学習会講義資料バックナンバー 11 

「ワークショップとは何か」

1.定義
・辞書的には「仕事場,作業場」が第一,「参加型の研修会」が第二。(広辞苑より)
・教育やカウンセリングの場で用いられる場合は,第二の意味であり,「講義などの一方的な知識伝達スタイルでなく,参加者自らが参加・体験して共同で何かを学びあったり創り出したりする学びと創造のスタイル」として用いる。
・ワークショップは「参加」「体験」「グループ」がキーワードの学習法。
・ワークショップの5つの要点
@先生はいない A「お客さん」でいられない B始めから決まった答えはない
C頭が動き,体も動く D交流と笑いがある

2.特徴
(1)参加
・一方通行的な知識伝達型ではなく,双方向的な参加型の学びを大切にする。そのために,「先生」はいなくて,「ファシリテーター(進行役)」がいる。
・主催者側がどんなにいろいろなことを「やってみよう!!」と誘っても「別にやりたくねぇよ」ではワークショップは成り立たない。参加者の積極的かつ主体的な参加が不可欠な要素である。ただし「強制」ではない。やりたくないことはやらない自由が保障されてこその「主体性」である。

(2)体験
・体験を重視といってもただ体験すればいいわけではない。今,ここでの体験によって得た気づきを大切にすること,そして,仲間と共に気付いたことや感じたことを分かち合うことが大切である。
@いろいろな体験をする A個人で振り返る B個人の気づきを他者と分かち合う
Cさらに自由に話し合う
 以上のようなプロセスで学びを深めていく。

(3)グループ(相互作用)
・「グループ」というのは一人や二人ではない集団での相互作用の中で学びあうこと。しかも,先生と教師の関係でなく,基本的に対等な参加者一人一人が主人公であり,その学びの場を構成するかけがいのない一員であることが大切。

*「ワークショップ」は「その中で安心して成長したり,生まれ変わったりできるゆりかご」という説明もされる。人の成長や変容を育む器は,お互いが傾聴しあう真摯な姿勢の中で,お互いに信頼を深め,丁寧に醸成する。

3.現代的意義
・真の「豊かさ」を求めるためにワークショップの現代的意義がある。
(1)物を所有するなどの豊かさではなく,「人と人」「人と自然」の関係の中から生じる「歓び」や「豊かさ」を感じること。
(2)自分らしくあることができること。
 このことは,人間の根源的欲求の一部である。根源的欲求とは「自分の存在が他者から理解され,認められ,受け入れられ,できれば高く評価され,大切にされたい,と同時に,自分自身もまた自分がよい人間だと思えるような,他の人の役に立つ存在でありたいという希求」のことである。この欲求が満たされるに従い,人は人間としての成長を遂げるし,自己実現に向かう。(鈴木秀子,1999:「愛と癒しのコミュニオン」より)

*ワークショップでの傾聴を基本とし,他者のありのままを受け入れ,正直な自分を受け入れ,自他を尊重しあうような関係は,根源的欲求を満たす方向にある。ワークショップにおける「関係」の中から,知恵も力も生まれてくる。ワークショップの中で「シナジー(協働作用,個の総和を超えた力を生み出す作用)」が生じ,「エンパワメント(人を励まし,力づける作用)」も自然に生じる。

4.ワークショップの可能性
・世の中から消えない様々な悩み(戦争,自然破壊,人間関係のトラブル等)の根底にはつきつめていくと次の三つの根本原因が考えられる。
(1)バラバラの「個」がそれぞれの利益のためにしのぎを削っているという認識
(2)効率重視の社会構造により,「あること」より「すること」への強迫
(3)自分をありのままに感じ,正直にあらわにできる「場」がない

 上記の根本原因の乗り越えに向かうとき,ワークショップは有効な可能性を持っている。
(1)に対して:「切り離された自己認識」から「お互いにつながり関係しあった大きな自己認識」に転換するために,地球上の生命のつながりを考えたり,家庭や仕事のつながりを考えたりなどのワークができる。
(2)に対して:「もっともっとすること」の強迫を解くために,立ち止まって「今,ここにただあること」を楽しめる必要がある。ティク・ナット・ハンは「瞑想」を取り入れたワークを行っている。「瞑想」とは「自らの身体,感情,心,さらには世界で,何が起こっているかをはっきりと知ること」と述べている。「今,ここ」の自分を知るための一歩として出入りする自分の呼吸をただ見つめることから始める。そして,「あ,いらいらしているなぁ」と冷静に自分を眺められると,一つの物になっていた自分と悩みの間に隙間が空く等。。
(3)に対して:安易に批判されたり,諭されたり,助言されたりしないで,ただありのままの自分を表現し受け入れてもらえる場。そんな信頼と受容の場を作るワークもある。例〜トーキングスティック等。

5.ワークショップの限界と注意点
(1)ワークショップ中毒
・居心地の良さを「お風呂」に例えている。ワークショップというお風呂からなかなか出られなくなってしまう。ワークショップはゴールでなく,学びや創造の手段であり,方法である。そこでの学びを生かして,日常の現実の中に取り込んでこそ,意味がある。
(2)洗脳との違いをしっかりおさえて
・洗脳集団は,自分たちの価値観を「絶対」のものとして押しつける。法外な「お金」を要求する。新たな会員の「勧誘」を強要する。

<参考引用文献>
・中野民雄,2001:ワークショップ〜新しい学びと創造の場〜,岩波新書



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