学習会講義資料バックナンバー 10−2 

不登校に関する事例その2 第10回学習会(2001.2.24)事例検討資料

1.家族構成:Aさん(19歳),祖母,父親,母親,兄(大学4年生)の5人家族

2.生育歴:彼女が小さいころから母親は仕事(パート)に出ており,彼女の世話は,祖母がしていた。祖母は戦前の女性で,また高等教育を受けており,祖父は元軍人だった。そのためしつけや教育に厳しく,また幼少から彼女に期待をかけ,勉強を教えていた。彼女にはそれがだんだん苦痛になり,部屋に閉じこもるようになった。小学校も入学時から休みがちで,高学年,中学校はほとんど通えなかった。高校進学希望は強く,1年間浪人してB高校入学したが,その後休学。   

3.彼女の性格:いつも自分に自信がなく,決断力が低い。頑固なところもあり,意見されると母親に反抗することが多い。潔癖症なところがあり,まめに手を洗う。絵を描くことが好きでイラストや漫画,最近ではデッサン(色鉛筆)に夢中で一日中,描いている。

4.現在の様子:季節の変わり目になると情緒不安定で,特に4月は新しいスタートの時期と感じ,将来が見えない自分は取り残されてしまう不安感から,生活のリズムを崩し,抑鬱状態が続く。今もそのような状態で,頑張ろうと思っても,気持ちと体のバランスがうまくとれていない様子。

5.私と彼女との出会い:彼女は中学3年生の時,自宅の近くの学習塾に通っていた。そこの教室の先生から,彼女に個別に教えて欲しいという連絡がきて,他生徒がいるときではなく,夜に私とと一対一で勉強した。普通高校の入学を希望していたので,集中的に教えてほしいと母親からの願いがあった。その時点では,「人見知りが激しい」や「体が弱いから,学校を休んでしまって,勉強が遅れている」ということだった。しかし,自己紹介ができなかったり,こちらの質問に答えることができなかったり,コミュニケーション能力の低さと対人関係の不安を感じた。

6.既往歴:彼女が専門家にきちんと診てもらったのは,高校浪人の時で「情緒障害」で場面かん黙があると診断された。去年9月頃,精神科で受診したときは「精神分裂症の疑い」と医者から言われた。母親はそれ以来,病院には行っていない。

7.所感:3年前までは,家に閉じこもりだったので,人と触れ合うことが怖かったようで,表情が少なく,固まってしまうことが多かった。B高校のスクーリングやリポート提出で駅前に出かけたりすることで,私にも慣れ,笑い顔が出てきた。2人で,コンサートやショッピング,アトリオンへ絵画鑑賞と機会を見つけては外に出かけた。また,母親と本屋に行くことが楽しみのひとつとなっている。専門的な治療やカウンセリングは現在受けていない。以前は「さわや教室」に通っていたようだが,数回でやめてしまったとのこと。中学校の時,担任の先生が「フレンドリー」という組織を紹介してくれた。それは学生を派遣してもらって,遊んだり,テレビを見たりすることで,授業に参加した代替になったが,長くは続かなかった。彼女は今年で19歳になり,この状態が続いたら将来はどうすればよいだろうと母親が心配するようになった。母親は「どこからも情報がないから,どこに相談に行っていいのか,どんなケアが必要なのか,が分からない」と話している。しかし,私が感じるには,彼女の唯一の話し相手である母親が(母親としか会話ができない)日中働きに出ていて,家には彼女と祖母の2人だけなのが問題だと感じる。彼女は誰もいないのを確認してからトイレに行くという常に緊張して暮らしている様子。母親が外に働きに出るのも,もしかしたらそういう状態の家から少しの間でも開放されたいと思ってなのではないかと思う。彼女は今,自立をしたいと考えている様子。アルバイトをしてみたい,という気持ちを話してくれる。そのためにも,人と話すことができる,コミュニケーションをとることができるということが大切だと感じる。

★Aさんに対する 家族の理解と受容を促すためにできることはありますか?
★社会復帰に向けて長期的に取り組む支援体制として,Aさん自身へのサポート(義務教 育終了後のケア)はどのようなものがありますか?
★Aさんがリラックスしてサポーターと接することができるようなかかわりの技法を教えていただきたいです。(身体接触の少ないものがベストです)

<検討会から>
・かかわりの技法云々を今はあまり考えない方がいい。今の関係をゆっくりと続ける方が彼女には必要なことではないか。
・母親の思いや悩みを聞くような人が必要だろう。外の専門家に相談できればいいが,娘と一緒に行かないと相談にならないと考えている節があるが,母親自身がカウンセリングを受ける必要性を感じる。
・精神科受診ということで母娘ともに抵抗感が強いようなので,彼女の得意な絵をきっかけにして,「絵に興味のある心療内科の先生に診てもらう」というアプローチはどうか。・現在は,ボランティア的に接触しているということだが,可能であれば,家庭教師の立場としてのような「契約」をした方がいい。わずかでもいいがお金をもらい,時間を決めてかかわった方がいい。契約することによって,初めて援助(サポート)になる。
・彼女の家庭は,事例提示者(かりんさん)に頼り切っているために,他のことに足を踏み出せないでいるということも考えられる。そのため,あえて関係を一時的にでも切ってみることで違う展開が考えられるという仮説も成り立つ。

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