学習会講義資料バックナンバー 5−1 

「ストレスマネジメント」について

1.ストレスマネジメントとは何か
・ストレス反応の軽減を目的とした介入のことを「ストレスマネジメント」と呼ぶ。なお,「ストレス」という用語は,「心身の適応能力に課せられる要求(ストレッサー)」と「その要求によって引き起こされる心身の緊張状態(ストレス反応)」を包括的に表す概念である。(有斐閣心理学辞典.1999)

2.主なストレスマネジメントの研究
 ストレスマネジメントを考える際には,その心理的ストレス過程に直接働きかけることは比較的困難なことが多く,実際には個人的要因(個人的資源,パーソナリティ特性,認知パターン,行動パターン等)に対して何らかの技法を用いて間接的に働きかけることになると考えられている。嶋田(1998)はこうした個人的要因をストレス反応に対する軽減要因と定義し,どのような要因がどの程度子供たちのストレス反応の表出を軽減させているのかについて検討し,「学校ストレス因果モデル」を提唱している。 
 具体的な個人的要因としては,ソーシャルサポート,社会的スキル,self-efficacyを取り上げ,その効果を実証し,ストレスモデルに組み込んでいる。Lazarus&Folkman(1984)らの知見にもとづいた嶋田のモデルの特徴は,単なる概念モデルではなく,ストレス反応の規定要因,及び軽減要因の位置づけが明らかであり,その因果関係も明らかにされている点である。この学校ストレスモデルに従うことによって,ストレス反応への有効な介入や予防について示唆を得ることができると思われる。 
 坂野・大島ら(1995)は,嶋田の学校ストレスモデルにもとづき,学校場面における介入方法として次の4種類を指摘している。

 @ストレッサーの経験に対する介入:環境調整  
 A認知的評価に対する介入:論理療法(イラショナルビリーフの改善),認知行動療法(self-efficacyの向上)
 Bコーピングに対する介入:社会的スキル訓練
 Cストレス反応そのものへの介入:リラクゼーション,系統的脱感作法

*用語について
・イラショナルビリーフ:A.エリスによる概念。不合理な信念
・self-efficacy:A・バンデュラによる概念。自己効力感。行動に先行する要因として「予期機能」が非常に大切。行動に影響を及ぼす予期機能には2つのタイプがある。一つは,ある行動がどのような結果を生み出すかという予期であり,「結果予期」と呼ぶ。もう一つは,ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまく行うことができるかという予期,すなわち「効力予期」と呼ぶ。

       人 →→→→→ 行動 →→→→→ 結果
        <効力予期>   <結果予期>

  自分がどの程度の効力予期を持っているかを認知したときに,その人にはself-efficacyがあるという。簡単に言えば,ある行動を起こす前に「遂行可能感」,自分自身がやりたいと思っていることの実現可能性に関する知識,あるいは,自分はここまでできるのだという考えがself-efficacyである。
・コーピング:「対処する」,「切り抜ける」という意味。対処行動。
・系統的脱感作法:特に不安,恐怖の治療法としてウォルピによって開発された行動療法の主要技法。例えば,不安であれば,まず,不安の強さの順にリストアップした階層表を作成する。次に,患者に弛緩法を習得させる。そして,不安の低い順にイメージアップさせ,不安を感じたら弛緩法を行いつつ,徐々にイメージする不安の強度を上げてい く。

<参考>構成的グループエンカウンターは,ストレスマネジメントとして考えるなら,思考・行動・感情に働きかける技法であるので,嶋田モデルの「認知面,コーピング面」 に対応していると考えられる。

3.リラクゼーションを用いたストレスマネジメントプログラムの紹介〜三浦正江先生(大阪工業大学)の研究から  
(1)プログラム内容
 @ストレスに関する理解
 A漸進的筋弛緩法の習得

(2)プログラムの効果 
・「級友との関係」,「学習への意欲」,「教師への態度」の向上が認められた。これらは学校生活全般に対する適応感(モラール)の向上ということができる。学校適応感(スクールモラール)は不登校,いじめ,学級崩壊などの問題行動と密接に関係があるという知見を考慮すれば,本プログラムの実施は学校現場における様々な問題行動の予防につながる可能性が示唆されたとも言える。

<参考・引用文献>

・「認知行動療法」.坂野雄二.1995.日本評論社
・「構成的グループエンカウンターを用いた不登校生徒のストレスマネジメント〜社会的スキルとセルフエスティームの視点から〜」.曽山和彦.2001.秋田大学大 学院修士論文
・心理学辞典.1999.有斐閣
・「中学生の学校場面におけるストレスマネジメントに関する予備的研究」.三浦正江,上里一郎.1999.日本教育心理学会第41回発表論文集
・「中学生の学校場面におけるストレスマネジメントプログラムの実施」.三浦正江,上里一郎.2000.日本教育心理学会第42回発表論文集


back