学習会講義資料バックナンバー 6−2
「自分を好きになる子を育てる」構成的グループエンカウンター
1.「自分を好きになれない子供たち」の背景にある2要因
・不登校やいじめ,学級崩壊などの問題行動を起こす子供たちは総じて,「自分を好きになれない子供たち」であり,その問題の背景には次の2要因がある。
(1)自己肯定感が低い:「自分を好きになれない」,「深いところで自分の存在を肯定できない」等。
(2)人間関係能力が低い:人とのかかわりの中で多少イヤなことがあっても,「何とか耐えられる力」+「どうすれば状況を解決できるのかがわかり,実行に移せる力」が 乏しいということ。
人間関係が希薄になった現在,学校教育のカリキュラムの中に人間関係トレーニングを積極的に取り入れる必要がある。その有効な技法の一つが「構成的グループエンカウンター(structured
group encounter,以下SGE)」である。本資料では,特に「自己肯定感」を高めるSGEについて整理する。
2.自己肯定感の段階
(1)1段階:初歩の自己肯定
・自分で自分に言い聞かせたり,自分で自分のいいところを探すことで育つ。「よし,僕は大丈夫」と思い描いても,心の深い部分では「そうは言っても」という不安感もある段階。まだ崩れやすい。
(2)2段階:強い自己肯定
・ホンネとホンネの交流の中で,他者から自分のいい面を教えてもらい,紡いでいくことで育つ。
悩みを相談した先生から「あなたなら大丈夫」とメッセージを送られると,自分に自信が出てきて,不安感が薄れる。
(3)3段階:深い自己肯定
・自分と他者の違いを個々の個性として認めあう雰囲気の中で,「よいところも悪いところも私の一部なのだ」と認めることから始まる。自己受容の段階。
3.自尊感情と自己肯定感との違い
○自尊感情(self-esteem)
・W.ジェームズ(1890)以来,自尊感情は「自己評価の感情」としてとらえられてきている。ジェームズの定義によると,自尊感情は成功/願望の分数で表せるとする。つまり,我々の持つある領域(運動面,学習面等)に対する願望の中,どれくらい成功・達成したかによって,自尊感情の高低が定まるというものである。例:今度の試合では絶対に優勝したいという「願望」に対して,優勝したら100%の「成功」となり,「俺はすごいんだ」と,自分に対して高い評価をする。(高い自尊感情) それが,2,3回戦で負けたなら30%程度の「成功」となり,「俺はダメだ」と自分に対して低い評価をする。(低い自尊感情)
自尊感情が高い人というのは,通知票でいえば,自分に「5か4をつけている」人であり,自尊感情が低い人というのは「1か2をつけている」人である。
・A.W.ポープ(1988)は,現実の自己と理想的な自己との矛盾(ズレ)の大小が自尊感情の高低を左右すると述べている。
・C.ロジャーズ(1967)の自己理論の中心概念である「自己一致」,つまり,現実の自己と理想的な自己との一致という考え方も類似している。ロジャーズは,現実の自己に基づいた自己概念を作ることが大事であると述べている。思いこみの自分(理想自己)を粉砕して,現実の自己を直視し,それを受け入れるということが,「健康な人間の姿である」と説く。
<参考> 自己概念(self-concept)
「自己概念」(=自己イメージ)とは,「自分に対する受け取り方,自己に対する記述」のことである。この自己概念と自尊感情は通常区別される概念だが,自己記述には自己に対する価値や評価の記述も含むということで,現実には区別できないとする考えもある。この考えに基づき,片野(1998)は,「他者評価を受けて自己評価が定まり,自尊感情が生まれ,自己概念を形成する」と述べている。
○自己肯定感
・自己肯定感は「自分のことが好きである」という感情である。2で示したように,自己肯定感には段階があり,はじめは「自分のいいところだけが好き」という段階から,徐々に「自分のいいところも悪いところも含めて全部好き」というありのままの自己を受容できる深い自己肯定の段階までがある。
初歩の自己肯定の段階では,自分の評価の4や5の部分が好きということである。ところが,深い自己肯定の段階では自分の評価の1であれ5であれ,好きということである。
つまり,自尊感情が低い場合でも自己肯定感が高いという場合がある。文献によっては,自尊感情=自己肯定感として使っているものもあり,確かに両者の正の相関はあるだろうが,必ずしもイコールではない。例:試合に勝てなかった自分を弱いやつだなぁと思う。(低い自尊感情レベル) でも,次にやったら勝てるかもしれないし,他にいいところだってたくさんある。いろいろな面を持っている自分のことが大好きである。(ありのままの自己受容=深い自己肯定レベル)
4.自己肯定感を高めるSGE
・直接的に自己肯定感を高めるSGEのエクササイズに次の2タイプがある。
(1)他者とお互いにいいところを見つけ合うエクササイズ
(2)自分自身のいいところを見つけるエクササイズ
*自分のいいところを探すことに抵抗を示す子もいるので,(1)から(2)に進んだ方がいい。(1)を繰り返していくことで,自分のいいところに自信を持つ。すると,自分にいいところを言い聞かせることができるようになり,初歩の自己肯定感が育つ。自分のいいところを探すことの抵抗がとれ始めたら,(2)タイプも取り入れてよい。(1)(2)のエクササイズを繰り返す中で,初歩から徐々に深い自己肯定感が育つようになる。
(1)の主な例
@Xからの手紙:名刺大の紙に友だちのいい点を書き,裏返しにして机に積んでいく。
A気になる自画像 *別資料
Bみんなでリフレーミング:自分で短所と思う点を紙に書く。相手にその紙を渡し,見方を変えて,長所に変えてもらう。例:飽きっぽい→何事にも好奇心旺盛
(2)の主な例
@私は私が好きです。なぜならば〜
A自分への手紙:第三者を想定し,自分自身のいいところをつづった手紙を書く。
B誰が何と言おうとも:心の中で肯定的な言葉を何度も唱える。例:「あなたが私に何を言おうと,私には価値があります」,「あなたが私に何をしようと,私は大切な人間です」等。
以上は自己肯定の段階でいえば主に,1,2段階に焦点を当てたエクササイズである。しかし,3段階の「深い自己肯定感:善悪を越えた自己肯定,ありのままの自己受容の感情」を育むには,これまで自分を見守ってくれた「大きな存在の視点」から自分自身を見つめ,自分で自分のケアをすることが大切になる。エクササイズ例を以下に挙げる。
@私を守ってくれるもの:人生を振り返って,自分をどこかで見守ってくれたもの(人ではなく,自分を越えた存在〜トランスパーソナル)を思い浮かべ,その思い浮かべたも のの立場になって自分へのメッセージを送る。例:病気療養中の子供が描いたのは「優しく微笑んでいる枕」。枕からのメッセージは「何でも言っていいんだよ,辛かったら 泣いてもいいんだよ,いっぱい泣いて,また,明日もがんばろう」
A出せなかった手紙:人生を振り返り,ある特定の人に言おうと思っても言えなかったことを手紙に書いて「投函」する。(目の前のイスの上に置く) それを受け取った人の立場に立って読み,自分自身に対して返事を書いて「投函」する。(目の前のイスの上に置く) そして,自分宛に来た手紙を読む。
<参考・引用文献>
・「自分を好きになる子を育てる先生」.諸富祥彦.2000.図書文化
・「セルフエスティームの心理学」.遠藤辰雄他.1992.ナカニシヤ出版
・「エンカウンターで学級が変わる 1-3 中学校編」.1996-1999.國分康孝.図書文化
・「育てるカウンセリングが学級を変える 1」.1998.國分康孝.図書文化
・「心理学辞典」.1999.中島義明他.有斐閣
・「カウンセリングの理論」.1980.國分康孝.誠信書房