学習会講義資料バックナンバー 7−2 

「論理療法」について

1.なぜ今,論理療法が必要とされるのか
・カウンセリングの世界には次の三つの勢力がある。
・第一勢力〜精神分析,自己理論
・第二勢力〜行動主義
・第三勢力
〜・実存主義の丸出し(フランクル,ムスターカスら)
  ・論理療法
  ・交流分析
  ・ゲシュタルト療法

*最近は第四勢力として「トランスパーソナル」が脚光を浴びつつある。おおざっぱにとらえると,経験主義,科学主義を越え,神秘主義的色彩を持っている。

・カウンセラーは自分自身がまともでないといけない。自分で自分の問題を解くのに論理療法が一番適している。
<参考>「自分の問題を解く」ということでは,ロジャーズが自己分析の方法をまとめなかったので,ロジャーズの流れを汲むジェンドリンが「フォーカシング」を提唱。

・論理療法はすべての教員が触れたらいい。イメージをつかむには「自己発見の心理学」(講談社現代新書.國分康孝)が参考になる。
・論理療法は折衷主義の考え方に立つ理論である。論理療法を支える哲学はプラグマティズムであり,これは「問題を解くのに役に立つ知識こそ真の知識である」という考え方がバックボーンにある。折衷主義の考え方は,「役に立つために使えるものは何でも使え」ということである。技法的には7割が行動主義を取り入れているが,その他のものもいいものはどんどん取り入れる。このように,論理療法は様々な理論のいいところが盛り込まれているために,どの理論の出身者であっても違和感を持たない。
・「論理療法入門」(川島書店,ドライデン)もわかりやすい。「論理療法の理論と実践」(誠信書房.國分康孝)は,論理療法を実際にやってみたらよかったという,実践の取り組みをまとめたものである。

2.論理療法とは何か(「森を語る」)
・一言で言うと「考え方次第で悩みは消える」,「人間の悩みは出来事や状況に由来するものではなく,そういう出来事をどう受け取るかという受け取り方に左右される」ということを教えるものである。
(1)出会い
・1961年,アメリカ留学の際に初めて知った。Dr.ハドソンとメルパーマ研究所で1時間の論理療法面接を受けた。「僕のためにどうも」と最後にお礼を言ったら,教授が「ちょっと待て,君の予約を受けたのは君に会いたいと私が思ったからで,私にお礼を言う必要はない。お礼を言うなら,自分自身にThankyouと言った方がいい」と言われた。ハドソンにその場で,「他のクライエントの論理療法面接場面を見たいのだが」と申し込んだところ,「クライエントがいいと言えばかまわない」という返事だった。しかし,クライエントがイエスと言わず,「ダメだと言っているからあきらめてくれ」とためらいもなく言われた。論理療法では,人を拒否すべきではないと思う必要はなく,拒否しなければならないときには拒否してもいいということを認めればいい。拒否された人は人格そのものを否定されたわけではないのだから,それで惨めになる必要もない。これが,論理療法との初めての出会いだった。
(2)エリスの面接
・公衆の中から,「Any body?」とクライエントを募る。実際に面接場面を見せ,その後「Any questions?」と公衆に尋ねる。「本に書いてあることと先生の言っていることが違うように思うが?」に対しては,「あの瞬間はそうは思わなかった」,「何々の方法があると思うが?」に対しては,「あの場面では考えつかなかった」のように,指導者が失敗して何が悪いんだという雰囲気が感じられた。

(3)論理療法という名称
・國分Tは,元々は精神分析から入ったが,それに論理療法が加わって核になっている。
・1955年にRational therapy(RT)をエリスが提唱。これを國分が「論理療法」と訳した。
・1966年,Rational Emotive therapy(RET)
・1995年,Rational Emotive Behavior therapy(REBT)
・エリスの来日の折,名前が3度も変わっていて,それを正確に訳して伝えていくと日本では混乱するので,最初の「論理療法」で通していいかと確認したら,「君が日本で普及してくれるなら,君の思うとおりにやってくれ」と言われ,以後も「論理療法」で通している。

(4)エリスの評価
・アメリカに於ける評価の基準は「論文に引用される頻度数」がある。この中では,フロイト,ロジャーズ,エリスがベスト3。
・現在のアメリカにおいて一番人気は「認知行動療法」。エリスは,この認知行動療法の祖父と言われている。

(5)なぜ,「論理療法」の評価が高いのか
・簡便法(ブリーフセラピイ)を取り得るから。現代のアメリカ社会は,保険会社が面接料を負担する時代。精神分析のように長期に渡る治療では保険負担されない。クライエントが「5回でなおしてほしい」というような要求をする時代。それに応えうるのが論理療法である。それは,精神分析の「カタルシス」と取り入れなかったり,自己理論の「受容」をそれほど大切に受け止めなかったから。「何が悩みなのか言ってくれ」,「どんな思いがあるの?(ビリーフを知る)」,「ビリーフを粉砕する」というのが面接の流れである。

3.論理療法とは何か(「木を語る」)
・エリスのやり方をそっくり真似て「木」を語る。
・論理療法は「ABC理論」とも呼ばれる。
  A:Activating event(出来事)
  B:Belief(信念,固定観念)     A→B→C
  C:Consequence(結果)

・普通は,「出来事があるから悩む」と思う。しかし,Beliefが悩みのもとであると考える。たとえば,「A:ドアがバタンと閉まる音」→「C:不快な気持ちになる」,しかし,これは「B:ドアは静かに閉めるべきである」というBeliefがあるからである。その証拠にドアがバタンと閉まるたびに千円を配ってみればいい。5,6回もやれば,千円をもらえるのを心待ちするようになる。つまり,「B:ドアがバタンと鳴ったら千円がもらえる」というように心の中の文章記述を変えたから,Aが同じでも,Cが変わったということ。(不快→楽しみに)
・Belief が変われば悩みはすべて消えると断言はしない。悩みが軽減する程度のこともある。上司からの評価が低い社員が「上司ににらまれたら世も末である」というBeliefのために落ち込んでいたとする。「上司ににらまれても首になるわけではない」と考えれば気が楽になる。しかし,もっと良い方法は上司に好かれるようにすることである。
 論理療法では,Bを変えた後,Aが変えられるものならAを変えるように工夫することが大切である。さらに,Aの認識そのものの修正も大切である。「みんなが僕を嘲笑した」というのは客観的事実(A)のように見えるが,「クラス全員のことか?」と聞くと「3人だ」という。「嘲笑したのか?」と聞くと「嘲笑したように思ったけど」という。Aがあやふやなときには,これを明確にするだけでCが変わることもあり得る。
・エリスは,いかなる状況に置かれても,それをどう受け止めるかによって,ノイローゼになったり,首をくくったりするかが決まる。ノイローゼになる人は考え方が足りない。悩める人は自分のBeliefの検討が足りないと結論づけている。
・人を不幸にする悪玉Belief のことを「イラショナル・ビリーフ(iB)」という。iBの特徴は次の4点である。
 @目標に近づけない考え方。例:夫婦で仲良くしたい(目標)と思っていても,「男は台所に立つべきではない」というBeliefの夫では,目標達成しにくい。
 A人生の事実をふまえていない考え方。例:「すべての人に好かれねばならない」というBeliefを持っていると,誰かに冷たくされると,自分はダメ人間と思いこむ。しかし,自分自身,苦手な人がいるように,自分のことを苦手に思う人もいるだろう。これが人生の事実である。したがって,「すべての人に好かれるにこしたことはないが,価値観等が異なり,嫌われる場合もあるだろう。一人の人に嫌われても人生終わりではない」という考え方がラショナル・ビリーフである。
「完全でなければならない。失敗すべきではない」というBeliefも人生の事実に即していない。」落ち込む人は,「ザ・ベスト」を求めすぎ,「マイ・ベスト」を尽くせばいい。
 B論理性が乏しい考え方。どうしてもそう考えざるを得ない必然性が乏しい考え方のこと。例:「私はカウンセラーである。それゆえに離婚できない」というBeliefに論理性はあるか。「離婚できない法律や職業倫理があるわけではない」ので,論理性はない。「私は失業者だから,人生は終わりだ」。「失業したが,失業保険がある」,「失業したので,しばらく配偶者に養ってもらおう」というようにいろいろな文章記述がある。「人生は終わりだ」と考える人は,任意に選んだに過ぎない文章記述で自分を不幸にしているだけ。
 C柔軟性のない断定的な考え方。他にも考え方があり得るという前提を持たない考え方。「バラの花は赤い」と言い切るのは,その他の事実を無視している。言い切ってしまうと,「バラの花は永遠に赤いとか,赤くないものはバラではないと主張する」柔軟性のない人になってしまう。

・12パターンのイラショナル・ビリーフ
 @ねばならないBelief
 A悲観的Belief:「世も末」,「絶望的」等の言葉を含む文章記述。エリスは「この人生に八方ふさがりということはない。ただ不便なだけだ。」と言っている。絶望的であると受け取るから,その受け取り方に即した言動をとる。
 B非難・卑下的Belief:「自分はダメ人間だ」,「あなたはダメ人間だ」という表現方法をとる。
 C欲求不満低耐性Belief:「我慢できない」,「耐えられない」という表現方法をとる。

・イラショナル・ビリーフは必ず粉砕するものではない。「神が共にいる,神様お助けください。」その考え方によって君はハッピーなのか? 周りの人もハッピーなのか? そうであれば粉砕する必要はない。論理療法とは考えのあるところに人間は成長する。悩むのは考えが足りないからである。思考が変われば感情が変わる,感情が変われば行動が変わる。保護者から文句言われつつ,いろいろなことを教わったら感情が変わった,感情そのものに揺さぶりかけたら,行動が変わった,行動に揺さぶりかけたら,感情が変わった………etc。順序を決める理屈は定まっていない。どこからかかってもいい。三位一体論。

・ラショナルビリーフは様々である。ラショナルとイラショナルを見極める観点は,「事実によるか」「論理性があるか」「人をハッピーにするか」。

<問い>次のイラショナル・ビリーフをラショナル・ビリーフに変換せよ。(*2000.9月の教育カウンセラー講習会での國分Tの演習から引用)

例1:「配偶者を憎むべきではない」
 ・元々他人,憎むことあっても当然。愛せるにこしたことない。
 ・憎まない方が楽しく生活できる。
(國分T)配偶者は僕の思い通りにすべき。だから腹も立つことある。

例2:「カウンセラーは常に傾聴すべきである」
 ・約束,時間,場所に応じて相談に応じる。
 ・傾聴できればこしたことない。傾聴しなくても関係壊れると限らない。
 ・いつでもどこでもそうしなくてもいい。
 ・傾聴できないこともある。断ってもいい。
(國分)・傾聴した方がいいときにはしろ,そうでなければするな。
クライエントの足しになると判断したとき。

例3:「失業したからダメ人間である」
 ・でも,次の人生があるのではないか。
 ・失業しても何とかなるさ。根拠は? ない。楽になるから。
 ・失業者の8割は再就職しているから。

例4:「私は育児が下手である」
 ・育児は下手だが,子供は人一倍愛している。
 ・他の人から支援が受けられる可能性がある。
 ・下手だと母親でなくなるのでなく,死ぬわけではない。
(國分T)人柄と行動の識別がない。育児下手,ワープロ下手,とパーソナリティは関係なし。育児は下手だからといって人柄が悪いわけではない。

例5:「教師は労働者である」
 ・教師は労働者でもあるが指導者でもある。
 ・教師は労働によって感動を得られるチャンスに恵まれている。でも,どこが気に入らないのか? 労働者だけでは足りない。情感が足らない。味気ない。それが浮き彫りになれば幸せかな。
 ・いつも労働者というわけではない。遊ぶときもある。
(國分T)事実を語っていない。 一般化のしすぎ。一部でもって全体を言い過ぎ。しかし,教師は残業手当が出ない。教師は労働者の面を持つが,プロフェッショナルとして生きている。たとえば,「女性ドライバーは下手である」というのも一般化のしすぎ。すべての女性ドライバーが運転が下手ではない。労働者のアイデンティティを持つと,時計を気にする教師になる。プロフェッショナルのアイデンティティを持てば,やるべき時には時間を気にしない。

例6:「私は数学が不得意です」
 ・不得意だが,これからもそうとは限らない。(時間の一般化)

例7:「私には愛が必要です」
 ・私は愛がほしいのです。
(國分T)エリスは愛がない人生を歩んだ。入院,離婚,自力で生きてきた。私生活でも辛い目を見た。愛があるにこしたことない。ないからといって生きられないわけではない。
愛があればハッピーか。みんなが思うほどいいものではない。どんな愛にも所有欲ある。所有とは嫉妬。エリスの結論。ネセサリーではない。

例8:「汝盗むなかれ」
 ・他人のものを盗んではいけないが,スキルは盗んでもいい。
(國分T)盗むなというよりも,盗むと損だ,ということ。損得で迫った方が行動が規制しやすい。世の中を平和に生きようと思ったら盗まない方が得。この人と関係持てば,損であると言い聞かせよ。たとえば,カウンセラーとクライエントの交際など。

例9:「私の母は精神病」
 ・精神病の母を持った人がすべて結婚していないわけではない。
 ・それでOKの人を捜そう。
(國分T)論理性がない。二つにつながりがない。だからといって,私が精神病ではない。結婚に支障はない。

例10:「カウンセラーは離婚してはならない」
 ・私はカウンセラーです。だから,離婚したいときにはさっさと離婚する。自分の悩みくらいさっさと解決する。
(國分T)キャンノットとドウノットの違いもわからないのか。社会的批判はどうかといえば,思ったほど,クライエント減らない。人を助ける立場の人間は自分の問題くらい自分で解け,ということ。

4.論理療法を使った面接の実際
・時間的には,1回20分くらい。

<面接の雰囲気>
カ:ハロー,名前は? 
ク:ケン
カ:今日はどんな理由で来たの? 

*論理療法面接に来る人は既にリレーションがある場合が多い。ABCで分類。 親父と酒が飲めない,情けない,ダメ人間,ふがいないと自分のことを思っているクライエント。

カ:君はどうなりたいの? 
ク:親父と酒飲めるようになりたい。 
カ:お父さんのことをどう思ってるの? 
ク:親父が殴ると思っている 
カ:最近,殴られたのはいつ? 
ク:小5の時。その後は,40過ぎまで殴られていない。
カ:今,何か殴られる根拠あるの? 
ク:特にない。
カ:昔と同じと思ってるわけだ。それなら確認する気はないか。君は,いつだったらお父  さんに声をかけられる?
ク:風呂上がりならかけられると思う。

*会話の仕方も教える,子供の時よく殴った父のようだが,どんな仕事していたのか,家計はどうか等。その時に意見は言わないこと。雑誌記者のように取材するだけ。テーマを二つ与える。一つは「時間は5分の宿題」。それができなければ罰を与えるという約束をする。たとえば,楽しみが晩酌ならそれを2週間禁止にするとか。アメリカでは罰として,妻の実家に電話,台所掃除,1ドル紙幣に火をつけて燃やすなど強制的に課題遂行をさせる。アクションしているうちにフィーリングや思考が変わったりするという考え方からである。もう一つは「イメージ訓練」。イメージとして,殴られそうになったら,最高のパニックになったら,と考え,その際,いかなる方法でもいいから楽な気持ちになってくださいということを指示しておく。系統的脱感作の手法。

5.論理療法を生かしたエンカウンターエクササイズ :「さいころトーク」(演習)
(1)目的
 @自分の経験,味わった感情を振り返る
 A互いの経験を披露しあい,感情を表出することによって,相互理解を図る
 B日常の生活の中で生じるストレスをどのように解消したらよいか考える
 C一定のまとまりのある話ができるようになる

*・グループサイズ:3〜12人
 ・用意するもの:サイコロとタイマー

(2)方法
 @次の6項目について学習者が,それぞれ3分くらいで話せるように心の準備をさせておく。その際に,以下の提示文型の(ア),(イ)を使うように指示する。

1. うれしかったこと
2. びっくりしたこと
3. 困ったこと
4. 寂しかったこと
5. 大変だったこと
6. 残念だったこと

(ア)いつ,どこで,誰が,どうしたか
(イ)〜したあとで,〜する前に,ところが,そこで,そうしたら,しかし
(ウ)〜にこしたことはない。〜だが(しかし)〜

 A順番にサイコロを振り,出た目のトピックを3分間話す。
 B他のメンバーはシェアリングの要領で,発表者の話について意見を述べる。
 Cリーダーは発表者の話にイラショナルビリーフが含まれていると思われた場合,文型(ウ)を用いて文章記述の換えるように助言する。


<参考引用文献等>

・2000.9月,教育カウンセラー講習会仙台会場での國分先生の講義(スプリングさん参加) テープよりの記録
・「論理療法の理論と実際」.國分康孝.1999.誠信書房

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