学習会講義資料バックナンバー 3−1 

「教師の使えるカウンセリング」について

 先日,秋田県教育センターの研修会で國分先生門下の先生(諸富祥彦先生,片野智治先生)からお話を聞く機会があり,とても勉強になりました。お二人の先生が共に,学校においてこれからの教師はどうすればいいのかという視点,まさに「教師の使えるカウンセリング」の視点でお話をしてくださったからです。まず,國分先生の提唱されている考え方を紹介後,お二人の講義のエッセンスを以下にまとめます。

<國分先生の考え方> 〜 「教師の使えるカウンセリングとは何か」
・カウンセリングというと一対一の面接をして様々な問題を持った悩みを解くというイメージを持っている人が多いがそれだけではない。
・教師はカウンセラーでも心理療法家でもないが,日常の教育指導の中にカウンセリングを取り入れることによって教育が活性化する。このカウンセリングを「育てるカウンセリング」(予防・開発的カウンセリング)と呼ぶ。  *「治すカウンセリング」(治療・問題解決的カウンセリング)の対極。
・教師の使えるカウンセリング,すなわち「育てるカウンセリング」とは具体的には何か。
<結論> 
@生徒,保護者等のリレーション(心と心のふれあいのある人間関係)を作るカウンセリング     
Aキャリア(人生計画,生き方 )を作るカウンセリング(キャリアカウンセリング,キャリアガイダンス,進路・職業相談)
B授業に生きるカウンセリング(対話のある授業)
C集団に対して心理的なものの見方や行動の仕方を教えるカウンセリング(サイコエヂュケーション) 

*「心理的なものの見方や行動の仕方」とは? 
・認知に関すること(自己肯定感の向上等,認知の変容)
・行動に関すること(自己主張能力の向上等,行動の変容)
・感情に関すること(自他一体感の向上等,感情の変容)

 上記の「育てるカウンセリング」の中心的な技法として構成的グループエンカウンターを挙げることができる。多くの実践的な研究がその効果を実証している。


<片野先生の講義から> 〜 「学校における人間関係づくり」
1.学校において教師でなければできないことは何か
@人間関係づくり
A進路に関する相談
B学習に関する相談
・これら三つは日々子供に接している教師でないとできない。外部から入るスクールカウンセラー等では難しい領域である。
・教師生活で培ってきた経験だけでは,今の子供たちの問題に対処できない。そこで,プラスαをつけ加えると経験が光ってくる。つまり,教師が使えるようなカウンセリングを是非学んでほしい。
・普通学校において,子供にかかわる教師は,ノイローゼやうつ病,精神疾患,夜尿症,チックなどを治すわけではない。この分野は精神科の医者や臨床心理士(スクールカウンセラー)などが担当する分野である。

2.学校において人間関係づくりを進めるにはどうしたらいいか
・「人間関係づくり」というと最初に頭に浮かぶのは「子供同士の関係づくり」だろう。しかし,その前に「教師と子供の関係づくり」こそが何よりも優先されなければならない。
・「なぜ,こんなことが必要なのか?」,「こんなのはばかばかしい」,「僕はクラスのみんなと仲良くなりたくない。少ない友だちでもいい」というようなことを子供が言うことがある。これらは皆,「心理的抵抗」である。こうした抵抗は教師と子供の関係ができていれば防ぐことができる。この関係を抜きにしてエクササイズに取り組もうとすると様々な問題が生ずる。
・どうすれば,教師と子供の関係づくりがスムーズにいくか? 学期当初,まず,子供たちに自分のことをわかってもらう工夫をする。「先生への一問一答ゲーム」なども有効。子供たちの教師理解が進んでいくと,子供はその教師に安心感を持つことになる。すると,子供たちは次の段階として自分の心を開くようになる。

3.教師と子供の関係づくりのコツは何か
(1)教師が自分の「偏り」に気づくこと
・「性格」とも言える部分があるが,教師は自分がどんな性格,傾向があるかに気づいているかどうかで,子供にかかわる場合,大きな違いがある。どうすれば偏りに気づくか,といえば,周りの人から修正してもらい,柔軟にそれを受け止められるとよい。自分自身,カウンセリングを受け「教育分析」してもらってもよいし,エンカウンターワークショップに参加し,エクササイズを行う中で自分に気づくことも教育分析に匹敵するものである。

(2)「泥棒にも三分の利」。「三分の利」を聴くこと
・悪いこと自体を見逃せというのではない。子供も悪いということはわかっている。子供なりの理由,「三分の利」を教師がどれだけ聴いてくれるのかを子供たちはしっかりと見ていて,「この先生は自分のことをわかってくれるかどうか」を判断している。あまり理不尽な理由に腹が立つこともあろうが,「三分の利」を聴く態度が大切である。


<諸富先生の講義から> 〜 「学級で使えるグループエンカウンター」
1.グループエンカウンターのねらい
(1)自己肯定感を育てるということ
・子供たちへのアンケートをとると自分のことを好きになれない子供がかなり多いということに気づく。「自分はいなくてもいい」,「クラスで必要とされていない」,「どうせ私なんて」等々,投げやりな気持ちを持っている。そうした気持ちが,問題行動を引き起こしている。
・手首を切る,自分の身体に傷を付ける等,自傷の子供が増えている。しかも,授業中,カウンセリング中にやる場合が多い。なぜ,一人でこっそりとやらないのか? 心の傷を誰かに気づいてほしいから。
・自傷の子供たちの多くが,「自分を粗末にすると落ち着く」,「自分を否定していると落ち着く」と言う。
・自分のことを好きになる子供を育てることが大目標。子供たちは自分を粗末にし,教師をわざと怒らせるような態度を繰り返してとる。「これでもか,これでもか」と試す。しかし,教師は何度子供に裏切られても見捨ててはいけない。腹は立てても見捨ててはいけない。

(2)人間関係を育てるということ
・今の子供たちには「自分はOK,他人はOKではない」,あるいは「自分はOKではない,他人はOK」という心理状態が多い。前者の子供はいじめる側の子供,後者の子供はいじめられる側の子供,不登校のタイプである。
・最近の不登校の子供たちの話を聞くと,「トラブルがあって,仲直りの仕方がわからないから学校に行くのが嫌になった」という子供が多い。人間関係のスキルが身についていないということ。
・人間関係のスキルという面では,人の立場を考えての言動や行動ができない子供が多い。「いいところ探し」のエクササイズで,「太っているけれど,足が速い」と用紙に書いた子供がいた。「これは本当に相手のいいところを探してほめてるのかなぁ? この子の立場なら嫌じゃない?」と介入すると,「だって,本当のことだからいいじゃない」と答えた。裏表がなく,正直に語ることは場合によっては大きなトラブルを引き起こす。そうしたことが今の子供たちはわからない。
・小5,6年頃から「思っていることを素直に言う,正々堂々と言う,本当のことを言って何が悪い」という雰囲気が強くなっている。これでは人間関係はうまくいくはずがない。「人間関係の戦国時代」。だから,「自分もOK,他人もOK」という関係にしたい。自分のことを大切にするのはもちろん大事なことだが,他人も大切にすることが大事だよと伝えていきたい。

*グループエンカウンターは,自分を大事にする人間を育て(自己肯定感の向上),相手のことを大事にするようなかかわり方を身につける(人間関係づくり)ための技法として,非常に優れたものである。

2.エンカウンターはどういう時に有効か?
@学校ぐるみで実践している場合
A学級の雰囲気を変える場合(特に,クラス替えや学期の初めなど)
B保護者会の場で 

*学級崩壊しているクラスや,クラスの半分以上がエンカウンターにやる気を見せない場合にはやっても難しい。クラスの雰囲気が悪くならないように,学級崩壊などが起きないように予防的・開発的な技法として用いた方がよい。

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