡安孝弘,坂野雄二,1997:中学生の社会的スキルと学校ストレスとの関係,健康心理学研究,Vol.10,bP,23-32
・三浦正江,福田美奈子,坂野雄二,1995:中学生の学校ストレッサーとストレス反応の継時的変化,日本教育心理学会第36回総会発表論文集,555
・Rosenberg,M,1965:Society and the adolescent self-image,Princeton,N.J.:Princeton University Press

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